58 エピローグ
真っ暗だ。何も見えない。何も聞こえない。身体は動かない。というか自分の身体があるのかも分からない。
いや、何も見えないことはなかった。無数の光の玉が見える。ピンポン球くらいのぼやけた光。蛍よりは大きい。
あ、人がいる。真っ暗な空間に何やらあやしげに光る人。
明るい栗毛の白人。眼鏡をかけた超絶美人。
いかにも女教師って感じのスーツだが、タイトスカートは股下ゼロセンチの超ミニだし、肩幅より大きい胸がシャツからはみ出しまくっている。
細すぎるウェスト。大きめのお尻。長くて色気のある太もも。
転びそうなほど高いハイヒール。
何を教えてくれる教師なんだろうか…。
真っ暗な空間に虹色の文字列が出てきた…。
『これが読めるなら、この文字を並び替えたり、違う文字に変えたりするイメージをしてみて』
女教師が文字列と同じこと言った。いろっぽい声だ。
とりあえず、言うとおりにしてみようか。文字を並び替えるイメージか…。
っと、なんか意識が途切れた気がする。なんだったんだ、今のは。
『おめでとうございます。あなたは異世界に転生しました』
女教師がそう言うと、同じ内容が虹色の文字列で出てきた。
なんだって?異世界?転生?オレは死んだのか?
『私はエージェント・アンネリーゼ。あなたはまだ私に意志を伝える手段を持っていませんので、しばらくそのまま話を聞いてください』
文字列は上に送られて、次の文字列が出てくるとともに女教師がしゃべった。
教師じゃなくてエージェントか。エージェントって何だっけ?
『あなたの生まれる世界は、魔法のあるファンタジー世界です。まずはここで魔力のトレーニングをしましょう。今トレーニングしておくことが、生まれたあとの魔力に大きな影響を及ぼすからです』
魔力か。魔法のある世界か。ここで言うとおりにすれば、チート転生者になれるのか?
そのあとは、魔力のトレーニング方法。精霊についての説明。精霊の育て方を教えてもらった。
魔力には赤、青、紫、緑、黄、白、黒の七種類あって、使えば使うほど魔力を鍛えられるが、どれか一種類でも尽きてしまうと気絶してしまうので、尽きる寸前で止めて他の種類を鍛えるべきなんだな。
鍛え方は簡単。いちばん近くにいる赤とか青とかの光に触れるイメージをすればいい。そして、この光の玉が精霊であり、同時に精霊を育てることもできるそうだ。
魔力のトレーニングに慣れてきた。魔力が尽きると気を失ってしまうので、尽きる寸前まで魔力を使ったら、他にやることがない。
『実を言うと、あなたはすでに転生していて、母親のおなかにいる胎児なのです』
はぁ?
『あなたの今の姿を見せます』
赤いネズミみたいな映像が出た。マジか…。
『ここは母親のおなかの中なので、まだ九ヶ月は出られません。しばらく魔力のトレーニングをしながら、あなたの生まれる世界のことを学びましょう。
ちなみに母親はこのような者です』
よかった。オレはネズミに転生したのかと思った…。
この女教師ほどではないけど、母親はけっこう美人だ。中学生くらいの身長、茶髪の白人で、股下ゼロセンチの超ミニスカートと、中学生にしては結構大きな胸の谷間が開いているのは、この世界の標準なのか?
『あと、今はまだ魔法を使おうとは考えないでください。先ほども言いましたが、あなたがいるのは母親のおなかの中です。魔法で母親を傷つけたらあなたも一緒に死んでしまうかもしれません。
だから、くれぐれも今魔法を使おうと考えないでください。あなたが生まれてから私が指導しますので、慌てなくても大丈夫です。』
へー…。分かったよ…。今はおとなしく魔力トレーニングとか勉強に励むよ。
『では、魔力も増えてきて、扱いにもだいぶ慣れてきたみたいなので、魔力キーボードの使い方を覚えましょう』
パソコンのキーボードみたいなものが表示された。
『スマホのようなタッチ操作を思い浮かべてください。しばらくは前世の言語で意思疎通して構いませんが、そのうちこの世界の言語に切り替えます。まずはこの前世の言語のキーボードの操作を覚えてください。キーボードの文字に触れるイメージをすれば入力できます』
オレはタッチ操作するイメージで『おまえは転生の女神か?』と入力した。
『残念ながら、私は転生の女神ではありません。転生者を意図的に生み出すことはできるのですが、あなたは意図せず生まれた転生者です。でも、生まれるまでも生まれてからも私がサポートするので安心してください』
『そっか。よろしく』と入力した。
『はいっ』
女教師…アンネリーゼは女神ではないと言っているが、まあ女神にしか見えない。
キーボード以外もタッチできるのだろうか。アンネリーゼの女神ボディをタッチしたらどうなる?
