52 駆け落ち
アンネリーゼがヒストリアに出張している間、ダイアナは国内開発を進めていた。
開拓の時にゲットしたパープルドラゴンがそろそろ孵るころだ。風属性のドラゴンなので、ティノイカに風の魔力を与えさせていた。ついでに、光の魔力で卵の殻越しに、カイロプラクティックの魔法をかけさせていた。
バリっ、バリバリっ!顔を出した!
「がおー」
『その子、ティノイカのペットにする?』
「んー、いらない。私のペットはシスティナだけ」
『でも魔力をあげていたから、めっちゃなついているよ』
「うーん…」
『ちょっと、この子をマッサージしてでろんでろんにしてみて』
「うん」
「くぉーん…」
パープルドラゴンの子供はティノイカにすり寄ってきた。まるで猫のようだ。いや、背中をなでてというのは犬か?
大きさは五十センチだ。
『うろこを剥いでみて』
「こうかな?おお、はげたわ。何これ、めっちゃ軽い」
『服の素材にどうかな』
「伸ばせば柔らかくなる。軽いのにかなり丈夫ね」
『じゃあ、この子のこと、よろしく』
「えー…」
『名前付けてあげて』
「じゃあレティシア」
アリシアのうろこほどじゃないけど堅い。でもアリシアのより軽い。
こうして、新たな素材ペットが生まれたのであった。
この子もそのうち進化の泉に連れていこう。
それで思い出したのだけど、ヒルダのペット、ブルードラゴンのシンシアと、クレアのペット、レッドドラゴンのベニシアで、ずっと気になっていたんだ。ヒルダとクレアはママと出張しているので、今がチャンス!
『ティノイカ、よろしく』
「はいはい」
「「くぉーん…」」
ドラゴンに気持ちよくなってもらいつつ、皮膚の痛みを麻痺させる。そして、ティノイカにうろこを剥いでもらう。メシを食わせて、治療魔法をかけて、気持ち良くさせて、さらに剥ぐ。
よし!ブルードラゴンのうろことレッドドラゴンのうろこを大量ゲット!
こっちはいつもらえるか分からないから、今のうちに確保しておかないと。
ちなみに、まだちゃんと変身できないらしい。私にとってはどうでもいいけど。
さらに、ワイヤに妊ませた、ジフラーナAの子二人と、フラーラの子二人と、ティノイカの子二人と、プロセーラの子二人をそろそろ産んでもいいころなのだ。魔道腹巻きをしていると、圧迫がないので陣痛が起きないのだ。
中の胎児はダイアナ本体とすでに何度も記憶を同期している。私には何度も何度も胎児プレーの経験があるのだ。
さらにさらに、ワイヤには体外受精してから着床させた、受精四ヶ月の胎児八人が腹の中にいる。フラベーナとジフラーナAの子四人と、デルスピーナとジフラーナAの子四人と、グリシーラとジフラーナAの子四人だ。
間違って取り出さないようにしなければならないのと、羊水を抜かないようにしなければならない。また菌が入らないように、細心の注意を払わなければならない。
というわけで、魔道便器…ではなくて魔道お産器を使って、ワイヤの胎盤へのゲートを開く。
魔道お産器は和式便器のような形をしている。片側に屋根が付いていて、その影に影収納の扉を開ける。
前回は魔道お産器の屋根の付いた奥の側面にゲートを開いたのだけど、それだと破水してしまうので、今回はお産器の屋根の付いた部分の下側にゲートを開く。今度こそ和式便器の排水口のようだ。排水口に赤ん坊がつまっている。
前回はママにやってもらった。自分で自分の腹をほじくり返すには勇気が足りなかったので。
だけど、今回はワイヤの腹なので自分でやってみることにした。しかし、便器の排水口に手を突っ込むのにも勇気がいる。誰だこんな形にしたやつは。
記憶をリアルタイム同期中だ。生まれるのは自分なのだ。自分で自分を取り上げるって胸熱。
と思ったけど、これらの子はワイヤの血を引いているので、頑丈で力も強い。自分で這い出ることができた…。便器から出てくるヌメヌメした赤ん坊。キモー。
ダイアナは視界を提供しただけだった。他人の視点で自分の身体を動かすのはゲームのような感覚だった。見ている方向と動く方向が一致していなくて混乱した。
出てきた子で意外だったのが…、ジフラーナの子の二人は銀髪だけど、他の六人は薄い金髪だ…。あれ…。
そうだ…。フラーラとティノイカとプロセーラは、ジフラーナとは別に進化の泉に行ったんだ。私とジフラーナ以外は、銀髪が必ず継承されるとは望まなかったということだ…。
うーん…。まいっか…。
名前は、ジフラーナAの子がジフローラA・Bで、フラーラの子がフルプレーナA・Bで、ティノイカの子がティノーラA・Bで、プロセーラの子がリグローラA・B。メテーナの子の白の精霊を付けたのがAで、ドリーの子の薄緑の精霊を付けたのがB。
それぞれの子は、親の得意な魔力を伸ばしている。ジフローラは光、フルプレーナは火、ティノーラは風、リグローラは闇。ダイアナとワイヤの血を引いているので電気はみんな得意。電気が得意なのはゴールドドラゴンハーフだからか。ジフローラ以外も光はけっこう得意。それ以外も成長すれば、ダイアナより使えるようになる予定。
本人の魔力とは別に、Aには白の精霊を付けたので光魔法が得意だし、Bには薄緑の精霊を付けたので土魔法が得意。
あれ、水だけ誰も得意じゃないな。まあいっか。
翼も尻尾も出せる。そして、五十センチのドラゴンにも変身できる。電気属性のドラゴンなのに、なぜか人間型の髪の毛の色が反映される。つまり、ジフローラだけがシルバードラゴンで、他はライトゴールドドラゴンだ。
銀のドラゴンはちょっとメカっぽくて良い。まだ変身できないエウレカも同じなのだろう。
よーし、最強生物八匹が生まれたぞ!まだ焦点がはっきりしないけど、足腰はしっかりしている。さすがドラゴンハーフ。これはジフラーナよりも頑丈だな。ドラゴンの血は半分だけど、性質は一〇〇パーセント引き継いでいる感じだ。
こうして読心装置四体と、魔力半導体露光装置四体が手に入った。
ドリーに頼まなくてもトンネル工事ができるし、力仕事も楽々だ。自分のうろこを剥いで導線も作れる。
ちなみに、お披露目するか迷っている。とりあえず私の胸の谷間とスカートに魔道ルームの扉を設置して、魔道ルームに住んでいてもらう。
私は元来引きこもりなので、部屋でずっと過ごすのは苦でない。どうせならどんくさいダイアナを引きこもりにして、頑丈なジフローラAを表に出しておきたいくらいだ。
この子らはときどき、ダイアナのブラのカップの内側に影収納の扉を開いて、母乳をいただく。
本体からエネルギー供給されるので、中の部屋には食料を置いていない。
とりあえず腕試しに、妊娠中のミスリーの身体の調子を整えてあげよう。
「ダイアナ様、いらしてくださったのね」
『はい。今日は私がミスリーの身体を看ますね』
「ダイアナ様が看てくださるなんて素敵…」
ダイアナでは威力が足りなかったので、フラベーナやデルスピーナにやらせていたのだ。だけど一人にやらせると、一人になついてしまいそうなので、交代でやらせていた。
もちろんダイアナもミスリーを奪われないように必死になって毎日やっていた。
『ではうつ伏せになってください』
「はい…。あああああああああああああああああん…。すごいわぁ…!」
私の袖口の影から伸びる八つの新生児の手。
それぞれの威力を強くしすぎると、ダイアナのことを忘れられてしまいそうなので、全力ではやっていない。
とはいえ、今のところダイアナにやってもらっているとミスリーは思っているようなので、見知らぬジフローラたちにはそれほどなびいていないように見える。
夜はこうやってミスリーとすごす。一方で、夕方は大部屋で三十人の嫁と二十八人の娘とワイヤとすごす。
フラーラとティノイカとプロセーラとエウレカは離宮を作って親離れしてしまったけど、大部屋には薄緑の精霊を付けた二十八人の銀髪娘がいるのだ。二十八人の銀髪娘によってたかって気持ち良くしてもらうのはなかなか素晴らしい。
もちろん、嫁に見捨てられないようにダイアナ本体で嫁を愛でるのも忘れない。エッテンザムの魅了魔法でも頑張っている。
銀髪娘は学校に通うことになったので、真っ昼間からやるわけにはいかなくなってしまった。だから夕方に時間を移した。
もう、仕事はジフローラたちに全部任せて、ダイアナは一日中気持ち良くしてもらいたいなぁ。
そうだ!背中の服の内側に影収納の扉を開いて、ジフローラたちに背中を押してもらおう!ブラのカップに扉を開いているのと同じだ。
と、廊下で思いついたけど、こんなところであられもない声を上げるわけにはいかないので、ちょっと個室へ…。
「あああん…」
完全に自慰行為だ。
ジフローラたちはまだそこまで気持ちよさを感じないけど、ダイアナの感覚をリアルタイムで同期しているから、本人たちも気持ちいい。影収納の中で新生児のかん高い声が鳴り響いている。
本来なら自分で自分をマッサージしてもそれほど気持ち良くはなれないのだ。でも、これは自分をマッサージしているわけではないので、他人にやってもらったのと同じ気持ち良さがある。
ああ、誰にも気がつかれずに気持ち良くなれると思ったら、止まらなくなってしまった。声を上げない程度に、ジフローラたちに常に背中を触っていてもらおう…。
ああ…、血行が良くなって、顔が火照って…。声を上げないように若干ぷるぷるしてしまうけど…。気持ち良くて考えられなくならない程度に…。ああ、酒を飲んだ感覚に似ているかも…。
私は部屋を出た。すると、私を探していたメイドのオイラナと出会った。東方開拓で優秀だったヒーラーガールをメイドとして召し上げたうちの一人だ。
「ダイアナ様、顔色がすぐれないようですが…。いえ、すぐれすぎているような…」
『気にしないでいいよ』
「はい。なんか背中がもぞもぞしていますけど…」
『それも気にしないで』
元ヒーラーガールのオイラナには、私に顔がなぜ火照っているか分かってしまうようだ。
ずっと顔を火照らせていたらおかしいだろうか…。もうちょっと威力を弱めに…。いや、弱めたくないな…。
電気魔法で表情だけでもキリッとしておこう。AIの合成音声だって乱れたりはしない。
あと、背中を押したときにドレスが一緒にへこまないように、少し背中の生地を厚くしよう。
