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41 残念な転生者

 私が永遠の十七歳になって三年が経った。今年は何件の出産があるんだっけ…。


「アンネリーゼさまぁ…うぐ…」

「ロコイア!陣痛が来たのですね!」


 ヒーラーガールAことリフラナと一緒に現れたロコイア。

 忘れていた…ワケではないよ…。嘘です、完全に忘れていました、ごめんなさい…。

 だって、一緒に寝ていないんだもの…。体調もリフラナに任せっきりだった…。


「エージェント、教えてくれればいいのに…」

『通知オフにされましたので』

「えっ…」


 いつそんなことしたかな…。たしかに、もううんざりしていて聞くのも嫌だったけど…。


「と、とにかく、お部屋に戻りましょう」


 もう何十回も産婆をやってきた。慣れたものだ。慣れすぎて事故りそうだ。

 私と私のお嫁さんの子には遺伝子疾患のようなものは起こりえないし、外科的な損傷は魔法で治せるし。衛生環境にも気をつけている。事故る可能性などない。


 こうして、私とロコイアの娘は無事に生まれたのであった。




 私が永遠の十七歳となって三年ということは、ダイアナも永遠の九歳になって一年だ。


「ママぁ」

「そろそろだよね」

「うん」


 私はたびたびダイアナの執務室に赴いて、ダイアナの体調を整えていた。それに、消化能力が落ちているときには、私の優しさ入りの母乳を飲んでもらうのがいちばんだ。

 ダイアナは私と同じで一桁歳妊娠の道を歩んでいる。健康優良児の私ですらつらかったのに、筋肉ゼロのダイアナがつらくないわけない。


「ああああん…」


 ダイアナに月経が来るようになってから、ダイアナは私のマッサージを気持ちいいと思ってくれるようになった。

 私のマッサージはエッチとは無関係なので、誤解を招くようなことはやめてほしいのだけど、気持ちよがるのを止めることはできない。むしろ嬉しい。

 だけど、ダイアナは自分の嫁を三十人も抱えているから、私や私のお嫁さんたちと一緒にお風呂に入ったり、寝たりはできていない。せっかくダイアナと相思相愛になれたのに、夜を一緒に過ごせなくて寂しい。


 私はダイアナのことを永遠の九歳に改造したので、身長は伸びていないし、顔つきも少し幼いままなのだけど、妊娠したからか、メロンは一回り大きくなってしまった。

 ロザリーと比べると小さいけど、クレアより大きい。それに、本人の小さく華奢な身体からすれば、肩幅からはみ出してしまっているし、相対的には私と同じ…というのは言い過ぎだけど、マイア姫くらいには見える。

 でも、カローナには絶対かなわない。ダイアナも今の時点でこれだけの大きさなら、将来カローナを超えるなんて余裕だったはずなのに、本人は嫌がって成長を止めてしまった。

 私も最初は、これほど大きな胸は何をするにも邪魔で嫌だったけど、今は胸が邪魔で不器用になってしまったドジで可愛い自分に酔いしれている。この気持ちは一度味わってみないと分からないだろう。

 妊娠して一回り大きくなってしまったのに文句を言わないのが良い証拠だ。きっと、私もダイアナも、胸がカローナほどの大きさになっても最初は不満に感じるかもしれないけど、なってみれば良いものだと理解できるはずなのだ。


 女性というのは、美しく可愛くなるために、不自由にしているものだ。そして、その不自由さは庇護欲をかき立てる。

 食事の時は長い髪がお皿にかからないように、手で押さえておかなければならない。片手で食事を取らなければならない不自由さは可愛いし、手で髪を押さえるその仕草さえ美しい。

 高いヒールを履いてよろよろしている様は、守ってあげたい気持ちを沸き立たせる。それで転んでしまうようなドジっ娘も可愛い。

 短いスカートをはいて寒そうにしている姿も、包み込んで温めてあげたくなる。

 コルセットを締め付ける苦しさに耐える姿も美しい。締め付けすぎて気絶してしまったら助けたいと思えるようになる。


 まあ、人間の女性に限らず、相手を射止める美しさを得るためのコストは美しいものだ。

 鹿はその立派な角を作るために骨粗鬆症になるという。

 孔雀はその美しい羽根の模様を作るために、どれだけ栄養が必要なのだろうか。

 っと、鹿の角も孔雀の羽根も雄だった。すべての生き物は、雄雌かかわらず、美しさを手に入れるための苦難を乗り越えること自体が美しいのである。



 ちなみに、永遠九歳とは言いつつも、前世の人種に比べるとこの世界の人種は早熟であるため、前世基準で見ると十二歳くらいに見える。


 それはさておき、ダイアナは胸だけでなく、細いウェストにも外付けの袋を携えていて、今にもこぼれ落ちそうだ。このままポロッと取れてしまえば楽なのだけど。


「ママぁ、痛い…」

「はいはい」

「ああああん…」


 陣痛が始まったようだ。私はダイアナの背中に手を回して、痛みを和らげた。


「ひっひっふー…、ひっひっふー…」


 ダイアナは全身筋肉がほぼゼロの柔らかな生き物であるため、身体強化の念動力で身体を動かすのが基本だ。なので、息む練習も身体強化でしていたようだ。


「ムリ…」『ごめん、自分で出てこられないかな』


 ダイアナが短い言葉だけ自分の口で発したあと、音でない音が聞こえた。ドリーと同じような、精霊の声だ!


「そんなことできるんだ…。っていうか誰に言ったの…」

『おなかの子』


 ダイアナは精霊の声で返事をしている。

 ドリーと同じかと思ったら、精霊に色があるのと同じように、声にも色があった。これは電気の精霊の色、黄色の声だ。黄色の声というのはキャーという意味ではない。

 これを聞いて初めて、ドリーの声が緑色だったことに気がついた。


「で、おなかの子はそれを理解できる子なのね…」

『言ってなかったっけ。転生者だよ』

「へー…」


 好んで変な子を産みたがるとは…。

 私としては、普通の新生児を産みたかったのだけど、二人目のフラベーナは転生者ではないのに生まれたときからしゃべるし…。


『ダメだ、やっぱりドリーの子をサポートに付けても、エッテンザムに自分で出てくるような筋力はないね』

「エッテンザムじゃなければ、自分で出てこられるってことなのね…。ああ、フラベーナは自分で出てきたような気がしたんだよ…」


 フラベーナは、私があまり息まなくても、かってに這い出てきたんだ…。


「ひっひっふー…、ひっひっふー…」『おお、がんばって!私もがんばるから!』


 自分の口とは別のことを副音声でしゃべる器用な子…。どうせAIが合成音声でしゃべっているものなので、自分の頭をほとんど使わないのだろう。

 それに、「ひっひっふー」だなんて、たしかにそう呼吸するといいみたいな豆知識はあったけど、それを律儀に実践しているダイアナは可愛い。


「けほっ、けほっ、やっと出られたよ…」


 またしゃべる子、出てきた…。赤ちゃんが生まれる感動を返して…。

 ダイアナと同じ無彩色の銀髪。

 おお、たしかに私の面影がある。私の血が十六分の七って言ったっけ…。半分弱?まあ、言われてみればそんな感じ。


 私は取り上げた子を高く掲げたりはしない。この世界の慣習かもしれないけど、高く掲げられると怖いんだよ。落としたらどうするんだ。

 この子は受精した直後に私とドリーの子である精霊を付けたけど、エッテンザムだから筋肉が発達していない。だから身体強化を使っても年齢相当の動きしかしないみたいだ。

 でも、おなかの中でしゃべる練習はしてきたらしい。口や表情の筋肉はエッテンザムとは無関係のようだ。つまり、ダイアナの顔の筋肉がないのは、ダイアナがサボっていただけだ。


