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45 神々のいたずら

 アンネリーゼはダイアナの執務室に赴いた。


「ダイアナ、ワイヤの子、産まれたの?」

「うん」

「嬉しくないの?」

『受精したときに分かっていたことだけど、転生者じゃなかった』

「私は転生者が生まれるほうが嬉しくないけど」

『ワイヤが卵から出てきた日から数えて九年四ヶ月で妊ませたけど、受精してから十年二ヶ月なのかもしれない。そうなると、ワイヤの卵がいつ受精したのか分からないからお手上げだ…』

「知らんがな…」

『でもこの子が九歳四ヶ月のときに妊娠すればちゃんと行けると思うんだ』

「かってにしてよ…」

『残念ながらアリシアの子も転生者じゃないんだよ』

「それは幸いだ」


「はじめまちて。エウレカでちゅ」

「しゃべる新生児来た…」


 エウレカと名乗った銀髪の乳児には…、トカゲのようなしっぽとコウモリのような翼があった。ヒト型に変身できるようになったばかりのワイヤと同じだ。

 でも、ワイヤと違って翼と尻尾が銀色だ…。必ず銀髪になる設定は、なぜかドラゴンの部位にも適用されている…。これは変身したらシルバードラゴンという新しい種族になるのでは…。


 ちなみにワイヤは一年前から翼だけはしまえるようになっているけど、尻尾はそのままだ。


『転生者ではないけど、ワイヤは頑丈だから、胎児の魂百まで計画を施せた』

「なるほど…」


 ということは、フラベーナと同じくらいできるのかな…。


『私とワイヤの電気の魔力を一パーセント受け継ぎ、ママとドリーの子の精霊を付けたから、三つの属性がチート性能なんだぞ!』

「へー…」

『でもまだドラゴンに変身できないみたいなんだ』

「そういえばプラチナも馬になれないみたい」

『役立たずだ』

「酷いこと言わないで」


 はぁ…。ダイアナは相変わらず人でなしだ。


 エウレカに母乳を催促されたので与えたら、我が子のように可愛く見えるのだった。いや、この子は孫だった。


『じゃあ、エウレカを進化の泉に連れていって』

「はぁ…。昔っから立っている者は親でも使うよね…」

『私、これでも妊婦だし』

「そうだったね」


 ダイアナは魔道腹巻きを使っているので、おなかが膨れていない。一見、妊娠していることも分からないが、体中が黒ずんでいて子宮以外の部分の血行が非常に悪いことが分かる。



 その数日後、私はアリシアの子を取り上げた。

 髪は薄い金髪だ。プラチナと同じ感じかな。白とライトブラウンを混ぜるとこういう色になるんだな。


「わあ!可愛い。生まれてくれてありがとう!アリス!」

「はじめまちて、おかあしゃん」


「うわ…、転生者じゃないって言ったのに、またしゃべる新生児…」


 しゃべるどころか、生まれた直後から立って歩く新生児来た…。


「ダイアナお姉ちゃんが、胎児の魂百まで計画だってさ」

「そっか…」


 ワイヤの頑丈さで耐えられるのだから、アリシアで耐えられないはずがない。


 ワイヤと違って、翼も尻尾もない。見た目には普通の人間だ。翼と尻尾は出し入れできるようだ。爪やうろこが部分的に出せるのも、アリシアと同じにできるようだ。

 そして、完全なドラゴンに変身して見せた。なぜか髪の色素が全身に適用されて、薄い金色のドラゴンになってしまった。人間に戻るのも問題ないようだ。


 アリシアは卵のときから意思疎通できたじゃないか。人間にしか見えないアリスが同じように意思疎通できるべきかどうかはわからないけど…。何しろドラゴンハーフなんてエウレカとアリスがこの世界初だろうし…。

 とはいえ、この子は転生者ではないようだ。それだけでも助かったよ…。


 またもや喋る新生児が生まれてしまったけど、アリシアが母乳をあげたあとに私も母乳をあげたら、我が子のように可愛く思えてしまうのだった。いや、この子はもともと私の子だった。




 アンネリーゼはダイアナの執務室に赴いた。


「陣痛来たの?」

『魔道腹巻きで広げてあるから痛くはない。でも、もう産んでもよい頃合い』

「なるほど」


『はい、これ』

「何これ」


 ダイアナが私によこしたのは、和式便器のような入れ物だ…。奥の方は屋根になっている。


『自分でやる勇気はないので、ママにやってほしい』

「これに取り上げた赤ちゃんを寝かせるの?」

『その、屋根がある方に子宮に繋げるから、そこから赤子を取り出してほしい』

「はぁ?」

『影収納を利用した短距離ワープゲートだよ。この距離なら、普通の扉を開くよりコストが安い。ゲートを開くとそこから破水する』

「赤ちゃんなんだから、便器に流すのはやめようよ…」

『排水口はないから大丈夫』

「はぁ…」


 ダイアナはやることなすことおかしい。おなかの中と外を影収納で繋ぐとか…。

 でも魔道腹巻きは私も使ったんだよな…。おなかの中に影収納を作るとか、改めるととても怖いことだ…。


『じゃあ開けるね』

「いいよ」


 便器の奥に穴が空いて…、おなかの中が見えた…。中がライトアップされていて見やすい…。便利だな、おい…。

 そして羊水が流れてきた。便器に羊水が少し溜まった。


『おお…、おなかから何か流れ出る…。おしっこでもない、うんちでもない…』


 ライトアップされているからはっきり見える。銀髪の赤ん坊が。三人も…。


「ねえダイアナ…、三つ子なの?」

『受精した後、三つに分けた』

「へー…」

『早く出して』

「はいはい」


 三人の赤ん坊を丁寧に出した。便器に。

 マイア姫とダイアナの面影がある。ちゃんと遺伝子が半々で受け継がれているようだ。


『初めまして、私はジフラーナA』

『私はジフラーナB』

『私はジフラーナC』


「なにそれ…」


 同じ顔をした赤ん坊の三人から、口の動きとは無関係に、はっきりと声が聞こえた。どうやらダイアナがしゃべっているのと同じ仕組みだ…。

 首が据わっているのはもちろん、便器の中で、早くも立ち上がろうとしている…。


『受精直後にママの精霊を付けたら、うまいこと電気の魔力を鍛え始めた。魔力トレーニングの効率は受精してからの時間が短いほど効率が良い。分母がとても小さい時期にトレーニングできたので、私以上の電気魔法使いになった。

 そのおかげで、私の記憶をこの子たちの脳にコピーすることができた。この子たちも私と同じように電気魔法で脳内にコンピュータを形成して、私と常に通信している。

 いわば私の分散型サーバーなのだ』


「ごめん、後半がよく分かんない…」

『私の分身ってこと』

「へー…。どうして自分の子供にそんな人でなしなことするかなぁ…」

『この子たちは他国に送るスパイになる予定なので、一人で活動できなくては困る』

「たしかに、他国に嫁がせる前提で産んだ子かもしれないけどさ…。三人もどうするの?ゾルピデム帝国以外にも嫁がせるの?っていうかABCって何さ…」

『この子には三位一体で行動してもらう。表向きには一人しか生まれていないことにする。マイア姫にも言っちゃダメだよ。普段は二人は影収納に入っていてもらって、必要なときに別れて行動する』

「影収納に閉じ込めておくなんて…」

『常に記憶を同期できるから、表に出ている子と同じ気分を味わえるし、魔道ルームは快適だから問題ない。そもそも私は元来引きこもりなのだ』

「早々人間ではないね」


『おそらく五〇〇〇キロくらい離れていても、私と電気の魔力レーザー通信ができるから、ゾルピデム帝国に嫁いでも連絡が取れる。

 電気属性だけでなく、闇属性も良い感じにトレーニングできたので、影収納を使って十キロくらいのワープならできる。

 そして、ドリーに精子を作ってもらったから、ドリーの一パーセントの土の魔力も持ち合わせている!