いやいや、こんなことのためにジフローラたちを作ったんじゃない。開発を進めねば。トンネルに線路を敷いたりサービスエリアを設置しなければ。
でも一人くらいは癒しに使ってもいい。そうしよう…。むふふ…。
転性者システィナは女神の娘たちとの甘っ辛い日々を送っていた。
カリキュラムに新しい科目が加わった。美術だ。
学校に来てやることといえばこういう実技だけなので、とりあえずフラベーナちゃんと一緒に受けてみることにした。他の子も付いてきたけど…。
とはいえ、名前を覚えていない大量の銀髪娘や八人のお嬢様は来ていなかった。その代わり、他の授業でたまに見かける王都民の学生がちらほら見られる。
「美術ってなんだろうね!」
「たぶん絵を描いたり、像を造ったりするんだよ」
「面白そう!」
フラベーナちゃんは年相応に無邪気にはしゃいでいて可愛い。
そして、教室に入ってきた教師は……、銀髪幼女の…ティノイカ…。
「あれ、ティノイカだよね」
「どう見てもそうだね」
銀髪娘はみんな似ているけど、何年も付き合っている服装の趣味も違うから見間違えない。
「美術教師のティノイカ・メタゾールです。よろしく」
ティノイカは大人用の教壇机の上に飛び乗り、自己紹介した。
偉そうな幼女だ。なんで幼女が教師…。
「美術とは美しいものを描いたり、形作ったり、または鑑賞したりする学問です。今日は身近にある美しいものを絵に描いてみましょう。今ここにあるものでも構いませんし、思い出して描いても構いません。
絵の具、クレヨン、色鉛筆、何を使ってもかまいません。絵の具を水魔法で操ったり、色鉛筆を土魔法で砕いて紙に塗ってもかまいません」
なるほど。ファンタジー世界のお絵かきは、魔法でやるのか。鉛筆とか棒状になっているけど、持って使うわけじゃないんだな。
「面白そう!いこっ、システィナ」
「あわわ…」
フラベーナちゃんに手を引かれると、いつもオレの胸が飛び出てしまいそうになる。そのあとオレが手で胸を押さえて、顔を赤くする。それを見てフラベーナちゃんが喜ぶ。
一緒に住むようになってから、もう何ヶ月もこのパターンだ。
それはまあ置いておいて、フラベーナちゃんは土魔法が得意なので、クレヨンや色鉛筆を持ってきた。オレはどうやっても土魔法ではフラベーナちゃんにかなわないので、水魔法で絵の具を塗ろう。
オレは何を描こうか考えながら、画材を手に取った。
キャンバスやスケッチブックも用意してある。オレは前世でキャンバスに絵を描いたことなんてないから、キャンバスに初挑戦してみようかな。
美しいもの…。美しいものといったら、断然アンネリーゼだ。でもアンネリーゼはここにはいないし、そんなにまじまじと見たことがあるわけでもないので、思い出して描くこともできない。
そうなると、美しいものはもうフラベーナちゃんしかない。まあ、フラベーナちゃんはどちらかというと可愛い部類に入るけど、将来美人になるのは間違いないし、それにまだ三歳だっていうのにすでに美しさの片鱗が見られる。うん。題材はフラベーナちゃんに決まりだ。
なんて考えながら、画材を持って席に戻ろうと歩いていたら…。
「あれ…、みんなどうしたの…」
みんながオレを囲んでいる。すでになんか描き始めている子もいる。その視線の先には…オレ?
「ちょっとシスティナ、そろそろポーズ決めて」
「えっ、はい」
フラベーナちゃんに怒られた。フラベーナちゃんに反対することはあまりないので、とっさに同意してしまったんだけど、ポーズ決めてってどういうこと?
「もう、早くしなさいよ」
「ひゃぅ…」
後ろから胸をわしづかみにされた。このわしづかみ方はデルスピーナちゃんだ。後ろから胸をわしづかみにする子は何人かいるけど、誰がわしづかみしたのか分かるようになってきた。少しずつわしづかみ方が違うんだ。デルスピーナちゃんはガバッといくタイプ。アルゾナはむにゅっといくタイプ。
ドレスには少し固めのカップが入っているけど、そんなのはこのお姫様たちにはお構いなしだ。カップが狭くなって、オレのプリンが押し出されそうになった。オレはそれを両手で押さえた。
「良いですね!」
「それで固定ね!」
「いいよいいよ~」
「良いですわ!」
グリシーラちゃん、パリナ、プレナ、ペルセラが、土魔法で様々な色のクレヨンや色鉛筆を分解し、それをキャンバスに貼り付けていく。
他の子もみんな同じようにしてキャンバスやスケッチブックに描いているようだ…。
「「「「「できた(よ、わ、ぜ)!」」」」」
はやっ…。みんなイメージどおりのドレスを一瞬で作っちゃうくらいだから、クレヨンとかを紙に貼り付けるなんてお手の物か…。もう絵を描くとかじゃなくて、念写みたいだな…。
どんな絵を描かれたのか、あまり気にならない。なぜなら、オレがはずかしめを受けている写真なんて、エージェント・アンネリーゼに何度も見せられているからだ。
「終わったならいいかな…」
「すみません、まだキープお願いします」
「私もまだです」
「えっ…」
王都民の学生の女の子AとBもオレを描くの?王都民の学生の子は縫製の授業で何度も見かけたことあるけど、一つのドレスを何日もかかって仕上げる子だよね。お絵かきだって授業中に終わらないよね。
フラベーナちゃんたちだから、写真を撮る速さで仕上がったのであって、オレだって何十分もかかりそうだ。
っていうか、オレがはずかしめを受けている絵を、あまり面識のない子に描かれるのはいやなんだけど…。
っていうか、オレってこれでも男爵なんだけど、キミら不敬だよね?そんなこと言う気はないけどさ。
「ダメですよ、システィナは私のものですので」
フラベーナちゃんが王族モードで王都民の学生AとBを叱咤した。なんだかフラベーナちゃんはすごい威圧を放っている…。
「も、申し訳ございませんでした」
「申し訳ございません…」
学生AとBは王女に叱られて萎縮してしまった。
だけど助かった…。もうすでに、オレはフラベーナちゃんに娶ってもらう以外、お嫁に行けないことばかりされてしまっている。それはフラベーナちゃんだから許しているのだ。不特定多数にそういうことをされるのは、さすがに勘弁だ…。
というわけで、オレはいきなりモデルにされてしまったワケだけど、みんな写真を撮る勢いで描き終えたので、オレはフリーだ。
オレのモデルはもちろん、
「今度はフラベーナちゃんをオレが描きたいんだけど…」
「えっ、それって…」
この場でいちばん美しいものはフラベーナちゃんだ。なんて、キザなセリフは吐けない。でも、フラベーナちゃんは察してくれたようで、顔を赤らめてもじもじしている。
「そのポーズ、いただき!」
「うん、できた?」
「あ、オレの魔力では描くのにたぶん三十分くらいかかるんだけど、いいかな…」
「いいよ」
写真を撮るんじゃないんだってば。薄緑のチート精霊持ちには、絵を描くっていうのがどういうことか、これじゃ分からないんじゃないかな。
オレはフラベーナちゃんが顔を赤らめてもじもじしている姿をまじまじと見ながら、水魔法で絵の具をキャンバスに移動させていく。時間さえかければ筆で描くよりも正確に表現できそうだ。
「そんなに見つめられると…」
「ごめん、でももっと見せて」
「うん…」
可愛い…。フラベーナちゃんマジ天使。
あ、でも今日は美しいものを描かなきゃいけないんだっけ。こうやってもじもじしているフラベーナちゃんは心が美しいからいいよね。
あれ…、でもみんなオレを描いたってことは、オレのことを美しいと思っているのか?いやいやいや、なんでオレなんだ…。オレが美しいわけ…。そういえば、オレはフラベーナちゃんよりも可愛いんだった…。だから可愛いのは美しいのとは違うだろうに。
みんなと一緒に住み始める前にエージェント・アンネリーゼに教えられた可愛さは二二〇〇だった。そのときすでにフラベーナちゃんより可愛いとのことだった。というか、オレより可愛い子はいないとのことだった。
でも可愛いと美しいとは違うと思うんだけど…。
最近、エージェント・アンネリーゼと話す機会はなくなってしまった。なぜなら、オレにプライベートな部屋はないからだ。女の子初心者のオレはまだまだエージェントに女の子のことを教えてもらわなければならないのに、あんまり変なことを聞いていると、フラベーナちゃんにオレの中身が女ではないとばれてしまいそうなので、聞くに聞けないのだ。
フラベーナちゃんはトイレにこもっていても鍵をぶち破って押しかけてくるし、さすがにプライベートな時間は欲しいなぁ…。
「できた…」
「見せて見せて!」
オレは三十分かけてフラベーナちゃんを描き上げた。かなり良いできばえだ。水魔法を使えば、絵の具は思い通りにキャンバスに乗るし、ちょっと間違えても絵の具を吸いとることもできる。
「システィナ…、私ってこんなに綺麗かな…。これ、もらっていいかな」
「あ、うん。フラベーナちゃんはとても綺麗だよ」
「ありがと…。じゃあ、こっちをあげるね」
「ありがと…」
胸が飛び出しそうになって慌てているオレの絵なんてもらっても…。いや…、客観的に見るとこれは良い。かなり良い。
っていうか誰だこれ。フラベーナちゃんたちと一緒に住み始めてから、着替えは全部フラベーナちゃんにお任せだったので、鏡を見ることがなかった。一人ファッションショーもできないし。
だから、オレは自分の姿を見たのは久しぶりなんだ。いや、まあこれは絵だし、本物のオレじゃないよな。フラベーナちゃんにはオレがこんなに可愛く見えるのだろうか。きっとかなり誇張したんだろう…。
正確な写真ではなくて念写みたいなものだから、術者のイメージが強く出てしまうってことかな…。そういうことにしておこう…。
他の子もオレを描いたようだけど、そんなのは見たくもない。
翌日、また新しい授業がカリキュラムに入った。調理実習だ。
「調理実習を教えるフラーラ・メタゾールだよ。よろしくね。わたしゃ言葉遣いとか気にしないから、気軽に話しておくれ」
また銀髪幼女教師来た…。相変わらず、幼女の癖して口調がおばさん臭い…。
「フラーラの料理ってどんなだろね!」
「楽しみだね」