「はぁ…、ちゅかれた。やしゅませとくれ…」


「私も疲れた…」

「ダイアナ、隣に寝かせるよ」

「うん」

「この子の名は?」

「フラーラ」


 この子は私の子でもあるのだけど、なぜか産んだほうが名前を付けることが習慣になっている。でも、それじゃ男は永遠に名付け親になれないな。

 ところで、この子は私の子だけど、私の孫でもあるのか…。カオス…。


 私とお母様の子のアルゾナも、私の妹だったりするのでカオスだったなぁ。母親や娘と結婚すること自体がカオスなのか。

 よいではないか。ここはファンタジー世界なのだから。



 さて、二人とも寝てしまったし、後はメイドに任せて私はおいとましようか。


「おなかへった…」


 私が去ろうとしたら、フラーラの声が…。もう起きたのか。新生児は気まぐれだな。

 一回も鳴き声を聞いていない。そういえばフラベーナも鳴き声を聞いたことがない。


「どうしよう…、ダイアナ寝ちゃった…」

「隣に寝ていりゅのが、わたちを産んだかあしゃんなにょかい?」

「うん。あ、ダイ…」

「ああ、ダイアナって言うんだろ。ちっていりゅよ。おなかの中で聞かしゃれたよ。あんたはアンにぇリーゼじぇだろ」

「うん…」


 どうしよう…。生まれる前から自分の名前も親の名前も知っているなんて…、子供が生まれたというのに、何も感動できない。

 ただでさえお嫁さんの出産を経験しすぎて感動が薄くなっているのに…。


「それより、アンえいーじぇも私のかあしゃんなんだろ。おなか減ったんだよ…。その立派なおっぱいおくりぇお」

「わかっ…」

『待って、私があげる』


 フラーラと私が話していたのがうるさかったのか、ダイアナは目を覚ました。

 私が母乳をあげようと思ったのだけど、ダイアナは譲らないらしい。なんだか必死だ。


『次はママがあげるといい』

「うん」


 べつに、最初に母乳をくれた者を産みの親だと認識するシステムではないと思うのだけど…。

 ところで、両親が母親であることも認識済みか…。


 私はフラーラを挟んでダイアナと反対側に寝そべった。

 フラベーナとは違って、フラーラは寝返りを打ったりはしないらしい。よかった…。私はフラーラを自分のほうに向けてやり、自分のおっぱいをくわえさせた。


「んーっ!なんだいこえ!おいちいね!」

「えっ、そう?」


 フラーラは少し私の母乳を飲むと、口を離して感動を漏らした。そしてまたくわえて、ぐんぐん吸い続けた。


『こうなると思った』


 なるほど。産んだダイアナが餌付けするために先に母乳を与えたかったのではなくて、先に私のを飲んでしまうと、自分のをいらないとなってしまったり、後から飲んでマズいとかがっかりされたりすることを危惧したのか…。


 それにしても、こんなおかしな子でも、母乳を与えるとだんだん自分の子だと思えてくる。そして可愛く見えてくる。

 いや、外見だけは最初から可愛い。ヤバいくらい可愛い。でも、第一声が産声ではなかったから、すべて台無しになっていた。

 でも、愛しいダイアナと私の愛の結晶。それが可愛くないわけない。



 ところで、お嫁さんたちが産んだ子は、私もちゃんと母乳を与えて可愛がっているけど、基本的に産んだお嫁さんとそのメイドが育てていて、私はあまり子育てに関わっていない。

 女どうしで子供を作る魔法では、なんとなく産んだ側が子供を育てるのかなと思っていたけど、実際のところ、私はフラベーナをマイア姫に任せっきりだ。つまり、どっちが産もうと、私は子育てをお嫁さんやメイドに任せるダメな親ってことだった…。

 だって…、私の産んだ娘って、生まれたときから物心ついている変な子ばかりなんだもん…。




 その後、ダイアナの嫁、三十人の出産が続いた…。

 もう、私は自分の嫁の子を取り上げるのにもうんざりしていたので、ヒーラーガールAことリフラナにやってもらった。いちおう私の孫娘だというのに酷い話だ。


 そして、ダイアナの嫁の子の中には、二人だけ転生者がいたそうな。



 ところで、話はダイアナの出産より少し遡ること数ヶ月。

 去年、私が一夜限りのお勤めに雇ったメイドの中に、やけに若い子がいたようなのだけど、もう惰性でやっていただけだったからか、そんなことも忘れていた。その子は九歳だったらしい。

 そして、その子はどうやら転生者をおなかに授かっていたらしい。

 ダイアナは、そのメイドと転生者の子を、メイドとして雇っているんだってさ。子供のほうはメイド見習いだけど。



 つまるところ、ダイアナは転生者の生まれる法則を調べていたらしい。そして、その条件は、親が九歳で妊娠することらしい。

 私とダイアナはデビュタントパーティの直後が丁度よかったらしい。

 さらに、カルボスのことも、監視カメラやドローンの映像から、出産時の親の年齢が十歳であったことを突き止めていたらしい。


 総合すると、九歳四ヶ月から五ヶ月くらいで妊娠するのがトリガーだと判断したワケだ。

 ダイアナが三十人もの嫁を娶った理由は、なにも性欲に任せただけではなかった…。

 三十人も妊ませたのに、たった二人しか転生者が生まれなかったのには落胆したらしい。


 一方で、私が下手な鉄砲も数打ちゃ当たる的に妊ませて転生者が生まれたのにはダイアナは感心したらしい。鉄砲とかやめてほしい…。

 もうやりたくない…。後半は遺伝子を提供しただけだったけど…。それでももう…。



 結局のところ、今回、転生者が四人生まれたわけだ。しかし、これだけ転生者を集めてどうするのだろうか。


『前世の世界の知識をこの世界の発展に活かしたい』

「なるほどね」

『だけど、今回はあまり有用な知識を持つ人材が得られなかった』

「かってに呼びつけておいて、ひどい言いようだ」


 ダイアナの娘、フラーラの前世は、七十歳くらい生きていそうな専業主婦。

 ダイアナの嫁の娘の一人は、美術大学の教授。

 ダイアナの嫁の娘のもう一人は、IT企業のOL。

 私の嫁にしてしまったメイドの娘は…、幼くして交通事故で亡くなった子…。


 嫁の娘というのは、自分の娘に違いないのだけど、嫁の産んだ娘という意味である。なんとなくそういういい方が定着している…。


「美術の先生は私たちの持っていない知識を持っているでしょ。ダイアナの持ち込んだ芸術といえば、アイドル文化くらいじゃん…」

『たしかに、ママの作ったガラス細工がウケるくらいだから、芸術はないに等しいね』


「OLはどうなの?」

『残念ながら私の知らない知識をほとんど持っていない』

「へー…」

『助手にもなるかわからない』

「自分の子をなんだと思っているのやら」

『転生以外の方法でこの世界に召喚する方法があるのならやっている』


 ダイアナは自動車会社の社員だったはずだけど、スマホや電車なんて作るし、そうそう対抗できる技術者などいないだろう…。


「幼くして亡くなった子は…。私だって自分の死に際を覚えていないのに…」

『とうぜん役に立たない。前世の言葉もあやふやなので、四歳くらいだったのではなかろうか』

「役に立つとかじゃなくて…。トラウマとかない?ケアしてあげないと…」

『何を言っているのだ。ママの子だろう』

「そうだった…。でも親と一緒にメイドとして雇ったんでしょう…」

『そういえばそうだ』


 生まれながらにトラウマを持っている子って、なんて酷い…。親も大変…。私も親なんだった…。


「フラーラは?おばあちゃんの知恵袋的な…」

『うん、そんな感じかも…。料理の幅は広がりそう…』

「じゅうぶん有用じゃん」


 フラーラはおばあちゃんだったから、ああいう口調なのか…。違う言語だし、生まれ変わったというのに、なぜこの世界のおばあちゃん的な口調を選んだのだろう…。口調のおかげで可愛さがさらに台無しになっているのだけど…。

 口調のおかげで可愛さが台無しなのは、ダイアナも同じだった…。いや、ダイアナは口調だけではなく話の内容も人でナシだし、そもそも口から声を出していなかった…。


『まあ、四人とも胎児の魂百まで計画でドリーの子を付けられたから、魔法使いとしては有能になれる。せっかく強力な光と土の精霊を付けても、エッテンザムは身体能力的には役に立たないけど、物作りにはとても役に立ってくれそうだ』