 もちろん、ママとドリーの子の精霊を付けたから、身体強化もかなり使える。

 それから、一人だけママとメテーナの子の精霊を付けたから、心を読む魔法を使えるんだよ』


「へー…、ほんとうにすごい子ができてよかったね…」

『十ヶ月間辛い思いをした甲斐があった』


 無理矢理三つ子なんか作るから、つわりとかひどかったのか…。ほんとうに無茶をする…。魔道腹巻きの中にいたから、黒ずみとか精霊とか見えなくて、気がつかなかったよ…。


「あの…、最後のほう聞き流していたんだけど、心を読む魔法って言った?」

『うん。ジフラーナAにはママとメテーナの子が付いている』


 マジか…。心を読めるというジフラーナAに話しかけてみる…。


「えっと…、ジフラーナAはすでに誰かの心を読んだりしたの…?」

『それがね、光の魔力の強いママの心は、表層くらいしか読めないみたい』


「はぁ…。私、あなたのママじゃないんだけど…」

『私はダイアナの記憶を持っているからママはママ』


「それじゃあ他の人が混乱すると思うんだけど…」

『今だけダイアナとジフラーナABCを一人だと思って話してくれればいいよ。他の人の前では、ママはおばあさまってことにするよ』


 ほんとうにダイアナの小さな分身のようだ…。


「マジで人間やめてるんだね…。っていうか、私の記憶をかってに公開しないでね」

『まあそれだけは守ってあげよう』


 私のプライバシーは、とっくにダイアナに侵されている。いまさら記憶を吸い取られたくらいで焦りはしない。その気になればこちらも読めるのだけど、ダイアナはほんとうに遠慮がない。


「はぁ……。あともう一個、気になることを言っていたような…。ドリーに作ってもらった何だって?」


『ドリーに精子を作ってもらったんだ。魔力の継承について今まで一つ不明な要素があったんだけど、子に引き継がれるのは、両親が生まれ持った魔力の四五パーセントと、両親が生まれたあとに鍛えて得た魔力の一パーセントと、もう一つ、魔法で精子を作った場合は精子を作った人の魔力の一パーセントが上乗せされていたんだ。

 だから、フラベーナの土の魔力はすごいんだね。ドリーの一パーセントっていったら、私の土の魔力より高いよ。土魔法で細胞を作れるのはドリーくらいだけど、これは新たな発見。

 でも精子は光魔法か土魔法でしか作れないから、光の魔力か土の魔力しか乗せられない。だから、私の電気の魔力を引き継がせることはできないんだよね。残念。

 まあ、今度からママかドリーに精子を作ってもらうのがいちばんだと分かったから、そのときはよろしくね』


「えっと……、よく分からないけど、私とドリーのエッチを覗いていたのかな…」

『もちろん』

「はぁ……。それが最強生物を作る糧になったのなら何よりだよ…」

『いやー、ほんとうに良いものを見せてもらったよ』


 これだけ堂々と言われると、むしろすがすがしい。ほんとうに人でなしだな…。


 ダイアナが三人に母乳をあげたあと、私も母乳をあげた。この子たちは孫だけど、自分の子だと思えるようになった。

 よく見たら、ダイアナとマイア姫の面影があって、とても愛らしい。中身が人でなしでも、この子たちはとても可愛い!可愛いんだ!




『それではヒストリア王国に行こう』

「うん」


 カローナの出産予定日が迫っている。知らせると興奮して血行が良くなり出産日が早まるようなので、知らせずに行くことにした。


 ダイアナが連れて行くのは、フラーラ、プロセーラ、ティノイカ、そして、エウレカとジフラーナ。銀髪娘大集合だ。

 ダイアナたちの付き人は、リメザとポロンと、夜のお仕事専用のメイド二人。


 ダイアナは三十人も嫁を得て、夜のお仕事専用のメイドはお払い箱にされてはいないものの、もう夜のお仕事がなくなってしまった。だから普通のレディースメイドにしたらしい。子供もいっぱいいるし、メイドは必要だ。

 でも夜のお仕事専用だったので、あまり手際がよくない。そこで子供たちのお世話を手伝っているのがフラーラらしい。さすが、元おばあちゃん…。


 私の付き人は、シルバー、聖女の守り手の五人。

 そして、ワイヤとエウレカがいくなら、ということで、アリシアとアリスが付いてきた。


「今日はカローナばあちゃんの国に行くんだろ」

「あたし、そっちのおばあちゃん、会ったことないからたのちみ!」

「どうやったらそんなに胸が大きくなるのかってくらい胸が大きかったよ」

「なにしょれ、胸厚!」


 フラーラだけカローナと進化の泉に連れていったんだった。ティノイカはカローナに会うのが楽しみらしい。


「学校で魔法のれんちゅうちてたい」


 ティノイカはマイペースだ。


 プロセーラとティノイカはカローナには隠し子にするのかと思っていたけど、お披露目するんだ…。


 プロセーラは…猫耳を付けている…。フラーラとティノイカはリボンを付けている。カルボ…システィナのお店で調達したんだろう。それにしても猫耳なんて…。


 ジフラーナは無言だ。この子のは薄緑の精霊ではなく強い白の精霊と普通の緑の精霊が別々に付いているから、この子はジフラーナAだ。これじゃ分かる人には分かるだろうに。


 まあ、私の付き人である聖女の守り手は、付き人といっておきながら嫁でもあるので、馬車の中では一緒にお茶したり、お風呂に入ったりした。そのために連れてきたのだ。もちろんアリシアもアリスもだ。



 ヒストリア王城のヘリポートに着いた。ロイドステラの王城にもヘリポートを作ろうかな。


 セレスとレグラが出迎えてくれた。


「ごきげんよう、アンネ、ダイアナ、それから…」


「フラーラともうしましゅ、ごきげんよう」

「あたし、プロセーラ。よろちく~」

「ちょっとあんた、また王様に同じことやらかす気かい」

「げっ、おうしゃま…」

「言っただろうに」


 フラーラとプロセーラで漫才をしている。


「面白い子たちね…。そっちの子は?」


「ほらあんた、呼ばれているよ」

「えっ、ティノイカです。よろちくおねがいちましゅ」

「もう、どうちて習った通りにできないんだろうね」


 今度はフラーラとティノイカが漫才をしている。

 フラーラは面倒見が良い。ダイアナよりも子供の面倒を見ている。


「まだ一歳だものね…。それだけ挨拶できれば十分よ…。それからそっちは…」


『ジフラーナと申します。ごきげんよう、セレスタミナ王』

「あら、いちばん小さいのにいちばんしっかり喋るのね!」


 まだ新生児の域を出ていないけど、中身はダイアナだ。ダイアナというより、AIが喋っているのだけど…。


「あと、翼と尻尾の子は…」

「エウレカでしゅ」


「よろしくね。それにしても…、ダイアナの子は沢山いるのね…」


 他に二十八人いるとか言いづらいけど、私の知ったこっちゃない。


「それじゃ、寝室に行きましょうね」



 セレスに案内されて、カローナの待つ寝室へ。

 クラリスとリーフもいる。


「アンネ、ダイアナ、フラーラ!ごきげんよう」

「アンネリーゼ様、ダイアナお姉様、フラーラ、ごきげんよう」


『カローナお母様、ごきげんよう』

「カローナおばあ……」

「しゅごい爆乳!」


 ダイアナとフラーラが挨拶していたら、プロセーラがカローナの胸に釘付けになり、フラーラの挨拶を遮った。

 カローナの胸はやっと成長が止まったと思っていたけど、妊娠してまた大きくなってしまったようだ。妊娠前ですでに、一房の大きさが肩幅を超えていたけど、今はもう一回り大きくなってしまっている。そろそろ部屋の扉を通れなくなりそうだ。

 おなかではなくて、一房の胸の中に赤ん坊が三人くらい入っているのではないかと思ってしまう。


「ダイアナ…、あなたの子ですか?しつけがなってないですわね」


『挨拶くらいできないとおやつ抜きといったでしょう』

「ご、ごめんなしゃい!カローナおばあしゃま、ごきげんよう…」


 プロセーラは少しかがんでドレスをつまんでカーテシーをした。やればできるじゃないか。

 もちろん、ミニスカートをつまんだらパンツが見えるだけだが、それがこの世界のカーテシーだ。いつの間にそうなったんだろう。


「はい、よくできました。そちらの子は?」


『ティノイカ。挨拶』


「カローナおばあさま、ごきげんよう」


 ティノイカもやる気がないだけで、やればできるようだ。


「よろしい。ダイアナ、あとでお仕置きですわ」

「えー…」


「私も将来カローナおばあしゃまのようになれましゅか!」


 プロセーラはカローナの胸にまだ食いついている。


「ちゃんと練習すればなれますよ!」

「やった!」


 話がかみ合ってないと思う。でも、プロセーラは将来カローナサイズの胸が欲しいらしい。

 その気持ちは分からないでもない。さすがにこんなにでかかったら困るんじゃないだろうかと思いつつも、怖いもの見たさで自分もこの大きさの胸になってみたいとも思う。

 しかし、カローナは進化の泉で筋肉が付けられるようになってしまったので、必死になって鍛えた筋肉と、しょぼい身体強化でやっと胸を支えているという状態ではなくなってしまった。支えるのが大変というのは変わらないようだけど、以前のようにがんばっているのが可愛かったのだけど…。



