50 南の大陸の勢力拡大といえば
ダイアナはミスリーを連れてロイドステラ王国に戻ってきていた。
「うう、ダイアナ様…、気分が…」
『つわりが来ましたね。ベッドでお休みください』
「私、ほんとうにダイアナ様の赤ちゃんを授かったのですね!」
ゾルピデム帝国からの帰りの馬車で、ミスリーを妊娠させてしまった。
先日、つわりが来る前に、大急ぎで結婚式を挙げたばかりだ。
ミスリーには純白のミニスカウェディングドレスを着せて、私は漆黒のミニスカウェディングドレスを着て、心の底から幸せだ。
今頃ジフラーナもルネスタ第一皇女とよろしくやっているだろうが、ジフラーナにはまだ性欲が芽生えていないので、いまいち盛り上がらない。
「はい…」
私はミスリーをお姫様だっこして、個室のベッドに運んだ。
「あああん…。もっとぉ…」
私のマッサージでは、妊娠に伴う諸症状を劇的に改善させることはできない。
しかし、ママ級のカイロプラクターであるジフラーナはゾルピデム帝国に置いてきてしまった。
かといって、ママにやってもらうと、ミスリーをママに奪われかねない。
いや、まあ私だって並のヒーラーガール以上にできるし、下々の者はヒーラーガールにお世話になっているのだけど…。でも、もっとミスリーのつらさを和らげてあげたいのだ。
はぁ。こんなとき私は無能だ。
ママやジフラーナの半分の威力でよければ、薄緑の精霊を持った私の娘にやらせればよい。フラーラは快く面倒を見てくれるだろう。
しかし今、ミスリーは妊娠中。ミスリーとは大部屋ではなくて、個室で一緒に過ごしているのだ。
そもそも、大部屋には今、八つ子を妊娠中のワイヤしかいない。銀髪転生娘は離宮に独立してしまったのでいないのだ。とはいえ、残りの銀髪娘二十八人も、親が領地での改革を一段落させて、王都に帰ってくる予定だ。
まあ、ジフラーナ以外に私の顔とそっくりな銀髪娘がたくさんいることを妊娠中のミスリーに伝えるのは、あまりよくないだろう。私がミスリーにぞっこんなのは確かだが、他の三十人の嫁を愛でていないわけでもない。妊娠中のミスリーを大部屋に投入するのはまだ早い。
そういうわけで、ミスリーに悪影響の少ないカイロプラクターを招いた。
「ダイアナ様、こちらの部屋ですか?」
『ええ、フラベーナ。よく来ました。
こちら、ダイアナ・メタゾール公爵としての正妻である、ミスリーです』
「ミスリーと申します。ゾルピデム帝国から嫁いで参りました。このような格好で失礼します」
「ごきげんよう、ミスリー様。私は第一王女のフラベーナでございます」
フラベーナはスカートをめくって脚を交差させて少しかがみ、カーテシーをした。
「まあ、ロイドステラにはジフラーナ様の他にもしっかりとした姫様がいらっしゃるのね」
「お褒めに預かり光栄です」
『フラベーナ、ミスリーのおなかには赤ちゃんがいます。そのために身体がいろいろ準備をしていて、とても身体の調子が悪いのです。授業で習いましたね』
「はい」
『フラベーナにはその不調を癒してあげてほしいのです』
「分かりました。うつ伏せになってください」
「はい。お願いします」
「それではっ」
「あああああああああああああん…」
ミスリーがベッドでうつ伏せになり、フラベーナが背中を触れると、ミスリーの可愛い声が響いた。
さすが、ママやジフラーナAの半分ではあるが、かなりの威力だ。ダイアナとは威力の桁が違う。
それに、手つきが慣れている。専用の離宮を建ててカルボシスティナを毎日愛でているだけはある。
「はぁ…はぁ…。フラベーナ様…、ありがとうございました」
「どういたしまして」
「それでは」
フラベーナは退室した。
「フラベーナ様は素敵な子ね」
『はい…』
やっぱりマッサージには中毒成分が込められているので、他の誰にやらせてもミスリーを奪われかねない。
『明日は第一王女のデルスピーナを呼びます』
「まあ、さぞかし優秀なのでしょう」
『優秀なものがそろっておりますよ』
同じ者に毎日マッサージさせると中毒が強くなってしまうだろう。だから、毎日違う者にやらせるのだ。
三十人の嫁は、領地の改革が一段落して、王都に戻ってきた。
そのうちの二十八人は、お肌ぷるぷる、髪もつやつや。とても美しくなっている。娘にカイロプラクティックを覚えさせて、自分に試させていたのだろう。
ということは、娘を連れて行けなかった残りの二人…、ティノイカとプロセーラの母親は…、お肌も髪もボロボロ…、というわけではない。各領地にはヒーラーガールを最低一人は派遣しているので、治療院で働かせるのとは別に、自分のケアをしてもらっていたようだ。
それでも、他の二十八人との差は歴然。二人は他の二十八人をうらやましそうに見ている。
「あの…、ティノイカと会わせてもらえませんか…」
「プロセーラはどこ?」
『二人は今、自分の嫁候補を見つけて、離宮を作ってそちらに住んでいます。会いにいくのは構いませんが、私の手も離れてしまい、一緒にも寝ていません』
「なんとまぁ…」
「うう…」
むう…。まさか娘たちがこんなにも早く独立するとは私も思っていなかった…。
「ダイアナ様!ください!」
「私もです!」
『ではじゃんけんをして、どち…』
「「じゃんけんボン!」」
「まけたぁ…」
「勝ちました!今からお願いします!」
「私は後ですね…」
私は今夜のお相手と明日の夜のお相手をじゃんけんで決めてもらおうと思ったのに、真っ昼間からおっぱじめて、もう一人もそのあとでよいと。
夜はミスリーと寝たいから、昼間にやるといいな。
私やママの遺伝子は、皆にご褒美だと思われている。強い者の子を授かることを喜びと感じるのは、生物の基本的な本能である。
だからといって、マッサージ器としての娘が欲しいというのは、ちょっと飛躍している気がする。
『わかりました。個室の予約をしてください』
「はい!」
「私の分も時間確保しておいて!」
「いいですよ」
先の嫁は、スマホの個室予約システムで個室を予約した。
そんなわけで、私は二人の嫁に第二子を与えた。
ちなみに、夜はミスリーと寝たいので、第二子をもうける予定のない他の二十八人の嫁とはにゃんにゃんする時間が夜にはない。そこで、二十八人の嫁とは昼間ににゃんにゃんすることとなった。ああ忙しい。
二十八人の娘たちも二歳になったので学校に通い始めた。各領地でタブレットを使って自習していたが、デルスピーナやパリナが二歳の時と座学の成績は同じくらいのようである。
この子らはまだ進化の泉に行っていない。二歳児に性欲どうのこうのを教えるのは時間がかかる。当時五歳のクラリスだってそれなりに苦労した.だから、この子らは元祖エッテンザムのままであり、筋肉がほとんどなく、身体強化を使ってやっと人並みに動ける状態だ。だから、まだけっこうよちよちしている。