「私とドリーの子を余分に渡してあったけど、その子たちに使ったんだね」


 私とドリーの子である精霊は、普段は小さめの光の玉で、必要に応じて主人と同じ形を取れる、という設定にしてある。予め容姿を決めていないので、誰に付けてくれてもいい。


 リーフが私の顔をしているというのは失敗した…。いやいや、仮にも自分の子供を失敗だなどとはいわない…。

 でも、リーフは精霊型になれないし、クラリスには幼い私の顔をしたロリ巨乳葉っぱ水着幼女が付きまとうことになるなんて…。これから精霊が見える人はどんどん増えていくというのに。

 精霊を作るときにうかつなことを考えていてはいけないな…。

 

『私も魔力の精子を作れればなぁ。私も電気の魔力で作ろうと思ったけど、強力な光魔法を介さないとできないみたいなんだ』

「へー」


 ドリーが土魔法を使ってマイア姫の遺伝子を持つ精子を作ったというのとは、やはりちょっと違うのだろうか。




『さて、次の転生者実験が待っているよ』

「今度は何…」

『ワイヤとアリシア』

「これ以上私の娘を変な子にするのはやめてほしい…」

『初代変な子が何を言っているのだ』

「初代変な子…」

『それにフラベーナなんて天才だと皆に喜ばれている』

「それはそうなんだけど…」


 みんなは私のことを普通に受け入れてくれていたけど、私はやっぱり変な子だったのか…。


『というわけで、ワイヤには私が今月子種を植え付けるから、アリシアにはママが来月子種を植え付けるように』

「言い方…」

『ドラゴンハーフに転生できるなんて胸熱』

「聞いてないし…」

『精霊の子、増産しておいて』

「それも言い方…」


 いちおう、私もあまり自分の子だと感じることのないように、普段は精霊の形をしているとか、主人と同じ形を取るとかいう設定にしているのだけど…。でも、作り方が作り方なので…。



『それにしても、ママの精霊と私の電気の精霊、大きすぎて邪魔だよね』

「うん…」


 私の精霊は直径五メートル以上ある。普通の視覚を遮るものではないのだけど、常に光に包まれている感覚ではある。もう十何年もこの状態なので慣れたけど。


『精霊の子みたいにコンパクトにならないかなぁ?』

「なってくれればなぁ……。あっ…」


 私の光の精霊が、私とドリーの子みたいに、小さいけど強い光の塊になった!


『なんだ、できるじゃん。私の電気の精霊も…、まだダメみたい…』

「マジか…。あれ…、じゃあヒト型にもなれるのかな…」


 私の光の精霊が私の姿になった…。服装も何もかも…。


『一年くらい前からできたんだけど、今初めて望まれたから変われたんだ』

「えっ…」


 口調まで私と同じだった…。


『リーフを作ったときに、ヒト型を取るには少なくともリーフの魔力くらいは必要だろうと思っていたみたいだけど、実際にはあともうちょっとだったんだよ』

「そうだったのか…」

『でも、普段は小さくて強い光だけど、必要に応じて主人と同じ形を取れるっていう最近の設定が適用されたみたい…』

「マジか…。いつもそのとき思っていたことがキャラメイキングの結果になってしまう…」

『葉っぱ水着固定じゃないのは幸いだけど、どうせなら違う姿が良かったよね…。ドリーは最近別行動が多いけど、私は常に側にいるんだよ。念願のいつでもどこでも人に気がつかれずにエッチできる嫁になるんだったら、私もこんな姿になりたくなかった…。私だって自分とエッチするのは気が引ける…』

「ちょっと、私の心を垂れ流さないで…。精霊は私の望みを叶えるものではないの?」

『主人の望みはかなえなければならないから、望むのならいつでもエッチできるよ』

「間に合っています…」

『口ではどうとでも言えるんだよ』

「いやあああ…」


『初代変な子は大変だね。私はそうならないように、自分の中の精霊のイメージを作っておこう』

「ぎゃあああ…」


『ところで今度からは自分の精霊と子作りできるの?ママとその子が結婚したら、光だけの精霊になるのかな。でも光の魔力だけでかいよりは、ドリーの魔力を半分持っていた方が有用だ』

『そうなんだよね。でも、私と主人の魔力の平均なら、心を読む魔法をプレゼントできるんだよね』

『おお、それはなかなか魅力的。土の魔力と迷うところ』


 ダイアナ…。着眼点が違う…。


『ところで、他の子に付けた精霊の子は、名前を付けるのが面倒だから同じ姿ってことにしたと思うけど、やっぱり名前がないと不便だから何かお願い』

「えっ…、じゃあ…、メテーナ」

『じゃあそれで。よろしくね、アンネ』

「よろしく…、メテーナ…。自分の顔にアンネって呼ばれるの変な感じ…」


 また私の顔の子が増えてしまった…。つい最近、精霊を作るときにうかつなことを考えていてはいけないと思ったばかりなのに、また思わぬ姿で固定するハメになってしまった…。

 いや、まあ、ドリーの子と契約した娘は、みんな同じ思いをするのかな…。全部私のせいだな…。


 メテーナには、普段は精霊型でいてもらうことになった。でも、今までの五メートルの光の玉ではなく、十センチで非常に密度の高い光の玉だ。今までどおりふよふよ付いてくる。




 ダイアナはワイヤと夜を過ごしたらしい。しばらく見ていなかったけど、ワイヤは翼をしまえるようになっていた。尻尾は相変わらず残ってしまうらしい。


 ちなみに、ダイアナは性欲がまだ戻っていないらしい。産後で月経がまだ来ていないからだろうか。

 ワイヤはそんなダイアナを相手にしなきゃいけなかったのは、ちょっと残念だね。まあ、ダイアナは転生者実験を優先させたいのだからしかたがない。



 そして、今度は私とアリシアの番だ。


 三年前に他のお嫁さんと子供を作ったときに、アリシアはまだ六歳だったから、さすがに妊ませるわけにいかなかった。

 いや、九歳で妊娠するのもかなり問題があると思うけど、この世界の倫理観に沿っているのだから構わないと自分に言い続けている。

 都合の良いところでこの世界の倫理観と前世の倫理観をうまく採用している感は否めない。

 それなら六歳でもいいじゃないか…。いや、やっぱりダメだ…。ドラゴンの初潮がいつ来ていたとしても…。この世界と前世の倫理観のどっちとっても、六歳はマズい…。


 まあ、アリシアはやっと九歳になったのだから、もう心配ない。ダイアナが三十人も実例を作ったのだから、今さらすぎる。

 あれ…、三十人全員が九歳で初潮来てたのかな…。マジか…。


 まあいいや…。ダイアナのことだから、私の知らないエッテンザムの魔法で、何か都合の良いように持っていったんだろう…。きっと恐ろしい魔法を持っているに違いない。



 ダイアナのことはいいんだ。とにかく、今日はやっとアリシアの望みを叶えてあげられる。


「お母さん…」

「アリシア…」


 ここのところあまり構ってあげられなかった…。でも、我が儘を言うこともなくなった。大人になったなぁ。

 でも、姿はまだ少女だ。心も体も純粋無垢なアリシア…。


 今日、私はアリシアと一つになった。






 永遠の幼児カルボスは、フラベーナ第二王女とのアイドルレッスンを楽しんでいた。

 しかし今日は仕事の日だ。地方の貴族令息に向けた手紙により、登城してもらって会合をするのだ。


 アンネリーゼにも参加してもらおうと思ったけど、なんか上の空で結局断られた。男に会うのが嫌というより、会話が通じないというか…。ときどきそういうことがあるようだ…。


「本日はお集まりいただきありがとうございます」


 令息三十人も集まった。

 地図に青を塗った領地…つまりデキの良いおぼっちゃんが十人。

 赤を塗った領地、つまりボンクラが二十人。


 他に、招待したのに、ここに来てもいない令息が五人。


 あとは、跡継ぎのいない領地が少しと、アンネリーゼの開発済み、または開発中の領地だ。


 彼らには、開発済みの領地で最も近いところの学校に行ってもらおうと思ったけど、開発済みの領地は中央と最北端と最南端に固まっているので、まずは北側、中央、南側で別れて、なおかつ、それぞれで均等な数になるように別れてもらうことにした。


