39 三十一人の母
マイアは離宮にある執務室で仕事をしながら、三人の娘を愛でていた。
というか、マイアは離宮にばかりいて、本館にほうにほとんど顔を出さない。必要があればビデオチャットをするだけである。
はぁ…。デルスピーナ…、フラベーナ…、グリシーラ…。私の三人の娘…。私とアンネお姉様の面影を持った娘…。可愛すぎる!美しすぎる!
とくに、フラベーナ!神々しいまでの美しさを備え、アンネお姉様にいちばん似ている!やはり、アンネお姉様のおなかから出てきただけはある。
デルスピーナとグリシーラは、私と同じ普通の金のブロンドだけど、フラベーナの髪はまるで黄金のよう。ほんとうに神々しい。
容姿だけではなく、産まれたときから言葉を話し、ある程度学問も習得済み!デルスピーナには悪いけど、王位継承者はフラベーナに決まりだと思う。
王位継承に王の死は必要なくなった。いちおう、後継者を指定せずに死んだ場合に備えて、今までどおり、遺言書に後継者を記しておく。その点は貴族と同じだ。
フラベーナ、デルスピーナ、グリシーラと記しておく。
今日はアンネお姉様は出かけている。執務室にはメイドが二人、騎士が一人。アンネお姉様の子を産んだ者たちだ…。
この者たちがいくら優秀だからといって、褒美としてアンネお姉様の子を授けるなんて言語道断と思うけど、アンネお姉様は寂しそうにしているこの者たちを哀れみ、ご褒美を与えてしまった…。
許可したのは私だ。許可しなければアンネお姉様が悲しむからだ。私はアンネお姉様に甘い…。
一歳のデルスピーナはすでによちよち歩き始めている。言葉はまだない。
グリシーラはまだ首が据わっていない。
フラベーナが生まれたのはグリシーラより十日早かっただけだけど、体格はずいぶん違う。さすがに一歳上のデルスピーナほどではないけど、三ヶ月児ほどあるのではないだろうか。
生まれつき首が据わっていたし、一ヶ月も経たずにつかまり立ちをしている。
勉学だけでなく、身体能力にも優れているなんて、ほんとうにアンネお姉様の産んだ子は優秀。
「マイアおかあしゃま、魔法のじちゅぎを受けるために、学校に行きたいでしゅ。タブレットではじちゅぎがしゅしゅみまちぇん」
「よいでしょう。手はずを整えておきます」
フラベーナは、生まれてからはもちろん、おなかの中にいるときからとても勤勉。タブレットの胎児教育プログラムが見事に功を成した。デルスピーナはもちろん、ヒルダの子たちもフラベーナの足もとにも及ばない。
はっ、いけない!フラベーナばかり可愛がっては…。
デルスピーナだってグリシーラだって、この世のものとは思えないほど可愛い。
アンネお姉様がときどき独り言で「可愛いは正義」と言っている。その通りだと思う。可愛ければ何でも許される。私が許す。私が法だ。
今日はデビュタントパーティ。可愛い三人娘をメイドに預けて、王と王妃は壇上で座って構えていなければならない。
去年は身ごもっていたため、出られなかった。
「マイア王様、アンネリーゼ王妃様、お初にお目にかかります。わたくしは…」
次々と挨拶に訪れるデビュタントと令息。
アンネお姉様は男性にはまったく視線を向けない。私も男性には興味がないけど、さすがアンネお姉様。
っていうか、アンネお姉様は私という嫁がいながら、また令嬢を色目で見ている…。もう結婚は禁止だと言ってあるのに…。
「ダイアナは遅いですね」
「アンネお姉様と同じように、遅れて登場して注目を集めたいのでしょう」
十年前の話をマイザー前王に聞いたことがある。最初のうちはデビュタントと令息の挨拶を受けていたが、途中で遅れてやってきたアンネお姉様一行が注目をかっさらい、ドレスの宣伝だけして挨拶もせずに帰っていったという。
さすがです…。アンネお姉様…。
私もアンネお姉様の差し金でドレスの宣伝をしたけど、王に挨拶はしたし、令息とお話もした。まあ、王族の私が王に挨拶をせずに帰るなどあり得なかったのだけど。
「あれは注目を集めるために遅れたのではないのです…。私は田舎者で、遅れる時間のさじ加減を知らなかっただけなのです…」
「アンネお姉様が完璧超人に見えていた頃もありましたが、今はそんなおっちょこちょいなアンネお姉様が好きです」
