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8 幼女から少女へ。そして海へ

 最近お母様の調子があまり良くなさそうだ。これでもかというほど血流を良くしているはずなのに、いまいち全身に血が巡らない。何か悪い病気なら、それが原因で血流が悪くなっている箇所に黒ずみが見えそうなものだが…。

 局所的な黒ずみは見えない。でも、全身がうっすら黒ずんでいる。子宮を除いて。これは月経の症状だ。子宮に血液を取られて全身の血流が悪くなるのだ。それによって下半身が重くなったり、子宮以外の内臓の動きが悪くなったりする。



 ところで話は変わって、この世界の女性はパンツをはいていない…。そして、生理のときはふんどしのようなものに布を丸めて挟むだけなのだ。ごわごわで気持ち悪そうだし、動いたら漏れてしまいそうだ。だからお母様は生理のときあまり動かないし、メイドは漏らさないように変な歩き方をしている。

 それに、この世界の女性は全員ロングスカートをはいているので見せることはないとはいえ、スカートの中がふんどしではロマンがなさすぎるのではなかろうか。


 この世界の女性の扱いは、私の知っている前世の母国や外国での昔の扱いに比べると、まだマシなのかもしれない。前世では昔、生理中の女性を不浄のものと扱い、神社にお参りに行けないとか、発酵関係の仕事をできないとか、差別的な風習があった。

 それに比べれば、この世界での生理中の女性の扱いは、理解のない男性から、サボっていると思わたり、ずる休みをしていると思われる程度のようだ。もちろん、それだけでもしゃくに障らないことはないけど、女性差別が政治的でも宗教的でもないので、意識改善はすんなり行くのではないかと思っている。


 女性の下着や生理用品については、生後六ヶ月経っておしめが取れたときに、何もはかせてもらえなかったことが衝撃的だったので、ずっと悩んでいる。まずは下着をどうにかしたいけど、うちの領には縫製業がない。需要がないものを他領で開発してもらうワケにも行かない。

 一方では、いくつかの魔道具からアイデアを得て、魔道ナプキンなるものを開発中だ。私が初潮を迎えるまでには間に合うはず。生理ショーツから入った方が下着は広まるかもしれない。



 話を戻して、今のお母様の症状は、いつもの月経より酷い。思い出した。これは、前世でも見てきたから分かる。それに、お母様の生理の周期は私が完全に把握している。今月はそろそろかなと思っていたのに、まだ来てないじゃないか。

 今、お母様をマッサージしていて確信を得た。


「お母様…、おめでたでしょうか…」

「あら…、アンネちゃんは何でもわかるのねえ」


 親の妊娠一ヶ月に気が付く五歳児などいるわけないが、メタゾール領ではその程度のことは常識となってる。


「ふふっ、私はお母様の娘ですから!」


 普通は逆である。でも、リンダの母乳が出続けるように乳腺の血流を良くし続けた結果、胸がかなり大きくなってしまったし、姿勢やスタイルも格段に良くなってきているので、お母様は私が育てた!という自負をアンネリーゼは持っている。

 歳もまだ十五だし、傾国の姫と呼ぶのにふさわしい仕上がりになっている。お父様のやつ、こんなに綺麗な奥さんがいてうらやましい。

 しかし、お父様も自分の奥さんが、結婚した後にまさかこれほど綺麗になるとは思ってもみなかっただろう。


 お母様はつわりが来ているものの、アンネリーゼが可能な限り内臓に血流が行くように操作しているので、以前に比べれば格段に調子が良いようだ。少量の食事なら気持ち悪くなることもなく取ることができる。

 前世でも、妊娠の諸症状を和らげる治療というのはやっていたのだ。アンネリーゼにはこのようなことは朝飯前なのである。

 そもそも、私を身ごもったとき、お母様は九歳だった。お母様も私もよく無事だったなぁ…。



 さて、胎児がいると分かったら実験だ。精霊を誘導して、おなかに近づけてみる…。残念、魔力が流れた感じはない。

 脳みそができていないのに、精霊に興味を持つ生き物なんて、アンネリーゼくらいである。


 それでも、妊娠三ヶ月頃には、おなかから水の精霊と光の精霊に魔力が流れるのを感じた。胎児は羊水に浸かっているだけなので、身体にまつわること以外は水くらいしか認識できないのかもしれない。