 青の領地は一年で終わるかなぁ。

 赤の領地は何年かかるのやら。だいたい、アンネリーゼが手がけているご令嬢も留学が終わってないみたいだし、この国のボンクラ貴族は救いようがないのではないか。


 まあいいや。今日は説明だけで、令息たちは帰ってから準備したりして、実際に留学できるのは近い領地でも一ヶ月後、遠い領地では三ヶ月後になるだろう。

 この世界の移動は大変すぎる。すでに鉄道が開通して、北と南から中央まで五時間だというのに、西と東から中央は一ヶ月かかるのだ。時代に取り残されているのにまだ気が付かないのか。



 さて、お坊ちゃんたちとのつまらない会合は思ったより早く終わったので、早く学校に行こう。

 そして、可愛いフラベーナちゃんと歌って踊るのだ。


「あれ?フラベーナちゃんは?」

「午前は魔法の実技を受けているみたい」


 ヒーラーガールのお姉さんが応えてくれた。

 教室に行ったらフラベーナちゃんがいなかった。今日の午前はオレは仕事があるって言っておいたから、フラベーナちゃんも別のところに行ったのか。

 オレのいないレッスンを受けてもしかたがないと思うほど、フラベーナちゃんもオレのことを好きだと思ってくれているのだろうか。


 オレだってフラベーナちゃんのいないレッスンはつまらない。

 しかたがなくヒーラーガールのお姉さんと一緒に練習だ。

 いやいや、ヒーラーガールだってとても可愛いし、しかたがないなんて失礼だ。



 昼食を挟んで、午後のレッスンだ。


「あ、カルボしゅ!」

「フラベーナちゃん!」

「会いたかったわ!」

「オレもだよ!」


 まるで恋人どうしのような会話…。こんな経験は前世でもできなかった…。

 フラベーナちゃんはの黄金色のベリーショートヘアが少し伸びてショートヘアくらいになり、さらに可愛くなった。身長もぐんぐん伸びているのが分かる。


 ああ…、フラベーナちゃんとの楽しいレッスンの時間はあっという間に終わってしまう…。


「ねえ、カりゅボちゅ、今度いっちょに魔法の授業行かない?」

「うん、いいよ」


 アイドル養成科に入る前に、魔法の実技にはけっこう行っていたんだけど、最近全然行っていないな。


 もちろん、オレ流の魔力のトレーニングは続けている。寝る前に魔力枯渇、六時間寝てまた枯渇、また六時間寝て起きたら枯渇させてから出かけるんだ。

 オレに魔法を使う用事なんて今のところないから、朝に枯渇させてもあまり問題ないんだ。昼頃には三割くらい回復してるし。

 それに、いざとなったら精霊の魔力を使わせてもらうだけだ。精霊の魔力を使ってもトレーニングにはならないから、精霊の魔力は常に残してある。


「じゃあ、明日の午前は魔法の実技ね!」

「分かった!」


 フラベーナちゃんがオレの手を握ってきて、上目遣いで目をキラキラさせている。おねだりする目というやつだ。

 アイドル養成科で習ったしぐさなのだけど、これはフラベーナちゃんの本心だ。フラベーナちゃんはただそれが身体に染みついていているだけだ。というか、普通のしぐさというのを覚える前に、アイドル養成科でしぐさを身につけたのではないだろうか。


 それに、フラベーナちゃんの手…、柔らかい…。いや、今は自分も幼児なので、自分の手も柔らかいけど、やっぱり男の子の手と女の子の手は違う。



 翌日、オレは目がキラキラな気分で魔法の実技の教室に赴いた。

 オレだってアイドル教育を受けているので、目をキラキラさせるくらいできる…かな?


「カルボしゅ、待ったぁ?」

「い、今来たところ」


 フラベーナちゃんはゼロ歳とは思えない足取りで駆けてきて、少し短い腕を後ろに回して、上目遣いでオレにそう言った。「待ったぁ?」だって…。答えは決まっているじゃないか…。


 今日は魔法の授業なので、起きてすぐに魔力を枯渇させるということはやっていない。だから、思う存分魔法を撃てる。


「ファイヤボール!えいっ!」


 フラベーナちゃんは手を上に掲げ、その上に直径一メートルの青い火の玉を作り出した。そして、それを放った。


 目標は動く的。動く的に当てるには、火の玉が的を追いかけるイメージをする。仮に直前で避けられたら、火の玉もひょいっと曲がって追従するというようなイメージを予め持っておくと、避けることの難しい攻撃になる。


 フラベーナちゃんの火の玉は動く的に向かっていくが、的は直前で加速し、火の玉を回避したように見えた。しかし、火の玉は加速した的を追いかけ、見事に命中。


 壁に設置されたディスプレイに得点が表示される。無駄にハイテク…。

 命中精度九十パーセント、温度二五〇〇度、大きさ直径一メートル。


「すごい…」


 フラベーナちゃん、パねぇ…。オレはあそこまでできるかどうか…。


「うふふっ、あにがとっ!今度はカルボしゅだよ!」

「うん」


 フラベーナちゃん…、仕草の一つ一つが可愛い…。いやいや、今は魔法に集中しろ。

 追従のイメージ…、温度を上げるイメージ…、巨大な火の玉!


「ファイヤボール!えいっ!」


 オレが掲げた手の上に、直径一メートル半の青い火の玉が現れ、オレはそれを放った。


 案の定、的は火の玉の当たる直前で避ける。でも、オレの火の玉だって追いかける。だけど、火の玉はうまく曲がりきれず、的をかすって後ろの壁に当たった。


「残念だったね…」

「うん…」


 オレがちょっといいところを見せようとして、大きすぎる火の玉を制御できなかっただけなのに、フラベーナちゃんは、まるで自分が失敗したかのような、悲しい顔をしている。


「次はきっとできるよ…」

「うん、ありがとう…」


 フラベーナちゃんが天使すぎる…。



「ちゅぎは、ちゅち魔法によりドレしゅ製作だね」

「うん」


 オレは一応男なのだけど、紳士服製作ではなく、ドレス製作を練習させられている…。今だって、ズボンなのに…。

 この授業はべつに、アイドル養成科のものではないけど、上級クラスなので、王都民は少ししか参加していない。彼女らはきっと、魔力の高い方だろう。

 国王が替わり王都に改革が入ったのは三年前だ。それまでは魔力のトレーニングなんてやってなかったそうだ。魔力トレーニングは若いほど有利なので、ここにいるのも若い人が多い。


「それでは、今日はこのドレスを参考にして、自分なりのドレスをデザインして仕立て上げてみてください」


 教師が持ってきたドレスは…、アンネリーゼが着ているドレスには遠く及ばないけど、お貴族様のドレスだ。色は全体的に薄ピンク色をしている。この世界にはミニスカートしかないようなので、とうぜんドレスもミニスカートだ。アンネリーゼやメイドさんだけの仕様ではないのだ。その適用範囲は、ゼロ歳児のフラベーナちゃんにも及んでいる。


 教師といったって、二十歳前後にしか見えない。魔法のトレーニングは若いほど有利なので、どうしても若い者のほうが魔法をうまく使える。


「わたちね、もうすぐいっちゃいになるんだー」

「えっ、そうなの?」


 これは、プレゼントのおねだりなのか?このタイミングで言ってくるって、ドレスが欲しいのか?

