44 救世主の脱落
転生者カルボスは、フラベーナ第二王女との学校生活を満喫していた。
そして、フラベーナブランドで髪飾りのお店を開くこととなった。
デザインはオレがやる。オレが土魔法で作ったリボンやヘッドドレス、髪に付ける装飾品全般を、フラベーナちゃんとスタッフで量産していくお店だ。
フラベーナちゃんとは学校にも行っているので、普段はスタッフ二人に任せている。
お店やスタッフは、アンネリーゼがフラベーナちゃんに貸し付けてくれたお金で準備した。
「カルボス、しゅごいね!どうしてこんなに可愛い髪飾りを思いつくの?」
フラベーナちゃんは日に日に成長しており、だんだん噛まなくなってきている。フラベーナちゃんの成長をとても嬉しく感じる。
だけど、噛みながらも一生懸命に話しているフラベーナちゃんは可愛いので、そのうち見られなくなると思うと寂しくもなる。
すでに、カルボしゅって呼んでくれなくなってちょっと寂しい。
「そ、それは…。フラベーナちゃんがこういうのを付けてくれたら、もっと可愛くなるなーなんて考えていると、どんどんイメージが沸いてくるんだ」
半分嘘です…。前世でよく見ていた、プリティ何ちゃらとか、アイドル何ちゃらとかのアニメキャラが付けていたリボンやヘアバンドとかを、フラベーナちゃんに当てはめてみて、似合うかどうかイメージしているだけなんだ…。
「もう、カルボスったらうまいんだから…」
フラベーナちゃん…、顔を赤らめて、オレの服の袖を掴んで、可愛い…。
午前は魔法の実技だ。
「今日ね、私の姉が来るの」
「あ、第一王女様か」
「うん。デルスピーナおねえしゃまも来るけど、他にも異母姉が来るの」
「嬉しそうだね」
「うん。でも、みんなまだあまりしゃべれないから、カルボスと話しているのがいちばん楽しいよ!」
「オレもフラベーナちゃんと話しているのが楽しいよ!」
フラベーナちゃんは姉妹よりもオレと話している方が楽しいなんて、マジで天使すぎる…。
「今日から一緒に授業を受ける子たちを紹介します。入っていらして」
扉から入ってきたのは…、フラベーナちゃんより少し大きいくらいの子が十一人…。それぞれは、かなり舌足らずだけど、自ら名乗った。
「デルスピーナ・ロイドステラでしゅ」(マイアの子)
「パリナ・プレドールでしゅ!」(ヒルダの子)
「プレナ・テルカスでしゅ!」(シンクレアの子)
「ペルセラ・ラメルテオンでしゅわ」(ロザリーの子)
「イスマイラよ」(イミグラの子)
「ゾーラだ!」(ゾーミアの子)
「エレナ」(レルーパの子)
「リザベルだよ」(マクサの子)
「ナーラでしゅぅ!」(アマージの子)
「プラチナでしゅ」(シルバーの子)
「アルゾナよぉ」(リンダの子)
この子たちは…、異母姉って言ったっけ…。フラベーナちゃんの母親っていうと、マイア王とアンネリーゼだよな…。どっちも母親だから、どっちかっていうと…、マイア王と異母関係なんだろうな…。みんなアンネリーゼに似ているし…。
そして、みんなフラベーナちゃんと同じ、薄緑色の強い光りを放つ精霊を持っている。チート精霊、良いなぁ。
「デルスピーナおねえしゃま、ごきげんよう」
「あら、フりゃベーにゃ、ごきげんよう!」
フラベーナちゃんとデルスピーナが、互いにカーテシーをしている。カーテシーは礼儀作法の授業で慣れっているけど、お嬢様の挨拶だ。脚を交差させて少し屈み、スカートをめくり上げる挨拶だ。オレはズボンなのでその辺りが曖昧だが。
でも…、フラベーナちゃんとは礼儀作法の授業で一緒になったことがないので知らなかった…。スカートをめくり上げると、パンツが見えるんだ…。フラベーナちゃんとデルスピーナは、互いに自分のスカートをめくり上げて、パンツを見せ合っている…。そして、少し顔を赤らめている姿が可愛い…。
デルスピーナって第一王女だよな。フラベーナちゃんにかなり似ている。それにドレスも他の子と一線を諷している。まあ、フラベーナちゃんの神々しい可愛さにはかなわないけどな。
フラベーナちゃんの黄金の髪と違って、普通に金髪だ。この子も異母姉?
フラベーナちゃんのデルスピーナへの態度は、堅すぎるということもないけど、親しい間柄の柔らかお姫様モードといったところだろうか。
いっぽうでオレに対しては平民どうしみたいな感じで接してくれる。オレだけが知っているフラベーナちゃん…。姉よりオレに心を開いてくれているなんて嬉しい。
「おねえしゃま、こちら、カルボスよ。いつも良くしてくれているの」
「カルボス、初めまちて」
「デルスピーナ王女殿下、ごきげんよう」
オレはズボンだから存在しないスカートをつまむフリをして、脚を交差させて少しかがむだけだが、カーテシーをしてみた。それに対してデルスピーナは無反応だ。
「デルスピーナおねえしゃまは、マイアおかあしゃまから生まれたの。私はアンネおかあしゃまから生まれたから、異母姉なの」
「なるほど…」
って、そうなの?腹違いって意味ではあっているけど、異母じゃないよね?ファンタジーすぎて理解不能。
そのあと、すべての子と挨拶を交わした。
プラチナって子は薄い金髪だな。…って、すでにオレの店で売っているネコ耳カチューシャを付けてくれているじゃないか!でも、あんな形だったかな。店員がデザインしたのだろうか。
他の子の髪はみんなライトブラウンだ。でもやっぱり、みんなアンネリーゼの子に違いない!アンネリーゼの子がこんなにいるって、いったいどういうことなんだ…。
まあでも、みんなアンネリーゼに似ているだけあって可愛い。
っていうか、アルゾナって子は、アンネリーゼを幼くしたらこんな感じだろうってくらいアンネリーゼに似ている。しかもアンネリーゼよりもぽやぽやしている。
フラベーナちゃんの髪もだんだん伸びているけど、この子たちは姉というだけあって、フラベーナちゃんより髪が長い。きっとみんなフラベーナちゃんより一年くらい年上なんだろう。
フラベーナちゃんは一年後にこれくらいの髪の長さになるんだ。今よりもっと女の子っぽくなるだろうなぁ。楽しみだ。
家名を名乗ったパリナとプレナとペルセラって子の三人が、他の子と比べるとドレスの装飾が多く上等だ。
他の子のは豪商向けという感じだ。学校で縫製を習っているオレには、ドレスの値段がなんとなく分かる。どれも、とてもじゃないけどオレの買えるようなものではない。
新キャラ登場はまだ終わっていなかった…。さらに、始めて出会った頃のフラベーナちゃんと同じくらいの子が四人登場…。つまり、ゼロ歳の乳児…。みんな危なげなくしっかりと歩いている…。
この子たちも舌足らずだけど、ちゃんと名乗った…。
「フラーラ・メタゾールだよ」(ダイアナの子)
「ティノイカ・メタゾールでしゅ」(ダイアナの嫁の子)
「プロセーラ・メタゾールでーちゅ!」(ダイアナの嫁の子)
「コルトラでしゅ…」(アンネリーゼが使用人に産ませた子)
三人メタゾール…。メタゾールってアンネリーゼの家名だよね…。
フラーラとコルトラはアンネリーゼに似ている。
ティノイカとプロセーラは…、アンネリーゼの子ではないんじゃないかな…。
コルトラの髪はアンネリーゼと同じライトブラウンだ。
メタゾールの三人は銀髪だな…。さすがファンタジー…。この三人は顔も似ているし姉妹かな。あれ、でも、アンネリーゼに似ているのはフラーラだけだな。三つ子ってこともないだろうし、こっちも腹違いか…。
まあ、四人とも乳児なんだからベリーショートヘアだ。
乳児チームは、メタゾールと名乗った三人のドレスは上等で貴族向けだ。コルトラだけ豪商向けのドレスだ。
乳児チームも薄緑色の強い光りを放つ精霊を持っている。でもそれだけではない。
フラーラの側には一メートルの火の精霊がいる。
ティノイカの側には一メートルの風の精霊がいる。
プロセーラの側には一メートルの闇の精霊がいる。
コルトラには特段大きな精霊は付いていないけど、それでも全部の精霊がオレと同じくらいだ。
それにしても、いきなり幼女と乳児が十五人だ…。オレとフラベーナちゃんは来るところを間違えたのだろうか。ここは保育園なのか?
