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40 絶滅危惧の救世主

「アンネお姉様、開発中の付近の領に留学させる貴族令息をリストアップしました」

「あ、はい」

「アンネお姉様ぁ。ぼーっとしすぎです!といいたいところですが、私もまったく身が入りません。この件、けっこう前から立案してるのですが、このままでは進みません…」


 マイア姫と私、ダイアナ、そして、ヒルダ、クレア、ロザリーは会議室に集まって、この国の課題について話しあっていた。

 ヒルダたちは、自領の改革が安定してきたため、マイア姫を支える宰相となりつつある。


「私も頭が回らないのです。アンネお姉様は男が目に映らず、話題を振っても呆けているだけ。皆さんどうにかなりませんかね。男手が必要ですかね」


「男手ねえ…。お父様は役に立たないわ」

「うちも、言われたことなら文句も言わずやってくれるけど…」


 ヒルダとクレアの父親は、何もしないことで領民と良い関係を築いてきた。自身で改革など進められないのである。

 つい最近も、あまり考えずに娘に爵位を譲ってしまったのである。

 もちろん、うちのゲシュタールお父様も書類整理くらいしかできないのである。


「私のお父様なら考えてくださるかもしれませんが、ラメルテオンの防衛を疎かにすると、国が崩壊しかねません…」


 ロザリーの父親、アゴニス・ラメルテオン侯爵は有能な人物である。領地の改革も、ロザリーとともにうまく進めてきた。

 しかし、ラメルテオン領は付近に魔物のはびこる森があり、常に防衛の目を光らせておかなければならない。


「では、ラメルテオンの魔物を駆逐して、ラメルテオン侯爵に貴族令息の教育を任せればよいでしょうか」

「簡単に言わないでください」

「私たちが考えるより早いでしょう」

「それはそうですが…。私のお父様ではなく、マイア様のお父上はいかがなのですか」

「私がお父様に頼りすぎると、王としての資質を問われるかもしれません…」


 ロイドステラ王国の中枢は、男の教育を考えるくらいなら、長年悩み続けてきた魔物を駆逐する方が楽だと考えるくらい、アンネリーゼの洗脳が進んでいた。



『この男を登用してはどうか』

「ダイアナ、寝ていなくて大丈夫?」

『ママが診てくれるので比較的安定している』


 ダイアナのウェストは私よりも細いので、まだおなかが出てくるような時期でもないのに、若干ぽっこりしているのが分かる。

 ダイアナは自分のスマホの内容を、会議室のディスプレイに映し出した。


「平民ではありませんか!」

「二歳って何の冗談よ」


 マイア姫とヒルダは憤慨している。


「メタゾール学園、アイドル養成コース、最優秀者…」

「可愛い子ですわね」


 クレアとロザリーは肯定的?


 って、この子…。私がスラムから拾ってきた転生者…。カルボスって名前を付けたんだ…。

 一年ちょっとでアイドル養成科のトップに上り詰めるなんて…。

 しかも、このプロフィール画像…、可愛く仕上げてあるなぁ…。アイドルだもんね。そりゃ可愛いか…。いやぁ一年で化けたなぁ…。


 あれ…。なんか今まで頭が回っていなかったのが、けっこう…、いやかなり回ってきている…。


「でも、よく考えたらゼロ歳のフラベーナだって、もうアイドル養成コースに入れる成績でした」

「そういえばアンネが伯爵になったのも二歳だったのよね」


 フラベーナは優秀すぎてビビる…。

 私も領地の教育に手を入れ始めたのは二歳だったか。


「優秀な子なら、平民でもいいんじゃないかな。私だって、たかが男爵家でマイア様とともに国の行く末を考える地位に上り詰めるとは夢にも思わなかったし」


 やっぱり男爵家は平民と貴族の橋渡しだね。 


「この子…、けっこう可愛いですね…」


 ロザリーはなんかツボに入ってしまったようだ。


 どうやらみんな、男は男でも、可愛い子のことなら考えることができるらしい。


 あっ…。可愛いは正義…。私の思想だった…。

 男でも可愛い幼児ならOK。少年でも男の()ならOK。

 ここまで私の好みをみんなにうつしてしまっていたか…。


 ダイアナだけは、私はシラン、提案してやったのだからお前らで勝手にしろという態度だ。ダイアナは男のことを考えられないのではなく、男のことが嫌いなので、考えたくないという様子である。

 いや、ダイアナはマタニティブルーでイライラしているのかもしれない。


 仮にダイアナが世界を征服したら、すべてに男を抹殺していたかもしれないし、私が世界を征服したら、気が付かないうちに男は絶滅していただろう。

 あれ、ダイアナとも、男を自然淘汰に導くってことで合意したような…。

 ああ、もし残すなら、私の好みの男だけ残していいよってことなのか。だから、脳みその働かない私にダイアナが助け船を出してくれたんだ。調子が悪いのにイライラする案件を考えてくれているなんて、なんだかごめん。


「試用してみますか?」


「いいわよ」

「賛成するよ」

「可愛いですしね」


「アンネお姉様は?」


「私も賛成です」


 だけど、成長していずれ可愛くなくなってしまうと考えると、途端に頭が働かなくなる。

 頭を働かせるためには、この子を永遠の五歳児に改造するか、男の()に改造しなければならない。

 でもこの子は女の子には見えないから、男の()になるのはムリだな。となると永遠の五歳児一択かな。いや、三歳児くらいのが可愛いなぁ。この世界の子は早熟だし。


 でもなぁ。先日改造したダイアナの嫁は、一瞬で可愛く改造できちゃったなぁ。もしかして男の()に改造するのも一瞬でできちゃうのかな。

 男性ホルモンを分泌する…性器を退化させつつ…、男性ホルモンから女性ホルモン変換する器官を発達させて…。とか昔だったら考えてやっていたけど、今は何にも考えずに男の()に改造したいと願えば、できてしまう気がする…。

 なんだか、光の精霊に頼りすぎて、バカになっている…。


「アンネお姉様、懸念がありますか?」

「あ、いえ。なんとかします」

「アンネお姉様には考えがあるのですね」

「はい。この子が使えるのなら、長く使いたいですしね」

「分かりました。面接はアンネお姉様にお任せします」



 面接…。永遠の三歳児になるか覚悟があるか、または男の()になるか覚悟があるか問うための面接…。


 永遠の三歳児と男の()というのは、まるでカストラートのようだ。カストラートとは声変わりしないように去勢された男性歌手のことである。

 前世の高速特急の名前を思い出せないのに、こういう言葉をなぜか覚えているな…。そういうのが好きだから、頭の中で一般的なことだと思っているのかもしれない…。


 うん、私、最低だな。やっぱり男であることを認めていない。

 まあ、前世の歴史でも存在したものだし、それを知っているAIもダメと言わないからいいんだよね?

 ダイアナみたいに絶滅させるよりマシだよね?マシかな…。男に生まれたのに男であることを否定されて女になれっていわれるくらいだったら、男を絶滅させたほうがいいのかな…。最初から自分が男だと思って生まれてくる子がいないほうがいいかな…。

 まあいいや。絶滅はいつでもできるだろうから、カストラートやっちゃうよ?






 転生者カルボスは、アンネリーゼに近づくために猛勉強していた。

 まず、あっという間に高校三年生のカリキュラムを終えた。


 魔力のトレーニングも、一般的に教えられる以上の特訓をしていた。


 普通は寝る前に魔力が枯渇する寸前まで魔力を使い切ると教えられる。

 しかし、魔力は寝ていると六時間で全快するため、実は魔力トレーニング以外に何もせずに六時間寝ていれば、一日で最大四回弱、魔力トレーニングできるのである。でも、それでは寝たきりになってしまうので、なかなか四回トレーニングすることはできない。そもそも二十四時間寝られない。


 一方で、寝なくても十二時間落ち着いていれば魔力は全快する。


 カルボスはこの二つをうまく利用した。幼児であるメリットを活かし、一日に十二時間睡眠を取っていたのである。しかも、寝る前に魔力を使い切り、六時間寝て全快したら、起きてまた魔力を使い切って六時間寝るということをした。

 さらに、起きてすぐ魔力を使い切る。すると、睡眠までの十二時間の間に魔力が全快するのである。


 もちろん、魔法のトレーニングをする日は、魔力が枯渇していては話にならないので、ちゃんと魔力を残しておく。それに運動している間も魔力の回復は遅くなるので、運動系の実技の日も魔力を残しておく。

 でも、それ以外の座学の日では、起きてすぐ枯渇させていたのである。


 魔力の枯渇寸前は気持ち悪くなってしまうので、普通の人は寝る前に枯渇させて、すぐに寝てしまう。日常ではやらない。

 でも、カルボスは若いので、何度か気持ち悪い思いをしているうちに慣れてしまった。

 この点はアンネリーゼとダイアナも同じである。胎児である間に枯渇させ続けていたため、気持ち悪いという感覚がなくなってしまった。

 これも転生者特典なのだ。


 つまり、カルボスは魔力のトレーニングを通常の二倍か三倍行っていたのである。



 おかげで、予定よりも早くアイドル養成コースに入れたのである。

 そして、身体強化などの魔法を駆使して、ダンスや歌唱を練習した。

 また、カイロプラクティックの知識を学び、自らの血行を良くすることで、一般的に美形と思われる身体に変化していった。


 そしてついに、アイドル養成コースの必須科目を修得した!