「さっそく体調をみますね」

「ええ、お願いしますわ」


 ダイアナがケータイやスマホを通じてエコー画像どころかMRIを見せてくれたので、基本的なことは事前に診断済みだ。

 スマホのカメラは魔力も撮影できるし、遺伝子検査もできるけど、私の目だけに備わっている血流の悪いところが黒ずんで見える能力だけはスマホで代用できない。

 でも、毎日ヒーラーガールFに見てもらっているみたいだし、私がいなくても体調に問題はなさそうだ。問題があるのは三つ子を臨月まで育てたダイアナくらいのものだ。


「ああああん…」




 そして、二日後、私はカローナの娘を取り上げた。


「おぎゃあ、おぎゃあ」

「あなたはファルナですわ!」


 よかった。産声を久しぶりに聞いた。

 カローナの身体強化はとても弱かったので、胎児に薄緑の精霊を付けるわけにはいかなかった。だから今、薄緑の精霊を付けてあげた。まあ、デルスピーナやパリナはこのやり方で少し速いくらいだけどまともに育っているし、これでいいんだよ。


「お母様、抱いてもいいですか?」

「いいわよ」


 クラリスがファルナを抱いた。ほんとうに銀髪娘が増えたなぁ。カローナとダイアナが唯一の生き残りだったのに、たくさん増えたものだ。

 いや、増やしすぎだろう。ここにいる以外にも二十八人いるんだった。



 その夜…。


「アンネリーゼ様…、私は九年待ったのです…」

「はい…」


 執政者が三人しかいなくて一人ずつしか妊娠で抜けられないのが原因だよね…。

 そんなに言うんだったら、誰か派遣してあげればよかった…。

 貴族じゃなくてもいいのなら、別に知識を付けたメタゾール領民とかでもよかったんだけどね。


 今夜、私はレグラと一つになった。


 そして翌日、私たちはロイドステラ王国に戻った。






 マイアは、アンネリーゼとダイアナを執務室に集めた。


「フルニトラの駐在所に手紙が届いたようですね」

「うん」


 フルニトラに設置した国の駐在所は通信施設になっている。届いた手紙をスキャンして王都に電子メールとして送っている。これにより連絡が三十日短縮できる。


「前回、こちらからは何と送ったのでしたっけ…」


 アンネお姉様は半年経つと、こういう案件を忘れてしまいがちだ。


「ゾルピデムが何の交易品を出せるのか、どのような生い立ちで何歳の王女を差し出せるのか、です」

「それで回答は?」


「交易品は綿の糸と織物だそうです。アンネお姉様が絹と一緒にとっくの昔に広めていますね。これが密かにフルニトラと交易していたものなのでしょう。いまさら公にしても何の意味もありません」

『織り方は勉強になるかもしれない。少しだけ買ってやってもいいと思う』


「それなら、手紙と一緒に入っていたサンプルが、明日トラックで届くことになっています」


 フルニトラとのもののやりとりは地下トンネルを通る輸送トラックで結んでいる。ただし、一般開放しておらず、まだ国でしか運用していない。


「それより、お姫様はどんな子なのでしょう?」

「アンネお姉様には関係ないことです」

「うぐぅ…」

「アンネお姉様は懲りたのではなかったのですか?」

「メイドとお姫様は違います!」

「私だって姫だったのですよ。セレスもいるというのに、アンネお姉様は何人の姫を侍らせれば気が済むのですか?ご令嬢では足りませんか?」

「うぐぅ…」


妻妻(めめ)漫才はあとでやってほしい』

「「はい…」」


 私までダイアナに怒られた…。


『ゾルピデム帝国をドローンで視察してきた。嫁に出そうとしているのは、十一歳の第三王女』


 といって、スマホに表示されたのは、金髪の姫。


「可愛い!いただきます!」

「アンネお姉様!」


 ダイアナは話題を変えようとしたのではなかったのか。


『もうママはこれを持ってあっち行ってて』

「はーい。おお!スワイプするとアングルを変えられる!」


 アンネお姉様はスカートの中を覗こうとしながら、去っていった。私ならいくらでも見せてあげるのに…。アンネお姉様のバカっ。



「それで、第三王女の容姿以外の情報は?」


 部屋に残された私とダイアナで話を進める。


『ドローンはあまり近寄れないので音声はほとんど聞き取れないのだけど、どうやらスパイとして育てられているらしい。言語はだいたい同じだけど、方言のような違いがあるので読唇術も難しくて、断片的にしか会話内容が得られない』


「なるほど。油断なりませんね」


『それから、この王女はマイア姫よりも魔力が高い。王女に限らず、ゾルピデム帝国の者は、貴族も平民も全体的に魔力が高い。だけど、電気魔法と闇魔法を持っている者は今のところ見つかっていない』


「あなたとアンネお姉様が改革してくれていなければ、戦争になったときに負けていたかもしれませんね」


『戦争の準備は進めているけど、あの子たちが育つまで、せめてあと五年くらいは育成したいところだ』


「あの子たちとは?」


『ママが使用人に産ませた子』


「なるほど…。それは優秀な兵士になりそうですね…」


 アンネお姉様が自分のメイドやヒルダたちのメイドに手を出してしまったことから、なし崩しで押しかけてきた使用人は一二〇人おり、その娘も一二〇人いる。ちなみにアンネお姉様はその数を把握していない。


『あとは私の娘たち』


「自分の娘を戦場に赴かせるとは相変わらず鬼畜ですね」


『ジフラーナはあと一年もすればスパイとして送り出せる』


「情が移ってしまいますから、私の元に連れてこないでください」


『それは分かっている』


 たとえ私の血を分けた娘といえども、政略結婚の道具として産ませた娘に情を移してはならない。

 私の娘は、デルスピーナとフラベーナとグリシーラだけでいい。



「それで、王女の交換はいいとして、交易に利がありません。アンネお姉様が絹を広める前は、ゾルピデム帝国の綿織物は貴族の服の唯一の素材であり、今でもフルニトラ侯爵領付近ではそれを使うこともあるようですが、開発済の領地ではなんの価値もありません。高価なのは輸送費がかさんでいるだけです」


『ゾルピデム帝国のためにインフラを整える前に、ロイドステラ王国を万全にしておきたい。ヒストリア王国のように聖女の威光でごり押しできればよかったのだけど』


「今度はあなたも歌って踊るべきです」


『ヒストリアは内紛を解決した王と聖女の支持が強いからできたのであって、ロイドステラで同じことはできそうにない』


「そうなると、貴族を教育して領地に戻って改革させる、今のやり方しかないのでしょうかね。それにしても無能な者に時間を掛けすぎです」


『教育係に任命した者のおかげで加速しているよ』


「カルボスでしたか」


『正確にはカルボシスティナという名前だったらしく、今はシスティナの愛称で呼ばれているらしいよ。ほらっ』


 ダイアナは胸の谷間からもう一つスマホを取りだして、私に見せた。


「まあ…、カルボ…システィナはこんなだったでしょうか…」


 進捗でも見せてくれるのかと思ったら、本人の写真だった。こんなに可愛い子だっただろうか…。

 この衣装は…、うちの娘が与えたのか…。


「いえ、そうではなく、進捗を見せなさい」


「あい」


 たくさんの名前の横に進捗度合いを表す棒グラフが表示された。進捗の高い順に表示されており、すでに七割の者が一〇〇パーセントに達している。いちばん下の者でも七〇パーセントまで進んでいる。

 アンネお姉様の連れてきたボンクラ令嬢や、貴族の夫人も含まれている。ダイアナの嫁三〇人も入っている。ロイドステラ王国のすべての貴族家で改革の準備が進められていることが分かる。


