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51 危険な転生者

 翌朝、私に被さっているマイア姫とセレスを起こした。


 そう、王権により、私の前というポジションは、二人の王で分けられることになった。ここ二ヵ月間、ずっとこうだった。二人の背丈は私と大差ないし、私に二人乗ったら不安定で寝心地悪いと思うのだけど…。

 右胸をマイア姫が枕にして、左胸をセレスが枕にして寝たのだ。でも、二つの胸の間に頭を埋めるから丁度よかったのであって、単体では枕としてはちょっと高すぎるのではないかと思う…。何しろ、頭より大きいのだから…。と思ったら、私の胸は限りなく柔らかいので、意外にも丁度いい高さまで潰れるようである。

 だいたいセレスは、バランスボールを二つ携えているカローナを、毎日独り占めしているのではないのだろうか。私もバランスボールの上で寝たい。あ、でもカローナの身体強化では体重に耐えられないか。


 ちなみに、私の後ろというポジションは、アリシアとシルバーとリフラナとコーリルのうち、二人が占有している。この四人は身体強化を鍛えているので私とマイア姫とセレスが三人乗ったくらいで寝られないことはない。


 さらに、私の中というポジションは、ドリーとメテーナでわ…けないで、二人が同時に私に重なっている…。精霊は精霊どうしも干渉しないようだ。なんか重なられると微妙に気持ちいいので癖になりそう…。これがまさにいつでもバレずにエッチできる嫁か…。


 それにしても、私の前は王権により王に占有されていて、私の後ろは頑丈な子たちに占有されて、私の中は精霊に占有されているけど、それ以外の左右と上下とか斜めは、ローテーションなんだよね。今は、普段いないクローナたちやメイドも加わっているので、順番がなかなか回ってこないとぼやいている。



 みんな起きると、エージェント・アンネリーゼに、ヘデイカ王国軍の動きをダイジェストで伝えてもらった。

 ヘデイカ軍はトレントを鎮圧。途中で逃げ出して、ヒストリアに攻め込んでくるということはなかったようだ。


「動きがありませんね」


『立て直しに時間がかかる。攻め込むのは明日だ!』


 マイア姫と私は、スマホでドローンの映像を見ながら様子を伺っている。


「どうやら昨夜疲れたので、今日はお休みみたいですよ」


 私が様子を伝えると、セレスとカローナも自分のスマホを胸元の影収納から取り出し、様子を見始めた。

 ちなみに、カローナならタブレットどころかA4ノートパソコンが胸元にしまえそうである。


「それは困るわ。延期なんてされると、こちらの士気が下がるもの」

「では、もう一度トレントをけしかけて、森から追い出しましょう。ドリー、お願いします」


『は~い。行ってくるわ~』


 私が指示を出すと、ドリーは馬車の入り口を開けずに通り抜けていった。


「それではこちらも全員に指令を出します。

 全兵に継ぐ!敵兵は一時間後から二時間後に視認できる距離に到達するものと考えられる。心せよ!

 作戦どおり、敵から宣戦布告を受けるか、攻撃を受けるか、幹部の命令があるまで攻撃してはならない。以上!」


 セレスは、スマホに向かって全兵に指令を出した。

 


「では、私たちは司令室で待機しましょう」

「「「はい」」」


 セレスとカローナ、マイア姫と私は魔道馬車の寝室から司令室に移動した。司令室とはモニタールームである。たくさんのディスプレイが並んでていて、複数のドローンの映像が一望できるようになっている。

 魔道馬車は恒星間ワープモードに移行し、外には翼と角をしまった馬型のシルバーだけが、ピラノア領の東の城壁の上に待機している。


 ちなみに、ヒルダたちは、別室でダンスや歌のレッスンをしている…。


 一時間が経過し、斥候が二人やってきた。そして、ピラノア領の城門が閉まっているのを確認し、一人に破城槌が必要だと伝えて、本隊に戻らせた。


「宣戦布告もナシに城門を破壊するようですね」

「破城槌を持って近くまで来たら、攻撃しましょう」


 虫型ドローンが盗聴した会話によると、エッテンザムは絶対悪らしい。だから、宣戦布告ナシに攻撃して構わないらしい。いったいどんな伝説が広まっているんだ…。


 破城槌とは、先端に尖った金属をはめた丸太だ。それで城門を破ろうっていうんだからえらい原始的だな…。城門も木製だから、破れるのかもしれないけど。


 やがて、破城槌を持った十人の兵士たち三組とそれを囲む大勢の兵士のヘデイカ兵がピラノア領の城門まで近づいてきた。

 その後ろには一万の軍勢。


 武器を構えている時点で戦闘の意思ありだ。こちらの正当防衛が成り立つ。もちろん、この世界にそんな決まりはない。私の自己満足である。


 そして、城門の上に潜んでいるヒストリア兵の攻撃魔術師の射程圏内に、ヘデイカ兵が入り込んだ。


「射撃準備!」


 セレスが司令室のマイクに向かって叫ぶ。


 ヘデイカ兵はさらに進み、三組の破城槌隊が入ったところで、


「撃て!」


『『『『『ファイヤボール!』』』』』


 城壁の上にいた一〇〇人のヒストリア兵が直径五〇センチの青い火の玉を放った。

 火の玉は三つの破城槌に当たった。木製の破城槌に火が付いた。


『『『ぎゃー』』』


 破城槌を持っていた者三〇人は手を離して逃げ惑う。


『待ち伏せされているぞ!敵は城門の上だ!弓兵と魔術師は撃破しろ!』

『無理です!遠すぎるし数が多すぎます!我が軍の魔術師はここには一〇〇人もおりません!』


 ヘデイカ兵の小隊長Aが指令を出すが、魔術師が反論した。

 敵兵にも魔術師はいるようだ。だけど、一万の兵のうち、何人が魔術師だろう。

 それに対して、ヒストリア兵は全員が魔術師だ。城壁の上の一〇〇人の狙撃兵もほんの一握りにしか過ぎない。


『作戦Bに移行!魔術師隊!火種を準備!弓兵は火矢で城門を撃て!』


 破城槌をダメにされたので、小隊長Aは次の作戦に移るよう指示をだした。

 魔術師が火をおこし、油を含んだ布を巻いた矢をつがえた弓兵が数十人、矢の射程内に向かって走り出した。


『『『『『フリーズアロー』』』』』

『『『『『ぐえっ…』』』』』


 城壁の上のヒストリア兵が氷の矢を放った。

 接近中のヘデイカ弓兵に命中。次々に倒れていく。


『宝石の矢だと?消えた?』


 小隊長Aが氷の矢を見て宝石だと驚いている。しかし、氷の矢はヘデイカ弓兵に刺さると、すぐに溶けてなくなった。

 ロイドステラですら氷というものは知られていなかった。南の大陸では、さらに縁がないだろう。


 かろうじて三人のヘデイカ弓兵が氷の矢をかいくぐり、城門への射程圏内に入り、矢を放った。

 城門に火が付いた。このままでは城門が燃え尽き、敵の侵入を許してしまう。


『酸素奪取!』


 酸素を別の場所に移動させる魔法だ。城門の火の付近の酸素が一時的になくなり、火が収まった。


『水もなしに火が消えただと!』


 小隊長A、実況ありがとう!