 でも…、オレは男なのに、女っぽく振る舞うように特訓された気がする…。

 だいたい、アイドル養成コースにはオレ以外に女の子しかいないし…。他の領地の学校には男がいるのだろうか…。


「カルボス、よくできたね!可愛いよ!」

「ホントホント、将来有望だね!」

「あ、ありがとう…」


「舌足らずがチャームポイントだったのに…」

「もったいないよね」

「滑舌のレッスンもあるからさ…」


 第二メタゾールに来たばかりの頃、ルルが風邪をひいたときに診断に来てくれたヒーラーガールの子とその同僚。すでにヒーラーの仕事に就いているけど、学校にも通っている。


 オレはカッコいいアイドルを想像していたのに、他の女の子には可愛いと言われるばかりである。オレは男なのに可愛いと言われるのはあまり嬉しくない。



 ところで、努力して魔力を上げたら、精霊が見えるようになった。

 ヒーラーガールの子たちの精霊は大きい。でもこのまま二倍か三倍の魔力トレーニングを続けていれば、オレの精霊もこれくらい簡単にいくんじゃなかろうか。


 学校に通っている子は、ヒーラーガールほどではないにしても、皆それなりの大きさの精霊が側に付いている。

 一方で、スラムから来たオレの仲間の精霊はピンポン球くらいで、とても頼りない。

 精霊の大きさと本人の持つ魔力は密接に関係していて、幼少期から魔力のトレーニングをしていないオレの仲間はとても不利であることを実感してしまった。



 はぁ…。オレは学校から家に帰って、ため息をついた。

 オレの想像していたアイドルとちょっと違う…。


『応募していた職種の書類審査に通りました』

「マジで?」


 スマホのエージェント・アンネリーゼが、就職活動アプリの通知を読み上げた。


『仕事内容は、領地改革を見据えた貴族令息の教育計画の立案です』

「へっ…。何それ…。オレがやるの?」

『はい。あなたしか条件に合う者がいません』

「条件って、幼児か少女のような容姿?」

『はい』


 仕事内容と要求条件まったく結びつかないけど…。アイドルと何の関係が…?


「アンネリーゼに会えるのか?」

『上官はアンネリーゼ・メタゾール公爵です。会議でアンネリーゼと顔を合わせる機会があります』

「それならやる!」

『まだ書類審査に通っただけですから、面接試験に受かってからですよ』

「よし、面接日時を聞いてくれ!」


 きっと、オレ以外の者が絶対に採用されないように、アンネリーゼが付けてくれた条件なんだろう。ありがとう、アンネリーゼ!


『分かりました。では、今から面接に慣れておきましょう。面接官もアンネリーゼです。

 あなたは私のことをゲームキャラくらいにしか思っていないかも知れませんが、仮にもあなたの慕うアンネリーゼの姿をしている私です。あなたは礼儀作法を覚えたのですから、まずは私に対する態度を改めてください』


「も、申し訳ございません、アンネリーゼ様…」

『よろしい。今後、気を抜かないように』

「はい!」


 エージェント・アンネリーゼは、眼鏡をかけたタイトスカートの女教師だけど、本物のアンネリーゼと服装しか違わないんだよな。

 いや、そうだっけ…。オレがアンネリーゼと直接話したのは、わずかな時間だった…。本物はもうちょっと抜けて…優しかったような…。


『甘く見ていると落とされますよ!』

「も、申し訳ございませんでした!」


 くそぅ、アプリのくせにオレのことを見透かしてやがる…。

 でも、本物のアンネリーゼも、オレのことを一瞬で転生者と見抜いたりして、鋭かったよな。エージェント・アンネリーゼの言う通り、気を抜かずにいかないとな。




 というわけで、面接日当日。


 第二メタゾール領から、地下鉄を使って王都に向かった。


 前世でも高校に電車で通っていたのを覚えている。


「券売機…」

『あれはスマホを持っていない者のためのもので、あなたには必要ありません』


 スマホタッチで行けるんだな。でも、改札口にスマホをタッチするところがないと戸惑っていたら、


『生体認証みたいなものですので、通るだけで課金されます。列車が来てしまいますので急ぎましょう。逃したらアウトです』

「は、はい」


 前世よりも高度な改札口だった…。


 エージェント・アンネリーゼに急かされたわりには、電車の出発まで十分もあった。

 他の客は数人しか待っていない。


『失敗したら一巻の終りの終わりですし、初めて来る場所なのですから、余裕を持って行きましょう。ギリギリで電車に飛び乗ったら、落ち着いて面接に臨めなくなりますよ。試験前にトラブルなど無用です。前世の高校受験でそのような経験はありませんか?』

「わーかったから、もう…」

『言葉遣い!』

「も、申し訳ございません…」


 電車は一日に二本しか出ていないらしい。次の電車は夜だ。逃したらマジでアウトだ。

 エージェント・アンネリーゼは口うるさい。でも、オレを良い方向に導いてくれているのは分かる。



 エレベーターで地下に降りると、電車はすでにホームで待っていた。普通の電車ではなくて、先端が尖っている高速特急タイプだ。ドアも、各車両の前後に一つずつしかない。

 しかも、半分は貨物列車が連結されている。第二メタゾール領は農業や牧畜だけをやっている領地なので、それらを扱っている商人以外に用はないのだ。


 中に入ると、中央に通路があって、四列×二十行の座席が並んでいた。これも特急タイプだ。両サイドに長椅子のある通勤列車タイプではない。


 第二メタゾール内で数駅留まっていたが、停車時間は長かった。商人が貨物列車で荷物を出し入れしたりしていたらしい。

 そのあとは数十分間駅がなかった。領地間の街道で何もない区間らしい。

 車内のディスプレイに、駅の所要時間が表示されている。前世でもこんな感じで表示されていたと思う。


 そして、王都に入ったら、また数駅あって、終点の王城前に到着だ。

 王都前からは、他の領地への電車や、地方に向かう高速特急があるらしい。


 前世の首都の駅と同じ感じで馴染みやすい。この地下鉄や特急の仕組みを、アンネリーゼが作ったのだろうか。アンネリーゼ以外の転生者がいるのだろうか。いや、アンネリーゼは転性者と言い張っているだけの、オレの前世の世界を知っている女神だった。



 電車を降りて改札を通ると、スマホ画面に支払った金額0と残高が表示された。


『本日は採用面接ですので、主催者側が旅費を支払います』

「へー…」


 オレはバイトくらいしたことあったと思うけど、そういうのは知らないな…。


 エレベーターで地上に上がると、王城の門の目の前だ。

 王城の受付でスマホを見せる。


「採用面接…ですか…。スマホの案内どおりに進んでください」

「はい」


 受付のお姉さんは、オレを不思議そうに見下ろした。

 二歳児が採用面接を受けたっていいだろ。二歳児の貴族当主もいたんだろ。

 これは年齢差別だ。雇用機会均等法に反すると文句を言ってもいいところだよな?まあ、面接前にそんなトラブルは起こさないが。



 王城の廊下を歩いて行く。角を曲がろうとしたところで、


「いたっ…」

「ご、ごめん」


 小さな女の子とぶつかった。

 二歳児のオレが突き飛ばされるのではなく、二歳児のオレが突き飛ばしてしまったのは、オレから見ても小さな…赤ちゃん…。

 まだベリーショートヘアで、だけど黄金のように輝く髪…。

 赤ちゃんなのに凜としていて、とても清楚だ…。


 そして、側に付いている精霊…。薄緑色の…、光の精霊と土の精霊が混ざったような不思議な色…。あまり大きくないが、とてつもない光を放っている。とても神々しい。なんだこれ…。

