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43 爆弾娘の冒険

「アンネお姉様、ゾルピデム帝国からの返事が来ました」


 そんな案件もあったね。手紙を出してから六ヶ月経っているので忘れていた。


「なんと言っているのです?」

「正式な交易路の開拓、友好の証としての王女の交換」


「というか、こちらからはどのように返したのでしたっけ」

「具体的にどのような国交を望むか尋ねました」


「こちらから条件を出さなかったのですか?こんなにのんびりでいいのでしょうか」

「いいのですよ。どうせこちらに差し出せる王女は来年まで生まれないのですし、ダイアナだって身ごもっているのだから、向こうの王女をもらっても困るでしょう」


 こういう時代の外交というのは気が長すぎる。そんな先のことまで予想できないし、そんな前のことをいちいち覚えていられない。私は名前だけの公爵にしてもらってほんとうによかった。


「なるほど。それでは今回もこちらからは具体的なことは何も言わないのですね」

「それでいいでしょう。ゾルピデムが何の交易品を出せるのか、どのような生い立ちで何歳の王女を差し出せるのか。写真でも欲しいところですけど、そのようなものはロイドステラ王国にしかありませんからね」


「そうですね。お見合い写真でもあればいいのですが、それだとこちらもダイアナの写真を出さなければならなくなりますから、王女を娶るのが女だと向こうにばれてしまいます」

「その通りです。こちらからはまだいっさい情報を出さなくてよいのです」


 これでまた返事は六ヶ月待ちだ。こんなに気の長い手紙のやりとりをするのは、記憶力が高くないと不可能だ。



 しかし、そのように見せかけておいて、実際にはもう少し早く情報を掴めるように、ダイアナはアングラ開発を進めていたようだ。


 王都から、ロイドステラ王国の最東端フルニトラ侯爵領までの一五〇〇キロの道のりを繋ぐトンネルをドリーに彫らせていた。

 メタゾールからラメルテオンを結ぶトンネルは、王都を通ることもあって、少しカーブしていた。それに、地上から地下六階分くらいの深さにしていたため、惑星に対して円弧を描いている。

 一方で、今回彫ったトンネルはほんとうに直線らしい。円弧ではないから、始点と終点の間は地下六階よりも深くなる。そもそも、王都の地下六階にはすでに鉄道のトンネルがあるので、その下の地下八階相当の場所からスタートする。


 なぜ直線なのかというと、魔力波レーザー通信をするためだ。一五〇〇キロの通信線を引くのにはかなりの時間がかかるし、ダイアナ自体がろくに動けないので、簡単に設置できる魔力波レーザー通信のアンテナを設置したらしい。


 フルニトラ侯爵領が開発されれば、そこに駅を設置する予定だけど、まだまだ先だ。なので、フルニトラには国の駐在所を設置して、駐在員を置いた。今後、フルニトラ周辺の領と王都間の連絡は、この駐在所を通して行うこととした。

 駐在所にはファックスが置いてある。届いた手紙はスキャンされて、電子メールで王城に送られる。王城からのメールは駐在所で印刷して、フルニトラ周辺に手紙として送られる。


 こうして、電子データや紙を介すものであれば、今まで三十日かかっていた連絡が数日で済むようになった。でも物をやりとりするのには時間がかかる。しかし、トンネルだけならドリーが一瞬でやってくれるけど、一五〇〇キロの鉄道を敷くのにはやはり半年かかってしまうのだ。

 そこで、ダイアナはトンネルを走らせるための輸送トラックを作った。フラーラを産んでから、マイア姫の子を孕むまでの短い期間で作ったらしい。トラックは時速二〇〇キロなので、高速鉄道ほどは速くないけど、それでも、時速十キロで毎日五時間しか進めない馬車とは雲泥の差だ。

 それにしても、ダイアナの前世は自動車会社に務めていたといっておきながら、始めて自動車が出てきたよ。それも商用トラックだよ。個人では馬車なんて持たないのだから、自家用車なんてのもまた需要がないのだろう。


 フルニトラの駐在所は、ドローンの発着所にもなっている。今までは、東西の情報を集めようと思っても、ドローンどうしで情報を中継して、情報を持った個体が通信可能な地域に戻ってくるまで情報が得られなかった。でもこれからはフルニトラでドローンとのやりとりをできるのだ。

 ドローンを広範囲の探索のため無補給で動作させようとすると、ドローンは太陽電池と内蔵の小型魔導炉で生み出せる電力でしか動けないため、時速二〇キロ程度でしか飛べないのだ。

 ちなみに、駐在所は電波の中継所にはなっているが、フルニトラ全域をカバーできるほどではない。


 そして、この駐在所は、ゾルピデム帝国の情報収集を促進するためのものでもある。

 手紙の往復に六ヶ月かかったということは、王都からフルニトラまで一五〇〇キロ、フルニトラからゾルピデムの端まで一五〇〇キロ、そして、おそらくゾルピデムの端からゾルピデム帝国の帝都まで一五〇〇キロくらいと考えられる。そのうちの王都からフルニトラまでの距離をゼロにできるのだ。

 今後、ドローンを秘密裏にゾルピデム帝国に送るにあたって、フルニトラを拠点にできるのは大きい。


 というわけで、ゾルピデム帝国にはのらりくらりとやりとりしているように見せておきながら、アングラで情報収集を開始したのであった。




「アンネちゃん!リーナちゃんの居場所が頻繁に届くようになったのよぉ!」

「えっ?」


 お母様に廊下で声をかけられた。すぐにお母様の執務室に連れていかれた。

 お母様は相変わらず紐なしブラのドレスですごしている。


 リーナはハンターをやっているんだっけか。っていうか、頻繁に届いていなかったってことは、開発していない領地にいたってことか…。それが届くようになったってことは…、


「フルニトラ侯爵領にいるんですってぇ」

「やっぱり」


 なんでそんな最果てに…。

 まあ、ラメルテオンもそうだったけど、国境は魔物が多いから、暴れん坊のリーナには丁度いいのだろう…。


 それにしても、リーナはお母様の娘なので、私はあまり関与していなかった…。だとしても、妹がいつの間にか一五〇〇キロも離れた地に行っていたなんて、ちょっと無関与にもほどがあるか…。