 ヘデイカ兵は原始人だな。ロイドステラもヒストリアも、ちょっと前までは同じだったけど。


『作戦Cに移行!斧兵、槌兵、突っ込めー!』


 今度は斧やハンマーで城門を壊すそうだ。数百の兵が突っ込んできた。


『『『『『ファイヤボール!』』』』』

『『『『『ぐわぁ!』』』』』


 向かう途中で火に包まれるヘデイカ兵。しかし数にものを言わせ、二〇人が城門に到達した。


『『『『『ライトニング!』』』』』

『『『『『あばばば…』』』』』


 城門の内側からヒストリア兵が城門越しに電撃魔法を放った。

 しびれて地に伏せるヘデイカ兵たち。

 空中放電はそれほど届かないし、魔法を遠くに発動するにも効率が悪いので、電撃はこういう至近距離でしか使えないのだ。ダイアナでもない限り。


『作戦Dに移行!引き上げろ!』


 おやおや、もう撤退か。


「アンネ、北の領に向かうみたいよ」

「なるほど」


 ピラノア領はヒストリア最東端というだけで、べつに東側にはピラノアしかないわけではない。数十キロ北側か南側に行けば、隣の領地があるのである。なんなら、領地と領地の間の道なき道を行けば、ピラノアより西の領地にも行ける。

 この世界の国というのは、比較的近い領地をまとめてそう呼んでいるだけで、それぞれは魔物のはびこる森や山に阻まれているので、隣の領地などというのもはばかられる状態なのである。


 ヘデイカ軍の向かうところがピラノア領だったのでピラノアに兵を集結させていたが、近隣の領地にも兵を置いていないわけでもない。先ほど述べたように、領地の間を縫って奥に行くことは、魔物や食料さえどうにかできれば楽だからだ。

 とはいえ、他の領地にはそんなにたくさん兵を置いているわけではないから、全員で他の領地に行かれると困る。


 というわけで、


「城壁の上に待機中の迎撃兵は、敵を打って出なさい!」


 セレスの命令に、城壁の上に待機中のヒストリア兵一〇〇〇人が次々に飛び降りてゆく。


 普通の人間は城壁の上から飛び降りたら死んでしまう。だけど、身体強化を鍛えたヒストリア兵なら難なく着地できるし、素手で壁を登って戻ってくることもできる。逆にいえば、ヒストリア兵にこの程度の城壁など意味がないのである。


 さらに、ピラノア領の北と南の城門からも、それぞれ一〇〇〇人ずつのヒストリア兵が出撃。北側に移動しようとしているヘデイカ軍を挟み撃ちにする。


 ヒストリア兵は治療魔法も鍛えてあるが、大怪我に対応できるほどではない。

 そこで、各領地から集めたヒーラーガールズ一〇〇人の投入である。各兵士はスマホに健康状態を監視されており、危険な状態に陥るとヒーラーガールズに通知されて、駆けつけてもらえるようになっている。

 ヒーラーガールズ一〇〇人は、戦場に散開していった。


『くそっ、これだけの兵が潜んでいたとは!どこから情報が漏れた!』


 ヘデイカの小隊長Aさん、焦りが見えてきている。

 小隊長Aさんによると、ヘデイカには魔術師は五〇〇人しかいないそうだ。それなのに、


『やつら、全員魔法を使えるのか?』


 ヒストリア兵、というかヒストリア国民は全員、学校で魔法や戦闘を学ぶ。攻撃魔法だけでなく、身体強化も鍛えているので、一人の兵士が数人分の兵力となる。

 しかも、ヘデイカ軍は昨夜からトレントに追い立てられていて、ろくに眠っていない。体力も士気もだだ下がりだ。

 最初に集める予定だった三〇〇〇でじゅうぶんだったかも…。ご飯代がかさむだけだ…。そんなこといってケチってやられたら元も子もないけどね。


 というわけで、ピストン輸送で王都付近から連れてきた二〇〇〇の兵士も北門から投入。

 あとは、ピラノア領の守りに三〇〇残しているだけだ。


 これでも五〇〇〇対一〇〇〇〇だけど、戦力的にはこちらの方が上だ。それに、ヒストリア兵はやられても互いに回復できるし、重傷を負ってもヒーラーガールが控えている。国民誰一人死なせるつもりはないのだ。万が一死んじゃっても、私とアリシアとリフラナがいるよ。


『こっちは数が減っているのに、向こうはまったく減らないぞ。どうなっている…。ぐゎぁ…』


 小隊長Aは流れ弾の氷の矢に当たって倒れた。

 小隊長Aによる実況は終了した。代わって総司令の侯爵様による実況をお楽しみください。

 小隊長っていったって、二〇人くらいに小隊の隊長だ。いちばん下から二番目の下っ端だ。

 他にも中隊長とかいるようだけど、もう面倒だし総大将と行きますか。


「アンネお姉様、そろそろメタゾール兵を投入しましょう」

「そうですね。強襲用母艦シルバー!出撃!」


 シルバーはピラノア領の東の城壁の上であらかじめ恒星間ワープモードになっている。シルバーは翼と角を出して羽ばたいた。そしてあっという間にヘデイカ軍の上を通り過ぎ、最後列で軍を指揮している侯爵の真上へ。


『あれは何だ、空飛ぶ馬か?』


 突如現れた白い何かに、侯爵はアホのように口を開けて見上げている。


 シルバーは上空一〇〇メートルで恒星間ワープモードを半分解除。ゲートの魔道具でゲートだけを開けて、中の馬車の後部ハッチを全開に開き、メタゾール兵三〇〇が次々に飛び降りていく。


 メタゾール兵は全員、乳児の魂百まで計画を施された者たちである。九年前にセレスが王になってから教育を受け始めたヒストリア兵とは年季が違う。メタゾール兵一人でヘデイカ兵十人を相手にできるだろう。


「アンネ王妃様、私たちも行くわね」


「ええ、お気を付けて」


「よっしゃー!暴れるぞ!」

「修行の成果、見せる」

「ボクだって剣を使えるようになったんだ!」

「アンネ王妃様、帰ったらご褒美ください!」


 メタゾール兵に続いて、聖女の守り手も飛び降りていった。


「それでは私たちも行きますね」


 初代ヒーラーガールズの元センター、リフラナ(二十歳)が、十人のヒーラーガールズを引き連れて華麗に降り立った。さすが…、アイドル教育を受けているだけある…。くるくる回ったりして登場シーンがとても可愛くて魔法少女アニメみたい…。


 ヒーラーガールズを降ろしたところで、シルバーはゲートを閉めて上昇した。


『女が振ってくる…?敵だ!空から敵が襲ってきたぞ!陣形を組め!』


 メタゾール兵の七割は女の子であり、全員ミニスカアーマーだ。とうぜん、下から見たらパンツがこんにちはしている。下から見なくても、風でスカートがめくり上がっているか。

 侯爵を含めて敵兵はみんなでれーっとしている。

 しかし、でれーっとしていた侯爵は顔ほど無能ではなかった。すぐに陣形を整え、少ないメタゾール兵を数人で取り囲んで対処しようとしているが…、


『ぐゎ…』『速い!うわあ』


 一人のメタゾール兵をヘデイカ兵はせいぜい五人でしか取り囲めない。しかし、メタゾール兵はヘデイカ兵十人分の強さなので。五人で取り囲んでも返り討ちに遭うだけだ。侯爵の守りを固めていたヘデイカ兵はどんどん減っていく。


「ふっ、遅いわ」

「弱いぞ!ハハハっ」

「隙だらけ」

「剣なんていらなかったね」

「どーん、どーん」


 イミグラとゾーミアは大剣を軽々と振り回し、ヘデイカ兵をなぎ倒していく。

 レルーパは、ナイフでヘデイカ兵の鎧の隙間をうまく刺していく。

 マクサは剣をもっているのに、敵の頭をハイキック。

 アマージはファイヤボールを乱射している。


 五人は、紐なしブラアーマー来ているので、胸をバインバイン揺らしながら戦っている。痛くないのだろうか…。いや、その痛さも快感のうちか。


 ちなみに、今回は対人戦なので、アリシアのうろこで作った何でも豆腐のように斬れる剣は持ってきていない。


「本業の仕事がありませんね」


 リフラナはメタゾール領民いちの治療魔術師であるが、身体強化の指折りの使い手でもある。正直なところ、聖女の守り手よりずっと強い。

 リフラナを含めたヒーラーガールズは、踊るように殴る蹴るで敵を減らしていった。

 ちなみに、コーリルもリフラナに混ざっている。


 司令部の異変に築いた五〇〇のヘデイカ兵が引き返してきた。

 しかし、形勢は変わらない。


 ピラノア領の北側に向かいつつあったヘデイカ兵も、ほとんど戦闘不能。ヒストリア兵は無傷。




 戦闘は終わった……かに思えた。しかし!