フラベーナちゃんはほんとうにわくわくしている。年相応にはしゃぐフラベーナちゃんはとても可愛い。
「今日は肉じゃがだよ。女の子のハートを掴むには、こういう家庭料理が良いんだ」
やっぱりこの子たちは男の存在を知らないんじゃないかな。そこは男のハートだろうと思うのだけど。
調理法はとことん魔法を駆使したものだった。
昆布から出汁を抽出するのに、煮込むのではなく水魔法で分離するのだ。
このとき水の精霊が育っていない者は「出汁」と適当にイメージするとうまくいかない。そのため、出汁とはなんなのか、成分を表示された…。グルタミン酸ナトリウムとか…。化学実験チック…。
さらに、だし汁を実際に味わってみて体感する。
このように、出汁がどのようなものなのか知識を付けて体感することによって、水の精霊が育っていない者でも、昆布から出汁を抽出できるようになるのだ。
それから、醤油も大豆を魔法で発酵させて作るんだって…。酵母がどうのこうのとか化学的に説明された…。
この授業、アイドル養成科に入れるような、高校化学を終わらせたレベルじゃなきゃわかんないだろう…。
その後も、肉やジャガイモを入れて煮込むと見せかけて、加熱魔法で電子レンジ風に加熱。香り成分を逃がさないように風魔法で閉じ込めたりして、とことん魔法を駆使した調理法だった。
「ねえシスティナ。システィナはその二本の棒の使い方上手だね!」
「えっ」
オレ菜箸を使って混ぜている。
よく考えたら、この世界に来て初めて箸を触った。今さらこの世界に箸があったのだと知った。
フラーラも普通に使っているし…。二歳の子は普通、箸をうまく使えないと思うけど、オレの周りの子、とくに銀髪幼女はチーターだし…。
「これは、中指をここに入れてね……」
「ふむふむ」
フラベーナちゃんに箸の使い方を教えた。フラベーナちゃんは器用で、箸の使い方がすぐにさまになった。
「じょうずじょうず」
「えへへっ」
照れているフラベーナちゃん、可愛い。
「あんたらはもうそろそろ食べられるよ」
フラーラが見回りに来て、出来具合から食べられると言った。
「いっただっきまーす」
「いただきます」
「何これ、すごく味わい深い!」
「本当だね。出汁や素材の味が完全に閉じ込められている」
フラベーナちゃんとオレはそれぞれ自分が作ったものを試食して、感動してしまった。
「システィナのもちょーだい。私のあげるから」
「うん」
「「あ、こっちのが美味しい!……あれ?ぷっ、あははははっ!」」
フラベーナちゃんと完全にシンクロした。二人で向き合って、思わず吹き出しそうになった。
「なんでかなぁ。システィナのが優しい味がする」
「オレも、なんだかフラベーナちゃんのはホッとする」
「さてあんたら、他の子と食べ比べした?じつは、魔法料理は、作り手の思いがこもる料理なんだよ。食べる人のことを思って作ると、その人にとって美味しく感じられるようになるんだ」
マジか。それってつまり…
「私はシスティナに食べてほしいと思って作ったから…」
「オレはフラベーナちゃんが美味しいって言ってくれるといいなと思って…」
「システィナ…」
「フラベーナちゃん…」
オレたちは頬を赤らめて見つめ合った。フラベーナちゃん…。好きだ…。
「なるほど、それで自分で食べても美味しくないのね」
「ということは」
「システィナ、食べてくださいまし!」
「ええっ?」
パリナとプレナとペルセラがオレに試食しろと言ってくる。
「わ、わかった…」
シャキっ…。パリナのは生だった…。
にがっ…。プレナのは真っ黒で焦げていた…。
ペルセラのは…。ジャガイモの芽が生…。食べていいのかな…。まあ死んでもなんとかしてくれるか…。それより食べないと何を言われるか分かったんもんじゃない…。
たしかに、オレを思って作ってくれたような感じはする。でも美味しくないのは調理技術や知識が伴ってないからだよな…。
「私のも食べてほしいわ」
「オレのも…」
「調査してほしい」
「ボクのもー」
「むふふ」
イスマイラとゾーラとエレナとリザベルとナーラも持ってきた…。
「いただくよ…」
イスマイラのは紫の具材なんてなかったはずなんだけど…。うええ…。
ゾーラのは甘すぎる…。
エレナのは…ぼーんっ!口に入れたら、なんか爆発した…。調理中じゃなくて食べたら爆発するなんてアリ?
リザベルのはなんか油ギトギト…。
ナーラのは…なんか気分が良くなってきた…。
「私のも食べなさい」
「私のも…」
デルスピーナちゃんのもグリシーラちゃんのも半生なのに焦げている…。
「私を食べて~」
「もがああぁ!」
アルゾナはジャガイモを手で俺の口に押し込むと見せかけて、手を俺の口に押し込んできた…。
「私のも食べてください」
「よろ」
「私のも食べてね!」
プラチナとエウレカとアリスと、
「むふっ。食べて」
「私のも…」
ティノイカに、コルトラに
「食らえ!」
プロセーラに何かを口に詰め込まれた。オレが最後に目にするのは、いつもプロセーラだ。
「システィナ、おはよう」
「おはよう、フラベーナちゃん」
今日はまさかプロセーラの授業…なんてなかった。よかった…。あれ…、昨日の記憶が…。まあいいや。
でも、なんかまた体型変わったかな…。昨日、何があったっけ…。
さて、去年オレが発布した「国民全員で可愛くなろう」法が施行されるときが来た。
成績ポイントで自分の可愛さを買うシステムだ。成績ポイントとは、今までエージェント・アンネリーゼにデレ機能を追加したり服を買ってあげたりするためのポイントだった。それを自分の可愛さを買うために使えるようになったのだ。
でも、今までにエージェント・アンネリーゼの服を買ったりしている人と貯めている人とでは可愛さに差が付いてしまう。そこで、今までの成績ポイントとは別に、新たなポイントを設けることにした。
今までのポイントはそのままエージェント・アンネリーゼのためのポイントとしておくことにした。そして、今までの成績ポイントの累積、つまりまったく使っていない状態のポイントを、新たに可愛さポイントとして使えるようにした。
去年アナウンスしてから、みんな頑張って成績を上げて成績ポイントを貯めたらしい。すでに成績向上の効果が出ているのだ。
みんな、キャラメイキングアプリで自分のなりたい姿を作っている。シミュレーションはタダだ。現在の成績ポイントで買える以上の可愛さのキャラを作ってみて、自分の目指す姿を夢見るのもいい。
そして今日は、可愛さポイントで購入できる範囲の可愛さのキャラを作っており、実際にその姿に転生できる日なのだ。
転生を司る女神は、
アンネリーゼ、
フラベーナちゃん、デルスピーナちゃん、グリシーラちゃん、
パリナ、プレナ、ペルセラ、
イスマイラ、ゾーラ、エレナ、リザベル、ナーラ、
プラチナ、アルゾナ、
フラーラ、ティノイカ、プロセーラ、
コルトラ、エウレカ、アリス、
あとは、その他の銀髪娘二十八人と、
明るい栗毛のお嬢様たち八人(クローナ、メレーナ、ソラーナ、エリス、アレスタ、グリメサ、タルメア、ロコイアの娘)、
の五十六人。
女神多すぎだろう。
ちなみに、アンネリーゼは最近見ないと思ったら、他国に出かけていたらしい。
「みなさん、今日はよろしくお願いします」
「「「「「はーい」」」」」
「くれぐれも、アプリに表示されたとおりにしてあげてくださいね」
「「「「「はーい」」」」」「ちぇー」
なんか不穏な声が聞こえた…。プロセーラだな…。
まあそういう子もいるだろうと思って、アフターサービス付きだ。アプリどおりの容姿になれなかった場合は、別の女神にやりなおしてもらえる。
それに、一年以内であればクーリングオフできる。ただし三回まで。最初に転生させてもらってから、一年以内であれば三回まで成績ポイントを払い戻して、キャラを作り直せる。
それ以降は可愛くない方向にスライダーを動かしても可愛さポイントは戻ってこない。
可愛くない方向にする子はあまりいないと思うだろう。でも、いちばん可愛い身長はどうやら一四〇センチらしくて、それ以上にすると可愛くない扱いになるのだ。誰の趣味なのやら。アンネリーゼだろう。
でも、ロリ巨乳幼女好きの変態なのかと思ったら、どうやら一四〇センチのロリ巨乳少女がいちばん好きなようなので、ほんの少しだけ安心した。
「もう!お客さん来ますよ!」
アンネリーゼがなぜか顔を赤らめて、ぷんぷんしながら扉を開けた。アンネリーゼはときどき突然怒り出すんだよな。
会場は王城のホールだ。今日は全国各地から特急やバスに乗って、一〇〇〇人の国民が集まることになっている。そう、ロイドステラ王国は、全国のバスが開通したのだ。
一〇〇〇人の中には、貴族も平民もいる。優秀で可愛くなりたければ、身分など関係ないのだ。
ちなみに北のラメルテオンから南のメタゾールまでの高速特急と、王都付近とラメルテオン付近とメタゾール付近の鈍行以外は、開発が停滞している。線路を引くのが面倒なので、しばらくバスで済ますらしい。
女神たちは一人あたり十八人捌けばよい。一人につき五分かかるらしいから全部で一時間半だ。一〇〇〇人もいるのに人海戦術すばらしい。
やってきた人がベッドに寝っ転がると、側のディスプレイにキャラメイキングアプリで作ったキャラが表示されるようになっている。女神たちはそれをスワイプして、くるくる回して容姿を確認して、その容姿どおりの姿に一年以内に変わるように施術する。
「「「「「ああああああああん…」」」」」
会場に響くあられもない声。
「「「「「×××××…」」」」」
施術のときの男の声は聞こえないようにすることが義務づけられている。学校でそう習った。風魔法で遮音する必要がある。差別ではなかろうか。
性転換する男も二割ほどいるけど、すぐに容姿が変わるわけではないから、すぐに声変わりもしない。だから声を遮断しなければならないのだ。
オレが施術されたときは幼児だったから、声を消されたりはしなかったな。なんだか成長するにつれて、声まで可愛くなっている気はするけど…。
ちなみに、男に性転換する女は一人もいない。