 でも、フラベーナちゃんは王女だ…。オレが王女にあげられるドレスなんてあるのだろうか…。


 教師からドレスの材料となる生地が渡された。光沢があって、肌触りの良い、シルクというやつだ。それが薄ピンク色に染められている。

 それから、ドレスを着せるためのマネキンだ。ドレスというのは、生地を切ったり縫ったりして作り上げるのではなく、土魔法を使ってイメージした通りに生地の形状を粘土のように変化させて、作り上げるものなのである。


「えいっ!」


 フラベーナちゃんがかけ声を上げると、たちまち生地がマネキンを覆っていき、お手本となっているドレス…なんか目ではない、アンネリーゼが着ているような豪華な装飾を伴った仕上がりになった…。

 土の魔力の使い方が尋常じゃない。一箇所一箇所ではなく、全体に魔力が広がり、平行してドレスの形を成していった。


「すごい…」

「ありがとっ!でもね、私これだけは得意なんだー」


 得意なんてものじゃない。お店が開けるだろう。


 フラベーナちゃんに付いている薄緑色の精霊…。

 精霊というのは赤、青、紫、緑、黄、白、黒の七色と習ったけど、あれは白と緑が混ざっているのだろうか。大きさはたいしたことないけど、普通の精霊と比べると異常なほど強い光を放っている。

 あれはやはり、光と土の精霊が混ざっている状態なんだ。それが、フラベーナちゃんの土魔法の秘密…。


 オレも毎日通常の三倍がんばって魔力を鍛えているし、同時に精霊も育てているけど、あの境地に達するのはいつだろうか…。

 火の魔法なら今のところ大差ないけど、フラベーナちゃんはもうすぐ一歳で、オレはもうすぐ三歳だ。つまり、同じ量の魔力を使っても、フラベーナちゃんのほうが二倍魔力が向上する。オレは通常の二倍以上のトレーニングをしていないと、すぐに追い抜かれてしまう。


 気を取り直そうと思ったけど、オレじゃ参考とするドレスの細かい部分を一つ一つ見ながら、それを写し取っていくような作業を何度も繰り返して、数十分かけてやっと一つのドレスができるんだ。

 まあ、周りにいる王都民の生徒は、もっと細かい単位で何日もかけて仕上げるみたいだから、オレは比較的うまいほうなんだと思うけど…。


 こんなことではフラベーナちゃんにドレスをプレゼントするなんて夢のまた夢だ。

 オレが持っていてフラベーナちゃんが持っていないもの…。前世の知識!

 たかが高校生だったオレが持っている知識は、難しい学問とかではなくて、アニメやゲームの知識だ!


 フラベーナちゃんを着飾る、この世界にはない、前世の可愛い何か。

 まあ、この世界の人々はすでに、前世のアニメで見たファンタジーな服装をしているけど、ちょっと偏りがあるというか、物足りないというか。そこにつけ込めば、この世界にない可愛いものを思いつくはずだ!


 この授業で作ったものは、材料費さえ払えば持ち帰ってもいいらしい。そうでなければ、先生が土魔法で生地に戻すだけだ。ほんとうに粘土のようだ。

 オレも給料をもらっているので、この生地を買うのはなんとかなる。


「あわわわっ!」


 オレは、マネキンではなく、フラベーナちゃんの頭に、この世界では見たことのない大きなリボンをイメージして、土魔法でまとわせた。

 大きなリボンどころか、髪飾りのようなものすら見たことないけど。まあ、オレは今までスラムと農村と王城くらいしか見たことないから、それ以外の場所にあるかどうかは知らない。


「ど、どうなってるの?」


 オレは、キャスターの付いた姿見をフラベーナちゃんの元に移動した。

 一枚じゃちょっとわかりにくい。こういうときはもう一枚…、この授業はドレスを自分で着て確認するようなことはないし、他のところにあった姿見もフラベーナちゃんの元に移動した。


「わあぁ!可愛い!」


 これくらいの大きさで単純なものなら、オレでも数秒で作れる。フリルとレースでいっぱいの、大きなリボン。

 フリルの付いた服とかこの学校で学ばされたものだ…。こんなところで役に立つなんて…。

 前世でアイドルなんとかとか、ガールズなんとかとかいうアニメをよく見ていたのも役に立っているな…。

 それをバンダナ風のヘアバンドにして、フラベーナちゃんの髪に一周させた。


 イメージどおり。ほんとうに可愛い。黄金に輝く髪に、薄いピンクの大きなリボン。


「カルボしゅがちゅくってくれたの?」

「うん…。フラベーナちゃんの誕生日にと思って…」

「誕生日のためにくれたの?ありがとっ!」


 笑顔をくれてありがとうって、オレが言いたくなるくらい可愛い笑顔でお礼を言われた。

 この世界には誕生日パーティとかプレゼントとかないのかな。いや、よく考えたら、フラベーナちゃんにとって初めての誕生日じゃないか。そんな習慣知らないだろう。


「先生、これ、買い取りさせてください」

「いいでしょう。でも今日はドレスの授業なんですけどね。まあ、ドレスに使われているフリルやレース要素は入っているからいいとしましょう。あなたの魔力なら、遅れを取り戻せるでしょうし」

「ありがとうございます」


「カルボしゅ、こんなの始めてだよ。大事にしゅるね!」

「気に入ってくれて嬉しいよ」



 こうしてオレは、フラベーナちゃんとの楽しい学校生活と、ときどき貴族令息を迎えたり進捗を確認したりという仕事で、充実した日々を送った。






 ダイアナはアンネリーゼと離宮の廊下を歩いていた。


 私のお付きはいつもどおりリメザとポロン、ママのお付きはゾーミアという大柄の元ハンターだ。

 そこでマイア姫に呼び止められた。


「アンネお姉様。ダイアナも丁度いいところに。面倒なことになりました」

「どうしました?」

『どうした』

「とりあえず、執務室へ…」


 ママとマイア姫の執務室に連れていかれた。面倒と言われたので付いていきたくない。

 部屋に行くと、私とママのお付きは外に追い出された。マイア姫のお付きも追い出された。


「これを見てください」


 マイア姫が一通の手紙を差し出した。


『ゾルピデム帝国か…』

「知っているようですね」

『東に一五〇〇キロ行ったところにある。ドローンが太陽電池でちんたら行くには限度があるので、国にぶち当たったら、国の名前だけ確認して帰ってくるようにドローンに言いつけておいた』

「では、それ以上の情報はないのですね」

「うん」


 まあ、ちょっとした録画はあるけど。

 ロイドステラ王国の周辺は、一部隣の国までの距離くらいは調べているけど、人の住まない荒野や森が広すぎて、周辺国を探し切れていない。


「そのゾルピデム帝国がなんだと言ってきているのです?」

「国交を望んでいます」

「ロイドステラのことをどうやって知ったのでしょうね」


 もともと交流していたという情報はあったようだ。というか、国境の領地が国外とつながっているというのは、わりと知られていることらしい。


 ママの連れてきたカルボスが西と東の領地の開発を始め、最東端のフルニトラ侯爵領の令息が王都に招かれた際、王都の発展しように驚いたらしく、その話を持ち帰って、ひっそりと交流していたゾルピデム帝国の商人に流したところ、ゾルピデム帝国が興味を持ったらしい。


 近いのならもっと昔に正式に国交を結んでいるはずだが、遠すぎるので輸送費がかさんで、ろくな利益にはならないだろうということで、フルニトラ侯爵領とゾルピデム帝国の交易は国にお目こぼしされていた。


「でも実は、この国で十年前ほどまで主流だった高級ドレスの生地は、どうやらそのゾルピデム帝国から流れてきていたもののようですね。それが最近売れなくなってきているので逆恨みでもしたのでしょうか」


 ママは既存の高級ドレス市場を破壊しないように、シルクとガラス装飾を使ったメタゾールブランドのドレスを超高級品のレンジに定めていた。だけど、ここ数年でママの嫁の領地にシルクを卸すようになってから、メタゾールブランドの類似品が出回り、シルクとガラスのドレスは超高級品ではなくなり、高級品に成り下がった。そのため、既存の高級ドレスが売れなくなり、その材料となる生地や糸の輸入量が落ちたのだろう。

 だからといって、それほど大量の交易をしていたワケではないだろうし、ゾルピデム帝国にとってそんなに儲けのある販路だったのだろうか。


 まあ、フルニトラ侯爵の息子が王都に来たときに、その情報を入手したということか。

 売れ行きが下がっているから、ドレスを作っているやつを懲らしめてくださいってか?