いや、王都から通っている十代の子もちゃんといるよ…。ここは保育園じゃないよ…。
オレとフラベーナちゃんは、いつもどおり、動く的に向かってファイヤボールを撃っている。火の玉は直径二メートルで、色は青だ。
十一人の異母姉も、同じようにファイヤボールを撃っている。でも、火の玉は五〇センチだし、色は橙色だ。たしか、この授業の履修条件が、五〇センチの火の玉を五発撃てることだったはずだ。
でも、動く的に誘導弾を当てるのには慣れていないらしい。ランダムに動く的に、なかなか当てられないでいる。
この子たちはほんとうにフラベーナちゃんの姉なのだろうか。身長はともかく、フラベーナちゃんのほうが姉だといわれた方がしっくりくる。
いや…、フラベーナちゃんは転生者のオレでもびっくりするような才女だからな…。こんな子は他にはいないだろう。
と思っていた時期がオレにもありました。
乳児チームのほうは、四人ともみんな二メートルの青い火の玉を撃っている…。銀髪の三人は、誘導弾も完璧だ…。
「ほら、火の玉が的を追いかけるところを思い浮かべて」
「うん、分かった…」
フラーラがコルトラに教えてあげている。乳児が乳児に指導している…。異様な光景だ。乳児が立っているだけで異様だけど。
一人明るい栗毛のコルトラは、火の玉の大きさは二メートルあるけど、誘導弾はままならないようだ。
「あっはっはっはっはー!」
プロセーラはヤバい子かも…。両手で交互に大きな火の玉をボンボン投げまくっている…。
ティノイカは黙っているけど、上に掲げた手の平に乗っている火の玉が、なんだか…カッコいい…。絵に描いたような火の玉だ…。
フラベーナちゃんが乳児チームの魔法を見て自信をなくしてしまいそうだ。ここは気をそらさなきゃ。
「ねえ、フラベーナちゃん、フラーラ様とコルトラはフラベーナちゃんやアンネリーゼ様に似ているけど、妹かな?」
「フラーラはそうだよ。異母妹」
「やっぱりそうなんだ」
「アンネおかあしゃまとダイアナ第二王妃しゃまの間に生まれた娘なんだ。ダイアナ様はアンネお母様の娘なの」
「ふーん、って、えぇ…」
アンネリーゼとその娘の間に生まれた娘がフラーラ…。ファンタジーすぎる…。
まあでも、前世の神話では、神が自分の子と結婚して子を成したってのはあった。アンネリーゼはぽやぽやしているけど、女神なんだから自分の子と子を成すのは普通のことなんだろう。
っていうか、マイア王はアンネリーゼもその娘も妃にしたんだ…。
っていうか、第一王妃と第二王妃で結婚するんだ…。魔のトライアングルだな…。
っていうか、アンネお母様の娘って、そりゃ姉だろうに…。
「コルトラはちらないんだけど、たぶんアンネおかあしゃまの妾の子じゃないかな」
「そ、そうなんだ…」
正室と側室は分かるけど、側室と妾の区別がよく分からない…。姉たちの親は、どこまでが側室の娘?家名のない子は妾の娘?
いやいや、みんなマイア王の側室と妾じゃなくて、アンネリーゼの側室と妾の娘だよね。王妃が側室とか妾を抱えているのか?
アンネリーゼにはどれだけ子供がいるんだろう…。オレはアンネリーゼからフラベーナちゃんに乗り換えてよかったかもしれない。あれだけ同い年の子供がいるのだから、嫁の数は同じだけいるのだろう。そこにオレが加わっても、十把一絡げに扱われる未来しか見えない。いや、オレは嫁ではなく入り婿だけど…。
それにしても、フラベーナちゃん以外にも神童乳児がこれだけいるなんて…。転生者のオレよりチートな子がいっぱいだ…。
授業が終わったら昼ご飯だ。フラベーナちゃんと食堂に行こうと思ったら…、
「ねえ、ちみ、カルボしゅだっけか。いっちょにご飯食べよー」
「えっ」
銀髪乳児のプロセーラから声をかけられた。突然すぎて、オレはどうすればいいのか分からない。
プロセーラは気安く接してくる子だな。ほんとうに公爵令嬢なんだろうか。
その後ろには、もう二人の銀髪乳児と栗毛乳児。
「おい、おやめよ…。隣にいるのは王女しゃまだろ…?」
銀髪乳児のフラーラが、プロセーラの袖を掴んで、プロセーラを止めようとしている。フラーラは面倒見の良い子という感じだ。この子の口調も貴族のではない。
もう一人の銀髪乳児のティノイカは、我関せずという雰囲気。
一人だけ栗毛乳児のコルトラは、自信なさげに縮こまっている。
「カルボス、ご一緒してはいかがですか?」
フラベーナちゃんがお堅い王女様モードになった…。背筋もいつもよりシャキッとしてる。いや、フラベーナちゃんは普段からかなりシャキッとしているけど。
初めて会ったときはこんな感じだったか…。
すると、フラーラの顔が引き締まって、
「フラベーナおねえしゃま、プロセーりゃがしちゅれいしました」
フラーラまで口調と背筋がシャキッとして、お貴族様モードになった…。
「いいえ、構いましぇんよ」
「えっとぉ、ごめんなしゃい…、てへっ」
プロセーラは気まずそうに謝った。この子はお貴族様モードになれないのだろうか。
「うふっ、堅苦しいのはやめにしましょうよ」
フラベーナちゃんが柔らかなお姫様モードに変わった!デルスピーナに対するモードだ。
「フラーラは私の妹なのだし、お二人は私の姪なんですもの」
フラーラがアンネリーゼとその娘の子というのは聞いた。あとの銀髪二人が姪ということは、アンネリーゼの娘、ダイアナと別の親との間に生まれた娘ってことか…。
言われてみれば、ほんのりアンネリーゼの面影がある…ような気がする…。アンネリーゼの孫だということだけど、もっと何世代も隔てているんじゃないだろうか。
もう、腹違いとか同性婚とか別世代結婚がカオスすぎて、家系図を二次元に書くのはムリなんじゃないだろうか。
アンネリーゼっておばあちゃんなんだな…。もしかしたら、何百年とか何千年も生きているんじゃないだろうか。よく考えたら、女神なんだから当たり前だよな…。
でも見た目が十七歳くらいだから、前世のオレの年齢に丁度よくて一目惚れしちゃったんだよな…。いや、もうアンネリーゼのことは諦めよう…。
「はぁ、たしゅかったよ。かたっくるちいのは苦手さ…」
「ホントぉ、フラベーナしゃま、仲良くちてね~」
シャキッとしていたフラーラは突然気の抜けた表情になって、言葉遣いを元に戻した。
プロセーラは最初からずっとこんなんだな…。
でも、お前ら砕けすぎだろう。といっても、オレだってお貴族様相手のモードと平民モードしか持ち合わせていないけどな。
「よろちくおねがいちましゅ」
ティノイカは表情に起伏がない。お貴族様ほどシャキッとしているワケでもなく、他の二人ほど崩れているワケでもない。
「コルトラもアンネお母様の娘なのかしら?」
「うん…、会ったことはないけど、もう一人のママ、アンネリーじぇってママが言ってた…」
コルトラは年相応…でもないけど、幼い感じだな…。いやいや、乳児なんだから幼いに決まっているだろう…。他の子がおかしいんだ。
「なら、私の妹なのね!仲良くしましょうね」
「うん」
自信なさげなコルトラは、フラベーナちゃんの笑顔に、少しだけ心を開いたようだ。
「じゃあカルボしゅ、いっちょにご飯た…」
「フラベーナ、ちょっといいかちら?」
話が一段落したところでプロセーラがオレを昼食に誘おうとしたところで、デルスピーナがフラベーナちゃんに声をかけてきた。
プロセーラは話を遮られて、ムッとしている。
「王女様どうしでおはなちしゅるみたいだから、カルボしゅいこー」
「えっ、どうしよう…」
オレはフラベーナちゃん離れたくはない。
「なんでしょう、デルしゅピーナお姉様」
「あのね、あなたが頭に付けているの、カルボしゅがちゅくってくれたって言ったじゃない。みんな気になっているんでしゅって!」
デルスピーナもさっきの授業のときとは打って変わって、年相応…じゃないけど緩いお嬢様っぽくしゃべり出した。デルスピーナも柔らかお姫様モードを持っているのか。
お姫様モードのデルスピーナ…ちゃん…、けっこう可愛い…。ってイカン!オレはアンネリーゼから手を引いて、フラベーナちゃん一筋で行くんだ!
「そうなのよ!フラベーナしゃまのそれ、私もほちい!」
「ねえ、カルボしゅ、わたちにもちゅくってほちいなー」
「わたくちも、しゅてきだと思っていたのでしゅ!」
えっと…、パリナ、プレナ、ペルセラだっけ…。
三人とも前のめりになって目を輝かせてオレにリボンを催促してくる…。上目遣いで見つめられたらオレは…。
「ねえ、わたちにもくれないかちら」
「オレにもくれよ!」
「同じものを要求する」
「ボクもー!」
「わたちもほちいわぁ!」
「わたちもよ~」
こっち六人はイスマイラ、ゾーラ、エレナ、リザベル、ナーラ、アルゾナだったかな…。
「オレ」とか「ボク」だなんて、絶対、貴族のお嬢様じゃないよな。貴族のドレスじゃないけど、「オレ」なんて言うような身なりには見えないんだけど…。
それか、もしかしたらオレみたいに、男の娘に改造された男なんだろうか。だとしたら、ゾーラとエレナは完全な男の娘だな。オレなんて、永遠の幼児に少しだけ男の娘要素を加えただけなのに、こいつらは思い切ったことをしやがる…。
「わたちも…」
薄い金髪のプラチナまで欲しいと言っている。キミはすでにオレの店で買ってきたんじゃないのか。もう一つ付けるつもりなのだろうか。
たしかにネコ耳にリボンを追加するのはアリかもしれない。っていうか、そんなデザインのネコ耳あったかなぁ…。
あれ…、背中になんか…、スカートの上にファーのような…尻尾…。髪の毛と同じ色で同じ毛質…。
いやいや、付けているネコ耳も髪の毛と同じ色で同じ毛質じゃん。
あれ…、これって…アンネリーゼが変身して付けていた耳と同じ形…、馬の耳じゃん!ネコ耳じゃないじゃん!
ってことは、これって魔法で出したんじゃ?
気になって触ってみようとした。でも、いくらオレが幼児だからといって、会ったばかりの女の子に気安く触れるような不埒なマネをしたらフラベーナちゃんに嫌われてしまうかもしれない。とくに、この子たちは見た目よりもませているし、触ったら何を言われるか分からない。
幼女どうしで触れるのはアリだろう。小さな女の子と男の子で触れるのも普通だろう。だけど、オレの心はまだ高校男児なのだ。
と思っていた時期がオレにもありました。
「もう、ご飯の時間、なくなっちゃうよぅ」
「えええ…」
プロセーラが俺の右手を掴んで、食堂に行こうとしている。気安く触ったら嫌われるとか思っていたオレの葛藤は無駄になった。
「ちょっと、あなた!カルボしゅは私と食べるのよ!」
フラベーナちゃんが久しぶりに「カルボしゅ」って言ってくれた。とても和む。
そんな場合じゃなかった。フラベーナちゃんはオレの左手を掴んで、反対側に引っ張る。
なぜ反対側に行くのだ…フラベーナちゃん…。そっちは食堂じゃない…。
っていうか、二人ともけっこう力が強い…。これもチート精霊の能力か…。
っていうか痛い…。本気で引っ張られたら、オレのつたない身体強化では引きちぎられてしまうのでは…。
傍目から見れば、幼女と乳児に引っ張られて、微笑ましい光景かもしれない。でもかかっている力が尋常じゃないんだ…。ミシミシいっている。
別の角度から見れば、女の子二人に手を捕まれて取り合いされているなんて、うらやましく見えるかもしれない。「オレのために争わないで!」とか言っちゃうシーンかもしれない。でも、とにかく痛いんだよ!