「システィナはなかなか優秀ですね。このグラフがすべて一〇〇パーセントになったら、男爵位を与えましょう」


『フラベーナが気に入っているみたいだよ』


「どこの馬の骨かと思っていましたが、このまま成果を出してフラベーナに相応しい者になるのであれば、フラベーナに嫁がせるのも、やぶさかではありません」


 これは将来もっと可愛くなるだろう。ではなくて…、将来もっと優秀になるだろう。

 ほんとうは娘を誰にもやらず、私とアンネお姉様だけのものとしておきたい。だけど、このような者が相手であれば、くれてやっても構わないという気持ちが少しは芽生える。



「まあ、今度は使者を送ってくるとあります。こちらがのらりくらりとしているので、しびれを切らしましたかね。交易はその場で話し合いとなるでしょう」


『それならこちらから出せる交易品を見繕っておこう』


「こちらが切れるカードはいくらでもありますからね」


 アンネお姉様が初めてラメルテオンに行ってハンターの嫁を連れてきた辺りから、メタゾールの料理の野菜などが格段に増え、風味も豊かになった。そのときはラメルテオンで珍しい食材の種を仕入れてきたのかと思っていた。

 でも実際、それらの食材は、そのときに連れてきた隠し嫁…、私が見ることのできないドリーという土の精霊によってもたらされたものだという。

 アンネお姉様の嫁探しには手を焼いているけど、アンネお姉様の欲望は国のためになっているから、なかなか文句も言えない。






 転性者カルボシスティナは、女の子たちとの楽しい学校生活を送っていた。


 でも…、最近オレはますます女の子の体つきになってきている。

 とくに胸が…。まだそれほど大きくはないのに、とても柔らかいので、歩いたりするとすぐに揺れる…。揺れると服にこすれて痛いのだ…。

 ふと、クローゼットに封印した…ブラジャーを思い出した…。オレは恐る恐るそれを手に取った。胸が大きくなってきたから、これを着るしかないのだろうか…。


 まず、構造を確認する。後ろのベルトをホックで留めるようになっているのか。ホックは三段階あって、どれが丁度いいのかは実際に着てみないと分からない。


 鏡を見ながらブラジャーの紐に肩を通した。手順は合っているだろうか。背中のベルトのホックに手を伸ばしたが、届かなかった…。

 しかたがないので一度脱いで、いちばん緩いホックを留めて、頭から被ってみた。カップの下のベルトっぽい部分は伸びる素材なので、頭と肩幅くらいは通った。

 そのまま胸をむにっと潰しながら、ベルトっぽい部分に胸を通して、胸をブラのカップに入れた。


 なんとか着られた。これで着方が合っているのかわからない…。これ以上胸が大きくなったら、潰してもベルトを通らないかもしれない。


 なんだか下のベルト部分が緩くて、動いていたら胸がこすれてきた…。これじゃ意味がない…。ホックが緩かったんだ…。でも、ホックをきつくしてからだと肩や胸を通せないかもしれない。


 フラベーナちゃんはまだ二歳だからブラを着ていないだろうし、デルスピーナちゃんは三歳だけどどうだろう…。四歳でこんなに胸が膨らんでくるものなのかな…。だいたい、女の子にブラの着方を相談するなんて恥ずかしすぎる…。

 ブラジャーの着方なんて誰に相談したらいいんだ!


『手が届かないなら、前後反対に付けて、回してから肩紐をかけるといいですよ』


 タブレット画面のエージェント・アンネリーゼがニタニタしながらオレを見ていた。


「最初から教えてくれよ…」

『だって可愛かったので』

「アプリのくせに本物と同じこと言うなよ…」

『私のパンツを見たお返しです』

「はぁ…、悪かったよ…」

『それと、ブラは着るのではなくて付けるのですよ』

「なあ、オレは女の子初心者なんだから、からかわないで教えてくれよ」

『ではこれからはアドバイスしますね』


 やっとブラをまともに付けられた。動いてもずれない。こすれないから痛くない。


『ブラは胸を隠すだけのものではありませんよ。型崩れを防いだり、揺れすぎるのを防ぐ効果もあります』


 ほんとうに女の子は大変なんだな…。女になってから世界中の女の子に頭が下がるばかりだ。



 下着姿の自分を見る。胸もさることながら、ウェストもかなりくびれているし、お尻も大きい。四歳児ってこんなにセクシーだろうか…。


 ちなみに、女の子になってから髪も前髪以外は切っていないので、胸のあたりまで伸びてきた。胸を隠すだけなら、髪でもできる。髪ブラってやつだ。でも、ブラは隠すだけじゃなくて他にも役目があったなんて知らなかった。

 ある程度伸びてくるまで忘れていたのだけど、オレはキャラメイキングアプリでウェーブの髪型を選んだんだった。このまま伸ばしていくと、フラベーナちゃんのようなウェーブのお姫様になってしまいそうだ…。

 っていうか、髪の色、こんなんだったっけ…。茶色だったと思うんだけど、明るくなったような。


 しかし、タブレットでメイキングしたキャラと鏡の自分を見比べてみたけど、なんだかキャラを超えている気がする…。


 そもそもアプリで作ったキャラと本物の自分は同期しているものなのか?男キャラとして作ったのに、オレは女になってしまったから、アンネリーゼにも予想外のことが起こっているかもしれない。


 もらったドレスも胸がきつくなってきていて、たびたびティノイカのドレスをバラした生地を胸の部分に当てて整形し直している。生地がたくさんあってよかった。




 オレはいつもどおり登校した。ドレスの中に隠れていて見えないはずなのに、ブラジャーを付けているのがなんだか恥ずかしい…。なんだか女装しているみたいだ…。

 いやいや、オレは女装どころか完全に女の子になったのだし、すでにドレスだって着ているんだ。今さらブラジャーくらいで…。やっぱり恥ずかしい…。


「おはよ、システィナ」

「おはよ、フラベーナちゃん」


「おはよ」「いょーう」「ごきげんよう」「おはようございます」……


 フラベーナちゃんと愉快なお嬢様たち十五人との挨拶を済ませ、演習室に教師が入ってきた。


「今日から一緒に授業を受ける子たちを紹介します、入っていらして」


 うわっ、またか!


「わたちはエウレカ」

「アリスです」


 また乳児が来た…。去年、フラーラたちが初めて来たときもこれくらいだったかな…。


 ちょっと待ってくれ。エウレカって子には背中にコウモリのような翼とトカゲのようなしっぽがある。

 いや、よく考えたら、馬耳、馬尻尾のプラチナがいるのだ。エウレカって子も何かの動物…ドラゴンだろうか。まあ、ファンタジー世界なのだから、そういう種族がいたっていいじゃないか。


 エウレカは銀髪だ。翼と尻尾も銀だ。

 銀髪といえば、フラーラとプロセーラとティノイカの三人組だが、銀髪娘はチートキャラばっかなんだよな。

 エウレカもチートキャラ…、ドラゴンの翼と尻尾付いている時点でチートっぽいな…。


 それに対して、アリスは薄い金髪以外は、普通の女の子って感じだ。あ、でもまったく噛まずに挨拶していたな。銀髪ではないけど、乳児で学校に来ているくらいだから、神童なんだろうな…。



「それからもう一人…おいでください…」

「グリシーラ・ロイドステラでしゅ」


 うわ…、ロイドステラって、王女だよね…。デルスピーナちゃんと同じ色のブロンドだ。


「グリシーラは私と同い年の異母妹なんだよ」

「なるほど…」


 それはまた、腹違いという意味で異母と言っているのだよね…。デルスピーナちゃんと同じように、マイア王から生まれた子なのだろう。


 ゼロ歳のときから学校に通っているフラベーナちゃんと違って、グリシーラは二歳で通うようになったってことは、デルスピーナちゃんと同じくらいのスペックってことかな。去年のデルスピーナちゃんと同じくらいの身長だ。