男と女では最初から可愛さに一〇〇の差があるので、男のほうは最初は簡単に可愛さが一〇〇貯まるようになっている。プラス一〇〇可愛い永遠の幼児または男の娘になることもできるし、一〇〇消費して女に性転換することもできる。
逆に、女から男に性転換すると、可愛さポイントが一〇〇還元されるのだけど、とにかく誰もやらない。
「みなさん、お疲れ様でした」
「ふう」
「フラベーナちゃん、お疲れ」
「この国のためだもん。頑張るよ!」
フラベーナちゃんが純粋に頑張ろうとしている姿は可愛いな。
後日、クレームのメールが多数寄せられた…。オレはアンネリーゼにアポを取って、会議室に赴いた。
「アンネリーゼ様…、ごきげんよう…」
「こきげんよう、システィナ…」
オレはぐったりとした顔でカーテシーをした。
オレがパンツを見せたというのにアンネリーゼもぐったりとしていて、ちっとも嬉しそう…な顔になった。カーテシーというのは相手を元気にする挨拶なのだな。
オレも身長がだいぶ伸びてきて、目線がアンネリーゼのスカートよりは高くなってしまったから、アンネリーゼのパンツを見るのはこうやってアンネリーゼがカーテシーをしてくれたときだけになってしまった。アンネリーゼのパンツはひもパンでもスケスケでもなくて、オレのパンツのほうがよほどエグいのだけど、オレはまだ五歳だというのにいちばんエグいヤツをはいているのではなかろうか…。
まあ、パンツのことはさておき…、
「あの…」
「ええ…、大変なことになりましたね…」
性転換を希望せずに永遠の幼児または男の娘を希望した男の大半が女に性転換してしまったのだ…。
性転換してしまった子が誰に施術されたかを調べてみた。アンネリーゼ、フラーラ、ティノイカ、プロセーラ、コルトラだけが正しく永遠の幼児または男の娘にできたようで、それ以外の五十一人の女神は、すべての男を性転換させて女の子にしてしまったらしい…。
やっぱりフラベーナちゃんたちは男というものの存在を理解していなかったんだ…。
オレの最後の砦のことをいらない部品だと言っていたプロセーラは、意外にもちゃんと永遠の幼児または男の娘を作れたようだ。
というわけで、今日は補償の日である。五〇〇人の男のうち、四〇〇人のやり直しである。
男の存在を認識していないフラベーナちゃんたちに任せることはできない。ちゃんと性別を認識できた五人の女神に来てもらった。五人で五〇〇人とか無理すぎる…。でも、不祥事を起こしたのはこっちだ。ちゃんとケアしなければ…。
「あれ?集合時間過ぎていますよね」
オレはスマホの時計を見て確認した。
「誰も来ないですね…」
アナウンス間違えたかな…。いや、メールで指示した日時は合っている。
『誰もこちらに向かっていないようです』
「えー?」
エージェント・アンネリーゼが応えた。
『男性は、最初のブースト分一〇〇と自分の成績分で永遠の幼児または男の娘を作りましたが、それとは無関係に女性に性転換してしまったようです。つまり一〇〇のボーナスが与えられたようなものです。そして、すでに女性となった自分を謳歌しているようです』
「マジで…」
オレと同じか?永遠の幼児または男の娘なんてよく分からないものになるくらいなら、いっそうのこと普通の女の子になってしまえばいいと思っていたのだろうか。
しかも、自分が望んだ姿よりも一〇〇ポイント可愛い女の娘になれたもんだから、満足してしまったのだろうか。
「結局、今日は来ないのかい。もう帰っていいかい」
フラーラは帰りたそうだ。
「ちょっ、システィナと同じ子が四〇〇人とかマジウケる!」
プロセーラはちゃんと男の娘を作れるようだけど、オレのときはみんなでよってたかって治療魔法と一緒に性転換する魔法や可愛くなる魔法をかけていただろうから、途中で面白くなって一緒に悪ふざけしていたんだろうな…。
「むふっ…。間違えて女の子にされちゃった子が四〇〇人…」
ティノイカの不敵な笑み。ティノイカもこの状況を楽しんでいるのだろうか…。
結局、今回施術を受けた男性五〇〇人のうち、四八〇人は女性に性転換してしまった。男性人口減少問題に拍車をかけてしまった…。
「永遠の幼児とか男の娘に転生させてもらったと周囲は思ってるのに、じつは本物の女の子になっていたことを隠して生活するとか、胸熱じゃない?周りは男だと思っているから、男湯に入らなきゃいけなくて、でも本当は女だから、それをバレないように隠して生きるって、チョー盛り上がるんだけど!!!いやー、みんな良い仕事したね!
あ、でも、結局みんな女になったことを喜んでるのか?隠す気もないってか!みんなハッピーだね!あははははっ」
プロセーラ…。ほんとうにたち悪いな…。でも今回はプロセーラは悪いことしてないんだよな…。
あーあ…。失敗だ。オレの責任だ。責任者はオレなのだから。
数日後、オレはマイア王から呼び出しを受け、謁見の間に赴いた。
クビだ。それか降格、降爵かな…。それか物理的に首が飛ぶんだ…。
「面を上げなさい」
王座に座っているマイア王の前に跪いていたオレは恐る恐る顔を上げた。
マイア王は笑みを浮かべていた。なんだろう…、何を考えているのか分からない…。
隣の席にはアンネリーゼとフラベーナちゃんだ。二人ともいつもより豪華なドレスを着ている。もちろん、スカートは股下ゼロセンチだ。
「カルボシスティナ・ムコサール男爵よ」
ああ、もう終わりだ。
「あなたはわが国の教育制度を改革し、国力を向上させることを加速させました。よって、あなたを陞爵させ、子爵とします」
ほら爵位が…何だって?
「あなたのおかげで、かゎ…優秀な者がどんどん増えていきます」
えっと、お得意の可愛いイコール優秀ですか。
「今回もたくさん優秀な者が増えましたね」
えっと、オレはフラベーナちゃんたちを使って予定よりも一〇〇ポイント可愛い女の娘を四〇〇人作ってしまったけど、それのことを言っているのかな。優秀イコール可愛いだからそういうことだよね。
「だから、あなたには褒美を与えたいと思います。希望はありますか?」
おとがめナシどころかご褒美?
アンネリーゼもフラベーナちゃんも、ニコニコしてオレのほうを見ている。
オレは失敗してしまったと思ったのだけど、やっぱり男性人口減少なんてむしろ推奨しているんじゃなかろうか。
男性はマイノリティになってしまうのだろうか。そうだ。オレはマイノリティを差別することなく、平等に教育と雇用の機会を与える教育大臣。男性はもちろん、弱者に手を伸ばすんだ。
「それなら、私に第二メタゾール領の統治を任せていただけないでしょうか」
「なるほど。あそこは今、代官が管理しています。王族の経営練習用地として考えていたのですが、あなたに託すのもいいでしょう。
それでは、今回の褒美として第二メタゾール領をムコサール子爵領としてあなたに与えますので、第二メタゾール領、改め、ムコサール子爵領をフラベーナとともに繁栄させなさい」
「はい!」
うん?フラベーナちゃんがなんだって?
「私の作った第二メタゾールは、あなたとフラベーナとともにどのように変わっていくのでしょうね」
アンネリーゼは、オレとフラベーナちゃんで第二メタゾールを変えていくと言った?
「ともに頑張りましょう!システィナ!」
えっ、フラベーナちゃんがともに?オレと?
フラベーナちゃんは王女モードだけど、表情は柔らかい。オレと一緒に第二メタゾール領を統治していくのか?
「ともに」ってどういうこと…。
謁見終了後、スマホに通知が来た。『カルボシスティナ・ムコサール男爵が陞爵し、カルボシスティナ・ムコサール子爵となりました』と『第二メタゾール領は、本日よりムコサール子爵領となります。当主はカルボシスティナ・ムコサール子爵です』の二件。どちらもオレの可愛い顔写真付き…。
以前は通信の開通していない領地の領主へは、こういうのは紙の手紙で知らされていたらしい。国民全員にスマホが渡された今では、こういうことは全部通知で来るんだな。
ちなみに、陞爵は貴族にしか知らされない。領地の名前は国民全員に知らされる。
それにしても、こういう大事なことをSNSみたいな気軽さで通知されてもなぁ。ちゃんと国民全員の「いいね」が付くんだろうか。
そんなことを考えながら、王城の廊下を歩いていると…、
「さっ、ムコサール子爵領にいこっ」
「えっと…」
フラベーナちゃんが走って追いついてきた。
「いこっ」とはこれいかに…。オレはマイア王とアンネリーゼとフラベーナちゃんの言った「ともに」の解釈を考えていた。
まず、オレはムコサール子爵領の統治は、離宮にテレワーク用の執務室を借りて統治しようと考えていた。
だから、今フラベーナちゃんと一緒に住んでいる部屋を出るつもりはない。余計な子がいっぱいいるし、怖い子もいるけど…。
そういうやり方をしている人は、アンネリーゼの嫁にはいっぱいいるらしい。ダイアナもメタゾール領にはあまり帰らないで、王都で仕事をしているらしいし。今や領地経営はテレワークの次代なのだ。
フラベーナちゃんと「ともに」領地を統治するのなら、フラベーナちゃんとたまに領地に出かけて、魔法で土木工事してもらったりできるだろう。
だけど、オレはムコサール子爵領の屋敷をもらえるのだ。屋敷で寝泊まりすることもできる。使用人を雇わなきゃならないし、就任式もした方がいいだろうか。
でもムコサール子爵領の屋敷に住むことになったら、フラベーナちゃんと一緒に寝られないじゃないか。ここで「ともに」の解釈を考えてみると、ムコサール子爵領の屋敷に…フラベーナちゃんと…二人っきりで……。
いやぁ、そんな夢のようなことがあるわけないよな。きっと、余計な「ともに」がいっぱい付いてくるんだ。おまけの子とか怖い子も一緒に…。
「ねえシスティナ、馬車は?」
「えっ」
これは馬車で一緒にムコサール子爵領に行ってくれるパターンか?そうなると、どうせおまけの子がいっぱい……、見当たらないな…。
「何探しているの?」
「辺りを警戒しているんだ」
ぬか喜びするくらいなら、今すぐ現実に戻された方がマシだ。どうせプロセーラが突然現れて、何もかも台無しにしてくれるんだ。
オレは必死で辺りを見回している。
「ねー、いこーよ」
「分かった!」
よし!付いてきている子はいない!