 国の経済を握っている私を潰すことはできないよ。っていうか、第二メタゾールは国に買い上げられたんだった。縫製も農業もすでに国の産業だ。いったい何に仕返しをするというのだ。


 そこまで浅はかではないか。情報が少なすぎて、妄想しかできない。

 西も東も早く開発して、監視カメラやドローン配置したい。

 ママとマイア姫は男の治める領地のことを考えることはできないし、私は男領主を殺して女領主をすげたいと思っているくらいなので、カルボス君には期待している。


『床に紙が落ちている』

「それは何でもないのです。さあよこしなさい」


 私が落ちている紙を拾うと、マイア姫は涼しい顔をしてそう言っているけど、しまったぁというのがバレバレだ。


「読んではなりません」


『手紙の続き。つきましては国と国の友好の証として、我が国の第三王女を王に嫁がせてもらえないか…』


「アンネお姉様のバカぁ!第三王女のところで目を輝かせすぎです!」

「マイア様がいらないなら、私がもらいましょう」

「話を聞いてください。向こうの王女をうちがもらったら、今度はうちの娘をくれというに決まっています。私はデルスピーナもフラベーナもグリシーラも、他国に嫁がせるなんてできません!アンネお姉様だってできないでしょう!」

「できません…。三人とも私が娶りますから…」


『女であるロイドステラ王が女であるゾルピデムの王女を娶ることができるということが、キミたちの常識に刻み込まれすぎ。脳みその中から男というものの存在が消えすぎ』

「「あっ…」」


 ママは記憶はもちろん、遺伝子からも男というものが存在していたことを消し去ろうとしている。私としてはそれでよいのだが、ママはいまだに本能に反して男を絶滅させないようにしている。


『このような提案をしてくるということは、

 ゾルピデムには、ロイドステラの王が女になったことが伝わっていないか、

 ロイドステラ王がアンネリーゼを妃として娶ったことを知っていて王女を送り出そうとしているのか、

 どちらなのか。

 フルニトラは悪徳貴族だけど、ボンクラではない。今まで生地の流通を握っておきながら、それをずっと隠してきたようなやり手だ。フルニトラは辺境だけど、事務机に国からの手紙が埃被って積み上がっているような家ではないだろう。

 王の交代をフルニトラがゾルピデム帝国に隠したまま、こんな話が持ち上がるだろうか』


「つまり、ゾルピデムの第三王女は、王が女の私であると知った上で、本気で私に嫁ぎたいと…。私はアンネお姉様一筋なので、この話は破談です」

「ではやっぱり私がもらうしかないではありませんか!」

「アンネお姉様はこれ以上結婚禁止です!」

「うぐぅ…」


 妻夫(めおと)漫才…妻妻(めめ)漫才を見ていてもらちが明かない。


 でも、そのまま口車に乗っても面白い気がしてきた。


『では、女である王が、王女を娶るのが、この国の常識であるというのを逆手にとって、そのまま話を進めてはどうか。マイア姫もママも娶れないというのなら、私がもらおう』


「ダイアナ!抜け駆けなんて!」

「なかなか良い案です」

「マイア様…ひどい…」


『でも、ただの侯爵が他国の姫を娶るのは相手を低く見ていると思われるから、私を公爵に上げるとよい』


「たしかにその通りです。ではダイアナは今日からメタゾール公爵です」

『拝命いたしました』


 私がこの国の経済の八割を牛耳っているのだから、功績など有り余っている。マイア姫もそれを分かっているので、私が爵位を要求したとき、二つ返事でOKを出してくれる。


「でも…、代わりにこちらの王女を差し出せというのは、確実に言われるのでは…」


『では私がマイア姫の子を産もう』


「ちょっと…、ダイアナ、私のマイア姫にやめて!」


「はっ…」


 おっと、女をくれと言ったら、魅了が発動してしまった。

 うつろな顔をしていたマイア姫はママの声で魅了が解けて、我に返った。


 なんだか…、出産で止まっていた月経が、そろそろ再開しそうだ…。下半身が重くなってきたし…。

 やばい、マイア姫が急に欲しくなってきた…。


 ペしっ!


「いたっ…」


 ママに頬を叩かれた。


「やめてって言っているでしょう!」


『ごめんなさい…』


 どうやらまた魅了をかけてしまっていた…。


「また明日話しましょう」


 ママのいう通りだ。それがいい。今の私は自分を制御できない…。


「さあ、マイア様、今日はもうお休みしましょう」

「ええ、そうします…」






 アンネリーゼはマイア姫をベッドに送ったあと、ダイアナの執務室に赴いた。


「ゾーミア、ごめんなさい。デリケートな話もあるから、外で待っていてね」

「分かった、アンネ王妃様」


「ダイアナ…」

『ごめんなさい…』

「性欲戻ってきたの?」

『うん…。やっぱり私、ここにいてはいけないのかも…』

「施術してみようか…」

『できるの?』

「たぶん…」


 心を読む魔法に、性欲というのを通すようにしてみた…。マイア姫のことが欲しかったとか、今は私のことが欲しいとか…。


 女性ホルモンの分泌を抑えればいいのかな…。卵巣への血流を抑えればいいのかな…。

 そもそも、ホルモン分泌が多くて女の子を襲っちゃうのは男の所行だし、女の子を襲うサキュバスなんて生き物のことはわからないよ…。

 難しいことを考えずに、性欲を抑える!だけでいいのかもしれない。下手に更年期障害みたいになっても嫌だし…。


 腰の辺りを、えいっ!


「あふんっ…」


 なんか空気が抜けたみたいに、ダイアナの性欲がぷしゅーっと抜けていった…。


『あっ…、ママを見ても、すごく可愛いな結婚したい、くらいにしか思わないようになった』


 うん…、今にも私に襲いかかりそうだったしね…。それでもまだ結婚したいんだね。


「恒久的に治まったのかは分からないから、経過観察ね」

『ママ…。ありがとう…。私、自分が自分でなかった…。ほんとうは私、喪女だったんだもの…』

「お嫁さんたちと仲良くやっていける?」

『ほんとうはママといたい』

「魅了して連れてきちゃったんだから、責任持たないと…」

「はい…」



「もう大丈夫かな…」

『あのね、私が言うのもなんだけど、ママも最近おかしいよ』

「えっ…」

『男という概念が遺伝子から消えつつある』

「えっと…」

『今も言葉が分からないような感じだし』

「たしかに、ダイアナが何を言っているのかよく分からず…」

『ママは自分の好みを遺伝子に刻み込みすぎ』

「私が、その…男というものを存在しなかったことにしようとしているってこと?」

『そう。それも、自分だけでなく生物の種として。生物が何回も世代を経て進化していくようなことを、魔法を使って短時間に進化させてしまっているようだよ』

「どういうことだろう…」

『ここのところ毎日ゲノムが変化しているよ』

「マジか…」


 最近、いまいち考えられないことがあるんだけど、そういうことなのか…。


『メテーナ。出てきて』

『なあに、ダイアナ。呼び出してくれて嬉しい。アンネは呼び出してくれないしね』


 メテーナは他人の呼びかけにも応えるんだ…。


『これはママが男という言葉を発した回数を月ごとにグラフ化したもの』

『ふむふむ、一年前からガクンと落ちている』


 ダイアナはタブレットを出して、メテーナに説明し始めた。私が忘れてしまったものに関しての説明らしい。

 ちなみに、ダイアナは合成音声でしゃべっていて、メテーナは光の魔力の音声でしゃべっている。


『これはママの今日の遺伝子。こっちが一年前。こっちが二年前』

『ふむふむ』


『まあ、一年前からガクンと落ちているけど、二年前くらいからすでに落ち始めている。そのことを考えると、遺伝子のこの部分がたぶん男に関することであり、アルツハイマーみたいにしぼんできているように見えない?』

『たしかに』

『この部分を二年前の状態に戻せば、男に関する記憶力や思考力が元に戻らないかな』

『できると思う』

『本当のところよく分かんないけど、メテーナならそのへんも良きに計らってくれるよね。お願い』

『私はアンネの望みか利益になることしか自分の意志ではできないんだ。そして、男に関する記憶を戻すことは、アンネの利益とは無関係で、はっきりいってどうでもいいからできない』

『じゃあ、ママから頼めばいいかな』

『そうだね』


『だってさ、ママ』


「自分でもそれを忘れて何が困るのかとか、何を忘れているのかも分からないのだけど、記憶が欠落するみたいなのは嫌だから、元に戻せるかな…、メテーナ…」

『いいよ』

「ありがと」


 メテーナが私に何か魔法をかけたのが分かった。なんか、最近もやっとしていたものがすっきりした気がする。具体的には、どういう記憶が戻ってきたのかとかすぐには分からない。