 それを考えると、私がが最初から全属性の魔力を認識できていたのは、やはり前世の経験があったからかな。

 でも、異次元なんて前世で経験したことないけど。異次元といえば、未来から来たロボットが登場する前世の国民的なアニメで、誰もが認識している…んだっけ?空想や物語でもいいなら、現世でも試す価値がある。影収納が使えれば、流通業界の革命になる。


 アンネリーゼは確信した。魔力や精霊の成長速度は年齢に反比例しているのは分かっていたが、胎児としてすごしている日数もカウントされているということを。胎児の自主トレは、アンネリーゼのときと違って気まぐれであるが、一回の成長率が半端ない。実に、五歳児である自分の数十倍の速度で成長している。


 ところで、魔力が成長しているのはいいけど、魔法はまだ覚えてないようである。覚えられたら大変である。胎盤で水でも出されたらどうなることやら…。




 数ヶ月後…、私は六歳となった。去年作ったドレスがすぐに着られなくなる。子供服に何十万円もかけるなんて、実に無駄遣いだ。

 でもいいんだ。五歳用のドレスは五年後に再び日の目を見ることになる。なぜなら、


「おぎゃあ!おぎゃあ!」

「お母様!おめでとうございます!女の子です!可愛いぃー!」

「あなたの名前はメリリーナよ!」


 私は妹のメリリーナを取り上げた!


「アンネよ…、抱かせておくれ…」

「あまり高く掲げないでくださいね。怖かったんですよ!」

「すまぬ…。優しくするから、早く!」


 自分の生まれたばかりのときの体験を語る娘と、そのことに疑問を持たない親。それがメタゾールの常識。


「はいはい」

「ああ、リーナよ…、可愛いな」


 ふふふ…。リーナも私がプロデュースするんだ。お母様と同じように絶世の美女に育ててあげるんだから。

 でも、ドレスは私が着ていたお下がりを綺麗に直して着せるよ。もったいないからね。上位貴族はパーティのたびにドレスを作るなんて聞くけど、前世の感覚からするととんでもない。


「わあああーん」

「はい、リーナちゃん、おっぱいでちゅねー」

「お母様…」

「はい、アンネちゃんも、おっぱいでちゅねー」


 左を小さな赤ちゃんがくわえて、右を大きな赤ちゃんがくわえている。

 お母様のおっぱいは私のものだけど、魔改造して十分な量が出るようになっているので、リーナにも分けてあげるよ!



「アンネちゃん…、リーナちゃんが歩けるようになったのに、まだ喋らないのよぉ」

「えっと…」


 メリリーナは八ヶ月で歩けるようになった。アンネリーゼほどではないが、光の精霊の加護が強いので、すでに身体強化の魔法がかかっていて、あっという間に歩けるようになった。

 しかし、本人は水の精霊のほうが好きだったようで、水の精霊の加護と水の魔力はアンネリーゼを超えるものとなっている。

 だからといって、喋れるかどうかは別である。


「わ、私はおなかの中でお母様とお父様のお話を聞いていたので、言葉をすぐに覚えられたんです…」


 ウソである。おなかの中では子音がほとんど聞こえず、もごもごと聞こえていただけでほとんど言葉は分からなかった。


「そうだったのね。アンネちゃんはおなかの中にいるときから、魔力のトレーニングをしたり言葉の練習したりして、頑張り屋さんなのね」

「は、はい…」



「ああああ、アンネちゃん!助けてぇ!」

「あああー、リーナ、お水を止めてー」


 リーナはいち早く水を出す魔法を覚えてしまい、屋敷が年がら年中水浸しなのである。

 でも、水を出す魔法は周囲の水分を集めて、水の塊を作る魔法。意識すれば地面の水を集めることもできるのである。お茶会でもやったことである。


「ううう、私じゃ競り負ける…」

「リーナちゃんの水魔法はそんな強いのね…」


 床の水を集めて屋敷の外で霧状にして気化させているそばから、リーナが水を生成している。しかも、水生成の勢いの方が強い…。

 メリリーナの水の魔力は、私が百年鍛えても到達しないくらい強い。胎児の魂百まで、なのである。胎児である間に学んだ者には、大人が百年学んでもかなわないという意味のことわざである。