 いやいや、リーナは私の嫁であり、私が母乳を与えた娘でもあるのだ。といいたいところだけど、リーナは九歳ごろからあまりなついてくれなくなった…。反抗期っぽかった…。

 小さいころはよく水遊びをしたものだ…。あの頃は可愛かったなぁ…。

 最後に聞いた言葉は、「ねーねのバカ」とか「ねーねのザコ」とかだったような気がする…。ポロリのない水着大会でコテンパンにやられたときだったな…。


「リーナは大丈夫でしょうか…」

「病気も怪我もないみたいよ。ご飯もちゃんと食べているみたい」

「それならよかった…」

「心配しなくても、スピラちゃんも一緒なのよ」

「そうなのですね!」


 スピラは領民一の身体強化使いだ。治療魔法も若手ヒーラーガールなどより使える。スピラがいれば戦力的にも健康的にも心配はない。

 まあ、リーナ自身の光魔法のが強いのだけど。



「それより、アンネちゃん。メテーナちゃんって誰かしらぁ。私にも紹介してぇ」

「えっ…」

「一緒に寝る子のリストに加わったのよ。でもあとで見たらいなくなっていたわ」


 「それより」だなんて、自分の娘のことよりも新しい嫁のことが気になるんですか。いやまあ、私もリーナのことを放置していたんだけど…。


 クレアがベッドのローテーション管理アプリにメテーナを追加したのを、マイア姫がすぐに削除したんだ…。お母様も通知を見逃さなかったんだな…。


『ごきげんよう、メテーナです』

「あらびっくり、アンネちゃんじゃないのぉ」


 また他の人に呼ばれてかってに出てきた。ほんとうに私のためになると思って行動しているのだろうか。


「お母様、よく見てください。メテーナは精霊なんです」


「ちょっと光ってるかしら。ドリーちゃんと同じ感じね。

 メテーナちゃんはアンネちゃんといつも一緒なのかしら?」


『はい』


「いつも隠れてエッチしているなんて、うらやましいわぁ」


 なんでみんなその発想に行き着くのかな…。


『それがですね、アンネは自分と同じ顔をしている私とはできないと言うのですよ…』


「アンネちゃん、酷いわぁ。私が慰めてあげたいけど、私じゃ触れないのよね?」


「はぁ…。分かりましたよ。でもエッチじゃないです…。マッサージです…」


『それでいいですよ』


 メテーナって、ほんとうに私の利益になることをやってくれているのかな。自分の欲望で動いていないかな。私とニャンニャンしたいだけなのでは。



「リンダおかちゃま!アンネおかちゃま!ただま!」

「アルゾナ、お帰りなさい」


 アルゾナが学校から帰ってきたようだ。

 アルゾナ、私とお母様の娘。アルゾナも二歳だ。すでにこれだけ喋れる。まあ、同時期に生まれた子は、みんなこんな感じだ。みんな一緒に学校に行っている。

 私の光の魔力の半分を持つ精霊が付いているので、身体能力に優れ、脳の発達も早い。


「アンネおかちゃま、二人!」


『私はメテーナ。アンネの精霊ですよ』

「しぇいれい、これ?」


 アルゾナは自分の黄緑色の光の玉を両手に乗せ、メテーナに見せた。


『そうですよ。アルゾナが願えば、その子も人の姿になりますよ』

「こう?」


 うわっ…。アルゾナの薄緑の精霊がアルゾナの姿になった…。服も何もかも。

 いや、私がそういう設定にしたんだけど…。


「わーい!お友達!」


「あらあら、アルゾナちゃんが二人になったわぁ!」


『初めまして、アルゾナ、アンネお母様、リンダおばあさま、メテーナ』


「えー、私がおばあさまなの?」


 この精霊は私の子であるということを知っている…。それが周りに知られると、またややこしいことに…。


『アンネお母様は私のお母様です』

「私はぁ?」

『おばあさま』

「たしかにアルゾナちゃんにとって、アンネちゃんがお母様なら、私はおばあさまなんだけど…」


 アルゾナにとってはお母様は祖母でも母でもあるけど、この精霊にとってはお母様は祖母でしかないのだ。


『アンネ、この子の名は?』


 なんで私に振るんだよ!名前を付けるの面倒だから、ヒト型になるのを延期しておいて、本人に名付けさせようと思ったのに!

 ほんとうにメテーナは私の利益になることをやっているのかな。面白がっているだけではないのかな。


「えっと…、アルゾラで…」


 もう、語尾を変化させるとかにしておかないと、私が持っているこの世界っぽい名前のストックがないんだよ!


「アルゾラちゃんね!アルゾナちゃんと双子みたいで良いわね!」


『アンネお母様…』


 アルゾラが私に求めている…。


「分かりましたよ…。アルゾラ、来なさい」

『はい!』


 私の元に来たアルゾラ。私が右の胸をはだけさせて差し出すと、アルゾラは立ったままそれをくわえて私の魔力を吸い始めた。

 ふと思ったけど、精霊は私の服なんかお構いなしに、私の胸から魔力を吸えてしまうのではないだろうか。


「アンネおかしゃま…」

「アルゾナも来なさい」

「わーい!」


 私は左の胸をはだけさせて差し出すと、アルゾナは立ったままそれをくわえて私の母乳を吸い始めた。


 右と左から違うものを吸われている…。いや、左からは母乳だけでなく魔力が流れている…。

 はぁ…。二人とも私の娘なんだ…。もっと可愛がってあげなければ…。


 二人はおなかいっぱいになって、口を離した。


「アンネちゃん!」

『アンネ…』


「はいはい、どうぞ」


 今度はお母様とメテーナ…。メテーナにはあげたことなかったのに…。


 まさか、メテーナは、アルゾラがヒト型になれば、私の母乳を求めると見込んで、アルゾラがヒト型になるよう促した?そして、アルゾラに便乗して自分も母乳を飲もうとしていた?自分の欲望を満たすために狡猾すぎるだろう!

 ほんとうにメテーナは私の利益になるようにしてくれているのだろうか。名前を付けさせられたり、私に精霊の隠し子がたくさんいることがバレるリスクを増やしたりと、面倒ごとばかり押しつけられている気がする。


 だけど、こうして私の母乳を飲んでいるメテーナの姿を見ると、可愛い我が子に見えてきて何でも許してしまうのである。

 そこまで織り込み済みなのか…。


 ところで、メテーナに魔力を吸われるということは、私がいつも寝る前に精霊に魔力をあげることと同じはずだ。それなのに、なぜかメテーナの成長率が二倍になった。



 その夜…、私は客室を借りて…、


「子種はあげないよ」

『それは必要なときまでいいよ』


 私がドレスを脱ぐと、メテーナのドレスが消えた。私と同じ下着を着ている。主人と同じ服装になるという設定だからね。

 私が下着を脱ぐと…、メテーナは下着姿のままだ。そうだった。下着は脱げないのだった。


『はぁ…。次に作る精霊の子は、下着も脱げるようにしてあげてね』

「それはどうしようかな…」


『じゃあ、他の子のことはどうでもいいから、これを着て』


 考えを伝える魔法でメテーナのイメージが伝わってきた。

 そしてそのイメージは…、スケスケで穴の空いた下着…。


「何これ…」

『これなら下着を脱げないという設定を満たしながら、ほぼ着ていない状態にできるでしょう』


 私が下着を脱いでもメテーナは私が最後に着ていた下着のままとなるようだ。そんな設定を作った覚えはないけど、私が下着を脱いだらメテーナが別の下着になるというのは無理がある…。