「がはっ」


「おい、イミグラっ!」「腕が…」「そんなボクにはムリだよ…」「助けて!アンネ王妃様!」


 司令室のディスプレイでみんなの周りを見ていたが、そんな強敵がいるようには見えなかった。

 しかし、イミグラの右腕は…、剣を握ったまま切り落とされて地面に落ちていた…。


「アリシア、行きます!」

「うん!お母さん!」


「アンネ、気をつけてね」

「アンネお姉様、どうかご無事で」

「はい!」


 セレスとマイア姫に見送られて、私は馬車の後方のハッチを開けた。

 シルバー、お願い。私は考えを伝える魔法を送った。

 分かっています。上空から様子を見ていたシルバーは私が何をしようとしているのか分かっている。


 すでに恒星間ワープモードのゲートが開き始めていた。


 私とアリシアは、ハッチから飛び降りた。


 ゲートが開いた辺りから感じ取れるようになったけど、一つだけ異様な殺気がある。機械に頼ってあぐらをかいていたのが徒になった。


 私は早くイミグラの元にたどり着くように、空中で翼を出し、下方向へ羽ばたいた。

 着地の寸前に減速できず、胸がぼよーんと垂れ下がって、そしてまた上昇…。「おっとっと」とバランスを崩した…。

 うう…、こんなことしている場合じゃないのに、やっぱり紐なしブラアーマーなんて着てくるんじゃなかった…。

 気を取り直して、翼をしまい、イミグラの右腕を拾い、切り口を肩と接触させて、治療魔法を使った。


「もう大丈夫」

「ありがとう、アンネ王妃様…」


 アリシアも空中で翼を出し、急降下してきた。そして、途切れ途切れに感じられる異様な殺気の主を警戒しているが、姿が見当たらない。


 私には見えた。アリシアの首が飛ぶビジョンが。何か鋭いものがアリシアの右後ろから迫ってきて、アリシアの首にすっと入っていくビジョン…。ダメっ!

 私はアリシアの元に駆けつけて、アリシアを突き飛ばした。

 代わりに飛んだのは、私の右腕…。


「っつ…」

「お母さん!」


 泣き別れになった私の腕は、胴体側と切り離された側の両方から、瞬時に血管や神経が伸びてきて、空中に飛散している血液を回収しながら、一秒もかからずに接合される。キモいけど、いつも治療魔法でやっていることだ…。イミグラの腕を繋げたときは、そういうのが見えないように、切り口を接触させてからやったけど。

 私は自動HP回復だから、私が魔法を行使するまでもなくメテーナがやってくれている。

 私が自分でやるときは、水魔法を使って血液を集めるけど、メテーナは光魔法しか使えないので、血管を伸ばして空中の血液を吸い取りに行く。我ながらマジキモい。


「お母さんをいじめるな!」


 アリシアの身体が膨らみ、ミニスカアーマーがバリバリと破れ始めた。ちなみに、アリシアも紐なしブラなので、紐なしブラだけ破れていない。いや、まあそれはさておき…、アリシアはドラゴンに変身した。全長三メートルの、白いドラゴン…。これが本当の姿…。

 でも、小さなブラが付いたままである。ブラアーマーはアリシアのうろこでできているし、おかしくはないと思う…。でもそこが胸なんだ…。一見分からない…。


 しかし、相手の姿がない。時折、殺気が感じられるだけだ。

 いや、敵の悪意があらわになった。アリシアの堅いうろこ…の内側の心臓を一刺しするビジョン…。

 私は再びアリシアを突き飛ばした。


「がうぅぅ…」


 すると、空中に刃物が現れた。

 見えた!刃物の周りに、まばゆい…黒い…光…。強力な闇の精霊…。闇の精霊ということは、影収納?いやいや、ものの影とは無関係に、空中に現れたよ。見たこともない強力な闇の精霊だから、影収納の上位となる魔法でも使えるのだろうか…。


 空中に現れた影収納の扉らしきものから顔を出している剣は、引っ込もうとしている。それを私は親指と人差し指で掴んだ。

 そのときに伝わってきたのは、私の脳の中に影収納の扉を開き、刃物を突き立てる作戦。影収納の扉が開く寸前に、私はしゃがんだ。すると、また胸がぼよーんとバウンド…。うう、すごく動きづらい…。でもこれが女の子の戦いなのだからしかたがない…。


 いやいや、空中に取り残された髪の毛が、影収納の扉から現れた刃物にバッサリと…。ぎゃー…、女の命が…。と思ったら、髪の毛に治療魔法がかけられ、元通りにつながった。血管や神経がつながるのだ。髪の毛がつながらない道理はない。

 脳神経だろうと心臓の血管だろうと、何でもつながってしまうのだろう。実際に他の人にはやっているのだから。でも、ちょっと怖いから避ける…。


 空中に浮いている影収納の扉。薄い刃物だけが通りそうな細い扉。頭の中なら影収納の扉が作れてもおかしくないが、この扉は今も空中に留まっている。もはや影収納でも何でもなく、ただの異次元ゲート。

 私はその異次元ゲートに右手の人差し指と左手の人差し指を突っ込んだ。まあ、脳神経が切れるのは怖いけど、腕ならさっき切られたし、痛いのは注射を刺すときの一瞬くらいだったから、指くらいどうってことないかな…。

 捨て身のつもりでゲートに突っ込んだ指。私は両手の指を広げて、異次元ゲートをこじ開け……た!やった!力業でゲートが広がったよ!


「な、なんですの!」


 中から可愛い声が聞こえた。ちょっと期待してしまった…。人の脳に刃物を突っ込んじゃうような危ない子だというのに…。


 ゲートを閉じようと抵抗してくるけど、私はそのままどんどんゲートを広げて、私が入れるくらいの大きさにした。そして、私はゲートが閉じる前に、さっと中に入り込んだ。


 ゲートから差し込む灯りに照らされたのは十二歳くらいの女の子。入ってきた私に、あわあわしている。ここに侵入されたときのことなんて考えたこともなかったらしい。


 女の子の側には、強烈な黒い光を放つ闇の精霊。他の精霊もかなり大きい。


 女の子は十二歳にしてはちょっと、いやかなり胸が小さい…、腰ほどまでの黒髪…、前世の母国人っぽい…。顔も平べったい。前世の人種からすれば、この子は十六歳くらいかな…。

 黒いドレスだ。ちゃんとロングスカートだよ。他国にミニスカートの文化はないようだ。


 今まで会ってきた女の子は、身分や財力と胸の大きさが比例していたけど、この子はかなり上等なドレスに反して…。いや、じつはまだ八歳くらいかもしれないし、これから大きくなるかもしれないし。いや、やっぱり前世の母国人に近い人種だとしたら、十六歳くらいに見えるし、まあそれなら、逆にこれくらいの大きさというのも納得できるかな…。いやそれにしても…。


 いやいやそれは置いておいて、かなりヤバい子なので、とりあえず背中に回り込んで、


「ああああああああああああああああん…」


 背中を押した。


「ああああああはぁっ…」


 失神するまで。


 カイロプラクティックは、失神させたり洗脳したりする業ではない。私は、このちょっとヤバい子の黒い感情を洗い流して、身も心も綺麗になってもらいたいだけである。


 あああ…、ゲートが閉じちゃった…。真っ暗だけど、魔力や音で何があるかは分かる。



 私は女の子の記憶を漁った。


 この子の名前はセレーナ・コークス。ヘデイカ王国の暴君…。自分で暴君とかいっちゃって…。


 この子は転生者だ。前世の記憶は高校生くらいまで。ずっと親に性的暴行を受けてきて、ついに親を殺して、おそらく自分も自殺しちゃったみたい…。最後の記憶ははっきりしないけど…。