「ちょっと、わたちはリボンがほちいのよ!」
「わたちも!」「ボクも!」「オレも!」「要求する!」……
フラベーナちゃんとプロセーラだけでなく、パリナやプレナ、ゾーラやリザベルやエレナも、オレの腕やら肩を掴んで引っ張り始めた。
知らない天井だ。
「起きた!よかった…。もう目覚めないかと思ったの…」
フラベーナちゃんが泣いている姿が目に入った。また転生したのかと思ったよ…。
オレはベッドの中だ。ここは保健室だろうか。なぜこんなところにいるんだろう。
フラベーナちゃんだけじゃなくて、さっきいたみんなが心配そうに、もしくは安心したようにオレをのぞき込んでいる。
幼女や乳児とはいえ、将来有望な可愛い女の子たちに囲まれて悪い気はしない。
「みんなで引っ張ってたらちぎれちゃって…」
「えっ…、何が…」
「カルボスの…服…」
なんだ…。よかった…。
「…と身体…」
「ええええ…」
オレの予想していたことが起こったのか…。
「でも大丈夫だよ!みんなでお願いしたらくっついたから!」
「えええ…」
奇形児の腕を生やしてしまうアンネリーゼの娘や孫娘たちなんだ。ちぎれた腕をくっつけることくらい簡単なんだろう…。女神の子や孫娘もまた女神ってことか…。
でもなぁ…。オレを囲んでいるのは可愛い女の子に違いないのだけど、この子たちがオレを引きちぎっただなんて…。
オレは見ていないんだ。ウソだと言ってほしい…。それか知らせないでいてくれればよかったのに…。
「一つだけどこに…」
「あああ、しょれはちゃんと治ちたから、だいじょぶだって言ったじゃん。ホンットごめんねー」
フラベーナちゃんと話していたら、プロセーラが割り込んできた。
オレは身体を引きちぎられて死にかけたというのに、プロセーラは軽いな…。
でも、プロセーラは何かをごまかしているような雰囲気だ。腕が反対にくっついているとかないだろうな…。
オレはベッドの上で身体を起こした。
「おかしいところない?」
「うん」
フラベーナちゃんに言われるまでもなく、左右が反対とか、指の順番がおかしくないかとか、動かないところはないかとか、ひととおり確認した。
身体を引きちぎられたのなら、服も一緒だろう。でも、みんな薄緑のチート精霊を持っているので、土魔法で服も思い通りに治せるのだろう。オレの服は新品同様だった。血の跡もない。
っていうか、自分が引きちぎられたとかスプラッタなシーン、想像したくもない…。見たところとくに何も変わっていないんだ。スプラッタなんてなかった。いいね?
「今、何時かな」
「もう学校終わる時間なの」
みんな昼メシも食わないで、午後の授業も受けないで、ずっとオレの側にいてくれたらしい。
明日は休校日なのでみんなでオレの店にリボンを買いに来てくれるそうだ。フラベーナちゃんがみんなと約束していた。こんどはオレ争奪戦にならないようにしないと…。まるでハーレムなんだけど、ちょっと怖い…。
オレはフラベーナちゃんと別れて王城内にある職員寮に戻った。
そして、職員用の食堂で夕食を済ませ部屋に戻ると、おしっこを催した。昼食を抜いたからずっと催さなかったけど、夕食を取ったとたんにもよおしてきた。
オレは自室のトイレに入ってズボンを下ろして気が付いた…。
オレが男であることを証明する最後の砦がないことを…。
きっと、オレをバラバラにして組み立てる過程で、不要なものだと判断されて捨てられたんだろう…。
フラベーナちゃんが「一つだけどこに…」と言いかけていたのはそれだ…。プロセーラがごまかしていたのはそれだ…。
はぁ…。なんだかあまり驚きも焦りもない。むしろ、すがすがしい。
女みたいな男とか可愛い男だなんて微妙なものにならなきゃいけないのなら、いっそうのこと完全な女になってしまえばいいとも思っていたくらいだ。
でもお貴族様のお坊ちゃんのことを考えるために、オレは男のままでいなければならないんじゃなかったっけ…。女になると男のことを考えられなくなってしまうんだっけ?
あれ…、オレって募集要項を満たさなくなったからクビなのでは…。
っていうか、トイレでズボンを下ろしたままずっと考えていたけど…、漏れそう…。漏れないように身体強化を使ってこらえていても限界がある。
でもオレはもう、立ったまま用を足すことはできなくなってしまった。しかたがなく便座を降ろして座って用を足す。
オレは、温水洗浄機のスカートをはいたシルエットのマークのあるビデというボタンを押した。小便でも洗い流して紙で拭き取らなければならないのは煩わしい…。これが女の子…。女の子って大変…。
このビデのボタンに描いてあるシルエットのスカートはミニスカートだ…。
はぁ…。今度は便座に座ったまま考える。他にもいろいろと問題が…。
フラベーナちゃんが「一つだけどこに…」というのは「…付いていたのかわからない」と言いかけたのだろうか…。つまり、オレが男であると知らずに付き合ってくれていたということか…。そもそも、フラベーナちゃんは男というものの存在を知らなかったんじゃなかろうか…。
はぁ…。なんだか悲しくなってきたけど、やっぱすがすがしい気持ちのほうが大きい!これからはフラベーナちゃんにどうどうとスキンシップできるかもしれない。
フラベーナちゃん以外も、みんなオレが男であることを知らなかったのだろうか。それとも、男の存在を知らなかったのだろうか。
あり得る…。みんな二歳とかなんだ。男と女の違いも知らないなんて十分にあり得る。
そうなると、プロセーラは、どこに付けていいのか分からないものがあったけど、治せたことにしちゃえ、ということをごまかしていたことになる。ばらして組み立てたけどネジが一本余ったみたいなのはやめてほしい…。
はぁ…。女の子の前で裸をさらしてしまったのかもしれないけど、結果的に自分も女の子になったわけだし、女の子どうしで裸を晒すのなんて何も問題ないじゃないか…。
やっぱり悲しい気持ちよりすがすがしい気持ちのほうが大きい。
オレは、ずっと自分のことを男だと思って生きてきたけど、女の子のようになれと強要されてつらかったんだ。これって性同一性障害…。いや、なんだか逆のような気がする…。まあいいや、心と体の性が…、あれ…、とにかくすっきりしたんだよ。
はぁ…、今夜はすっきり眠れそうだ。
翌朝…。やはり、オレの最後の砦は消滅していた。夢じゃなかった。
オレは男として生きた人生に幕を閉じた。たぶん前世の高校二年生までの十六年間と、この世界で生きた三年間。
そしてオレは女になった!念願の女の子だ!ひゃっほーい!
いや、オレは大事なものをなくしただけで、女として必要なものが備わっているかどうか分からないじゃないか…。だって、バラバラにして組み立てただけで、女の子になれるわけが…。
「うう、どうしよう…。誰に聞けばいいんだ…」
『これを見てください』
「なんだ?」
エージェント・アンネリーゼの声がして、スマホ画面に表示されたのは赤い肉の塊…。キモっ…。
『マジックレゾナンスイメージング、略してMRIです』
「ごめん、名前も略語も分かんない…」
『体内の写真ですよ』
「オレの?」
『はい。緑の円で囲った部分が子宮です。それからこっちが卵巣です。必要なものは全部そろっていますよ』
「子宮って赤ちゃんを作るところだっけ…。そうなんだ…よかった…。ってか、こんな写真、いつも撮ってるの?」
『毎晩、またはダメージを受けたときに撮っています。昨日死にかけましたし』
「やっぱり死にかけだったんだね…」
『あの場にいたのが王女たちでなければ間に合いませんでした』
「その王女たちに受けたダメージみたいだけどね…」
でも結果的によかった。ちゃんとした女の子になれたんだ。
『骨格も変わっていますよ。脚を外側に曲げて座ってみてください。こんな風に』
「こうか?」
エージェント・アンネリーゼが見せてくれたように座ってみた。女の子座りというやつだ。難なくできてしまった。以前は痛くてこんなふうに座れなかった。
バラバラにして組み立てたとかいうレベルじゃない。
昨日、保健室で目覚めたとき、また転生したのかと思った。ある意味本当だった。正確には転性だけど。ほんとうに性転換したんだ。
昨日はフラベーナちゃんたちに男だったオレを見られたことのほうが気になって忘れていた。
もう一つの問題のほうが残っている。オレは男であることを買われて、お坊ちゃんたちの教育計画を任されたんだ。
「オレは男のことを考えられなくなったりするのかな…」
『いいえ、その呪いは解けました。アンネリーゼや王都のすべての女性にかけられた呪いでしたが、アンネリーゼ自らが呪いから解き放たれることを望み、呪いから解放されることとなりました』
「呪いだったんだ…」
『ゲノムアルツハイマーと呼ばれていました』
「へー…」
まあいいや。それならつまり、オレは女になってもちゃんと仕事を遂行することができる。
まあ、アンネリーゼの呪いも解けたのなら、アンネリーゼでもできてしまうかもしれないけど。
今日はみんながお店に来てくれる。オレは職員の食堂で朝食を取り、お店に向かう…前に、トイレに行きたくなった…。
いつものように職員用の男子トイレに入ろうとしたところで思いとどまった。オレは女になったんだ…。
でも今まで男子トイレに入っていたオレが、急に女子トイレに入るようになったらどう思われるだろうか…。今だって見た目は何も変わっていなくてズボンをはいているし。うぅ…、漏れるぅ…。
とりあえず男子トイレに入ったけど、オレは小便器の前に立って用を足すことができない。ところが運の悪いことに大便器の個室が満室だ…。
なんてこった…。漏れるぅ…。なりふり構っていられない…。
急いで男子トイレを出て、女子トイレに入ろうとしたのだけど、入り口で女子トイレに入ろうとしているメイドさんとばったり顔を合わせてしまった…。
この世界のメイドさんはみんなミニスカートなので、オレのアングルからでは相変わらずパンツが丸見えだ。いや、今はそれはどうでもいい。
メイドさんはそのまま女子トイレに入っていった。メイドさんは個室に入るはずだから、そのあとなら再び鉢合わせすることはないだろう。耳を澄まして、個室の鍵の閉まる音を待って、それからオレも女子トイレに入った。
女子トイレは男子トイレよりも個室がたくさんあった。大きい方をしたい人がたくさん押し寄せても女子トイレのほうが余裕があるなんてずるい!いや、違うな…。男子トイレの小便器のほうが圧倒的に多い…。小便をしたいだけでも、少ない個室を使わなければならないので、圧倒的に不利じゃないか…。しかも、小便をするだけでも脱がなければならないので時間もかかる。
遊園地で女子トイレだけ並んでいるわけだ…。ああ、なんか思い出した。オレは女の子と遊園地に行ったことがあるかもしれない。でもトイレなげーなぁ、早くしてくれよと思っていた。でもそれにはこんな理由があったとは。それも知らずにオレは文句を垂れていたとは。世界中の女性、ごめんなさい…。
などと考えつつ、用を足してミニスカートの女性のマークの描かれたビデボタンを押して、拭いてからパンツとズボンをはいて、個室を出たら、ちょうど先ほどのメイドさんが同時に個室を出てきてしまった。しまった…。せっかく鉢合わせしないように入ったのに、出るときのことを忘れていた…。
気まずい…。洗面台の鏡に映っているはずのメイドさんと顔を合わせられない。どんな顔をしているだろう。なんか言われるだろうか…。
と思いつつ、子供用の低い洗面台で手を洗っていると、メイドさんは大人用の洗面台でさっさと手を洗って、トイレを出ていった。
どういうことだろう…。オレが男子トイレから出てきたのは見ていたはずだ。
でもオレはどちらかというと女の子に見える男児だ。改造完了予定の四歳も近づいてきて、けっこう女の子っぽくなってきた。女の子が間違えて男子トイレに入ったとでも思ってくれたのだろうか。
それとも、男児といってもたかが三歳児、お母さんと一緒に女湯に入ってもギリギリセーフ?三歳の男の子に見られて困るものはない?