 だからといって…


「嫌だよこんなの…」

『ちぇー、まあいいや。下着に指を入れたりはできるんだよね』

「うん…」


 メテーナ…。私と同じ姿。ロイドステラ王国一の大きさの胸…。私はそれをなでた。


『あああん…』


 カローナには負けるけど、これはかなり良い…。

 自分でいっていて恥ずかしくなった…。やっぱり自慰行為みたいで…。


『私はアンネとは別人なの。私を自分だと思わないで』

「そ、そうだね…」


 この子は私ではないのだ。姿や声、口調が同じだけだ。

 私に似ている子はたくさんいる。その中に、私に極端に似ている子がいたっていいじゃないか。


『あああああん…』


 メテーナ…、可愛い…。


『今度は私がやってあげる』

「ああああああん…」


 あれ…、今まででいちばん気持ちがいい…。


『当たり前でしょ。アンネが使っている魔法は私が媒介しているのだから』


 それって、やっぱり…


『でも、私をアンネとは別人って思えるようになったんだから、そんなふうに思わないで』


 そうだね…。これは他の人に触れてもらえるから気持ちがいいんだ…。



 翌日…。


『自分で作らないって言っておきながら…』

「はぁ…」

『きっと下着も脱げる子だよ』

「まだ主人がいないからヒト型になれないよ」

『ちぇー』

「これどうしよ…」

『今までどおり、影収納に入れておけば』

「牢屋に入れておくようなことができるのは、ヒト型になれない今だけだね…」


 いつでも作れるっていっても、メテーナの下着に指を入れなければならないのでは、やはりいつでも作れるとはいいがたい。今後、精霊を見ることのできる者はどんどん増えていくのだから。

 必要なときにあげられるように、ストックしておくのはすでにやっているし、まあいいか…。

 でも、心を読む魔法を使えるようになっちゃうって、よほど信用できる子にしか付けられないんだけど。信用できる赤ちゃんって何?やっぱり転生者?


 あっ…、私とメテーナの子供の精霊って、以前ダイアナに言われて作ったんだった…。悪用されていないかな…。






 三年前、メリリーナは十一歳の時に、十五歳のメイドのスピラとともに、王都でハンター登録していた。

 最初はスピラの助けで薬草採集などの地味な依頼をこなしてハンターランクを上げた。魔物の討伐依頼を受けられるようになると、東に向かって旅を始めた。


 そして三年経った今、最東端のフルニトラ侯爵領に辿り着いたのであった。


 ミニスカドレスを着て戦うメリリーナ。髪は腰ほどまであるツインテール。自動HP回復のため、肌や髪は傷まない。

 ミニスカメイド服の戦闘メイド、スピラ。スピラもメリリーナをまねてツインテールにしているが、長さは肩ほどだ。スピラも自動HP回復だ。

 スピラの得意な魔法は光魔法の身体強化であるが、服のお直し程度の土魔法は使えるのである。だから、王都を出たときの服装のままである。

 しかし、王都を出てから三年も経っているのである。十一歳のときに着ていたドレスは十四歳のメリリーナにはちんちくりんだ。とくに、リーナは三年間で急成長したため、十四歳といっても大柄で、すでに一七〇センチあるのだ。

 一方で、スピラのほうは王都を出たときに十五歳であり、今は十八歳である。メタゾールティーンエイジャーは全員、永遠の十七歳なので、十五歳で身体の成長が止まる。胸を除いて。だから、スピラのメイド服には胸を除いて比較的余裕がある。


 しかたがないので、二人の生地を合わせて、不要な部分の生地を必要な部分に回すということをやって、ドレスとメイド服を仕立て直しながら生活していた。二人に安い生地を買い足すという考えはないようである。

 真っ先に不要とされたのは袖。次にガーターストッキング。これで、なんとか十四歳のドレスと十五歳相当のメイド服の体を成すようにできた。半袖に生足だが、二人とも新陳代謝が良いので寒くはない。


 メリリーナとスピラの影収納は、せいぜい二リットルだ。だから、大きな袋を背負っている。

 アンネリーゼのように倒した魔物をまるごと持ち帰るようなことはできない。だから、それほど金に余裕があるわけではなかった。




 フルニトラ侯爵領のハンターギルドに、似つかわしくない風貌の少女二人が現れた。

 それをいっせいに見つめるハンターたち二十人。

 その中に、少女二人をとくに心配そうにして見つめる、女ハンターがいた。


 少女たちの装いは、短いスカートのドレスとメイド服。ドレスというのは数年前まで長いスカートだったらしいが、近年では短いスカートであるのが標準だ。

 短いスカートは未開発のフルニトラではまだ、お貴族様の装いという認識であり、開発済みの領地で平民にも広まっていることは知られていない。

 二人とも、大きくてはだけた胸…。綺麗な生脚…。

 使われている生地や装飾から見てもお貴族様というのは間違いない。

 お貴族様のあの短いスカートの中はどうなっているのだろう…。女ハンターはお貴族様を見るたびにいつも気になっていた。


 二人とも左右二つに分けた珍しい髪型をしている。

 お嬢様のほうの明るい茶色の髪は腰ほどまである。メイドのほうは暗い茶色で肩ほどだ。二人とも綺麗な髪をしている。

 肌もとても綺麗だ。どう見てもお貴族様だ。


 お嬢様はそれなりの大きさの袋を背負っている。お嬢様には重いのではないだろうか。

 メイドのほうはかなりの大きさの袋を背負っている。男ハンターでもそんな大きさの袋を背負っている者はいない。


 依頼に来たのだろうかとも思ったが、ギルドに入って真っ先に、慣れた様子で依頼ボードを見にいった。

 装いと行動がちぐはぐすぎる。


「お嬢様、大ハゲワシの討伐、これでいかがでしょう」


 メイドがもう一方をお嬢様と呼んだ。やはりお貴族様だ。


「つまらない。他にないの?」


 大ハゲワシがつまらない?武器も防具もないお嬢様が依頼を受けるの?


「お嬢様、少しはお金になる依頼を受けませんと、生活を維持できません。鳥の魔物は普通は弓矢が必要なので、報酬が良いのですよ」

「しかたがないなぁ」


 丸腰なのに弓矢が必要な依頼を受けるの?それもランクBの依頼だ。冷やかし?


 メイドは依頼の用紙を剥がして、受付に持っていった。


「これ、お願いします」

「えっ…」


 メイドは受付に依頼の用紙と一緒に、ハンター証を出していた。


「スピラさん……、ランクA……?ランクAハンターパーティ、ツインテール?」


 ランクA?何の冗談?