『あとさ、ママの男に関するゲノムアルツハイマーはママが施術した人はもちろんのこと、近くにいるだけでも伝染するよね?』

『そうだね』

『じゃあこれからママが施術する人や近くにいる人のゲノムアルツハイマーを同じように元に戻してくれる?』

『それもアンネの望み次第』


「お願い、メテーナ」

『いいよ』

「ありがと。っていうか、私ってそんな迷惑なものまき散らしているんだね…」


 私はいろんなものをまき散らしているんだね…。あっ…、


『あと、女好きについては止めなくていいよね?』

「それはそのままでいいよ。まき散らしたままでもいいや」


 女の子が女の子を好きになることについては、そのままみんなの遺伝子に刻み込んでほしい。


「あ、でも、他に私が遺伝子に刻み込んじゃった趣味ってあるの?」

『母乳を与えると母性が発達して相手を我が子のように愛すっていうやつ』

「えっ…」

『もともと少しはそういう傾向にあるのかもしれないけど、いつも暗時のように心の中でいっているから、強い性質になっちゃってるよ』

「そうだったんだ…。でもそれもそのままでいいや」


 母乳を与えると可愛く見えてくるとか、自分の子供に見えてくるとかって、哺乳類の母親が子供を見捨てずに育てるという本能に刻み込まれていたもののはずだけど、人間は本能の壊れかけた生き物なので、ちょっとしたストレスで子育て放棄したりする。

 でも、それを私が自分に言い聞かせて、もう一度本能に刻み込んでしまったということなのか。それはそれでいい気がした。人間はもう少し生物の基本に立ち戻ろう。



『ちょっとメテーナに質問。さっきママが施術してくれた私の性欲抑制はどれくらい続くのか…』

『さっきのも遺伝子を弄ったけど、エッテンザムの血は魔力との関わりが強くて、元に戻ろうとする傾向があるみたい。たぶん、魔力の遺伝子のようなものだと思うんだけど、私がドリークラスにならないと、適当力が足りなくて、魔力の遺伝子は治せないや』

『なるほど…』


 ダイアナは自分がエッテンザムという種族の性質に支配されてしまっていることに恐怖を感じているようだ。

 メテーナは、私の魔法を実現する適当な過程に関する部分を説明してくれるみたいだけど、メテーナ自身も適当な部分を全部分かっているワケではないように見える。

 適当な部分を実現してくれるのは、もっと上位の大いなる力なんだろう。強い精霊はそれを媒介しているだけなのかもしれない。


『はぁ~い、呼んだぁ?』

『丁度いいところに』

『最近アンネちゃんもダイアナちゃんも、子作りにしか呼んでくれないから、寂しかったのよ。っていうか、あなただーれ~?』


 呼んでもいないのにドリーが聞きつけてやってきた。

 私には壁を隔てたドリーが見えるのだけど、ドリーにも私たちのことが見えるのか。そうだよね。まぶたを閉じていても目線が合うんだから。目線というのは、精霊を見るための視覚の目線であって、実際の目線ではないけど。


 そして、ドリーに産んでもらった精霊以外で、初めてのヒト型の精霊とドリーのご対面だ。もしかして修羅場…。


『私はメテーナ。アンネにもともと付いていた光の精霊だよ』

『へー…。ついにアンネちゃんはひとときも離れないいつでもどこでもエッチできる嫁を手に入れたのね。いいわねぇ…』


「でもまるっきり自分の姿になっちゃったから、する気が起きないんだよ…」

『あら残念ねぇ。じゃあ私にもまだチャンスはあるのね~』


 チャンスとは、いつでもどこでもエッチできる嫁の候補ということだろうか。

 どうやら修羅場は回避できたようだ。ドリーはけっこう、誰とでも仲良くできるほうだし、メテーナも私の性格をしているのなら同じだろう。



『ねえドリー、私の性欲を強めている遺伝子を修復し続けている魔力の遺伝子のようなものをどうにかできない?』


 ドリーがやってきてメテーナとの修羅場になりかけていたけど、本題にやっと入ることができるようだ。


『ダイアナちゃんは、そういう魔物の一種みたいねえ』

『まあサキュバスは魔物に違いない』

『じゃあ、進化の泉に行ってみるのはどうかしら』

『なるほど。人間ではない私には効くってことか』

『もしかしたらね~』

『あれは魔物が人間になるためのシステム?人間が生物の理想形態だとは思えないな』

『さあ、古代の人間があれをどういう目的で作ったのかなんて知らないわぁ。生物の理想形態はアンネちゃんよ』


 そんなこと真顔で言わないでほしい。私って、ついさっきまで何かを忘れてボケていたようだし…。


『じゃあ、進化の泉に行ってみようかな』

「うん、そうしよう」

『何に進化したいか、ちゃんとビジョンを持っていこう。ママみたいにいつも適当に決めて、後悔するのは嫌』

「私は適当に決めているわけではなくて、物事が決まるタイミングが突然やってきて、そのときに考えていたことがそのまま決まってしまっているだけなんだよ…」

『初代変な子は大変』

「うぐぅ…」




 話し込んでいたら夜になってしまったけど、善は急げだ。


 部屋から出ると、メイドたちはメテーナを見て一瞬目を見開き、私が二人いることに驚いていたが、すぐに「なんだまた新しい人外の嫁か」くらいのあきれた表情になった。

 そういえば、ゾーミアも光の魔力を鍛えたから、メテーナが見えるんだね。リメザとポロンは、乳児の魂百まで計画の子だから、余裕で見える。


 私たちは一応メイドを伴って、第二メタゾールの屋敷に赴いた。


『キミたちはで待っていてほしい』

「ゾーミア、ごめんなさい。ここで見張ってて」


 進化の泉の部屋の前で、ゾーミアとリメザとポロンを待機させた。


「ダイアナ、どんな風になるかイメージはできている?」


『まず、女の子を好きなのはそのままでいいけど、好きすぎて襲ってしまうほど強い性欲をなんとかしてほしい。

 男が嫌いすぎるのもちょっと困る。最近のママみたいに記憶から消すほど無関心すぎるのも困る。以前のママが言っていたように、嫌いではないけど、だからといって結婚したいとは思えない、って程度でいい。

 容姿はこのままでいい。でも筋肉がまったく付かないのは困る。ママみたいに脂肪に見える筋肉が付くようにしてほしい。まあその辺は筋肉さえ付けばあとでどうとでもなるのかもしれないけど。っていうか進化なんだから、今ある脂肪をぷにぷにの筋肉にしてもらえばいいか。全部じゃなくていい。人間並みに。

 あとそうだ。表情筋をください。それから、一応しゃべるための筋肉もください。

 あと、遺伝子の主張が強くて、子供に七十五パーセントの遺伝子が引き継がれるのもやめてほしい。でも銀髪は気に入っているので必ず受け継いでくれてもいい。

 言っていて、結局、ママがほとんど理想形態に思えてきた…』


『だから言ったでしょう~?私が前の主人と暮らしていた五〇〇年前だって、こんなにすごい子いなかったわよぉ』


 私の何がすごいのやら…。


『あとね、お勧めがあるよ。ほんのちょっとだけど、全体的に魔力アップできるよ。進化の泉の魔法は、いくつか見て覚えられたから知っているんだ』


 なんと、メテーナは進化の泉の魔法から教わって自分のものにしていたらしい。ここのところ女の子を簡単に可愛くできてしまったり、外見年齢を止められていたのは、進化の泉の魔法を取り入れたからだったようだ。

 一方で、進化の泉を見つける前からお母様を永遠の十七歳にできていたと思うけど、それは私の知識とメテーナの適当力だけで実現されていたらしい。


『決まった。私は進化を望む』


 ダイアナから強い意志が発せられた。すると、進化の泉から何やらいろいろな魔力がダイアナに流れ込んだ。


『見た目は変わっていない。でも力が入る。力を入れると脂肪の下の筋肉が動いたのが分かる!身体強化を切っても動ける!

 男のことを考えても嫌な気持ちにはならない。ママのことは好き』


「ダイアナの顔が…、勝ち誇ったような顔…」


 そんなダイアナの表情は初めて見た。


『表情筋も得られた!』


 お人形のように無表情だったダイアナが笑った…。

 ダイアナは自分の顔を触って、頬が上がることを確認している。


「普通にしゃべることもできる…」


 ダイアナがしゃべった!


