57 再会
ダイアナは隠居生活を考えていた。
ムコサール領で暮らしていたカルボシスティナたちは、王城の敷地内の離宮に戻ってきて政務を行っている。
この離宮は、フラベーナたちが建築し、フラーラが主に焼き上げて光沢感を出した、新しい建築手法を用いたものである。ダイアナの住んでいる離宮も同じ手法で建てられている。
基本的に王城の本館は謁見の間や応接間があるだけで、政務は離宮のほうが主体となっている。これはマイア姫のときから同じである。
ロイドステラ王国の近代化は、カルボシスティナ率いる転生者軍団のおかげで、急速に進むであろう。
フラベーナが即位して数日後、黄金のペガサスが王都に降臨し、王都を祝福してくださったという噂が流れた。
監視カメラをたどったら、フラベーナだった。髪の毛が黄金だから、全身黄金になるんだ…。
ペガサス娘は外販されているので、王都民にも認識されている。しかしフラベーナの髪は神々しい黄金だから、特別感は強かっただろう。
そういえばと思って、ジフラーナAやジフローラαで試してみたら、背中に翼を生やしたり、馬になったりできた。こっちは銀の馬だぜ。本物のシルバーだぞ。参ったか!しかも、ジフローラαはドラゴンハーフなのに馬にもなれるのだ!
他国を征服したアンテベーナαだって黄金の馬だぞ。フラベーナの娘だからな。ティノーラαは薄金色の馬だぞ!
なんて、張り合ってもしゃーない。フラベーナがロイドステラの女神になったのなら、他国にいるアンテベーナが女神として降臨しようかな。どう考えても邪神だが。
ちなみにジフラーナAやジフローラαは真っ白な精霊が付いているからできるのであって、薄緑の精霊を付けたジフラーナBやジフローラγではまだできなかった。
フラベーナは薄緑の精霊を十年間鍛えて、真っ白な精霊級に仕立て上げたのだ。ということは、心を読める魔法を使えるんじゃない?システィナ、ピンチだな。むふふ。
他の転生者も十年くらい経てばみんなテレパスだ。どうなってもしーらないっと。
マイア姫がフラベーナに王位を譲ったのを機会に、ママやママの嫁たちはみんな次々に爵位を娘に譲ることにした。
ママはデルスピーナにメタゾール公爵位を譲った。ママが持っていたメタゾール公爵位は、ダイアナ・メタゾールの公爵位とはまったく別物である。ずっと紛らわしいと思っていたのだが、法律上問題ないのでそのままだったが、この機会に改名し、デルスピーナはベタメタゾール公爵となった。
ちなみにママは法衣貴族だったので、譲る領地はないが、カルボシスティナに任せていた第三以降のメタゾール領の管理を任せることにした。
ヒルダはパリナにプレドール伯爵位を譲った。プレドール領もパリナのものとなった。
シンクレアはプレナにテルカス伯爵位を譲った。テルカス領もプレナのものとなった。
ロザリーはペルセラにラメルテオン侯爵位を譲った。ラメルテオン領もロザリーのものとなった。
クローナ、メレーナ、ソラーナ、エリス、アレスタ、グリメサ、タルメア、ロコイアも、その娘たちに爵位と領地を譲ってしまった。
娘たちは領地を持ったからといって領地に帰るわけではなく、離宮に執務室を構えてテレワークしているのは親の代と同じである。
また、転移の間を各領地の領主邸に設営したので、有事に領地に赴くのも一瞬なのである。
私、ダイアナ・メタゾール公爵も便乗して、ジフローラに爵位を継ぎ、その役目を終えることにした。ジフローラはジフラーナとワイヤの娘であるが、私はその辺りの戸籍情報を改ざんし放題なので、ジフローラはダイアナの娘ということになっている。
というわけでこれからはジフローラを表に立たせよう。でも表に立つ者が変わっただけで、中身はダイアナなのである。私の仕事は終わらない。今後もロイドステラのある大陸での勢力を広げていくつもりだ。