「ねえ、スピラぁ、早くぅ」


 気の短いお嬢様が催促している。


「早く受け付けお願いします」

「えっ…、あっ、はい…」


「はい、どうも。

 お待たせしました、お嬢様」


「遅いよぉ」

「文句を言うなら受付にお願いします」

「面倒」

「では行きましょう」



 一部始終を見ていた女ハンターが、受付に向かっていった。


「ねえ、あの子ランクAって言ったかしら?」

「えっ、はい。あ…、個人情報なので、お話できません…」

「自分で叫んでおいてそれはないでしょ。それより、見間違いじゃないの?大丈夫なの?」

「本人もランクAで、パーティもAでしたので、見間違いはないです…」

「二人のパーティでAってことは、もう一人のお嬢様もAなんでしょ?」

「おそらく…」

「ねえ、ほんとうに大丈夫?」

「心配ならかってに見にいったらどうですか。処理上、何の問題もなかったので、ギルドとしては動けません」


「分かったわよ。

 あんたたち、行くわよ!」


「はーい」「お金になるのかしらぁ?」「面白そうだわ」


 かくして、ランクBのお人好し女四人パーティ、ボムスクワッドは、しなくてもよい苦労に首を突っ込んだのであった。




「大ハゲワシが出るのって、東門の外よね?」


 ボムスクァッドのリーダーにして剣士のミカルディア。二十八歳。腰にバスタードソードを携える。金属の胸当てと腰鎧、厚手のロングスカート。


「たぶん?」


 身体強化に任せて小さい身体でグレートソードを振り回す、重剣士のコニール。十七歳。革の胸当てと腰鎧、厚手のロングスカート。


「そうよぉ」


 ショートソード、弓矢、治療魔法、情報収集、斥候など、何でもこなすオメルティ。十八歳。服装はロングスカートのワンピースにローブ。


「大ハゲワシって魔法とどくかなぁ」


 攻撃魔術師、兼治療魔術のカルスロッテ。十八歳。短杖を持っている。服装はロングスカートのワンピースにローブ。


 そう、フルニトラは未開発の領地なので、いまだに女性はロングスカートにノーパンが基本であった。



「ねえ、あの子たちの光精霊、見た?」


 身体強化の得意なコニールは、けっこうな光の魔力を持っており、光の精霊を見ることができる。


「見た見たぁ。なんであんなに大きいのぉ?精霊が付いているだけでも驚きなのにぃ」


 治療魔術を操るオメルティも光の精霊を見ることができるほどの光の魔力を持っている。


「私はあのお嬢様の周りが真っ青に染まっていて、どういうことなのか知りたい!」


 カルスロッテは炎と水の精霊が見える。メリリーナの周りが三メートルの水の精霊の色に染まっており、精霊と認識できていない。


「まあ、とにかく、行きましょ」


 ミカルディアがそういうと、一行は走る速度を上げた。



「それにしても、お嬢様っていうのは馬車で移動するんじゃないのかしら…」

「けっこう走ったけど追いつかないのは、光の精霊が付いているからじゃないかな」

「光の精霊を持っている子なんて、是非スカウトしたいよねぇ」

「はぁ…はぁ…、速いよ…」


 東門で門番に通行証を見せて、門の外に出た。

 東門は、国境の門である。外はロイドステラ王国ではない。誰の土地でもない街道と、その周りには魔物のはびこる森がある。今回の目的地は、その森である。


「二人、いたわっ!」

「大ハゲワシ、いるね」

「どうやって倒すんだろぉ」

「はぁ…はぁ…」


「お嬢様、遊んでないで早く倒さないと、明日からパンツをはかせてあげませんよ」

「ちょっとくらいいいじゃん。さあ、手、出して」

「はぁ…」


 メイドはあきれた顔をした。少し屈んで、両手を前に出して、手のひらを上に向けた。

 お嬢様はメイドの手のひらに乗って、メイドが手を高く掲げると…、お嬢様が消えた。


 ドカっ!と大きな音が上空から聞こえてきた。


「やったぁ!あったり~」


 そして、お嬢様ののんきな声も上空から聞こえてきた。


 声の聞こえたほうを見上げると、お嬢様と大ハゲワシの姿があった。

 大ハゲワシは首が途中で折れており、斜めに落下し始めた。

 お嬢様も落下し始めた。


「お嬢様!危ない!」


 小柄なコニールが走り出した。身体強化により、瞬間的な速度はかなりのものだ。


「ちょっとあなた、怪我をしますよ」


 コニールがお嬢様の着地予測点に到着すると、メイドに忠告された。


「だってお嬢様が!って、うわああああ」


 コニールは落ちてくるお嬢様を受け止めようとしたが、身体強化を使ってもお嬢様を受け止めることができなかった。

 お嬢様は案外大きかった。


「なんだぁ?」

「だから言ったのに」


 コニールの顔はお嬢様の尻に敷かれた。コニールは気になっていた短いスカートの中を知ることができて、天に昇ってしまった。



「大丈夫?コニール」


 ミカルディアたちが少し遅れて駆けつけた。


「キミたち、一緒に遊ぶ?」

「お嬢様…、遊んでる暇はありません…」


 お嬢様が首をかしげて聞いてきた。

 メイドはそれを止めようとしている。


「あの…、私たち、お嬢様たちが心配で付いてきたのよ」


「心配はいらないよ」

「そうなのですか。お気遣いありがとうございます。でも、心配ご無用です」


 お嬢様がコニールを尻に敷いたまま言った。

 メイドも淡々と心配はないと言う。


「そうみたいね…」


 ミカルディアは、少し離れたところに落下した大ハゲワシの遺体を眺めて言った。


「あのぉ…、コニールが重そうなので、どいてあげてくれませんかぁ?」

「でも、喜んでいるよ?」


 オメルティは、お嬢様の尻に敷かれているコニールを見て言った。

 お嬢様は自分の尻に敷いているコニールを見て言った。たしかにコニールの口は喜んでいるように見える。


「お嬢様…、どいてあげてください…」

「うん。あまり座り心地はよくないしね」


 お嬢様は立ち上がった。


「はっ…」


 コニールはすぐさま気がついたようだけど、何かを失ったようにがっかりした顔をしていた。



「すみません…、早く数を確保しないと、生活維持のためのお金がなくなってしまうので、後でいいですか?」

「えっ、ええ…、お手伝いしましょうか?」

「ごめんなさい、あまり時間をかけると、素材屋が閉まってしまいますので…」

「えっ…」


 手伝ってやると言っているのに、時間がないからとはどういうことなのか…。

 たしかに日が暮れてきて、素材屋は閉まってしまいそうだが、いったい何の素材が必要なのだろうか…。


「お嬢様、もう私がやってしまいますからね?」

「わかったよ…。やればいいんでしょ…」


 お嬢様の周りに、透き通った無数の矢が現れた。その途端に、辺りがひんやりとした冷たい空気に包まれた。


「ていっ!」


 お嬢様のかけ声とともに、無数の矢が放たれた。

 ドサドサと落ちてくる、十羽の大ハゲワシ…。


「「「「えっ…」」」」


 ボムスクワッドの面々は、唖然とするしかなかった。


「さあお嬢様、急いで素材を剥がしますよ」