「こんなところでやめてください…」
「うふっ、アンネお姉様、可愛い」
「来ましたね」
「さすが…、圧倒的な存在感ですね…。とても色っぽいのに、なんと可愛らしい衣装でしょう…」
「ダイアナ……可愛い…」
「………でもアンネお姉様の魅力にはかないませんね」
「あっ、はい。私もマイア様のことをいちばんに愛しています」
ダイアナに魅入ってしまった。アンネお姉様とカローナの娘だというのに、アンネお姉様の面影はあまりなく、カローナにばかり似ている不届き者である。それにもかかわらず、今はダイアナに目を奪われてしまった。
アンネお姉様も同じく魅入っていたようだ。私だけを見てほしいのだけど、今は私も危なかったので人のことを言えない。
アンネお姉様は母親とも結婚してしまうようなお方なので、どうせ娘も狙っているのだろう。これ以上結婚するのも寝室に招き入れるのも禁止したが、私はアンネお姉様に我が儘を言われると許さずにはいられない。
アンネお姉様は、そのうちデルスピーナたちとも結婚してしまうに違いない。それなら、私も結婚したい。
アンネお姉様にかかれば血の近いものと結婚することなど造作もないのだから。
おっと…、今日はパーティだった。でも、ダイアナが皆の視線を奪っていったから、私たちは暇になった。
ダイアナの周りに群がる女たち。
男はダイアナを色目で見ており興味があるにも関わらず、近づけないでいる。
男と話していた女がまた一人、ダイアナに駆け寄っていった。もう、男に目を向けている女はいないのではないか。
きっとアンネお姉様も、すべての女の視線を釘付けにしていたに違いない。あ、でもアンネお姉様はヒルダやセレスタミナと同じドレスを着て五人で視線を集めていたのかな。アンネお姉様一人でじゅうぶんだったと思うけど。
デビュタントパーティとはデビューする令嬢を令息が射止める社交の場ではなかったか。アンネお姉様には私もドレスの宣伝をさせられたし、男とも仲良くならなかったけど、何も問題はない。私はアンネお姉様を射止めたのだから。
私はアンネお姉様より二歳下なので、アンネお姉様とデビュタントパーティで素敵な出会いができなかったのは残念だけど、私は独自にアンネお姉様に交際を申し込んで、ついに結婚までしたのだ。私はがんばった。おまけがいっぱい付いてきたけど。
パーティの中心は完全にダイアナに。ダイアナのあのような表情は初めて見た。いつも無表情だけど、やればちゃんとできるじゃない。
ダイアナはドレスの宣伝という目的を成し遂げて、満足げに帰っていった。
ダイアナは、出席するつもりのなかったデビュタントパーティに出席することにした。メタゾールの王都邸で急遽ドレスを作っている。
ドレスとは、着るよりも早く作り、まとえてしまうものなので、今日はどれを着ていこうかなという感覚で、頭の中にあるデザインから作り出す方が楽なのである。
「ダイアナ様はどのようなドレスにされるのですか?」
「アンネリーゼ様のお考えになったドレスは、色気を引き立てるために、レースを重ねて胸やパンツがうっすらと見えるものだったそうです」
私のメイド、リメザとポロンがデザインを考えてくれている。彼女らは学校で縫製を学んでおり、アドバイスは参考になる。
ちなみに、三人の新人は愛玩メイドである。風呂とベッド以外で役に立ってもらおうとは考えていない。まあ、学校に仕事のできない子はいないのだけど。
『私は色気だけで攻めない。これでどうだ』
デザインしたドレスを着せた私のCGキャラをタブレットに表示してメイドに見せた。ちなみにエージェント・ダイアナは誰も使用できない幻のキャラである。
私の土の魔力では、数秒でドレスを仕立てられるし、百回ほど作り直せるけど、やはり一瞬で見せられるほうが楽である。触る許可を出せば、他人にスワイプさせて、CGをぐるぐる回すこともできる。
それに、私の電気の精霊で作ったデザインソフトは、私の想像力を超えて「良い感じ」にあつらえてくれる。それを見ながら土魔法で整形したほうが、思ったよりも良いものに仕上がるのだ。