ママの言うとおり、生まれたときから歩く赤ん坊より、よちよちしている子の方が可愛いかもしれない。
私の大部屋にいた転性者組、フラーラとティノイカとプロセーラとコルトラは、フラベーナの離宮に移り住んでしまった。
この四人は、二十八人の銀髪娘としばらく一緒に寝ていたので面識はある。だけど、フラベーナの離宮の者でフラーラたち四人以外は、二十八人の銀髪娘と面識がないのだ。
なんか銀髪娘二十八人に便乗して、ママの嫁二軍の娘八人が学校に通い始めた。七人は三歳で、一人だけ二歳である。この子らは明るい栗毛であり、エッテンザムではないので、よちよちしていない。
この八人は二軍の娘なので、やはりフラベーナの離宮の者とは面識がない。
三十人の嫁たちは、各領地の執務室とを繋ぐリモート会議システムを設置した執務室を用意してあげなければならない。しかし、マイア姫の離宮は、ママの嫁がほとんど占拠していて、三十部屋も空いていない。
そこで、私もフラベーナにならって離宮を建てることにした。こういうときジフラーナがいれば楽なのだけど、ジフラーナも同じようなことをゾルピデム帝国でやっていると通信で報告されている。向こうはジフラーナが三人で全部やらないといけないので大変だ。やはり土木作業員を二人産んでおいてよかった。
『というわけで、ドリー、設計図どおりお願い』
『は~い』
ずもももも…。
『それから、フラーラ、焼き上げお願い』
「あいよ」
表面を焼き上げて陶器のような質感に仕上げるのは新しい建築手法だ。
「あなたも新しい離宮を建てるのですね」
マイア姫が建築現場にやってきた。
『うん。マイア姫の離宮はいっぱいだからね』
「お話があります。来てください」
私とマイア姫は、マイア姫の離宮の会議室で話すことになった。
「お父様は、前々からあなたが別派閥を作って反乱しようとしているのではないかと勘ぐっているようです」
『反乱を起こすならとっくにやっている。私としては、男など絶滅させてしまえばよいと思っているが、ママたちの意見を汲んで残してやっている』
「それで、ゾルピデム帝国で好き勝手やろうというのですか?なんですか、この報告書は」
『全ゾルピデム帝国民、女性化計画。ジフラーナが嫁いだルネスタ第一皇女を皇帝に即位させた。ハルシオン前皇帝やロラメット元皇子なども、時期を見て性転換させる。そして、全国の男を性転換させていく。あとは報告書と一緒に提出した計画書の通り』
「はぁ…。あなたの生んだ子ならできるのでしょうね…。その、女しか認められない国で、ロイドステラの男を滅ぼしに来させないでくださいね」
『うん。ここはマイア姫とママの国だから、我が儘は言わない』
「ところで…、あなたに国交を任せると不安になってしまうのですが…、西方の領地を改革したら西方の国との内通が明らかになったことは、あなたも認識していますね」
『うん』
「そこで…、あなたにはまた私の子を産んでもらいたいのです…」
『来ると思ってた…。一つ許可をいただきたい。代理出産させてもいいだろうか…』
「王である私と第二王妃であるあなたの子でなければダメですよ」
『マイア姫と私の子を体外受精して、ワイヤに産んでもらう』
「そのようなことができるのですね…。ちゃんと私とあなたの面影がある子が生まれればいいです…。間違っても尻尾など生やさぬよう」
『うん』
よし。これで開発に専念できる。
「では、また髪の毛があればいいですね」
『うん』
さて、ジフラーナと同じものを作る気はない。マイア姫から受け継ぐことのできる魔力はほとんどないから、マイア姫の子というのはあまり面白くない。
そこで、マイア姫の面影を五〇パーセント持っていればよいという条件に変えてみる。マイア姫の遺伝子を五〇パーセント持っている子供同士で結婚すれば、マイア姫に五〇パーセント似ている子になる。ぶっちゃけ、この世界で遺伝子検査をするのは私だけなので、親とよく似ていればそれでよいのである。
マイア姫の子はデルスピーナ、フラベーナ、グリシーラ、ジフラーナA・B・Cの六人であるである。この六人を掛け合わせることにする。
まずジフラーナA・B・Cの三人は一卵性の三つ子である。生物学的にまったく同一の遺伝子を持っており、ジフラーナAの卵子と、Bの卵子の違いは、Aの持っている二つの卵子の違いと同じである。AとBが同じ相手の子を孕めば生物学的には姉妹や二卵性双生児にしかなり得ない。
ところで、この世界には親から子に受け継がれる魔力の遺伝子のような概念があるため、A・B・Cの卵子の持つ魔力には微妙な差がある。ここで、Aだけが強い光に精霊を付けたおかげで脳が早くできあがり、早めに記憶をコピーできたため、Aだけが微妙に高い魔力を持つ。というわけで、卵子提供者はAのみとする。
次に精子提供者というか生成者側のデルスピーナとフラベーナとグリシーラだが、この三人は生物的に純粋な姉妹なので三者三様の子が生まれるとは思うが、それもとくに誰でなきゃならないということはないだろう。
そして、魔力の遺伝子で考えるなら、フラベーナ一択だ。
ちなみに、これでマイア姫に五〇パーセント似ているという条件を満たすが、私ダイアナと似ているかどうかを考えると、血の比率は、フラベーナはマイア五〇対アンネリーゼ五〇。
ジフラーナはマイア五〇対カローナ三七対アンネリーゼ十三だ。
この二つの平均は、マイア五〇対カローナ十八対アンネリーゼ三二となる。カローナ成分が少ないので、ダイアナとは少し離れるかもしれない。だけど、私の娘は必ず銀髪になるので、銀髪娘でさえあれば、今のところ私の娘だと疑いようもないだろう。一歳のジフラーナや二歳のフラーラが子を産むわけないのだから。
というわけで、魔道お産器…、和式便器風の短距離ワープ装置を使って、ジフラーナAの卵巣からあらかじめ採取して凍結しておいた卵子と、フラベーナの髪の毛から作った精子を掛け合わせて、試験管ベイビーを作るのだ。それを四つに分割して、一卵性の四つ子にする。
ジフラーナは心を読む魔法担当の一人と、土木作業員二人の構成だった。しかし、ゾルピデム帝国ででは一人の心を読むのに集中したせいで、警戒が疎かになった。だから、ママと同じように、広範囲の悪意や強い意思を警戒する担当と、一人の記憶をバースト転送する担当の二人が必要と考えた。
あと、土木作業員は、今ゾルピデム帝国で二人とも活躍しているので、二人必要である。
というわけで、白の精霊を付ける双子と薄緑の精霊を付ける双子の、合計四つ子にしたのである。
『ママ、今日はこの三本の髪の毛でよろしく』