「えー、めんどい」

「そんなことを言っている場合ではありません。それなら私は自分の分と討伐証となる部位だけ持って帰ります。素材代が足りませんので、私の分だけ確保します」

「わかったよぅ…」


 このメイドは主人を放って自分だけの分を確保すると言っている。何の素材が素材が必要なのかは分からないが、ほんとうにメイドなのだろうか。

 二人は大ハゲワシから討伐証となる部位や素材をバキバキと剥がし始めた。


「どうせ私たちでは持ちきれませんから、私たちの必要な部位以外は、あなた方が好きなだけ持っていってよいです」

「えっ、あっ、はい…」


 たしかに、十羽の大ハゲワシを倒したからといって、持ち帰れる素材はそれほど多くない。

 といいつつも、メイドは背負い袋からさらに別の袋を二つ出して、それにどんどん素材を詰めていく。最終的には直径一メートルの背負い袋が四つできた。


 ミカルディアたちが素材を剥がそうと思ったら、すべての大ハゲワシは、いつの間にか血抜きされていた。水分もほとんど残っていない。


「それでは、依頼達成の報告をして、素材の売り買いに戻りますよ」

「へーい」


 メイドとお嬢様は、直径一メートルの背負い袋を両肩に背負うと走り出した。

 ミカルディアたちも自分の背負い袋に詰められるだけ詰めて、後を追った。


「ちょっ、待っ…」


 お嬢様たちはものすごい速さで、ミカルディアはとてもついて行けない。あっという間に見失ってしまったが、行き先はハンターギルドと素材屋なので、あとで落ち合うことはできるだろう。


「まてー、お嬢様のお尻!」


 コニールはお嬢様のお尻を、身体強化を駆使して追っていたが、光の魔力が底を尽き、その後はどんどん引き離されて、結局見失ってしまった。


「まってぇ~」


 オメルティはのんびりした口調とは裏腹、斥候などもこなしたりするため足は速いほうなのだが、お嬢様たちには到底追いつけなかった。


「ふう…、先に行っててー」


 カルスロッテの体力はハンターとしては平均的だが、四人の中では低い方だ。最初から付いていくことを諦めていた。




 ミカルディア、コニール、オメルティの三人が町に戻るころには、お嬢様とメイドは素材屋から出てくるところだった。

 そして、お嬢様たちを最後に、素材屋は店じまいとなったので、ミカルディアたちは素材を売ることはできなかった。

 ミカルディアたちはギリギリの生活をしているわけではないので、腐らないものであればすぐに売る必要はない。剥ぎ取った大ハゲワシの肉は、なぜかすでにカラカラで干し肉状態だったので、腐ったりしないだろう。


「お嬢様、素材は売れたの?」

「何とか売りさばいて、必要な素材も買うことができました」


 ミカルディアがお嬢様に声をかけた。

 応えたのはメイドだった。


「それは良かったわ。だけど、今日の宿は?もう空いてないんじゃないかしら…」

「宿には泊まりません。お風呂がありませんから」


 お風呂…、聞いたことがある。王族はたっぷりのお湯に身体全体を浸して洗うという。お風呂は宿にないのはもちろん、フルニトラ侯爵の屋敷にもないだろう。

 まさか、このお嬢様は、お姫様なのではないだろうか…。たしかに、お嬢様の肌はとても綺麗だし、髪もつやつや…。メイドもだ。

 そんなきれい好きなお姫様が野宿?野宿じゃ身体を拭くためのお湯すらままならないだろうに…。


「ねー、早く行こー」


 お嬢…、お姫様がメイドを急かした。


「はい、分かりました。私たちはもう行きますね。それでは」

「えっと…、私たちも宿がないから、野宿するわ…。ご一緒させてもらえないかしら…。固まっていたほうが危険は少ないし…」


「お嬢様、どうなさいますか?」

「四人分なら何とかなるんじゃない?」


「では、ご一緒しましょう」

「「「ありがとう」」」


 ミカルディア、コニール、オメルティと、お姫様、メイドが町の門を出るころに、カルスロッテは町に戻ってきた。


「カルスロッテ、今日はもう宿がないから、お姫…お嬢様たちと野宿をご一緒させてもらうことにしたわ」

「そ、そう…」


 メイドはお嬢様と呼んでいるが、お風呂だなんて王族に違いない。お姫様がお忍びでお嬢様に扮している…。微妙な忍び具合だけど、隠しているようなので合わせることにしよう…。




 スタスタと歩いて行くお姫様とメイド。その歩き方は、あまり上品ではない。これを見ていると、お姫様どころかお嬢様なのかすら疑うが、容姿や服装を見る限り、どう見ても貴族かそれ以上だ。

 ボムスクワッドは女四人組の希少なパーティであり、ちょっとした金持ちの娘の護衛などには重宝される。だから、お嬢様の所作を少し知っているのだ。


 先ほど大ハゲワシを狩った場所とは違うが、かなり険しい森に入ってきた。いったいどこで野宿するのか…。


「ここでよいでしょう」


 まったくよくない。魔物に襲ってくださいと言っているようなものだ。


「お嬢様、手を貸してください」

「へーい」


 黙っていればお姫様にしか見えないのに、このお姫様は口が悪い。


 ゴゴゴゴゴ…。メイドとお姫様が地面に手をかざすと、一軒の家ができあがった…。


「「「「はっ?」」」」


 ミカルディアたちは開いた口がふさがらない。

 家が土魔法で作られるのは知っている。だけど、家というのは大工と呼ばれる土魔法使いが、何十日も駆けて建てるものだ。一瞬で家が建つというのは聞いたこともない。

 オメルティとカルスロッテがそれなりの土魔法を使いこなすことも知っている。だけど、この規模の土魔法を見るのは初めてだ。


「これくらいでいいでしょう」


 お姫様はさっさと家に入っていった。家といっても、扉は付いていない。窓は高いところに細い穴が空いているだけだ。


「すみません、お部屋を整えますので、少しお待ちください」

「ええ…」


 メイドも先に入った。しばらくしてメイドが入り口から顔を出した。


「お部屋が整いましたので、どうぞお入りください」

「あ、ありがとう…」


 メイドはミカルディアたちに入るよう促した。

 全員が家に入ると、メイドは土魔法で入り口をふさいだ。なるほど、扉はいらないのか。


 家の中は明るい…。光を放っているのはランプやロウソクではない。

 ミカルディアたちは知らないが、照明は電球色のLEDランプである。メリリーナとスピラのつたない電気の魔力でまかなわれている。


 家の中には、即席の家具が揃えられていた。

 三人くらいが寝られそうな寝台の上に、真っ白で綺麗なシーツ。

 土魔法でできたダイニングテーブル。

 服を掛けておくための物干し竿。土魔法製。


 奥にもう一つ部屋がある。そちらからは、何やら湯気が漂ってくる…。


「早く入っておいでよ~」


 奥の部屋からお嬢様の声が聞こえてきた。


「それでは、ここでお召し物を脱いで、お風呂にお入りください」


「お風呂!」


 ミカルディアは思わず叫んだ。宿にはないお風呂がここにあるというのか!

 奥の部屋から漂う湯気は、お風呂のお湯の湯気!