はぁ…、よく分かんないけど悩んでもしかたがない。それよりも、トイレに時間をかけすぎた。急がないと遅刻する。
いや、女の子というのはトイレ一つとっても時間がかかるものだと学んだ。これからはトイレに時間がかかるものだと考えて時間を見積もらなければならない。
身体強化で走って行ったら、何とか遅刻せずにお店に着いた。でも、オレの精霊の光の魔力は枯渇寸前だ。
ちなみに、今日は土魔法以外を使う予定がなかったので、自分の土の魔力以外は枯渇寸前にしてある。だから、他は精霊の魔力だけが頼りだ。
「カルボス、おはよ。遅かったね」
「ごめん…」
フラベーナちゃんに心配をかけてしまった、でも、トイレのエピソードを伝えることはできない。
そういえば、オレはよくトイレに行くけど、フラベーナちゃんがトイレに行っているところを見たことがない。まあ、美人はトイレに行かないものだしな。
いやまあ、オレがトイレに入っているところも、フラベーナちゃんに見られたことはなかったんだ。オレが男であったことをフラベーナちゃんが知らなくても無理はない。
「いいんだよ」
「「「ごきげんよう」」」
「「おじゃまします」」
「じゃまするよー」
「わー!」
団体さんがやってきた。フラベーナちゃんは平民モードから、柔らかお姫様モードに切り替わった。
みんなが同時に挨拶をしたので、誰がどんな挨拶をしたのか分からなかった。
二歳の幼女十一人と、ゼロ歳の乳児四人だ。
どうでもいいけど、保護者…というかメイドとか護衛とかいないのだろうか。どっかに隠れているのだろうか。
「わぁ!いろんなリボンがあるのね!」
頭と髪の毛だけのマネキンに展示してあるリボンの数々を見て、デルスピーナちゃんが指を組んで目をキラキラとさせている。その仕草はとても可愛い。
他の子もみんな同じように目をキラキラさせている。
ちなみに、マネキンの髪型は、オレも女の子の髪型にそれほど詳しいわけではないので、キャラメイキングアプリで選べる髪型を参考にした。
オレはそれを参考にしてマネキンを作ろうと思ったのだけど、オレの土魔法で髪の毛の細かい一本一本を作るのに時間がかかりすぎる。しかたがないので、スマホをフラベーナちゃんに見せて整形してもらった。フラベーナちゃんなら、細いものがたくさんあっても簡単にコピーできるようだ。
その際に「このアプリ何?いいね!私も欲しい!」と言われたが、これが自分の容姿を決めるために渡されたアプリだとは言いづらい。「こういうデザインをするときのためのアプリだよ。アンネリーゼ様に言えばもらえるかも」というふうにごまかした。
ちなみに、キャラメイキングアプリには、なぜか女の子のメイキングモードが加わっていた…。オレが女になったからか…。まあ、女の子作成モードは、暇なときにいじってみよう。
「ネコ耳だー!」
プロセーラがネコ耳コーナーに食いついた。ん…、今、なんと言ったかな…。聞き逃した…。なんかこの世界の言葉ではなかったような。
「へー。プラチナの耳と似ていうけど、ちょっとちあうのね」
「これ、どうかな?」
「良いわね!」
パリナとプレナも興味があるらしい。プレナがマネキンに付いていたネコ耳カチューシャを取って、試着している。
「髪の色と合わなかったら、オーダーメイドもできるのよ」
「これを銀色でちゅくって!」
フラベーナちゃんがそう言うと、プロセーラが試着していたネコ耳を頭から外してフラベーナちゃんに持っていった。
銀髪なんてファンタジーな色は知らなかったから、用意してなかったんだよ。
「これにフリルをちゅいかできるかしら?」
「はい、できます」
ペルセラがリボンを一つ持ってオレに注文をしている。
他のみんなも、カスタマイズしたりして自分好みのリボンを作り上げていた。
結局、プロセーラだけが銀の猫耳を買った。パリナとプレナは買ってくれなかった。
メイドのヘッドドレスみたいなのも置いていたんだけどなぁ。
っていうか、プロセーラは猫耳を普段使いするつもりなのかな…。まあ、ネイティブで馬耳のプラチナもいるくらいだし、アリなのかな…。
ちなみに、オレとフラベーナちゃんからのプレゼントではなく、ちゃんとお金を払って買ってもらった。電子マネーだけど。口座にいくら入っているかは知らない。
お店は開店したばかりで、まだ初期投資を回収できていないのだ。みんな手助けしてくれたというわけだ。
「フラベーナ、とても良い買い物ができたわ!」
「そう言っていただけると嬉しいです!」
デルスピーナちゃんがフラベーナちゃんの両手を握って、嬉しそうに言った。絵になるシーンだなぁ。
他の子もフラベーナちゃんとオレにお礼を言いに来た。
「それでは次は、メタゾールの仕立屋に行きましょ」
「はい、お姉様」
ん、デルスピーナちゃんはなんて言った?
ぞろぞろと店を出ると、店の前に馬車が付けてあった。
メイドに抱えられて、八人乗りの馬車にどんどん入れられていく、十六人の女の子たち。
これはスラムから連れ出されるときにアンネリーゼに乗せてもらった魔道馬車だ。中は闇魔法の影収納になっていて、屋敷の部屋のような作りだ。
馬車で移動するといっても、五分したら馬車は止まった。キャッキャうふふする暇もない。
魔道馬車は振動がないから窓の景色を見ていないと止まったことも分からない。
馬車から出ると、メタゾールの仕立屋だった。
「あのね、カルボス、今日はあなたにドレスを作ってあげたいの」
「えっ」
フラベーナちゃんはオレにドレスを作ると言った?
いや待てよ。突然すぎて驚いてしまったけど、オレは女の子になったんだからドレスを着ても…いいんだろうか…。
「だってカルボスの服は可愛くないわ」
「まあ…、そうだね…」
そりゃオレの服は男の子の服だしな。
入店すると店員がいたのだけど、話が付いているみたいで、かってにやってくれという感じだ。
「さあ、服を脱いで、カルボス」
「はうっ…」
脱いでと言ったにもかかわらず、フラベーナちゃんはかってにオレのズボンを下ろした…。
「じゃあ、あたちは上」
「あわゎ…」
プロセーラはオレの上着のボタンをかってに外している…。
「カルボスのパンツ、可愛くない…」
「そうそう、昨日あたちも思ったよ」
やっぱり昨日見たんだ…。
この世界の男のパンツは、前世のボクサーブリーフといった感じだ。ちゃんとゴムも入っていてフィットする。
「じゃあ、パンツも新しくしようね」
「ちょっ、フラベーナちゃん…、うわぁああ…」
フラベーナちゃんはオレのボクサーブリーフを下げた。オレは両手で顔を覆った。もうお嫁に行けない。でもフラベーナちゃんに娶ってもらえるならそれでいい。
昨日も全裸をさらしたのだろうか…。女の子どうしだからいいよね…。まだオレは三歳だからいいよね…。二歳の子に見られたっていいよね…。
フラベーナちゃんは、仕立屋に用意されていた生地を土魔法で整形して、オレにまとわせながらパンツを作った。子供用のパンツかと思ったら、大人っぽいローライズなやつだった…。
今まで廊下ですれ違ったミニスカメイドもミニスカ騎士もこんな感じだった。スキャンティというやつだろうか。これがこの世界のパンツなんだ。たしかに、ファンタジー世界の女の子は普通こういうパンツをはいているはず。恥ずかしいことはないはず…。
「よしっ!次はぁ」
フラベーナちゃんは、マネキンの着ているブラジャーを眺めたあとオレの胸を見つめた。まだ必要ないよ!まだっていうか、オレは永遠の四歳児になる予定なのだから、それは必要にならないよ…。
男の尊厳などとうにないけど、それを着る勇気はない…。
「じゃあみんなでドレしゅを考えましょ!」
「「「「「はーい」」」」」
フラベーナちゃんのかけ声にみんなが応えた。
「これなんかどうかしら」
この子はイスマイラだったかな。マネキンの着ている大人用のドレスのスカートをつまんで、オレに聞いてきた。ここにはミニスカートのドレスしか置いていない。マジで…、オレがあれを着るの…?