ダイアナの持っている元第二王妃なんて肩書きは全く役に立たない。爵位まで譲ってしまったら、離宮に居続ける理由がなくなってしまうのではないか。そうではない。離宮に無数にいるダイアナの嫁は爵位を持っているのである。ダイアナはそれらの第一夫人なのである。王城でテレワークしている貴族当主の夫人が離宮に住むのは、別に普通のことである。
あれ、それだとダイアナの第一夫人であるミスリーの立場がないな…。いいんだよ、誰も文句言わないから。寝室に一人や二人余計な嫁がいても。
王や領主が交代したことから、王都と各領地で選べるエージェントも交代することとなる。ただし、エージェント・アンネリーゼだけは、引き続き全国で利用可能である。
その他、全国で利用可能なのはフラベーナ王、カルボシスティナ王妃である。
王都以外の領地では、領地の貴族当主のエージェントキャラを選ぶこともできる。領主の多くは女性であるが、一部男の娘と永遠の幼児がおり、それらも選ぶことができるようになっている。
フラベーナとカルボシスティナには王族モードとお茶会友達モードと平民モードの三つがあって、メインのモードを選択できるようになっている。しかし、王族モードとお茶会友達モードを選んでいても、ときどき素の平民モードが出てしまう場合がある。しかもカルボシスティナの平民モードはオレっ娘なので、異次元の可愛さとのギャップがウケている。
マイア姫は廃止。各領地の前領主も廃止。使用している者は一年以内に他のエージェントを選ばなければ、アンネリーゼが選択される。
いずれの場合もエージェントキャラは、一ヶ月ずつお試しで使えるようになっていて、お試し期間を使い果たしたあとは一回だけ無料で変更できる。それ以降は、エージェントの着せ替えなどに使うための成績ポイントを消費して、キャラを変更できる。
この成績ポイントは、自分の可愛さと交換するためのポイントとは別である。
一方で、ヒストリア王国では、セレスタミナはフェニラ第二王女に王位を継いだ。フェニラは他国の公爵であるカルボシスティナ・ムコサールを第一王妃して迎えた扱いになっている。
フェニラには、元市長の転生者であるマレルミナが娘としており、また、現在九歳であるフェニラは、カルボシスティナの子を身ごもっている。また転生者が生まれる予定である。
他国に籍を置いたままの者を王妃として娶れるようになったのは、転移陣のおかげで、住む場所に意味がなくなったからである。
つまり、フェニラはいまだにロイドステラでカルボシスティナたちと寝泊まりしているのである。ただし、留学していたムコサール領ではなく、王城の離宮である。自分たちで建てたやつだ。
ヒストリアで使えるエージェントについては、以前は全領地でセレスタミナとアンネリーゼだけであったが、セレスタミナは廃止。アンネリーゼは継続。新しく王になったフェニラ王と、王妃カルボシスティナを選べるようになった。
しかし、聖女アンネリーゼの人気はいまだ根強い。
また、ろくに顔を出さない王妃カルボシスティナも、異次元の可愛さとオレっ娘のギャップが受けて人気が集まっている。
私、ジフローラ・メタゾール公爵は、引退したママとママの嫁たちのために、自身の領地の砂浜に離宮を建てた。砂浜では漁をできないので、この砂浜は漁をしている港からはけっこう離れているが、プライベートビーチとして一般の利用を禁止した。
領地というのは貴族当主が国から借りたものであるから、当主である私が領民の断りなくかってにしてよいものなのである。
私がひととおりの備品を揃えたのに、ママはなぜかメタゾールの屋敷から二つのベッドを持ってきた。
一つはリンダばぁばの部屋だったところのベッドで、もう一つはママの部屋だったところのベッドだ。どちらもみんなで寝ていた部屋だ。最初はリンダばぁばの部屋で寝ていたと思うけど、いつのまにか寝ている間にママの部屋に移動していたな。
その二つの部屋からベッドを持ってくるのに、なんの意味があるというのだ。二つ合わせても足りないから、私の設置したベッドを削り取って、持ってきた二つのベッドに継ぎ足しているし。