 私も胎児の間に鍛えたつもりだったんだけど、光ばかり育てて気絶していたっぽいからなぁ…。土魔法を同じようにやっていたら今頃惑星くらい建設できていただろうに。




「ねーね!」

「なあに?リーナ」

「おんも!」

「お外でお水遊びね!いいよ!」


 リーナは二歳になった。リーナは可愛いなぁ。これが本物の赤ちゃんだよねえ。私は可愛い赤ちゃんではなかったんじゃないかな。私が六ヶ月ごろのときには、もうちょっと喋っていた気がする。

 リーナは水魔法が得意で、外で暴れ回りながら水遊びばっかしている。一応、他の属性の精霊も付けた。闇はないけど。

 一日の半分くらいはリーナと遊んでいる。リーナはおてんばで、魔法の加減を知らないので、私でないと相手が務まらない。胎児の魂百まで計画は再考が必要だ…。



 二歳といえば、私が爵位を継いだ歳だ。私が王に謁見したときに買った伯爵令嬢のドレスを取ってあったので、リーナに着せたんだ。


「まあ!とても可愛いわ!」

「そうですよね!でも…」

「あはははは!」


 リーナはおてんば過ぎる。外で走り回ってドレスをすぐにダメにしてしまった。おかげで毎日ドレスを直している。というか、直せる前提じゃないと、綺麗なドレスなんて着せても無駄だ。

 どうせ、もう着ないものだし、これ以上取っておいてもしょうがない。装飾の多い綺麗なドレスだけど、普段着用にしてしまった。



 私も八歳だ。ここ三年の間には、プレドール家のお茶会に行ったり、新しい商品を開発したり。

 糸や生地は他領から輸入だけど、ドレスや服を作るようにした。そして、糸や生地さえあれば、土魔法で整形できることが分かったのだ。というか、それがこの世界での衣服の作り方らしい。

 私はイメージどおりのドレスを仕立てられたけど、領民がものにするには時間がかかりそうだ。

 魔物素材の中にゴムのようなものがあるのも助かっている。身体のラインを出すのに紐で締め付ける必要がなく、一人でも着られるようになっている。



 そして、その一環で下着と魔道ナプキンを開発した。というかこっちが本命だ。下着と魔道ナプキンの実験台はお母様やエミリー、他のメイドさんだ。


 でもパンツは不評。生理でもないのに、余計な布を付ける必要はないと…。いやいや、ばい菌が入るからパンツははいてほしい…。

 もちろん、私は試作段階からパンツをはいている。もっとファッショナブルなものにして、見せパンにしたら売れるだろうか…。


 ほとんどの街では、トイレはおまるだ。溜まったら路地裏に捨ててくるものだ。でも王都や王都付近の街では、浄化槽の魔道具付きのおまるを使っているのだ。汚物を吸収・分解して肥料する機能がある。まあ、私はそれを知らずに、下水道を作ってしまったのだけど。

 そして、その浄化槽の機能を改造して、ナプキンにしたのだ。お母様やメイドさんで薄さと吸収量の実験を繰り返して数年…、やっと満足のいくものができるようになった!

 まあ、ナプキンとして開発したのだけど、元はおまる魔道具なので、実はおしっことうんちの吸収のほうが優れている。だからむしろ、リーナのおむつとしても使っている。

 

 おかげさまで、魔道ナプキンは好評だ。ふんどしとゴワゴワの布の代わりが薄いナプキンで済むからだ。ナプキンを固定できるようになったのは、やはりゴムのような魔物素材が貢献している。伸びないひもパンでは、うまく固定できずにぽろっと落ちてしまっていたのだ。

 だから、いままではふんどしで固定する必要があった。動きづらいし、どうしても外れたり漏れたりすることがあった。生理中の女性はパフォーマンスがかなり落ちるのだ。ただでさえ身体の調子が悪いのに、ふんどしが乱れないように変なところに力を入れっぱなしだったりして余計に疲れる原因になる。でも男はそういうのを理解しない。


 これからは、少なくとも動きにくいということはなくなる。この点は前世のナプキンよりも進化している。

 さらに、生理中の女性には、私が優先的にマッサージを施してあげている。子宮に血流が取られて全身の血の巡りが悪くなっているので、立ち仕事で脚がむくんでいるメイドさんもいる。お風呂も優先的に入れるようにしてあげている。こうして、うちのメイドさんは生理中でも普段とほとんど変わらないパフォーマンスを出せるようになった。

