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38 王妃の仕事とは

 私が永遠の十七歳になってから時は流れ、はや二年。もう、何人のお嫁さんを作ったか把握できていない。今年はいったい何人私の娘が生まれるのだろう…。


 まず、いちばん心配なのはセレスだ。セレスは私の子を宿したおなかを大事そうになでながら、ヒストリアに帰っていった。それなのに、以前なら頻繁に診に行っていたのに、私も身重になってしまったから、全然行けなかった。

 ヒーラーガールズの技量が向上してるから、大丈夫だと思うんだけど…。


「ご主人様、魔道馬車での移動なら、お体に負担になることもないでしょう」

「そうですね。そろそろ軽い運動くらいしたいところでした」


 シルバーは時速七〇〇キロで走れるようになり、時速三〇〇キロで飛べるようになった。

 魔道馬車は慣性に揺られることもない。

 シルバーがいれば高速特急なんていらないな。


 わざわざ身重の時に実験することでもないのだけど、空飛ぶ馬車が完成したのだ。

 早々と馬車を影収納にしまうほうが速いのだけど、それより空中で馬車をしまって急加速する方が恒星間ワープっぽくてかっこいいってことで、わざわざ風魔法で馬車を浮かせるようにしたのだ。


 それに、空飛ぶ馬車は、影収納を使わなければ必要なのは魔道炉だけなので、商品化できる可能性があるのだ。ペガサスも一緒に売らなければならないので育成が大変だけど。


 今回のお供は、シルバー、アリシア、そして、私の近衛騎士・魔道士、兼メイドの聖女の守り手!

 ちなみに、私のお供の娘たちは、保育園に預かってもらっている。数日預かってもらえるサービスを開始したのだ。自分たちのために始めたサービスだけど、遠征する商人にも人気だ。


 それから、ダイアナ、ワイヤ、リメザ、ポロン、そして、コーリルの代わりに補充されたという若いメイド三人のうち二人。


 ああ…、ダイアナ…。しばらく会っていなかった…。もう九歳なんだね…。

 人間とは異なる神秘の肉体。

 身体強化だけで動かすように訓練された肉体には、筋肉がまるでない。そのくせ、ボディのパーツは垂れ下がったりすることなく、理想的なポジションを維持している。

 歩くたびに揺れて視線を釘付けにするのは、胸とお尻だけに留まらず、腿や二の腕、頬までがぷるぷると揺れている。まるで生まれたての赤子のよう。

 そしてその胸は、九歳にしてすでにメロンほどの大きさがあり、さらに、年相応よりも華奢な肩幅が胸の大きさを際立てている。

 それに、私よりも細いウェストからお尻までは、大きくくびれていて、このカーブがまた神秘的で…


「……ネお嬢様ぁ、でれーっとしちゃって、どうしたんですか?早く行きましょう」

「はっ、はいっ」


 いつも私や私のお嫁さんを見てでれーっとしているアマージに指摘された。

 ああ、ダイアナ…。もっと眺めていたい…。



 ということで、ロイドステラの王城を夜に出発だ。翌朝にはヒストリアの王城に着いているはず。


 王城の庭から少しの助走で浮き上がり、王都の上空を通って南に向かった。

 ほんとうは助走も必要ない。飛行機のような羽根はないのだから。ただの演出だ。

 空中でも馬車を引いたままでは時速三〇キロしか出ない。

 シルバーは空中で腹からゲートの魔道具を出し、馬車を格納。

 身軽になったシルバーはいっきに時速三〇〇キロに加速!かっこいい!


 という一部始終を王都の監視カメラで写した映像を、馬車内のディスプレイで見ていた。


『どうよ』

「上出来」


 ディスプレイはシルバーの頭に付いているカメラの映像に切り替わった。残念ながら、王都を出てすぐに着陸して、走行に切り替えるのだ。速度が二倍以上違うから。


「うーん」

『不満な部分は、ママの嫁のスペックでしょう』

「そうだね…」


 シルバーだって頑張っているんだ。翼は飾りじゃない。風魔法で翼に風を当てて推進力を得るのではないのだ。身体強化で翼を羽ばたかせ進むのだ。



「ヒストリア王国って始めてだわ!」

「強いやつに会えるかな!」

「粗相のないように、もう一度予習すべき」

「この前パーティ会場の入り口から、セレスタミナ王を見かけたよ。マイア様みたいな、豪胆な金髪だった!」

「私はその隣にいた、銀髪のカローナ王妃様にする!」


 聖女の守り手はヒストリアに行くのは始めてだ。

 好き放題言っているけど、私はお嫁さんどうしで仲良くするの歓迎だ。

 …なんていっておいて、私はけっこう嫉妬深く独占欲が強いことにハッとすることがあるので気をつけなければ…。セレスたちがレグラに連れていかれそうになったときなんて酷かったし…。



『私は先に風呂に入る。ママは来ないで』

「えっ、はい」


 ダイアナはワイヤと自分のメイド四人を連れて、先に風呂場に行ってしまった。

 今までも私のマッサージを喜んでくれなかったけど、排除されるとは思わなかった。

 しばらく見ないうちに大人になったものだ。九歳だもんね…。去年初潮来たらしいし。

 でも親子水入らずでお風呂入りたいじゃんか…。寂しいな…。


 九歳とは思えないほど胸が大きくてスタイルが良い。九歳のときのカローナよりすごい。

 あれが光魔法を得て本領発揮したエッテンザムの娘か…。

 中身を知らなければ騙されて惚れているところだ…。


 今年デビューか…。ドレス作ってあげた方がいいのかな。最近はちゃんとしたドレスを着ているし、自分で作るのだろうか。



「「「「「あああん」」」」」


「えっ…」


 風呂場から漏れる、ワイヤとダイアナのメイドたちの声。

 ダイアナもカイロプラクティックを会得したのか…。光の精霊が大きいもんね。

 それで、自分たちだけでお風呂に入りたかったんだ。


 ダイアナがお風呂の間に、イミグラたちと一緒に夕食の準備をした。ダイアナとは久しぶりなので、自分で作りたかったのだ。

 ダイアナは和食好きなので、メタゾール産の魚の醤油煮付け、わかめと豆腐の味噌汁、白米だ。

 私は今回の妊娠では早々とつわりが治まったので、何でも食べようと思えば食べられるけど、無理は禁物。これくらいのメニューが心地よい。


 お風呂から上がったダイアナとワイヤとメイドたち。

 メイドたちは顔を赤らめてる。新人のことは知らないけど、メリザもポロンも、何度も私に施術されているだろうに。

 この子たちに今から夕食の準備をさせるのは可哀想だ。私たちで準備しておいてよかった。


「ダイアナ、もうご飯食べる?」

「うん」


 ダイアナは相変わらず「うん」とか「ママ」とか、簡単な言葉しか口にしない。あとは合成音声ばかりだ。


「ママの味…」


 そんな長文を聞いたのは、何年ぶりだろう。

 えっ、今なんて言った?