ちなみに、メタゾールの屋敷はほとんど改装していない。私もほとんど訪れないし。
離宮に住んでいるのは、ママ、マイア姫、ヒルダ、シンクレア、ロザリー、イミグラ、ゾーミア、レルーパ、マクサ、アマージ、リンダばぁば、シルバー、アリシア、ドリー、セレスタミナ、カローナ、レグラ。
あと、ヒト型になったレッドドラゴンのベニシア、ブルードラゴンのシンシアは娘ではなくこっちに付いている。
そして、今まで別部屋だったクローナ、メレーナ、ソラーナ、エリス、アレスタ、グリメサ、タルメア、ロコイアも同室を許された。
ドラゴンを除けば、ここには二十代後半の者ばかりだ。本来ならこの世界では貴族当主がこれくらいの歳で引退してしまうのも一般的である。王だけは古いしきたりにより、死ぬまで引退できなかったがそれも法改正した。
さらに、マイアのメイド四人、騎士二人や、リフラナやコーリル、エミリーを始め、ヒルダ、シンクレア、ロザリーのメイドまで付いてきた。
クローナ、メレーナ、ソラーナ、エリス、アレスタ、グリメサ、タルメア、ロコイアのメイドもだ。
仕える主は、べつに貴族じゃなくてもいいのである。ママたちはみんな一生遊んで暮らせる金くらい持っているのである。
そこに、一人の子供を派遣してある…。
「アンネお姉様、この銀髪娘はダイアナの娘ですか?」
「はい、ジフロラーナといいます。この部屋に置きたいです…」
「はぁ…。私には強権はありません…。アンネお姉様が嫁を増やすのを止める権利はありません」
「嫁では…。この子だけなので…」
「はいはいどうぞ」
私だってママと暮らしたいのである…。だけど、私、ダイアナは王城に離宮を建てて、たくさんの嫁とキャッキャうふふして暮らしているのである。大量の嫁をママの嫁の部屋に混ぜるわけにはいかない…。
なにより、ミスリーという正妻がいるのだ。
あと、ゾルピデム帝国のジフラーナとルネスタとその娘のエスピクローナもセットで暮らしているのだ。まあ、そっちは帝国に追い返してもいいけど、ルネスタも子供のジフラーナとキャッキャうふふするよりは、たくさんの嫁とキャッキャうふふする方が好きなようである。
あとセレーナもいる。ちょっと洗脳しすぎで頭がおかしくなっている…。
ママたちはもう二十代後半だけど、三十人の嫁たちはまだ十代後半なので、引退するには早いのだ。
ダイアナは十八で引退してしまったけど。
ワイヤはどこでも生きていける。最近我が儘だが、私に付いている。
このようなことから、ダイアナ本体が引退しても、たくさんの嫁たちの第一夫人を引退することはできないので、なかなかママとは暮らせないのである…。
そこで、分身の一人であるジフロラーナを派遣した。浮気をして二重生活をするなら、自分が二重になればいいのである。
ジフロラーナはジフローラの子であり、ジフラーナの孫であり、ダイアナのひ孫である。だが、戸籍改ざんして、胸の谷間の住人やスパイ王女は、すべてダイアナの子ということになっている。
ジフロラーナというのは代表名であり、実際にはジフロラーナα・β・γ・δという四人がおり、普段は四人のうち一人が表に出ており、あとはスカートの中に潜んでいる。
ただ、ジフロラーナたちは五歳であり、性欲が芽生えていないので、ママとはキャッキャうふふできないのが残念である。
ジフロラーナはホワイトドラゴンの血を二五パーセント、ゴールドドラゴンの血を二五パーセント引いた最高傑作である。
ジフロラーナとセットで作ったフルプレドーナα・β・γ・δ、ティノミーナα・β・γ・δ
リグコベーナα・β・γ・δをメタゾールで遊ばせとくのはもったいないので、フルプレドーナとティノミーナはジフローラ公爵に工作員として付けることにした。
ジフローラにはそもそもAとBがおり、もともとフルプレーナA・BとティノーラA・BとリグローラA・Bが工作員として付いている。
だけど、国内で工作することはもうあまりないような気がする。外国に派遣した方が役立つだろうか。
