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37 王妃の日常

 同性婚と側室制度の法施行と、マイア姫と私の結婚とともに国中に知らされたことは、他にもたくさんある。


 王都の近くにある第二メタゾール領を国が買い戻して、国の直轄地にした。

 これは、第二メタゾールを私の遊び場にするためだ。ほんとうはアンネリーゼ・メタゾール公爵、もといアンネリーゼ・ヒストリア公爵の収める公爵領にするのがよかったのだが、私は事務をぜんぜんしないので、国の直轄地とする。


 私がスラムから孤児を第二メタゾール領に連れて行ったのは、少しマズかったようだ。これからもそのようなことに備えて、第二メタゾール領を国が買い戻したのだ。第二メタゾール領の土地代は、マイザー前王にタブレットを配備したり、マイア姫の収めていた領地にインフラを整えるための費用だったが、あれから税金もたっぷり収めているし、買い戻すなど造作もない。



 結婚式では、ヒストリア王国との国交についても知らされた。すでにメタゾール領が主導で貿易が行われている。

 ヒストリア王国の経済をメタゾール、いやダイアナが牛耳っていることや、国民全員が聖女である私に洗脳されていることについては触れない。


 ヒストリア王国の王と王妃の名前を知って、九年前にデビューしたセレスタミナ・メタゾール伯爵令嬢とカローナ・メタゾール伯爵令嬢にたどり着く者はいるだろうか。いるだろうな…。お忍びで勉強に来ていたんだよ、きっと。




 さらに、高速鉄道と高速道路が開通した。セレスたちは鉄道と船でやってきたのだ。


 メタゾール領と王都を四時間、王都とラメルテオン領を五時間で結ぶ超特急。時速四〇〇キロで走り、最南端と中央、最北端だけに停車する超特急だ。


 その間の各領地を十分から二十分程度で移動できる特急。これはメタゾール領とプレドール領とテルカス領、それから北上して一つ一つの領に停車し、王都、さらに北上して一つ一つの領に停車してラメルテオン領に至る。

 この各駅停車の特急の最高時速は時速三〇〇キロだが、停車時間や加減速の時間のため、メタゾールからラメルテオンまで十二時間かかる。


 また、王都と旧マイア領、国の直轄地となった第二メタゾール領、王都付近にあるコーチゾン領、デキサテール領、アルクロゾン領、ヒドルチゾン領を結ぶローカル鉄道。

 第三メタゾール領、ラメルテオン領、ランドセン領、メキサム領、アンプラム領、フルジアン領を結ぶローカル鉄道。


 これらの鉄道では、まだ旅客車はあまり走らせず、貨物列車を多く運用する予定だ。商人以外で旅をする者などあまりいないのだ。


 はっきりいって、飛ばしすぎだ。最南端から王都まで馬車で三十日かけていたような文明だ。流通革命どころの騒ぎではない。


 そして、メタゾールからラメルテオンまでの鉄道から外れている西側と東側の領地の経済は、死んだも同然だ。私は、徐々にそれらの領地にも声をかけていっている。ただし、年の近いご令嬢はあまりいなくて、思うように進んでいない。何より、悪徳貴族やボンクラばかりで、甘い汁を吸わせるのに気が引ける。

 そこで、マイア姫とダイアナが考えたのが、悪徳貴族とボンクラをほんとうに経済的に干上がらせて、潰してしまうという作戦らしい。いやいや、それじゃ領民が苦しむよ…。二人に任せて大丈夫なのだろうか…。




 ウェディングドレスに使ったダイヤモンドだけど、ダイアナとドリーは二酸化炭素に含まれる炭素から本物の人工ダイヤモンドを生成する手段を構築していた。

 土魔法でも水魔法でも風魔法でも、混合物を分離するのは楽であったが、酸化と還元など、原子を組み合わせて化合物を作ったり、分離したりして単体の原子にすることはできなかった。ダイヤモンドような共有結合も同じだ。