「ダイアナも私の魔力の味が分かるの?」

「うん」


 イミグラたちにはメイドをしてもらっているけど、私のお嫁さんなのだ。だから、こういうプライベートなときには一緒にご飯を食べている。

 ワイヤとメリザたちも一緒に食べている。ダイアナが普段どうしているかは知らない。


 アリシアは私の養女なので当然一緒に食べている。シルバーはごめんね…。

 あ、ワイヤって養女なのかな。



 私とアリシア、聖女の守り手の五人でお風呂に入った。


「「「「「ああああん…」」」」」

「お母さん、気持ち良い!」


 一緒に寝られないときでも、みんなでお風呂だけは欠かさなかった。いつもどおりだ。


 お風呂から上がると、


「ママ、私たちはこっちのメイド部屋で寝るから、ママたちはそっちね」

「えっ…」


 年頃の娘は、自分の部屋に入ってこないでと言うものなのだろうか。私はお母様にべったりだったので、とうぜん自分の娘も嫁になると思っていたのに…。

 いや、ダイアナは最初からワイヤと結婚すると言っていたじゃないか…。でも、こんな形で拒否されるとショック…。


 その日は、アリシアと聖女の守り手の五人で寝たのだけど、なんだか寂しくて落ち着かなかった。




 翌朝。目が覚めると、イミグラたち朝食を準備してくれていた。サンドイッチだ。

 リメザたちも自分たちの朝食を準備していた。鮭おにぎりだ。

 家を分けてしまったのがあらわになって、ほんとうに寂しい。


「ママ」『これ付けて』

「何これ、腹巻き?」

「そう」

「おなかの子を気遣ってくれるの?ありがとう」


 私がおなかを冷やさないように、ダイアナがこんなものを用意してくれるなんて…。

 寂しかったのがいっきに吹き飛んだ。


 腹巻きはとても薄くて、私と同じ肌の色をしていて、目立たないようになっている。こんな細かいところまで配慮してくれる子だったのか…。


 寝室に行って、一度ドレスのコルセット部分を脱いだ。ブラの部分は独立しているので、脱ぐ必要がない。

 ダイアナのくれた腹巻きを脚から入れて、おなかまで通した。すると…


「うわぁ、何これ…、わー、ダイアナぁああ」


 おなかが軽くなり、ウェストに腫瘍のようにくっついていた部分が引っ込んだ…。

 私は慌てて寝室から出てきてしまった。


「あれ…、私の赤ちゃん…どこ…」

『それは、胎盤に影収納を作って、胎児を格納する魔道具』

「マジで…」

『セレスの子を取り上げたり、出産後に聖女アンネリーゼは側室としてお披露目されたりするのに、別の女の赤子を身ごもっているなんて大問題』

「えっ…」


 たしかに、私がマイア姫の子供を身ごもっていると、セレスが知ったら悲しむだろう。

 それに…、えっと私がセレスの側室…。そういえば、そんなことを言っていたような…。ああ…、今回ってそんなイベントもあったのか…。


 ダイアナが気遣っているのは、セレスのことや体面だったのか…。


『期間中その腹巻きを脱がないように。風呂でもね』

「はい…」


『もう、ドリーったらタイミングをわきまえてほしい』

「ドリーの仕業って知っていたんだ…」

『マイア姫のゲノム配列を知りたいってドリーが言うから、教えてあげたらこの始末』

「私、いっつも同意なしに妊まされるのだけど…」

『それは私のせいではない』

「そうだよね…。ごめん…」




 しばらくすると、シルバーの頭のカメラ映像がディスプレイに表示された。時速七〇〇キロでの走行から離陸して、空中で時速三〇キロまで減速。

 減速しながら着陸ではなくて、離陸してから減速って意味不明だ…。この手順は演出のためものであるため、どうしても間抜けだ…。


 馬車が影収納から出て、窓の外が明るくなった。ヒストリア王都の上空だ。

 ディスプレイは、ヒストリア王都の監視カメラ映像に切り替わった。

 王都の空に一瞬にして現れた、翼を伴った白馬。そして、異次元から現れる馬車。そのまま王城に向かっていく。


『上々だね』

「うん。ここに至る前の映像を見なければね」


 お風呂やベッドはご一緒してくれないけど、普通に話はしてくれる。


 空飛ぶ馬車は王城の城壁を越えた。

 そういえば、飛行タイプの魔物とか攻め込んできたりしないのだろうか。領空侵犯もいいところだ。


 空飛ぶ馬車は王城の入り口には着陸せず、王城のかなり高いところの…、ヘリポート?に垂直着陸した。いつの間にヘリポートなんて作ったんだ。あ、ヒストリア王城制圧のときに私がスカート飛行で着陸し部屋の上部分を平らにしたのか。


 それにしても、出発時は助走を付けたのに、到着は垂直着陸なんだ…。


『どういうのがかっこいいか、実験中なんだよ。風魔法がすごいし、ヘリっぽく振る舞うのもアリかと思ってね』

「なるほど」



 馬車から降りるときに、ヘリポートにカローナとレグラが迎えに現れた。あらかじめ連絡してあったんだね。

 さすがにセレスは迎えにこなかった。


 馬車からみんな降りている間に、シルバーは布をまとい、ヒト型に変身。十秒でメイドの姿になった。慣れたものだ。いつの間にか、ヘッドドレスで耳を隠すようになっている。尻尾も背中のリボンに隠れている。

 そして、みんなが降り終わると、馬車をゲートの魔道具に収納した。


「アンネ、ダイアナ、ようこそ」

「カローナ、レグラ、お迎えありがとう」

『カローナお母様、お久しぶりです』


 ダイアナのカーテシーなんて初めて見たような…。ダイアナがどんどん遠くに行ってしまう…。


「まあ、ダイアナは所作と言葉遣いが洗練されましたわね」

『お褒めに預り光栄です』

「逆にアンネは雑になってきてないかしら?」

「ご、ごめんなさい…」


 公爵になったというのに、公の場にあまり出ないで好き勝手やっていたから、所作を忘れてしまったようだ…。



 カローナとレグラに案内されて、セレスの部屋へ。


「よく来てくれたわね、アンネ、ダイアナ」

「セレス、元気そうで何よりです」

『ごきげんよう』


「アンネリーじぇしゃま、ごきげんにょ」

「まあクラリス、上手にできましたね」


 クラリスは四歳だ。一年ほど前に比べると、だいぶしっかりしたね。


『アンネリーゼ様、ごきげんよう』

「リーフ、ごきげんよう」


 五歳のときの私の顔をした、ロリ巨乳で葉っぱ水着のリーフ…。私の趣味丸出しのリーフ…。いやいや、これは私の趣味ではなくて、一瞬の妄想が具現化してしまっただけなのだよ…。


 クラリスはエッテンザムの血を引く者なので、リーフのように強力な光の精霊が付いていても、身体強化で普通の動きをするのがやっとのようだ。この点は、ダイアナも同じ。

 だから、いくら光の精霊が強力でも、リーナのような爆弾娘になったりはしないようだ。



 セレスのおなかは、もういつ生まれてもおかしくないという大きさだ。

 セレスの隣には、ヒーラーガールズ、ヒストリア王都支部のセンター、ヒーラーガールFがいた。この子がセレスを見ていてくれたんだ。

 センターを務めるだけあって、治療魔術の腕は良い。いや、成績優秀で治療魔術の腕が良いからセンターになっているんだった…。


『出産予定、明日の昼』


 ダイアナは自分のスマホを見てそう言った。

 ギリギリじゃないか。

 今回の訪問はシルバーの勧めだったのに、実はダイアナの陰謀だったのかな?


「私のスマホのアンネもそう言っているわ。」


 自分のスマホが出産予定日を教えてくれるんだって…。


「アンネリーゼ様、一度セレスタミナ様を診ていただけますか」

「ええ、そうします。セレス、触りますよ」

「はい」

「あ、ここ残っていますね」

「あああん…。ヒーラーの子も気持ちいいけど、やっぱりアンネのがいちばんねー」


 セレスはヒーラーガールFに施術を受けていたようだけど、取り切れていないツボが残っていた。

 そういえば、私はツボ、毒素といったものが黒ずんで見えるのだけど、どうやったらそれを伝授できるだろう?


『カローナお母様、お話があります』

「何かしら」

『お部屋を貸してください』

「分かりましたわ」


 ダイアナはカローナと一緒に、どこかの会議室に行ってしまった。



 私はというと、セレスの部屋のソファーでくつろいでいる。

 以前ならヒストリア王国の領地を改革して回っていたけど、全部の領地を近代化できたし、今回は私は身重で動きたくないので、ほんとうにマッタリしている。

 いや、ダイアナの魔道具のおかげで、重くないのだけど…。重くないのに、質量感はある。不思議な感じだ。


 シルバーは夜通し走り続けたので、別室でお休みしている。ほんとうは私が疲れを取ってあげたいのだけど、私はセレスのことを見なければならないので…。

 代わりにシルバーのことはアリシアが癒してくれている。お嫁さんどうしで仲良くしてくれるのは嬉しい。


「ねえ、アンネ。私、最近リーフがはっきり見えるようになってきたの。それで気がついたんだけど、アンネって後光が差していると思ったら、それってアンネの光の精霊だったのね…」