 むしろ、フラベーナちゃんの身長はデルスピーナちゃんにかなり迫っている。フラベーナちゃんはやっぱり特別なんだろう。 



 うわ…、よく考えたら、よりにもよって剣術の授業だった…。乳児に剣を握らせるっておかしいだろ…。


 案の定、エウレカとアリスの動きはおかしい。エウレカはやっぱりドラゴンだからか…。

 いや、アリスのほうが強い…。速すぎて何をやっているのか分からない。

 剣でかなわないと判断したエウレカは…、何アレ…、レーザーを放った…。それを間一髪で交わすアリス。


「はいはい、そこまで!これは剣術の授業です!」


「ごめんなしゃい」「ごめんなさい」


 剣術の練習なんていらないだろう。


 教師はレーザーで破壊された床を、土魔法で修理した。


 ぽかーんと見ていたオレとフラベーナちゃんたち。

 フラベーナちゃんはハッと気が付いて、


「システィナ、やりましょっ」

「うん…」


 フラベーナちゃんは手加減がうまいので、オレに痛くないように当ててくれる。

 いっぽうで、オレの攻撃はフラベーナちゃんにまったく当てられない。仮に当てられたとしても、いくら竹刀のような剣だとしても、フラベーナちゃんに剣を当てるなんてとんでもない。とはいえ、かなり本気で狙っても一発たりともあたらないのだ…。身体能力に差がありすぎる…。

 それなのに、オレはハイヒールでいつも転んでしまうハンデつき。でもオレが転んだとき、フラベーナちゃんはいつも「大丈夫?」って顔を赤らめながら手を出して、優しくしてくれるんだ。


「システィナ、勝負よ!」

「えっ」

「ちょっと、パリナ!」


 パリナが割って入ってきた。さっきのエウレカとアリスの戦いを見てから、ちょっと興奮気味だ。


 フラベーナちゃん以外の子は手加減があまりうまくない。当てられるとかなり痛い…。


「いた…」


「システィナは私が守るわ!」

「私はシスティナとやりたいのよ!」


 フラベーナちゃんが間に入って、オレを守ってくれる。

 王女であるフラベーナちゃんオレが守るんじゃなくて、王女であるフラベーナちゃんがオレを守っている。おかしい…。

 そりゃ、オレとフラベーナちゃんじゃスペックが違いすぎるけどさ…。

 チート転生者として生まれなかったオレを、アンネリーゼが拾ってくれて周りの子より優位に立てるようにしてくれたのに…。それに、火、水、風、電気の属性は一日三回魔力を枯渇させて、フラベーナちゃんよりなんとか優位に立っているけど、光と土の属性は桁が違いすぎる…。


「私もシスティナとやりたいよ!」

「きゃっ…」

「プレナまで!」


 今度はプレナがオレに襲いかかってきた。

 オレはとっさにアイドル養成科仕込みの仕草が出てしまった。


 フラベーナちゃんと他の子のスペックは段違いで、パリナとプレナ二人が相手でも、オレに傷一つ付けないように守ってくれる。フラベーナちゃん…素敵…。カッコいい…。


「フラベーナ、私にも相手をさせなさい!」「わたちもお願いちましゅ!」「わたくしも!」


 デルスピーナちゃんとグリシーラちゃんとペルセラまで乱入…。


「私もやるわ!」「オレも!」「独り占めはよくない」「ボクも!」「システィナ、可愛い!」


 イスマイラ、ゾーラ、エウレカ、リザベル、ナーラも乱入…。


「失礼します…」「システィナちゃんをちょうだ~い」


 プラチナとアルゾナまで…。


 なんと、フラベーナちゃんは、三歳幼女チームの十一人全員とグリシーラちゃんを相手にすることになった。


「くっ…」


 さすがにフラベーナちゃんは劣勢だ。それでも十一人の剣をなんとか捌いている。


「あはは、あたしも~」


「きゃあ…」


 プロセーラが加わったところで、フラベーナちゃんの体勢が崩れた。フラベーナちゃんがやられちゃう…。

 ところで、プロセーラは最近猫耳を付けていないな…。他の子はリボンを付けているのに…。

 いや、それは置いておいて、


「隙ありよ!」

「あっ、待って」


 デルスピーナちゃんがフラベーナちゃんを抜いて、オレのほうに向かってきた。ヤバい…。デルスピーナちゃんにさえオレの剣では歯が立たないのに…。


 オレが剣を構えて防御に備えていると…、

 カツンっ。オレの目の前で剣を剣で受ける音。竹刀のような剣なので金属音ではないが、乾いた音が鳴り響いた。


「あんた、大丈夫かい」

「フラーラ…」


 デルスピーナちゃんの剣からオレを守ってくれたのは、フラーラだった。フラーラは幼い感じのコルトラの面倒を見てやっている優しい子だと思っていたが、まさかオレを守ってくれるとは…。

 それにしても、一歳児に助けられるとは…。というか、銀髪娘たちのほうがデルスピーナちゃんよりもチートスペックが上なのか…。銀髪娘、マジ怖え…。


「あらフラーラ、私とシスティナのお楽しみを邪魔するのかしら」

「またバラバラになっちまうよ」


 そう、それ…。グリシーラちゃんたちは手加減が下手だからやめてほしい…。


「あっはっはっはー」


 オレが最後に聞いたのはプロセーラの高笑いだった。




 知っている天井だ。ここは保健室だ。この部屋にはお世話になりたくなかった。


「システィナ!目が覚めた!」


 フラベーナちゃんは今まで泣いていたようだ。その涙は、オレが目覚めてうれし涙に変わったようだ。


「あんた今度はせんぎ……」

「わー、言わないでいい!」


 フラーラはオレがどうなったのか説明してくれるようだったけど、そんなことを聞きたくはない。だいたい想像できるけど、オレは具体的なことを何も知らなくていい。


「痛くなかったし、治してくれたんならいいよ…」


 またネジが一本余ったとかないか確認してみた。とりあえず、おかしなところはない。


 周りを見回すと、みんないる。三歳のチーム、一歳チーム、そして、今回加わったグリシーラちゃんとエウレカとアリス。また授業をサボってオレに付いていてくれたのか。でも心配するくらいなら、最初からもうちょっと優しく扱ってほしい。オレはドジでか弱いのだ…。



 その日から、オレの女の子化は明らかに加速した。

 オレが予定より女の子っぽくなっているのは、男の()っぽい永遠の幼児が女に性転換して女の()っぽい永遠の幼女になったからというのが唯一の理由ではないようだ。

 どうやら、オレをバラバラにするたびに、治療魔法と称して、女の子化する魔法をかけいる子がいる気がする…。


『ブラジャーのカップが合わなくなってきています』


 エージェント・アンネリーゼは、女の子に対する知識の足りないオレをサポートしてくれるようになっている。


「でもホックはいちばん小さいままでもきつくないけど」

『胴体は太くならないのかもしれません』

「そっか…、永遠の幼女設定はそのままなのか」

『いえ、少しずつ伸びていますよ』

「もう、最初に作ったキャラ設定はどこに行ったのやら」


 オレのキャラ設定は無視されて、フラベーナちゃんたちの好みに改造されてしまったということだろうか。

 でも、よかったかもしれない。オレは男の()をMAXにする勇気がないから幼児に逃げたのだ。でも今ならいくらでも女の()になっていいのだから、幼女に留まっている必要はあまりないな。


『ティノイカのドレス生地を、ブラに継ぎ足しましょう』

「そうする」


 胸だけじゃなくて、ウェストはどんどんくびれてスタイルが良くなってきている。

 目元もぱっちり、まつげも長く、ほんのりピンクの唇はぷっくり。自分で言うのもなんだけど、ほんとうに可愛い。


 分解してしまったティノイカのドレスを除いて、もう一着、着ていないものがある。アルゾナのビキニ水着だ。

 鏡の前で考える。自分のブラとパンツだけの姿にも慣れた。よく考えたら、今の服装とアルゾナの水着は、たいして変わらないじゃないか。

 水着といってもドレスと同じ質感なので、水に入るためのものではないようだ。

 ホックで留めるブラとは違って、これは紐で後ろを結んで固定するタイプだ。ただし、肩紐がない。


 今付けているブラを脱いで、水着のブラを着てみる。これも前後逆に着てから回してみた。うん…、とても可愛い…。

 パンツのほうも水着に着替えてみた。それからパレオも巻いてみた。三角形の布を腰に巻いて片側を縛るだけだ。


 ブラもパンツも紐で調整できるのできつくはないが、肩紐がないので、歩くと胸が揺れてしまい、すぐにずれてしまいそうだ…。それに、あくまできつくないだけであって、これをもらったときに比べてかなり成長してしまっているオレにとっては、ちょっと布面積が心許ないのではないだろうか…。