 しかし、それはたんに魔力が足りなかっただけのようだ。


 まず、魔道炉を使って魔道石に貯めた大量の風の魔力で二酸化炭素から炭素を分離。

 できた炭素をドリーの土の魔力で共有結合させるとダイヤモンドのできあがりだ。

 でも、魔力の消費が大きすぎて、魔道炉で風の魔力を貯めるのに時間がかかるし、ドリーの土の魔力もかなり消費してしまうらしい。


 まあ、全部魔法でやろうとするからそうなるのであって、前世の人工ダイヤモンドの生成手順を踏んで、一部を魔法で補えば、少ない魔力でできてしまったらしい。メタンガスを原料として、金属を媒介にするらしい。

 私にはよく分からないけど、量産できる目処も立っているらしい。また経済が荒れるのでは…。それともガラスで満足している世界だから、インパクトは薄いかな。



 案の定、お嫁さんの領地付近の領地の高級服飾業は廃業寸前にあるようだ。


 メタゾールのドレスブランドは、超高級路線だったので、既存の服飾業の市場にはあまり影響がなかった。

 ところが、お嫁さんの領地でもドレスを同じように作るようになったため、価格競争が始まり、超高級路線からただの高級路線に降りてきてしまった。そのおかげで、お嫁さんの領地の近くの服飾業の市場を荒らすことになってしまった。


 シルクを生産しているのは第一から第三までのメタゾール領であり、シルクはお嫁さんの領地以外にも卸されている。お嫁さんの領地が有利なのは、シルクを使っているからではない。

 お嫁さんの領地とそれ以外で違うのは、土魔法の得意な縫製職人だ。お嫁さんの領地には学校があるので、精霊の加護を受け、魔力の上げ方を学んでいる。それが大きな違いなのだ。土魔法のおかげで、ドレスを仕上げる速さとそれに伴う人件費が違う。さらに、装飾の細かさなどにも差が出ている。




 このようにして、お嫁さんの領地の周辺には、流通や産業の観点から改革の必要性を訴えているのだけど、今メタゾールで教育中のご令嬢を除けば、年頃の子がいないのだ。

 奥様でも十七歳に改造してあげればいいかなと思ったけど、よく考えたら夫人には爵位の継承権がなかった。

 困った。八方塞がりだ。年頃のお嬢様がいない領地をどうやって教育しよう。


「いえ、アンネお姉様、お忘れのようですが、貴族家には必ずといっていいほど、爵位継承権を持った子息がいます。彼らを教育しませんか?」

「あっ…」


 私はセレスとマイア姫に雇用機会均等法を立案しておきながら、女当主を育てることしか考えていなかったようだ…。


「子息しかいない家には、ヒドルチゾンのような悪徳貴族だけでなく、ラメルテオンのような誠実な家もそれなりにあります。彼らを教育すれば、うまく領地を改革してくれますよ。今メタゾールにいる令嬢に比べれば、はるかに楽でしょう」

「そ、そうですね…」


 私は男を毛嫌いしているわけでないといっておきながら、男を排除するようなことをしていないか、ちょっと心配になってきた…。

 ダイアナはエッテンザムの血を引いてるので、男のことがもっと頭に入っていないかもしれない。

 マイア姫だって私に洗脳されていると思うんだけど、よく気が付いたな…。


「では、まずは改革中の領地に、付近のまともな貴族家の子息を留学させようと思います」


 正直なところ、まったく意欲が湧かない。ロコイアが連れてきたボンクラお嬢様のほうがまだマシだ。


「あとですね、アンネお姉様の仰った通り、貴族が生まれながらにして貴族であるというのに制限を設けます。

 二十年ごとに男爵位取得程度の功績を挙げられない貴族家を降爵させます。

 通常は、二十年間の経済成長率が五十パーセントを目指してもらいます。これはアンネお姉様による改革指導を受けている領地にとってはあまあまですが。

 新たなる魔術や技術、産業を生み出すなどの貢献でもよいです。でも、アンネお姉様ほどの魔術師やダイアナほどの技術を生み出す者は、そうそういません。

 武勲による陞爵はロイドステラ王国ではここ数百年行われていませんが、ヒストリア王国のクーデター鎮圧で活躍したアンネお姉様や、反乱の首謀者を倒したカローナ様が、陞爵の目安ですかね。武勲を与えるような状況にならないことがいちばんですがね」