 他の精霊もかなり大きい。この子がとんでもない魔力の持ち主であるということが分かる。


「大丈夫か?」

『礼儀!』


 女の子に声をかけたら、エージェント・アンネリーゼに怒られた。

 女の子はとても高そうなドレスを着ている。ドレスといっても、とても短い、シャンプーハットのようなスカートだ…。そのスカートからは、赤ちゃんには似つかわしくない綺麗な脚が伸びている…。その根元には、白いパンツが見えてしまっている。


 女の子の側には、メイド一人と女騎士一人が付いている。

 メイドも騎士もミニスカレザーアーマーなので、オレの目線からはパンツ丸見え…。

 あれ…、パンツ丸見えという響きには感動するのに、それを見てどうすべきなのか、いまいち覚えていない。


「フラベーナ姫様、お怪我はございませんか」

「ええ。ありましぇん」


 騎士が女の子の手を引いて、起き上がるのを手伝った。

 女の子は立ち上がった。でも、立ち上がることができるような歳には見えない…。


「あの…、お怪我はございませんか…」


 オレはなんと言葉をかけていいのか分からず、騎士と同じ言葉をかけるしかなかった。


 とても高そうなドレスだし、偉い王族か貴族なのでは…。

 って、騎士に姫様って呼ばれていたよな…。うわぁ…。やっちまった…。


「わたくちも不注意だったのでしゅ。そちらこしょ、お怪我はありましぇんか」


 女の子は、ちょっと前のオレと同じように舌足らずだ。


「私は問題ありません。ほんとうに申し訳ございませんでした…」

「お気になしゃらず。しょれではごきげんよう」

「は、はい…」


 女の子は上品な歩きで去っていった。

 メイドと騎士は、オレにあからさまな敵意を向けることはなかったが、軽く睨んでいた…。

 うう、オレ、ここに就職するんだよね…。早くも目を付けられちゃったかな…。



『さあ、面接会場まではあと少しです。まだ十五分ありますが、深呼吸して落ち着きましょう』

「はい…」


 そうだ、オレはこれから面接なんだ。面接前にとんだ災難だった…。


 それにしても…、オレよりも小さな、しゃべる赤ちゃん…。


『彼女はフラベーナ第二王女です。言っておきますが、転生者ではありません。前世のノリで失礼な言動をしないように』

「は、はい…」


 転生者じゃなくてもしゃべる赤ちゃんはいるのか…。さすがファンタジー世界…。


『ここが面接会場です。あなたはアンネリーゼに仕えるのでしょう。先ほどのことは忘れて、落ち着いてください』

「はい…」

『シャキッとする!』

「はい!」


 エージェント・アンネリーゼ…、マジでスパルタ…。

 スマホに映っているアンネリーゼ…、鞭を持ってるじゃん…。

 なんて、くだらないことに付き合わされて、少し気持ちが落ち着いた。落ち着かせてくれたのだろう。

 でも、それはすぐにやってきた。


「ごきげんよう。あなたがカルボスですね」

「あ、アンネリーゼ…様…。ふ、再びお会いすることができ、光栄です…」


 うわあ…、まだ五分前だっていうのに、後ろから声をかけられたと思ったら、本物のアンネリーゼだった…。

 スラムで会ったときの地味な色のワンピースではなく、ひらひらの貴族の服…。

 なのに、大きくはだけた胸。オレの目線からはパンツが丸見えの短いスカート…。

 これを見て、何か湧き上がるものがあったことを覚えているのだけど、それが何だったのか思い出せない…。いつもそうだ…。


 そして、アンネリーゼの光の精霊!廊下を埋め尽くすような大きさ。

 一応、精霊の光は物理的な光ではないので、周りが見えなくなってしまうということはないが、ちょっと見えにくい…。アンネリーゼが神々しすぎて直視できない…。これがアンネリーゼの魔力…。奇形児の腕を生やすなど造作もないわけだ…。


 アンネリーゼは一人のメイドを伴っている。メイドも短いスカート…、はだけた胸…。

 湧き上がるものが何だか思い出す前に、見慣れてしまいそうだ。

 この子の精霊も、全体的にかなり大きいものばかり。一緒に学んでいるヒーラーガールが同じくらいの歳になれば、これくらいの精霊になりそうだ。


「ほんとうに礼儀作法まで学んでいるのですね。驚きました。まだ五分ありますが、始めますか?この世界では五分前行動する人などいませんから、まさか先に来ているとは思いもしませんでした」

「お、お願いします」

「それでは入ってください」

「はい」


 五分前行動…。前世の母国の人種の()()だ。

 アンネリーゼは女神だというのに、俺と前世と同じ世界から転生してきたという設定にこだわっている。いきなり登場されて緊張が戻ってきてしまっていたが、おかげでまた少し落ち着いた。


 ここは会議室だろうか。壁に大きなディスプレイが設置してある。

 長机に、椅子が奥側に三つ、ドア側に三つ。


 アンネリーゼは奥の席に座った。


「どうぞおかけになって」

「失礼します」


 手前の席への着席を促された。着席を促されるまで座ってはならないことくらい覚えている。


「お手伝いしましょう」

「ありがとうございます」


 メイドがオレを抱えて、椅子に乗せてくれた。

 椅子はオレの頭の高さほどあるので、よじ登らないと座れない。でも、よじ登るのは問題行為なので、メイドか執事が抱えてくれるのを待つとよいと、エージェント・アンネリーゼから指導を受けていた。


「まず、仕事内容ですが、あなたの能力ならできると考えています」

「恐れ入ります」


「貴族の令息に勉強を教えるのが仕事ではなく、学習の計画を立てるのが仕事です。それほど難しくはないのですが、我々には有能な男性の人材がおらず、我々女性では、男性向けに何を学習させればよいのか、経験がないため分からないのです。そこで、優秀な成績を収めた男性であるあなたが目に留まったというわけです」

「私の能力を認めていただき、ありがとうございます」


 別に、男にも女と同じことを勉強させればいいと思うんだけど…。学校にだって男はいたし…。それこそ男女差別ではなかろうか…。

 それに、アイドル養成コースでだって、女と同じことをやらされて、女の子っぽいしぐさを練習させられた気がするんだけど…。


「まず、女性の教育計画に目を通していただき、それを男性向けにカスタマイズしていただきます。できたら私に提出していただきます。必要があれば会議を設けて私が相談に乗ります。それで問題ありませんか?」

「はい」


 仕事でアンネリーゼに会えるんだ。内容はともかく、それだけでもやる価値がある。


「では、やる気はあるようなので、条件について確認します。あなたは条件について目を通してきていますね」

「はい」


「書いていなかったことなので先に言ってしまいますが、条件を満たさなくなった時点で解雇します」

「えっ…」


 マジか…。幼児でなくなった時点で終わりって…。この仕事、幼児関係ないだろうに…。

 オレ以外がこの仕事に応募できないようにしてくれたんじゃなかったのか…。


「あなたには二つ選択肢があります。一つは、条件を満たさなくなった時点で解雇されることです。もう一つは、条件を維持できるように魔法をかけることです」

「はっ?」


 条件を維持する…、つまり幼児であることを維持する…。


「質問してもよろしいでしょうか」

「はい」


「条件を維持する魔法とは…、成長を止めるということでしょうか…」

「その通りです」


「この仕事は幼児であることが必要なのでしょうか…」

「正確には、幼児のような容姿であるか、少女のような容姿であることです。そのどちらかが必要です」


「それはなぜですか…」

「私たちに関することなので、詳しくは言えません」


 なんとなく分かった…。アンネリーゼは女の王と結婚するくらいだから女の子が好きなんだ…。そして、男が嫌いだけど、幼児か少女に見える男ならなんとか許せるといったところだろうか…。

 なんてこった…。オレの慕う女神は、とんでもない試練をお与えになった…。

 オレに、幼児のままでいるか、少女のようになれと…。


 もう、アンネリーゼのことは諦めようか…。他の女の子と結婚することを目指したほうがいいだろうか…。


「教えてください…。私はこの世界のことをまだよく知りません。少女のような男は結婚できるのでしょうか…」


 もう、不採用になってしまってもいいや…。仕事に関係ないことを質問してしまった…。

 いや、仕事に関係ない条件を突きつけてきたのはそっちだよな?