「えっ、今日は三人でやるんじゃないの?っていうか、ワイヤは妊娠六ヶ月だよね」
『うん。だから、今日は精子だけ作って、それぞれここに入れてくれればいいよ』
「体外受精かな…?あまり変なことしないようにね…。はい…、これでいいかな…」
『ありがと。じゃあね』
「ばいばい」
ママに、三本の髪の毛から精子を作らせて、それぞれ別々の試験官に入れた。
ちなみに、私以外の者が本人の同意なしに精子を作ろうとすると、スマホが警告して、私に報告が来るようになっている。法律でも禁止している。
私がルールなので、私は不正をする。むふふ。
そして、解凍した卵子を入れて掛け合わせた。
『ワイヤ、入れるよ』
「うん…」
魔道お産器を使って、ワイヤの胎盤に着床させる。
『ワイヤ、前回の八つ子を妊娠してから六ヶ月になるけど、全然苦しくないね?』
「うん、まあ。体力をたくさん食われてるのは分かるけど」
『じゃあ、今回十二人くらい追加してもいいよね』
「えっ、ママ、私を何だと思ってるの」
『導線畑、子供畑』
「ひどい…。ご褒美が足りない。今回は私の子じゃないんだよね。それって嬉しくない」
前回は、ジフラーナ、フラーラ、ティノイカ、プロセーラの遺伝子と、ワイヤの遺伝子を掛け合わせた子供だった。その前は私、ダイアナの遺伝子とワイヤの遺伝子を掛け合わせた子供だった。これらは、ワイヤにとってご褒美だったのだ。
生物は自分の遺伝子に強い遺伝子を取りこんで強い子孫を残すことに喜びを感じるのである。他人の子を産むというのは、生物の根源に反している。
『たしかに。じゃあ、ミスリーと一緒に、ワイヤのこともフラベーナたちに揉んでもらおう』
「それでいいよ」
というわけで、少し顔の違う子も欲しいので、デルスピーナの髪の毛とグリシーラの髪の毛でも同じことをして、ワイヤに着床させた。三本の髪の毛というのは、フラベーナとデルスピーナとグリシーラの分だ。まあ、初期魔力の差は、それほど気にしなくていい。
トカゲなんて一度に何個も卵を産むんだから、二十人くらい一度に育てられるだろう。自分の胎盤で卵を孵化させて育てるトカゲなんて知らないけど。
この十二人にも、もちろんダイアナの記憶をコピーする。
こうして、次の三国に嫁ぐ工作員の育成が始まった。
一方で、私自身は国内開発で忙しい。せっかくロイドステラ王国の東と西を結ぶトンネルを作ったのに、線路を敷くのが面倒で、鉄道はなかなかできあがらない。
そこで、線路を敷くのはゆっくりやるとして、BRTを運行することにした。BRTは、簡単にいうと、バス専用道路を走る高速バスである。
鉄道を作ったはいいが、そんなに乗客はいないのである。だいたい、領地から領地を移動したいのは商人がほとんどである。そうなると、貨物車両が必要になる。貨物の積み込みは時間がかかるので、一人の積み込み時間のために多くに乗客を待たすのは無駄である。だから、長い車両なんていらないのである。
というわけで、まだ一般開放していない高速道路を、バスが走ることになったのである。バスは連結バスになっていて、後ろの車両は荷台になっている。なんだかんだいって、この世界の乗合馬車が、二十倍速くなっただけである…。
ちなみに、私の私的な無人貨物車両は、すでに王都とフルニトラ侯爵領の間で運行している。ただし、この無人車両が使っているトンネルは、惑星にたいして円弧を描かずに、直線上に掘ってしまったので、途中の領で下車するには適していない。だから、円弧状に別途堀りなおした。
直線道路は引き続き王家とメタゾールで私的利用する。私的利用とは、ゾルピデム帝国向けの資材の運搬である。
これでひとまず、ロイドステラ王国を南北と東西に結ぶ道路ができあがった。このままでは対角の領地が干上がってしまうので、結局、南西と北東、南東と北西を結ぶ道路もドリーに掘ってもらった。鉄道はとうぶん後だが、BRTならすぐである。
BRTは東方に開拓した第四メタゾールと、西方に開拓した第五メタゾールの農産物を周辺の領地に卸すためにも使う。各領地も地下トンネルで結ぶようにした。これでロイドステラの流通が加速するはずだ。
もう一つ開発したものがある。電気の魔力を光の魔力と土の魔力に変換する魔道炉だ。
じつは、生き物の成長や治癒を阻害することで光の魔力が得られることと、植物の成長を阻害することで土の魔力を得られることは、けっこう前から知っていた。だけど、生き物も植物も、成長とは長いスパンで行うものなので、変換には非常に時間がかかる上に、施設も大がかりなものが必要だった。
しかし、動物プランクトンのような魔物と、植物プランクトンのようなものを発見したのだ。これらは、非常に短いスパンで成長と分裂と死滅を繰り返すため、細かい単位で光の魔力と土の魔力を得られることが分かった。
これにより、電気の魔力を光の魔力と土の魔力に変換できるようになったのだ。いちばん嬉しいのは、スマホなどの電子機器から光と土の魔法を制御できるようになったことである。治療魔法や、建築、縫製などを自動化できる。
他にも、魔力の色で表示をする魔力ディスプレイがかなり使えるようになった。
今までも、電気の魔力を火と水と風の魔力に変換して、色を描いていたが、そこには緑がなかったのだ。
タブレットには胎児教育向けの魔力ディスプレイ機能が付いているが、赤と青と紫と黄しか表示できなかったので、ちょっと気持ち悪い絵になっていた。
そこに土の魔力が加わることで、緑が表示できるようになった。
それに、光の三原色でもないので、赤と緑と青を混ぜても白にならないのだ。でも白も表示できるようになった。
ほんとうは、表示をするには闇の魔力も使いたい。魔力がない部分と闇の魔力の黒色は違うのである。
魔力の色は、加色混合とも減色混合とも違い、現実の色を再現するのが難しい。
もちろん、電気の魔力のようにテラヘルツ単位の信号に変換することはできない。せいぜいキロヘルツだ。それでも、魔力を使って表示をするには十分なのだ。
画面に表示するだけでなく、空中にも表示できるようになった。立体プロジェクタだ。魔力の見える者しか見られないし、半透明にしか表示できないので若干見にくい。ドリーのような精霊に見せかけようと思っても、ちょっと密度が足りない。
だけど、次世代のディスプレイ候補として申し分ないだろう。
全国に配られているスマホとタブレットには、火と水と風の魔力に変換する小型魔導炉が組み込まれているが、今回開発した光と土の魔力に変換する魔導炉は入っていない。
火と水と風の魔導炉は、車のエンジンのようなピストン運動で圧縮と膨張によって得られるエネルギーを魔力に変換するものであり、スマホにそんなものを組み込むのには苦労した。今回は、微生物のプラントを組み込まなければならない。実用化はもう少し先になりそうだ。