 マッサージをしてもどうしても調子が良くならない者もいる。そういう者には生理休暇を与えている。


 優先的にマッサージしたり休暇を与えているからか、男性には私は女性びいきだと思われている節がある。まあ、それは否めない。

 学校では理科の授業の一環として、人間の身体の仕組みを教えている。男には、女と男の違いを学んでほしい。カリキュラムを組み直そうかな。それ以前に、使用人にも学校で学ぶ時間を作らないとダメだ。




 そしてついに…


「お母様…、来てしまいました…」

「あら、おめでとう!早かったのねえ~。私だって九歳だったのに」

「そうなんですよ…」


 前世の感覚だと早ければ十歳だ。でもこの世界の人間は早熟だ。それにしても八歳で来るなんて早すぎる…。


 アンネリーゼの身体の血流の良さは光の精霊によって超人レベルになっている。身長や体型はもちろん、内蔵の成長も速いのである。

 ちなみに老化が速いわけではない。血流が良いおかげで老化は遅いのである。


 最近違和感があったんだ。前世でもカイロプラクターになってからは自分で調子を整えていたおかげで、たいした不調にはならなかったけど。

 その違和感を感じ始めてから、魔道ナプキンを付けてたんだ。そしたらビンゴだったよ。二回目の初潮だから、あらかじめ対処できたよ。大惨事にならなくてよかった。この吸収量、前世のナプキンより性能が良い。前世のテクノロジーを越えた発明だ!



 まあ生理が来たってことは、身体も出るところが出てきている。お母様のことは私が魔改造してしまったけど、私は八歳からこの調子だと、お母様を超えるメロンに成長しそうだ。

 前世の自分の姿は思い出せないけど、胸が大きくてスタイルが良いことは嬉しいことだ。




「…というわけでですね、この部分が吸収と分解の魔道具になっていまして…」


 私はプレドール家にお邪魔して、パンツと魔道ナプキンの宣伝をしている。


「どうやって身につけるんですの!?」

「えっと…」


 クローラ婦人は食い入るように聞いてきた。ヒルダもいるけど、何のことだか理解していない。

 で、パンツのはき方を披露しろと…。この世界の貴族は、メイドさんに全裸をさらすことは当たり前ことなので、人前で裸をさらすことに忌避感がない…んだっけか?家族やメイドだけだよね?他人にさらしたりしないよね?


 いや、でも考え方によっては…、パンツはこの世界初。この世界には下着という概念がない。パンツはもちろんブラジャーもない。パーティで胸をアピールするあまりにポロリというような事故は絶えないという。むしろ、男の気を引くためにわざとポロリするような痴女もいるという。

 それなら私はパンツをアピールしようじゃないか!パンツとブラジャーを下着としてではなく、前面に出すような使い方を、今なら広められるはず?ああ、なんかインスピレーションが降りてきた…。でもそれは帰ってからにしよう。

 今はとりあえず、恥ずかしがらずにパンツの良さを広めるために一肌脱ぐか…。物理的に…。


「この二つの穴それぞれに、左足と右足を通しまして…、そのまま上まで上げます。そして、一番上まで上げて身につけた形が、今私のはいているパンツというわけです」


 説明用に持ってきたパンツに魔道ナプキンを付けて、足を通して膝付近まで上げる。その際に、ドレスのスカートもたくし上げて、最終的にもともとはいているパンツを見えるようにする。


「アンネリーゼ様の脚はお綺麗ですね…」

「アンネリーゼ様ってとても色っぽい…。ほんとうに私と同い年なのかしら…」

「あの…、私の脚ではなくてですね…。パンツの方を見てほしいです」


 ああもう!パンツを見てほしいって、自分で言っててなんだけど、恥ずかしいよ!

 っていうか、ズボンと同じだよね!ズボンなら分かるよね!一から説明する必要なかったよね!それとも、この世界の女はズボンをはかないから、分からないのかな…。


「そ、そうでした…。その、パンツという着物で固定している魔道ナプキンというのが、漏れたものを吸収できるというワケですね!どうやって固定しているのですか?見せてください!」