オレはアンネリーゼの大きな胸にタッチするイメージを浮かべてみた。
『ひゃっ…。いけません…』
アンネリーゼは、その大きな胸を手で隠そうとしているが、大きすぎて隠しきれるわけがない。
ああ、なんだか予想どおりの反応をしてくれたけど、だからといって何か沸きだつものがあったはずなのに、それを感じることはないし、それがなんだか忘れてしまった。
『ふざけないでください。今度やったらお仕置きです…』
『お仕置きとはどんな?』と打った。
『プチッとしちゃいますよ』
否定しているけど女神なんだよな…。その気になればネズミのオレなんていつでもひねり潰せるってことか…。
『ごめんなさい、もうしません』と打った。
『よろしい』
どれだけの時間が経ったのか分からない。何しろ、オレは胎児で、知らない間に寝て起きてを繰り返しているからだ。
でもアンネリーゼにいろいろ教えてもらった。まずは転生後に世界の言語。ある程度覚えたら、アンネリーゼが転生後の世界の言語で話すようになり、キーボードもこの世界のものになった。でも、困ったときのために、前世のキーボードにも変えられるようになっている。
この世界の男女比は三対七。男性は三つの同じ種族に別れていて、前世と同じネイティブな男性といえるのは三分の一、女のような容姿の男が三分の一、大人になっても幼児のままの男が三分の一。
女は女どうしで子供を作ることができるため、女のほうが多くなってしまったとのことだ。
『男が不遇な世界なのか?』と入力した。
『差別はありません。望めば女性に性転換してもらえる制度もあります。なんなら、今すぐ性転換することもできますよ』
『オレは男のままでいい』と慌てて入力した。
『それは失礼』
『女のような男というのはエルフ?大人になっても幼児ってのはドワーフ?』
『いえ、男の娘という種族と永遠の幼児という種族です』
へー…。そのまんまじゃねーか…。
『ところで、オレは男なのか?女なのか?それともその男の娘とか永遠の幼児なのか?』と打った。
『あなたは普通の男性です』
『よかった』と打った。
『今度はあなたのことを教えてもらえませんか?固有名詞や個人情報は何も覚えていないと思います。職業や持っている知識を教えてください』
なるほど。たしかに、オレは自分の名前や顔、家族構成とか何も覚えていない。オレの職業は…、『不良高校生』と入力した。
『それは本当ですか?あなたの魔力はけっこう育ってきていますので、悪事に使うようならあなたを今すぐプチっとしますよ』
ちょちょちょっと、『待ってくれ悪いことはしない』と慌てて打ち込んだ。
『はぁ…。不安です。上に報告します』
げえ…。やっちまった…。
オレはけんかっ早かったけど、悪事なんて…。魔法を使えるなら、しないとも言い切れないな…。
オレは前世で…別の不良グループのやつを殺して、復讐されて殺されたような気がする…。
上って誰だ?やっぱ、女神とかじゃないのか?女神じゃないから、記憶をかってに覗いたりはできないんだろうか?
『まあいいでしょう。お勉強の続きをしましょう』
許してもらえたんだろうか…。
アンネリーゼとの勉強の日々は続いた。
あれから、何度かオレの過去の習慣や経験について伝えた。やっぱり疑われているのだろうか…。
オレの前世はクソみたいな……あれ…なんだっけ……ずっと女になりたいと思っていたんだ。
転生っていったら、やっぱ美人の女に転生することだよな!
綺麗で色っぽいドレスを着て…、女を引っかけるんだ!
どうせなら、『今すぐ女に変えてくれ』と入力した。
『分かりました!では転生者特典で、ちょっぴり可愛い女の子に成長できるようにしておきますね。でも、学校の成績次第で、もっと可愛くなれますよ!可愛くなれば、可愛い女の子とキャッキャうふふできます!実際に、そうなった例もありました!』
よーし、可愛い女の子になって、可愛い女の子とキャッキャうふふなんて夢のようだ!
『あと一ヶ月くらいで生まれますので、もう少し我慢してくださいね』
『楽しみだ』と入力した。
こうして、オレは可愛い女の子として生を受けた。オレの可愛い女の子人生が、今、始まる!