フラベーナちゃんに着てほしいドレスならともかく、自分で着たいドレスなんて分からない…。
「オレはこれが良いと思うぜ!」
オレっ娘のゾーラだ。「オレ」とか言っているくせに、すごくフリフリの可愛いやつを選んできた…。
「わたちはこれをおしゅわ!」
「わたくちはこれ!」
「わたちは…」
みんなで主張するから収拾が付かない。それよりいつまでパンツ一丁でいればいいのかな…。
「では、私がまず適当に着せるので、みなしゃん、しゅこしずつ好みに変えていってね」
フラベーナちゃんが、いちばん近いところにあったドレスをオレのサイズにして魔法でまとわせた。
それからはもう大変。フリルやレースが追加されまくって動けないとか、色がレインボーになったりとか、みんな好き放題だ。
なんだかゴテゴテ飾りまくってるわりには、露出が大きい…。胸元を大きく広げたり、スカートを余計に短くしたり…。オレって三歳なんだけど、誰だ…オレに色気を求める子は…。
「ごめん、もう少し露出を抑えてくれないと恥ずかしい…」
「「「「「かわぁいいー!」」」」」
え…。誰が…。鏡を見ると、胸とスカートを抑えてもじもじしている女の子がいた…。うん…、これは可愛い…。
ってアイドル養成科でならった仕草を無意識にやっていた…。これが素になってしまったのか…。
「ご、ごほん…。みなしゃん、これでは決まらないでしゅ」
フラベーナちゃんが咳払いをしてみんなをまとめようとしている
「一着だけプレゼントしようとするからいけないのね。一人ずつ順番に、カルボスに着せたいものを着せて、それを全部プレゼントするということでいいでしゅか?」
「「「「「はーい」」」」」
はぁ?十六人の女の子がそれぞれ、オレにドレスをプレゼントしてくれるって?
「まずは私から!」
フラベーナちゃんがオレに生地を土魔法でまとわせて作ったドレスはゴージャス過ぎた…。金糸とかダイヤとか使いまくりだろう…。これはフラベーナちゃんにお似合いだよ…。
幼女チームが作ってくれたのは、自分の着ているドレスに似通ったものか、お店に展示してあるドレスに似通ったもののどちらかだった。
チート精霊が付いているのに、何でも作れるわけじゃないんだな。フラベーナちゃんも最初はそうだったもんな。
でも、アルゾナがくれたのは…。
「これはおかあしゃまがよく着ているドレしゅなのよぉ」
「そ、そうなんだ…」
これはドレスじゃなくてビキニ水着じゃなかろうか…。ブラジャーとパンツと、そしてかろうじてスカートに見えなくもないパレオの構成だ。ブラジャーは後ろだけを紐で結んで止めるようになっていて肩紐はない。パンツも両サイドを紐で結ぶようになっている。
フリルやレースが付いていてドレスと同じような質感だけど、布面積的にはただの水着だ。
恐れていた本物とは少し違うけどブラジャーを着せられてしまった…。もうお嫁に行けない…。
みんなで作ったドレスの露出が高かったのは、おまえが犯人かー!
一方で、乳児チームのほうは意外だった。
フラーラが作ったのは、普通に可愛いんだけど、ゴテゴテとフリルがいっぱい付いているわけではなく、普段着としても使えそうなワンピースだった。
プロセーラは…、メイド服だ…。ミニスカメイド服だ…。エプロンまで付いている。ドレスを作ってくれるんじゃなかったのか…。
ティノイカのは唯一のロングスカートだ。っていうか長すぎる。床に引きずるタイプのドレスだ。
すごく綺麗なんだけど、装飾が多すぎて、動くのに苦労しそうだ…。飾っておけば部屋が映えると思う。
あ、コルトラのはお店にあるやつだ。
つまり銀髪乳児だけが凝ったものを作ったってことか。ファンタジーな子たちだからしかたがない。
とはいえ、あんまりゴテゴテしたのはいつ着るのかという感じだ…。
ティノイカのはまず外で着られない。スカートが長すぎて引きずるタイプのドレスだ…。
そして、フラベーナちゃんのも普段は着られない…。いったいいくらするのだ、これは…。
せっかくフラベーナちゃんが作ってくれたから着たいのはやまやまだけど、いつ着ればいいんだ、こんなの…。パーティ?
「あとは靴ね」
「あうぅ…」
フラベーナちゃんがそれぞれにドレスに合う靴を見繕ってくれた。パンプスというやつだ。いやハイヒールかもしれない。ちょっとかかとが高すぎやしないだろうか…。十センチくらいありそうだ。
オレは靴のかかとが細くて高くなったおかげでバランスを崩しそうになった。
「それでは経費でおとちといてくださいね」
「かしこまりました」
フラベーナちゃんは店員にそう言った。まあ、親の経営する店だもんな…。でも、うちらのお店が吹っ飛ぶようなお金を使うのはどうかと思う…。
「カルボス、どれを着て帰るの?」
「えっ」
フラベーナちゃんは「私の作ったのを着て帰ってね」って顔で言っている。
フラベーナちゃんどころか、みんなが期待の眼差しでオレを見つめる。
オレは辺りを見回して自分の着てきた男児の服を探した。店員が持っていた。そして、土魔法で分解して生地にしてしまった…。
さようなら…。オレのズボンとボクサーブリーフ…。キミたちは最後の砦の門番だった。守るべき砦は先になくなったけどね…。いや、以前ズボンのことを砦だと言ったような気もする。
まあ、寮にもう一着あるんだけど。
機能性でいったら、フラーラのワンピースかプロセーラのメイド服なんだけど…。
でも最初はフラベーナちゃんのを着て帰らないと男が廃るよな…。いや昨日男は廃れたんだった…。
百歩譲って、この世界では当たり前のパンチラミニスカートはいいとしても、王女様としか思えないようなこのデザインをオレが着ていいのかな…。
「も、もちろんフラベーナちゃんのを着て帰るよ…」
「ありがと!カルボしゅ!」
「カルボしゅ」和むぅ…。そんな場合じゃなかった…。
他の子はやっぱりねー、とちょっと残念そうだけど、それほど落胆している様子もない。
でも、もし他の子のを選んだら、フラベーナちゃんを悲しませていたことだろう。オレには最初から選択肢などないのだ。
「で、でも…、オレが王女様みたいな格好していいのかな…」
「うーん、そうねえ」
「これはとっておきのパーティとかに着ていきたいんだ。それで…、もしよければ普段使いのドレスが欲しいんだけど…」
「わかったわ!もう一着作るわね!」
「あ、ありがとう…」
どうだ!オレの奇策!フラベーナちゃんの顔を潰さずに済ます方法としては、これ以上にないんじゃない?もう一着ねだるなんて図々しいやつと思われるかも知れないけど、フラベーナちゃんのドレスを着ないで悲しませるよりマシだ。
というわけで、延長戦だ。オレは最後に着ていたコルトラのドレスを脱いで、フラベーナちゃんに新たなドレスをまとわせてもらった。
「普段学校に通うのに使いたいから、あまり豪華すぎないように…」
「分かったわ!」
されるがままじゃなくて、最初からこうしておけばよかった…。
作ってもらった普段着ドレスをそのまま着て帰ることにした。
「では残りのドレスは、魔道バッグにお入れしますね」
店員が魔道バッグにドレスを詰め込んでいく。パンツも何着か入れているようだ。中は影収納になっている。二十四時間だけもつ闇の魔石が付いており、大量の買い物を持ち帰ることができる魔道具だ。電池となっている魔石を入れ替えるか、闇の魔力を込めた魔導石に入れ替えれば、継続して使うことができる。
ちなみにオレの影収納は、自分の闇の魔力の回復量でまかなえるのは一立方メートルくらいだ。ドレスを十六着持って帰るのには少し足りない。
幸いなことに魔道馬車で王城まで一緒に帰れることになったので、オレのパンチラスカートデビューは王都の通りではなく、王城で行われることになった。でも明日からこれで行かなきゃいけないんだよな…。
王城の敷地内に着いて、みんなとお別れだ。
「今日はみんなありがとう」
「気にちないでいいのよ」
「着てくれると嬉ちいな」
「いつ着てくれるのかたのちみでちゅわ」
おいおい、パリナとプレナとペルセラはハードル上げるなよ…。最初にフラベーナちゃんが作ってくれたのほどでないけど、高位貴族のドレスみたいで着づらいんだぞ…。
「それじゃまた明日ね」
「また明日」
部屋に戻ったオレは、魔道バッグの中のドレスを出した。でも、ワンルームマンションのような職員寮では、十七着のドレスを置いておく場所なんて…。クローゼットは五着入れたらいっぱいだ…。