「「「お風呂?」」」


 他の三人はお風呂という言葉を知らない。


「お湯につかって、身体を綺麗にするところよ!」

「「「お湯につかる?」」」


 ハンターなど、ときどき宿にある井戸水で身体を拭くだけだ。宿は有料でお湯を提供してくれるが、お湯など使ったこともない。

 でもお風呂がどういうものか聞いたことのあるミカルディアは、荷物を放り投げ、メイドの言われたとおりに鎧や服を脱ぎ、物干し竿に駆けた。

 それを見て、他の三人も同じように鎧や服を脱ぎ始めた。


「さあ、こちらへどうぞ」


 服を脱いだ四人を、メイドは奥の部屋に案内した。

 奥の部屋に入ると、三人ほどがゆったりと入れそうなスペースに、湯気の沸き立つたっぷりのお湯。


「キミたち、ばっちいな!私が洗ってあげよう!」


 お姫様が一糸まとわぬ姿で仁王立ちになってそう言った。


「「「「へっ…」」」」


 大きな胸…。くびれたウェスト…。綺麗な肌…。

 髪はまとめておらず、まっすぐに流したその姿は、やはりお姫様である。

 そんなお姫様が洗っ…


「「「「がばばばばっ!」」」」


 …ってくれるのかと考えていたら、突然水、いやお湯の中にいた。

 息ができず、お湯を少し飲んでしまったが、気がついたらお湯の中ではなかった。


「「「「げほっ、げほっ…」」」」


「お嬢様、ちゃんと息を止めるように言っておかないとダメですよ」

「忘れてたぁ」


「お背中を流しますね、さあ、おかけください」


 メイドがいつの間にか入ってきていた。メイドも何も着ていない。メイドもなかなか素敵な体つき…。

 背中を流すとはどういう意味だろう。すでに背中どころか全身流されたけど…。


 土魔法で作られた小さな椅子のようなものに腰掛けた。

 メイドは四人の背中に回り込んで、


「「「「「あああん…」」」」」


 なに!今の!とても気持ちいい!

 声が一つ多かったような。と思ったら、いつの間にかお姫様も一緒に座っていて、気持ちよがっていた。


「お嬢様、お願いします」

「はーい」

「あああん…」


 今度はメイドが座っていて、お姫様がメイドの背中を…、なでている?


 メリリーナとスピラは、若手のヒーラーガール並のカイロプラクティック技術を持っていた。二人はいつも互いに施術し合っているのだ。

 そして、二人は、自分を恋の対象と見なせるようになる魔法も、微力ながら会得していた。



「さあ、湯船にどうぞ」

「「「「はい…」」」」


 さっきの気持ちよかったやつをもっとやってほしかったと、少し名残惜しいと思いながらも湯船に入った。


「「「「わあぁ!」」」」


 これはまた別の気持ちよさがある!全身を温めることがこれほどに気持ちがいいなんて!

 お姫様も一緒に湯船に入っている。


 メイドは全身が水に包まれている。さっき自分たちにこれをやったのだろうか。これは水魔法なのだろうか。

 そういえば泥や垢まみれだった自分たちは、いつの間にかかなり綺麗になっている。

 あれ…、腕にあったはずの細かい傷がない…。顔の肌荒れも感じない…。


「申し遅れました。私はスピラです。お嬢様、自分で名乗ったらどうです」

「メリリーナだよ。よろしく」


 そういえば、名乗ってもいなかった…。自己紹介を素っ裸でするってどうなの…。


「ご丁寧にどうも。私たちはランクBハンターパーティ、ボムスクワッド。私はリーダーのミカルディアよ」

「私はコニールだよ!よろしくね!」

「オメルティですぅ。よろしくお願いしますぅ」

「私はカルスロッテです。よろしくお願いします!」


 メイドのスピラはメリリーナお姫様の家名を教えてくれなかった。やはりお忍びなのだろうけど、この出で立ちでは王族に違いない。呼び方はメイドが呼んでいるお嬢様に合わせるとしても、心の中ではお姫様だと思っておくことにした。


「あ、私どもも一応パーティを組んでまして、ツインテールといいます」

「えっと…、ランクAと耳にしたのだけど…」

「はいそうです」

「本当なのね…」


 大ハゲワシとの戦闘では、メイドの手に乗ったお姫様が消えたり、コニールがお姫様の尻に敷かれたり、急いでいたこともあって、よく考える暇もなかった。お姫様はどんな戦いをしていた?

 空中で折れ曲がった大ハゲワシの首…。透き通った無数の矢…。一瞬でドサドサと落ちてくる大ハゲワシ…。

 もしかしてランクAの中でもかなり上位なのではないだろうか。

 防具を着ていないどころか、胸や生脚を大きく露出しているというのは、見た目が魅力的なだけではない。敵の攻撃をまったく食らうつもりがないということなのであれば、その意思もまたとても美しい。


 ハンターパーティ、ボムスクワッドはあっという間にメリリーナとスピラに懐柔されてしまった。



「それでは、私は食事の準備をしてきます。皆さんはもう少しおくつろぎくださってけっこうです」


 スピラは一人お風呂から上がっていった。


「「「「はい…」」」」


「ねえ、メリリーナお嬢様は何の武器が得意なの?」


 小柄な重剣士コニールが目をキラキラさせて問うた。


「私は武器を持たないよ。殴る蹴るで足りなければ魔法を使えばいい」


「マジで…」


 コニールは唖然とした。身体強化だけでなく、魔法も得意なのか…。


「メリリーナお嬢様は魔法も使えるのね?私にはメリリーナお嬢様の周りが真っ青に染まっていて、何の精霊がいるのかよくわからないのだけど」


 魔術師のカルスロッテが問うた。カルスロッテは火と水の魔力が高く、その精霊が見える。しかし、メリリーナの水の精霊は直径五メートルあるため、遠くから見ないと精霊であることがわからない。


「この青は水の精霊だよ」

「えっ…」


 メリリーナお姫様が淡々と応えた。カルスロッテは、精霊が大きいということが理解できない。精霊を育てるということは、開発済みの領地以外ではまだ知られていないのだ。


「魔力をあげると精霊は育つんだよ」


 メリリーナお姫様は精霊の育て方と、精霊を使った自分の魔力の鍛え方を教えてくれた。そして、それぞれがまだ持っていない精霊を付けてくれた!不得意な属性のは見えないが。


「私にも精霊を付けてくれたの?私も魔力を鍛えれば精霊が見えるの?」

「うん」


 ミカルディアだけは、何の魔力も鍛えていない。他の三人は複数の属性の魔法を操り、いくつかの属性の精霊はもともと見えている。


「キミたち、鍛えてあげるよ!」


「願ってもないことよ!」

「メリリーナお嬢様みたいに強くなれる!」

「剣と魔法をもっと鍛えて欲しいわぁ」

「メリリーナお嬢様に魔法を教えてもらえるなんて素敵!」



「みなさーん、夕食の準備ができましたよー」

「「「「「はーい」」」」」


 メイドのスピラの声が聞こえた。


「乾かしてあげるよ」


 メリリーナお姫様は、みんなの身体に付いている水滴を集めて水球を生成。それを、浴室の床に投げた。そんな魔法、見たことない…。


「あ、皆さんの服は明日までに洗濯しておきますので、そちらにあるパンツとネグリジェをお召しになってください」

「「「「えっ…」」」」


 浴室から出てすぐの棚に、何やら白いワンピースのようなものと、三角形の布が五人分用意されていた。


 ミカルディアは白いワンピースを手に取った。


「えっと…」


 ワンピースは肌触りが良いのだけど、とても薄い布でできており、向こうが透けて見える…。しかも、とても短くて、お尻が隠れるかどうかがやっとの長さだ…。ああ、メリリーナお姫様のスカートの長さもこれくらいかな…。