「そうですよ」

「そんなすごい精霊、どこに行けば見つかるのかしら」

「これは最初は、セレスに付けた精霊と同じくらいだったのですよ。私がお母様のおなかの中にいるときに、知らずに育てていたようなのです」


「そうなのですね!アンネリーゼ様はやっぱりすごいです!あっ…、申し訳ございません…」


 ヒーラーガールFが、私とセレスの会話に口を挟んでしまい、気がついて気まずくなったようだ。


「いいえ、構わないわ。あなたの光の精霊もかなり大きいものね。アンネに憧れるのは無理もないわ」

「はい!アンネリーゼ様はヒーラーガールズの憧れなのです!」


「ねえアンネ、あなた少し体調が悪いんじゃない?」

「そ、そんなことはありませんよ」


 さすが私のお嫁さんだ…。私のちょっとした変化にも気がついてしまうんだ。

 嬉しいけど今は困る。


「たしかに、ほんの少し顔が青白いと思います」

「ロイドステラの王妃になってから少し忙しくなりましたからね」


 何が忙しかったなんてとても言えない。

 ヒーラーガールFは、肌の色で血のめぐりが悪いのを見抜くとは、さすがとしか言いようがない。

 私のように黒ずみが見えたりはしないようだけど、子宮に血が集まっているのを感づかれたら困るところだった…。


 なんでいつも、私は浮気がばれないように必死に隠しているような気持ちでいなければならないのだろう…。


『出産予定が早まりました。明日の午前四時ごろになりそうです』


 セレスのスマホのエージェント・アンネリーゼから知らせがあった。


「私たちの訪問によって、普段より身体を動かしたり興奮したからのようですね」

「そうよ。アンネが来てくれて嬉しかったんだから」




 ダイアナとカローナが戻ってきた。

 カローナはちょっと血の気が引いている。まさか、ダイアナを妊ませちゃったとか…。私が狙っていたのに…。

 って、そうじゃない。これは、私やセレスを妊ませたときの顔ではない。

 知りたいけど、話してくれるまで待とう。大事な人の教えたくないことを無理矢理知ろうとは思わない。



 その後、昼食を取り、午後もマッタリした。

 少し早めだけど、セレスとカローナとレグラの三人とお風呂に入った。聖女の守り手、シルバー、アリシアは、私のセレスたちだけとの時間を作ってくれた。


『クラリス、今日はダイアナお姉ちゃんと過ごそう』

「はーい!」


 カローナにそっくりな、腹違いの姉妹。今日は姉妹水入らずか。


 そして、夕食を取らずに、早めに就寝。

 午前四時予定の出産に備えた。寝るのも私とセレスとカローナとレグラだけだ。


 夜中に、私は胸騒ぎがして目が覚めた。ベッドの側に置いてあったスマホを見ると、午前二時だった。

 そして、エージェント・アンネリーゼが表示されて、


『もうそろそろ陣痛が来ていると思われます』

「ちょっと早いですね」

『あなたが一緒にいると興奮してしまうようです』

「恥ずかしいです…」


 このままだと、目が覚めるほど痛みが強くなって、たたき起こされるというのが目に見える。

 セレスの背中の辺りを軽く揉んで、痛みを和らげた。


「ん~、アンネ…、好きよ…」

「えっ、私もです…。って寝言か…」


 セレスが可愛すぎて、寝込みを襲ってしまいたい…。

 今までもマッサージには、私を恋の対象と見なせるようになる魔法とか、愛とか、洗脳とか、いろいろ込めてしまっていたけど、今セレスの痛みを和らげているマッサージに邪な気持ちがないとはいいきれない。


 痛みは和らげているけど、圧迫感までは取り切れない。セレスの顔には汗が沸いてきた。


「セレス…、お休みのところ悪いけど…」

「嫌よ…、アンネ、行かないで…」


 こんな寝言聞いたことない…。寝言どころか、ガシッと背中に手を回して抱きついてきた…。

 セレスの寝込みを襲おうととか考えていたのに、寝込んでいるセレスに襲われてしまった…。


 圧迫感のせいで悪い夢を見ているようだ。変な体勢で寝て、呼吸がしづらかったり、血のめぐりが悪くなると、体勢を変えることを促すために、悪夢を見せられることがある。

 悪夢を見せたくないので、しかたがない、起こそう。気持ち良く起きてもらおう。


「セレス、起きてください。私はここにいますよ」

「あああん…。あ、アンネ…。もう会えないと思ったわ…」


 セレスは涙を流しながら目覚めた。


「さあセレス、陣痛が始まっています。セレスが痛みに気がつく前に和らげ始めてしまったので、あまり痛くないかもしれませんが、圧迫感が強くなってきたでしょう」

「ええ、そうね。もう四時なのかしら」

「まだ二時なのです」

「そう。アンネと一緒に寝られるのがほんとうに嬉しかったのよ。それに、フェニラに早く会いたいわ」

「名前は決まっているのですね」

「うふふっ」


「カローナ、レグラ、起きてください」

「あああん…。あ、アンネ…。陣痛が始まりましたか?」

「あああん…。せ、セレスタミナ様!ご無事ですか!」


 私はカローナとレグラの背中を押して、無理矢理起こした。レグラは若干寝ぼけている。


「それでは寝起きのところ申し訳ないですが、二人とも準備お願いしますね」

「「はい!」」


 準備といっても、寝る前にほとんど済ませてある。お湯は部屋に備え付けの水道の魔道具から確保できる。



「ふんーっ…!」

「おぎゃあ、おぎゃあ!」

「生まれましたよ!」

「まぁ!可愛い!」

「おめでとうございます!セレスタミナ様!」


 何度も赤子を取り上げたけど、「生まれました、女の子です」なんてのは、いつしか聞かなくなった。男が生まれる可能性など、誰の心の片隅にもなさそうだ。


 フェニラを綺麗にしてからセレスに渡した。

 フェニラはセレスとほぼ同じ色の金髪だ。


「フェニラ!私とアンネの子!」


 セレスも私の子がほんとうに欲しかったんだなぁ。

 フェニラ…、なんて可愛いんだろう…。やっぱり王族の子はひと味違う。

 クラリスがないがしろにされなきゃいいけど…。

 クラリスはかなりカローナに似ているけど、フェニラは私とセレスの両方に似ている。


 私は、色っぽいカローナ似のダイアナも可愛いと思うし、私とお嫁さんたちに半分ずつ似ている他の娘たちも可愛いと思うのだけど、お嫁さんたちはどう思うのだろう。


 ドリーに産んでもらい影収納に入れておいた、私の娘である精霊をフェニラに付けた。リーフはヒト型から光の玉には戻れないようだけど、今回は普段光の玉で、必要なときに主人同じ形を取れる設定、つまり、他のお嫁さんたちと同じ仕様だ。

 水の精霊も付けた。あとは、学校にお任せ。


 ちなみに、私のおなかには、私の娘である光と土の精霊と水の精霊だけでなく、火も風も電気も闇も、全部の精霊が付いている。もちろん、私の精霊は別に、私の周りにいる。

 火とかやめてほしい…。おなかが燃えるのでは…。

 ほんとうに転生者ではないのだろうか。スマホの胎児教育、半端ないんだけど。




 その後、セレスとフェニラの経過観察のため、数日マッタリとすごした。

 部屋にはレグラと、私の頼もしいメイドたち。


 シルバーとアリシアとクラリスは、王城内で遊んでいるようだ。


 ダイアナとカローナは毎日どこかに出かけているようで、昼間は見かけない。たまには親子水入らずでいいよね。

 でも、帰ってきたカローナの顔色が悪いのだけど、カローナがダイアナに苛められていないかな。



 そして、今日はフェニラのお披露目。

 王城の前の広場に王都民が集められた。


 フェニラを抱いたセレスと私、そしてクラリスはバルコニーに出る。


「皆の者よ!私は聖女アンネリーゼを第二夫人に迎え、聖女アンネリーゼの子、フェニラを授かりました!」

「「「「「おおおおおお!」」」」」


 セレスはフェニラを高く掲げた。

 首の据わっていない身体で高く掲げられ、怖い思いをした身としては、やめてあげてほしいと思う。


 聖女アンネリーゼ…、人気だね…。カローナと結婚してクラリスをお披露目したときより盛り上がっているんじゃないかな。

 第二夫人なんておおっぴらに自慢するものじゃないと思うんだけど、それは前世の倫理観から来るものであって、この世界では普通なんだね。

 私には何人もお嫁さんがいることをちょっと恥ずかしいと思っているのだけど、ほんとうなら自慢していいのだろうか。




『ママ、ほら』

「えっ…、ヤバっ!」


 ダイアナは私にスマホを見せた。映っているのはお嫁さんたちの出産予定日リスト!