もし、ドリーと契約すれば、「良い感じのドレス」を要求するだけで、自分の想像を超えた素晴らしいドレスを作ってくれるだろう。でも、電気の精霊を通してだいたい同じことができてる現状に満足だ。
私がデザインしたのは、前世のゴスロリだ。色は黒と白が基調。フリフリのフリルをこれでもかというほど使っている。
私には九歳とは思えないほど大きなメロンが成っているので、それをひけらかすことを忘れない。
また、パンチラという文化をママに布教させた以上、自分でも実践しなければならない。パンツが見えなくなる長さのスカートは禁止である。パンツはハーフバックなので、お尻は少し見えている。
それから、ガラスではなく、本物の人工ダイヤモンドを生成できるようになったので、ダイヤもちりばめている。
ママが最初に生産し始めたガラスは、ダイヤのような価格で売っていたが、ここ最近は値段が落ちている。ここで、本物のダイヤを売り出したところで、値段を持ち直せるだろうか。この世界の者に、ガラスとダイヤの区別ができるのだろうか。ダイヤはオプションにしようかな。
それ以外は、わりと普通のゴスロリだ。でも、この世界にここまでフリルの付いたドレスは存在しないので、これでもじゅうぶん目新しいだろう。
「さすがダイアナ様です」
「これはとてもエロ可愛いですね」
『では、これを仕立てて』
「「はい」」
リメザもポロンもおとなしめの子で、淡々と褒めているが、その表情の裏では感動していることが分かる。
自分の土魔法でも数秒で仕立てられるが、彼女らも店を開けるほどの縫製の腕前があるので、彼女らに任せる。
ここのところ、ママの嫁の領地にシルクを卸すようになり、さらに学校で土魔法や縫製を学んだ者が増えた結果、それらの領地でのドレスブランドが台頭してきた。
それらのブランドは、メタゾールブランドをまねして、色気路線が多い。似通ったデザインが増えてきて、価格が落ちてきた。
ママも独占するつもりはなかったので、これは予想された流れだ。でもここで、メタゾールブランドが巻き返しを図ろう。
それに触発されて、他のブランドが活気づくのも良い。
王都での私の住まいは、十年前にママの建てた、貴族街にあるメタゾールの王都邸である。
マイア姫が即位してから私が八歳になるまではリンダばぁばの執務室で、ばぁばとメリリーナと一緒に離宮で寝ていたけど、淫魔の性欲に目覚めてから私の寝場所を移した。ばぁばを襲ってしまいそうだから。
ママやママの嫁と一つ屋根の下というのも、簡単に夜這いできてしまうので危険だ。すぐには行けないように、物理的に離れるしかなかったのだ。
ちなみに、メリリーナは東の方の未開発の領地にいる。ドローンに見張らせているが、通信を確立していなので、徘徊しているドローンがたまにリレー通信で伝えてくれるだけである。
メリリーナはハンターをやっているらしい。暴れん坊にはぴったりの職業なのだろう。
メリリーナはママに似た顔をしていて可愛いけど、ママになびかない。私の魅了魔法が発現する前に出かけたきりだけど、魅了魔法でも制御できるのだろうか。
さて、王城のパーティへ向かおう。四人乗りに見える魔導馬車だ。御者はポロン。中身は1DK、バス、トイレ付き。
マイア姫が乗ったりもするので、ここ最近は王族仕様の馬車しか用意していない。私は親に王妃を持つメタゾール侯爵。今日は自重しない。
真打ちは遅れて登場する。十年前、ママは遅刻して注目を集めたらしい。
案の定、ドアの外に現れた王族仕様の豪華な馬車に、皆が注目した。
ママは無意識に洗脳魔法が漏れてしまうほど光の魔力が強いが、私の無意識の魅了の魔法はパーティ会場ほど広範囲には届かない。今日は意識して、魅了の魔法を振りまかなければならない。
そのためには、私と精霊の光の魔力では心許ない。今日は光の魔石も持ち込んでいる。
ママが使ったのは魅了の魔法ではなかった。ドレスを買いたくなるとか、女の子を好きになるとか、ママの趣味を押しつけるものであった。
私の光の精霊によるサポートでは、そのような自由度の高い要求をすることはできない。いちばんの目的は私を好きになって嫁になってもらうことであるので、エッテンザムの血がもたらす魅了の魔法で問題ない。
さあ、私を見なさい!