幸いなことに、ティノイカのやつ以外はミニスカートなので場所を取らない。カーテンレールとかに掛けておくしかないな…。
っていうかティノイカのは長くて幅広で、マジで邪魔なんだけど…。これがもし大人用だったら、六畳一間なんてそれだけでいっぱいになってしまうところだった。
あとはパンツ。今はいているエグいやつと、フリフリの可愛いやつ。
それと、ブラジャーが入っていた…。アルゾナの水着ではなくて、お店に展示してあったやつのミニサイズだ。
絶対にいらないと思うのだけど、なぜか捨てることができず、クローゼットにしまった…。
翌日は、フラベーナちゃんの作ってくれた普段着ドレスで登校した。
股がスースーする…。部屋ならまだよかったけど、朝はちょっと気温が低くて、外は少し寒かった…。女の子はみんなこんな思いをしてスカートをはいているなんて…。またもや世界中の女の子に頭が下がる思いだ。
ちょっと恥ずかしかったけど、王都ではミニスカートの小さな女の子もそれなりにいるし、堂々としていればいいんだ。
この世界ではパンツは見せるためのものであり、パンツをはいていれば全裸ではないから大丈夫…、たぶん…。
それに、ハイヒール…。ほぼつま先立ち…。とても歩きにくい。身体強化を使っていなかったら、すぐに疲れてしまうだろう…。
足首を使えないから歩幅を大きくできなくて、遅刻しそうだ…。でもこれで大股で歩いてしまうと、なんだかとてもはしたない感じになってしまう。女の子というのは何をするにしても時間がかかって、ほんとうに大変なんだな…。
「カルボス、わたちのドレスを着てきてくれたのね!ありがと!」
最後に思い切ってドレスをねだってよかった。さもなければ、オレはこの笑顔を失うところだった。
先週はみんなで食堂に行こうといいながら、オレがバラバラにされてしまったので行けなかった。でも、今日はみんなでわいわいと食堂に行ったんだ。
そうしたら…、乳児チームの食事は…哺乳瓶持参だった…。この子たち、ほとんど歯が生えてないしな…。
「なぁにぃ、ほちいのぉ?」
「いや、そんなことは…」
「はい、どうじょ!」
「ふぐ…」
右隣の席で哺乳瓶を飲んでいるプロセーラを見つめていたら、その哺乳瓶を口に突っ込まれた…。うーん…、微妙…。
あれ…、これって間接キス…。いやいや、乳児とキスとか、何を言っているんだ。
「うふっ、かんしぇちゅきしゅだね!」
「えっ」
なんか左隣でものすごい殺気が…。
「カルボス?あーん」
「あっ、はい」
フラベーナちゃんが笑顔で殺気を放っていた。やばい威圧…。冷や汗がいきなり出てきた…。
フラベーナちゃんの差し出したフォークに刺さったお肉を、オレは慌てて口にくわえた。一瞬視界に入ったお肉には歯形が付いていた気がする。オレがお肉を飲み込むと、フラベーナちゃんの殺気は収まった。
おかしい、オレのフラベーナちゃんはこんなだっただろうか…。
ちなみに、学校の食堂も王城の職員寮の食堂も、あまりラインナップはかわらない。前世で見たようなものが並んでいて、抵抗なく食べられる。
その後、みんなのくれたドレスをローテーションで着回している。高位貴族風や豪商のドレスを着ているうちに、だんだん慣れてきた…。別にとやかく言ってくるやつは誰もいない。
だけど、一部のドレスは着られていない。フラベーナちゃんのゴージャスなドレスと、ティノイカのロングスカートの。それからアルゾナのビキニ水着…。メイド服はメイドと間違えられるかと思ったけど、三歳のメイドなんていないから、とくに問題なかった。
そして次の休日に、デルスピーナちゃんの開くお茶会に呼ばれた。平民のオレなんかが王女のお茶会に行っていいのかとフラベーナちゃんに聞いたら、妾の子であるイスマイラたちは平民なので、気にしなくてよいとのことだった。
いやいや、アンネリーゼの子であるイスマイラたちと、オレは全然違うだろう…。まあいいや、フラベーナちゃんがいいって言うなら…。
今日はフラベーナちゃんが最初に作ってくれた、ゴージャスなドレスを初めて着てきた。職員寮から王城の一室までだからこの格好で来られたんだ。これを着て王城の敷地の外に出る勇気はない。
「ごきげんよう、フラベーナちゃ…、フラベーナ王女殿下…」
「ごきげんよう!カルボス!」
オレはカーテシーをした。礼儀作法の授業で習ったとおりなのだが、スカートでするのは初めてだ。脚を交差させて少し屈んで、スカートをめくる…。自分で自分のスカートをめくってパンツを見せるって、なんて恥ずかしいんだ…。顔が火照ってくるのが分かる…。
それに対して、フラベーナちゃんはぱぁっと明るくなって、オレにカーテシーを返してきた。フラベーナちゃんが脚を交差させてスカートをめくってオレにパンツを見せてくれた…。フラベーナちゃんの顔は、少し赤らんでいた。オレはもう死んでも悔いはない。
「もう!私たちの仲じゃない。呼び方なんて気にしなくていいのよ」
「あ、ありがとう…」
「でも、私のちゅくったドレスを着てくれたのね!」
「うん、フラベーナちゃんのお茶会なんて、とっておきの機会だしね」
「ありがとう!」
フラベーナちゃんとデルスピーナちゃんは、オレにくれたドレスに負けないくらいのゴージャスなドレスを着ている。フラベーナちゃんは自分のドレスの記憶を頼りに、オレのドレスを作ってくれたんだな。
王女のようなドレスを着ているオレが、王女二人と並んでいたら、まるでオレが王女になったみたいだ…。やっぱりこのドレスは落ち着かないよ…。
フラベーナちゃんは柔らかお姫様モードだ。オレも、平民モードとお貴族様向けモードの間に、お友達お嬢様モードみたいなものを作って練習しなければならないかな。
「カルボス」
「うん?」
「カルボスって、愛称よね?」
「えっ?」
オレは、エージェント・アンネリーゼがリストアップしてくれた、この世界の人物名から選んだだけなんだけど。
「ほんとうはカルボシスティナよね?」
「えっ」
「いきなり愛称を教えてくれるなんて、私のことを親しく思っていてくれるってことだから嬉しかったのだけど、でも、カルボシスティナの愛称はシスティナだと思うの」
「はぁ」
「だから、今度からシスティナって呼んでいいかしら」
「はい?」
「よかったっ。ありがとう、システィナ」
「はい?」って、疑問形で語尾を上げたんだけど…、同意と捉えられた…。
あれ…、あれよあれよという間に、オレの名前はカルボシスティナで、愛称はシスティナになってしまった…。
「こういってはなんだけど、あまり可愛くないと思っていたのよ…」
「ごめんなさい…知らなくて…」
「ううん、いいの」
たしかに、エージェント・アンネリーゼに表示された女性名のリストには、前世の母音でいうAかEで終わっている名前ばかりだった。たまに、子音で終わっている女性名もあったが。
それに対して、男性名のほうは子音で終わっているのがほとんどだ。
つまり、カルボスの「ス」というのは、前世のSに相当する子音なので、フラベーナちゃんは男性名といいたいのだろう。
でも、フラベーナちゃんは男性というもののことを知らないんじゃないかな…。だから男性名という言葉が出てこなくて、可愛くないという表現に留まったんだと思う…。
オレの男の服やパンツのことも可愛くないと言っていたし。
「そういうことだから、今度からみんな、システィナって呼んであげてね」
「「「「「はーい」」」」」
鶴の一声で、俺の名前はカルボスからシスティナに変わった。正確にはカルボシスティナだけど。
たしかに、女の子になったのだから、男っぽい名前より女の子っぽい名前のほうがいい。
名前が変わることなんて、性別が変わることに比べればたいしたことじゃない。
そんなわけで、フラベーナちゃんの作ってくれた王族用ドレスも着ることができたし、お茶会はキャッキャうふふして終わった。
アンネリーゼはダイアナの執務室に赴いた。
『ママぁ。面白いもの見せてあげる』
「なあに?」
ダイアナに呼ばれて来てみれば、何やらディスプレイに監視カメラ映像が映された。
『ちょっと、あなた!カルボしゅは私と食べるのよ!』
『ちょっと、わたちはリボンがほちいのよ!』
カルボスが私の可愛い娘たちに囲まれてハーレム状態だ。「オレのために争わないで!」とか言っちゃいそうなシーンだ。
『わたちも!』『ボクも!』『オレも!』『要求する!』……
ブチっ、バキバキバキっ。
『『『『『キャーーーーー』』』』』
えっ…。ちょっと…、モザイクをかけてほしい…。これはR15指定だ。
じゃないし!死ぬよ!