「エリスの明日じゃん!」

『これでもお披露目を急かしたんだよ。感謝して』


「どうしたの?アンネ」

「きゅ、急用を思い出しました!」

「そう…。王妃は忙しいのね…」


「そうですわ。王妃は忙しいのです。王がサボり気味なので」

「私は身ごもっていたのよ。少しはいたわってよ」

「身ごもる前から、クラリスと抜け出していたでしょう」

「ちょっとぉ、アンネに言わないでよ」


「アンネはお仕事で忙しいのでしょう。さあ、準備なさって」

「あ、ありがとう」


 私は忙しい…。私のお仕事…。出産の立ち会い、というか産婆…。お嫁さんの体調管理…。いや、ここ一年間のお仕事…子作り…。どうしてこうなった…。



『ママ、私はやることがあるから、一人で帰って』

「えっ、馬車は?」

『私は移動手段を持っているから、気にしなくていい』

「そうなんだ…。わかった…」


 移動手段って何だろ…。ブロンズは連れてきてないし。


 私とシルバーとアリシアと聖女の守り手はヘリポートへ移動した。

 フェニラを抱いたセレス、クラリスとカローナ、レグラ、そしてダイアナが見送りに来てくれた。


 シルバーはゲートの魔道具から馬車を出し、アリコーン姿に変身。

 ああ、よく見たら、服が破れる前に、身体に白い毛が生えてきているね。私の変身は、胸がはち切れて丸見えになっていたと思う…。

 今私が変身したら、馬やドラゴンが生まれたりするのかな…。怖いからやめよう。


 プラチナはヒト型なのだけど、そもそも馬になれるのだろうか。シルバーが妊娠期間を馬型で過ごせば、プラチナは馬として生まれたのだろうか。私は馬に遺伝子を提供したことに…。

 あーもう!怖いから、考えるのをやめるんだってば!


「アンネ王妃様、行きますよ」


 イミグラに急かされた。

 「アンネ王妃様」はオフのときのみって言ってあるのに、私が緩すぎたから、ここはオフだと判断されたようだ…。

 考え事をしているうちに、シルバーの変身も終わり、馬車も準備できていたらしい。


「アンネ、また来てね!ほら、フェニラも挨拶して」


 セレスはフェニラの手を掴んで、バイバイと手を振らせた。


「ふふっ、生まれて数日の新生児に無茶ですよ」


「アンネ、お体を大切にしてくださいませ」

「アンにぇリーじぇしゃま、お元気で」

「アンネリーゼ様、またおいでください」


「カローナ、クラリス、リーフ、レグラ、ごきげんよう。さあ、風がすごいので下がってください」


 魔道馬車には羽根のようなものがないので、風を当てても無駄が多い。というか、ヘリと違って、下から上に風が吹く。

 シルバーも羽ばたきとともに風魔法を使って浮き上がる。


 窓からはまだ外の景色が見える。

 馬車はヒストリア王都の上空を駆けながら、ゲートの魔道具によって影収納に格納される。

 窓が真っ暗になったのでディスプレイを、王都の監視カメラからシルバーと格納中の馬車を見上げシーン。

 馬車が完全に格納されると、シルバーは力強く羽ばたき時速三〇〇キロまで急加速。あっという間に王都の城壁を越えた。


 これなら恒星間ワープっぽい。だけど、誰にも見えなくなった辺りで着陸して走り始めるんだよな…。シルバーに頑張ってもらうしかない。

 監視カメラを巻き戻して、私たちが去ったあとのセレスの様子を見てみたけど、さっさとヘリポートから引き上げていたよ…。かっこいいだけじゃ空飛ぶ馬車は売れないかも。



「はぁ…疲れた…」

「お母さん、マッサージしてあげる!」

「ありがとう、アリシア。あああん…」




「あれ…」

「お目覚め、アンネ王妃様」


 目が覚めると、ミニスカメイドのレルーパの姿。他の子はいない。


「今何時…」

「午前四時です」

「出発は午前だったはず…」

「相当疲れていたみたい」

「産婆なんて妊婦の仕事ではありませんでしたね…」

「今日はエリスお嬢様の出産予定日。そのあとも六人のお嬢様の出産予定。重なってる日もある。それから、お嬢様たちとの結婚式。そのあとも、数日おきに五人の使用人の出産予定日が目白押し。そのあと、アンネ王妃様の出産予定。それからマイア様の出産。あとは一〇〇人以上の使用人の出産予定」

「うわぁ…」


 魔道腹巻きのおかげでおなかは重くないけど、無理がたたっていたらしい。

 途中から数えられなくなってしまったのだけど、一〇〇人以上いたんだ…。


「あと、腹巻き外さないと、マイア様に堕ろしましたねとか言われて殺される」

「それもそうです…」


 腹巻きも取り上げられた…。


「でも二十時間くらい寝られてすっきりしたようです」

「エリスお嬢様の予定は午後なので、このまま馬車で食事を取ってゆっくりしたほうがいい」


 レルーパの物言いはぶっきらぼうだけど、たぶん五人の中でいちばん気遣いができるし、料理もうまいと思う。


 そういえば、慌てて帰ってきちゃったけど、セレスの次はカローナが子供を欲しいと言っていたような。あげなくてよかったのかな…。



『そろそろ移動してください』

「わかりました」


 エージェント・アンネリーゼに促されて、魔道馬車からエリスの執務室に移動。

 ドアの前まではレルーパが付き添ってくれる。調子が万全とはいえない今は、護衛兼メイドが心強い。


 エリスは無事出産。影収納にしまっておいた、私の娘精霊と水の精霊を付けた。


 その後、立て続けにクローナ、メレーナ、ソラーナ、アレスタ、グリメサ、タルメアの出産。

 何より大変だったのが、グリメサとタルメアの出産日が重なったどころか、出産時刻まで十分差というレベルで重なったことだった。私はそれぞれの執務室を往復して、ほんとうに大変だった。


 そのあと、エリスたちとの結婚式。ヒルダ、クレア、ロザリーとは一人ずつ挙げたので、エリスたちとも一人ずつ挙げた。彼女たちは正式な側室として認められることとなった。


 ロイドステラでは私がマイア姫の子を身ごもっていることは周知されているのだけど、他人の子を身ごもったおなかの大きな新婦ってどうなの?相手が王だからアリなの?

 アリなのか…。アリにするのか…。最高権力に近い私が率先して前例を作っているのだから、今後みんなそうするんだよな…。

 そういう世界もアリってことで…。それをAIも認めているから大丈夫なんだよね?



 数日おきに貴族のお嫁さんたちとの結婚式を挙げるかたわらでは、使用人たちの出産も同時進行した…。出産時刻がだいたい分かっていたので、出産と結婚式が重ならないようにした。