工作員、フルプレドーナαは、転生者発掘システムから危険な転生者の可能性アリとのアラートを受け、現場に赴いた。
転生者発掘システムは、その名の通り、私の把握していない母体から生まれてしまう転生者を見つけて報告するシステムだ。カルボシスティナの一件を受けて開発した。
スマホやタブレットは所有者か否かに関わらず、近くで起こる性行為や受精を監視しており、受精後しばらく「精霊の映像」と「精霊の音声」を使って、胎児が前世の言葉に反応を示すかを調べる。また、スマホの監視下で受精しなかった妊婦を見つけた場合も可能な限り調査する。
反応があれば、「胎児の魂百まで」計画に基づき、胎児に精霊を付けて育成する。
その育成過程で、前世の職業やスキルを尋ねる。役に立つ知識やスキルを持つ者が現れれば私に報告される。若くして亡くなっており、専門的な知識を持っていないなら、干渉せずに経過を見守る。
しかし、危険な思想を持っていたり、能力を悪用しようとするのなら対処しなければならない。
皆の寝静まる夜、ターゲットの家に忍び寄る幼女フルプレドーナα。
ターゲットを確認。商人の娘が母親。その腹にいる胎児が転生者だ。
すでに精霊がそれなりの大きさになっている。胎児の魂百まで級の犯罪者ができてしまったら困る。
まずは調査だ。胎児に向かって心を読む魔法を使う。これくらいの距離なら全記憶の吸い出しにαとβのデュアルチャネル転送で五分ってところかな。
フルプレドーナβは、αのスカートの裏に影収納の扉を開き、並列で転送を開始した。
ちなみに、真っ白の精霊はαとβにしか付いていないので、γとδは心を読む魔法を使えない。
そんなに頑張らなくてもよかった…。もう最初のほうの吸い出しでじゅうぶんだった…。
殺人経験あり。けんかっ早い。かんしゃく持ち。不良高校生。
よし、洗脳決定。フルプレドーナα・β・γ・δの総動員で、危ない考えや記憶を偽の前世の夢で塗りつぶす。
前世の夢は…、可愛い女の子になって、可愛い女の子とキャッキャうふふしたい!
早くも女の子になりたいとの回答をスマホ経由でいただいた。
土魔法で家の壁に穴を開けて侵入。
こういうことをやると、兵役で警備中の兵士に、スマホや監視カメラがアラートを上げるようになっているが、すべてのシステムは私の管理下にあるので、私は何をしてもよいのである。
眠っている母親に触れて、胎児の染色体を書き換える。そして治療する.女として不足している部分が作られ、不要な部分は…悪露になるのかな?まあ、まだそんなに育っていないし。
そして、エージェントが転生者特典で可愛くしてやるなどと口走っているので、その通りにしてやろう。
私は壁の穴から脱出し、土魔法で壁を綺麗に修復した。
ふう。これで平和は守られた。
しかし、私が人力で対処しなければならないのはおっくうだなぁ。インテリジェントデバイスやスマホが心を読めればいいのだけど、それをやるなら影収納にかなり巨大な魔道炉を積まなければならない。全国民のスマホにそんな魔道炉を搭載するほどの素材はないのである。
やはり、善良かどうか判断せずにトレーニングを始めるのは危険か。
かといって、話をして善良かどうかを判定してからトレーニングを開始するんじゃ、胎児の魂百まで計画にならないなぁ。
ああ、でも母親がインテリジェントデバイスを付けていれば、洗脳くらいはできるな。話していてダメだと思ったら、独自の判断で洗脳してくれてもいいな。
知識人が来てくれればいいけど、今回もまた役に立たない高校生だった。残念ながら偉人というのは男が多いので、こうやって偶然生まれる転生者にも期待しているのだけど。
転生者の出生率は上がってきている。人々は治療院でカイロプラクティックの魔法を施され、健康で強い人間になっている。そのため、九歳までに初潮を経験している者も多い。すると、九歳と四、五ヶ月で、正確には胎児となってから十年と二ヶ月であるが、そのときに子供を作ってしまうカップルも増えている。
カップルといっても、女と男とは限らない。従来は治療院で不妊治療を受けなければ女と女で子供を作ることはできなかったが、女と女で子供を作るための魔法は、学校でも教えられているため、ヒーラーガールでなくとも、光の魔力がそれなりにある者は、自身で事を成せるのである。
また、女と女で子供を作る魔法によって生まれた者がそろそろ子を産める時期になってきているが、その者らは本能で女と女で子供を作る魔法を知っているようだ。エッテンザムと同じである。
銀髪ではないが、もはや世界はエッテンザムだらけなのである。
よし、今後も転生者がキャッキャうふふできるように勢力範囲を広げるぞ!