「どうしたんですか、お母様…」
「アンネちゃん、ダイアナちゃん、こんなメールが来たの…」
私とママは、リンダばぁばの執務室に赴いた。リンダばぁばはスマホの画面をディスプレイに表示して見せた。
『スピラです。お嬢様と私は、ロイドステラ王国を出て、東の国を目指して旅立ちます…』
「えええ…」
スピラによると、メリリーナは孤児院の少女を買うためにお金を貯めていた。ところが、人身売買の禁止法が一年後に施行されることが公表され、孤児院の子供たちはいつのまにか買われてしまいいなくなってしまった。
怒ったメリリーナは、ついカッとなって町を出てしまった。
スピラは大急ぎで魔導ナプキン補修用の材料を買いこんで、意気投合したハンターパーティとともにメリリーナと旅立つことにした。
簡潔すぎる…。スピラも脳筋だなぁ。
「いったい何でこんなことになったのかしら…」
「リーナの心の内は分からないです…」
『実は、メリリーナが国を出ていってからも、ドローンで監視を続けている。リレー通信しなければならないので、また情報はリアルタイムではなくなってしまうけど』
「そうなの?リーナちゃんは無事なの?」
『メリリーナおばさんはくたばらない。
おばさんにとっていちばん困ることは、魔導ナプキンの調達ができなくなること。おばさんはよくお漏らししてしまうので、魔道ナプキンが必須。だから、開発されたばかりのフルニトラでスピラは魔導ナプキンの材料を買いこんだ』
「ならいいわ…。でもなんでまた孤児院の子供を買えなかったくらいで…」
ジフラーナで読んだ記憶を、ドローンで収集した情報であるかのように話すことにした。
『おばさんは嫁を探していたらしいよ。それで一応、ハンターの四人組の女の子を捕まえて、にゃんにゃんしていたらしい』
「へー、どこかで聞いた話ねぇ」
「いえいえお母様、初耳です…」
『おばさんは、ママが嫁をたくさん抱えているのが気に食わないらしい。さらに、私がフルニトラでハンターを集めたときに、私の娘がいっぱいいたことにも腹を立てたらしい』
「ええ…。嫁になら私がなってあげるのに…」
「私もリーナちゃんのお嫁さんになりたかったのにぃ…」
『おばさんは最強になりたいらしい。最強になって、ママや私よりモテるようになりたいらしい。おばさんは生物としての最強争いをママとしていたらしい』
「えっ…。私、最強なんかじゃ…」
「アンネちゃんはたしかに最高に綺麗だものね。リーナちゃんにはアンネちゃんに惚れてほしかったけど、嫉妬しちゃったのね。
私、リーナちゃんのお嫁さんを探してあげなきゃいけなかったのかしら…。リーナちゃんのお嫁さんには私がなるつもりだったから、お嫁さんを探すなんて毛頭なかったわぁ…」
「私も、リーナの嫁を探すなんて考えたこともありませんでした…」
どうでもよいが、いまだにママは、私に向かって話すときだけ平民口調になり、それ以外はかたくなに貴族口調である。身内にくらいもっと砕ければいいのに。
まあ、私もフラベーナたちには崩していないな。
『それで、ゾルピデム帝国に嫁を探しに行ったんだと思う。でも、女が女を求めるロイドステラのほうが、相手は見つかる。ゾルピデムも開発が進めば相手が見つかると思うけど。なぜ開発されていない地域で、ネイティブの女好き女を探そうとするのかはもう少し探らないと分からない』
フルニトラでメリリーナを見かけたとき、ジフラーナで記憶を読んだが、メリリーナばかりにかまけているわけにはいかなかったので、そんなに奥深くまでは読んでいない。
「ネイティブの女好き…。じゃあネイティブじゃない女好きって…」
私たちの周りにいる者は、カローナとママの女好きが伝染した者ばかりである。ママにはその自覚がないのだろうか。
「それで、リーナちゃんの行方は分かっているのよね?」
『ドローンを三機付けてある。たまに出会う他のドローンに情報を渡して、リレー通信でここまで情報が来るのに、数日のラグはある』
「それなら、リーナちゃんは大丈夫かしらぁ」
『お漏らししなければ』
「お漏らししちゃったリーナちゃんをみたいわぁ」
『リーナおばさんはお漏らししても平気な顔をしているだろうから、萌えないと思う』
「それ残念ねー…」
メリリーナは、ちょっと私には計り知れない本能で動いている。まあ、放っておいても死なないだろう。放置だ。
三人で話していたら、電気魔法による脳内サーバーへ、ドローンからの情報が送信されてきた。
メリリーナの情報かと思ったら…。ドローンが徘徊しているのは、ロイドステラ王国の周辺だけではない。ヒストリア王国の周辺でも徘徊しているのだ。そして今回の情報は、ヒストリア王国の東側からだ。
『ヒストリア王国の東側から、隣国から一万の兵士が進軍してきているらしい』
「えええ?何それ、突然過ぎる!」
「セレスちゃんとカローナちゃんは無事なの?」
『今入った情報は三日前のものだけど、徒歩での五〇〇キロの道のりを行軍するから、ヒストリア到着まで二ヶ月はかかるんじゃない?』
「セレスとカローナは知っているの?」
『ヒストリア王国周辺の警戒情報は伝わるようになっている』
『私の心を~♪奪ったあなた~♪』
「あれ…」
「あら」
これは、セレスやカローナからの着信音だ。ママのスマホから鳴っている。
ママがスマホ画面に触れると、ビデオチャットが開始された。
『アンネ!隣のヘデイカ王国がヒストリア王国に向かって進軍しているって情報が入ったのよ!』
『相談に乗ってくださいまし!』
スマホに映ったセレスとカローナは焦った様子だ。
後ろには大きなおなかのレグラもいる。おっと…、予定日は敵国がやってくる頃じゃないか…。
『まあ落ち着いて。敵兵は一万。移動は徒歩。ヒストリアの最東端のピラノア侯爵領に到達するのに二ヶ月はかかるだろう』
『それまでに兵を集めればいいのね』
『しかし、迎え撃つ東側の侯爵領の兵を全部集結させても三〇〇〇です。このままでは押し負けてしまいますわ…』
『なんのための兵役か。なんのための教育か。セレスが即位してからの十年間、国民を育ててきたのは、今、このときのためだったと言っても過言ではないだろう。
国民はすべて、剣技や魔法を学んでいる。十歳前後の者は特に魔法に長けている
今こそ、セレスタミナ王と、聖女アンネリーゼに名の下に、国民を立ち上がらせるべきだ!』
「えっ、私?」
『そうよね!このときのためにみんな鍛えてきたんだわ!』
『それでは、東側の領地の者に連絡して、集結させますわ!』
『まあ、落ち着いて。まだ第一報が入ったばかりなんだよ。向かう先はヒストリアなんだけど、目的も分からない。宣戦布告とかないのかな?