 夜中に出産して、その日の午後に結婚式とか、ちょっとつらかった…


 そして、出産する使用人第一号は…、ヒーラーガールAことリフラナ。


「アンネリーゼ様、私の子を取り上げていただき、ありがとうございました!」


 ヒーラーガールは健康優良児なので、出産直後にすぐに活動可能。


「明日の出産からは、私が取り上げます!アンネリーゼ様は出産に立ち会っていただくだけで大丈夫です!」

「えっ、そんな…、大丈夫なのですか?」

「何をおっしゃいますか。私は千の赤子を取り上げた、産科のベテランですよ」

「そ、そうでした…」


 ヒーラーガールズの治療院は産婦人科もやっているのだった。

 あれ、でもロイドステラで同性婚法が施行されて、すでに千人も診たのか…。治療院…、ブラック企業になっていないかな…。


 これから一〇〇人の子を取り上げなきゃいけないと思うと、さすがに気が重かったのだけど、リフラナがやってくれるなら…。

 一応、私の娘なんだから、立ち会いだけはしたい。




 それから、コーリル、エミリーの出産。そのあと、ヒルダ・クレア・ロザリー・マイア姫のメイドと騎士六人。


 コーリルは日中は子供を保育園に預けて、私に付いてくれることになった。


 エミリーは私の子を授かると、お母様と一緒の部屋で、仲良く子育てするらしい。



 ヒルダたちのメイドと騎士も、日中は子供を保育園に預け、元の職場に戻った。

 代わりに付いていたヒルダたちのメイドが、私との子を求めてやってきた…。マイア姫の残りのメイド二人と騎士一人もだ。

 ごめんなさい、もう無理…。


「それなら、私が不妊治療を施します。アンネリーゼ様の髪の毛をときどきいただくだけでけっこうです」


 なんと、リフラナが私の遺伝子を使ってやってくれるらしい…。そうだ。女どうしで子供を作る魔法を使えない者は、ヒーラーガールにやってもらうのだった。

 いや、まあ、たんに事務的に授けるだけなら、それほど気疲れすることもないのだけど、夜の営みがね…。

 愛のない子でもいいっていうのなら、どうぞ…。みんな、そんなにまでして私の遺伝子が欲しいのか…。


「実は私はこうなることを見越して、アンネリーゼ様の元に来たんです」

「ほんとうに助かります…」


 でもそれなら、自分が子をもらう必要はなかったよね…。便乗だよね。


 ちなみに、本人の同意なく遺伝子を採取して子種を作ることは法律で禁止されている。落ちている髪の毛や皮膚で作れてしまうのは問題だ。

 今のところヒーラーガールズしかこの魔法を使えないのだけど、監視カメラやスマホが厳しく監視してるらしい。

 逆にいうと、スマホの立ち会いの下であれば、口頭で同意を得るだけでよい。


 結局、私は完全に種馬になってしまった…。




『本日、午後三時に出産予定です』

「今日は誰…」


 もう、エージェント・アンネリーゼに出産予定を聞かされるのはうんざり。


『アンネリーゼです』

「よく聞く名前………。って私か…」


 もう、おなかが苦しい。肩幅より大きなスイカ二つとは別に、ウェストより大きいスイカが一つぶら下がっている。


「アンネお姉様、今日は一緒にいますね」

「ありがとうございます。心強いです」


 マイア姫だってあと十日で出産の予定だ。ウェストより大きなスイカをぶら下げている。


「一緒に妊んだのに、アンネお姉様のほうが早いのですね。アンネお姉様は血の巡りが良いからですね」

「そ、そうですね」


 ほんとうは、数日前にドリーに妊まされたからね…。



「アンネちゃん、今日生まれるんですってぇ?」

「お母様。見守ってくださるのですね」

「もちろんよぉ」



『アンネちゃ~ん』


 ドリー!ドリーが見えている者にドリーが来たことを口外しないように言ってください。


『わかったわ~』


 ドリーが訪れた理由を説明することはできない。とくにマイア姫に。



「そろそろです」

「お母さん、任せて」

「私もお手伝いします」

「アンネお姉様!応援しています!」


 私の次にマッサージうまいのはアリシアだ。その次は、ヒーラーガールAことリフラナだ。最強の布陣である。


「あああん…」


 私は痛みを感じることはほとんどなく、軽く息むだけで産むことができた。

 いや、この子、自分で這い出てきた気がする…。


「けほっ、けほっ…。おはちゅにお目にかかりましゅ、アンネリーじぇおかあしゃま、マイアおかあしゃま」


「えっ…」


 ダイアナよりすごいの来た…。産声の代わりに、羊水を気道から出すための咳と、舌足らずだけど立派なご挨拶、いただきました…。


 この子…、でっかい…。四キロ以上ありそう。どおりで苦しかったわけだ…。二歳のころから太くなっていない私のウェストに、こんなものを格納するスペースはないから、外付け状態だったのだ…。

 この子の髪はマイア姫よりほんの少し赤みがかった金髪だ。私の髪色が強く出たのかもしれない。金のブロンドというより、金属の黄金に近い。でも金髪でよかったね。

 この子…、まあ姫と私の子だとはっきり分かるけど、マジで美人…。世界一といっても過言ではない…。


 マイア姫、早く名前を付けてくれないかな。いつまで「この子」とか呼んでればいいのだ。


「まあ!さすがアンネお姉様の産んだ子!この世のものとは思えないほど美しいだけではなく、とても聡明なのですね!」


 生まれたときからしゃべる赤子に誰も驚かないことに、私はもう驚かないぞ。

 リフラナはマイア姫に赤子を渡した。

 マイア姫は赤子を高く掲げた。


「アンネお姉様!私の子を産んでくださってありがとうございます!」

「あっ、あの…、高く掲げられると怖いのですよ…」

「あら、ごめんなさい」


 この注意を何人のお嫁さんに言い続けているか数え切れない。


「だいじょぶでしゅ。首のトレーニングはしてきまちた」

「ほんとうに優秀なのですね!」


 私も普通の子を産みたかった…。


「ところで、アンネお姉様、この子の名は?」


 産んだ者が名付けるって決まってるんだっけ…。完全に頭になかった…。


「ふ、フラベーナです」


「フりゃベーにゃ。わたちのお名前…。あにがとごじゃいまちゅ!」


「フラベーナ、よく言えましたね!アンネお姉様、ぼーっとしていないで褒めてあげてください」


「よ、よくできましたね」


「さあ、アンネお姉様、ご褒美に母乳をあげてはどうです?」

「そうですね」


 マイア姫はそう言いながら、私にフラベーナを渡した。ほんとうに首が据わっている…。


 私はベッドに横たわり、隣にフラベーナを寝かせて、おっぱいくわえさせた。

 母乳を与えると母性が芽生える。ああ、私の子…。私がおなかを痛めて産んだ子…。あまり痛くなかったけど…。

 いや、十ヶ月間のつらさがすべて報われる。この子のためなら、どんなにつらいことでも乗り越えられる。


「今度は私に授乳させてください!」


 マイア姫は、フラベーナを挟んで私とは反対側に横たわった。すると、フラベーナは寝返りしそうな勢いで、マイア姫のほうに向いた。そしてマイア姫はおっぱいをフラベーナにくわえさせた。


「まあ~!可愛い!私の娘!」


 ちょっと変な子だけど、気に入ってくれたようで何より。 

 いいのかな…。すでに、一歳のデルスピーナより余裕で知能が高いんだけど…。


『うふふ。可愛いけど、私は抱けないのね~。残念だわ…』


 それにしても…、光の魔力と土の魔力がかなり高い…。

 遺伝子はマイア姫のだけど、ドリーが魔力を込めたからドリーの子ともいっていいのだろうか。三人の合作…。

 土の魔力は、私を余裕で超えている。光の魔力も数年で超えるだろう。他の魔力も私よりは高くなると見込まれる。

 でも、私がドリーに魔力を注いで作った精霊の子とは違って、ドリーの半分の魔力を持っているというワケではないようだ。


 転生者ではないけど、超人ができてしまったのでは…。

 私とドリーの産んだ精霊を胎児に付けるには、おなかの中での蹴りに耐えうる強靱な母体が必要になる。火や電気の精霊もいつのまにか付いていたし、胎盤を燃やされたり電撃を受けたりしても耐えなければならない。私以外の母体では、このやり方で胎児の魂百まで計画を実施できない。

 あ、アリシアならできるかな。


 そういえば、かなり早い時期からおなかを蹴られて痛かったけど、いつしか蹴られなくなったな…。すでに喋れるくらいだから、エージェントに蹴るなって言い聞かされたとか?物わかり良すぎだろう。



「マイアちゃん、私にも抱かせて~」

「はい、リンダお義母(かあ)様」


「初めまちて、リンダおばあしゃま」

「ホントに可愛いわね~!」

 

 マイア姫がお母様のことをお義母(かあ)様と呼ぶなんて…。

 一年前からお母様は私のすべてのお嫁さんのお義母様なのだけど、私が子供を産んだことでマイア姫はお母様のことをお義母様と認識するようになったのだろうか。


 うわぁ、嫁姑問題とか起こらなきゃいいけど…。いや、お母様はマイア姫の姑以前に配偶者の嫁でもある。

 マイア姫は私の他のお嫁さんについて、すでにあきれ果てて許してくれているような状況だ。それに、マイア姫は王であり、お母様は何の身分も持ってない。

 嫁姑問題なんて起こらないはずだ…。




 さて、やっと身軽になった!次は十日後にマイア姫の出産だ!