馬車を手配すると、足が付きそうだ。
オレは胸の谷間の影収納からスマホを出して時刻を確認した。よし!
「えっ?」
オレはフラベーナちゃんの手を掴んで、走って王城の敷地の門をくぐった。入退場はスマホや認証システムで管理されている。オレたちが出ていっちゃダメなら、すぐに止められるはずだ。でも、止められないってことは公認ってことだ。
オレはいつもフラベーナちゃんに手を引かれてついて行ってばかりだ。でも今日はオレがフラベーナちゃんの手を引いて連れていくんだ。フラベーナちゃんの力があれば振りほどくのも簡単だろう。でも、振りほどかないでいてくれるってことは、受け入れてくれているってことだ。
いつもオレはフラベーナちゃんに手を引かれるとき、ブラとドレスのカップから胸が飛び出してしまいそうになるけど、オレのペースでフラベーナちゃんの手を引く分には、オレの胸が飛び出したりはしない。
「どこいくの?」
「こっち」
オレは地下鉄のエレベーターに乗った。地下鉄っていうか、高速バスが開通したので、地下バスに乗ってムコサール子爵領に行くんだ。
地下鉄は一日二本しか出ていなかったけど、バスは四本出ているから少し使いやすくなった。そして、今ならギリギリ今日の夕方の最終バスに間に合う!
「わー、何ここー。私、王城の敷地と学校しか行き来したことないから、こんなところ初めてだよ」
「そっか、そうだよね」
王女様は地下鉄なんて乗らないどころか、王城の敷地と学校しか行き来しないんだな。
あ、だから開拓でお出かけしたのはほんとうに楽しかったんだな。
ほんとうに連れ出してよかったのかな…。マイア王もアンネリーゼも「ともに」ってどういうつもりで言ったんだろう…。フラベーナちゃんは「ともに」にどういう意味を込めたんだろう…。
監視カメラとかに追跡されているだろうけど、まるで駆け落ち…。
エレベーターを降りて、路線バス乗り場に到着。バス到着まで十分ある。
客が十人待っている。第二メタゾールに用のある人はあまりいないから、他の領地で降りるんだろうな。
客以外に、コンテナが二つと、無人のフォークリフトが待機している。客の何人かは商人で、コンテナの持ち主だろう。今はこうやって行商するんだな。でも、領地に到着したら、このコンテナが積まれるのはトラックじゃなくて馬車なんだよな。文明レベルがちぐはぐでウケる。
「なにあれっ!」
「バスだよ」
バスがやってきた。客車の後ろにトレーラーを連結した連結バスだ。運転手はいない。一応ハンドルが付いているように見えるが無人だ。
乗客が順に乗り込む。
「乗っていいのっ?」
「うん」
年相応に喜んでいるフラベーナちゃん。とても可愛い。まだ三歳なんだよな。前世の人種基準で少なくとも六歳くらいに見えるけど。
バスの出入り口は前後に一つずつ。電車の改札も同じだけど、バスも扉をくぐった時点で課金されるようだ。フラベーナちゃん、口座にお金、入っているよね?
客席の下に荷室はないから、観光バスのようにステップが高くなってはいない。荷台は連結された後ろの車両だ。
「どこに座ってもいいの?」
「あそこ、二席空いてるよ」
「そこにする!」
座席は、左側に二席、右側に二席。十五列かな。観光バスの座席配置だ。まばらだけど二席空いている箇所は一つしかなかった。
窓から外を見ていると、無人のフォークリフトがコンテナを積んでいた。
それを見ているフラベーナちゃん。目が輝いている。わくわく感が伝わってくる。フラベーナちゃんは外見は六歳くらいで、学校のカリキュラムは高校三年レベルをクリアしている。オレも、前世の高校生の女の子のような感覚で付き合っている。
でもやっぱりほんとうは三歳の子供なんだ。高校生のような付き合いができるのに、子供のように純粋無垢なフラベーナちゃん…。
「走り出した!」
「うん」
バスは魔道馬車ではないので、慣性力を受ける。だけど、ふんわりアクセルで緩やかに加速度が変化したから、乗っていて揺られる感覚は小さい。
窓はあるけど、ずっと地下トンネルなので景色は面白くない。薄暗い灯りが一定間隔で通り過ぎるだけだ。
電車のときと変わらない速度で灯りはすぎていく。バスも時速二〇〇キロ出てるのかな。
途中に何カ所かある停留所で何人かが降りたり、コンテナの積み下ろしがあったり。
王都から第二メタゾールまでの距離なら三十分ほどでつくのだけど、停留所が多いし荷物の積み下ろしがあるから、これに毎回十分以上かかる。それでも、何両もの貨物車両が連結されている電車と比べると、荷物の積み下ろし発生する頻度が低いので、電車より早く着きそうだ。
この世界にはまだ、何両も連結した電車はいらないだろう。
「ねえ、ムコサール領はあとどれくらい?」
「あと五〇分くらいかなぁ」
「けっこうあるねー」
「そうなんだよね。ごめんね、馬車ならもっと速かったのに」
「ううん、私、初めてのことばっかりだし、システィナと二人っきりだし、楽しいよ!」
「フラベーナちゃん…」
「システィナ…」
オレはフラベーナちゃんとしばらく向き合ったまま、互いに頬を赤らめていた。
「フラベーナちゃん、少し寝るといいよ」
「うん…」
フラベーナちゃんは眠そうだ。フラベーナちゃんはオレに寄りかかって目を瞑った。
こうしていると、まるで恋人同士…。オレが王女様の恋人だなんて恐れ多いけど、でもオレはフラベーナちゃんに相応しい地位にまた一歩近づいた。
オレも眠くなってきた…。今寝ると数十分で起きられる気がしない。
「エージェント、バスが着く前に起こしてほしい」
『分かりました』
オレが自分の胸の谷間に話しかけると、谷間からエージェント・アンネリーゼの声が返ってきた。
ブーっブーっブーっ…。
「ああん…」
胸がブルブルと気持ちいい…。じゃなかった…。これは目覚ましのバイブ…。声で起こしてくれればいいのに…。いや、これでよかった。
「フラベーナちゃん、もうすぐ着くみたい」
「ん、ん~…」
『まもなく、第二メタゾール領、改め、ムコサール子爵領です。本日から第二メタゾール領はムコサール子爵領となりました』
バスのアナウンスでもそんなこと言うんだ…。スマホの通知だけじゃ流されちゃうよな。通知の履歴は見られるみたいだけど。
バスが停車した。降りる客は俺たちだけだ。荷下ろしもない。乗り込む客もいない。
地下の施設は王都と代わり映えしない。でもエレベーターで地上に上がると、領主邸以外はほとんど農地で、ポツポツと領民の家があるだけだ。賑わっている王都とは大違いだ。
とはいえ、すでに辺りは暗くなっている。いくら街灯があるからといって、人通りはほとんどないから、ちょっと寂しい雰囲気だ。都会からすぐいける田舎みたいな?
エレベーターから出ると、すぐ近くに領主邸がある。
「ここが領主邸?」
「うん」
なんか、フラベーナちゃんの勢いで来てしまったけど、第二メタゾールの領主屋敷にはほとんど代官は来ない。代官も王城でテレワークだった。たまに用があるときはメイドや執事を伴ってやってくる。
つまり、第二メタゾールの領主屋敷は代官もスタッフも非常勤なのだ。屋敷の灯りは一つも付いていない…。
門は魔紋認証になっている。オレはこの屋敷をもらったんだから、通れるよね?
オレが門に近づくと門が自動で開いた。だけど、開き戸タイプではなくて引き戸タイプだった…。まあ、開き戸の自動ドアは危ないよな…。
暗いから今はよく分からないけど、この領主屋敷は平民だったときに外から何度も目にしている。第四メタゾールの屋敷で使った最近の建築手法を用いているわけではなくて、相変わらず土を固めただけのような素っ気ない外観だった。
オレとフラベーナちゃんが門をくぐると、門から屋敷までの灯りと玄関灯が一斉にともされた。原始的な建物の外観とは裏腹にSFチックだ。
そして、門は自動で閉じた。
屋敷のドアも魔紋認証だ。だけど、ここは鍵が開くだけで、手で引いて開けるドアのようだ。
オレはドアを開けた。真っ暗な空間が見えたのもつかの間、すぐにエントランスホールや廊下の灯りが付いた。
これがオレの屋敷…。今まで法衣貴族で給料も少なかったから実感湧かなかったけど、オレって貴族なんだよな。
「わー!今日から私たち、ここで暮らすんだね!」
「えっ、うん」
フラベーナちゃんがどういうつもりでここに来ようと言ったのか、まだ測りかねている…。
「私たち」とは…。オレとフラベーナちゃんが?それとも、いつものメンバーも?