そういうわけだから、ドローンを送って一日情報収集する。虫型のドローンで、近づいて会話を盗み聞きすることもできるよ』
ゾルピデム帝国では、情報収集を怠ったため失敗した。ドローンが風を出すから人に近づけないなどと甘んじているわけにはいかない。
そこで、小さな虫型のドローンや鳥型のドローンを作った。鳥は単独で行動するが、虫は普通のドローンの中に格納されていて、適宜出動して、今まで入れなかった家の中などの情報収集を行う。
じつは、真珠のように見える私のネックレスの玉も虫型ドローンである。数が少なくなっても、すぐには分からないようになっている。
『わ、わかったわ…。まだヒストリアに攻めてくると決まったわけじゃないものね』
『そうですわね…。戦争の理由も分からなければ、避けられる戦いも避けられませんわ…』
というわけで翌日。進軍中のヘデイカ王国軍の近くに、虫型や鳥型のドローンを忍ばせて、聞き耳を立てて得られた情報が集まってきた。
昨日は成り行きでリンダばぁばの部屋で話をしてしまったが、今日は私の執務室で、マイア姫とママだけを呼んでおり、リンダばぁばは呼んでいない。
『それで、どうだったのかしら?目的は?』
またまたセレスとカローナと、ビデオチャットだ。
『それがまた…、エッテンザムの撲滅…』
『まぁ…、わたくし…、やはり光魔法を学んではならなかったのですわね…』
『安心するといい。エッテンザムに仇成す者は、私が全員女にしてやる』
「ちょっと待ってくださいダイアナ…、またゾルピデムと同じようにしてしまうのですか?」
マイア姫にはゾルピデム帝国の開発計画書を提出してあり、マイア姫はそのことを言っている。
『また、ってなんですの?』
「ダイアナはつい最近、ロイドステラの隣国のゾルピデム帝国の国民全員を女の子にしてしまったのです」
『待って、実行に移すのは一年後だってば』
「ならもうちょっとなんとかならないのですか…」
『だいたい、国を支配しているのはエッテンザムじゃなくて、アンネママの洗脳だ。ママが全国に女好きの電波をまき散らしているんだ。それなのにエッテンザムのせいにされているんだ』
「えー、私のせいなの…」
『まあ、アンネに拾われてしまったわたくしのせいでもありますわね』
『理由は分かったけど、ヘデイカ軍はヒストリアをどうしたいのかしら』
『国民を皆殺ししようとしているらしい』
『穏やかじゃないわね…』
『だから私が全員女にしてやる。進軍しているのは全員男だ』
「もう。ダイアナに任せるとろくなことにならなそうだから、私が行くよ」
『じゃあ、メタゾール兵三〇〇人とヒーラーガール十人を連れていくといい』
「それではセレス。準備して向かいますね」
『ええ。よろしくね!』
『頼みますわ!』
アンネリーゼは王城で戦争に向けた準備を進めていた。
「ごめんアンネ王妃様、さっきの話、ドアの外で聞いちゃった」
先ほどダイアナの部屋で話していたときは、メイドとして付いていたマクサをドアの外で待機させていた。
マクサに聞こえていることはなんとなく分かっていた。つまり、
「ええ、もちろんみんなも連れていきますよ」
「やった!イミグラたちに伝えてくるね!」
「はい、お願いします」
ほんとうは戦争なんかにみんなを巻き込みたくないけど、戦いに聖女の守り手を連れていかないでどうするというのか。この子たちだって、活躍の機会が欲しいんだ。
それから私は、ヒーラーとして連れていく子に声をかけて回った。
「アリシア、お願いがあります」
「なあに!お母さん!」
「シルバー!」
「はい!」
「リフラナ、指令です!」
「何なりと」
ヒーラーガールズはヒストリアでも育っている。ヒストリア全国からかき集めれば、前線で使える子は五〇人。後方で治療に専念させる子なら、ヒーラーガール候補生も含めて三〇〇人は確保できるだろう。
ヒストリア兵のうち、専門の軍人は三〇〇〇。残りは普段普通に生活しているヒストリア国民だ。
連れていくメタゾール兵三〇〇だって、大事な領民だ。誰一人死なせたくない。
「アンネお姉様。準備できました」
「アンネ、いつでもOKよ」
「よーしがんばるよ!」
「私、作曲はムリですが、作詞します!」
「いくわよぉ~」
「えっ…」
呼んでない子が五人…。マイア姫とヒルダとクレアとロザリーとお母様…。
しかも…、白のミニスカアイドル衣装…ふうの鎧、インナーアーマーなし…。
しかもこれ…、紐なしブラだ…。結婚式で着たやつ…。左右の胸がノーブラ状態で自由に揺れるやつ…。
肩も腕も防御力ないし、大丈夫かな…。
ヒーラーとしても戦力としても、本物の戦争には連れていきたくないんだけど…。
ところで、ロザリーは何の話をしているの…?
後ろにいる、マイア姫のメイド四人と騎士二人と、ヒルダ、クレア、ロザリーのメイド三人、コーリル、エミリーが、装飾の少ないバックダンサー用のアイドル鎧を着ている…。
「私、アンネリーゼ様のために頑張ります!」
「わたくしも一度やってみたかったのです」
「アンネリーゼ様とご一緒…」
「楽しみですぅ~」
クローナ、メレーナ、ソラーナ、エリスまでアイドル鎧…。
「はりきっちゃいます!」
「緊張せずにできるかな…」
「お供させていただきます」
「アンネリーゼ様のお役に立てるときが来ました!」
アレスタ、グリメサ、タルメア、ロコイアも…。
それからヒーラーガールズの十人も、バックダンサー用のアイドル鎧で登場…。ただし、紐なしブラではない。
さっき声をかけた聖女の守り手と、アリシア、シルバー、リフラナがいつのまにかアイドル鎧に着替えていた。
えっ、リフラナはナバックダンサーじゃないの?なんで紐なしブラなの?