 はぁ…。こんなのを着て外に行けるわけがない。これを着ている、アルゾナのお母様ってなんなんだ。アンネリーゼではない方の母親だよな。

 これはときどき部屋で着て楽しむだけにしておこう。脱ごうとしたそのとき、


『まってください。もう少し…そのままで…』

「えっ…」


 タブレットの中のエージェント・アンネリーゼがうっとりとオレを眺めたり、一眼レフカメラでオレをパシャパシャしている。いや、そんな演出いらないから。どうせいつも、無音で動画を盗撮しているんだろ。


『ポーズお願いします』

「えっ、こうかな…」


 ポーズと言われたら、アイドル養成科で習っているポーズがとっさに出てきた。肩を内側に寄せるぽーずだ。あれ…、これって胸の谷間が強調されるポーズだったのか…。今まで胸なんてなかったから知らなかった…。

 それにしても、オレもアイドルが板についてきたものだ。まだデビューはしていないけど。


『いいですね!次!』

「うふっ」


 調子に乗って、いろんなポーズを取った。


『これはいざという時の切り札になります』

「どういう時がいざという時なのだろう…」

『見てください』

「可愛い…」


 思わず自分の写真に可愛いと言ってしまった…。

 っていうか、取っていないはずのポーズとかあるし…。そんな恥じらう乙女みたいなポーズ取っていない。いや、鏡を見ながらそんな風にしていたかもしれない。やっぱり、CGが一眼レフカメラを構えているのなんて意味がなくて、無断で回しっぱなしの動画カメラから一シーンを抜き出しただけじゃんか。


「削除しておいて…」

『いやです。お宝映像です。じゃなかった、私はアイドル養成科の実技を採点しただけです』

「よく言う…。まあでも、いつもやっていることか…。服装が違うだけで…」

『そうです。その通りです』

「まあ、かってにSNSに上げたりしないでくれよ…」

『それは死守します』


 エージェント・アンネリーゼは、最近いたずらが過ぎる。それに、なんだか人間味が出てきたというか…。

 オレが女になったから、打ち解けてくれるようになったのだろうか。そんな機能はエージェントアプリにいらないだろう…。



 下着とか水着はさておき、寝間着もそろそろ限界だ。

 伸びる素材なので今までなんとか使えたが、もう無理だ。太股が太すぎて、お尻も大きすぎて、ズボンが腰まで上がらない。

 トップスも、肩幅は変わっていないし腕も太くなっていないのだけど、胸の部分が窮屈だし、長けも短くてへそが出てしまう。


 男のときは成長に合わせて普通に買いに行っていたんだけど、女になってからはまだ一度も服屋に行っていない。ドレスの仕立てやとかじゃなくて、平民向けの服屋というのはあるのだが、服屋に行く勇気がない。


 この寝間着の生地はドレスの素材とは違うので、ティノイカのドレスを継ぎ足せない。

 しかたがない…、半ズボンにして、切り取った生地をウェストと胸に継ぎ足そう…。でも、残念ながらへそを隠すには至らなかった。ズボンをかなり削ったのに…。

 結局、ヘソ出しのトップスとホットパンツができあがった。外に出るわけじゃないしこれでいいや…。 




『最後の者の教育が終わりました』

「アンネリーゼの手がけていたボンクラだっけ」

『そうです』


 結局、最後まで残っていたのは、貴族令息でもなく、奥様でもなく、アンネリーゼの連れてきたボンクラ令嬢だった。

 一人が教育過程を一〇〇パーセント達成するたびに、自分の領地に帰らせて領地改革を始めさせている。そして、最後に者を送り返すときが来た。


 まあ、ボンクラは領地に帰っても改革に時間がかかるだろう。それでも、国内すべての領地の改革が始められたのは大きい。


「エージェント、インフラ設営スタッフの手配を」

『はい』


 オレは最後の領地の改革のため、フラベーナちゃんを伴って、領地に赴いたのだった。



 ずもももも…。最後の電波塔をフラベーナちゃんが建てた。


「ふう、これで最後なんだね」

「うん」

「システィナはすごいね!」

「そうかな」

「だって、マイアお母様とアンネお母様がなかなか進められなかった全国の改革を成し遂げたんだよ」

「まだまだこれからだよ」

「それでも、もうあとは待っていればロイドステラ王国全土が、便利で平和になるんだよ。システィナが成し遂げたことはほんとうにすごいよ」

「そっかぁ。そうなんだな。なんか実感湧いてきた」

「うふふ、それでね、マイアお母様が、来週来てだってさ」

「えっ、王様が?」


 そんな、お母さんが娘の友達に会いたいって言っているから来いだなんてノリで、王様に会っていいのか?


「うん。正式な通知は明日出すって」

「でもなんで…」

「ご褒美だよ、きっと」

「だといいんだけど…」




 後日、オレは王城に赴いた。

 王に会うんだ。いちばん良いドレス…、フラベーナちゃんが作ってくれたドレスを着ていった。ティノイカのドレスの生地を追加しまくってるけど。とくに胸。


 今日、行くのは会議室なんかじゃない。謁見の間だ。緊張する…。

 あ…、今さら気が付いたけど、平民のオレがこんな豪華なドレスを着てきてよかったのかな…。もう遅い…。


 王城のメイドさんに連れられて、謁見の間に辿り着いた。メイドさんが扉を開けてくれた。


 部屋の奥にひな壇があり、その上に王座がある。


 王座に座っている豪胆なブロンドの女性がマイア王だろう。しかし、王とてドレスのスカートはミニスカート。ちょっと脚を開くだけでパンツが見えてしまいそうだ。

 あれっ、オレって今まで教室とか食堂でどうしていただろう…。前から丸見えだったのでは…。


 そして、その右に王座よりも少し装飾の少ない椅子にはアンネリーゼが座っている。


 そして、王座の左にはフラベーナちゃん。

 王座の隣にフラベーナちゃんってことは、長女のデルスピーナちゃんよりも重きを置いているということなのだろうか。スペックが違いすぎるもんな。


 そして、アンネリーゼの右にデルスピーナちゃんが座っていて、フラベーナちゃんの左にグリシーラが座っている。


 オレはメイドさんに促されて、赤いカーペット進む。メイドさんは付いてくることはなく、後ろで扉が閉まった音がした。


 ここからはオレ一人で歩いていく。カーペットの両サイドに鎧の騎士でもいたら、冷や汗どころでは済まなかっただろう。でも、部屋の隅にメイドさんは控えていたりする。


 王座の前、三メートルくらいの位置で止まり、カーテシーをした。カーテシーとは、脚を交差させて少し屈み、スカートを持ち上げてパンツを見せる挨拶だと習った。


「カルボシスティナと申します。マイア王陛下、アンネリーゼ王妃殿下、フラベーナ王女殿下、デルスピーナ王女殿下、グリシーラ王女殿下」


 呼び方や順番は、エージェント・アンネリーゼに習った。順番からも、フラベーナちゃんがデルスピーナちゃんより上に扱われているということが分かる。


 フラベーナちゃんとアンネリーゼが微笑んでくれた。もちろん、こちらから手を振ったり笑顔を返したりはできない。

 でも、緊張が少しほどけた。


「よくぞ参りました、カルボシスティナ。さっそくですが、あなたの功績を称え、あなたに男爵位を授けます。これからはムコサール男爵を名乗りなさい」


 おおお…、ご褒美だよ。フラベーナちゃんの言ったとおり仕事の成果が認められたよ。


「身に余る光栄でございます」


「あなたのおかげで、この国の発展を早めることができました。そして、これからもこの国の発展のために尽力することをあなたに求めます」


「仰せつかりました」


「それでは下がりなさい」


「ごきげんよう」


 オレは再度カーテシーをして、パンツを見せた。この国ではパンツがとても重要視されているということがうかがえる。

 後で扉の開く音がした。オレは謁見の間から退室して廊下に出た。


 オレはカルボシスティナ・ムコサール男爵となった。オレはすでに貴族の礼儀作法を身につけている。学校で貴族のお嬢様の礼儀作法なんて習ってどうするのかと思っていた。でもそれが役に立つときが来た。