一方で、リグコベーナはダイアナの胸の谷間に住まわせて、ダイアナの背中を常に押している。その快感を全員で共有するようにしている。
砂浜の離宮では時間がのんびり流れる。
みんな毎日水着を着てキャッキャうふふしている。砂浜を散歩したり、波に足を浸けたり。
メタゾールは国の最南端ということもあるが、領民の精霊が最も育っている領地であるため、人間にとってかなりすごしやすい気候となっている。そのため、冬でも二十度以上あり、いつでも水着姿でいられる。
みんなヤンママという歳もすぎてしまったが、ここには永遠の十七歳しかいないので、何も問題はない。
以前から、リンダばぁばは実年齢を言われると怖い顔をしていたが、今ではみんな怖い顔をする。
リンダばぁばはすでに三十八歳だ。ママは五十歳のご婦人を十七歳に改造した実績もある。マイア姫の前の王は八十六歳だと思うが、いまだに健在である。
私たちに寿命はあるのだろうか。
光の精霊がある程度育っていれば、紫外線による日焼けを自動で治療できてしまうので、私たちにパラソルはいらない。自動HP回復持ちではない、ヒルダやイミグラでも、毎日ママと私ががお風呂で治療しているので、日焼けは残らない。
「ねえダイアナ、もっとまともな水着ないかな…」
ママが着ている水着は、一辺が十センチの極小三角水着だ。肌に吸い付く魔道具を使ってあって、簡単には脱げないようになっているが、背中と肩を紐で結んでいることが逆にあだになって、すごくずれやすくなっている。とても危ういのにギリギリのところで留まるようになっていて、スリルを味わうことのできる水着なのだ。
『私はダイアナではない。ジフロラーナと呼んでほしい』
「ジフなんとかっていっぱいいて、紛らわしいんだよ。それより水着。もうちょっと面積があってしっかり紐で縛れるやつが欲しい…」
『何言ってるんだ。カローナママだって同じ水着を喜んで着ているだろう』
「そうなんだけど…。っていうか、あなたがダイアナでないのなら、カローナをママって呼んじゃダメじゃん…」
『うっさい』
浜辺では、ママの嫁たちが紐なし水着や十センチ三角水着を着てのんびりと過ごしている。まるでヌードビーチだが、大事なところだけは私の指導により隠してもらっている。言っておかないと、この世界の者はみんな平気で全裸になってしまいそうなので。
まあ、うっかりポロリしてもいいように、プライベートビーチとしてあるのだ。
十三年前の水着バトルのときに比べると、ママの胸は一回り大きくなっている。フラベーナを産んだからね。それなのに、水着の面積は十三年前のままだ。素晴らしい。
それよりも、今はママなんて目じゃない、カローナママがいるのである。カローナママの胸は一房で自身の肩幅以上あり、筋力を付けられるようになってからも重すぎて大変そうだ。カローナママの水着も十センチの正三角形紐水着だ。その胸は、どうやっても紐で支えられるようなものではない。プライベートビーチから外に出してはならない。
ママはブツブツ言いながら、水着がずれて脱げそうになるのを手で押さえながら不安そうに去っていった。
もしダイアナがここにいれば、このママの姿を本能的に可愛いと思えるのに、ジフロラーナにはまだ性欲が芽生えていないので、理性的に可愛いと思うことしかできない。
ジフロラーナはまだ五歳。あと三年は来ない。あ、強制的に排卵する魔法をかけたら、性欲も芽生えるのだろうか…。自分の身体だし、万が一壊してもいっぱいいるし、今度やってみよう…。
じつは、ここにいるのは私を除いてみんな妊娠している…。自分の産んだ娘の子を産むというのがブームになっている。
ママはフラベーナ、マイア姫はデルスピーナ、ヒルダはパリナ…という具合に…。
ママもマイア姫も、フラベーナたちを他国にはやらん、自分が娶るみたいなことを言っていたんだよな…。ママとマイア姫は、フラベーナとデルスピーナとグリシーラの子をローテーションで、毎年生むらしい…。