私の周りに令嬢が群がる。
ここにいる女の子はみんな私のものだ。壇上でうらやましそうに見ているママにはあげないよ。
ここにいる女の子はママだって私のものだ。いや、ママも私の放った魅了にかかっていたようだ。はっと気がついて我に返ったようだけど、そのあとも私から目を離さなかった。魅了にかからずとも私のことを好きなのだから当然のことだ。
令嬢の装いは、メタゾールブランドの大人っぽいドレスもあれば、そこから派生したママの嫁の領でデザインされた露出の多いドレスもある。今の流行はエッチなドレスばかりなのだが、発育の良い私やママだからこそ着こなせるものであり、貧相な体つきの令嬢には背伸びしすぎなドレスだ。
それに対して、今日の私はエロ可愛い。現状のエロ路線を取り入れつつも原点回帰。このドレスは売れる。私もドレスの直売会を開いてやろう。
魅了を使えば、どんなみすぼらしい服を着ていようと、すべての女の子をものにできただろう。でも、魔法以外の魅力で引きつけるほうが、魔力の消費削減になる。そろそろ魅了の威力を弱めてもいいだろうか。このペースで消費すると魔石が足りなくなってしまう。
いや、まだ他の女のことを見ている女がいる。って、女は一般的には男に魅入るものであった…。ここ最近、私には男があまり目に映らないので、あの女が男に魅入っていることに気がつかなかった…。
私は魅了の魔法の指向性を絞り、男にうつつを抜かしている女に向けた。女はすぐに気がつき、私のもとに駆け寄ってくる。
愛想や会話で気を引くのも忘れない。表情はAIが発生させた電気魔法にすべてお任せ。会話の内容も口調もAIにすべてお任せ。私は後で表情筋の筋肉痛に耐えるだけ。
もし身体の筋肉がちゃんとあれば、電気魔法で全身を自動操縦できるのだけど、ないものはしょうがない。
もしくは、電気魔法を光魔法に変換できれば、身体強化を自動化できそうだけど…。光魔法は光といっておきながら光線のようなものを扱っていないので、火、水、風のように電気から作れるものではないのだ。
まあ、こうやって魅了以外でも気を引いておけば、魅了が切れても私へに好感を維持できるのである。何度も繰り返していれば、半永久的な洗脳となる。
それはさておき、今回参加しているデビュタント三十人。ママの嫁の領地の子はいない。とうぜん、この子たちはママに改造されていないので、さほど可愛くない子もいる。結婚したらママに改造してもらおう。
ママに改造されると、ママに靡いてしまうかもしれないけど、リメザもポロンも自分のものにできたのだし、大丈夫かな…。コーリルだけは逃げてしまったけど…。
後日、パーティ記念ドレスセールを開いた。三十人全員が来てくれた。
正式な縁談の申し込みが数件あった。残りの全員も、後日縁談を申し込みたいと口約束していった。
ダイヤのオプションはあまり受け入れられなかった。この世界の者には、ガラスで十分なのである。
ママのように、ダイヤのすごさを魔法で刷り込めればよかったのだけど、私は私を好きになることしか刷り込めない。でもまあ、そんなところで搾取しても面白くない。金は腐るほどある。
セール終了後、ママに電話をかける。
「ママ、王都邸に来て」
『えっ、うん』
日が暮れたとき、ママはシルバーの馬車でやってきた。
今日のお供は元ヒーラーガールAのリフラナだ。リフラナは平民出ではあるけど、アイドル教育を受けているだけあって、仕草がいちいち可愛い。私もヒーラーガールを召し上げようかな…。
シルバーのもふもふも捨てがたい。ブロンズを鍛えようか。いや、もふもふは素敵なものだけど、性欲を満たせないので、必須ではない。
でも今日はそうじゃない。
ママに全力の魅了を送る。
「ダイアナ、そんなことしなくても、私はダイアナを好きだよ。今日、なんで呼ばれたのかも分かっているよ。約束したじゃん。でも、その魔法は、ダイアナの気持ちとして受け取っておくよ」
「あ、ごめん…」
魅了が効かない。でも、普通に私を受け入れてくれる。
分かっていたのに、好きな女の子を目の前にすると魅了をかけるのが癖になっているのだろうか…。
「こっち…」
私はママの手を引いて、寝室に連れ込んだ。ママは大柄で、体重も六十五キロあるのだけど、私が手を引いたママは雲のように軽く、私の意のままに動く。
魅了をかけた相手は私の意のままに動くのだけど、ママは魅了にかかることもなく、ほんとうに私を受け入れていることが分かる。
「ねえ、身体を綺麗にしてからにしない?」
「あ、うん…」
ママと結ばれることしか頭にない。
ママは浴室に向かった。行かないで…。