「それは必要ですね。貴族に生まれたことにあぐらをかいて、権力を振りかざすだけで何の役にも立たない者を切り捨てましょう」




 ダイアナは、親の魔力と子の魔力の関係をまとめて、法則を導き出した。

 魔紋認証とかで使っている人から常に漏れ出ている微量の魔力を計測して、魔力の総量を測る機能がスマホとタブレットに付いているらしい…。

 領民の出産などからもデータを集めていたらしいが、今回、大量に生まれた私の子供のデータによって、法則に裏付けが取れたらしい。


 子の魔力は、両親の生まれ持った魔力の合計の半分弱が基本であり、親が後天的に獲得した魔力は一パーセントしか子に受け継がれないらしい。

 後天的というのは受精したときから始まっている。つまり、私がおなかの中にいるときに鍛えた光の魔力は、一パーセントしかダイアナやデルスピーナに受け継がれていないということだ。なんともったいない。

 でも、その受け継がれた一パーセントは、子が生まれ持ったものとして扱われるので、次の代にも受け継ぐことができるらしい。


 子の魔力の決定にはランダムな要素もあるけど、親の魔力を一〇〇パーセント受け継げるわけではないので、後天的に魔力を鍛えていかなければ、子孫の魔力は徐々に衰退するとのこと。

 この世界の平民のほとんどは、魔力を鍛える方法を消失してしまっていた。だから、平民の魔力は風前の灯火だったようだ。



 それから、ダイアナがメタゾール領の温暖化について調べていたところ、ドリーに助言を受けたらしい。

 メタゾールは今も昔も夏は二十五度くらいだが、冬については、私が生まれたときは十五度だったのが、今では二十度ある。

 この傾向は、プレドールやラメルテオンでもあるらしい。


 この現象は、炎の精霊によるものだ。精霊は術者の曖昧な願いを叶えてくれるものであるが、小さな精霊は地域全体の気温を上げるような大規模な魔法を使えない。しかし、同じ願いを持った者が多く集まると、わずかながら願いを叶えてくれる。そして、そのことには精霊の数や大きさが重要なのだ。

 つまり、メタゾールでは炎の精霊を鍛えた者が増えたので、冬に寒いと思った者の不満を晴らすために、冬の気温を上げてくれているのだという。


 このことは、炎の精霊に限ったことではなく、精霊を鍛えた多くの者が夏に暑いと感じれば、水の精霊が気温を下げてくれるし、ひもじければ土が肥えて農作物が実るし、人々の健康を願えば病気が減るものだという。


 ドリーももっと早く教えてくれればいいのにと思ったけど、ドリーの中で当たり前のことを、わざわざ教えようと思うに至らなかったし、私が知っていて領民に精霊を育てさせていると思っていたらしい。


 長年、夏と冬の気温差が小さいことや、三五〇〇キロ離れたメタゾールとラメルテオンの気温差が小さいこと、それに南のヒストリア王国が暑くないことを不思議に思っていたけど、このようなからくりがあったとは…。物理現象だけではなく、魔法や精霊が絡んでいたのだ…。さすがファンタジー世界…。




『ヒストリア王国の同性婚と出産データ、見てみる?』

「そうだね、同性婚が認められてから三年経つもんね」


 ダイアナがグラフの表示されたタブレットを見せてくれた。


 ヒーラーガールズの不妊治療の末に生まれた子供のデータや、普通に生まれた子供の数との比較などのデータだ。

 スマホ、タブレットなどの端末を与える都合上、住民登録をするようになったので、すべての国民に端末が行き渡っているヒストリア王国では、結婚と子供の数を完全に管理できるのだ。