 今日の謁見も、エージェント・アンネリーゼからちょっとだけ段取りを聞くだけでこなすことができた。もちろん、緊張していないわけではないが。


 べつに、男爵に男という意味は含まれていない。前世の言葉に当てはめてそういっているだけで、この世界ではいちばん下の爵位という意味しかない。



 廊下を歩きながら考える。マイア王にはたいした精霊が付いていなかった。アンネリーゼには白く強い光を放つ精霊、娘たちには薄緑の強い光を放つ精霊が付いていた。

 マイア王は普通の人間だけど、女神であるアンネリーゼと契りを交わし、女神の子らを授かったということなのだろうか。女神の治める国の始まり、そして神話の始まりの時なのかもしれない。


「システィナ!」

「わぁっ」


 フラベーナちゃんオレの前にいきなり顔を出した。心臓が飛び出るかと思った。


「おめでとっ!」

「あ、ありがとう…。って、いいの?」

「いいのいいの。こっちだよ」

「わあぁ…」


 フラベーナちゃんがオレの腕を自分の胸に抱いて、引っ張っていく。フラベーナちゃんの力は強いので、オレは抗えない。もちろん、可愛いフラベーナちゃんの頼みを断るつもりは最初からない。

 でも、引っ張られるのにはちょっとトラウマがある…。


 それにしても、俺の腕はフラベーナちゃんの胸に抱かれているけど、フラベーナちゃんの胸の膨らみは感じられない…。まだ二歳だもんな…。ちょっと期待してしまったオレはおかしいだろうか。でもフラベーナちゃんも四歳になったらオレくらいに膨らむのだろうか。

 なんにせよ、将来はきっとアンネリーゼのように肩幅から溢れる胸になるか、マイア王のようになかなかに美しい形をしたお胸になるに違いない。



 なんて考えていると、小規模なお茶会用の部屋に着いた。


「おめでとうございます。カルボシスティナ」


 なんと、アンネリーゼが出迎えてくれた。


「ありがとうございます…」


「そんなにかしこまらないでいいのですよ」

「え、ええ」


 そんなにかしこまらない、つまり少しかしこまった、柔らかお姫様モードのフラベーナちゃん。

 オレもちょっとお友達お嬢様モードを練習中なんだ。平民モードとお貴族様モード中間のくらいの。


「そうですね。緊張しなくてよいですよ」

「ありがとうございます」


 そう言いつつも、アンネリーゼは言葉を崩さない。でもオレは知っている。アンネリーゼは壊れると、オレの前世で見た普通の女の子のようになってしまうことを。きっと神の国ではわりと普通の女の子なんだろう。

 アンネリーゼも自分は転生者だと言い張っているけど、アンネリーゼはどう見たって女神だ。


「私の顔に何か付いていますか…」


 アンネリーゼが顔を赤らめている。とても可愛い。見つめすぎただろうか。アンネリーゼについて考え込んでいると、どうしても見つめてしまう。


「い、いえ…」


「さあ、座ってね」

「はい」


 フラベーナちゃんに促されて席に着いた。


「今日は、アンネお母様が手料理を作ってくれたのよ!」

「えっ…」

「おなか空いたでしょ。丁度いい時間に呼んだんだから」


 エージェント・アンネリーゼが、包丁の使い方を教えてくれたのを思い出した。アレはCGだからよかったけど、大きな胸が邪魔で、手元が見えてはいなかった。

 そんなアンネリーゼ自身が手料理だなんて、何の冗談だ。見えないまま切って野菜の大きさが不揃いどころの話ではなく、自分の指を切って食べ物に血が混ざっているとかありそうだ。

 包丁の扱いだけじゃない。鍋だってまともに見えないはずだ。アンネリーゼはいわゆる、料理すると必ず真っ黒焦げになるとか、紫色のものができるとか、もしくは爆発するとかそういう属性を持っているに違いない。


 だいたい、王妃が料理なん…


「私だって料理くらいできるんですよ!」

「あ、ごめんなさい…」


 オレはあからさまに嫌な顔をしていただろうか…。


 メイドが料理を運んできた。良い匂いがする。焦げてはいない。紫でもない。

 メニューは、なんてことない、ハンバーグ、ミートソースパスタ、パン、サラダ、スープ。学校や寮の食堂とあまり変わらない。


「どうぞ、召し上がれ」


 アンネリーゼに促されて、オレはサラダを口にした。なんだこれは!一見、レタスとキュウリのシンプルな構成だけなのに、ドレッシングの深みが尋常じゃない。ドレッシングには刻んだり練ったりした野菜やハーブが何種類も入っているようだ。

 よく見たら、キュウリもレタスも切ったんじゃなくて、ちぎったようだ。やっぱり包丁を扱えないんじゃないかな。


 それから、ハンバーグをいただいた。ハンバーグにかかっているのは照り焼きのタレだ。甘い醤油によく煮込んだみじん切りの玉葱が入っている。これもなんて深い味なんだ…。


 ミートソースにも細かく刻んだ野菜やキノコがたくさん入っていて風味がいい。パスタもなんだか…味わい深い。


 スープからはとても良い香りがする。ベーコンと玉葱とにんじんのコンソメスープのようだが、そのコンソメには、何種類もの野菜や肉、そして隠し味に昆布や魚だしのようなものまで入っているのではないだろうか。


 みじん切りや煮込みなど、アンネリーゼがとても手間と時間を掛けて作ったのが伝わってくる。アンネリーゼの料理に込めた愛を感じる。


「……ティナ、ねえ、アンネお母様の手料理はどうかしら…?」

「えっ、ああ……、あれ…」


 フラベーナちゃんが俺の顔を心配そうにのぞき込んでいる。


「涙なんか流しちゃって、美味しくなかったら、無理して食べなくても…」

「えっ?」


 オレはいつの間にか涙を流していた。


「その…、美味しすぎて…、感動して…」

「ふふっ、そうよね。よかったわ。もう、一心不乱に食べているんですもの」


「すみません…」

「うふふっ」


 フラベーナちゃんに笑われてしまった。たしかにオレは、周りに目もくれず、ほとんどの皿を空にしてしまっていた…。

 この世界では、食事中に話してはいけないというマナーはない。こういう場では、お話も交えて、キャッキャうふふと話しながらいただくべきだったのに…。

 それ以前に、オレはガツガツと食べていたのだろうか。貴族らしく食べていたのだろうか。


「心配しなくても、マナーが乱れてはいないし、それにおかわりもありますよ」

「えっ…、では…いただきます…」


 自分のマナーができていたかを気にしているのが、アンネリーゼには分かってしまったようだ。

 おかわりなんて貴族の食事には存在しない。でも誘いを断らないのもマナーだ。



 メイドさんがすべてのお皿を交換してくれた。これではほぼ二倍食べることになってしまうが、全部食べる必要はない。

 そして、今度はガツガツしないで、お話しながらゆっくり食べよう。


「アンネリーゼ様は、どうして私にここまでしてくださるのですか」

「それはもちろん、あなたがかゎ…、あなたの功績をねぎらうためですよ」


 今、可愛いって言おうとしましたよね。そうですよね。可愛いが正義。可愛ければなんでもOK。


「ごほんっ、それにしても、システィナはどんどん可愛くなっていきますね」

「お、お褒めに預かり光栄です…」


 咳払いをしたアンネリーゼ…。話題を変えようとしたのかもしれないけど、変わっていないよ…。ごまかしきれていないよ…。


 アンネリーゼは好きなだけオレのことを可愛く改造できるのではないのだろうか。それだと可愛くなったね、もクソもないだろうから、そこまでは改造できないのか。

 アンネリーゼは前回会ったときに、予想以上に可愛くなってしまっているオレに、取り乱していたし。


 アンネリーゼとしては、男をちょっと女っぽく改造しただけなのに、オレは女になってしまったから、女をより女っぽく改造してしまったような扱いになっている。それだけでなく、どうやらフラベーナちゃんたちの魔法にもかかっているみたいだ。フラベーナちゃんたちの魔法は、アンネリーゼにも予想外なのかもしれない。