 前世ではどうやら胸が大きいことがコンプレックスだったらしく、それが原因で親に性的暴行を受けていたこともあって、胸の小さな身体に生まれたかったと願っていたら、この世界でほんとうに胸の小さな身体に生まれ変わってしまったらしい…。


 伯爵家に生まれたけど、今度は貧相な体つきのため誰からも相手にされず、またもやグレてしまった。そして、ついカッとなって、ヘデイカ王国を力で征服してしまったらしい…。えっ…、マジで…。


 私と同じように、胎児の間に偶然精霊に魔力を与え、胎児の魂百まで級に闇の魔力が成長した。他の魔力もなかなかだ。

 胎児の魂百まで級の闇の精霊でできることは、影にかかわらない扉で行き来できる異次元空間収納や、数メートルの短距離瞬間移動、サイコキネシス、数秒間のタイムリープ…。どれも教えてほしい魔法ばかりだけど、私の闇の精霊の適当力や魔力では実現できないのだろうか。ジフラーナとプロセーラならどうだろうか。


 さっきの戦いでは、私が扉をこじ開けたのに驚きすぎて、短距離瞬間移動もタイムリープも忘れてしまったらしい。使えたとしても、消耗が激しく。十数回使えるかどうかなので、使用を躊躇していたのもある。


 とはいえ、先ほどの戦いは、アリシアでも対応できていなかった。普通の人が手に負えるわけがない。

 セレーナは闇の魔法を使って、先代のヘデイカ王を殺害。力でヘデイカ王国を支配しているらしい。

 気に食わぬ者の首をすぐにはねる暴君。とくに、スタイルの良い女と、そういう女を色目で見ている男は重罪で、問答無用で死刑。この子、マジ怖い…。だから問答無用で襲われたのか…。イミグラもアリシアも私も…。


 ちなみに、前世の母国人ような黒髪で平べったい顔の人種は、ヘデイカ王国では二割くらいいるらしい。やはり小柄で童顔な種族。でもやっぱりこの子はその中でも胸が小さい方らしい…。


 そしてあるとき、エッテンザムという胸の大きな種族の支配する国があると耳にした。近年、国民のスタイルもどんどん良くなってきているらしい。そんな国は滅ぼさなければならない。

 えっ、今度は同性婚じゃなくて胸か…。エッテンザムはもともとボンキュッボンだけど、カイロプラクティックを広めて国民全体のスタイルを良くしているのは私だし…。

 たしかに、カローナの胸はセレーナの胸の何万倍もの体積があるけど、それだけで殺されてはたまったものではない。というか、カローナは王妃なのであって、王ではない。




「ん、ん~…」


 セレーナが目覚めた。光の精霊もそれなりだから、私の気配くらい感じられるだろう。


「いるの?」


 私の位置を確認して、私の体内に刃物を入れようとしている。だけど認識できない場所には、ゲートを開けないらしい


 まだ反抗的だけど、セレーナは私に何をされたのか覚えておらず、気持ち良かった記憶だけしか残っていないのでしかたがない。初めての子はだいたいこんな感じだ。


「ああああああん…。ああああん…。ああああああーっ…」


 ここは真っ暗だけど、心音や衣擦れの音、香り、魔力の輪郭、心、血行の悪い部位を示す黒ずみ、いろんな感覚で完全にセレーナの位置を把握できる。

 私はまたセレーナの背中に回り、押してあげた。気絶しても、まだ押し続けた。意識がないのに、ビクンビクンしている。


 魔力の輪郭は。衣服を無視して身体のラインが丸見えだ。それにしても、ちょっとぺったんこすぎるような…。


 私はセレーナを身体の悩みからも心の悩みからも解き放ってあげたい。この子の胸は大きけりゃいいってものでもなさそうだ。前世は大きかったせいで酷い目に遭い、今世では小さかったせいで寂しい思いをしている。

 まずは手始めに、ドレスがきつくなるくらい大きくしてあげた。


「く、苦しい…」


 息苦しくて目覚めたようだ。胸がきつくて苦しいというのは、なかなかの快感のはずだ。

 セレーナはドレスの首元の紐をほどいて、胸をはだけさせた。


「はぁはぁ…。なんだか重いような…」


 前世で具体的にどの程度の大きさだったかという記憶は残っていなかった。だが、今の大きさ、というか重さは体験したことがあるらしい。これよりもっと重かった記憶が蘇ってきたようだ。

 だからといって、前世の大きさにしてしまうと、前世のつらい記憶が蘇ってくるかもしれない。大きくてもコンプレックス、小さくてもコンプレックスだなんて、ちょっと我が儘な子だけど、なんとか癒してあげたい。


「えっと…、私は異空間で何しているんだっけ…」


 気持ち良すぎて私がいることも忘れてしまった。私のことが見えないんじゃ誰に何をされているのか、何回やっても分からないかな…。


 ちょっと威力を弱めにしながら…、


「ああん…」


「扉を開けてもらえませんか」


「わかったわ。でもお願いよ、もっとやって」


「ええ」


「あああん…」


 灯りがないので表情は分からないが、満足のようだ。

 異空間のゲートが開き、日の光が入ってきた。セレーナはこちらを見なかったが、横顔は良い笑顔だった。


「出ましょう」


「ええ!」


 私が出ようと言うと、セレーナはまるで私と仲のいい友達であるかのように、私の右手を引いて、ゲートをくぐった。

 外の光が眩しくて、セレーナは右手で目に入る光を遮り、同時に左後ろを向いた。そのとき、私の顔と胸が目に入った。

 私のことは、先ほど異空間から外を覗いて見ていたらしい。セレーナは、私の胸を見た途端、憎悪がわき上がった。


 私は慌ててセレーナの背中を


「あああああん…」


 セレーナは気持ちよさに耐えられず、私の右手を握っていた左手を離した。そし、今まで私の手を握っていたことを思い出した。それとともに訪れる喪失感。この手を離したくない!

 さらに、今まで快感を与えてくれていたのが私だということを認識した。それとともに、セレーナは顔を真っ赤にした。憎悪など吹き飛んでしまいそうになったが、やはり憎い!自分なんてこんなに…、あれ…?

 セレーナは、自分の胸元に、自分の胴体の動く位相とは遅れた位相で動く、何かふにふにとしたものの存在を感じた。これは前世でも感じたことのある感覚…。ブラジャーが欲しくなる感覚…。