しかも、みんな十年後は孫の子を産んでみたいとか言っている…。
そして、シンシアとベニシアはヒルダとシンクレアの子を身ごもっているのだ。ベニシアの子はグッドタイミングだったようで転生者なのだ。シンシアの子は普通の子だ。
卵から孵って九年と七ヶ月目なのだけど、つまり、受精してから卵から孵るまでに七ヶ月だったってことだろうか。
シンシアは未熟児だったので早産だったのだろう。ママが無理矢理孵らせたみたいだ。
リンダばぁばは、すでにアルゾナという自分と自分の娘の子がいるというのに、さらに自分の血の濃い子を産もうとしている。リンダ五〇+アルゾナ五〇はリンダ八八+ゲシュタール十二だな。もう自家交配したらいいんじゃなかろうか。
リンダばぁばはすでに三十八歳という高齢の出産だが、まあ私たちの寿命は自動HP回復やママの施術によって治療されているし、卵巣も治療されていて卵子も無尽蔵に出てくるようなので、好きなだけ子を産んでくれればよい。
まだおなかが出てくるような月齢でもないが、頑丈なママやドラゴン以外はおとなしく散歩したりハンモックに揺られているだけなのである。
ちなみに、ママもそろそろ、生まれたときに物心ついていない子が欲しいというので、胎児に薄緑の精霊を付けたりはしていない。
ただし、ベニシアの子は転生者なので、その二人の子には薄緑の精霊を付けてある。
妊娠しているのは、私を除いて、ほんとうにみんななのだ。
メイドも騎士も、みんな妊娠しているのだ。
クローナたち八人のメイドは娘がいないので、今回初めてママにもらったらしい…。
実はずっと我慢していたらしい。ママはもはや何の身分もないので、いくらでも種馬になれるのだ。
それ以外の従者は、みんなママとの娘がいるので、その娘の子を宿している。
っていうか、メイドたちは何しに来たのだろうか。仕事しろ!
みんな妊娠しているし、爵位も継いで引退しているというのに、ママだけは治療院の仕事をしている。離宮はヌードビーチ気味なので、あまり人に来てほしくないから、離宮より少し北上したところに治療院を建てた。
メタゾールには、ヒーラーガールズのやっている治療院がちゃんとあるのである。リフラナと同期の超ベテランがメタゾールの治療院で働いているのだ。
ちなみに、リフラナは引退してママの離宮で妊娠している。
ママの治療院はメタゾールの治療院とは別枠だ。生理で悩んでいる人を毎日タダで数人しか見ていない。
メタゾール公爵領は、他の領地にスタッフを何千人も派遣しているにもかかわらず、五千人も住んでいるマンモス領なので、ママのマッサージを受けられるのは本当に症状の酷い人だけだ。
しかし、ママは水着のまま仕事に行ってしまうのだけど、ちょっと違うお店と勘違いされていないだろうか。
ちなみに五千人もの領民が住んでいるのは、整然と並ぶ十階建ての高層マンションだ。農地や魔物放牧の森が多いので、平屋にするスペースはないのだ。
魔道炉をもっと作れれば、窓のない部屋を魔道ルームにしてスペースを節約したいところだ。
だけど、魔道炉のための素材はまったく足りない。侵略した他国でも素材集めをしているが、それはその国のための魔道炉を作るので精一杯だ。
でも、影収納は短距離ワープゲートとして使っている。エレベーターの代わりに、各部屋へのワープゲートがあるので、高いフロアの部屋でも一瞬で行けるのだ。魔紋認証になっていて、エレベーター風の箱に入ると、出口が自分の部屋に繋がるようになっている。魔力消費も通るときだけなので、魔道炉の素材も節約できている。
『ねえママ、こんなの作ったんだ』
「これは!」
私、ジフロラーナが浜辺の離宮の馬車置き場に影収納の扉を開いて出したのは、ハッチバック型のラリーカー。色は青。右ハンドル車。
ボンネットにはインタークーラーの大きな穴が開いている。