「あ…はい…」


 メタゾール家もプレドール家も原始人だもんね…。家人だけでなく、他人にも見せちゃう世界か…。いいよ…、見せてあげる…。


「なるほど、こうやって固定するのですね。しかし、こんな薄いもので、多い日の分を吸収できるのですか?」

「はい。これは一番多い日の夜を想定して作ったもので、少ない日はもっと薄くて目立たないもので済みますよ」

「なるほど~。これは良いですね!」

「あの~…。その、スカートをもう下ろしたいのですが…」

「えっ?アンネリーゼ様の柔らかな脚をもう少し…」


 いくら同性でも、自分の娘じゃないんだから、パンツをめくったりしながら人のおまたをそんなにマジマジと見ないでほしい…。匂いを吸収するからといっても、めくられたら匂いは漏れそう…。今日はわざわざ酷い日に来たんだから…。

 そして、ヒルダはどさくさに紛れて脚を見たり触ったり、おしりをぷにぷにしたりしないでほしい…。


 アンネリーゼはけっこう筋肉があるにもかかわらず、すべてに筋肉を完全にほぐしてあるので、堅い筋肉というものがないのである。そのおかげで、さわり心地がとても良いので、いつまでもぷにぷにしていたいヒルダであった。


「ああ、すみません。それで、このパンツという着物と魔道ナプキンというのは、おいくらなんですの?」

「パンツは洗えば一年くらい使えて、大銀貨一枚程度しようと思っています。平民向けにはこれらのレースやフリルを省略して安くしたものを銀貨二枚で売ろうと思っています」

「あら、安いのね!」


 大銀貨一枚は一万円くらいの感覚だ。生地は基本的に輸入だから、これより下げられないのだ…。


「私はパンツを普及させたいのですよ。それでですね、魔道ナプキンのほうは、多い日用が一枚に付き銀貨二枚、少ない日用が大銅貨五枚です。使い捨てですので、平民にはいささか厳しい値段なのですよね…。おまるの交換カートリッジと素材を共通化したりして頑張っても、ここまでしか下げられませんでした…」


 おまるの交換カートリッジとは、おまるの底面に配置するトレー状の魔道具で、水分を吸収する水魔法の効果と、汚物を分解して肥料に作り替える土魔法の効果がある。また、匂いを吸収する風魔法の効果もある。


「まあ、毎月銀貨二枚が数回程度であれば、子爵家であれば出せる金額です。平民向けには…」

「平民向けには、もっと機能を落としたもので、なんとか毎月使えるようなものを考えていこうと思っています」

「アンネリーゼ様は下々の者にも手を差し伸べられているのですね。慈悲深い方です…」

「それは違います。女性が生理の煩わしさから開放されると、良き働き手となるのです。領民の女性らが働いてくれると、それは税として私の元に返ってくるんですよ」

「そうはおっしゃいますけど、なかなかできることではありませんよ。アンネリーゼ様は、メタゾール領の者から聖女と呼ばれていると聞き及んでおります」

「えっ…、何それ…。まあいいか…」


 メタゾール領民は私を盲信している。ちょっと怖い。でも悪いことをしたりはしない。


「えっと、話を戻しまして、このパンツというのは、生理のときに限らず、普段からはいてよいのですよ。フリルやレースが可愛いでしょう」

「そうですね。でも、スカートの中では見せる機会がありませんよ」

「ふふっ、それは殿方、ワッセル様にご意見を伺ってみてください。白がおすすめです。絶対にお喜びになります」

「そういうものですか」

「では、クローラ様用のパンツ四枚、多い日用ナプキン二枚、少ない日用のナプキン二枚。あと、ヒルダ様にはパンツ四枚を、サンプルとしてお渡ししておきますね。パンツは普段からお召しになってください」

「あのっ!私には、その、魔道ナプキンというのをくれないの?」


 ありゃ、ヒルダが泣きそうだよ。でも、あなたはまだ何に使うのか分からないでしょうに。


「ヒルダ、あなたはきっと二年か三年後に必要になるわ。そのときに買ってあげます」

「そんな…」

「クローラ様、ヒルダ様への説明、お願いしますね…」

「ええ」


 初潮の来ていない子にそれを説明するのは難しい。血が出てきて怪我や病気なのかと思うことだろう。私は二回目の初潮だったので準備万端だったけどね。


 私はプレドール領をあとにして、その北のテルカス領に赴いた。そして、同じように痴女プレーして、同じようにシンクレアに脚とお尻をぷにぷにされて、ナプキンをくれと泣きつかれて、帰路に就いた。




 屋敷に着いたら、生地などの材料を集めて、インスピレーションを具現化する…。土魔法によって一瞬でドレスを作れるのはまだ私だけだ。ああじゃない、こうじゃないと、簡単に作ってはばらし、試行錯誤を重ねられる。


 ブラとパンツを前面に出した黒いドレス…。できた…。魔王というか…、サキュバスだ!