「ありますよ」


 私はスカート裏に影収納の扉を開き、いつも持ち歩いてるシルクを土魔法でセレーナの胸のまとわせながら、ブラを作った。


「どうでしょう」


「あれ…、私の胸…、胸があるわ!ブラジャーがフィットするわ!」


 この世界にはブラジャーがなかったはず。でも、この世界に生まれて十六年間、そんなものは必要なかった。これからも必要ないと思っていた。

 ブラジャーが必要になるようなやつは死罪。国に住むBカップ以上の女はすべて首をはねた。

 だけど、この胸は何だろう。CかDくらいはあるはず…。これ以上は…、あああ…。


 これ以上は前世のトラウマが蘇りそうで危険だ。難しい…。そのうち、邪魔で困るほどの胸が快感になってくるはずなんだけど…。


 ふたたび私の胸がセレーナの目に入った。憎悪と期待が入り交じって、かなり混乱している。

 こういうときは、全部流してしまえ。


「ああああああああん…。はぁ…、はぁ…」


 よし、憎悪とかトラウマとか、だんだんどうでもよくなってきたようだ。そんなことよりも、気持ち良くなりたい。


「もっとぉ!」


「はい」


「ああああん…」


 異次元のゲートの一歩手前でいつまで経っても出られない。だけど、危ない考えをちゃんと洗い流してからじゃないと、外に連れ出せないだろう。



 というか、ずっとセレーナの心に集中していたので外の様子を伺うのを忘れていた。セレーナへの警戒を維持しつつも、周囲の悪意レーダーを薄く展開する。


 ヘデイカ軍は戦意喪失。聖女の守り手とリフラナ率いるヒーラーガールズがヘデイカ軍の総大将である侯爵を取り囲んで、降伏を勧告している。

 しかし、ヘデイカ軍にはあとがない。なぜなら、帰ってもセレーナに殺されるだけだから。そのため、侯爵はまだ戦う意志があるようだ。



「あの…、私はアンネリーゼと申します」

「……」


 セレーナは応えない。


「あなたの名はセレーナですね」

「ちょっ、なんで知ってるの!」

「あなたは転生者ですね」

「な、ななな、なんで…。あなたもしかして、転生の女神?」


 なんでまたそこに行き着くんだろう…。


「なんで…、なんで私を助けてくれなかったの…。なんでいまさら…」


 システィナのときと同じことを言われた…。


「私は女神ではありません…。私はいつどこで転生者が生まれるのか知らないのです…」

「じゃあなんで私が転生者だって…」

「だって、あなたの顔に書いてあります。あなたが悲しい過去を背負っていることが、あなたの顔に書いてあるのです」


 ふふふ…。私は人の顔から考えていることが分かっちゃうのだ!


「私の過去…。ねえ…、私の胸…。女神様が生やしてくれたの?」

「私は女神ではありませんが、私は美しくて可愛い者が好きなので」

「なんだかいつの間にか肌も髪も綺麗になっている…。ねえ…、いまさら姿を変えるの?」

「だから私は女神ではないので、転生者がどのような姿で生まれるのか分かりません。ですが、生まれたあとに綺麗で可愛くしてあげることはできます」

「よく分かんないけど、そういうタイプの女神なのね…」


 なかなか女神説を曲げない。


「ねえ…、今から私を幸せにしてくれるの?」

「あなたは辛い思いをしてきたのでしょう。これからは報われてもいいのではないでしょうか」


 だけどこの子、大量虐殺しているんだよね…。だからといって、私としてはこの子を死刑になんかできない。


「そう…。じゃあ…、私も…、アンネリーゼだったかしら…、アンネリーゼの胸が欲しい」

「いいですよ。でも急にこの大きさにするには栄養が足りません。毎日多めにカロリーを摂取する必要があります」

「意外に現実的なのね…。じゃあ、この胸はどこから栄養を持ってきたの?」

「どこだと思います?」

「えっと…」


 セレーナは自分の体中を触ってみた。ドレスがぶかぶかになっている部分を発見。


「ウェスト!」

「正解です」

「脂肪吸引と豊胸手術みたい…」

「血流の流れやすさをコントロールしただけですので」

「なんかホントに現実的…。女神じゃないの?」

「私はカイロプラクターですよ」

「カイ…プラ…何?」

「マッサージ師です」


 高校生はマッサージ屋にお世話にならないか。


「マッサージだなんて…」

「マッサージを馬鹿にしますか?えいっ」

「ああああああん…」


 私はセレーナの背中に手を回して、背中を押した。


「そ、それよ!もっと!」

「はい」

「あああああん…。はぁ…はぁ…」


 さて、いつまでもこの異空間入り口でおしゃべりしているわけにはいかない。


「あの…、ヘデイカ軍は降伏を受け入れてください」

「はぁ…はぁ…、もっとぉ!」

「降伏してくれたらもっとやってあげます」

「ならいいわよ。降伏する」

「はい、それでは」

「ああああん…」

「じゃあ、司令官に命令してください」

「はぅ…、わかったわぁ…」



 やっと異空間から出られた。


「せ、セレーナ様!こちらにいらしたのですね…」


 イミグラたちに囲まれている、ヘデイカ軍の総司令の侯爵。セレーナに対して畏怖をいだいている。

 セレーナが瞬間移動で神出鬼没なのは、ヘデイカではよく知られていることのようだ。セレーナはここに来る予定ではなかったが、来た理由とか手段については、とくに疑問に思われていないらしい。


「我が軍は降伏します。兵に伝えなさい」

「それはつまり…、悪のエッテンザムに下ると…」


 侯爵は、不自然に開けられたセレーナの胸元を見た。以前はなかったはずのものが生えている…。

 セレーナ王は、悪のエッテンザムに魂を売ったのか!


 セレーナは、ヘデイカ王国に暮らす胸の大きな女性と、胸の大きな女性好きの男を大量虐殺した。女性は見たままなので簡単だ。だが、男のほうは、踏み絵ならぬ、踏み乳という手段を用いて判別したのだ。

 胸の大きな女性を仰向けに寝かせて、その胸を踏ませる。胸を踏めなかった男ではなくて、踏んで喜んでいる男は死刑だ。

 この子…、マジで鬼畜なんだけど…。


 コンプレックスの原因となっているものを取り除くのは分からなくもない。しかし、その取り除いた者と同じ姿を手に入れるとは何事だ!

 侯爵の怒りがこみ上げてきた。


 あらら…、この子もう、ヘデイカ王国にいられないんじゃない?また虐殺でねじ伏せる?