「ダイアナ!これって今起こっていることなの?」
『録画だから、まあ見ていなって』
特撮とかCGではなさそうだけど…。
『ウソっ、私のカルボしゅ…。お願い、元に戻って!』
『ごめんなしゃい、生き返ちて…』
『わーん、くっついてぇええ』
『可愛いカルボしゅ、帰ってきてぇ』
『『『『うわーん…』』』』
『わー!治った!』
『『『『『よかったぁ!』』』』』
マジか…。まあ、あれくらいならヒーラーガールズでもできるしね…。できるかな…。
『ねえ、何これ、どこかくっついてないところない?』
『あー、いや、これはひちゅようないよ。治っているから、あとは起きるのをまちゅだけだよ』
えっ…。フラベーナはとプロセーラは何のやりとりをしているのか。映っているのは二人の背中なので分からない。
「ダイアナ…」
『そして、これがマジックレゾナンスイメージング、略してMRI』
「話、聞いてないし…。っていうかMRIってそんなのじゃなかったよね…。まあいいや…。どこの臓器なの?さっきは目をそらしてしまったけど、臓器まで影響あったの…?」
『これは子宮』
「治ったの?」
「うん」
「組み立て治したらネジが一本が余ったみたいなことをフラベーナとプロセーラが言っていたような。何が余ったのかな…。よく見えなかったけど…」
『必要ないものだったからいいの。ほら、目を覚ましたでしょ』
「まあ、治ったならいいけどさ…」
それにしても、うちの娘たちがあんなに凶暴だったなんて…。リーナよりやばいかも…。
カルボスに謝っておこう…。
その後、いつものようにダイアナの体調を整えた。
ダイアナはそろそろおなかが出っ張ってくるころだけど、魔道腹巻きでおなかを引っ込めているらしい。胎盤を付近の空間を影収納で広げるから、おなかが大きくならないで済むのだ。たしかにそうすれば圧迫も減って楽だ。
オレはアンネリーゼから呼出を受けた。
「ごきげ…カルボス…その格好は…」
「あっ…」
しまった…。いつも学校に行くノリでドレスを着てきてしまった。今日はパリナのドレスの日だったので、気がつかずにドレスで来てしまった。
男の服はもう一着あったのに、それを着てくるべきだったのに…。でもしばらく着ていないから、もう入らないかもしれない…。
「可愛い!」
「へっ…」
アンネリーゼの顔がふにゃっと破顔した。
アンネリーゼの信念「可愛いが正義」。可愛ければ何でも許されるというところだろうか…。
「あっ、ごほんっ…。えっと、そのドレスはもらったんですか?」
「はい…。学校でアンネリーゼ様のご令嬢たちと親しくなり、贈られました…」
「皆、あなたのことを女の子だと思っているのですね…」
「えっ」
みんなにバラバラにされて、治してもらったのはいいけど、最後の砦がなくなって代わりに子宮ができて、勢いで女の子にされてしまったとか、どうやって説明しよう…。オレが被害者なのに、なんで悩まなきゃいけないんだろう…。
「えっ…、あなたまさか、ほんとうに女の子?いや…、たしかにMRIに子宮が映ってたし…。あれ…あれ…、その前までは男だったんだっけ…」
「あー…、そうです…」
やっぱりアンネリーゼにはかなわない。女神だから何でも分かってしまう…。と思ったのだけどオレが男だったことを忘れていたのではないだろうか…。
「今日呼び出したのは…、私の娘たちがあなたをひどい目に遭わせたみたいで…、謝罪をと思いまして…」
「そうでしたか…」
「痛かったでしょう…。ほんとうにごめんなさい…」
「いえ、本格的に痛くなる前に気を失ってしまったし、治してもらったので大丈夫です」
「というか…、その治してもらった勢いで女の子にされてしまったのですかね…」
「そうみたいです…」
「はぁ…。あの子たちはそんなことまでできるのですね…」
「女神の子は女神ということですね」
「私は女神ではないと何度言ったら…」
「すみません」
オレは平謝りした。
人の容姿を自由に操ったり、何でもお見通しだし、翼は生えるし、娘はオレを性転換させるし、女神でないとしたら何だというのだ。
「ところで…、私の処遇ですが…。私は今でも男のことを考えることができます。だから…」
「ああ、分かっていますよ。提示した条件とは異なりますが、解雇することはありません」
「よかった…」
「貴族子息の教育計画も、リボンのお店も続けてください」
「はい!」
よかった。すんなり行った。
でも、オレは言われたことをただ遂行するだけではない。アンネリーゼの期待以上の成果を出して、のし上がるんだ。このドレスに相応しい立場を手に入れるために。
「せっかくだから、経過報告をしたいと思います」
「ええ、お願いします」
「男性の出生率減少防止策として始めた、不妊治療で永遠の幼児と男の娘を選べるコースですが、わずかではありますが、選ぶ人が出てきています」
「それは素晴らしいですね!」
「最終的に、不妊治療で永遠の幼児と男の娘を選ぶ割合は合わせて二割を見込んでいます」
「まあ、それくらいが限度でしょうね」
「それから、貴族令息教育の進捗ですが、青色の領地の者は六割の過程を終え、予定どおり一年間で領地改革を始められます」
スマホの画面を会議室のディスプレイに表示した。貴族令息ごとの進捗を横棒グラフで表している。上から進捗率の高い順に並んでいる。
「それは何よりです」
「一方で、赤色の領地の者はやはり二年以上かかる見込みです」
グラフの下の方の、進捗率が低い者を指さして説明した。
「しかたがありませんね。私の手がけているご令嬢はすでに三年もかかっているので、カツを入れてきたところです」
「三年ですか…」
「勉強しないで、自堕落な生活をしていました…」
「頻繁に監視していますが、ご令息はサボってはいないようです。たんに能力が低いようです」
「あなたはちゃんと見てくれているのですね。私は監視を怠っていました…。ご令息にもカツを入れてきますかねえ…」
「そうしてくださると助かります」
「分かりました」
「あと、貴族のご夫人を連れてくる計画はどうですか?」
「あ…、忘れていました…」
「それなら、私に任せていただけませんか?私は女になりましたので、ご夫人とも付き合えると思うのです」
「なるほど」
「最初だけアンネリーゼ様の手をお借りしたら、あとの計画は私が進めます」
「それは助かります…」
「ついでに、アンネリーゼ様が手がけていらっしゃるご令嬢たちも、面倒見ましょうか?」
「あなたは私と違って、目を光らせてくれているみたいですし、それもお願いした方が早く進みそうですね」
「では、承りました」
「はい」
アンネリーゼからどんどん仕事をもらって成果を見せるんだ!そしてフラベーナちゃんからもらったドレスを着てフラベーナちゃんの隣に堂々と立てるようになるんだ!
ちなみに、貴族は教育が完了すると、領地に帰って自分の領地の改革を始めている。
その際に、オレはインフラ設営のため、土木作業員や機器設置のスタッフを連れて、その領地に足を運んでいる。
そのスタッフの中には…、
「おはよ、システィナ。待ったぁ?」
「おはよ、フラベーナちゃん。ぜんぜん待ってないよ」
なんとフラベーナちゃんがいるのだ。
第一メタゾール公爵領から王都、そして王都からラメルテオン侯爵領を結ぶ鉄道には、電波基地局が併設されているので、その上にある領地に通信を開通するのは簡単だ。
でも、鉄道の通っていない領地に通信を開通するためには、魔力波レーザー通信をするためのアンテナを設置する必要がある。そのアンテナを設置するための、高さ五〇〇メートルの塔を立ててくれるのがフラベーナちゃんだ。
オレとフラベーナちゃん、そしてスタッフは、アンネリーゼの用意してくれた魔道馬車で、開発予定の領地に赴いた。
教育された貴族令息との簡単な打ち合わせのあと、現場に移動した。
「今日はここに塔を建てればいいんだね」
「うん、お願い」
「はーい。えいっ」
ずもももも…。
これを普通の土木作業員やオレがやるには何年もかかってしまうが、フラベーナちゃんなら数秒でできてしまう。
はぁ…。フラベーナちゃんはすごいなぁ…。
あとは、土木作業員が学校の建設をしたり、上下水道を整備したり、スタッフがタブレットやスマホの配布をしたり、魔道炉と呼ばれる無尽蔵に魔力を生み出す発電所のようなものを設営したり。
それらは、数ヶ月単位の仕事なので、オレとフラベーナちゃんはスタッフを置いて帰路に就く。
これが、改革開始の流れだ。
月日は流れ、オレは四歳になった。髪もだいぶ伸びた。
ちょっと男の娘っぽい永遠の幼児に完全に変化したはずだ…。
オレは鏡に映ったパンツだけの自分を見る。うーん、可愛い…。いや…、ちょっと可愛すぎないだろうか…。
体型もなんだか、お尻や太ももが膨らみすぎじゃないだろうか。
そもそも、オレは女になったのだから、ちょっと男の娘っぽい永遠の幼児ではなく、ちゃんと女の娘っぽい永遠の幼女になるのだろうか。いっていて意味が分からなくなった…。
キャラメイキングシステムで作った姿ってこんなに可愛かったっけ…。
慌ててタブレットを確認した。ちょっと男の娘っぽい幼児の姿だ。鏡に映った自分と比べると地味だし、まだぎりぎり男だと言い張れる範囲だと思う。
でも、今のオレは完全に女の子だ。女になったんだから女の子に見えるのは当たり前だけど、タブレットに表示されているキャラとはけっこう違う。
仮に医学的に男の娘を作ろうかと思ったら、男に女性ホルモンを注入するとかだろうか。では、女に女性ホルモンを注入したら、より女性的になるはずだ。
魔法で作った男の娘がそんな現実的な原理でできているかは知らないけど、女になったオレを、より女性的にしたからこんなに女の子っぽくなってしまったのだろうか…。
いや、もういいんだ。オレは男だったからギリギリ男だと言い張れる男の娘になりたかったのであって、女になった今はいくら女性的になったっていいじゃないか。むしろ、男の子に見える女の子である、女の息子にならなくよかったじゃないか。
オレは女の子の中の女の子を目指すんだ!性同一性障害が解消してほんとうにすっきりした!