 スカートは長めだけど、前と後ろが大きく左右に開いていてパンツを見せるようになっている。

 トップスも、ブラとコルセットが独立していて、隙間から肌が覗く…。

 そして、ガーターベルトとストッキング…。うーん…、こんなランジェリーみたいなものを前世で着た記憶はないよ…。


 これを着てデビューする勇気はない。私の成長がいくら速いからといって十歳のガキがこんなの着ていたら笑いものだ。これはお蔵入りだ。


「お嬢様…、かっこいいです…」

「あらアンネちゃん。一人だけ可愛いドレスを着てずるいわ!」

「ねーね!めっ!」

「こ、こここ、これは…」


 エミリーとお母様とリーナはどっから湧いたのさ…。あ、でも丁度いいか。私みたいなお子様じゃなくて、お母様のようなボンキュッボンに着てもらおう。


「これはお母様に着ていただこうかと思っていたドレスです。このドレスには、私の考案したパンツ使われております。どうです?素敵でしょう」

「たしかに…。スカートの中布なんて一枚でも減らしたいと思っていたけど、そうやって使うならすごくかっこいいわ!それに、そのパンツはレースやフリルがたくさん付いていて、それだけで素敵だわ!」

「パンツだけで出歩いちゃダメですよ」

「えー」

「お母様…。じゃあ、そのドレスをお脱ぎください」

「はーい」


 部屋に散らばっている材料を使って、お母様の身体にサキュバスドレスをまとわせながら紡ぎ上げていく。

 お母様のことは毎日触りまくっているので、サイズを全て把握している。まるで魔法少女の変身シーン。あ、影収納を使って、魔法少女ごっこできるかな?


「エミリー!鏡!」

「はい、こちらに用意してございます」

「これ…良いわ。私の胸がすごく強調されるわ…。いつものドレスより揺れるし…」


 ありゃ…、ブラの布が足りなかった。お母様のサイズはすべて把握しているはずだったのに、胸がまた大きくなっている。でも、この下乳はとても魅力的…。このままでいいか。


「後ろも見てください」

「まあ!お尻の揺れもよく見えるわ!男どもが群がりそうよ!」

「リンダよ…。おまえは私だけのものだ…。その姿は私だけにだけに見せておくれ…」

「それもそうね」


 いつの間にお父様…。まあ、お母様は私のものだけどね。


 ってかここ、年頃の娘の部屋なんだけど。私はもう胸も膨らんできているし、お父様に見られるのはいやなんだけど…。

 娘の着替えを覗くのもメタゾール領の風習ですか。そうですか。パパ臭いから洗濯を一緒にしないで、なんて言うつもりはないけど、常識が違いすぎていまだに慣れない。


 この世界には魔法があるから、石造りの建物や綺麗な服が存在するのであって、もし魔法がなければ、この世界の人々はわらのおうちに住み、葉っぱブラを身につけているような原始人なのかもしれない。




 まあ、サキュバスドレスは置いておいて、うちのドレスはこの世界にはまだないような斬新な意匠だけで利益をキープしている。材料のほとんどを他領からの輸入に頼っているので、材料費がバカにならないのだ。パンツだって値を下げられなくて困っている。

 縫製業は、私がパンツを作りたいがために始めた事業なので、あまり儲けは気にしていなかったのだけど、そろそろ利益率を上げたいなあ。そのためには材料から生産しなければ…。

 でも、材料の生産地を国中から探したのだけど、どうやら国内では育てていないらしくて、噂では他国からの輸入に頼っているとか…。だから布や糸がバカ高かったのか…。種や苗は既得権益のため出してもらえない。早々詰んだ。


 そこで、私が目を向けたのは海!メタゾール領は、東西南が海に面しているのだ。でも、見渡すかぎり、対岸らしきものは見えない。私の学んだ地理でも、ロイドステラ王国のある大陸の南には、何もないことになっている。


 ここで、長年開発してきたガラスが役に立った。望遠鏡を作ったのだ。開発はレンズの原理の知識を領民に与えて丸投げである。学校で私が数学の知識を与えたとはいえ、複雑なレンズの設計などできるはずもない。作っては潰しての繰り返しでようやくまともなものができた。

 燃料は領民の土の魔力と火の魔力なので、開発費が人件費のみ!魔法って素晴らしい!魔法の一番すごいところは、エネルギー保存の法則を無視しているところではなかろうか。

 こうしてできた望遠鏡を使って、半島の最南端から海を眺めてみたところ、島らしきものが見えたのだ!