 この、三角形の布はどうやって着るのだろう…。


「キミたちはパンツは始めて?こうやってはくんだよ」


 メリリーナお姫様は、片足を上げてパンツという三角形の布の穴に脚を通した。もう一方の脚を上げて、もう一方の穴に脚を通した。


「シーツがなくなってしまいますので、あんまり厚くできませんでした。それでご勘弁を」


 スピラは、背負い袋の中にシルクの塊を圧縮して持ち歩いていた。必要なときにパンツや寝間着、ベッドシーツを作っているのである。

 土魔法による縫製はメタゾール領民のたしなみ。みんな学校で学ぶのである。


 しかし、五人分のネグリジェとパンツは、ベッドシーツの分の材料を分けただけである。だから薄くせざるをえなかったのである。スピラはけっして、スケスケのネグリジェでニャンニャンしたかったワケで…ある。


 ネグリジェとパンツを着たボムスクワッドの四人。大事なところは少しだけ厚くなっていて透けないようになっているけど、それ以外の部分は身体の輪郭が丸見えである。

 スピラはお風呂でそれぞれのサイズを測っていたので、ネグリジェとパンツはぴったりである。ゴムも使ってあるので、とてもフィットする。


 四人は互いのほぼ裸の姿をキョロキョロ見回す。そして顔を赤らめて、ちょっと恥ずかしいような、ちょっと嬉しいような顔をしている。

 一人でこんな格好をしていたらとても恥ずかしいけど、みんなで一緒ならむしろ嬉しい!


「さぁ、料理が冷めてしまいますよ」


 スピラも同じスケスケのネグリジェとパンツを着ていた。


「いっただっきまーす」


 メリリーナお姫様は真っ先に席に着いて、料理を食べ始めた。


 四人も席に着いた。

 料理は先ほど倒した大ハゲワシのステーキと、町に売っているような野菜とパン。

 味付けは塩味のみ。まあ、どこにでもあるようなメニューだ。


 残念ながら、フルニトラは第一から第三のどのメタゾールからも離れすぎていて、前世の調味料や食材は出回っていないのだ。

 そして、影収納が二リットルしかないメリリーナとスピラでは、調味料を持ち歩くようなマネもできない。



 食事の席の会話で、


「メリリーナお嬢様はお貴族様か王族にしか見えないのだけど、家名を聞いてもいいかしら」


 ミカルディアがメリリーナお姫様とスピラを交互に見て問うた。


「お嬢様は貴族家に名を連ねるものではありますが、当主が家督を譲ったあとに生まれた娘なので、もともと家名もありません。貴族として接していただかなくても問題ございません」


 メリリーナが生まれたときには、父親のゲシュタールはすでにアンネリーゼに家督を譲っていたので、メリリーナは平民の生まれである。

 平民が貴族であると偽ることは重罪にあたる。それっぽく見せておいて黙っていることは罪にはならないが、スピラは誠実にはっきりと貴族ではないと宣言したのである。メタゾール領民に、相手を騙すようなことをする者はいないのである。


「そうなのね。私たち、貴族の礼儀に疎いので失礼をしていないか心配だったのよ」

「お嬢様は全然貴族らしくないでしょう」

「そ、そんなことないわっ。見た目は王族と思えるほど綺麗だもの」

「見た目だけです」

「あはは…」


 スピラとミカルディアは苦笑いした。

 ミカルディアは、スピラの話した内容をいまいち理解していなかったが、とりあえず貴族ではないと言われて安心した。



「メリリーナお嬢様ってほんとうに綺麗だよね。何歳なの?」

「十四だよ」

「がーん…」


 コニールは十七歳だが身長が一五〇センチしかない。成長がもう止まっている。

 それなのに、メリリーナお姫様が年下だと聞かされて、自分との発育の差に絶望した。

 何しろ、メリリーナお姫様はすでに一七〇センチあるのだ。この世界の成人女性の平均身長は一六五センチ。すでに平均を超えているのだ。

 胸だって肩幅に迫るほどあって、とても素晴らしい…。

 お尻だってふにふに…。ずっと敷かれていたかった…。




「さあ、寝よう」

「「「「はい…」」」」


 メリリーナお姫様…、お姫様どころか貴族でもないと言っていたけど、私たちにとってはお姫様だ!