いやいやいや…、みんないったい何しに行くのかな…。
『はぁ~い』
「これだけお嫁さんが行くのだから、ドリーも行きましょう」
ドリーは葉っぱ水着以外着られないよ。
「アンネお姉様、まだ着替えていないんですか?」
「えーっと…」
私も紐なしブラのアイドル鎧を着ないといけないのかな…。私の胸は、カローナほどではないけど、ロイドステラいち大きいので、ノーブラ状態ではさすがに戦えないのだけど…。
「いいから早くしなさいよ」
「ほら、脱いで」
「お手伝いします」
ヒルダとクレアとロザリーが強引に…。ビリっ…。
「あっ…」
なんでみんなドレスを脱がすと言って破くのだろう。そりゃ、着るより作り直す方が簡単だけどさ…。
だいたい、ヘデイカ兵到着まで二ヶ月あると言っているのに、今から着替えてどうするのだ…。
「初めての子は二ヶ月あってもものにできるかしら」
「大丈夫、私がサポートするよ」
「私、頑張りますね!」
ヒルダとクレアとロザリーは二ヶ月間戦闘訓練でもするつもりなのかな…。
「ダイアナが新曲を用意してくれたんですよ。そのうち一曲は、私が作詞するのです!」
「歌もダンスも練習しなきゃいけないのに、作曲までやるなんて大変よ」
「まあ、ロザリーならなんとかこなすよね」
はぁ…。分かっていたさ…。みんながヒストリアに何しに行くのかって、そりゃ、歌って踊りに行くしかないよね…。
でもいいのかな…。全員子持ちの母なんだけど…。ママさんバンドみたいな…。いや、前回も私は子持ちの母だったけどさ…。
前世だと重婚は許されなかったけど、この世界では既婚の人といくらでも結婚できるから、ママでも大丈夫かな…。
まあ、いちばん年上の私やヒルダでも二十二歳だし、まだまだピチピチだよね。っていうか、みんな永遠の十七歳だから、十五歳にしか見えないし。
「さあ、ダイアナが馬車を用意してくれたようなので、出発しますよ」
っていうか、マイア姫も行くんだ…。王がほいほい他国に行っていいのかな…。
夜に出発して、明日到着の予定だ。
魔道馬車に乗り込むと…、
「三十人部屋が何部屋あるの…」
『ママたち以外にもメタゾール兵三〇〇人乗せるからね』
「マジで…」
私たちの寝る大きなベッドが置かれた部屋が一つ。他は十個のベッドがある部屋が三十。
他にも、兵糧を積むための倉庫などがたくさんある。
この魔道馬車の影収納は、とても私やダイアナでは維持できない。プロセーラに魔力を込めてもらった魔道石積んでいるらしい。四〇〇人分の空間を半年維持できるそうな…。
プロセーラには大きな闇の精霊が付いているので、これだけの空間を維持できるのか…。
「大きなベッドの部屋が一つということは…」
「私たち、アンネリーゼ様たちとご一緒できるの?」
クローナとアレスタが目を輝かせている。他の六人もだ。
「あなたたちは十人部屋で寝なさい」
「マイア様、酷いわ…」
「十人部屋はメタゾール兵で埋まるって…」
「マイア様…」
私はクローナたちに混ざって、しゅんとしてみた。
「はぁ…。今日だけですよ」
「「「「「「「「ありがとうございます!」」」」」」」」
クローナたちはとても嬉しそうだ。
「あの…、私もご一緒…」
上目遣いで、少し悲しげな顔で言ってきたのは、リフラナだ…。なんて可愛いんだ…。
「もちろんいいですよ!」
私はすぐにOKしてしまった。けど…
「なに勝手に許可しているんですか!」
「うう、ごめんなさい…」
「私はアンネお姉様のことを思って厳しく言ってるのですよ。またメイドが押しかけてきたらどうするのです!」
後ろからの視線を感じた。マイア姫のメイド四人と騎士二人、コーリルとエミリー、ヒルダとクレアとロザリーのメイド三人だ。
「この子たちも私の嫁なので…」
あれ、ここにいるのは全員私の嫁だ。
「もう知りません!馬車の中だけですよ!」
「「「「「ありがとうございます!」」」」」
メイドと騎士たちはとても嬉しそうだ。
それにしても、なんでダイアナは夜の出発にしたんだろう…。王都からメタゾールまで二時間、メタゾールからヒストリアの端のバステル領まで四時間、バステル領からヒストリア王都まで二時間。朝に出れば夕方には着くのに…。
と思ったけど、旅行でもしないとメイドさんたちときゃっきゃうふふする機会はないのだ。これはダイアナなりの気遣いか!
旅行じゃなかった。戦争だった…。
『早く出発しなよ』
「あ、うん。留守番よろしく」
というわけで、シルバーは馬車を出した。これだけいっぱい嫁がいる中で、シルバーだけ走らせてごめんね…。
「それではまずお風呂ですかね」
「「「「「はーい」」」」」
クローナたちとだって毎日お風呂に入っているし、たまに一緒に寝ているのだけど、やっぱりみんなと毎日一緒にすごしたいのかな…。
まあ、メイドたちとはほんとうにこういう機会でしかお風呂に入らなくなっちゃったから、メイドたちが嬉しがるのは当然だよねえ。
お風呂は大部屋に併設されていた。ちなみに、三十部屋ある十人部屋にもそれぞれ風呂が付いているらしい。この魔道馬車、贅沢すぎる…。
「「「「「ああああああああああああああああん…」」」」」
お風呂から上がると、すでにメタゾール兵三〇〇人は乗り込んでいた。これだけ人数がいると、お風呂で二時間過ごしてしまうのはしかたがない。
廊下で鉢合わせしたメタゾール兵の男の子から挨拶されたけど、なんだか懐かしむ感情が伝わってきた。
ちょっと深読みしてみると、領主様と奥様方のお風呂のお声を聞くのは何年ぶりだろう、とのことだった…。
それって、懐かしいんだ…。メタゾールでは私たちが毎日にゃんにゃんする声が聞こえていたのに、私が王都に行ってからパタリと消えてしまったので寂しかったそうな。そんな、領地中に響くようなほど声を上げていたかな…。
あれ…、離宮でもそうなのかな…。
ダイニングキッチンは大部屋とつながっている。他の部屋からは入れない。だからというわけではないけど、風呂上がりでネグリジェを着て夕食を取った。先にお風呂に入ってしまうと、たいていネグリジェでご飯をいただくんだよな。
三十人用の大きなベッドにみんなで入ったのだが、あれ…。
私、マイア姫、ヒルダ、シンクレア、ロザリー、
イミグラ、ゾーミア、レルーパ、マクサ、アマージ、
お母様、アリシア、ドリー、
クローナ、メレーナ、ソラーナ、エリス、
アレスタ、グリメサ、タルメア、ロコイア、
リフラナ、コーリル、エミリー、
マイア姫のメイド四人と騎士二人、
ヒルダとシンクレアとロザリーのメイド三人。
三十三人いるのか…。べつに三十人部屋に三十三人入らないことはないけど。っていうか、ドリーをカウントしてもしょうがないから三十二人か?