「はい。今後、少女のように見える男性は、そうではない男性よりも結婚できる可能性が高くなる予定です」

「予定…」


「この国、ロイドステラ王国では、まだ女性どうしの結婚が始まったばかりなのでデータ不足ですが、南の海を隔てたヒストリア王国では女性どうしの結婚が認められて四年経ちます。そして、ヒストリア王国では、男性と女性の結婚の数が徐々に減り、女性どうしの結婚の数が増えた結果、異性婚と同性婚が同じくらいになってしまいました。つまり、男性の結婚が難しくなっているのです。ロイドステラ王国でも同じ道をたどると考えられています」


 ディスプレイにグラフが表示されて、異性婚の減少と同性婚の増加が見て取れるようになっている。


「そして、ここからはまだデータがないので予想でしかありませんが、少女のように見える男性と幼児のように見える男性が、女性と結婚できる可能性が比較的高くなると予想されています」


 そうなんだ…。もうやけくそだ!


「あの…、もし私が幼児の容姿を維持するか、少女のように成長したら、アンネリーゼ様は私を側に置いてくださいますか」

「それはもちろん、可愛ければ側に置きます。さすがに、女性と同じようには扱えないと思いますが…」

「えっ」


 可愛ければ…?


「あっ、優秀であれば、ってことです。優秀な人材は側に置きますよ」


 言い直したけど、可愛いから優秀は無理がある。


「ごほんっ。細かいことはいいではないですか。さあ、どうしますか。条件を呑んでくれれば厚遇できると思います」


 アンネリーゼがあからさまに焦っている…。

 エージェント・アンネリーゼは可愛げのないただのAIだけど、やっぱり本物のアンネリーゼはちょっと抜け…ぽやぽやしていて可愛いな…。

 まあそれはさておき…。


 つまり、可愛い幼児か、可愛い少女のような容姿なら、男でも側に置いてくれると…。

 貴族教育計画の仕事が終わったあとも、執事にしてくれるかもしれない…。いくらオレが可愛くなっても、さすがに着替えとかお風呂とかのお世話はないだろうけど…。

 あ…、着替えとかお風呂は覗くのが義務だと思っているのだけど、なぜ覗かなければならないのかは、やはり忘れてしまっている。


 学校でヒーラーガールに可愛いと言われるのはあまり嬉しくなかったけど、アンネリーゼが可愛い男なら側に置いてくれるとなれば、可愛くなるのもいとわない。よし、決心が付いた。

 だけど、可愛いと一言で形容されても、具体的にどのようなものなのか。アンネリーゼの望む幼児のような容姿、少女のような容姿とはどのようなものなのか。自分がそれになるのだから、あまり変なものだと困る。


「少女のような少年とは、どのような容姿ですか。いわゆる男の()というやつですか?」

「そう!それですっ!男装している女子に見えるとか、女装させたら女子にしか見えない男子とかです!中性的な王子みたいなのではダメで、女性が男性役をやっているあの劇団…、アレならOKです。あー、固有名詞を思い出せないぃ………あっ…」


 アンネリーゼが壊れた…。顔を真っ赤にして、口に手を当てて、「しまった!」というような顔をしている。

 やはり、アンネリーゼは生粋の貴族ではなくて、前世の一般人ががんばって貴族のように振る舞っているという感じだ。今のオレと同じだ。女神の世界では、貴族みたいに振る舞っていたのではなくて、一般庶民として生きてきたのかもしれない。


 エージェント・アンネリーゼには、前世のノリで失礼な言動をしないように釘を刺されているけど、アンネリーゼのほうが前世、というか女神の世界のノリのままじゃないか…。


「あの…、アンネリーゼ様は今仰ったような容姿に私を変えられるのですか…」

「男の()に改造したことはないのですが、女の子だったら一瞬で可愛くできますし、童顔なまま成長を止めることもできます」


「アンネリーゼ様は、やはり私を転生させてくれた女神ではないのですか?」

「違います。私も転生したのです。今のあなたなら見えていると思いますが、知識を付けてこれくらい精霊を大きくすれば、容姿を変える魔法は誰にでも使えるはずです。こんなこともできますよ」

「えっ…」


 アンネリーゼの背中から、天使のような翼が現れた。いくら女神であることを否定しようが、そんなものを持っているアンネリーゼは女神にしか見えない。なぜこのタイミングでそれを出すのだ。アンネリーゼは女神であることを否定したいのではないのか。


「では、これでどうです」

「あっ…」


 アンネリーゼの頭に獣の耳…、馬の耳?

 そしてアンネリーゼは少し身体を横に向けて、背中側を見せてくれた。腰の少し下の…お尻の割れ目のてっぺん辺りから、尻尾…馬の尻尾が生えている…。


「ペガサス…」

「そう、それです。でも、私の髪はライトブラウンだし、耳と尻尾がライトブラウンで、翼が白ってのもなんか変ですよね」

「はぁ」


 アンネリーゼは、背中を確認したりしている。その姿は服装が自分に似合っているか確認する、普通の女の子だ。しかし、確認しているのは普通の服ではなくて、コスプレ衣装である。

 アンネリーゼ…、オタクだったのかな…。

 

 まあそれは置いておいて…、


「あの…、私はこの仕事を引き受けるつもりですので、あとはアンネリーゼ様の要求条件を満たす範囲で、自分で容姿を決めることはできませんか」

「いいでしょう」


『それではこちらをご覧ください』


 アンネリーゼの胸元からアンネリーゼの声が聞こえた。

 それと同時に、ディスプレイにゲームのキャラメイキング画面のようなものが表示された。


 アンネリーゼは胸の谷間に指を突っ込んで、中からスマホを取りだして机に置いた。様式美というやつだろう。

 アンネリーゼは、スマホとディスプレイを見て、「何これ…」というような顔をしている。アンネリーゼにも認識のないシステム?


『これで、あなたの成人したときの容姿を作りましょう』

「はい」


 オレは右腕のない赤子に転生し、スラムで生活するという、紆余曲折を経たけど、こうして新たな容姿を選べることになった。オレの転生者ライフはこれからだ!



 デフォルトで、十歳くらいの少女…のような子が表示されている。

 CGはとても精巧で、CGであると疑ってかからないかぎり、実写映像にしか見えない。


 顔は、今のオレの面影があるが、ちょっと女の子っぽい…。それに二歳児ほどではないにしても童顔すぎるだろう。


 まず、いくら少女のようなといっても、女の子の髪型はやめてほしい。デフォの髪型はボブだろうか。服装は男のものだが、これでは女の子にしか見えない…。

 そう思った途端に、髪型の一覧が表示された。考えるだけで操作できるのか…。

 しかし…、女の子の髪型しか表示されない…。


 あ、その前に髪の毛を短くできないかな…。

 そう考えると、髪型の一覧が消えて、スライダーが現れた。左側に「ショートヘア」、右側に「ロングヘア」と表示されており、スライダーのつまみはいちばん左側にある。これって、これ以上短くできないってことか…。全然ショートヘアじゃないじゃん…。

 まあ、髪なんてあとで切れるから、どうでもいいや…。


 気を取り直して、髪型を選ぼうと考えると、また髪型の一覧が表示された。

 ボブ、ストレート、ウェーブ…、いろいろあるけど、女の子の髪型しかない…。ポニーテール、ツインテール、縦ロールって…。オレをどうしたいというのか…。ウェーブってのは、くせっ毛という意味なのか…。

 髪を結ぶとかパーマとか、べつに後でもできるだろう…。ゲームのキャラメイクなのか現実の人間を作るのか分からなくなってきた…。

 もうボブでいいや…。



 次に気になるのは身長。一三五センチくらいだろうか。成人でこれって、低すぎだろう…。少女のような容姿だからか…。

 スライダーが表示された。左側に「160cm」、右側に「80cm」と表示されている。一六〇センチにできるのなら、そうしたい。

 すると、スライダーのつまみが左側に移動していき、身長がぐんぐん伸びていき、一六〇センチくらいになった。

 でも、同時に顔つきが女っぽく…、しかも童顔になってしまった…。


 ええぇ…、もうちょっと男っぽい顔がいい…。するとまたスライダーが現れて、左側に「男顔」、右側に「女顔」と表示された。現在値はかなり右側だ。

 男っぽくしたいと考えると、スライダーのつまみが左側に移動し、顔が男っぽくなっていった。

 しかし、身長のスライダーも右に移動していき、キャラの身長も一五〇センチまで下がってしまった…。

 男っぽくて長身はダメってことか…。厳しいな…。


 それに、男っぽくなったといっても、まだ童顔なんだよな。子供ぽすぎるだろう。これもなんとかしたい。

 すると、スライダーが現れて、左に「大人顔」、右に「童顔」と表示された。現在はかなり右寄りだ。

 大人っぽくしたいと考えると、スライダーのつまみが左に移動していき、顔が成長していった。

 しかし、それと同時に、また身長が下がって、一二〇センチまで下がってしまった…。


 ちょっと待って…、成人で一二〇センチは勘弁…。せめて一四〇センチ…。

 すると、身長は一四〇センチまで伸びたが、童顔と女顔のスライダーが右に移動してしまった…。連動しすぎていて難しい…。

 身長は最低でも一四〇ほしい。あとは童顔か女顔のどちらか…、つまり幼児か少女のどちらかしか選べないのか…。

 女顔のほうがマシかな…。すると、女顔のスライダーが右に移動して、かわりに童顔のスライダーが大人顔寄りに移動した。たしかに、キャラの顔は少しだけ大人っぽい少女になった…。