 どうしよう…。この子…、引き取らなきゃいけないのかな…。怖いんだけど…。


 とりあえず…、怒っている人には…


「×××…!」


 気持ち良くなってもらい、気を失わせた。


「セレーナ、悪いようにはしませんので、とりあえず、ヘデイカの総大将として捕まったことになってください」

「わかったわ」

「あと、ちょっと苦しいかもしれませんが、ドレスの胸元を絞めてください」

「うん…」


 セレーナは、ちょっと名残惜しそうにドレスの首の紐を締めて、谷間とお別れした。そして、窮屈になって苦しくなったことに快感を覚え、顔を赤らめた。


「ちょっと予定を変えましょう。あなたはこちらのお部屋でくつろいでいてください」


 私はスカートの中から魔道テントを出して組み立てた。


「お部屋?テントじゃない」

「まあ、中に入れば分かります」


 セレーナはテントの扉をめくった。


「なるほど、異空間ね。立派なお部屋だわ」

「メイドはいませんが、中のものを好きにして構いません。食料やお風呂もあります」

「お風呂があるのね!分かったわ」

「では、夜明けにまた来ますね」


 ヘデイカにはお風呂はないらしい。十六年ぶりのお風呂に感動したようだ。水も火も、それなりの精霊がいるのだから、自分で湧かせばいいのに。

 魔道テントに窓はないが、掛け時計があるので、夜明けという意味が分かるだろう。


 セレーナはもう終わりだ。このまま帰ってもヘデイカの民を皆殺しにするくらいしか生き残る道はないだろう。

 セレーナに降伏宣言してもらうことはできない。しかたがないので、総大将である侯爵を、私が対象を討ち取ったり、とするしかない。いや、まったくその通りだ。


『ヘデイカ兵に告ぐ!ヘデイカの総司令は討ち取った!すみやかに投降せよ!』


 私は風魔法に自分の声を乗せて、戦場一帯に届けた。

 すでに戦意を喪失していたヘデイカ兵たちは、やっとかという顔になり、ほとんどがその場に倒れた。


「お母さん」

「あらあらアリシア…」


 アリシアは人間の姿に戻っている。だけど、身につけているのは紐なしブラアーマーだけだ…。

 アリシアももう十一歳なのだ。少女っぽさを残しながらも、立派な胸を携えている。


「予備の生地を持っていないのですか?」

「お母さんが心配で…」

「ごめんなさい。長い間留守にしていましたね」

「うん。無事でよかった」


 私はアリシアにコルセットとスカートとパンツを着せた。胸は紐なしブラアーマーがあるのでそのまま。


「ではアリシア、敵味方問わず、死傷者の救助に当たってください」

「はーい」


「セレス、マイア様、勝利宣言は聞こえましたね?各地のヒーラーガールズおよびメタゾール兵に、負傷者の救助に当たるよう指令を出してください」

『わかったわ』

『わかりました』


 私は空中にいる鳥形ドローンに向かって話しかけた。すると、胸元からセレスとマイア姫の声が聞こえた。


 アリシアなら、切られたり焼けどをしたりして死んだ者を治せるだろう。リフラナでも、傷が少ない者であればいけるだろうか。

 ヒーラーガールズは重症者の治療、メタゾール兵は中程度の治療をすればよい。

 残りはヒストリア兵全員で当たれば、一人に付き二人治療すれば、敵兵全員の治療ができる。


 もちろん、暴れられたら困るので、土魔法で土から拘束具を作って填めてからだ。ヘデイカ兵に土魔法で作ったものを分解できるような使い手は存在しない。

 ダメなら面倒だけど鉄で作った拘束具を使うしかない。


 こうしてヘデイカ兵を一人残らず鎮圧しながら治療した。




 魔道馬車にて、


「私たちの出番ね」

「腕が鳴るなぁ」

「初参戦です!」


「えっ…」


 ヒルダとクレアとロザリーが、なんだか士気高揚している。もう戦争は終わったんだけど…。


「アンネお姉様、ちゃんと練習したんですか?」

「えっ…、まあひととおり…」

「練習に参加しているのを一回しか見ていませんよ!」

「えーっと…」


「まあ、アンネは覚えるの早いから、一回でできちゃうんじゃない?」

「そうですわね」

「アンネリーゼ様はすごいですね」


 セレスもカローナもレグラも準備万全のようだ。カローナは今回初めて、紐なしブラアーマーを着ている。いつもは普通のブラとドレスに軽く押し込まれている二つのバランスボールが、今日はフリーだ。いつにも増して大きく見える…。素晴らしい…。もう、身体を斜めにしないと魔道馬車の扉をくぐれそうにない。


 レグラは出産間もないけど、もう大丈夫そうだ。


 なんと、クラリスとリーフ、フェニラも参加するようだ。クラリスは七歳だから分かるけど、フェニラはまだ三歳なんだけど、大丈夫かな…。大丈夫か…。うちの三歳児どもとあまり変わらないもんな。

 さすがに一歳のファルナと生まれたばかりのレジーナは参加していない。いや、うちには一歳やゼロ歳で参加できそうな子がいっぱいいたけど。

 メタゾール兵は全員、リーフを見ることができる。ヒストリア兵は半々というところだろうか。


「緊張するわ」

「だ、だだだ、大丈夫だぜ…」

「これも任務」

「ボク、うまく踊れるかなー」

「アンネ王妃様とマイア王様とセレスタミナ王様とカローナ王妃様、迷っちゃう!」


 イミグラとゾーミアとレルーパとマクサとアマージも興奮気味だ。


「ひさしぶりね~。がんばっちゃうわよぉ」

「ご主人様と一緒に踊れる日が来るなんて…」

「お母さん、がんばるね!」


 お母様とシルバーとアリシアも張り切ってるなぁ…。


 それから、クローナ、メレーナ、ソラーナ、エリス、アレスタ、グリメサ、タルメア、ロコイアも初参加で、期待に胸を膨らませている。普段ブラで固定されている胸が、紐なしブラでフリーになってるので、ほんとうに胸が膨らんでいる。

 ちなみに、クローナたち八人は、親から伯爵位または侯爵位を受け継いでいる。ロコイアはもともと親を廃して侯爵であったが。


 そして、マイア姫のメイド四人と騎士二人、ヒルダ、クレア、ロザリーのメイド三人。それとエミリー。従者は紐なしブラではない。私も普通の衣装がいいな…。


 リフラナとメタゾールのヒーラーガールズ十人。リフラナだけ紐なしブラアーマーだ。リーダー特権なのだろうか。

 さらに…、ヒストリアのヒーラーガールズ三〇〇人…。

 さらに、メタゾールの兵士として参加した女の子二二〇人…。

 さらに、ヒストリア兵のうち優秀な女の子一〇〇人…。


 いったいどんなステージで披露するんだ…。



 というわけで、開幕となった。


 私と私のお嫁さんたちはステージの地下に待機している。ヒーラーガールズと従者や兵士の女の子は見当たらない。

 昇降機が上がって、私たちはステージに登場した。

 ものすごい歓声。観客はヒストリア兵五〇〇〇人、メタゾール兵の男性八〇人、そして、拘束具で手足を縛られているヘデイカ兵一〇〇〇〇…。敵将の侯爵もいるよ。捕虜にサービスしすぎでは…。

 ヒストリア兵のうち半分が女性。ヘデイカ兵には女性はいないようだ。


 ステージは円錐状で一段が広めの階段ようになり、私のいるセンターがいちばん高くなった…。王が二人もいるのに、なんで私…。


 ステージは円いのが二〇個くらいある。私とお嫁さんのステージは会場の真ん中にありいちばん電飾が豪華だ。

 周りのステージは、ヒーラーガールズと従者、兵士の女の子のステージのようだ。ヒーラーガールズのステージだけ、少しだけ電飾が豪華だ。その中心に高い位置にいるのは紐なしブラのリフラナだ。いちばん美味しいんじゃないかな。


 二〇個のステージのある付近の観客席はそれぞれのステージを囲むように配置されており、ステージの端より少し低くなっているが、そのさらなる外周には二〇個のステージすべてを囲む同心円状の階段に席が配置されている。つまり、野球やサッカーのスタジアムのような作りであり、試合するところにステージが設置されているような感じだ。


 そして最外周の観客席の後ろには、プロジェクタで私たちのステージの拡大映像が映されている。


 こんな大規模な会場…、作れるのはドリーしかいないよね…。ここには。



『ヒストリアの聖女、アンネリーゼです。

 ヒストリア王国を守っていただいた兵士の皆さん、そして、自国のためにと赴いたヘデイカ王国の兵士の皆さん、ともにお疲れ様でした』


 私の口元から私の声が発せられた。ダイアナの仕込みか…。私は慌てて口パクする。セリフ知らないから適当…。でも、周囲のスクリーンにどアップで映ってるから、適当すぎるのもマズい。

 っていうか、ヒストリアの聖女ってなんだよ。変な肩書きを私が認めたことにしないでほしい。


『私たちはなぜかいがみ合うことになってしまいましたが、セレスタミナ王はそれを望みません。これからは手を取り合っていきたいと考えています。そのために、まずは両国の兵士の皆さんを労いたいと思います』


「「「「「うぉおおおおおおおーーー!」」」」」


 すごい歓声。

 っていうか、セレスにしゃべらせてほしい。



 というわけで、曲が始まった。おなじみの「振り向いて」、「私の心を奪ったあなた」、「憧れの先輩」から始まり、そのあとに出した曲をいくつか。

 いやぁ、全部十年前の曲じゃん…。私も年取ったなぁ。永遠の十七歳だけど。

 十年前と違うのは、みんな胸がだいぶ大きくなっていて、しかも今日は紐なしブラでフリーなので、踊りで動くたびに胸がバインバイン揺れてしまい、バランスを崩しそうになっている。それでも頑張っている姿がまた可愛い。

 とくにカローナとお母様が胸に振り回されすぎて全然踊れていない。十年前よりも下手くそになっている。だけど、十年前よりも可愛くなっている…。

 私の胸はお母様より大きいのだけど、私もああいうふうにいっぱいいっぱいな感じのにしたほうが可愛く見えるのかな…。私は高度一〇〇メートルから加速して着地でもしない限り、バランスを崩さないので…。次の機会には、もうちょっと胸が大きすぎて持て余している感を出そう…。