それに、メイドもスタッフも誰もいない。あれ、晩ご飯どうしよっか。
あれ、身一つで来ちゃったけどどうしよ…。影収納は五リットルなので、たいした物は入っていない。いろんなものを王城の離宮に置いてきてしまったな…。
タブレットは邪魔だから離宮の寝室に置いてある。あとは、もう着られないドレスがたくさん。あと換えのブラとパンツが一着ずつ。あとは歯磨きとか。
あれ、オレってたいした荷物ないじゃん。歯磨きとかタオルとか屋敷にあるよね。
じゃあ、とりあえず晩ご飯かな。調理室に何かあるかもしれないけど、今から作るか、それとも買ってくるか。
冷蔵庫はとてもハイテクだ。温度を低くして化学反応を抑制することだけが冷蔵庫の機能ではない。脱酸素や除菌によってとことん変質することを防ぎ、保湿などによって入れたときの状態を保つようになっている。
だから、めったに人の訪れない屋敷でも何かあるはずだ。
「ねえ、晩ご飯どうしよっか。作るか買ってくるか」
「一緒に作ろっか。調理実習もやってるしね」
「わかった」
こんなところでフラーラの調理実習が活きるとは。まあ、オレは平民次代から、エージェント・アンネリーゼに教えてもらいながら、ある程度の料理はできるんだけどな。
冷蔵庫には野菜や肉、米、巨大な卵など、ひととおりの食材があった。
「ねえ、二人で一緒に作ろっ」
「うん」
魔力で調理すると、相手を思う気持ちが美味しさを引き立てる。でも、それでは自分には美味しく感じられないのだ。だから、二人で魔力を込めれば二人で美味しい。
ああ、なんだか…。これって夫婦生活…。いや、婦婦生活かな…。
「「いただきまーす。おいしー!」」
フラベーナちゃんがオレのためにと思って料理していたのが分かる。
「ねえ、これ何?」
直径二センチ、長さ二十センチの細長くて黄色いものだ。
「これね、玉子焼きっていうんだよ」
「あーなるほど」
ちょっと細いと思うけど、言われてみればそうだ。冷蔵庫にあった巨大な卵を使ったのか。
「これね、こうやって食べるの。はい、くわえて」
「えっ、うん」
フラベーナちゃんは玉子焼きを手づかみして、オレの口元に差し出した。
オレはそれをくわえた。甘い玉子焼きだ。前世の玉子よりコクが足りないと思う。
だけど、フラベーナちゃんの作ってくれたものだから、フラベーナちゃんの味を感じる…。
「うふっ…」
「んん!?」
フラベーナちゃんは妖しく微笑んで、オレのくわえている玉子焼きの反対側を自分でくわえた。
「んふふっ」
フラベーナちゃんは鼻だけで笑いながら、玉子焼きをどんどん口の中に入れていく。
「んんっ!ふふっふ!」
玉子焼きを指さし、俺の側に移動させるようなジェスチャーをしながら、鼻息で何か言っている。
フラベーナちゃんと同じように、玉子焼きを口の中に入れていけと言っているのか。
オレはそうしてみた。
すると、フラベーナちゃんもどんどん玉子焼きを口の中に入れていく。
どんどん近くなるフラベーナちゃんの顔…。少し頬が赤らんだフラベーナちゃんの顔…。
そして、玉子焼きの長さがゼロ…つまり、フラベーナちゃんの唇がオレの唇に触れた…。
柔らかい…。フラベーナちゃんの唇…。なんという感触なんだ…。オレは目を閉じた…。
ずっとこうしていたいと思ったのもつかの間、口の中に残っていた玉子焼きが逆流していった。
オレの口の中から玉子焼きがすべて出ていったと思ったら、何か別の…。これは…フラベーナちゃんの…。
これは…ディープキスってやつ?オレ…、フラベーナちゃんと……。
そして、フラベーナちゃんの唇がオレの唇から離れていく…。打ち寄せる喪失感。行かないでっ!もっとフラベーナちゃんが欲しい…。
「うふふっ、食べ方分かったぁ?」
「えっ…、うん…」
こんなキスをしたから、行くところまで行っちゃうのかと思ったよ…。でもオレたちってまだ五歳と三歳なんだよね。オレもフラベーナちゃんも年齢の二倍くらいの外見だけど、それにしてもまだ早すぎるよね…。オレはどこまで行こうと考えてたんだ…。
「最初はただの甘いだけのお菓子だけど、ああやって食べると…すごく…良いよね…」
「うん…」
「マイアお母様に教えてもらったんだ。アンネお母様と初めて食べた玉子焼きの味が忘れられないって」
「なるほど…」
マイア王は玉子焼きじゃなくて、そのあとに待っているアンネリーゼの味が忘れられないんだろう。
オレだって…、ああ、フラベーナちゃんの味…。
「毎日食べようね!」
「うん!」
フラベーナちゃんと毎日ディープキス…。オレは自制心を保てるだろうか…。
そしてお風呂。オレのドレスはフラベーナちゃんの土魔法で生地に戻される。でもなぜかブラジャーとパンツだけはフラベーナちゃんの手で優しく脱がされる…。
フラベーナちゃんも自分のドレスは生地に戻すけど、ブラとパンツはゆっくり脱いでいる。フラベーナちゃんの土魔法なら、毎回ぴったりのブラをあつらえられると思うけど、なぜかそこは譲れないらしい。
「ああああああん…」
そしておれはフラベーナちゃんに背中を流される。
いつもはみんなが一緒なので、ほとんどの場合気がつくとベッドにいるのだけど、今日はフラベーナちゃん一人なので、フラベーナちゃんがいつもより長く…。
「あれ…」
「おはよ。システィナ」
「お、おはよう」
気がつくとベッドだった。気がつくと、いつものスケスケハミハミのネグリジェを着せられている。
そういえば、オレは着替えなんて持ってきていなかったのだけど、今まで着ていたドレスの生地を一割でも使えば、このネグリジェはできてしまうだろう。
服は生地に戻す過程で汗や汚れが取り除かれるので新品同様だ。
そして、気がつくとフラベーナちゃんがオレに乗っていた。他に誰もいないのに、フラベーナちゃんはオレの前というポジションで譲らないということかな…。
っていうか、もう朝か…。窓のカーテンから、日の明かりが漏れている。そうだ、今日は早起きしてやりたいことがあるんだ。
それにしても、フラベーナちゃんと一つ屋根の下で二人っきりで、しかも毎晩ディープキスだなんて、まるで新婚生活…。
ほんとうに、マイア王とアンネリーゼは、どういうつもりでオレとフラベーナちゃんを送り出したんだろうか…。
昨日と同じように二人で朝ご飯を作って、美味しくいただいた。朝に玉子焼きはやめておいた。
「領主様、今日はなんのお仕事をするの?」
「領主様だなんて…」
「うふふっ」
さてさてオレは、フラベーナちゃんとのあまーい新婚生活を営むためにこの領地をもらったのではない。
「オレがやりたいのはね……」
「ふむふむ」
ロイドステラ王国では全領地にインフラ整備が行き渡った。すべての国民が、オレの前世と同じような近代的で便利な生活を送れることだろう。
だけど、ほんとうにすべての国民が開発の恩恵を受けられているだろうか。
オレはもう、自分がこの世界に右腕を持たずに生まれてきたことなんて忘れてしまっていた。前世で高校生まで五体満足で生きた記憶があるんだ。この世界でたった一年間、腕がなかったことなんて、赤ん坊の不自由さとたいして変わらない。
腕がなかったのはオレだけじゃない。オレの回りには、事故で腕や足をなくした子がいっぱいいた。みんなアンネリーゼに治してもらったんだ。
全国の開発された領地には、ヒーラーガールズが派遣されて、治療院が設置されている。上位のヒーラーガールなら、ちぎれた手足を繋げるくらいはできるそうだ。手に負えない傷があれば上に報告され、リフラナ先生のような凄腕が呼ばれることになっている。それでも治せなければ、アンネリーゼになんとかしてもらえばいい。
こうしてこの国では誰もが健康な身体を手に入れられるようになった。身体障害者はこの国にはいなくなったんだ。
だけど、精神面はどうだろうか。
前回オレがここを訪れたときに気になったのは、スラムで一緒に暮らしていた子のほとんどが、言葉をしゃべれないことだった。
これは発達障害というやつだろうか。生まれつきではないにせよ、若い頃に言葉を覚えなければ、大きくなってから言葉を習得するのは難しい。
オレは思い出したんだ。アンネリーゼに「オレの目線」で教育を見直せと言われたことを。
オレの目線…。オレはいろいろな立場を経験した。前世の経験。片腕のない奇形児の経験。手足を失った仲間たちとすごしたスラムの孤児としての経験。男としての経験。言葉を覚えられない子たちとすごした経験。
今回はその最後の、言葉を覚えられない子たちのことにテコ入れしようと思う。
そこでだ。アンネリーゼは前王を若返らせて延命させたという。臓器を回復させて臓器年齢を若返らせたということだ。
それに、アンネリーゼの周りには永遠の十七歳という、この世界基準で十五歳に見える女性がいっぱいいる。領地改革一環で、五十歳のご夫人に施術を施し、経過観察しているときにみるみるうちに若返って十七歳の外見になっていったのには驚いた。
オレだって永遠の幼児にしてもらったはずだ。すでに予定より大きくなっているけど…。
この若返りの魔法は外見だけでなく、少なくとも臓器年齢をいじれるんだ。もしかしたら、言語を習得可能な年齢に脳を若返らせることもできるかもしれない!
「システィナは優しいね!」
「えっ、そういうわけでは」
「私、そういう子たちがいるなんて知らなかったよ…」
「それを知ったフラベーナちゃんなら、良い王様になれるよ」
「そっか…。システィナ、もっと教えて!」
「うん。手始めにね、この領地に住んでいる、言葉の話せない子をフラベーナちゃんに診てもらいたいんだ」
「わかった!」
早朝、オレはフラベーナちゃんと一緒に、スラムの仲間の住む家に赴いた。みんなが仕事に出る前の時間を狙った。農民の朝は早いのである。
前回はフラーラのくれた貴族のものとしては比較的質素なドレスを着ていった。だけど、今日は貴族どころか王族クラスのドレスだ…。
フラベーナちゃんはたかが子爵のオレに王族のドレスを着せてくれる…。だけど、オレはこのドレスに負けない功績を挙げて地位を得なければならないんだ。このドレスは戒めなのだ。きっとフラベーナちゃんもそれを望んでいるに違いない。
「ここ?」
「うん…」
前回はギリギリヒーラーガールに間違えてもらえたけど、今日はそうもいかない。チャイムのボタンを押す勇気がでない。
ポチっ。ピーンポーン。
フラベーナちゃんは躊躇なくボタンを押した。フラベーナちゃんは優柔不断なオレを引っ張ってくれるんだよな…。
『はーい。うわっ、お貴族様…』
インターホンからルルの声が聞こえてきた。ルルはオレたちをお貴族様だと判断したようだ。さすがに、ヒーラーガールズはこんなに豪華なドレスを着たりしないからな。
「カルボシスティナ・ムコサール子爵です。本日は回診に来ました」
『えーっ!領主様!ちょっとお待ちください』
昨日、顔写真付きの通知が流れたので、認識してもらえたみたいだ。
ドタドタ、ガッシャーン。
『ぎゃーっ』
慌てて何かひっくり返したかな…。
ドタンっ。
「お待たせしました!ってあれ…、どこかで…」
「昨日この領地の領主となったカルボシスティナ・ムコサール子爵です」
「フラベーナ・ロイドステラです」
「えっ…、昨日なんか通知来ていたような…。新しい領主様、ご丁寧にどうもありがとうございます」
ルルはオレのことに気が付かないのだろうか。あ、オレってすごい速さで可愛くなってるから、すでに前回来たときの面影すらなくなっているとか?
