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20、放課後、Wデートに行きますので。


 「あ、そうだ。ベネディクト兄様、今日は放課後にイザベルと街へ行くので、帰りが遅くなります。」

 「分かった。掏摸や事故に気をつけて遅くならないように帰っておいで。」

 「え、俺も行きたい!イザベル嬢なら何度か会ったことあるし、護衛代わりに一緒に行ってもいいだろ?」

 

 朝食の席で兄に今日の予定を告げれば、弟のシュテファンが横入りしてきた。

 

 イザベルと二人だけであれば、弟が一緒でも別に構わないのだが、今日は四人だ。

 できるだけそれを言いたくなかったので、どうにか言わずに断れないか思案した。

 

 「シュテファン。お前が一緒に行ったと知れたらイザベルの婚約者殿がヤキモチを焼くと思われるので、却下だ。」

 「えー、ノアのケチ。・・・じゃ、ノアの婚約者はどうなんだよ?」

 「まさか弟相手に嫉妬はしないだろう。」

 

 ・・・するかもしれない、とちょっと思ったがさすがに言えなかった。

 

 「だが、ご令嬢二人では危ないだろう。シュテファンでもないよりマシだ、連れて行ってやれ。」

 「マシって酷いけどありがとう、兄上!」

 

 兄の指示に私は詰まった。これは、逃げられない。

 

 「・・・・・・ベネディクト兄様、シュテファン。今日は護衛代わりは足りてるから要らない。」

 「え?イザベル嬢と二人ではないのか?護衛代わりということは男か?!誰だ、兄に言えないような相手は許さないぞ!」

 

 突然テーブルに手をつき、椅子を蹴って兄が立ち上がる。いつも穏やかな兄の激高ぶりに弟と二人でポカンと見上げる。

 

 「ノア、お前が男と出掛けたことが王子にバレたら我が家は終わりだ!」

 

 ああ、そういう理由ですか・・・。

 

 「兄様、大丈夫です。」

 「だがっ!」

 「その王子が一緒だから、大丈夫です。」

 「・・・は?」

 「ノア、じゃあ、もう一人って・・・」

 

 兄が動きを止め、弟が呆然と聞き返してくるのにやけくそになった私は勢いよく立ち上がり言い捨てた。

 

 「ああ、イザベルの婚約者殿だ!というわけでお前はついてくるな、シュテファン!ごちそうさまです!」

 

 バタンッと閉まる扉を眺めて兄弟は顔を見合わせた。

 

 「それって、Wデートじゃん・・・。」

 「ノアが、婚約者とデート。デート!あの妹にこんな日が来ようとは!僕は猛烈に感動している!」

 「ベネディクト兄上、落ち着いて。でも、あいつ、今日もいつもの格好だったよな。」

 「しまった!だが、女性用の制服がうちにはない。」

 「意外と王子がそういう趣味なんじゃないの?」

 「なるほど?それならノアが選ばれたことに納得が出来るな。」

 

 兄弟は頷きあって朝食の続きを再開した。

 

 ■■

 

 「どなたですか?」

 

 問われた相手は愕然とした顔でこちらを見ているが、尋ねた私は悪くない、はず。

 

 だって、赤い髪を黒に染めて来るなんて聞いてない。髪色が変わると印象ががらっと変わると初めて知った。

 

 「クラウスだけど・・・ねえ、僕は髪色でしか君に認識されてないってこと?!」

 

 そういうわけではないが、いちいち説明するのが面倒くさくて私は黙っていた。

 

 我々の雰囲気をマズいと思ったらしく、狭い馬車の中で隣に座っているイザベルが場を取り持つように明るい声を出した。

 

 「クラウス殿下の変装は初めて見ました。髪色だけで結構分からなくなるものですね。」

 

 「うん、僕と母は赤い髪が目立つから黒に変えるだけで割と変装になるんだよ。まあ、でも、婚約者に気づかれないというのはショックだったな・・・。」

 

 黒髪の王子は動き出した馬車に揺られながらイザベルに返事をし、向かいに座る私をジトっと見てきた。

 

 「状況的に判断してクラウス殿下だろうとは思いましたが、髪色が違うので驚いただけです。」

 