 といいたいところだけど、使用人の出産が三件入っていた…。

 でも、このままマイア姫と仲良くペア出産の雰囲気を崩したくないので、申し訳ないけど、間の使用人出産の立ち会いはせずに、完全にリフラナに任せたよ…。

 マイア姫のあとに母乳をあげにいくから勘弁して…。


 というわけで、


「アンネお姉様ぁ、痛いですぅ」

「はぁい」

「ああああん…」


 猫なで声で陣痛を訴えるマイア姫。

 ここ十日間、マイア姫とは甘い夫婦関係を築いてきた。大変な十ヶ月間だったけど、二人で子供を産み合うってのは、この上ない幸せに思えてきた。

 エッテンザムの先祖も同じようにしていたりして。


 今日は、私一人で取り上げる。私の出産ではリフラナが必要だったけど、マイア姫にとっては私以外のスタッフは不要だ。

 今回は、親も入れないんだって。ほんとうに私だけ。二人っきりの出産。


「ふぅんーーんっ!」

「おぎゃああ」


 よかった。普通の産声を上げる子だ。


「ああん、可愛い!あなたの名はグリシーラよ!アンネお姉様、高く掲げないのなら、私にください」

「あ、はい」


 自分が怖かったことを自分の子供にさせるのは忍びないのだけど、この世界の常識のようなのでしかたがない。

 グリシーラは、マイア姫やデルスピーナと同じ金のブロンドだ。


「フラベーナのようにしゃべったりはしませんね。でも可愛いです!」


 マイア姫が胎児の魂百まで計画をやると、おなかを突き破ったり燃やされたりするからやめた方がいいよ。


「さあ、お飲みっ!」


 人間の赤子は、唇に触れたものに吸い付く能力と、不快感を泣くことで表す能力だけを持って生まれてくる。けっして、挨拶したりしないものだ。


「あぁ…、ほんとうに可愛い…。今度はアンネお姉様があげてください」

「はい」


 フラベーナのときと逆だ。私は、グリシーラを挟んで、マイア姫と反対側に横たわり、グリシーラにおっぱいをくわえさせた。もちろん、グリシーラは自分で反対に振り向いて、かってに吸い付いたりしない。私がおっぱいをグリシーラの口元に運んであげなければならない。

 これがほんとうの新生児…。




 その後、出産に立ち会えなかった使用人の子に母乳を与えにいったり、他の使用人の出産に立ち会う日が続いた。

 マイア姫との夫婦気分がいっきに冷めてしまった…。


 ごめんなさい…。もう反省します。これ以上、嫁も子もいらないです。


 こうして、アンネリーゼ王妃の、一夜限りのお仕事の募集は打ち切られることになった。 

 出産はリフラナにお任せ。立ち会いもなし。


 立ち会いはしないけど、私とドリーで産んだ精霊はリフラナに預けておいて、産まれた子供に付けてもらうことにした。強い精霊を付けることで生きていくのが楽になればよいと思う。


 付けた精霊や顔を見れば分かるかもしれないけど、母乳を与えなければ母性が芽生えることもなく、子供と認識することもないだろう。


 それから、アンネリーゼ王妃の子であると口外するのは禁止。もともと、側室ではない妾の子は、貴族当主の子という扱いではない。

 でも、バレてもお咎めがあるわけではない。妾の子というのは簡単にばれるものであり、あからさまに言いふらしたりしなければいいだけである。以前から養子にすることだってあったのである。



「アンネお姉様、もういいのですか?」

「なんでこんなことになったのでしょう…」

「アンネお姉様が嫁と一緒にメイド可愛がってしまったから、境界線を引けなくなってしまったのでしょう」

「ああ、そうでした…」

「もう、メイドに手を出すのはやめましょう」

「でも…、私はメイドに限らずすべてのものに健やかに生きてほしいのです…」

「では国民すべてに子を授けますか?」

「なぜそんなところに行き着いてしまうのやら…」


 私がみんなに元気になってほしいという願いを込めてマッサージをすると、私の愛を感じて私の子を欲しくなってしまう…。って飛躍しすぎでしょう…。

 私を恋の対象と見なせるようになる魔法は抑制できるようになったはずなので、ここ数年その魔法を使っていないはずなのだけど、それまでに振りまいてしまった分がすでに収集付かないほど広まっているのだろうか…。


 カイロプラクティックのお店を一般開放することはできないのだろうか…。


「もう他の嫁を捨てて、私だけを見てください」

「せめてヒルダたちだけでも…」

「はぁ。不本意ですけど、しかたがないですね」

「あと、聖女の守り手も…」

「だから、メイドになった者を入れるから…」

「あとお母様とシルバーとアリシアも…」

「だから、母親とか馬とかドラゴン入れると、どこで線を引くのですか」

「うぐぅ…」


「アンネお姉様は我が儘ですね。すべての者を愛し、救いたいなどと言うのは聖女だけです」

「すべての者ではないんです。今一緒に寝ている者だけでも…」

「だから、アンネお姉様のメイドを連れ込むと、私やヒルダのメイドが寂しがるのです」

「ではヒルダのメイドたちも…」

「だからそれを解禁したから、すべての使用人が押しかけてきてしまったでしょう」

「うぐぅ…」


 何がいけないのかな…。聖女の守り手がメイドじゃなければいいのかな…。妾専門?後宮でプー太郎させていればいいのかな…。

 シルバーとアリシアもただのペットとして置いておけばいいの?ベニシアとシンシアはペットとして置かれているか…。

 お母様は?いや、母親をプー太郎として後宮に置くのはアリだよね…。マイザー前王の息子の妻とか、普通にプー太郎として後宮にいたよね?


 でも、まともな神経の持ち主なら、仕事もせずに金食い虫となるのは耐えられないんだよね。聖女の守り手もお母様も、いたたまれなくなって仕事を騎士や政務官の仕事に就いたんだ。


 妾は職業じゃないからなぁ。娼婦?はぁ…。前世の倫理観から、そういうのは無理…。私を楽しませることが仕事なんて無理。


 うーん。これは私が、女性の社会進出を促進した結果だろうか。この世界でも女は外の仕事をせずに家を守る、みたいな概念はあった。それなのに、女性が仕事をする姿を私とダイアナが見せてしまったから、みんな仕事をせずにはいられなくなってしまったんだ…。

 そうだよ。みんな専業主婦になってくれればよかったのに…。もう遅い。


「考えはまとまりましたか?」

「まとまりません…」

「アンネお姉様のやりたいことを教えてください」

「えっと…。貧しい国民に仕事を与える。女性の社会進出。マッサージのお店を開く」

「とりあえず、できそうなことをやってください。聖女であるアンネお姉様の欲望は、どれも国にとって利益になりますから」

「はい…」


「とりあえず、アンネお姉様の嫁をこれ以上増やすのは禁止にします。今、風呂やベッドを共にしている者が、アンネお姉様の嫁です。私と私の娘たちを除いて二十三人ですね」

「はい…」


 でっかい一つのベッドに、いつも一緒に寝ている私の嫁たち…。というか、嫁たちとその娘たち…。


 マイア、デルスピーナ、フラベーナ、グリシーラ。

を除いて…、


 ヒルダ、パリナ、シンシア。

 シンクレア、プレナ、ベニシア。

 ロザリー、ペルセラ。

 イミグラ、イスマイラ。

 ゾーミア、ゾーラ。

 レルーパ、エレナ。

 マクサ、リザベル。

 アマージ、ナーラ。

 リンダ、アルゾナ。

 シルバー、プラチナ。

 アリシア。

 ドリー。


 二十四人じゃない?