「ダイアナ様…、身を清めましょう…」
「うん…」
今はママのことしか考えられない。普段はお風呂に一緒に入ったメイドを可愛からずにはいられないのに、今日はリメザに何も感じない。早くママに会いたい。
「ダイアナ様、いけません!そのような格好で廊下に出ては!」
私はリメザに止められたのにも構わず、一糸まとわずに、ママの待つ浴室に向かった。とちゅう、数人のメイドが少し驚いていたが、王都邸には女しか置いていないし、全員私のお手つきなので、何も問題はない。
浴室に飛び込んだ私に、ママは驚いたような顔をしていた。私に飛びつかれたママは、体勢を崩して倒れた。
「ちょっと、ダイアナ…」
ママが足音や気配に敏感なのは知っている。とうぜん、私が近づくのにも気が付いているはず。堅い浴室の床でも怪我をしないようにうまく受け身を取って倒れるのがいい証拠だ。
でもママは突然現れた私に驚いたように見せて、なおかつ無抵抗に押し倒されてくれる。
バレバレだと分かってしまうのだけど、雰囲気を壊さないようにしてくれる心遣いが嬉しい。
「ママ…」
「洗ってこなかったでしょう」
「うん…」
「綺麗にしてあげる」
ママはシャワーで私の身体を濡らして、手で私をなでた。
「あああああああああん…」
九年間何も感じなかったのに、今はまるで九年分凝縮されたような気持ちよさが私に走る。
「はぁ…はぁ…。今度…は…私が…ママを…洗う…」
「おねがい」
いつもAIと風魔法にしゃべらせているから、ろくに口が動かない。
いつもだったらママに呆れられているけど、今日は何も言わずに受け入れてくれた。
私はママの身体をシャワーで濡らし、ママの身体をなでた。
「ああああん…」
ママの色っぽい声…。可愛い声…。もっと苛めたい。
「あああああん…」
はっ。今日は私がママにあげるんじゃなくて、私がママにもらうんだった…。
「ママ…、だいじょぶ?」
「うん…」
エッテンザムどうしの交配は、どちらがどちらにあげるか、運任せだったのだろうか。気を抜くと、あげる側に回ってしまう。
「ママ、ちょうだい…」
「いいよ…」
気が付くと、お風呂に設置された施術用に狭いベッドに、二人で抱き合い横たわっていた。ママの胸に挟まれていて、ちょっと苦しい。
このまま母乳をもらってしまおう…。これも以前に比べると格段に美味しく感じる…。
「う~ん…、いつまで飲んでるの…」
『干からびるまで』
ママはいつのまにか起きていた。
おっぱいをくわえているので、合成音声で返した。
「三十人分以上出るんだから、先におなかがいっぱいになるよ」
「もうおなかいっぱいかも…」
ママと狭いベッドでだらだらとすごした。
女の子を襲いたくてしかたのない衝動が収まってきた…。
『私、性欲が治まったかも』
「満足したってこと?」
『私の性欲はママでしか満たせない。ママを私の愛玩メイドにしたい』
「それはちょっと…。っていうか、妊娠してこれ以上もらったら困るから、性欲が治まったのでは?」
『そうかも…。それなら、私、ママと一緒に寝たい。今までの私じゃ、ママや他の子を襲っちゃうから、一緒に寝られないと思っていた…』
「そうだったんだ…。私はダイアナと結婚して、またずっと一緒にいられると思ったのに…」
『出産したらまた性欲が戻ってくるかも…』
「そのときはそのときで。じゃあ、マイア姫に怒られて、今日から一緒に寝よう」
「うん」
またママと一緒に寝られると思うととても嬉しくなった。
「どんな子が生まれるのかな。またカローナ似?」
『ママの遺伝子が十六分の七になるから、比較的ママの面影が感じられると思うよ』
「カローナ似ばかりで飽きそうと思っていたけど、よく考えたら、私似のほうがありふれているんだった…」
『自分に似てる方が愛着持てるんじゃない?デルスピーナとか』
「それもそうだね。自分とお嫁さんに似ているから愛着湧くんだね」
『ちなみにママは、自分自身とママの嫁の、障害を引き起こしうる遺伝子をすべて、施術によって治療してしまっているので、近親交配だろうと自家交配だろうとやりたい放題だよ』
「なんだ、お母様ともダイアナとも、余計なこと考えずに普通にやってよかったんだね。でも、一人ではやったりしないよ…」
『ねえママ。ドリーに産んでもらった精霊残っている?』
「うん。だけど、アレを付けると、おなかを突き破って出てくるよ。ぷにぷにのダイアナじゃ死んじゃうよ」
『その点は大丈夫。だから付けて』
「ほんとう?まあそう言うのなら…」
すでに確認した。宿した子は転生者だ。スマホで表示した前世の言葉を理解している反応を示しているし、電気と闇の精霊を付けられたのだ。まだ、意識が途切れ途切れで、コミュニケーションを取れていないけど。