 あまりに恨めしげに見てくるので仕方なく答え、王子を安堵させる。このままではイザベル達もやりにくいだろうし。

 

 本当は、俄婚約者ですので分かりませんよ、と言いたかったが、さすがに我が家が危機に陥りそうなので止めておいた。

 

 「ねえ、クラウス殿下。この馬車は何処に向かってるの?」

 

 イザベルの向かいで成り行きを見守っていたパトリック殿が窓の外を見ながら尋ねた。

 

 

 この少し前、授業が終わった私とイザベルは王子とパトリック殿を正門付近で待っていた。すると質素な馬車がやってきて、降りてきたパトリック殿に急かされるように乗せられて今に至る。

 

 車内に黒髪になった王子がいるわ、城下の街に行くものだと思っていたら違っていたわで私の頭は混乱している。

 

 王子の方は、のほほんとした顔で従兄弟のパトリック殿と話を続けている。

 

 「もうすぐ着くよ。どこだと思う?」

 「うーん、俺が来た道を戻っている気がするんだけど。違う?」

 「いや、合ってる。この国で一番治安がいいのはエルベの街だからそこがいいかと思ってね。」

 「じゃあ、俺が案内するよ!イザベルとのデートは城下の街が多いから、エルベを一緒に廻れるのは嬉しい!」

 

 一気に勢いづいたパトリック殿は、向かいのイザベルにどういう所に行きたい?と尋ねている。

 

 エルベの街はこの国で一番栄えている。領主はハーフェルト公爵なので、パトリック殿にとっては自分の庭みたいなものなのだろう。

 

 「僕が行き先を勝手に決めちゃったけれど、ノア嬢はそれで良かった?エルベで何処か行きたい所はある?」

 

 楽しそうなイザベル達を眺めていたら、王子が声を掛けてきた。

 

 「私は何処でも構いません。エルベは不案内なので皆さんについていきます。」

 「そう?途中で見たいものとかあったら遠慮なく言ってね。」

 

 王子はなんだか物足りなさそうな顔だったけれど、事実なのだから仕方ない。

 なにせ我が家はエルベの街から離れている。城を挟んで反対側に位置しているのだ。

 基本的に住んでいる街で全てが揃うわけだから、わざわざ出掛けることは滅多にないのだ。

 

 そう、あの時のようにお祭りでもやってなければ。

 

 「あ、クレープが食べられたら、嬉しいのですが。まだ食べたことがなくて・・・。」

 

 あのお祭りの時に買ってもらったクレープを落として以来、ずっと食べる機会がなかったんだ。そういえば、初恋の男の子に代わりにもらったお菓子は何だったか・・・。

 

 「クレープ?いいね、僕も好きだよ。」

 

 ぽつりと呟いた私の望みを、王子は瞬時にすくい上げて顔を綻ばせた。

 

 「クレープ食べたいの?じゃあ、休憩は広場でしよう!」

 

 耳聡いパトリック殿が予定を立てて、じゃあ、あの店とあの店に行こうか?とイザベルに確認している。

 

 彼は幼馴染だけあって彼女の好みをよく知っているらしい。

 

 一生懸命なその姿を微笑ましく見ていたら、向かいの王子が私の袖をちょんっと突いて尋ねてきた。

 

 「ノア嬢はどういう物が好きなの?」

 「物、ですか?」

 「うん。消え物以外で。」

 

 そう限定されるとなかなか直ぐには思いつかない。参考に、と王子へも同じ質問を投げてみることにした。

 

 「殿下はどうなのですか?」

 

 あ、狡いな。と言いながらも笑みを浮かべた彼はぴっと人差し指を立てて言った。

 

 「僕の好きな物は君に関わる物。あとね、デートの間は殿下って呼ばないで、クラウスって呼んでね。せっかく変装してるんだし、イザベル嬢達もよろしくね。」

 

 「えっ?!」

 「俺はいつものように『クラウス兄さん』って呼ぶよ。」

 

 お忍びに慣れている坊っちゃん方に対して初体験の私とイザベルは若干慌てた。

 

 さすが王子を呼び捨ては出来ないだろう?!

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


この兄弟の会話は割とポンポン進むんです。

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