 アンネリーゼの要求は厳しい。っていうかアンネリーゼの趣味はどうなっているのだ…。


「やめますか?」

「いえ、やります」


 オレが疲れた顔をしていたからだろうか。アンネリーゼに声をかけられた。



 顔と身長はこれでいいとして、次は体型かな。ちょっと華奢すぎるだろう。

 すると、左側に「華奢」、右側に「女体型」のスライダーが現れた。スライダーのつまみはいちばん左側だ。

 ちょっと、軸がおかしいだろう!胸とかくびれができたら困るので、いちばん左側のままにしておいた…。


 その後もいろいろな項目が増えて、細かいところを弄ってみたけど、結局あまりオレの満足のいくようにはできなかった…。


 スライダーはすべて、右側がアンネリーゼの好みなのだろう…。つまり、アンネリーゼは可愛い幼女が好きなんだ…。

 ああ、可愛ければ側に置いてもらえるんだっけ…。うっかり口走ってたよな。あれ…、可愛くなければどうなるんだ…。あれれ…、できるだけスライダーを右側にしておいた方が、アンネリーゼに気に入られるのでは…。


 俺の好み、というか尊厳を優先するのであれば、スライダーを全部左側にしたいところだが、そもそもそうなるようにはできていない。でも、トレードオフを調整して、できるだけ左側にしておくというのは、アンネリーゼの許容範囲の中で、好みから最も離れた容姿ということだ…。

 なんてこった…。マジで要求が厳しい…。


 全項目のスライダーをいちばん右にすると…、身長が低くて可愛い幼女…。あれ…、女体型は?胸とかくびれができる?

 女体型のスライダーは、怖くて動かせていない。どの程度まで女の体型になるのか…。

 でも胸が大きくて、くびれのある……幼女?つまり…、ロリ巨乳幼女!


 いったい、アンネリーゼの趣味はどうなっているのか!

 オレは男キャラを作っているのではなかったのか!ロリ巨乳幼女の男って何なんだ!


 いやいや、女体型を右側にすると、身長がかってに上がっていくとか、制限があると信じたい。いくら何でも八〇センチのロリ巨乳幼女は…。

 いやいや、男のキャラメイクなんだから、女体型にしても胸は大きくならないと信じたい。くびれではなくて、ふっくらとした感じになる程度と信じたい。


 良い思い出のない今のオレの顔に愛着などないけど、仮にも今のオレの面影のあるキャラで、女体型のスライダーを右に動かす実験をアンネリーゼの前でする勇気はない。


「あ、あああ、あの…、このキャラメイキングアプリ、あなたのスマホにインストールしてもらいますので、どうぞ家に帰ってキャラメイクしてください…。それを見てから、仕事を請け負うか決めてもいいので…」


 アンネリーゼはいつの間にか真っ赤な顔をして、とても恥ずかしそうに、ぷるぷる震えている。

 渡りに船だ…。このままでは決められない…。俺の希望を通そうとすれば、アンネリーゼに気に入ってもらえないかもしれないのだから…。


「分かりました…」

「一ヶ月待ちます。自分の将来の容姿ですし、じっくり考えてください。その結果、仕事を請け負わない結論になっても構いません」

「ご配慮、ありがとうございます」


 そんなに待ってくれるの?まあ、ゲームキャラじゃなくて自分の容姿だからそうそう決められないしね。


 面接を終えたオレは、王城を後にし、いつの間にか第二メタゾールの家に帰り着いていた。

 電車で帰ったはずだが、放心状態だったのか、いまいち覚えていない。




 なんてこった。究極の選択だ。オレはアンネリーゼの元で働きたい。アンネリーゼもオレに期待しているように見える。

 それなのに、アンネリーゼの元にいるための条件が、まさかこんなだったなんて…。


 オレはスマホ画面を見つめると、さっき途中まで作ったキャラが表示された…。

 身長一四〇センチで、中性的…よりはちょっと、いやかなり、少女っぽく…、ちょっと童顔な…少………年。


「何見てるの?」

「うわ、何でもない!」

「うふっ、変なカルボス」


 ルルに声をかけられた。こんなもの見せられるわけがない。


 あれ…、アンネリーゼなんて高望みしないで、ここでルルとのんびり生活していければいいのかな…。


「ねえ、アイドル養成コースって、綺麗な人いっぱいいるよねー。私の風邪を治してくれた人もいるんだよね。いいなぁ。私もああいう人と結婚したいなぁ」

「えっ…」


 ルルは女の子と結婚したいのか…。アンネリーゼが言っていた…、男性の結婚が難しくなるって…。



 オレの道は決まった。

 ルルが去ったあと、オレはスマホでキャラメイクを再開した。

 王城の会議室と違って、思っただけでは操作できず、スライダーをスワイプするか、エージェント・アンネリーゼに頼む必要がある。


 最後の状態は、可能な限りスライダーを左にしたものである。これは、アンネリーゼが側に置く男として、我慢できる限度といったところだろうか…。

 アンネリーゼ厚遇すると言っていたが、この最低ラインのキャラでは果たしてどのような扱いになるか…。


 とりあえず、全部スライダーを右にしたらどうなるのか…。


「その前に、現状を保存できないかな…」

『できますよ。今の状態にタグを付けられますし、時間を追って状態を戻すこともできます』

「無駄に高性能…」


 よく分からないけど、バージョン管理システムというのが使われているらしい…。変更した内容の履歴を全部追えるのだと。


 よし、スライダーを全部右にしたらどうなるのか!ゲームのキャラメイクだったら一度はやるだろう!

 えいっ、えいっ、えいっ…。


 これはただの、身長八十センチの可愛い幼女だ。

 幸いなことに、女体型にしても胸やくびれができることはなく、全体的に、とくに腿とお尻に脂肪が付いた感じだ…。たしかに、八十センチの男の子より女の子っぽい体型だ…。


「ところでオレって今身長何センチ…」

『八十五センチです』

「これじゃ今より低いじゃん…」

『すべての項目を右にする必要はないと思います』


「なあ、仮にもアンネリーゼの姿のエージェントは、アンネリーゼの好みを知っているのか?」

『このような試みは始めてなのです。男性の好みに関する学習データがないのです。女性の容姿の好みについて知見はありますが、男性にそれを完全に適用していいものか分からないのです』


「っていうか、お前は本物のアンネリーゼとは違うんだな」

『はい、アンネリーゼの記憶を持っているわけではありません』

「どうしよ…」


『私としては、可愛いが正義なので、幼児のまま成長しない男の子とか、成長しても女の子のように見える男もアリなのだけど』

「えっ…」


『アンネリーゼの発言です。可愛いが正義、以外は応募条件とほぼ同じですね。可愛いなら厚遇するとも口走っていましたし、ほんとうに、これ以上の情報がありません』


 っていうか、アンネリーゼはそういう口調のときもあるんだ…。前世と言語は違うけど、庶民の口調だな。オレの前でだけ清ましているんだ。


「なぁ、好みじゃなくてもいいんだ。他の情報…、なんで女好きのアンネリーゼは、男のスタッフを募集する気になったんだ」

『アンネリーゼは、あなたに男性側の首相のような役割を担ってほしいと考えています』

「えっ…」


 容姿は可愛い幼児か少女のような少年で、役割が男性の首相?