 あ、マイア姫にはドリーが見えないのか。

 トレーニングを頑張ってはいると思うけど、相変わらず不遇な土魔法。


 でも意外に少なかった。他に誰か忘れていないかな…。

 五十人部屋なのにスカスカでちょっと寂しい。


 そうだ…。

 クローナ、メレーナ、ソラーナ、エリス、アレスタ、グリメサ、タルメアとその娘たちが別室になってしまったんだ…。法律上認められた側室なのに…。

 いや、側室は正室と一緒に寝たりしないか…。


 寝室にはマイア姫やヒルダのメイドも出入りする。私のメイドとなったコーリルとリフラナもだ。

 それなのに、この仲間には加わることができない。メイド扱いのイミグラたちがいるのに…。

 ちょっとメイドたちがギスギスしている…。




「アンネリーゼ様!私の父、母、弟の横領の摘発で廃嫡させ、自動的に私が爵位を継ぐことになりました」


 鼻息の荒いロコイアがやってきた。


「それはおめでとうございます!」


 ロコイアには、ボンクラ貴族である家族を断罪して、爵位を継ぐという課題を出してあった。


「これで、私もアンネリーゼ様と結婚できます!」

「あっ…」


「アンネお姉様、ダメです」

「ロコイアは私と結婚するために家族を捨てたんです。爵位を継いで、領地の改革ができるようになったら、私と結婚するという約束だったのです…」

「はぁ…」


「マイア様…、何がダメなのでしょうか…」

「アンネお姉様が嫁を増やすのは禁止したばかりだったのです…」

「そんなぁ…」


「マイア様、約束なので…」

「いいでしょう。中央のアレスタたちと一緒に仲間になった子ですからね。結婚は許可します。でも、寝室は別です」

「えっ…、分かりました…」


 胸が痛い。家族を家から追い出して平民にしたのだ。領地には代官を置いて、離宮に執務室を作って、リモート領地経営する予定だったのだ。

 今まで一緒にすごした家族を捨てて私に嫁ぐ覚悟をしてきた結末がこれでは…。


 ああ、私はロコイアに恋をしているんだった…。ロコイアが悲しい思いをしていると、私の胸が苦しい…。


「あの…、子供は…」

「はぁ…。アンネお姉様…」


「最後です…。最後にします…」

「ありがとうございます!アンネリーゼ様!」


「はぁ…」


 マイア姫に呆れられてしまった。いや、とうの昔に呆れられていると思うけど…。


 でも、ロコイアと結婚して子を授けることは許された。



 その夜…。


「アンネリーゼ様…」

「ロコイア…」


 メタゾール発展の秘密を盗み出して贅沢をしようなんて、見当違いの悪巧みをするために、私に近づいたダメな子。

 メタゾールでぬるま湯に浸かっているちに、当初の悪巧みも忘れてしまったダメな子。

 育ててくれた家族を切り捨てられず、なかなか改革を進められなかったダメな子。


 そして、ついに自分の家族を裁く決意をした、勇気ある子。


 ダメな子ほど可愛い。ダメな子ほど育て甲斐がある。


 腐っても侯爵令嬢。それを私が磨いた。可愛くないはずがない。


 私はロコイアと一つになった。


 これで新しい子とは最後にするんだ…。




 数日後。


『ママ、話がある』

「ダイアナ、どうしたの?」

『魔道ルームで二人きりで』

「えっ?うん」


 ダイアナは普段無表情だが、今日は思い詰めているように見える。

 二人っきりって、良い響き。告白かな?


『セレスの出産のとき、カローナと旧エッテンザム公爵家の屋敷に行った』

「そんなところに何の用が?」

『それはね…』


 エッテンザムの歴史を調べたらしい。なぜ、エッテンザムが光魔法を禁止されたのか。エッテンザムの者の性質など。


 かつてエッテンザムは淫魔と呼ばれた種族だった。サキュバスというやつだ。

 本来なら男を誘惑して陥れる種族であったが、あるとき魔女狩りに遭い、ひとつの個体を残して全滅してしまった。

 そのときに残った個体は突然変異したものであった。その個体は、男ではなく女を好むという性質を持っていた。

 さらに、その個体は己の欲望を満たすために、女どうしで子を作る光魔法を編み出した。

 これが、今のエッテンザムの始まりである。


 その後、その個体は繁殖していき、女だけが住まう楽園が作られた。


 エッテンザムの者は人間の女と交配できるが、エッテンザムの子は、必ずエッテンザムの性質を引き継ぐのだ。

 ダイアナもカローナも、女を好きになり女と交配したがるという性質を完全に引き継いでいるようだ。


 ところがカローナは八歳のときにアンネリーゼに拾われるまで光魔法を禁止されており、女どうしで子供を作るための魔法を使うことができなかった。

 一方で、ダイアナは強大な光の魔力を持つアンネリーゼの血を引いており、さらに胎児の魂百まで計画により、常人ではあり得ないほどの光の魔力を得るに至った。

 その結果、ダイアナは女どうしで子供を作るための魔法だけでなく、古来の淫魔としての本能も蘇らせてしまったのだ。


「つまり、女の子とにゃんにゃんしたくてしかたがないってこと?」

『そう。去年初潮が来てから突然』

「っていうか、最近メイドとにゃんにゃんしているの?」

『うん』

「メイド、子供できていない?」

『私が襲いようがないように、月経前のメイドには強制的に生理休暇を取らせている』

「じゃあ、ダイアナに子供ができていない?」

『私の排卵日には、メイドを近寄らせないようにしてる』

「最近私を避けていたのも同じ?」

『ママと一緒に風呂に入ったり寝たりしたら、たぶんめちゃくちゃにしてしまうから』


 年頃になって親離れしようとしているのかと思っていた…。でも違った…。なんだか安心した…。


「ダイアナの力では私を抑えられないでしょう」

『ママは、カローナお母様に襲われた記憶がないのでしょう』

「あれは寝ていたから…」

『寝ていても、気配に気が付かないママでないでしょう』

「たしかに…」

『催眠の魔法をかけられたんだよ。セレスのときの監視映像にあやしい魔力に流れが映っていて、そのときは何の魔法か分からなかったんだけど、最近私が使えるようになった』

「なるほど…」


 うーん…。カローナっておとなしそうに見えて、やっぱりヤバい子だったのか…。


『催眠の魔法は保険なんだ。実際は、普段の生活で放ち続けている魅了の魔法によって、催眠の魔法をかけられなくても受け入れられちゃうんだ』

「起きていたとしても、カローナを受け入れたってこと?」

『うん。だって、私が今襲いかかっても受け入れるでしょう』

「うん。あっ…」

『私のこと好きなんでしょう』

「えっ、そんなことないんだから!」

『ツンデレ乙』

「すみません、好きです…。結婚してください…」

『いいよ』

「やった!あっ…」

『話、聞いてた?私、ママに魅了の魔法をかけているんだよ』

「え、だって、私は前世から女の子が好きだし、どうやら私も魅了の魔法を放っている気がしているし、何の問題が?」

『そうだね、問題なんてなかった。最初から相思相愛だった』


 ダイアナは何を言っているのだ。前世から女の子を好きな私が、こんなお人形のように整った可愛さを持つダイアナを前にして好きにならないはずがない。最初から持っている思いと同じものを強制されて、何の問題があるのだ。

 それに、ダイアナやカローナの放っている魔法は、私の精霊が覚えてしまっているようだし。オフにしているつもりでも、無意識に発動してしまっているっぽいし。


「じゃあ、早く結婚しようよ。またマイア姫に怒られちゃうけど、今なら惰性でなんとかなる」

『デビュタントパーティまで待って』

「パーティで女の子引っかけるの?」

『話、聞いてた?私がパーティに出たら、エッテンザムが人類を駆逐してしまうよ』

「いいんじゃないの?許容範囲を超えたらAIが止めてくれるんでしょ?」

『それもそうだね。好き放題やればいいか』

「AIがダメと言うまでエッテンザムで埋め尽くそう」

『いや、それならママの種族にもがんばってほしい。エッテンザムは遺伝子が強すぎて、カローナお母様の顔の子ばかりになってつまらない。だから、ママには人類代表としてがんばってほしい』

「私の種族って何…」

『ママはとっくの昔に遺伝子改良を自分に施して、新しい種族となっている。女の子を好きという前世から持っている趣味を、遺伝子に刻み込んでいる』

「あれ…、じゃあ私の娘たちは女の子を好きになるの?」

『ママの遺伝子は五十パーセントだけ引き継がれるから、半分は女の子を好きになるけど、もう半分は相手による。そして、ママは施術によって嫁たちを自分と同じように女の子好きに改造してしまっているから、ママとママの嫁たちで作った子供は女の子を好きになる』

「やっぱり私、お嫁さんたちの遺伝子も改造しちゃっているんだ…」

『皮膚や骨格の整形みたいなものなら子供に引き継がれないけど、遺伝子レベルで整形しているから、子供はみんな生まれつき可愛いでしょう』

「うん。フェニラも可愛いし、フラベーナもグリシーラもヤバいわ…。フラベーナなんて、また中身が変な子が生まれちゃったけど、見た目だけは世界一可愛い」


『ほんとうはね、エッテンザムが人類を駆逐しないように、私はある程度繁殖したらどこかにこもって暮らそうと思っていたんだよ。引き籠もりは得意だからね。でもママと話して気が変わった。ママと世界征服する。ママには世界の半分をやろう。だから、ママは自分の遺伝子をばらまくのをやめないように』