 ちなみに、カローナのマイクを通さない声が私には聞こえる。相変わらずひどい音程だ…。スピーカーからは音程が補正されて鳴っているようで、誰も気がつかない。


 リフラナ率いるメタゾールのヒーラーガールズは、ダンスがとてもうまいのかと思ったら、けっこう転びそうになったり、危うい感じがある。だけど、お嫁さんたちと違って、失敗しそうな感じを練習してきたようである。たしかに、その危うさは、がんばれって応援したくなる危うさだ。

 ヒーラーガールズは、可愛いと思ってもらえる仕草をとことん研究している。仕草の面では、私もお嫁さんもかなわないのである。



 そして、ここからが新曲だ。まずはロザリーの作詞した「うぉいひー!」…。それって、美味しい食べ物と食べたときのロザリーの叫び…。歌詞にもそれが入っている…。

 なんだかロザリーが食いしん坊キャラ認定されてしまいそうだけど、じつは食べ物の名前はいっさい歌詞に入っておらず、曲の一番は何が美味しいのか分からない。でも二番になると、美味しいのはどうやら人物だということを臭わせる歌詞が入ってくる…。「食べちゃいたい」とか言うんだけど、何をとははっきり言わず、でもそれが人なのだとすると…。どういう意味で食べちゃいたいのやら…。


 そして、今までおとなしく踊っていたから気が付かなかったんだけど、ロザリーのパンツってTバックだった…。くるりと回ったりジャンプしたりして、スカートがひるがえるたびに、ロザリーのパンツではなくお尻がこんにちはして、会場の女性客の目はロザリーに釘付けになっている。

 私としては全部見せてしまうより半分見えない方がそそるんだけど、一人だけTバックがいるのもなかなか趣があるかも…。


 そのあとも、新曲が何曲か続いた。新曲の歌詞も振り付けも、一回しか練習してないのだけど、こういうのを覚えるのは得意なんだ。

 半年前の政務のことはまるで覚えていないけど。



 それから、クラリスとフェニラも楽しそうに歌って踊っているね。二人は紐なしブラじゃないよ。クラリスはけっこう、いや、かなり胸が出ているけど、普通に胸元の開いたドレスだ。



『本日は両軍とも、ほんとうにお疲れ様でした。それではまたの機会に、ごきげんよう』


 最後の曲だったらしい。私は慌てて口パクをして、ごきげんように合わせて全員でカーテシーでパンチラした。

 慌てたのは段取りを知らない私だけで、他の子はみんな私のごきげんように合わせてカーテシーする練習をしていたようだ。


「「「「「うぉーおおおおーー!アンコールっ!アンコールっ!」」」」」


 十年前にはアンコールという言葉はなかった。だが、ヒーラーガールズがアイドル活動しているうちに、いつの間にか根付いたようだ。


 「私の心を奪ったあなた」のイントロが鳴り始めた。ずっと好きだった幼なじみがいるのに、ぽっと出の子を好きになってしまって、どうしようっていう歌だ。


 そして、サビに入るというところで、地中からドリーが登場。さらに、私の側にいた強い光の精霊、メテーナが人型に変化。

 ドリーは相変わらず葉っぱ水着。メテーナは私と同じ衣装。二人とも重力の影響は受けないが、質量もないのに慣性の影響は受ける。だから、動くとちゃんと胸が揺れる。しかもメテーナは紐なしブラなので、私と同じようにいつもより多めに揺れる。


 ドリーは私の右手を取り、メテーナは私の左手を取った。そして、二人は舞い上がった。

 私は空中に地面があるかのような足取りで踊り続ける。

 前はこれを片手だけでやったから、大変だった。


 あれ、私って羽ばたかなくても、メテーナに運んでもらうだけで飛べるんじゃない?


「「「「「わああああああ!」」」」」


 私が空中で踊り始めたところで歓声は最高潮に。ほとんどのヘデイカ兵には精霊が見えないだろう。ヒストリア兵だと土の精霊が見える人と光の精霊が見える人は別々だけど、半分くらいだろうか。

 下の方でセレスが寂しそうな顔をしている。

 そして、いきなりドリーとメテーナに手を離された。ドリーは上空へ消え、メテーナは精霊形態に変化。

 ステージに着地すると、私の胸はぼよんぼよんとバウンドした。側にはセレスがいて、私に抱きついてきた。

 すぐ隣でマイア姫が歯がみしている。


「「「「「うぉおおおおおおおおおおおおお!」」」」」


 歓声は最高潮を更新。おお、なんだこの演出…。


 こうして、戦争お疲れ様ライブは幕を閉じた。




 ライブの後の恒例行事、握手会ならぬ、ひと押し会。

 私とアリシアとシルバーとリフラナ、そしてヒーラーガールズが来場者全員にマッサージをプレゼント…。


 一人の客につき、私は五秒、アリシアは十秒、シルバーとリフラナは三〇秒。

 それから、メタゾールのヒーラーガールズが一分、ヒストリアのヒーラーガールズが五分。

 手分けして約一五〇〇〇の兵士を労った…。


 マッサージと同時にライブビデオの即売会。メディアではなくコンテンツ視聴権だけの販売だ。以前のようにメモリカードは販売しない。無駄だから。

 視聴権はしばらくは来場者だけの特権だ。三ヶ月後に一般販売するらしい。


 ダイアナは来ていなかったのに、その辺にいた偵察用ドローンを使ってかってに撮影していたらしい。まったく、抜かりない。




 ヘデイカ軍の持っていた兵糧を、そのままヘデイカ兵に食べさせた。まだ十日分くらいはあるらしい。ヒストリアには、一万人の敵兵にくれてやる飯はさすがにない。


「私はアンネリーゼ・メタゾール。あなたはこの軍の総指揮で間違いありませんね」

「ああ…」


 翌朝、私は一人で、敵の総大将である侯爵を尋問中だ。もちろん、私による誘導尋問だ。残念ながらカツ丼はない。

 侯爵には手枷と足枷をはめてある。私が女だからといって侮ることはないようだ。


「あなたは、タリオン・ベポタス侯爵で間違いありませんね」

「ふむ…。どこまで情報を得ているのやら…」


「ヘデイカ王国はセレーナ・コークスにより弾圧されていたのですね?」

「なっ!」


「セレーナは王を殺害し、大量の国民を虐殺した。そして不思議な魔法で国民を恐怖に陥れ支配してきた」

「…」


「私は先ほど捕獲したセレーナを処刑しました」

「なん…だと…」


「これでヘデイカ王国は自由です」

「はっ…」


「あなた方はセレーナに脅されて、とくにはっきりとした大義もないままヒストリア王国に戦争を仕掛けたのでしょう。でも、セレーナはもういません」

「まさか…、セレーナによる支配が終わったというのか…。だが、今度はヒストリア王国に支配されるのだろう…」


「さすがに何も賠償ナシとはいきません。でも、ヘデイカ王国は困窮しているのでしょう。子供を産める女性が極端に減っているのではありませんか?胸の大きな女性は処刑されると聞きました。女性は胸が大きくならないように、食料を制限しているのでしょう。そのため、栄養が足りずに子供ができない。子供が生まれないから働き手も増えない」