『女性同士の子供を作る魔法では、生まれる子供の性別を選べるのです。ですが、男の子を選ぶ者がまったくいません。そのため、男性の減少が懸念されています』

「えっ…、そんな情報、まだ採用されていないオレに話していいのか?」


『不妊治療を受ける女性なら、誰でも知ることのできる情報です』

「そうなんだ…」


『アンネリーゼもこの問題を憂いているのですが、憂いているだけで行動を起こす気がありません。そして、アンネリーゼの周りの施政者も同じようなものなのです』

「男の教育に詳しくないというのは、考える気がないということなのか…」


『そうです。だから、男性であるあなたに男性の未来を考えてほしいと考えているのです』

「ほんとうに首相をやれっていうのか…」


 えっと、なんでこんな話になったんだっけ…。アンネリーゼの好みに関する情報が欲しくて、オレを採用する動機を聞いてみたんだった…。好みとは関係なかった…。


「オレは男性の未来を守るために首相になろうと思う。でも、そのためにはアンネリーゼと話し合う必要があり、話し合うためには、アンネリーゼとその周囲の印象を少しでも良くしておくべきで、そして、そこに幼児か少女の外見が必要ということか…」

『はい』


「なあ、アンネリーゼは外見を自由に変えられるなら、性転換もできるんじゃないか?少女のような少年にされるくらいだったら、いっそのこともう本物の少女にされたほうがいい気がしてきた。女になってもアンネリーゼを好きになって結婚できる可能性はあるんだろう」

『アンネリーゼの側にいる女性は、男性のことを考えられなくなります。それでは要求される仕事をできないのです』

「オレは可愛い男でいるしかないのか…」


 オレが普通の男でいるためには、アンネリーゼのことを諦めなければならない。

 アンネリーゼのことを諦めて、ルルと結婚してのんびり暮らそうと思ったのに、ルルはヒーラーガールと結婚したいと言った。男と結婚したい女は減っていくんだ。

 オレが男の首相とならなくても、男の居場所はいずれなくなってしまうんだ。


 この世界は可愛い女の子がありふれているファンタジー世界だと思ったのに、女の子に振り向いてもらうためには、可愛い男にならなければならないなんて…。

 スラムとは違うけど、これはまた過酷な世界だな…。




「ねえカルボス、さっきから何ブツブツ…、あっ!その子、可愛いね!」

「あっ、これは別に…」

「この子、カルボスに似てる。もしかして、カルボスはこんな感じになりたいの?」

「いや、そ…」

「ちょっと貸して。髪型も選べるじゃん。服も可愛いの、これがいい!」

「えっ、なんで触れるの…」


 ルルは、オレのスマホを奪い取り、オレのキャラの髪や服を変えたり、スライダーを弄ったり…。

 他人のスマホは触れないんじゃなかったのか?


「これ、どう?カルボスがこれくらい可愛かったら結婚しちゃうかも」

「えっ、マジで?」


 身長は一二〇センチくらいだけど、女顔、童顔、女体型は最大のまま。髪がウェーブに変わっていて、腰の辺りまで伸びている。

 うん、とても可愛い女の子だ。


「まあでも、ヒーラーガールにはかなわないよねー」

「がく…」


 ルルは飽きて去っていった。



「なあ、スマホを他人に触らせていいのか?」

『女の子の意見を聞いてみたいじゃないですか』

「それで触らせたのか…」


 可愛い少女のような少年を目指しても、本物の可愛い少女にかなう気がしない。

 ならば、可愛い幼児で行くしかないか…。


 童顔は最大のまま。

 女顔は控えめ…、中間くらいに。

 女体型も同じく中間くらいに。


 身長は…、一〇〇センチは欲しいな…。四歳くらいかな…。


 あとは、細かいパーツのチューニングもできるけど、目の大きさとか、垂れ目とかつり目とか、調整が難しい…。下手に弄ると人間ではなくなってしまう…。これはゲームキャラではなく自分なのだから、ネタに走ってはならない…。


 髪型と髪の長さ…、長さはあとでどうにでもなるとして、ウェーブってそういうくせっ毛なのかな。ああ、短く切れば、ぎりぎり男の子に見えるくらいで可愛くできるかも…。






 スラムで拾った転生者のカルボスと面接を行うこととなった。

 別に、信用していないワケではないのだけど、採用にこぎ着けたいので、心を読む魔法全開で行くことにした。


 まずは、必須条件である、可愛い幼児か男の()に改造することを伝えて、反応を見た。最も重要なことなので。

 すると、私が女の子のことを好きであることをすぐに見抜いた。そして、可愛い幼児か男の()にならなければ、私の元にはいられないということも理解してくれた。

 いや、私がうっかり可愛い子ならOKと口走ってしまっただけだ…。


 私のことを抜けているだとかぽやぽやしているだとか失礼なやつだ。返す言葉もないが…。



 カルボスは幼児なので、前世に性欲を置いてきてしまったようだ。このまま性欲を抑制するように改造してしまえば、可愛さを維持したまま私の側に置いておけるだろうか。

 いやいや、それじゃほんとうにカストラートだ…。それに、男としての役目を果たさなくなってしまう…。

 将来性欲が芽生えてくれてもよいので、それでもなおかつ可愛さを維持するように改造しなければならない。



 カルボスから男の()という言葉が出た。嬉しくなって取り乱してしまった…。

 私への敬意がどんどん薄れてゆく…。


 カルボスは男の()になることを決意してくれた。私が許せる範囲で、自由に容姿を決めたいという。

 賢明な判断だが、さてどうやって決めてもらうか。


 と思ったら、会議室のディスプレイにキャラメイキングシステムが表示された…。何これ…。

 胸に挟んであったスマホから、これでキャラメイクするように促された。


 不遇の転生者生活を送っていたカルボスは、自分をキャラメイクできることに感動してくれたようである。


 でも、いざキャラメイクを進めると、カルボスには不満があるようだ。私としては可愛くて良いと思うのだけど、カルボスはどんどん可愛くない方向に変更してしまう。

 それでも、最低限の可愛さを確保できるように、パラメータが制限されているようで、私としてはこれくらいならまあいっかというレベルに留まっている。

 カルボスに対する興味がだんだん失せてきた…。


 そして、カルボスはこのキャラメイクでは、パラメータをいちばん最大にすることが、最も私の好みに近いものとなることに気が付いた。自分の好みを優先するよりも、私の好みに合わせた方が厚遇してもらえることに気が付いたみたいだね。

 カルボスに対する興味が戻ってきた!


 それにしても、このシステム…、ダイアナが作ったのだろうけど、私の好みをよく理解している…。

 えっ、ちょっと待って。パラメータを全部最大にしたら、私の趣味がロリ巨乳幼女になってしまうじゃん。

 そりゃぁ、ロリ巨乳幼女は、まあまあ…、いやけっこう…、いやかなり好きだよ。

 って、カルボスは私の心を読んだように、そのことに気が付いてしまった!私の顔に書いてあるってやつかぁ!


 このキャラメイキングシステムは私が作ったワケではないのに、私の趣味を暴露してるようで、なんかもう恥ずかしくてこの場でキャラメイクを続けてもらうのがつらくなってきた…。

 慌ててカルボスを返して、キャラメイクを一ヶ月の宿題にした。




「ダイアナ!何このキャラメイキングシステム!」

『役に立ったでしょう』


 ダイアナの執務室に押しかけた。


「そうなんだけど、これじゃロリ巨乳が私の趣味みたいじゃない!」

『体調に響くので大声は勘弁…』


「ごめん…」

『んで、ロリ巨乳なんて作れたっけ?胸のサイズの調整は、男キャラにはなかったはずだけど』


「へっ…。女体型ってパラメータは?」

『ふっくら女の子っぽくなるけど、胸は大きくならないよ』


「マジで…」

『なるほど、女体型を弄った履歴がないね。そのパラメータを触らずに、二人で胸が大きくなるパラメータだと勘違いしたと。想像力旺盛ですな』


「うぐぅ…。おかげで私がロリ巨乳好きだと思われてしまった…」

『ロリ巨乳好きでしょう。ほーら、ロリ巨乳だよー』


 ダイアナは九歳にしてメロンを携える、なかなか理想的なロリ巨乳なのだ…。


「好きです。結婚してください」

『もうしたし』


「そうだった…」

『それで、これが最終形なの?たいしたことないね』


「そうじゃなくて、カルボスはロリ巨乳が私の理想だと勘違いして、自分がロリ巨乳にならなければならないと考えると、すぐには決断できなくなっちゃって、宿題になったの」

『なるほど』


「だから、そのキャラメイキングアプリをカルボスのスマホにインストールしてあげて」

『わかった。お、さっそく弄ろうとしているよ。すごいすごい、全パラメータ最大。可愛い幼女だよ。巨乳じゃないよ』


「ホントだ…。可愛い…。これになってくれるのなら即採用なんだけど」

『あ、ルームメイトの女の子が弄りたがっているって。面白いから許可しよう』


「女の子のセンスで作ってくれるなら期待できるね」

『うん。七歳の可愛い女の子ができた』


「これに決めたのかな!」

『また変わったよ』


「今度は、それほど女の子っぽくないけど、四歳の可愛い幼児だね」

『生理的にムリ』


「えー…、女の子キャラならいいの?」

『CGキャラだから許していたけど、実物はムリ』


「まあしかたがないね。ダイアナが考えてくれるだけありがたいよ」

『ママは可愛くない男のことを考えられないようだけど、私は嫌いなだけで考えることはできる。だからといって、マタニティブルーでイライラしているのに、汚物のことなど私に考えさせないでほしい』