そして、すぐに残りの精霊も付けた。
風呂から出て、朝食を取った。
「ねえ、ダイアナ。お散歩しよう」
「えっ、うん」
「シルバー、リフラナ。私は自分で帰るので、二人で馬車で王城に戻ってください。荷物もまとめて。ダイアナのメイドと荷物も準備して」
「「はい」」
王都邸の裏庭に連れていかれた。
『こんなところでどうするの』
「こうするの」
ママの背中から、ママの長い髪の毛をぬって、白鳥の翼が現れた。身長の四倍ほどある大きな翼…。
「何それ…」
「シルバーの変身魔法」
『そんなの聞いてない』
「いつもドッキリ仕掛けられるから、これくらいいいじゃん。AIは完全にダイアナだけの味方というワケでもないんでしょう。私が黙っていてと言ったら、合意してくれたよ」
「マジで…」
ママは、人の遺伝子を改良したりするのも自由だけど、自分が人外になっていたか…。
「さあ、まずはおんぶね」
「うん」
ママはしゃがみ込んだ。私はママにおぶさった。
「私のウェストを腿で挟み込んで、肩にしっかり捕まってね。離陸は風魔法を使うけど、空中では主に翼の羽ばたきだけで進むから、かなり揺れるよ」
『何それ怖い、ムリムリ。おんぶ紐』
「分かったよ」
ママは影収納からシルクを出して、結び目のないおんぶ紐で私を自分の身体に縛り付けた。
おんぶされると、メロンほどになった自分の胸がむにゅっと潰れて少し苦しい。
「行くよー」
「ぎゃー」
小さいときに乗せられたジェットコースター…、シルバーを思い出す…。
ママが風魔法で下から羽根に風を当てると、浮き上がり始めた。
翼に当たった風は横に流れて、私の顔にも…、来なかった…。風が来ないように風魔法でガードしてくれているらしい…。
王都邸の屋上を越え、王都を一望できるほど高度を上げると、ママの翼はさらに大きくなった。質量保存の法則はどうなっているのだ。
ママは翼をたたみながら、上のほうに上げて、翼を広げながら後ろに振り下ろした。
「ぎゃー」
すごい推進力…。むち打ちになるかと思った…。
ひと羽ばたきで時速百キロに到達。
風魔法のガードがあるから、風を受けたりはしない。
たぶん、光魔法の防御があるから生きているのであって、静止状態から一瞬で時速一〇〇キロに加速したら普通死ぬだろう。
ママの風魔法はそこまですごくないので、推進力を得ようと思ったら得意な光魔法を生かして力業でいくのがいちばんなのだろう。そのための巨大な翼か…。
風魔法は身体のガードと、細かい姿勢制御にだけ使っているようだ。
ママはふたたび翼をたたみつつ、前側に上げる。そして、翼を広げながら、後ろに振り下ろす。
ぐいんと加速した。今度は時速五〇キロ加速しただろうか。
その後も、ひと羽ばたきで時速五〇キロずつ加速していき…、
『ママ、どこまで加速するの…』
この状況で口元から発した声が聞こえるはずないので、ママの耳元でAIの合成音声を発した。
時速六〇〇キロまで。
『えっ、何これ』
考えを伝える魔法。
『好みを本能に植え付けられるのだから、考えを伝えるくらいは当たり前か…』
うん。
どこ行くんだろ…。
それより景色はどう?怖くてそれどころじゃないか。
合成音声発してはいないのだけど、返事が返ってきた…。
考えを読んでる…。マジか…。私の欲望、筒抜け?ぎゃー…。
いつもママのことを監視して弄っているツケだって?むー…。
翼を身体の四倍ほどに戻し、羽ばたかずに、風魔法で風を当てながら、王都邸ではなく離宮の裏庭に着陸した。
『怖かったけど有意義だった』
「開発の役に立ちそうで何より」
結局、どこに行くとかでもなく、景色を楽しむでもなく、私の職業病により加速性能や魔法の使い方を考えていただけだった。そんな考えも読まれていたようだ。
『ママ…。実は、風魔法で推進力を得る場合でも、風魔法を発射するときに発生する慣性を利用した方が、風を当てるより効率が良い…。船に使っているエンジンと一緒で、吸い込んで出す方のと同じ…。でもそれには筒のようなものが必要になるので、空飛ぶ馬車では仕方なく風を当てていたんだけどね…』
「そうなんだ…。じゃあ、羽根と羽根の間に風を通すって形ならどうかな」
『いけるかも…』
「今度はそれにしてみる…」
離宮にあるママの嫁の寝室に向かいながらママと話をした。
『ところで、考えを伝えたり読んだりする魔法について教えて…』
アリシアの卵を得たときに、伝説のホワイトドラゴンに精霊伝いで教えてもらった魔法であること。
言語を理解しない動物や孤児にも考えを伝えられること。