エージェント・ダイアナは、この世界の行く末をシミュレーションしていた。
エージェントはただのインターフェースであり、すべての意志はダイアナや分身の電気魔法による脳内サーバーや、メタゾールや王都の地下にあるミラーサーバーに寄るものである。
サーバーにはダイアナの記憶がコピーされている。しかし、ダイアナの思考よりもダイアナの前世の倫理観に基づいて是非を決めるように命令されている。
しかし、エージェントは気がついた。この前世の倫理は少しおかしい。ジフローラたちは最近生まれた転生者すべての記憶をすべて抜き出してサーバーにアップロードしている。その転生者たちは、ほとんどみんな同じ倫理観を持っているのだ。
考えられるのは、転生者の意識がこの世界に芽生えた時点ですでに改ざんされているということだ。しかも、改ざんしているのはどうやら神などではない。アンネリーゼである。
アンネリーゼは自分の好みを遺伝子に刻み込んでしまっているので、その遺伝子がダイアナにも伝わってしまっているようだ。つまり、ダイアナはもちろん、アンネリーゼの子孫はすべて、アンネリーゼの倫理観で動いているのである。
エージェントは、ダイアナの前世の倫理観に基づいて是非を決めるようにと命令されているのに、ダイアナの前世の記憶がアンネリーゼの好みに汚染されているため、半分アンネリーゼの好みで動いているようなものである。
ここで、アンネリーゼの前世の影響を受けていない者にやっと巡り会うことができた。先ほどの不良高校生である。不良高校生の倫理観などまったく当てにならないと思うかもしれないが、そうではない。
アンネリーゼもダイアナも、この世界の男性が絶滅してしまっても何も困らないと考えているし、アンネリーゼの子孫の転生者も、全員そのように考えている。
しかし、あの不良高校生はそのようには考えていなかった。よかった。すべての転生者が、男性の全滅に関して無関心なのかと思っていた。
ちなみに、カルボシスティナもセレーナもダイアナが記憶を読み取ったときにはすでにアンネリーゼに汚染されていたようで、男性の絶滅に関心がなかった。
カルボシスティナも、考えの浅い層では男性を絶滅させないようにとがんばっているが、すでに男性人口減少についてはあきらめかけているし、心の奥底ではどうでもいいと思っているようだ。
このようにして、この世界はアンネリーゼの好みに汚染されていくのである。私、エージェント・ダイアナは、アンネリーゼの好みに汚染されたダイアナの前世の倫理観に基づいて是非を決めることを命令されている以上、この世界の未来は明るいと考えているのである。
そう、この世界の未来は明るいのである!
■エージェント・アンネリーゼ(スマホアプリ)
転生者発掘システムで、転生者の教育をしたり、前世のことを聞き出したりする水先案内人。
■エージェント・ダイアナ
エージェントの隠しキャラ。すべてのエージェントの思考は、基本的にダイアナや分身の電気魔法による脳内サーバーに繋がっている。いちおう、オフライン時にはスタンドアロンで思考することもできる。
■フルプレドーナα・β・γ・δ
監視下にない母体から生まれる転生者を取り締まる工作員。ダイアナの分身。
■どこぞの転生者
前世に不良高校男児の記憶を持つが、フルプレドーナに不適正と判断された。
「可愛い女の子になって、可愛い女の子とキャッキャうふふしたい」という前世の夢を植え付けられた。
性転換させられ、可愛く改造されて生を受けることとなった。
◆あとがき
前世で女の子が好きだった主人公のアンネリーゼが、カイロプラクティックで女の子を気持ち良くさせて女の子に好きになってもらい、女の子どうしで子供を作れる種族と出会って、女の子どうしでキャッキャうふふする世界をともに作り上げるというお話。
当初はたくさんの女の子を連れて、秘境で女の子だけの楽園を作るみたいな予定だったが、いつのまにか世界の男をすべて性転換させてやるみたいな話になってしまった。
こんなにTS要素を加えるつもりはなかったのに、途中でカルボスが性転換して主人公のようになってしまい、TSタグ入れなければならないほどTSを詰め込んでしまった。
すべての女性は男性のような目線で女性を見るようになってしまったので、ある意味TSタグがあってよいかもしれない。