魔道炉のピストンを水平に対向で二つずつ配置して、排気の風力を変換して得られた風の魔力を使って吸気側の酸素を風魔法で分離して取り込むターボのような仕組みを取り入れた、魔道ターボエンジン。
風の魔力を外部供給すれば、酸素を分離する風魔法をあらかじめ使えるで、排気がなくてもスーパーチャージャーのように動作させられるのだが、あえてやっていない。まあ、そんなにターボラグもないのだが。
燃料は火の魔石か魔道石。永久機関ではない。
最大馬力は六〇〇〇回転で三〇〇馬力くらい。最大トルクは四〇〇〇回転くらいで四〇キロくらい。六速マニュアル。フルタイム四駆。
ママは運転席ドアを開け、乗り込み、バケットシートに座った。
「ううう…、胸がつっかえる…。もうちょっとシートを前に出したいけどしかたがない…」
ママの胸は腕の八割くらいの長さがあるので、ハンドルに干渉しまくりだ。
「ハンドル握るのにも邪魔だなぁ…」
ママの胸は肩幅よりかなり大きいので、ハンドルを持つ腕に干渉しまくりだ。
ママは水着のままなので、胸がむにむに動くたびに水着がずれて脱げそうになるが、ママは車のことに興奮していて、胸がどうなろうと構わないようだ。
胸をむにむに潰しまくっているのはいいが、おなかを圧迫しないように気をつけた方がいいと思うんだけど、ママは今さら普通の子を身ごもるのにつわりとか体調不良に襲われたりしないので、忘れていやしないだろうか。
ちなみに、私、ジフロラーナも水着だが、五歳なのでまだそんなに、いや、谷間ができるほどには胸が育っている。精霊による身体強化で、かなり早熟だ。チート精霊を付けた胎児の魂百まで計画の者はみんな四歳頃から胸が生えてくるようで、外見的にも二倍ほど早熟である。
「こんな靴でクラッチを踏めるかぁ!」
ママは自立しない十五センチのハイヒールを脱いで、後部座席にぽいっと投げ捨てた。
ママはクラッチを左足で踏んで、ハンドルの右側にあるイグニッションボタンを右手で押した。
慣れた手つきだ。見込みどおり。
「おおお!」
私も助手席に乗り込む。
『浜辺で走り込みしよう』
「うん」
ママはクラッチを踏み、シフトレバーを一速に入れ、アクセルを踏みクラッチを戻しながら、サイドブレーキを降ろした。青のラリーカーは加速度が二回微分可能なほどなめらかに進み出し、離宮の馬車置き場を出発した。
クラッチはけっこう堅くしてあるので、普通の人間なら裸足で踏んだら痛いと思う。だけど、ママは普通の人間を逸脱した生き物なので、問題ないようだ。
「おおー!」
ママは二速に入れた。シフトタイミングもバッチリ。シフトショックはゼロ。いくらシフトショックがなくても、砂浜はボコボコなので、ママの胸はバばいんばいん上下している。
ママは時速八十キロで、浜辺でハンドルをぐいぐい回し蛇行を繰り返している。胸が慣性力を受けて右往左往してもお構いなしだ。
「おお…滑らない…。これ、ちょっと違う…。もう一つのヤツみたい…」
『これは、ライバル社のほうに入っていた仕組みで、デフで内輪を減速させることで戦車のキャタピラのように曲がるようになっている』
「やっぱりそれかー!」
ママはとても楽しそうだ。
「あ、そういえば私、地下バス乗ったことないんだけど、電気自動車じゃないの?なんでクラッチがあるの?」
『クラッチ、好きだと思ったから』
「たしかにクラッチのない車なんて乗りたくないけど…。って私クラッチ好きだったなぁ…。今思い出したよ…。あれ…。なんで私がクラッチ好きだって知っているの?私でも忘れていたのに…。そもそも、車が好きだってことさえ忘れていたよ…」
『私、親の整備工場で、クラッチの好きな友達の車のクラッチを交換していた記憶があるんだ…』
「そういえば、親が整備工場を持っている友達によく改造してもらっていた気がする…」
『そのクラッチ好きの友達は、よくそのまま私のうちに泊まっていった気がするんだよね…』
「あらかじめ改造が長引くから泊まっていけって言う……ちゃん…」
『そう…。……ちゃん…』