 で、メリリーナお姫様に誘われてベッドへ…。


 ベッドは三人がゆったり寝られる程度の広さだ。つまり、六人ではぎゅうぎゅうである。

 弾力のある素材でできている。肌触りはネグリジェと同じだ。


「今日はお嬢様の隣を譲ってあげます。どなたが左で、どなたが右ですか?」


「はい!私、左!」

「では、コニールさんがひ…」


「私、み…「私が右」」

「ミカルディアさんが右です」


「ちぇー…。じゃあスピラさんの左で…」

「では、カルスロッテさんが私の左で」


「私はぁメリリーナお嬢様の右でぇ」

「いえ、オメルティさんは私の右です」

「あれぇ…」



 灯りが薄暗くなった…。


「さあ、ミカルディア、コニール、おいで」

「「はい…」」


 メリリーナお姫様が誘っている…。メリリーナお姫様に抱かれたい…。


「カルスロッテさん、オメルティさん、いらっしゃって」

「「はい…」」


 スピラさんって、けっこう良い体つきしている…。


「「あああああああん…」」

「「あああああああん…」」


 肩を触れられただけなのに、雷に打たれたように気持ちいい…。

 そのあとの記憶はなかった。




 昨日はとても気持ち良くされてしまった…。

 高いところにある細い窓からは、まだ日が差し込んでいないけど、いつもよりすっきり目覚めたカルスロッテ。

 見渡すと、スピラさんが小さな灯りを頼りに、何か作業していた。


「起こしてしまいましたか?」

「いえ、すっきり目覚められました…」


 スピラさんを見ると顔が火照る…。


「何をしているんですか?」

「お嬢様のおむつ処理です」

「はっ?」

「これは魔道ナプキンといいまして……」


 魔道ナプキンという魔道具について説明してくれた。王都で普及していて、女性の悩みを解決してくれるらしい。

 それで、メリリーナお姫様とスピラさんはこんな短いスカートをはいていられるんだ…。

 ただ、お花摘みの代わりにも使えるらしくて、メリリーナお姫様はついついお漏らししてしまうらしい。


 でも魔道ナプキンは王都でしか手に入らない消耗品。しかたがないので、修理して使っているらしい…。

 王都以外では手に入らない素材はだましだましで再利用。どこでも手に入るものは現地調達。

 しかし、その素材が王都以外では高価で、収入の八割はその素材に消えていくとか…。


「お嬢様がお漏らしを卒業してくだされば、支出が二割ほどに抑えられるのですが…」

「メリリーナお嬢様…」


 あんなに大人っぽい身体をしているメリリーナお姫様がお漏らしだなんて…、可愛い…。

 食料の大半も魔物を狩って調達しているし、宿代もかからないのに…。スピラさんって苦労人…。


「あっ…、私のローブの破れたところ…」

「直しておきました」


 みんなのローブやスカート、革鎧も直っている。金属鎧の傷はそのままだけど、汚れは取れている。

 何よりも、臭くない…。


「何から何まですみません…」

「お嬢様と私にお付き合いしていただくお礼です」

「はい…」


 お付き合い…。昨日の…、気持ちいいやつ…。あれって私たちが嬉しいだけなんだけど…、あれのお礼って意味分からない…。



 高いところにある窓から、少し日が差し込み始めた。

 スピラさんは朝食の準備を始めた。


「もう召し上がりますか?」

「いえ、みんなといただきます」


 しばらくしてみんなが起きた。メリリーナお姫様とスピラさんを見て、顔を赤らめている。


 スピラさんは別の場所で狩った別の魔物の干し肉と野菜を挟んだパンを作ってくれるらしい。

 お肉を串刺しにして、炎魔法で炙っている…。あんな火の使い方をしたら、あっという間に魔力がなくなってしまいそう。

 メリリーナお姫様の水の精霊のインパクトが強すぎて、スピラさんには目が行っていなかったけど、スピラさんにもけっこう大きな火の精霊が付いている。スピラさんも優秀な魔法使いなんだ…。



 朝食を食べ終え、自分の服に着替えた。

 脱いだネグリジェとパンツをベッドの上に集めると、スピラさんは土魔法でまとめて、コンパクトな塊にした。ベッドのシーツごと。

 ああやってまとめてあった生地を使って私たちのネグリジェとパンツを作ったんだ…。それって…、メリリーナお姫様とスピラさんの一度はいたパンツが、私たちのネグリジェとパンツになったってこと…。

 などと妄想していたのだけど、残念ながら汚れとかは混入しないらしい。まとめたり服にしたときに、出ていっちゃうとか。




 その日はまず、素材屋に行って、昨日私たちが売れなかった素材を売った。普段の稼ぎの四倍くらいにはなった。

 大ハゲワシはランクBなので、スピラさんたちの依頼達成報酬も素材もけっこう高かったはず。

 それなのに、スピラさんたちの稼ぎは魔導ナプキンの維持のためにほとんどが消えてしまっていいのだろうか。


 それから、適当な依頼を受けつつ、メリリーナお姫様とスピラさんに戦闘や魔法の訓練をしてもらった。

 二人とも、マジで強い…。四人がかりでメリリーナお姫様一人にもスピラさん一人にも勝てる気がしない。

 魔法の訓練っていっても、火は青いほうが熱いとか、周りにある酸素というものを風魔法で取りこんでやると威力が上がるとか、なんだか嘘くさいことを教えてもらったのだけど、それをイメージするだけで格段に炎の威力が増した。

 メリリーナお姫様たちの魔法は、たんに魔力が強いだけじゃなくて、そういう知識によって成り立っているらしい。



 こうして、私たちはメリリーナお姫様とスピラさんに、毎晩とても気持ちよくしてもらいながら、戦闘や魔法の訓練に明け暮れた。




 ある日、訓練の休憩中にオメルティはスピラに問いかけられた。


「皆さんはフルニトラの出身なのですか?」

「私とコニールとカルスロッテはぁ、フルニトラの孤児院の出なんですぅ。慰み者として売られそうになったところをぉ、ミカルディアが全財産をつぎ込んで助けてくれたんですぅ」


 オメルティが応えると、スピラさんは複雑な表情をして言葉を失った。


「孤児院ってのは女の子を売っているところなの?」

「お嬢様…、そういう言い方はよくありません」


 少し離れたところで聞いていたメリリーナお姫様が話に割り込んできた。


「その通りですよぉ。孤児院というのはぁ、可愛い子を育てて金持ちや貴族に売るところなんですぅ」


「じゃあ、私も買いに行くよ」

「お嬢様、そんなお金ありません」

「なんでさ!」

「お嬢様がおむつを卒業しないからと言っているではありませんか!魔道ナプキンを使うのを月に三日にすれば、買えるかもしれませんよ」

「じゃあ、おしっこ我慢する!」

「では、お嬢様のパンツから魔道ナプキンを抜き取ります。お漏らししてパンツが濡れても夜まで替えてあげませんからね」

「えっ…、あっ、ちょっと…、ぎゃあぁ」


 スピラさんはメリリーナお姫様のスカートの中に手を入れて…、メリリーナお姫様が手で押さえているのにもかかわらず、何やら一枚の布らしきものを強引に取り出した。


「魔道ナプキンってぇ、なんなんですかぁ?」

「それはですね……」


 スピラさんは魔道ナプキンについて説明してくれた。メリリーナお姫様が毎日使うのをやめて余裕ができたので、次の生理のときに貸してくれるという。


 お貴族様のスカートが短いのは、魔道ナプキンのおかげだという。この辺りでは売られていないし、材料費も高く付くけど、王都に行けば平民でも買える値段らしい。だから、王都では平民にも短いスカートが普及してきているのだとか。

 オメルティは王都に興味が湧いてきた。

■アルゾナ(二歳)

 アンネリーゼとリンダの娘。


■アルゾラ

 アルゾナの光と土の精霊。アンネリーゼとドリーの娘。

 普段は薄緑色の強い光りを放つ十センチの精霊型だが、必要があれば主人と同じヒト型を取る。


■メリリーナ(十四歳)

 腰ほどの長さのツインテール。


■スピラ(十八歳)

 メリリーナ付のメイド。光魔法、とくに身体強化が得意。肩の長さのツインテール。


■ミカルディア(二十八歳)

 ボムスクァッドのリーダーにして剣士。腰にバスタードソードを携える。金属の胸当てと腰鎧、厚手のロングスカート。


■コニール(十七歳)

 身体強化に任せて小さい身体でグレートソードを振り回す重剣士。革の胸当てと腰鎧、厚手のロングスカート。身長一五〇センチ


■オメルティ(十八歳)

 ショートソード、弓矢、治療魔法、情報収集など、何でもこなす。服装はロングスカートのワンピースにローブ。


■カルスロッテ(十八歳)

 攻撃魔術師、兼治療魔術師。短杖を持っている。服装はロングスカートのワンピースにローブ。


◆フルニトラ侯爵領

 ロイドステラ王国の最東端。王都から一五〇〇キロ。


◆ゾルピデム帝国

 ロイドステラ王国より一五〇〇キロ離れたところにある国。

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