時間をかければ、本人も忘れているような記憶のかなり奥底まで探れること。
普段は周囲に行き交う強い気持ちや悪意だけを拾うようにしていること。
『ほんとうにいつも勝手に考えを読んでいるワケではないの?』
「大事な人の考えは、その人の口から伝えてもらうようにしている。だから、ダイアナが話してくれるまで、私、なんで避けられているのか分からなかったんだよ…。寂しかったんだよ…」
『わかった。信じるよ』
「なんか忘れちゃって掘り起こしてほしい知識とかある?」
『ない。私の記憶は、モヤのかかってよく分からないようなものまで超解像で復元して、メタゾールの地下にあるサーバーに保管してある。だから、私の学んだ科目は、パラパラめくった本のような知識もすべて学校の授業にできている』
「あっそ…」
離宮の廊下を歩いているうちに、ママのメイドと私のメイドが合流した。
「さて、年齢一桁で身ごもったのだから、今日みたいな無茶は最後だし、身体の不調は覚悟してね」
「うん…」
ママはフラベーナを宿していたときは、わりとケロッとしていた。でも、私を宿していたときは、かなりつらかったという。健康優良児のママですら、年齢一桁妊娠はつらかったのだそうだ。でも私は転生者を宿すため、あえてこの時を選んだ。
リンダばぁばとママにくわえて、カルボスに母親から得られた共通点は、九歳で妊娠したということだった。たった三サンプルだったけど、実践してみたら正解だった。
九歳の何ヶ月から何ヶ月まで有効なのかとか、そもそも九歳妊娠に何の意味があって転生者の記憶を宿せるのかとか気になる点はあるけど、来年九歳になるワイヤとアリシアでもできるといいな。
ドラゴンがダメでも、領民で実験すればいいだけだし。
ママの他の嫁と同じように、私も離宮に執務室を確保した。実際のところ、タブレットやディスプレイは他人に見せるためのものであり、私の端末は電気魔法で脳内に作り上げたコンピュータなのである。
「アンネお姉様!」
「ご、ごめんなさい…」
執務室にいたのに、マイア姫が殴り込みに来た…。
ママは誤り癖が付いている。
「はぁ…」
「私の娘枠で…」
「どうせ、嫁にしてしまったのでしょう」
「はい…」
「では、結婚式の日取りを決めましょう」
「はい!」
ママの行動はわかりやすすぎて、他の嫁には何でもお見通しだ。
いや、今回は私が誘ったのだけど…。
これから少なくとも出産までは、ママと一緒だ。自分はママと離れて引きこもらないといけないと思っていたので、すなおに嬉しい。
引きこもらないといけないのは私だけではない。
私はカローナお母様のいたずらによって生まれてしまった子であるが、カローナお母様は光の魔力が弱いので、これ以上鍛えなければ、私のようになってしまうことはないかもしれない。
クラリスはすでにカローナお母様より光の魔力が高いし、リーフという強力な光の精霊が付いているので、完全にアウトだ。私が娶ってあげよう。
後日、つわりが来る前に、私とママの結婚式を挙げた。いちばん大事な思い人との結婚式は、存外幸せな気分に浸ることができた。
今回は近親婚が技術的にも法律的にもできるようになったことを広めたわけではないが、近親婚を禁止する法律はない。
一方で、私は養女の扱いだったので、世間的にはママと血が繋がっていないと思われており、この結婚は近親婚だと認識されていない。
ヒーラーガールズの不妊治療で、障害を引き起こしうる遺伝子を治療させればよいだろうけど、ヒーラーガールズでそこまで実現できるかは実験してみないと分からない。
さらに後日。つわりが来て絶不調の私には、魅了した三十人の嫁との結婚式および初夜が待っていた…。
妊娠する前の私であれば、つわりの気持ち悪さくらい、性欲で乗り越えられると思っていたのに…。それなのに、性欲が失せてしまった…。
なんてこった…。今の私は前世と同じ喪女だ。ママ以外の嫁などいらない…。
「ママぁ…、助けて…」
「私はマイア姫に結婚を禁止されているから、変わってあげることはできないよ…。せめて可愛く改造してあげる…」
「ありがと…。可愛ければ少し盛り上がるかな…」
あと、私のモチベーションは、この子たちはみんな九歳か十歳だということである。子に転生者の魂が宿る期間がいつからいつまでなのか実験したのだ。
誕生日の早い子から順に、結婚式と初夜を済ませた。毎日気持ち悪いのをママのマッサージで和らげてもらいながら、気の進まない日々を過ごした…。
その結果、なんと…、転生者の存在を確認できたのは、誕生日の遅めの子二人だけ…。しまったぁ…、デビュタントより前から始めるべきだったのだろうか…。