それに、フラベーナちゃんがロイドステラと名乗ったのだけど、まあ元スラムの住人には国の名前なんてどうでもいいか。
「私は、領民が健康に暮らせているかどうか見回っています。住人を集めてもらえますか?」
「はい…」
大部屋に通された。ひっくり返して床に転がっているお皿があった。他の貴族だったら目くじらを立てているところじゃなかろうか…。
大部屋に全員が集まって横に並んだ。左側から十九歳のコデイン、十七歳のルル、十三歳のアダム、ここまでが言葉をはっきりしゃべれる子で、右側の十六人はうまくしゃべれない。とくに大きい子。一番上は十七歳くらいかな。
みんなめちゃくちゃ緊張している。まるで、悪徳貴族が罪もない平民を虐殺するようなシーン…。大丈夫だよ…。こんなに可愛いフラベーナちゃんは悪徳貴族に見えないだろ?オレだって…、オレ、フラベーナちゃんより可愛いんだっけ?
「フラベーナ様、右側の者たちが例の…」
「分かりました。右から診ていきましょう」
フラベーナちゃんは背筋をぴしっと伸ばした王族モードだ。オレもフラベーナちゃんに対して貴族モード接する。
オレとフラベーナちゃんは、いちばん右の十歳くらいの女の子のところへ移動した。
「かーぼう」
「怖くないので背中を向けてくださいね」
「カルボス」のイントネーションで「かーぼう」と言った。オレがカルボスだと気が付いたかな。
構わずに話を進める。だけど言葉をどこまで理解しているか分からない。オレはこの子の両肩を掴んで、時計回りにぐるっと回して背中を向けさせた。
「ああああああん…」
フラベーナちゃんはこの子の背中を押した。この子はあられもない声をあげた。若返りの魔法とか可愛くする魔法は、カイロプラクティックが基本になっているので、気持ち良くさせる副次的効果がどうして付いてしまうようだ。
それを見ている他の子は、ちょっと顔を赤らめている。みんなはときどき治療院でヒーラーガールによる施術を受けているので、これがいつものマッサージだと思っているようだ。
そして、次の十七歳の男の子に。
「×××…」
男の施術には消音魔法を併用しなければならないと授業で習っている。
次は十六歳の女の子。
「ああああああん…」
こうして、十六人の話せない子供たちの背中をフラベーナちゃんに押してもらった。
後は話せる三人なのだけど、何もしないのはおかしいので、とりあえずフラベーナちゃんに気持ち良くしてもらうことにした。
「あああああん…」
「「×××…」」
「これで回診は終わりです。それではごきげんよう」
「ごきげんよう」
オレとフラベーナちゃんは、大部屋を出て玄関に向かう。
「あの…、カルボス…だよね?」
おっと、ルルにバレてしまった。
「そうですよ。でも今はカルボシスティナ・ムコサール子爵なのです」
オレは振り向いた。
「カルボス…ィスティナ…様」
「皆さんの生活を良くしたいと思ってここの領主になりました。これからも皆さんのことを見守っています。それでは」
オレはふたたび玄関に向かった。
「カルボス…」
後ろでルルがつぶやいたが、オレは振り向かずに玄関を出た。
今日、スラムの孤児、カルボスは死んだ気がした。
帰り道で、
「ねえカルボス、知り合い?」
「うん。えっ…」
フラベーナちゃんはにっこりとして、すごい威圧感を放っている。
「オレが平民だった頃一緒に住んでただけだよ」
「一緒に住んでたぁ?」
ぎゃああ、失敗した。フラベーナちゃんはさらに笑顔になって、さらに威圧感が強く…。
「る、ルルは学校のヒーラーガールのことが好きなんだ。オレとは何でもないよ」
「ふーん」
威圧感が治まってきた…。
なんだか、今の彼女に昔の彼女を会わせたみたいになってしまった…。
だけどオレとルルはほんとうに何もなかった。一緒にお風呂に入ったりはしたけど…。でもそれを言ったら、オレはバラバラにされて、今度こそ組み立ててもらえないと思う。
第二メタゾール、というかムコサール領には、オレの仲間以外にも、アンネリーゼがスラムから連れてきた者がたくさんいる。すべての者は失った部位をアンネリーゼに治してもらったようだ。
だけど、オレみたいに生まれつき腕がないとか、幼くして手足を失った子は、スラムにゴミのように捨てられてしまって、ろくに言葉も覚えていないんだ。
一日で全部回るのはムリなので、今日は回れるだけ回って、そういう者たちの暮らしぶりを見て回った。仕事に出る前に訪問できたのは仲間の家だけだったので、他の者は留守も多かった。
仲間の家では気まずいのでやらなかったけど、他の者の家では軽い面接もした。
仕事が合っているか、同僚とコミュニケーションを取れているか、同僚に苛められていないか。
オレとフラベーナちゃんは屋敷に戻って、執務室で今日のまとめをすることにした。
結果、仕事や人間関係に大きな不満のある者はいなかった。
第二メタゾールにはもともと、メタゾール領から来たスタッフが住んでいて、みんなとても穏やかで優しいようだ。スラムから来た者をさげすんだりする者はいない。
スラムから来た者の中にはサボり癖があったり、仕事に不真面目な者もいるが、そういう者らには相応の給料しか与えられていない。
知識を与えてくれるエージェント・アンネリーゼにも、学校で受けられる実技の授業にも満足。
「エージェント、今日面接をしなかった元スラムの子たちの仕事ぶりを見ることはできる?」
『はい』
執務室のディスプレイに、オレの仲間の仕事中の映像が映された。エージェント・アンネリーゼは、いつも俺の恥ずかしいシーンを盗撮しているのだ。他の者盗撮していてもおかしくない。
そして、オレの教育大臣や領主の権利の範囲内であれば、その映像を出してくれる。
言葉の分からない子たちには、上司が「あー」とか「うー」とか主に母音だけのかけ声で、「篭を持ってこい」とかいう単純なやりとりをしている。言葉の分からない子たちのことに、上司も理解があるようだ。
とりあえず、今日の施術では、言語知識を与えたのではなくて、言語を習得できる年齢に脳を若返らせたのである。すぐに効果が出るわけではないし、何もしなければ言語を覚えないかもしれない。
「エージェント、今日施術した子たちが言語を習得できるか、幼児向けのプログラムでも日常会話でもなんでいいから試してほしい。変化があれば報告頼む」
『わかりました』
「システィナってすごい…。こんなに仕事していたんだね…」
「そうかな…」
「私、システィナ見習って、がんばるね!」
「オレもフラベーナちゃんがすごい王様になれるよう協力するよ」
「ありがとっ!システィナ、だーいすき!」
「うわぁ」
椅子に腰掛けていたオレに、フラベーナちゃんは飛びかかってきた。オレは椅子ごとひっくり返った。
さて、オレもこの領に暮らしていたから分かっていたことではあるが、この領に住む元メタゾール領民は、ほんとうに優しくて、スラムから来た子たちはここでの暮らしに何も不満がないのかもしれない。
だけど、これがこの国のすべてだとは思えない。少なくとも、オレの生きていた王都のスラムには、手を差し伸べてくれるような者はいなかった。
すべての領地にインフラを整えたといっているけど、ほんとうに隅々までそれは行き届いているのか。
まだどこかにスラムがあったり、悪徳な孤児院で人身売買していたりしないだろうか。
ついこの間、フルニトラ侯爵領に行ったときも、孤児院で人身売買を行っていることが発覚して、ダイアナにお願いして孤児を買い取ってもらい、第四メタゾールの領民として働いてもらうことにしたくらいだ。
というか、人身売買は合法だったのだ。そんなの前世の感覚からすればあり得ないと思っていたけど、この世界では「何が悪いの?」という感じのようだ。
オレはダイアナと一緒に、人身売買禁止に関する法律を作って一年後に施行できるように公表した。もうすぐ一年になる。人身売買ができなくなるということで、孤児院は大慌てらしい。何しろ、孤児院というのは親のいない子供を捕まえてきて売れるまで育てるという事業だったのだから。つまり、今まで合法だった事業を禁止にすることになったのだ。
これからは孤児が闇取引されたりするのだろうか。オレはそういうところにも目を光らせないといけない。
把握できていないスラムとか孤児の闇取引とか、どうやったら見つけられるのか、これから考えていこう。
今日は初日だというのに、いろんな仕事をした。体力的にはそんなに疲れたりはしないけど、やらなきゃいけないことがいっぱいで気疲れしたなぁ。
その夜、脱衣所にて…。
ビリビリっ、べりっ。
「ひゃっ…」
フラベーナちゃんは一緒に住むようになってから、いつも土魔法でドレスを脱がしてくれるというのに、今日はドレスを手で破いた。しかも、いつもはブラとパンツを優しく脱がしてくれるのに、今日はブラとパンツも一緒にビリビリだ…。
「はぅ…」
フラベーナちゃんはオレをくるりと後ろに向け、胸をガバッとわしづかみにした。このわしづかみ方はデルスピーナちゃんに似ている。フラベーナちゃんはいつももうちょっと優しくわしづかんでくれるのに…。
オレが後ろを振り向くと、フラベーナちゃんの笑顔が見えた。でもその笑顔は笑っていない。
「はぅぅ…」
そして、そのまま胸を引っ張って、風呂の椅子にオレを座らせて、
「アッー!」
スラムの仲間たちに施した、言語習得可能な年齢まで脳を若返らせる魔法の経過を観察していたのだけど…。
『コデインとルルが結婚するそうですよ』
「はい?」
エージェント・アンネリーゼから通知が来た。
あれ…、ルルって誰だっけ…。ああ、先日会った子だ…。いやいや、スラムのときからの仲間じゃないか。あれれ…、なんか一瞬、忘れていたような…。
ルルはヒーラーガールに憧れていたはずだ。ヒーラーガールは高望みだとしても、男にはまったく興味がない様子だった。オレが女になって現れた途端言い寄ってきたのだ。
それにコデインやアダムは、ルルがヒーラーガールに憧れていると聞いて、まったく手出しできないという雰囲気だった。
考えられるのは、ルルが妥協したということと…、もう一つは…、
『コデインが可愛い女の子になってしまったようです』
「ぎゃああああ」
やっぱり…。フラベーナちゃんにやらせたらダメじゃん…。
「あの子たち、結婚できて良かったね」
「えっ」
「よ・か・っ・た・ね!!」
「は、はい」
フラベーナちゃんは笑顔だけど、すごみがある。
オレのフラベーナちゃんはこんなだっただろうか…。
「いたわね」
「お姉様…ひどいです…」
ああ…、終わった。デルスピーナちゃんとグリシーラちゃんがやってきた。
「ふーん。駆け落ちするとは、さすがフラベーナ様ね」
「こんなところに隠れていたのかぁ」
「ずるいですわ!」
パリナにプレナにペルセラに、
「今日からここで暮らすのね」
「あっちの離宮はどうすんだ?」
「三十人部屋がないんだけど」
「じゃあちゃっちゃと作ろう」
「今日はお待ちかねの裏ポジションなの!」
イスマイラにソーラにエレナにリザベルにナーラに、
「駆け落ちとはやるねえ」
「私から逃げるなんてウケる!」
「むふふ…」
フラーラにプロセーラにティノイカに、
プラチナとアルゾナにコルトラに、
エウレカとアリスに、
えっと、全員集合かな?