 オレは仕事をがんばった。でも可愛くなければ目に留まらない。でも、可愛くなるチャンスにも恵まれた。

 オレは可愛くしてもらえて幸せだ。



 ふー…、満腹だ。結局お皿を空にしてしまい、二倍食べてしまった…。最初から四歳の子供の分量しか盛られていなかったけど、二倍はやり過ぎだ…。

 オレのウェストは二歳ごろから太くなっていないどころか、細くなっている気がする。どこにこれだけの食べ物を詰め込むスペースがあったのだろうか。


「デザートもあるのよ!」

「そ、それは楽しみです」


 フラベーナちゃんが、にっこりと言った。でも、もう入るわけない。腹十二分目だ。どうしよう…。食べなかったらフラベーナちゃんにがっかりさせてしまう…。


 メイドさんが苺のショートケーキを運んできた。

 ヤバい。バニラの良い匂い。めちゃくちゃ美味しそう。女の子は甘いものが好きという。オレは女の子になってしまったので、身体がそれを欲しているのだろうか。


「召し上がってください」

「いただきます…」


 アンネリーゼに「よーいどん」と言われたら、躊躇なくそれにフォークを入れ、口に運んだ。

 オレは満腹を超えて若干気持ち悪いくらいだったのに、そんなことは忘れてしまった。


 これもまた、濃厚なホイップクリームが味わい深い…。生地もふっくらとしていて、口触りが深い。

 そう、さっきの料理もそうだけど、すべて深いのだ。すべての料理をアンネリーゼが丹精込めて作ったことがうかがえる。アンネリーゼの愛を感じられる。


「ん~っ!」

「美味しいでしょ」

「ふぁい」

「もう、システィナったら可愛い!」

「あ…」


 口にものを入れたまましゃべってしまった…。今まで一応貴族のマナーを崩さずにがんばってきたのに…。

 フラベーナちゃんにあきれられたかと思ったら、可愛いと言われてしまった…。オレ、一応二歳年上なんだけど…。精神年齢でいったら、オレ、二十歳くらいなんだけど…。


「うふふっ、気にしなくてよいのですよ。学校ではフラベーナともっと砕けた付き合いをしているのでしょう」

「はい…」


 オレだけが知っている、平民モードのフラベーナちゃん。オレだけのフラベーナちゃん。

 いや、みんなの前でも平民モードは使っているか。ただ、オレだけに平民モードで接してくれるってだけだ。


「おかわりもありますよ」

「い、いただきます…」


 腹十二分目というのは何だったのか。オレはケーキをペロリと平らげてしまったというのに、まだ入る気がする。これが女の子の「甘いものは別腹」というやつなのか…。甘いものは無尽蔵に食べられる気がする…。やはり、女の子というのはオレの想像を超えている。


 オレは物足りなそうな顔をしていただろうか。メイドさんが無言で新しいケーキの皿と交換してくれた…。


「ありがとうございます…」

「うふふっ、システィナは食いしん坊ね!」

「うぅ…」


 フラベーナちゃんにまた笑われてしまった…。


「ケーキを食べながら聞いてください。

 男爵に陞爵したあなたに任せたい仕事は、とりあえず二つです。

 まずは、これからも、この国の改革や教育を任せたいと思います。権限が足りなければ、フラベーナの権威を借りても構いません。それから、フラベーナの魔力を当てにしても構いません。

 もう一つの仕事は、国民に等しく教育や雇用の機会や生活基盤を与えることです。『あなたの目線で』身分や境遇によって選べない仕事が出ないように配慮してください」


「はい。仰せのままに」


 アンネリーゼは「あなたの目線で」のところを若干強調して言った。オレ目線の身分や境遇とは、オレがスラム出身であることを言っているのだろう。スラム出身者でもがんばれば仕事に就けるようにしろということだ。


 もう一つのオレ目線とは、転生者目線だろうか。オレはこの世界と前世を比べて、足りないものを考えることができる。そこに期待しているということだ。


 もう一つは…、男目線?雇用機会均等法とか差別防止法とか制定されているみたいだけど、アンネリーゼは可愛くないと受け入れてくれないし、もしかしたらマイア王もそうなのだろうか。だとすれば、男の未来は暗い。

 オレは男だったのに可愛くなれと言われて辛かった。男の()っぽい永遠の幼児という中途半端なものになるのは、ちょっと不満だった。貴族令息たちに同じようになれと言うのも辛かった。

 いっそうのこと本物の女の子になってしまったほうが楽と考えて、実際にそうなってしまった。他の者にもそれを勧めたほうが良いかもしれない。

 でも、不妊治療で男の()や永遠の幼児であることを望まれて生まれてきた子たちは、辛くはないかもしれない。


 うん、アンネリーゼが「あなたの目線で」と言ったのは、むしろそれだな。オレはこの国の男の人権を守ろう。


「システィナ、私も手伝うので、一緒にがんばりましょうね!」

「ありがとう、フラベーナちゃん」



 その次の日の朝…。


「どうしよ…。体重増えてないかな…」


 かといって、体重計なんてない。


『今のシスティナは十九キロです』


 タブレットがそう言った。


「見ただけで分かるのか?」

『はい』

「じゃあ、昨日の朝の体重とか測っていたりしない?」

『昨日の朝のシスティナは十八キロです』

「やっぱり測ってたか…。って、えっ…」

 昨日が十八キロで今日が十九キロって…。四歳児が一日で一キロ太るってヤバいだろう…。

 そりゃ、ご飯を二倍、ケーキを三倍食べたんだ…。太るに決まっている…。女の子は太りやすいと聞くし、女の子っていうのはほんとうに大変だ…。全世界の女の子に敬意を払う。

 でも、腹が出た感じはない。いったいどこが?


 服を脱いでパンツ一丁になっても、やっぱり一キロ増えている…。


『これが昨日のシスティナのデータです』

「へっ?」


 体重計から降りて、腹が出ていないか鏡で確認していたら、エージェント・アンネリーゼがタブレットにオレの写真を表示した。いつもかってにパンツ一丁の姿を盗撮しているのだろうか。


『そして、半透明にして重ねたのが今朝のシスティナのデータです』

「これって…」


 腹の出具合は変わっていなかった。ホッとした…のもつかの間だった…。出たのは胸とお尻と太ももだ。


 この身体は、女として引っ込むところは引っ込んで、出るところだけが出るのだろうか。もしくは、食べたものの栄養がすべて胸に行く属性でもあるのだろうか。

 それとも、アンネリーゼやフラベーナちゃんたちの望まない体型にはならないということだろうか…。


 いずれにせよ、食べ過ぎても腹が出ないのはいいけど、胸がこのペースで成長していくのは困る…。お尻も太もももあんまり肉が付くのもなぁ…。やっぱり食べ過ぎは要注意だ…。


 オレはいつもより多めにブラとドレスの生地を継ぎ足して出かけることになったのだった。

■エウレカ(誕生)

 ワイヤとダイアナの子。転生者ではない。銀髪。

 銀色のトカゲのような尻尾とコウモリのような翼が出たまま。

 ドラゴン型に変身もできない。

 旧エッテンザムの性質を受け継いで生まれたが、進化の泉でダイアナと同じ性質に変えてもらった。


■アリス(誕生)

 アリシアとアンネリーゼの子。転生者ではない。薄い金髪。

 薄い金色の尻尾や翼は出したりしまったりできる。

 薄い金色のドラゴン型にもなれる。


■ファルナ・エッテンザム公爵令嬢(誕生)

 カローナとアンネリーゼの子。


■ジフラーナA、B、C(誕生)

 ダイアナとマイアの子。一卵性の三つ子。銀髪。

 旧エッテンザムの性質を受け継いでいない。

 BとCはアンネリーゼとドリーの子である精霊を持っているが、Aはアンネリーゼとメテーナの子である精霊を持っているため、心を読む魔法を使える。


■ワイヤ、アリシア(十歳)

■ダイアナ(十一歳)

■カローナ(二十一歳)

■クラリス(六歳)

■リーフ


■レグラ・フェナージ(二十五歳)

 アンネリーゼの子を妊娠した。


■カルボシスティナ・ムコサール男爵(四歳)

 ますます女の子に改造されてしまったおかげで、男爵位を賜った。

 髪色がだんだん薄くなっていて、ライトブラウンになった。


■グリシーラ・ロイドステラ第三王女(二歳)


■フラベーナ(二歳)

■デルスピーナ、パリナ、プレナ、ペルセラ(三歳)

■イスマイラ、ゾーラ、エレナ、リザベル、ナーラ(三歳)

■プラチナ、アルゾナ(三歳)

■フラーラ、ティノイカ、プロセーラ、コルトラ(一歳)

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