「そんな情報まで伝わっているのか…。道理で我々の進軍が筒抜けだったわけだ…」


 もちろん、私はタリオンの顔に書いてあることをそのまま話しているだけだ。


「今のヘデイカに、賠償できるだけの財力はないでしょうから、賠償を待ってもらえるようセレスタミナ王に掛け合います」

「な…」


「むしろ、早く賠償してもらえるように、ヒストリアから支援しようかと思っています」

「なぜそこまで…」


「私は苦しんでいる民を見過ごすことができません」

「あなたは聖女のようなお方だな…」


 胸が大きくなれなくて苦しんでいる民を、私は見過ごせない。


「わ、私は聖女などではありません!」

「ふむ…」


「まず、あなた方には母国に帰っていただきましょう。二ヶ月分の食料を用意します。後ほど私も、支援物資を持って行きますので、支援の受け入れ体勢を整えていてください。

 表向き、というか事実ですが、ヘデイカは敗戦国となり、ヒストリアの支配を受け入れるということにしてください」


「それが本当なら拒否する理由もない。もしウソだとしても受け入れるしかない」

「それでは、私はこれで」


「聞いてよいだろうか。あのセレーナを、どのようにして倒したのだ…。捕まえようとしても突然消えてしまうし、どのような堅い鎧も意味を成さない神出鬼没のナイフ…」

「ナイフは…、一発食らってしまい、右腕を奪われましたけど、たいしたことはありません。神出鬼没というのは、潜んでいる場所が分かったので、それを指でこじ開けました」

「つまり、あなたはセレーナより上の存在ということか…。逆らいようもないな…」

「まあ悪いようにはしませんって」

「期待している…」




「アンネ、どうだったの?」

「それはですね…」


 ここは魔道馬車の司令室。

 私はセレスに説明した。ただし、セレーナのエピソードをそのまま話すわけにはいかない。なぜなら、セレーナを処刑しておらず、敵兵に弄ばれていた少女を保護したという扱いにしたいからだ。

 敵の王が圧政をしていたことを話した。ただし、胸がどうのこうのははしょっている。そして、今回の戦いの中で敵の王は死んだことにした。

 圧政を敷いていた敵の王がいなくなった今、ヘデイカは周辺国にやたら喧嘩を売るような国ではなくなった。しかも、圧政のために困窮しており、私は支援に行くことにした。


「アンネお姉様。女の匂いがします」


 なんでマイア姫は、私が新しい嫁を連れてくることにこんなに敏感なんだ。


「じつは、敵兵に弄ばれていた少女を保護したのです」

「やっぱり」


 私はスカートから魔道テントを出して、


「セレーナ、いますか?」

「ええ」


 セレーナの胸は、昨日より少し肉付きが良くなっている。今のドレスにはもう収まりそうにない。

 昨日のマッサージが遅効性で効いているのもあるし、テントの中で摂取した栄養がすべて胸に行っているのもある。


 セレーナはテントから顔を出した。そして、セレスとマイア姫の胸に目が行った。二人とも私に告ぐ胸の持ち主だ。美貌と胸の大きさは、金と権力に比例するのである。

 セレーナの中でまた憎悪が膨れ上がってきた…。


「ああああん…」


 私は慌てて背中を押した。


「ちょ、アンネ…」

「アンネお姉様…。私にも…」


「この子は敵兵にひどい目に遭わされて、情緒不安定なんです。人に囲まれるのが怖いようです」


「そう…、辛かったわね…」

「アンネお姉様…。私にも…」


「それでですね…、この子を引き…」


「アンネお姉様のバカぁ!私のほうを振り向いてください!私だけを見てください!」

「ご、ごめんなさい…。はいっ」

「あああああああああん…」


 しかたがないので、私はマイア姫の背中を押した。


「この子を引き取ろうと思うのです」


「いきなり私たちの部屋に入れるのはいやですよ」

「そうですね…。大勢に囲まれると、情緒不安定になってしまいそうですしね」

「そういうことでは…」


「セレーナ、一人で寝ますか?みんなと寝ますか?」

「アンネリーゼと寝る…」


「ダメです。アンネお姉様は私のものです」

「マイア様、先ほど言ったように、私は一度メタゾールに戻って、支援物資を調達してからヘデイカ王国の支援に向かうつもりです」

「では私も着いていきます」

「マイア様はそろそろロイドステラに戻らないと…」


「そうよ、いつまでも悪いわ。ヒルダたちも、領地をほったらかしなんでしょ?」


「アンネお姉様のバカぁ!」


 マイア姫はぷんすかして、司令室から去ってしまった。




 というわけで、マイア姫やヒルダなどの貴族やお嬢様方には帰ってもらうことになった。残ったメンバーは、私、セレス、カローナ、お母様、聖女の守り手、シルバー、アリシア、リフラナ、エミリー、ドリー、メテーナ、そして、セレーナ。あと、メタゾールのヒーラーガールズ十人。


 王と王妃が不在にしてしまって大丈夫かって?七歳のクラリスと三歳のフェニラに政務の練習をさせるんだってさ。まあ、セレスとカローナは私に着いてきたいだけにしか見えないけど。


 セレーナには悪いけど、表には出さずにずっと魔道馬車ですごしてもらう。処刑されたことになっているから。

 セレーナは情緒不安定で目を離せないというのもあるけど、魔道馬車の闇の魔導石の充電要員だったりもする。三〇〇人用の魔道馬車の魔導石はプロセーラに充電してもらったものであり、私では維持できない。だけど、セレーナなら何年も持たせられるんじゃないかな。半年分の容量の闇の魔導石しか積んでいないけど。


 一度メタゾールと王都に戻って、食料やインフラ機器、開拓要員などを調達した。



 ヘデイカ軍が国に帰り着くまで二ヵ月間もある。

 と思ったら、二ヶ月というのはヒストリアの最東端のピラノアから、ヘデイカの最西端までの時間だった…。ヘデイカ軍は、ヘデイカ王国の最西端から一つ次の領地に入ったばかりだった…。

 せっかくだから、ヘデイカの王都までの距離を計測してきた。王都に帰り着くにはまだまだ六ヶ月かかりそう…。アホか!


 しかたがないので、ヘデイカ王国の地下にトンネルを掘って、道路や通信施設の整備を先に始めてしまった。敗戦国なんだから、何されても文句言うなよ?


 それでも八ヶ月もかからないで終わっちゃったから、ヘデイカ軍が帰り着くまでロイドステラに帰って仕事していることにしたよ!

■アンネリーゼ、ヒルダ、シンクレア、ロザリー、シルバー(二十二歳)

■クローナ、メレーナ、ソラーナ、エリス(二十二歳)

■マイア、アレスタ、グリメサ、タルメア、ロコイア(二十歳)

■リンダ(三十二歳)


■アリシア(十一歳)

■イミグラ(二十八歳)、ゾーミア(二十七歳)、レルーパ(二十八歳)、マクサ(二十六歳)、アマージ(二十七歳)

■リフラナ(二十歳)、エミリー(三十二歳)

■マイア姫のメイド四人と騎士二人

■ヒルダとシンクレアとロザリーのメイド三人


■セレスタミナ・カローナ(二十二歳)

■レグラ・フェナージ侯爵(二十六歳)


■クラリス・ヒストリア第一王女(七歳)

 セレスタミナとカローナの子。


■フェニラ・ヒストリア第二王女(三歳)

 セレスタミナとアンネリーゼの子。


■ファルナ・エッテンザム公爵令嬢(一歳)

 カローナとアンネリーゼの子。


■レジーナ・フェナージ侯爵令嬢(誕生)

 レグラとアンネリーゼの子。


■ドリー、メテーナ


■セレーナ・コークス(十六歳)

 過酷な過去を持つ転性者。

 アンネリーゼの前世の母国人と同じような人種。腰ほどまでの黒髪。平たい顔。

 前世の母国人の平均的な十六歳よりも、かなり胸が小さい。ドレスを着ると真っ平ら。

 しかし、アンネリーゼに豊胸してもらった。


■タリオン・ベポタス侯爵

 ヘデイカ軍の総指揮。


■ヘデイカ王国

 ヒストリアより東に五〇〇キロのところにある国。


◆ピラノア侯爵領

 ヒストリア王国の最東端。

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