いやむしろ、みんな私の周りに密集するから、スペースは余りまくっている…。
だいたい、今までも子供たちを加えた上で三十人部屋ですごしてたんだもんな。子供たちはもう独立しちゃったけど…。
あと、外にいるけどシルバー。
今日はフリフリのネグリジェのお嫁さんがいっぱいで嬉しいなぁ。スケスケではないよ。エッチはしないから。
今日のポジションは、アプリを使って完全にランダムで決めたらしい。
右がリフラナ、左がレルーパ、下がお母様、上がクレア。
そして、なぜか前というポジションが追加されていて、ランダムではなくマイア姫が王権で陣取った。
さらに、後ろというポジションまで追加されていたけど、普通の女の子は潰れてしまって耐えられないので、アリシア専用ポジションとなった。今回リフラナは右にいるけど、リフラナなら後ろも耐えられるかもしれない。
さらに、中という幻のポジションが…。ってドリー専用じゃんか…。精霊には実体がないから、人間と重なることができる…。私は光の魔力を込めればドリーに触れることができるけど、そうでなければ素通りする。
『アンネちゃんの中ってこんなに気持ちいいのね~』
なんだか私も気持ちいい…。
まあ、みんなとはお風呂で戯れたので、全員に授乳して全員から授乳されて、すなおに寝た。
と見せかけて…。
この馬車には三十人部屋の他に十人部屋が三十ある。そのうち、二十二部屋が女子部屋である。あれ、女の子多いな…。メタゾールの男女比、いつの間にこんなに偏っていたんだ…。
それはさておき、残り三時間かけて領民とのふれあいを…。だって、メタゾールの人とはほんとうに久しぶりなんだ。
私はまず、私に寝そべっているマイア姫をゆっくりどかして、三十人部屋をこっそり抜け出した。
『アンネちゃんも忙しいわねー』
「しーっ」
ドリーは私の中にいたんだった…。まるで幽体を残して肉体が起き上がったようになってしまった。そして、残ったドリーはみんなに囲まれて、まるでハーレムだ…。あれ…、いつも私ってあんなふうに寝ているのか…。そして、ドリーはみんなに囲まれて嬉しそうだ。
領民の寝る部屋の扉へ。部屋の中の呼吸音で男か女かを判別…。うん、奥の方が男子部屋だな。三十人部屋に近い側は女子部屋だ。
最初の女子部屋…。なぜか鍵が開いている…。なぜかだなんて白々しい…。いや~…、女の子たちから夜這いに来てくれないかなっていう強い思いがダダ漏れなんだよ…。
扉をゆっくり開けると…、部屋の灯りは消えているけど、扉の動きに集中しているようで、開けたのがバレバレだ。女の子たちからは「キター」っていう思いがひしひしと伝わってくる。まったく、私じゃなくて男どもだったらどうするんだよ…。
というわけで、残り二時間で二二〇人では、残念ながら一人に一分もかけている時間がないので、素速く回ってしまおう。
夜這いっていったって、妊ませたりしないよ。背中を押してあげるだけだよ。
「あああああああああああん…」
「あああああああああああん…」
………。
私は三十人部屋に戻ってマイア姫を着て、残りの二十分くらいの時間を寝た。
うーん。久しぶりに寝不足だけど、この身体は妊娠時以外不調になることがない。生理のときは多少血が子宮に回されるけど、ポテンシャルは一パーセントも低下しない。
だけど、寝る時間が短いと魔力を鍛えられないので、最低六時間は寝た方がいい。
まあ、起きたからといって、私はマイア姫を着ているので、昨日のようにうまくどけない限りは、マイア姫に起きてもらうのを待つしかない。
などと考えていたら、マイア姫の目がパチッと開いた。
「アンネお姉様。昨日はどこへ行っていたのですか」
「ギクっ…、と、トイレに…」
「ナプキンしているでしょう」
「い、いっぱいで…」
「ふーん…。では、メタゾール兵の女の子は、なぜあれほど艶めいているのでしょう」
「め、メタゾールの子は美人ばかりですよ…」
「たしかに王都民より美人が多い気がします」
「でしょう」
「次回の徴兵が応募殺到にならないことを祈ります」
「えっ…、はい…」
ダメだ…。ばれてら…。他の部屋に行っている間も起きていないことを確認したんだけど…。
マイア姫の着方が悪かったのだろうか。
ところで、徴兵の応募って何だろう…。徴兵って領民を強制的に兵士として召し上げることでは…。今回、任意の募集だったのかな…。
というわけで、ヒストリア王国のヘリポートに着陸した。セレスたちが出迎えてくれた。
「ごきげんよう、マイア王、アンネ」
「ごきげんよう、マイア王陛下、アンネ」
「ごきげんよう、マイア王陛下、アンネリーゼ様」
『アンネお母様!』
セレスたちは、スカートの裾を持ち上げてパンツを見せ、脚を交差させて少しかがみ、カーテシーをした。
セレスとカローナ、クラリスとリーフ…。
クラリスって七歳だっけか…。胸をはだけさせたドレスを着ていて、すごく大人っぽくて…、何より胸が結構ある…。ロリ巨乳葉っぱ水着幼女のリーフには及ばないものの、これは将来有望だ。
ダイアナだって六歳ごろから胸が膨らみ始めて、七歳のころにはこれくらいあったかもしれない。
ダイアナは永遠のロリ巨乳美少女になって成長が止まってしまったけど、クラリスが成長すれば、胸の一房が肩幅以上あるカローナを超えることも夢じゃない。がんばれ!クラリス!
「ごきげんよう、アンネリーゼお母様」
「だー」
おお!久しぶりに喋れない幼女を見たよ!カーテシーもまだまだだね。パンツが見えない。
なんかちょっと感動しちゃったよ。デルスピーナとかパリナの代以降は、しゃべる乳児ばかりでうんざりしてたところだ…。
金髪娘幼女はフェニラで銀髪幼女はファルナかな…。フェニラは三歳で、ファルナは一歳だっけか…。
ヒストリアには、金髪娘はセレスの子しかいないだろうし、銀髪娘はカローナの子しかいないしね。ちょっと見ない間に大きくなったね…。
「ごきげんよう、セレス、カローナ、クラリス、フェニラ、ファルナ」
私はセレスたちにカーテシーをして、パンツでこんにちはをした。
「ごきげんよう、セレスタミナ王、カローナ。そして、初めまして、クラリス、フェニラ、ファルナ」
マイア姫もパンツでこんにちはした。
「セレス、カローナ、久しぶりね!」
「結婚式以来かな」
「ヒルダ、クレア!ホント久しぶりね!」
「お二人ともお元気そうで」
ロザリー以降は初対面だっけ。初めましてのパンツ見せ合戦だ。
講堂に集まった、私のお嫁さんたちとメタゾール兵三〇〇。それから、ヒストリア王国兵五〇〇。
シルバーは夜通し走ってきたのだけど、ここで作戦を聞かせたら寝てもらおう。いつもごめんね、シルバー。
「メタゾールの皆さん!ヒストリア王国のためによくぞ集まってくれました!」
ヘデイカ王国兵は一万。敵兵の到着予定は五十五日後。
迎え撃つはヒストリアの東方の侯爵領の兵士三〇〇〇。
それから、この三〇〇人輸送可能な魔道馬車を使って、東方以外の領地の兵士を五十五日間で可能な限りピストン輸送する。
ヒストリア王国は、まだ鉄道や高速道路を作り始めていないのだけど、今回、地下トンネルだけをドリーに掘ってもらって、徒歩で移動してくる付近の領地の兵士が、移動だけでも楽になるようにしておいた。エレベーターとかはないので、地下六階まで階段で上り下りしなければならないけど。