「ごめん…」

『私はママが男を絶滅させないようにしたいと言うから協力してあげてるんだよ。私としてはいつ絶滅してもいいのだよ。もっと自分で頑張って。可愛い幼児か男の()なら萌えるのでしょう』


「うん」

『このキャラメイキングアプリは、ママが人の容姿を自由にいじれるっていうから、本人に選ばせる目的で作ったものであり、エージェントが丁度よいと判断してこの機会に使わせたみたいだけど、自分が最高のパフォーマンスを発揮したいのなら、選ばせないで自分の理想を押しつければよい』


「えっ…、はい…」


 理想といえば、五歳から十歳くらいまでのロリ巨乳だけど…、いやいや、私にロリ巨乳の趣味なんてないってば。


 それに、男なのだから胸は大きくできないって言っているし。

 いや、ダイアナの作ったシステムではできないかもしれないけど、私なら現実で男の胸を大きくできるだろう。いざとなったら、アプリの結果なんて無視して、自分の好みにしちゃえばいいだけだ。




 数日後、エージェントを通じて、カルボスから面接の申し込みがあった。


 私のスマホでも、カルボスのキャラメイキングのデータを参照できるようにしてもらったので、別に持ってきてもらわなくても、良いか悪いか判断できるのである。


 それが、けっこう良いのである。

 最初にあった、身長と女顔と童顔以外の細かいパラメータをたくさん弄って、ちょっと垂れ目で、優しくて弱っちくて、守ってあげたくなるような、母性本能をくすぐる四歳児。

 あまり女の子っぽくはないけど、かなり私のツボを押さえているのである。これは九〇点をあげてもいい。


 いくら可愛いからといって、母乳をあげたり、風呂に連れ込んだりしないようにしなければならない…。中身は高校生なのだから…。

 いや、永遠の四歳児になるのだから、転生者でなかったとしてもそのうち中身だけ高校生になってしまうのだ。

 それなら、中身も永遠の四歳児に…。それじゃ仕事ができない…。

 幼児の純真さを保ったまま、知識と経験だけ得てくれれば…。欲望は尽きない。



 とういうわけで、カルボスがふたたび面接に訪れた。

 カルボスは十五分前に到着しており、私は五分前に到着した。今回は驚かれなかった。


「それでは、あなたがどのような姿になる決心をしたのか見せてください」

「はい」


 カルボスは私にスマホを差し出した。


 前もって見たとおりのキャラ。合格は決まっている。

 とても可愛い。守ってあげたくなる。


 私の頬が緩んだ。それを見て、カルボスもほっとしたようだ。まだ、何も言っていないのに…。

 私、そんなに顔に書いてあるかな…。いつも思うけど、私は魔法を使ってやっと人の心を読んでいるのに、私の心はみんなにダダ漏れなのである。


「母性をくすぐる、とても愛らしい容姿ですね。四歳ですかね。四歳でこの容姿になるようにしてくれるのなら、歓迎したいと思います」

「ありがとうございます。よろしくお願いします」


「女体型のパラメータがそれなりにあるので、おそらく四歳のこの容姿になっても、今の二歳児の筋肉それほど変わらないでしょう。でも、あなたはすでに十歳児なみの力を身体強化で出せるようなので、このまま身体強化で力を出すように努めてください」


「はい」


 容姿の話ばかりで、仕事の話がないと、カルボスが訴えている。


「えっと、まずあなたには……」


 お嫁さんが開発済みの領地に、付近の令息を留学させて、勉強させること。お嫁さんが学んできたカリキュラム。などなどを説明した。


 いやあ、何人ものお嫁さんが通った道を、令息にやってもらうだけなのだけど、なぜかそれが進まないのだ。


「承りました」

「よろしくお願いします。それでは、あなたの身体を施術しましょう」

「はい」


 私は、二歳のカルボスが二年間かけてキャラメイクした容姿になるように願いを込めて、マッサージした。


「あああん…」


 あ、男なのに消音魔法を忘れた。これが可愛いものだと認識している証拠だろうか。

 カルボスはすぐには変化しない。二年間かけてゆっくり変化するのだ。守ってあげたくなるような、ほんの少し女の子っぽい、可愛い幼児に。



 その数日後、カルボスは令息の教育計画をまとめてきた。


「アンネリーゼ様の魔法でできることによって、計画案を用意してまいりました。まず大まかには、できるだけ多くの令息を永遠の幼児か男の()のどちらかに改造します」


「なるほど、令息を改造しようとは思ってもみませんでした」


「ここで質問なのですが、アンネリーゼ様は、大人になってしまった令息を、幼児や少年に戻すことは可能でしょうか?」


「できると思いますが、小さくなるのは受け入れがたいでしょうから、あまりやらない方がよいでしょうね」


「そういうことであれば、十代の者は男の()一択になるでしょう。

 幼い者は永遠の幼児か男の()のどちらになることも可能でしょうが、幼い者はどちらかを選ぶことはできないでしょうから、最初は仮に永遠の幼児に改造しておいて、あとで本人の希望次第で男の()に改造してもらうことは可能ですか?」


「それなら問題なくできるでしょう」


「よかったです。このようにして永遠の幼児か男の()どちらかに改造すれば、アンネリーゼ様の築く世界の男性として、生き残ることができるはずです」


 つまり、幼い子はとりあえずそのままで可愛いので維持する。年齢が上がるにつれて、女の子っぽくしないと可愛くなくなってしまう。十代はほぼ完全に女の子にしてしまうと。十代後半は、男の()と呼ぶには厳しいかもしれない…。


「なるほど!それなら、ほぼすべての令息が可愛くなれますね!」


 カルボスに課した宿題を、令息の教育計画に生かしてくるとは思わなかった。カルボスに任せて適当に進めてもらうつもりだったのに、これなら私も一緒に考えられるようになる。

 たぶん、マイア姫たちも乗り気になってくれる!



「ただ、すべての貴族家でうまくいくとは限りません。アンネリーゼ様が手がけておられる、令嬢たちの教育が難航しているように、半分ほどの貴族家の子息では教育が難航すると考えられます」


「なるほど…」


 ボンクラ貴族つながりで、ロコイアにボンクラなご令嬢を集めてもらい、メタゾールに留学させたのだけど、成績が芳しくない。ロコイアのようにあぐらをかいていないだろうか。


「地図で青に塗りつぶした領地が、スムーズに進みそうな貴族、赤に塗りつぶした領地が難航しそうな貴族です」

『ディスプレイに表示します』


 カルボスのスマホに地図が表示されていたのだが、同じものが会議室のディスプレイに表示された。なんとかキャストというやつだ。


「これは分かりやすいですね」


 カルボスはプレゼン能力も高い…。


「青の領地の貴族は、教育期間に一年を見込んでいます。赤は二年以上かかるでしょう。

 それと、新たに水色に塗った領地は、すでにアンネリーゼ様が手がけられ、改革が安定している領地です。

 緑は改革が軌道に乗った領地です。

 黄色はアンネリーゼ様が、現在手がけておられるご令嬢のご実家です。

 ここまでは遅かれ早かれ改革ができるでしょう。

 でも問題なのは、色を塗っていないいくつかの領地です。これらの領地には、現在、令嬢も令息もいらっしゃいません。次世代を教育するというやり方が通用しないのです」


「跡継ぎがいない状態で何年も放置しているとも考えづらいですし、経過観察でよいのではありませんか?色を塗っていない領地はほとんどありませんし、周りが発展していけば、焦って自分から行動を起こすでしょう」


「分かりました」


 娘もいない男貴族当主がやっているところのことなど考えられない。娘が生まれないと、領地の危機になると認識するまで放置。



「それから、男性の減少問題ついても、対策を考えてきました。

 治療院で行う不妊治療で、女の子だけでなく、永遠の幼児や男の()をラインナップに加えるのです。これなら、男の子も選んでもらえるのではないかと思われます。

 この案は、生まれる前の子供を改造できることが前提なのですが、可能でしょうか?」


「少なくとも私は遺伝子を改造できると思いますが、ヒーラーガールズにできるかどうか、実験が必要ですね。でも、これが実現すれば、男性の減少問題に歯止めをかけられますね!検討の価値があります!素晴らしい案ですね!」


「お褒めに預かり光栄です」


 カルボスが予想以上に優秀だ…。しかも可愛い。二年後にもっと可愛くなる。これから楽しみだ。


「それでは私は、ヒーラーガールズが遺伝子をそのように改造できるか調べてみます。あなたはとりあえず、貴族令息の教育計画を実行に移してください」

「かしこまりました」


 すばらしい。これならなんとか改革が進むぞ!