ついでにいつものメイドさんもやってきた。みんなの分の料理を作るのはしんどいし、みんなの料理スキルは壊滅的なので、メイドさんもセットで来てくれたのは頼もしい…。
フラベーナちゃんとの甘い新婚生活は、大失敗とともに崩れ去った。
玉子焼きディープキスももうできないだろう…。
みんなは第二メタゾール学校、改め、ムコサール学校に通うことになった。どこにいても同じ授業を受けられるのである。
フラベーナちゃんとオレは仕事をする日も多いけど、たまに学校に行っている。結局、どこにいようがあんまり変わらない。
そういえば、無断で男を女にしてしまっても、何のおとがめもないなぁ。知らん顔しておくか…。
逆に、報告したら陞爵できるかな?
みんなが来てからというものの、ちょっと胃もたれ気味だ…。なぜなら…、
「ふん、ふふふ」
玉子焼きをくわえて何やら鼻息でおそらく「はい、食べて」と言っているデルスピーナちゃん。
「ふふふふ、ふふふ!」
玉子焼きをくわえて何やら鼻息でおそらく「私が、先よ」と言っているパリナ。
二人の口にはくわえた玉子焼き…。どこから漏れたのか、オレとフラベーナちゃんが毎日玉子焼きキスをしていたことがバレてしまい、全員と玉子焼きキスをすることになってしまった…。
これ…、細いからまだいいんだけど、それにしても十九人分食べさせられるこっちの身にもなってほしい…。
甘いものだから女の子パワーでイケるかなと思ったけど、甘いからといっても玉子焼きはお菓子じゃなくてご飯の範疇だしなぁ…。
そこでだ!
「きょ、今日はこの玉子焼きを美味しいお菓子にしようと思う!」
「あら、これってお菓子じゃなかったのね」
「ヒルダお母様からお菓子って聞いていたのに」
デルスピーナちゃんとパリナは玉子に砂糖を加えて焼いただけのものがお菓子だと思っていたのか。みんなそのようだ。
というわけで、クレープを作ることにした。
クレープ…、どうやら前世の文化祭で作ったことがあるようだ…。だけど、細くなければならないので、三角形ではなくて棒状に巻いて、その中に具を少しだけ詰めるようにした。
具には生クリームを始め、チョコやコーヒーなどのソースや果物を入れた。重いものばかりで、自分の首を絞めているようでならない…。
料理スキルが壊滅的なみんなでも、並べて巻くだけなら、紫になったり爆発したりしないだろ。
「さあ食べなさい」
「はい」
細長クレープを手で掴んでオレに差し出すデルスピーナちゃん。ちょっと具を入れすぎだ…。
オレはクレープをくわえた。
そして、デルスピーナちゃんも反対側をくわえて、もぐもぐと食べ進み始めた。
オレも食べ進み始める。
でも、今まで何も入っていない玉子焼きだからよかったものの、クレープでは食べている途中で中身が飛び出したりして大惨事になってしまった…。
「ふーふふ、ふふふふん!」
鼻息で「いいから、食べなさい」と言っているデルスピーナちゃん。
オレとデルスピーナちゃんは口の周りを生クリームとチョコでべとべとにしながらクレープを食べ進み…、そして口と口が触れあう…。
「んっ!」
デルスピーナちゃんはオレの口の周りに付いたクリームをなめ始めた…。
「ふ!」
デルスピーナちゃんは自分の口の周りを指さして催促するような目をしてくる。「なめろ」ということか…。
しかたがないので、デルスピーナちゃんの口の周りをなめた…。デルスピーナちゃんの口の周りは甘くて柔らかかった…。
そして、最後にディープキス…。
これを十七人繰り返した…。
十八人目は、
「ふふふ…」
プロセーラか…。舌を引っこ抜いたり、口ごと噛みついたりしないだろうな…。
とりあえず、クリームとコーヒーソースで顔中べちゃべちゃにして、顔中なめられるだけで済んだ…。
顔を洗って一息ついていると、あれ…、大切なことを忘れている…。フラベーナちゃんだ!
フラベーナちゃんは隅のほうでふてくされている。フラベーナちゃんはオレとの大切な時間をみんなに奪われて悲しいんだ。
ここはオレからキスを申し込むべきだ。
クリームやソースは多めだ。フラベーナちゃんは多い方が喜んでくれるはず。クリームの量は愛の量だとかいって。
それに、他の子より具をケチったら、オレがフラベーナちゃんのことを軽視してると思われかねない。
オレとしては、食べやすい量にして、そのあとのキスをじっくり味わいたいのだけど…。ここはオレの希望を叶えるところではないのだ。
オレはクレープの片側をくわえて
「ふんっ、ふんっ」
「えっ?システィナ…。うんっ!」
クレープをくわえるよう催促すると、フラベーナちゃんはすぐに笑顔になって、クレープに噛みついた。
クリームとチョコソースが飛び出し口の周りをべちゃべちゃにしながら近づくフラベーナちゃんの顔…。
そして唇と唇が触れる…。
それから、フラベーナちゃんはオレの顔中なめ回してきた。さっきのプロセーラとのやりとりを見ていたのだろうか。それに負けまいと、かなり激しくなめ回してくる…。
オレもフラベーナちゃんへの愛を示そう。フラベーナちゃんの顔に付いたクリームをなめ尽くした。
顔が綺麗になったら、今度はフラベーナちゃんは、オレの口の中まで…。超ディープなキス、いただきました…。
ロマンのかけらもなかったけど、フラベーナちゃんと愛を確かめられたしよかった。
あ、顔を洗わなかった。プロセーラになめ回されたのはすぐに洗ったけど、フラベーナちゃんになめ回されたのは綺麗だから洗う必要がないと思ったんだよ。
そして、オレの見込みどおり、クレープはいくらでも食べられる。女の子は甘いものならいくらでも食べられるとはいうが、正確には、スイーツのことであって、甘い玉子焼きではダメなのだ。
これならおなかいっぱいで気持ち悪くならずに済む。
と思ったのもつかの間、細くしているとはいえ、十九人分のクリームやチョコを食べて太らないわけがない。
しかも、太るところは決まっている。この身体は、食べた栄養が胸とお尻にしか行かないのだ…。あと太もももかな…。
エージェント・アンネリーゼとは話せていないけど、明らかに胸とお尻に脂肪が付いたのが分かる…。そろそろ胸が邪魔で手元が見えなくなって、料理できなくなってしまいそうだ…。
そのくせおなかはまったく出てこないし、肩幅とか腕とかは華奢なままで、まったく脂肪が付かない。
ちょっとダイエットしようと思って走ったりしたけど、ウェストが細くなっただけで胸はしぼむ様子がない…。ウェストに脂肪を付けることはできないので、これ以上減らすのはマズい…。
この身体は何をやっても女らしさを磨くことしかできないのか…。さすが女神たちの造りたもうた身体…。
このペースで胸が大きくなってしまうのはさすがにマズいので…、
「今日で玉子焼きキスを終わりにしようと思うんだ…」
みんなに切り出した。
みんなが激怒したのは覚えている。オレはそのあとの記憶がないけど、翌日から玉子焼きキスはなくなった。
もちろんフラベーナちゃんともだ…。
これでよかったんだ…。
■カルボシスティナ・ムコサール子爵(五歳)
教育大臣としての功績が認められ陞爵した。
■デルスピーナ、パリナ、プレナ、ペルセラ(四歳)
■イスマイラ、ゾーラ、エレナ、リザベル、ナーラ(四歳)
■プラチナ、アルゾナ(四歳)
■フラベーナ、グリシーラ(三歳)
■フラーラ、ティノイカ、プロセーラ(二歳)
■コルトラ、エウレカ、アリス(二歳)
■アンネリーゼ(二十二歳)
■ダイアナ(十二歳)
■ミスリー・メタゾール公爵夫人(十二歳)
■レティシア(誕生)
パープルドラゴン。ティノイカのペットになった。
■ベニシア(四歳)
レッドドラゴン。シンクレアのペット。
■シンシア(四歳)
ブルードラゴン。ヒルダのペット。
■ジフローラA・B、フルプレーナA・B、ティノーラA・B、リグローラA・B(誕生)
ワイヤの産んだ八人のドラゴンハーフ。
ワイヤとジフラーナAの子がジフローラA・B。ワイヤとフラーラの子がフルプレーナA・B。ワイヤとティノイカの子がティノーラA・B。ワイヤとプロセーラの子がリグローラA・B。
白の精霊を付けたのがAで、薄緑の精霊を付けたのがB。AとBは一卵性双生児の関係。
ジフローラだけが銀髪。他は薄い金髪。
■メドロラ、ドレニザ、オイラナ(十四歳)
元、第五世代のヒーラーガールズ。
ロイドステラ東方開拓の働きが認められ、ダイアナにメイドとして召し上げられた。
■コデイン(十九歳)
カルボス(システィナ)とスラムで暮らしていたグループの最年長の男。
■ルル(十七歳)
カルボス(システィナ)に言葉を教えた女の子。
■アダム(十三歳)
カルボス(システィナ)とスラムで暮らしていたグループ内で数少ない言葉を使える男の子。
■スラムから来たその他の仲間(七歳から十七歳)
十六人。言葉をあまり話せない。MOB。