東の領地に数千の兵を二ヶ月滞在させるのは大変だ。だから基本的には二ヶ月よりちょっと前くらいに到着するように移動させる。
でも、到着してから戦闘が始まってからの食糧確保は大変だ。そのため、メタゾールでは兵士の兵糧として高カロリー携帯食を生産している。メタゾール兵は、普段は普通に暮らしている領民なので、この携帯食は非常用の乾板みたいなものだ。各家庭に無料で配布している。そして、徴兵されるときに持参するのだ。ダイアナのやつ、非常食と称して戦争の準備なんてしていたんだ…。
この高カロリー携帯食は、私がいつも持ち歩いている高カロリークッキーが元になっているようだ。
私はみんなに授乳しなければならないので、その分のカロリーを確保するのに、暇なときにいつもボリボリとクッキーを食べていた。でも最近は私のお嫁さんは全員母乳が出るようになっているので、授乳しあうのが習慣となっている。そのため、出ていったカロリーはおよそ戻ってくるので、高カロリークッキーをあまり食べなくなってしまった。
多くの子は私としか授乳しあわないけど、聖女の守り手なんかは全員互いに授乳しあっているようだ。
それはさておき、魔道馬車には大量の高カロリー携帯食が積まれている。二ヶ月後に兵士が集結してからも、かなりの期間の食料を供給できるということだ。
一方で、ヘデイカ王国軍一万も二ヶ月間行軍してくるのは大変だろう。途中で魔物を狩ったりして自給自足でしながら来るだろうけど。
ヘデイカ王国の人口がいくつか知らないけど、ヒストリアは九年前国民全員を押したときは、たかだか三万人だった。そのうち三分の一を二ヶ月も戦争に取られてしまったら、国の経済は死んでしまうのではないだろうか。
そうまでして滅ぼさなきゃいけないエッテンザムって、よほどの悪だと思われているようだなぁ…。ダイアナはエッテンザム公爵家でどんな資料を読んだんだろう…。今回の戦争が終わったら、見せてもらおうかな…。
というわけで、作戦の説明を終え、しばしの休息。
私はシルバーをねぎらってあげた。
そんなわけで、戦争の準備で時間は過ぎていった。
そして、ヘデイカ王国軍がヒストリア最東端のピラノア侯爵領にあと数日というところまで迫ってきたというときに、
「うぅ…」
「レグラ、陣痛が始まりましたね」
こうして、レジーナ・フェナージ侯爵令嬢が誕生した。すぐに私とドリーで作った薄緑の精霊を付けた。
っていうか、レグラはいつの間にか侯爵位を継いでいた。
戦争が始まる前に生まれてよかったなぁ…。
ヘデイカ王国軍の到着予定地は、ダイアナのドローンが盗聴した内容から分かっているし、常にドローンが進行方向を監視しているから、集結したはいいけど敵は別の領地に行ってしまいました、なんてことにはならないようになっている。
もちろん、戦闘中に周辺の領地に向かっても大丈夫なように、周辺の領地にも兵を裂いている。
ヘデイカ王国軍がヒストリア王国に到達するまで、あと一日というところまで迫ってきた。今日は付近の森で一夜を明かすようだ。それは計算済だ。
そしてその森には…、
『ぎゃー!』
『木が動いているぅ!』
ドリーの作ったトレントを放ってある。
あまり先制攻撃は仕掛けたくない。攻撃されたから反撃したという大義が欲しいからだ。これは前世の人種のさがだろうか。
でも、これはべつに、森の魔物が敵兵をかってに襲っているだけだし。
それをドローンで撮影して、スマホで監視している私とマイア姫。
「これは素晴らしい作戦ですね…。こちらは傷つくこともないし、恨まれることもない。翌日仕掛けてきたとしても、士気が下がっていることでしょう」
トレントは食べられないし、敵は消耗するだけだ。だけど、トレントは既存の木に土の魔力を流し込んで作るものらしく、あんまりやると森がはげてしまう。
動詞一言二言のような単純な命令しか受け付けず、長続きもしないので、今回のように直前で命令を与えられるような状況でなければ、門番のような使い方は難しい。
『はぁ~い、ただいま~』
「ドリー、お疲れ」
「アンネお姉様…。ドリーという嫁が帰ってきたのですね…」
「あ、はい」
マイア姫にはドリーが見えない。私が見えない嫁とエッチしていると、まだ勘ぐってるようだ…。
「あら、マイア様は知らないの?スマホのカメラを通して見えるのよ」
「なんと!そんな重要なことを教えなかったということは、やはり私の見えないとこ…」
しまった。セレスはリーフを見るためにカメラで精霊が見えることをしっているんだった。それがマイア姫にバレてしまった。
「わーもう!やってません!今ではもう、精霊の見える人はいっぱいいるんですから」
「昔はやっていたのですね!」
「昔もほとんどできませんでした!」
「やっぱやっていたんじゃないですか!」
「ぎゃー」
みんなの前でやったのなんて、リーフを作ったときだけだよ…。
「この方がドリー…。葉っぱの水着…」
『はぁ~い』
「スマホから声が…」
精霊の声を普通の聴覚で聞こえるように変換する機能が付いたらしい…。
「アンネお姉様、メテーナという者も見せてください」
「はい…」
私が命じるまでもなくメテーナが姿を現した。
『ごきげんよう、マイア様』
「まあ、聞いていたとおり、アンネお姉様そのものですね」
『そうなのです。自分と同じ顔だからといってエッチしてくれないので安心してください』
「性格はちょっと違うようですね…」
「そうなんですよ…。私はドリーともメテーナとも隠れてエッチしたりしないので、もう勘弁してください」
マイア姫はスマホに映したドリーとメテーナを見たあと、私をジト目で見て何か言いたげだったが、黙っていた。
とりあえず、今夜は敵兵をトレントに任せて、私たちは魔道馬車でお風呂に入って寝ることにした。
「「「「「ああああああああん…」」」」」
今回はシルバーも一緒だよ。
■ワイヤ
八つ子を妊娠六ヶ月にもかかわらず、さらに十二人の子を孕まされた。
■アンネリーゼ、ヒルダ、シンクレア、ロザリー、シルバー(二十二歳)
■クローナ、メレーナ、ソラーナ、エリス(二十二歳)
■マイア、アレスタ、グリメサ、タルメア、ロコイア(二十歳)
■リンダ(三十二歳)
全員、永遠の十七歳なので、十五歳の頃から身長はあまり伸びていないし、若干童顔っぽさを残している。
胸やスタイルは成長している。
■アリシア(十一歳)
■イミグラ(二十八歳)、ゾーミア(二十七歳)、レルーパ(二十八歳)、マクサ(二十六歳)、アマージ(二十七歳)
■リフラナ(二十歳)、エミリー(三十二歳)
■マイア姫のメイド四人と騎士二人
■ヒルダとシンクレアとロザリーのメイド三人
■セレスタミナ・カローナ(二十二歳)
■レグラ・フェナージ侯爵(二十六歳)
■クラリス・ヒストリア第一王女(七歳)
セレスタミナとカローナの子。
■フェニラ・ヒストリア第二王女(三歳)
セレスタミナとアンネリーゼの子。
■ファルナ・エッテンザム公爵令嬢(一歳)
カローナとアンネリーゼの子。
■レジーナ・フェナージ侯爵(誕生)
レグラとアンネリーゼの子。
◆ピラノア侯爵領
ヒストリア王国の最東端。