人身御供になるものではなかった…。いやいやこれは、ママの種族とエッテンザムで国を二分するために第一歩…。
「ママぁ…」
「ダイアナのお嫁さんをこっちに入れるわけにはいかないから、ダイアナの大部屋を用意するよ…」
『離ればなれ…』
「私は人のこと言えないから…」
王の妃の娘の嫁は一緒に入れてもらえない…。王の妃の娘…私は王の娘ではないからね…。
せっかくママを襲うことを心配せずに一緒にいられる大事な十ヶ月間だったのに失敗した…。
スラムから救出され、第二メタゾールに移り住んだ転生者カルボスは、勉学に励んでいた。
オレはアンネリーゼの隣に立つために頑張っている。
アンネリーゼは、二歳の時に親から子爵位を継いで、すぐに伯爵になった。治療魔術師としての腕を認められたからだという。
もう二歳になるオレだって貴族になれる可能性はあるんだ。貴族になればアンネリーゼと結婚できるかもしれない。
でも、アンネリーゼの幼少期と違って、今は優秀な魔法使いがいっぱいいる。転生者のメリットを生かしてチート魔法使いになる程度では、貴族にはなれないのだろうか。
他にアンネリーゼに近づく方法…。執事になるか…。あとは、アイドル養成コースに入って、アイドル活動を通してアンネリーゼと交流するか。
なんにせよ、まずは勉強して能力を認められなければならない。
興味のある魔法はもちろん、社会科なども積極的に勉強した。
前世で学んだ理科は少し復習して試験を受けることで、高校二年生分まで合格した。二歳児としては異例だろう。
しかし、オレの野望は早くも一つ潰えた。アンネリーゼが結婚してしまったのだ。
相手は王。アンネリーゼは王妃になったのだ…。
スマホに通知が来たときは絶望した。
あれ…、王…、マイア王って女じゃなかったっけ…。
おっと、他にもたくさん通知がある。同性婚法の施行。女どうしで子供を作る魔法の一般開放。
奇形のオレの腕を生やす魔法を使うアンネリーゼだ。女どうしで子供を作って結婚するなど造作もないのだろう…。
あっ、デルスピーナ第一王女を産んだのは、王妃であるアンネリーゼではなくて、マイア王のほうか。
その後、マイア王と、アンネリーゼが同時に妊娠。翌年、アンネリーゼがフラベーナ・ロイドステラ第二王女を、マイア王がグリシーラ・ロイドステラ第三王女を出産か…。
さすが、魔法と可愛い女の子のいっぱいいるファンタジー世界…。マジでカオス…。
でも…、アンネリーゼは女が好きなんだ…。オレが入り込む余地はない。
いや、女どうしでキャッキャうふふしているのを眺めているだけでもいい。
そうだ!執事ならアンネリーゼとマイア王がキャッキャうふふしている姿を眺めていられるかもしれない。
「執事の募集はあるか?」
俺は、スマホに向かって尋ねた。
『ありません。メイドなら募集していますが』
「何だよ!雇用機会均等法なんてウソじゃんか!」
エージェント・アンネリーゼの無情な声が響く。
『前世の雇用機会均等法でも、同性のお世話や警護、アイドルのような仕事は例外として扱われています』
「そうなんだ…。あ、男のアイドルの募集はあるのか?」
『あります。でも、要求が高いですよ』
「教えてくれ!」
『まず、成績優秀者になり、アイドル養成科の必須科目に合格する必要があります』
「ふむふむ」
『それから、少女のような容姿、または幼児のような容姿であることが条件です』
「はっ?」
『カルボスは、高校三年クラスの教科に合格して、光の魔力を三〇パーセント上げればアイドル養成科に入れます。そして容姿は今のところ採用基準を満たしています』
「天才子役が欲しいのか?」
『その理由は開示されません』
「ふむ…。でも、成績優秀な幼児なんてオレだけだろう。オレがアイドル養成科を出れば、アイドルになれるってことだな!」
『面接などもありますがね』
「よーし!」
これは、アンネリーゼがオレのために用意してくれた道ではないだろうか。アイドル子役になれば、アンネリーゼと一緒に舞台に立てるかもしれない。
そのときオレは、アイドル子役になることがアンネリーゼに近づくための道ではなく、男という性別がこの国で存続するための唯一の手段になるなんて、思いもしなかったんだ…。
■アンネリーゼ・メタゾール公爵(十九歳)
■ダイアナ・メタゾール侯爵(九歳)
■マイア・ロイドステラ王(十七歳)
■デルスピーナ・ロイドステラ第一王女(一歳)
■フラベーナ・ロイドステラ第二王女(ゼロ歳)
■グリシーラ・ロイドステラ第三王女(ゼロ歳)
■カルボス(二歳)