転生者は固有名詞を思い出せない。なんとかちゃんと呼び合っていた記憶があるだけだ。
車の形状も、固有のデザインみたいなものも思い出せないから、なんとなくこんなだったかなぁという感じだ。
馬力やトルクの曲線も具体的な値を思い出せなくて、なんとなくそれっぽい数値を再現した。
でも、ママもなんとなくで馴染んでくれたようだ。クラッチの堅さにも違和感がなさそうだし、シフトアップするタイミングも意図通りだし。
なんとかちゃんはクラッチをこよなく愛し、三〇〇馬力のラリーカーに乗っておきながら、CVTよりもなめらかなシフトチェンジにこだわる変態だったのだ。
ママの目に涙が浮かんだ。
私の目から涙がこぼれた。
「名前…わかんない…」
『ママ…』
「私、あなたのママじゃなかったよ…。友達だったよ…」
『いつも一緒に寝てエッチしていた…』
「いやいや待って。エッチしてないってば。やっぱり別人じゃない?」
『ごめん、この世界の記憶が混ざった』
「いつから気が付いていたの?」
『電気自動車のバスを作っていたのになぜかクラッチペダルを取り付けてしまったとき。クラッチの堅さを調整する行程がなぜかスケジュールに入っていた』
「私、クラッチにうるさかったから…」
『いつもクラッチの堅さを調整をさせられていたと思う』
「じゃあやっぱりあなたなんだね…」
『たぶん…』
「私ね、九歳の時に一度思い出したことがあるんだ。前世で一緒に寝ていた……ちゃん。私の娘として……ちゃんをよこすなんて、神様も粋なことしやがる」
『そうだね、謀ったとしか思えないね』
「このままどっかに出かけて、車中泊しようか」
『私…、この身体じゃエッチできない…』
「だから、前世では女の子どうしでそういうことしても、感じたりしなかったでしょ。それに私今妊娠中なんだから、無理矢理排卵させる魔法とか使わないでね?」
『じゃあいっか。ママのおっぱいに包まれて眠ることにする』
「そんなこと…あったかもしれない…」
こんなに胸の大きな人間はファンタジー世界にしかいないけど、ママは前世でも結構大きかったと思うのだ。喪女の私が惚れてしまうような可愛い人だったような気がする。
私たちはそのまま、メタゾールの海岸を東に進み、魔道ルームで食事やお風呂を済ませて、魔道ルームで寝ないで、青いハッチバックのラリーカーのバケットシートを倒して車中泊した。
翌日、マイア姫に怒られたのは言うまでもない。
■カルボシスティナ・ロイドステラ王妃(十一歳)
■フラベーナ・ロイドステラ王(九歳)
■デルスピーナ・メタゾール公爵(十歳)
アンネリーゼから公爵位を受け継いだ。
■ジフローラ・メタゾール公爵(六歳)
ダイアナから公爵位を受け継いだ。戸籍改ざんして、ダイアナの娘ということになっている。
■フェニラ・ヒストリア王(九歳)
王位を継いだ。
■浜辺の離宮の女神たち
・アンネリーゼ、ヒルダ、シンクレア、ロザリー、セレスタミナ、カローナ(二十八歳)
・クローナ、メレーナ、ソラーナ、エリス(二十八歳)
・マイア、アレスタ、グリメサ、タルメア、ロコイア(二十六歳)
・レグラ(三十二歳)、ダイアナ(十八歳)
・イミグラ(三十四歳)、ゾーミア(三十三歳)、レルーパ(三十四歳)、マクサ(三十二歳)、アマージ(三十三歳)
・リンダ(三十八歳)、シルバー(二十八歳)、アリシア(十七歳)、ドリー、メテーナ
・ベニシア(九歳)、シンシア(九歳)
娘に王位や爵位を継いだり、仕事を辞めたりして隠居して、メタゾールの浜辺でキャッキャうふふして暮らしている。
・ジフロラーナα・β・γ・δ(五歳)
ダイアナがアンネリーゼと暮らすために派遣した。
■王城のダイアナの離宮の住人
・ダイアナ、ミスリー(十八歳)
・アンビエーナ(六歳)
・ルネスタ(二十歳)
・ジフラーナ(七歳)
・エスピクローナ(六歳)
・ワイヤ(十七歳)
・ダイアナの三十人の嫁(十八歳)
・二十八人の銀髪娘(八歳)、フラーラ、ティノイカ、プロセーラを除く