「おはよっ、システィナ」
「おはよう、フラベーナちゃん」
フラベーナちゃんも二歳になって、より可愛くなった。髪も伸びて女の子らしくなったなぁ。
「ねえシスティナ、そろそろ新しいドレスが必要じゃない?」
「えっ」
今日はフラベーナちゃんくれた普段使い用ドレスを着てきている。たしかに、肩幅とかきつくなってきたので、自分で土魔法を使ってお直しして使っている。だから、今はきつくない。
スカートに至ってはウェストもゴムだし、お直しせずに三年ははけそうだ。
「新しいドレス、自分で買ったりしないの?」
「えーっと…フラベーナちゃんのくれたものを大事にしたくて…」
たしかに男だったときは、一年ごとに買い換えていたな。
何より、フラベーナちゃんがくれたものをそう簡単に捨てられない。
「それは嬉しいけど、スカート、短すぎないかな。パンツからお尻も出てるし」
「えっ」
あれ…、どれくらいの長さがあればいいのかな…。
最初からパンツが見えるか見えないかのぎりぎりの長さだった。今では完全に見えている。
でも、考えてみてほしい。前世で何十年も前から日曜日にやっていた国民的アニメでも、妹キャラはパンツを常に見せている。ここはファンタジー世界なのだから、今さらパンツが見えたくらいでどうということはないと思っていた。
なんだか、よくよく見てみれば、もはやアルゾナにもらったパレオ水着とあまり変わらないような気がしてきた。水着は、仕立屋で一回着たきりだけど、パレオでパンツを隠すことはできなかった。今の状態はそれに近い…。
最初は、かなり恥ずかしかったのだけど、オレも慣れたものだ…。
とはいえ、この世界にも、パンツの見え具合とかに、標準的なものがあるのだろうか。
肩幅とかはお直しで調整してきたけど、スカートの長さには気が付かなかった…。
「そういうファッションもあるから、システィナがそれでいいならいいんだけど…」
「うーん、ちょっと考えさせて」
というか、このクラスのドレスなんて、俺の給料では一着も買えないんだよ…。今あるのを売ればいいのかな…。オレは小心者だからもらったものを売ることはなかなかできない。
しばらくこのままでいいや…。
それにしても、フラベーナちゃんはしっかり話すようになったなぁ。もう噛んだりしない。ちょっと寂しい。
ちなみに、ドレスを着るようになってから少し安心したことがある。トイレだ。
オレは今までズボンをはいて男子トイレに入っていたから、たとえ中身が女の子になっても、ズボンをはいたままじゃ急に女子トイレに入るようになったらおかしいと思っていた。だけど、ドレスを着るようになったし、スカートをはいたオレが男子トイレに入るのは明らかにおかしい。だから、堂々と女子トイレに入れるようになった。
でも、見方によっては、男のオレが女装をして女子トイレを覗きに行っているように見えなくもない…。オレはまだまだ中性的な幼児なので、スカートをはいているだけの男と見られる可能性もある。いや、オレは四歳の幼児なのだから、どっちに入ったってギリギリセーフだよな…。
今日は剣術の授業だ。一応、竹刀のようなもので打ち合っているけど、この子たちは素手でオレを引きちぎるような子たちなので、めちゃくちゃ怖い…。
フラベーナちゃんだけのときはよかったんだ。フラベーナちゃんは手加減が上手で、オレに痛くないように当ててくれる。逆にオレの攻撃はどんなに頑張っても当たらない…。
でも、他の十五人は手加減できるのかな…。竹刀っぽい剣だけど、胴と脚が泣き別れになりそうだ…。
いくら治してくれるからといって、そんなのは怖すぎる。それにみんな、完全に治したつもりでうっかり女にしちゃったっていう前科持ちだ。次はまた別のものに変えられてしまうかもしれない。
それに、オレはとても高いハイヒールを履いているので、ろくに走れないし、すぐ転んでしまう。オレがいちばん弱いのになぜかオレだけハンデを付けられている。でも、オレが転ぶたびに、フラベーナちゃんがオレのことを「可愛い!」といって、破顔するんだよな…。フラベーナちゃんの笑顔を見ると、苦労して大変な靴を履いているのが報われる。
女の子っていうのは、こんな風に自分に試練を課してまで可愛くならなきゃいけないなんて、ほんとうに大変だ…。
剣術や魔法の実技では、他の女の子十五人がいつもほとんど一緒だ。でも、アイドル養成科の授業はオレとフラベーナちゃんだけだ!他の子に邪魔されず、二人の時間を楽しむことができる!
いや、ヒーラーガールが二人か三人来ていたりはするんだけど、オレたちが二人の世界に浸っているから放っておいてくれるんだよ。
それに、他の子いるのが楽しくないわけでもない。
オレも本物の女の子になって、アイドル仕草とかアイドル口調の実技が板に付いてきた。鏡の前で頬に手を当てて「うふっ」と微笑んだりしていると、自分で自分にときめいてしまいそうになる。
もちろん、同じことを隣でやっているフラベーナちゃんにはかなわない。フラベーナちゃんは眩しすぎる。
「うふっ」っと微笑んでいるフラベーナちゃんを見てしまうと、オレは心臓を打ち抜かれたようになり、そのあとの練習に身が入らなくなってしまう。
学校が休みの日に合わせて、跡取りのいない領地から貴族のご夫人を呼び寄せて留学させた。
一緒に、各地に留学中の貴族令息に電車で来てもらった。ご夫人とまとめて、アンネリーゼにカツを入れてもらうためだ。
ご夫人のほうは始めてだから、きっと永遠の十七歳とかに改造してもらうんだろう。ご夫人は二十歳から五十歳くらいだろうか。この世界の女性はぶっちゃけ実年齢よりも老けて見えるようなので、五十歳に見える人は実際には四十歳くらいかもしれない。
休日で本業がない日には、フラベーナちゃんたちとお茶したり、リボンのお店で新しいデザインを作ったりしている。とても充実している。
リボンのお店の給料も入ってきているから、それなりにお金が貯まってきた。でも、フラベーナちゃんにもらったドレスを買い換えようと思ったら、やっぱり給料が飛んでしまうので、おいそれと買い換えできない。
でも、だましだまし使うのはそろそろ限界だ。
そこで、もらったドレスをニコイチにしてみた!正確には十六着のうち一着を十五着に振り分けたんだけど。
生け贄になったのはティノイカのドレスだ。申し訳ないが一回も着ていない…。ティノイカとは話さないので、どんな子なのか分からない…。
色合いやデザインがおかしくならないように振り分けるのにはちょっと苦労した。
寮に戻ったオレは暇だったので、タブレットでキャラメイキングアプリを起動した。女の子作成モードだ!
画面には…、オレが映っている…。
最近よく鏡を見るから、今鏡を見るまでもなく分かる。画面に映っているのは今のオレだ。
つまり、ちょっと男の娘要素の入った永遠の幼児の性別をそのまま女に変えて、ちょっと女の娘要素の入った永遠の幼女にすると、こんな風になるってことだ…。
やっぱり女の子に女性ホルモンを注入したみたいなことになったってことか…。
いや…、このキャラには…、胸がある…。それも結構大きい…。巨乳とはいえないが、谷間がある。四歳でこの大きさはないだろう…。
まあ、これはオレじゃない。オレには胸なんて………ある…。低いお山が盛り上がっている…。いつの間にこんなお山ができたのだ…。
まあ、オレは四歳の女の子の成長なんて知らない。四歳の女の子はこれくらいあるのが普通なのかもしれない。だからといって、キャラメイキングアプリの谷間キャラはオレじゃないんだ。
キャラメイキングアプリの女の子作成モードもさることながら、オレが女になったことでスマホとタブレットで変わったことが他にもあった。
まずは…、エージェント・アンネリーゼをスワイプすると、水平より下からのアングルで表示できるようになった。
エージェント・アンネリーゼのスカートは、というかこの世界のスカートは股下ゼロセンチ以上のものはないので、水平ならギリギリ見えないが、それより少しでも下から見ると、スカートの中が見えるのだ。
『あまり見ないでください…』
以前のようなさげすむ目ではなくて、少し顔を赤らめて可愛げのある表情だ。むしろ喜んでいるようにも見える。
ゲームで女キャラをローアングルから見るのは礼儀なので、今までできなくて困っていたのだ。
それから、お触りの解禁だ。
『あまりお触りがすぎると怒ります…』
画面を触って、肌の感触などあるわけないのだけど、触った部分の画像がぷにっと変形したりする…。
「いたっ…」
『もうやめてください!』
言われたとおり、あまり触り続けていると静電気のようにピリッと走って、中断させられる。他人のスマホを触ったときと同じだ。
その言い方も、恥じらう乙女の顔をして、からかわないで!みたいな感じで、なかなか可愛い。
それから…、
『今日はどの服にしましょうか』
お着替え機能が解禁されたのだ。お触り機能やお着替え機能は、学校の成績によって解禁されるもののようだ。しかも、女性にしか解禁されない。
オレは成績はけっこう良いほうだが、男だったときはデレる機能しか解禁されないらしく、その成績ポイントとやらを持て余していた。でも女になったおかげで、お触り機能とお着替え機能がいっきに解禁されたというわけだ。
「今日はこれで」
『それでは着替えてきます』
衣装部屋に服が掛けてある。無駄に凝った作りだ。
オレはまだメイド服とお姫様のドレスしか買ってあげてない。もちろんミニスカートのものしか存在しない。
今日はメイド服をタップした。エージェント・アンネリーゼは更衣室のカーテンを閉めて、無駄に時間を掛けて着替えて出てくる。
『成績ポイントはまだありますので、新しい服を買ってくれてもいいですよ』
「考えておく」
衣装部屋にはお姫様のドレスと、デフォルトの女教師服のスーツ…タイトなミニスカートのやつの二着しかない。
成績ポイントで買える服には、西洋のお嬢様ドレスみたいなの以外に、ゴスロリとか、前世のお隣のラーメンの国の、大きなスリットの入ったドレスとか、他の国の民族衣装みたいなのもある。
でも…、
『やっぱり水着が買えるようになるまで貯めるのですね』
「えっ、そんなことは…」
水着がめちゃくちゃ高くて、とうぶん買えそうにないのだ。布面積的には安いと思うのだけど、成績ポイントはお金ではない。露出度が高いほど成績ポイントが必要だったりするのだ。
こんな機能、なんのためにあるんだとしばらく考えて行き着いた結論…。これは国民に知識を付けさせるための機能…。国民ががんばって学校の成績を上げるのは、エージェント・アンネリーゼに水着を着せたいからに違いない!
■アンネリーゼ(二十歳~二十一歳)
■ダイアナ(十歳~十一歳)
■カルボシスティナ(三歳~四歳)
カルボスが性転換してカルボシスティナになった。
カルボスというのはカルボシスティナの間違った愛称だったことになり、今後、愛称はシスティナということになった。
■フラベーナ・ロイドステラ第二王女(一歳~二歳)
アンネリーゼの産んだマイアの子。
■ドリー
※以下は二歳~三歳
■デルスピーナ・ロイドステラ
マイアの産んだアンネリーゼの子。
■パリナ・プレドール
ヒルダの子。
■プレナ・テルカス
シンクレアの子。
■ペルセラ・ラメルテオン
ロザリーの子。
■イスマイラ
イミグラの子。
■ゾーラ
ゾーミアの子。
■エレナ
レルーパの子。
■リザベル
マクサの子。
■ナーラ
アマージの子。
■プラチナ
シルバーの子。
■アルゾナ
リンダの子。
※以下はゼロ歳~一歳
■フラーラ・メタゾール
ダイアナの産んだアンネリーゼの子。前世は老婆。
■ティノイカ・メタゾール
ダイアナの嫁の子。前世は美術大学教授。
■プロセーラ・メタゾール
ダイアナの嫁の子。前世はIT企業のOL。
■コルトラ
アンネリーゼが使用人に産ませた子。前世は交通事故で亡くなった子。