 そこで、海を渡るための船を作った。木材を土魔法で整形できるから、継ぎ目がなく釘やネジのようなものもいらないので、気密性が高くなかなかに頑丈。3Dプリンターみたいな仕上がりだ。穴が開いたり折れたりしても土魔法で修理できる。最初は私が作ったけど、修理程度なら船乗りでもできるはずだ。

 前世でプレイしたゲームの知識を元にしたから形はかなり適当だ。

 アンネリーゼは前世の知識のうち固有名詞を何も覚えていないのだが、できあがった船はキャラックのようなものである。


 ボートのような漁船しか扱ったことのない領民は、初めて見る帆の扱いなど知らないのだけど、大丈夫。私たちには魔法というチートがある!

 未来から来たロボットが出す道具で、船に乗ったままうちわで帆船の帆を扇いで船を加速させるという、力学を無視したものがある。魔法ならそれと同じことができるのだ!


 もっとも、それをやるなら、空気でなくて水でやった方が効率がいい。

 水を生成する魔法は無から水を作るのではなく、大気の水蒸気を集めるものなのだ。無から物質を作る魔法は存在せず、近くにある材料を調達してくるのが基本となっている。どこから材料を調達するのかまでイメージすると、ちゃんと指定したところから材料を取ってきてくれる。

 そこで、船の前方の海から水を調達して、後ろに噴射するのだ。これで推進力になる。風魔法で帆を押すよりも魔力の効率が良い。風の魔力と水の魔力は別だから、併用してもいいけどね。

 風魔法で帆に風を当てる場合は反動を無視しているのだが、水を前から取り入れて後ろに噴射する場合は、反動を利用している。このあたりは、イメージ次第でどうにでもなるようだ。


 しかし、この作業を人間の魔法でやってしまうと、人力で漕ぐガレー船と同じになってしまう。

 そこで、水を前から吸って後ろに噴射する魔道具を作った。魔道エンジンだ!魔石でも動かせるし、充電式の魔道石でも動かせる。

 領民の魔力では、まだまだ三十人がかりで十キロメートル進むくらいの魔力しか貯められないけど、私なら一人で百キロメートルくらい進ませられるほどの魔力を貯められる。それを貯められるだけの魔道石を集めるのには苦労したけど、とりあえず私がいなくても数日は動くようにできた。

 最悪、魔力が尽きても、帆があるのでなんとかなる。たぶん。帆の扱い、練習しないとだ…。

■アンネリーゼ・メタゾール(五歳~六歳~八歳)

 パンツをはいた。

 身体の出るところは出てきている。


■リンダ・メタゾール(十五歳~十六歳~十八歳)

 十五歳で妊娠し、十六歳で次女、メリリーナを産んだ。


■メリリーナ(ゼロ歳~二歳)

 アンネリーゼの六歳下の妹。


■ヒルダ・プレドール(八歳)


■シンクレア・テルカス(八歳)


◆魔力

 魔法の力の強さ。または、魔法を使うことのできる量も表す。量の方は魔力の量といったりもする。

 人は火、水、風、土、電気、光、闇のそれぞれの魔力を持つ。

 魔力を使うほど、魔力の量は向上する。体力のようなものである。

 毎晩寝る前に、魔力を使い切って魔力の量を鍛えている者の魔力の量は、およそ現在の年齢÷魔力を鍛え始めた年齢に比例した値となる。つまり、魔力を鍛え始めた年齢が早いほど魔力を上げやすい。ただし、年齢は受精した瞬間からカウントされる。


◆胎児の魂百まで計画

 胎児である間に精霊の加護を与え、魔力を鍛え始めることで、魔力の高い人材を育成する計画。

 普通、胎児に言葉は通じず、リーナのような爆弾娘ができあがってしまうので、胎児の魂百まで計画はリーナだけに行われ、領民には行われていない。


◆乳児の魂百まで計画

 胎児の魂百まで計画には問題があったので、産まれてから精霊の加護を与える計画に変更された。

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