「えっ…。もう面識のない子と寝るの嫌なんだけど…。ヒーラーガールに髪の毛だけ渡せばいいかな…?」

『うん、それでいいよ。私は誰とでも寝られるけど、ママは愛がこもっていないとダメなんだね。治療院で行う不妊治療に、ママの遺伝子コースも選べるようにしておけば?応募殺到だよ』

「マジで…。禿げるかも…」


 ちょっと遺伝子を安売りしすぎではないだろうか…。

 女同士で結婚して子供を産むという選択だけでなく、結婚もせずに子供を授かりたい人か…。匿名で遺伝子提供してもそれなりにいそう…。



「あ、そういえばデビュタントパーティ、出ないんだっけ?」

『出るつもりなかったんだけど、これも気が変わった。世界征服に利用する』

「デビュタントを魅了してくるのね」

『知ってる?ご令嬢は十四歳から十六歳くらいでだいたい結婚してしまうけど、ママと同期とマイア姫の同期のご令嬢は、まともな子はすでにママの嫁だけど、ボンクラお嬢様はお相手が見つからなかったんだって。でも去年、同性婚法が施行されてから、ママの同期とマイア姫の同期のご令嬢どうしの縁談が進んでいるらしいよ』

「えっ…なんで…」

『ママが、女好きになるように遺伝子改良したんじゃないの?』

「パーティの後のドレスセールのときに施術したからかな…」

『そうそれ』

「やっちゃってたか…。あれ…、それって…」

『メタゾール領民の女性はもちろん、ヒストリアの国民女性全員が女好き』

「どうしよう…」

『手遅れ』

「男性が絶滅してしまう」

『そういう世界があったっていいじゃない』

「たしかに…」

『世界のまえに、私たちはロイドステラとヒストリアしか知らないし、たった二つの国から男が消えたって、世界の男は絶滅しないでしょう』

「それもそうだ」

『じゃあ、世間的には男女差別防止や雇用機会均等法を訴えて良い顔をしつつ、国の男を自然淘汰するってことでいいかな』

「えっと…、いいのかな…」

『だって、男を救うって頭が働かないでしょう。他に考えてくれる人もいないでしょう。ママも私も前世から女が好きだったし、私はそれに加えてエッテンザムの血のおかげで男のことが本気で嫌いだし、ママの周りは女好きに改造されている子しかいないし』

「うん…。いちど聞いてみたかったけど、ダイアナは本気で男が嫌いなんだね…。可愛い幼児とか、男の()でもダメかな…。ほら…覚えてる?シーノンってや…」

「ダメ」


 ダイアナの口が動いた!無表情なのに強い意志が感じられる…。話し終わる前に喰われた。


「私にとっては可愛いが正義なので、幼児のまま成長しない男の子とか、成長しても女の子のように見える男もアリなのだけど…」

『じゃあ、ママにあげる世界の半分のほうで、男の()を養殖していいよ』

「やった!」

『ごめんやっぱ無理』

「えー…」

『エッテンザムの者からは、Y染色体の精子を作れない。Y染色体にしようとすると、エッテンザムの性質は失われ、生まれる子は男の()にならない。男の()を作るには、普通の人間のY染色体の精子をエッテンザムに植え付ける必要がある。でも私は自分の腹に男を宿すなんて無理だし、カローナお母様とクラリスに押しつけるのも嫌だ』

「そんなぁ…」


『そもそも、ママは人の容姿を遺伝子レベルで弄るのなんてお茶の子さいさいなのでしょう。自分の嫁を美しく改造したといいつつも、永遠の十七歳とかいって、この世界にしては少し童顔な状態に留めているでしょう。五歳までしか成長しない男とか、男の()を作るなんて朝飯前なのでは』

「そうなのかな…」


『あ、私を永遠の九歳に改造してよ』

「えー、カローナみたいなボンキュっボンになれるんだよ」

『あんなに大きな胸いらない…。私の体力で支えられない…』

「あれの良さが分からないとは…」


 カローナの胸は一房で胴体を超える幅があり、それが二房、所狭しとぶら下がっている。

 何をするにも邪魔そうで、扉や壁にぶつかったり、机のものをひっくり返してしまったり。でも、そんなドジな姿がとても可愛いし、それに抗おうとする姿すら健気で可愛い。

 自分でも最初は大きな胸が邪魔だったけど、大きな胸による障害に抗っている自分が、いつしか好きになれた。

 ダイアナにも胸の大きな自分を好きになってほしい。


『ねえ、今の私って、お人形のように整った顔ですごく可愛いでしょ。九歳としては犯罪級の胸やスタイルだし、ロリ巨乳美少女でしょ!』


 たしかに、ダイアナは、九歳のときのカローナよりも大きなメロンを携えているし、マイア姫やセレスとは違った、作り物でしかあり得ないような完成度の可愛さを備えている。

 背丈も一四〇センチくらいで、このくらいがいちばん女の子として可愛く見える年頃かもしれない。

 今でしか味わえない貴重なつぼみ。これが成長してしまうのは人類の損失かもしれない。これを永久保存したい。ロリ巨乳美少女、万歳!


『ほら、これが本能的に求める姿だと思えてきたでしょ』

「わかった。やってみる」


「あああああああっんん…」


 ダイアナのこんな可愛い声、初めて聞いた…。それどころか、ダイアナが気持ちよくしているのは初めて見た。


「はぁ…はぁ…」『成長』「はぁ…」『止まった』「はぁ…」『のかな…』

「わかんない…」


 口では息を切らせておきながら、同時に合成音声でしゃべるとか、無駄に高度なことしなくていいよ。



「ねえ、私の施術を気持ちよく感じてくれたのは初めてだね」

『性欲が芽生えたら、メイドに触れられるのも気持ちいいと思えるようになった』

「はぁ…。そういや、ダイアナはワイヤの子を産むって言っていたじゃん」

『幼い頃は趣味でそんなことを言ったけど、性欲が芽生えてからはママしか見えなくなった。ほんとうはメイドなんかでは物足りない』

「ねえ、ダイアナはそんなに可愛いのだから、もうちょっと言動がなんとかならないの?」


『わたくしの目は美しいお母様の姿しか写さないのです』

「ダイアナ…、なんて可愛らしい…。お人形さんのような容姿にふさわしい言葉遣い…」


 そんな告白されたら、すぐにでも結婚してしまう…。

 口もちゃんと動いているし、表情も本物っぽい…。やればちゃんとできるじゃん。


『AIで電気信号を身体に流して、口や表情筋を動かせるようにしたんだ。でも私の身体は身体強化の念動で動かすのが基本だから、ほとんど存在しない筋肉を電気信号で動かすと、あとで筋肉痛が酷い』


 すぐに無表情に戻り、口も動かさずにぶっきらぼうな口調の合成音声になった。


「はぁ…。カローナだって表情くらいはあるんだから、表情筋が発達してないことにエッテンザムは関係なくて、ダイアナがサボっていただけでしょう…」

『パーティのあとは、顔の筋肉が死ぬことを覚悟している』



「はぁ~。ダイアナの気持ちが分かってすっきりしたよ」

『私も世界を征服する決心がついてよかった』

■アンネリーゼ・メタゾール公爵(十九歳)


■ダイアナ・メタゾール侯爵(九歳)

 永遠の九歳になったので、身長一四〇センチで固定。


■マイア・ロイドステラ王(十七歳)


■クラリス・ヒストリア第一王女(四歳)

■フェニラ・ヒストリア第二王女(誕生)


■デルスピーナ・ロイドステラ第一王女(一歳)

■フラベーナ・ロイドステラ第二王女(誕生)

■グリシーラ・ロイドステラ第三王女(誕生)


■クローナ・ランドセン伯爵令嬢、メレーナ・メキサム伯爵令嬢、ソラーナ・アンプラム侯爵令嬢、エリス・フルジアン侯爵令嬢(十九歳)

 出産した。


■アレスタ・コーチゾン伯爵令嬢、グリメサ・デキサテール伯爵令嬢、タルメア・アルクロゾン侯爵令嬢(十七歳)

 出産した。


■クローナの子、メレーナの子、ソラーナの子、エリスの子、アレスタの子、グリメサの子、タルメアの子(誕生)


■ロコイア・ヒドルチゾン侯爵令嬢(十七歳)

 妊娠した。

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