 オレはアンネリーゼに忠誠を捧げた。いや、魂を売ったと言うべきだろうか。

 二年後にアンネリーゼの好む、ちょっと女の子っぽい可愛い幼児になるように施術してもらった。気持ちよかった…。もっとやってもらいたい…。そうすればもっと可愛くなれるのだろうか。

 いやいや、何をいっているのだ。オレは男としてのプライドと、アンネリーゼの待遇を天秤にかけ、その容姿を選んだのだ。


 それはさておき、オレは王城で仕事をするために、王城の離れにある従業員寮の一室を借りることになった。平日はそこで寝泊まりし、週に一回だけ第二メタゾールにある、スラム出身の仲間の元に帰る。

 でも、オレの心のよりどころだったルルは…、ヒーラーガールが好きなんだ…。オレはアンネリーゼに好みを捧げた、否、この身を捧げた。オレにはアンネリーゼだけいればよい。


 そして、留学させる貴族令息への電報を打つ。貴族令息の領地は開発されていないので、メールが届かない。スマホで打ったメールは、宛先へ最も近い、開発済の領地に送られ、そこで印刷されたものが宛先に手紙として送られる。

 開発されているのはロイドステラ王国の中央付近と最北端、最南端だけなので、結局のところ、最西端とか最東端に手紙が届くのには一ヶ月ほどかかるらしい。気の長い計画だ。

 そんなことをしているうちにオレもあっという間に成長してしまいそうだ。成長は四歳で止まるのだけど。



 そういうわけで、計画が始まったのはいいけど、仕事は待ち状態だ。だからといって給料がもらえないわけではない。

 王城の従業員寮でぼーっとしててもしかたがないので、スマホで勉強しているか、学校に実技を受けに行く。学校といっても、第二メタゾール支部ではなくて、王都支部だ。どこにいても同じ授業が受けられるのだ。前世より効率化されている。


 今日は学校でアイドル養成科の授業だ。教室はバレーの練習場のようなところだ。全周囲に手すりや鏡が設置してある。

 ここには五人のヒーラーガールが所属している。でもヒーラーガールは不妊治療で忙しいらしくて、あまり見かけない。アイドル活動もしていないようだ。今日は十歳くらいの子が一人しか来ていないようだ。

 オレはアイドルになってアンネリーゼと共に舞台に立つためにアイドル養成科に入ったけど、まったく違う仕事に就いてしまった。だけど、アイドルのように可愛い子というのがアンネリーゼとお近づきになる条件だったことを考えると、この選択は間違っていなかった。


「カルボスくんだっけ?キミ、可愛いし優秀なんだね!」

「ありがとう!」


 ヒーラーガールはしぐさや表情がいちいち可愛い。

 そして、それはオレも教えられていることだ。オレもここでは笑顔で礼を返すようにしている。

 可愛く振る舞うことでアンネリーゼに気に入られるのなら、どんどんそうするべきだろう。


 そんなことを考えていると、教師がやってきた。


「ごきげんよう」

「「ごきげんよう」」


 ここでの挨拶は「ごきげんよう」だ。片足を交差させて、少しかがむんだ。

 もう、女の作法とかしぐさとかしか教えられていないんだけど、いっそうのこと女に改造してもらったほうがよかったんじゃなかろうか。

 いやいや…、オレはまだ男でいたい…。


 教師は、元祖ヒーラーガールのセンターを務めていたリフラナという女の子。十五歳くらいだろうか。


 といっても、聞いた話によると、アンネリーゼの周りにいる女の子はすべて、「永遠の十七歳」と呼ばれ、外見が十五歳くらいで成長を止めているそうだ。

 なぜ、「永遠の十七歳」の外見が十五歳なのかというと、この世界の人間は早熟であり、本物の十七歳は二十歳前半に見えてしまうからだ。そして、若干年増に見える…。それはオレが前世の外国人に感じたことと同じである。逆にいうと、前世の母国の人種が童顔で小柄だったということだ。

 アンネリーゼはオレの前世の母国の人種を基準に十七歳といっているのであって、それはこの世界の十七歳ではないのだ。そして、十五歳の外見をした永遠の十七歳というのが、アンネリーゼが許容できる最大の外見年齢ということだろう。

 だけど、アンネリーゼは女神のはずだ。オレの前世の言葉を知っているようだが、女神なのだから他の世界の言語を知っていても当然だろう。そこまでして、アンネリーゼがオレの前世の世界から転生したと言い張る設定の作り込みようには感心するが、アンネリーゼは女神の力の片鱗を何度も見せているし、女神であることは明白だ。


 話がそれたが、つまり、十五歳に見える教師は、実際のところ何歳なのか分からないということだ。まあ、何歳でも可愛いものは可愛いので、実際の年齢はどうでもよいのかもしれない。


「今日は新しい仲間を紹介します。フラベーナ様、どうぞこちらへ」


 何だって?まさかの転校生?

 教室の入り口に姿を現したのは…、神々しい薄緑色の精霊を携えた…赤ちゃん…。


「第二王女のフラベーナ・ロイドしゅテりゃでしゅ。あらあなた、また会いまちたね」


 マジか…。転校生は面接の日に廊下でぶつかっちゃった子じゃないか…。

 相変わらず、どう見ても一歳になってないのに、ちょっと舌足らずなくらいで、言葉に詰まることもなく、ほとんど問題なくしゃべっている…。一年くらい前のオレでも、ここまでしゃべれただろうか…。

 この子は、ほんとうに転生者ではないのだろうか。


「ごきげんよう。私はカルボスと申します。先日は大変失礼しました」

「もう終わったことでしゅ。それより、わたち、あなたとお友達になりたい!歳の近いお友達がいなくてさびちかったの!」


 どうしよう…。ゼロ歳児なのに、とても可愛い…。神々しいくらいに可愛い…。オレにはアンネリーゼという魂を捧げた人が…。でも、ヤバいほど可愛い…、フラベーナ姫…。


「わ、私のような者でよければ是非お願いします」


 ここはアイドル養成科なのでアイドルらしく振る舞うのが基本なのだけど、相手は王族…。アンネリーゼにさえ礼儀正しく振る舞わなければならないのだから、この子への口調にも気をつけなければならないだろう。


「もう、堅くならないで。わたちたち、お友達なのよ?」

「はい…」

「うふふっ、あなた、可愛いわね!」


 ちょっと待って。神々しいくらいに可愛い女の子に可愛いって言われた…。なんだかちょっと嬉しい…。

 オレは自分の顔が火照っているのを感じた。


 フラベーナ姫とダンスをしたり、歌ったり、一通りのアイドルの練習をした。

 ダンスといっても、貴族の社交ダンスとかじゃなくて、前世のポップスのミュージックビデオで見るようなやつだし、歌もポップスだ。いや、でもなんだか歌詞が演歌っぽいなぁ…。「振り向いて」だって…。ちょっと粘着質でストーカー臭い…。

 前世で四十何人かのアイドルグループの曲の雰囲気に似ている。ちなみに、前世の著作物については、具体的に思い出せないので、あくまでそういう雰囲気ということしか感じられない。


 第二メタゾール支部の学校とは、やっている曲が違うけど、ダンスも歌もノリで覚えられる。


「あははっ、楽ちいわ!」

「うん、楽しい!」


 ときどき、ペアで手を組んだり、回りながら位置を入れ替えたりする。第二メタゾール支部でもそういうのはあったのだけど、ヒーラーガールは最低でも九歳だったので、身長が全然合わずに、手を組んだり回ったりはできなかった。

 でも、ここでは同じくらいの背丈の子がいるので、それができる。


 どうしよう!この子とアイドルやりたい!

■フラベーナ・ロイドステラ第二王女(ゼロ歳)

■カルボス(二歳)


■リフラナ(十七歳)

 ヒーラーガールA。王都の学校でアイドル養成科の先生を務めている。

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