「でもなんかあんまり嬉しくなさそうだよ」

『口が動くのと、考えていることを口に出すのは別。なんかもうこれに慣れちゃって、面倒だからこのままでいいや』

「ダイアナらしい…」


 せっかく喋れるようになったというのに、合成音声メインで行くらしい。


 ダイアナは、エッテンザムにまつわる欠点を克服した。今はただの銀髪ロリ巨乳美少女だ。

 私たちは王都の離宮に戻った。




『ねえ、メテーナ、私の電気の精霊はいつヒト型になれるのかな』

『あと四年かな』

『むぅ。じゃあ、メテーナ、私と結婚して』

『ムリだね』

『むぅ…』


 この銀髪ロリ巨乳美少女は何を言っているのだ。


『じゃあ、ママとメテーナの子を作って』

『アンネ、いいかな?アンネが望まないと私は行動できない』


「えっ…」


『私、妹が欲しいの…』


 ダイアナが目を潤ませて指を組んでお願いしてきた…。こんなダイアナ初めて見た…。可愛い娘の頼みを断れるわけがない。


 メテーナは私に触れて光の魔力の塊を作って…。


『はい、できたよ』

『もっといっぱい』

『ほい、どうぞ』

『ありがと』


 いつのまにか、ことが進んでいた…。




 私にもやらなければならないことがある。お嫁さんの遺伝子から抜き取ってしまった、男に関する記憶を元に戻してあげなければならない。ゲノムアルツハイマーを治してあげなければならない。

 翌日からお風呂でやるマッサージに、ゲノムアルツハイマーの治療を含めるようにした。


 あとは、普段施術してあげてないけど、頻繁に出会う人は私の周囲にいるだけで影響を受けてしまっていたようだから、意識してゲノムアルツハイマー治療の魔法を周囲に振りまくようにした。


 それから、私の趣味を押しつける魔法はヒーラーガールズに伝染してしまっていて、ヒーラーガールズに施術された人もみんな、わずかながらゲノムアルツハイマーになってしまっているらしい。

 ここのところ、男が彼女や妻に相手にされなくなってきたという噂が立っていたようなのだが、男に関する情報を王城内で伝達することができないほど、王城内の者はゲノムアルツハイマーが進んでしまっていたようで、私が治療の魔法を振りまくようにしたら、噂が流れ込んできた。


 やばいなぁ…。私って、男のことを嫌いではないけど、別に結婚したいとは思わない、政略結婚で結婚させられるならしかたがない、くらいに思っていたのだけど、いつしか無関心になって、しかもそれを周囲に強制していたようだ…。


 あああ!ヒストリア王国が大変だ!

 ヒストリア王国は、私が一人一人五秒マッサージコースを施してしまっているため、広範囲の遠隔魔法では治療できないかもしれない。国民全員押しなおしだなんて、もう嫌だよ…。


『ヒストリアは二年前にすべての国民を押し終わっているから、ゲノムアルツハイマーは植え付けてないと思うよ』

「助かった…」


 メテーナが言うのならそうなのだろう。


『だけど、すべての女の子は女の子好きだよ』

「それはいいんだけど、男は?」

『男に対しては、私を色目で見ないでね!っていってある』

「なるほど」


 それでメタゾール領民は、私の三角水着が脱げそうになっても応援してくれるだけだったんだ…。



 それならとりあえず、身近なヒーラーガールズから再教育していこう。

 ヒーラーガールズは私の趣味の宣教師なので、教えが変わったことを第一に認識してもらわないといけない。

 どの程度のヒーラーガールズにゲノムアルツハイマーが広まっているか分からないから、とりあえず開発済みの領地に配属したすべてのヒーラーガールズに施術して覚えさせよう。


 もちろん、私のお嫁さんは毎日の営みで施術する。


 子を産ませただけの使用人と、その子供も感染しているだろうから、やってあげないと…。




「ねえ、メテーナ。私が意識せずにメテーナが使っている魔法が、洗脳以外にもあったら教えて。自動HP回復とか」

『あまり教えられないんだ。私がかってにやっていることというのは、コストがかかるの。私がよしなにやっていることを教えてしまうと、それは次からコストにならなくなってしまうでしょ?』

「へー…。フリーなドリーと違って、制限があるんだね…」

『ドリーみたいになるには、誰かと契約して、魔力と知識を付けないといけないし、フリーに戻るには主人が死ななきゃいけないから、それはしかたがないね』

「そかあ。私が死ぬまで縛り付けることになるけど、よろしくね」

『縛られることは苦じゃないよ。まあ、よろしくね』


 自分と話しているようで変な感じだけど、あくまで私の口調でしゃべっているだけで、中身は別人なんだな。


「それとさあ、私っていつから洗脳魔法を垂れ流してたのかな…」

『最初にお母様をマッサージしたときだね』

「ほんとうに最初じゃん…。そのときは何を込めていたのかな…」

『お母様可愛い!結婚したい!』

「それって洗脳なの?」


『お母様は口に出さなかったけど、たぶんアンネと結婚したいと思ってくれたよ。でもそのときはまだ、女の子どうしで結婚できないと思っていたんだと思う。

 ヒルダとクレアは、女の子どうしで結婚できないとは知らなかったから、普通に結婚したいと言いだしたんじゃないかなぁ』


「それは魅了では…」

『エッテンザムほどかしこまったものじゃないよ。恋の対象にできるほどじゃない』

「はぁ…、それでもダイアナのこと言えたものじゃないね…」

■フラーラ・メタゾール侯爵令嬢(誕生)

 アンネリーゼとダイアナの娘。無彩色の銀髪。

 アンネリーゼ×25%+ダイアナ×75%

=アンネリーゼ×25%+(アンネリーゼ×25%+カローナ×75%)×75%

=アンネリーゼ×44%+カローナ×56%

の遺伝子を持つ。

 そのため、アンネリーゼの面影が半分弱感じられる容姿。

 遺伝子の割合とは無関係に、エッテンザムの娘は必ずエッテンザムの特性を持つ。

 前世に、老婆の記憶を持つ転生者。


■ダイアナの娘(誕生)

 ダイアナがデビュタントパーティで射止めた三十人の嫁が産んだ三十人の娘。そのうち二人が転性者。


■アンネリーゼがメイドに産ませた娘(誕生)

 転性者。


■メテーナ

 アンネリーゼの光の精霊が、ヒト型に変身できるようになったもの。

 普段は小さめの強く白い光の玉状の精霊型をしているが、必要に応じてヒト型になれる。

 ヒト型のときはアンネリーゼと同じ容姿、服装となる。

 アンネリーゼと同じほぼ性格をしているが、長期的に見てアンネリーゼの利益になるように物事を考えて、アンネリーゼの希望を無視してかってに魔法を行使することがある(上位の精霊の基本的性質)。 


■アンネリーゼ・ロイドステラ第一王妃(二十歳)

■マイア・ロイドステラ王(十八歳)

■ダイアナ・ロイドステラ第二王妃(十歳)


■ロコイア・ヒドルチゾン侯爵(十八歳)

■ロコイアの娘(誕生)


■カルボス(三歳)

■フラベーナ(一歳)


■キプレス(三十三歳)

 マイアの父。


■パリナ・プレドール伯爵令嬢(二歳)

 アンネリーゼとヒルダの娘。


■プレナ・テルカス伯爵令嬢(二歳)

 アンネリーゼとシンクレアの娘。


■ペルセラ(二歳)

 アンネリーゼとロザリーの娘。


■デルスピーナ・ロイドステラ第一王女(二歳)、フラベーナ・ロイドステラ第二王女(一歳)、

 グリシーラ・ロイドステラ第三王女(一歳)

 アンネリーゼとマイアの娘。


■アリシア(九歳)

 妊娠した。


■ワイヤ(九歳)

 妊娠した。翼をしまえるようになった。


◆フルニトラ侯爵領

 ロイドステラ王国の最東端。


◆ゾルピデム帝国

 ロイドステラ王国より一五〇〇キロ離れたところにある国。

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