 まず、結婚の数。セレスが王になって端末が配られた後のデータしかないけど、同性婚が認められる前の結婚の数を基準にすると、男女の結婚は三割減少。

 かわりに女性どうしの結婚が六割発生。男性どうしの結婚も一割発生。全体としての結婚は四割増加。


 女性どうしで結婚したかった人は、そんなにいたんだ…。私としては同志が多くいたことに感激だけど…。まあ、王が率先してやっているのだから、忌避がないってことも大きいだろう。

 男性どうしの結婚は許可したけど、べつに子供を作れるわけではないんだよね…。それでも一割もいるんだね…。止めはしないよ。


 しかし、男女の結婚が三割減ったというのは、やはりお相手を見つけるのが難しくなってしまったのだろうか。今までライバルとなり得るのは同性だけだったのに、異性もライバルとなってしまうのだから。いや、今まで結婚の対象となり得なかった同性もターゲットにできるようになったのだから、全体としての結婚が増えている以上は、結婚はしやすくなったはずだ。

 でも、結婚したところで男性どうしでは子供ができないことには変わりない。それを考えると、男は結婚しづらくなったのだろう。


 

 一方で、出産データのほうはどうかな。


 ヒーラーガールズの不妊治療で生まれる子供は全体の半分。男女の結婚が三割減って、女性どうしの結婚が六割増えたのだから、そんなもんなのか…。


 そして、ちょっと問題なのは、女性どうしの結婚で生まれるのは女の子だけだということだ。いまだに男の子が生まれた実績がない。

 不妊治療では作る子供の性別を選べるようになっているのに、誰も男の子を選ばない。

 女性どうしで結婚する者は、女の子が好きなのだから、男の子を欲しがらないというのはよく分かる…。私も概ね同意だ…。


 でも、私にとっては、可愛いが正義なのであって、可愛ければ男の子でもよい。でも大人の可愛い男というのはあまり想像できないので、将来可愛くなくなることが分かっている子を作ろうとは思えない。

 永遠の五歳児みたいなことができれば、男の子もアリだろうか。マッサージで老化を防止することは容易いけど、成長を阻害することはできるだろうか。

 いや、私の考える永遠の十七歳は、この世界では十五歳相当なので、すでに成長を阻害するのは実現できているのかな。


 そうだ!エッテンザムの男子!カローナの兄…、男の()…、シーノンといったか…。中身はともかく、外見は良かった…。あれだったら、大人でもいいな。



 エッテンザムという種族は女性どうしで子供を作る魔法を何の知識もなくかってに使えるようになるのだろうけど、普通の人間だってヒーラーガールズのように知識を付けて光の精霊を育てれば使えるようになるのだ。

 今はヒーラーガールズの不妊治療に頼っているけど、十何年かすると当人どうしで事を成せるようになるだろう。私と私のお嫁さんたちのようにね。

 あ、ヒーラーガールズは好きな女の子がいないのかな。



 おっと、話がそれた…。不妊治療をした者からは女の子しか生まれていない一方で、普通に結婚した者は六割に減っているので、男の子の出生率が下がっている。

 結婚の数は、全体として四割増えており、全体の出生率は四割増えている。結婚して子供を産まないということはこのような文明の時代ではあり得ないので、結婚の増加はほぼそのまま出生率の増加につながる。

 だけど、その内訳は、不妊治療を経ずに出産する者が六割に減ったので、男の子の数は四割減った。そして女の子の数は二割増加。つまり、女の子が生まれた数は男の子の二倍だ。


 どうしよう。このままでは男性が駆逐されてしまうのだろうか。男性がいなくても子孫を増やしていけるようになったのだから、男性の必要性をあまり感じていない。絶滅危惧種の生物を救えたらいいね、くらいの努力義務くらいにしか感じない。

 私は前世の倫理観から、性差別しないように訴えて法整備をしただけで、気持ちがこもっていない。これは前世で男性が性差別をなくして女性の社会進出をと訴えているのに等しいかもしれない。差別をなくそうというのならば、弱い立場の者から訴えてほしい。私ではあまり頭が働かない。



 それに、男性は男性どうしで子供を作る魔法を研究してほしい。否定はしないし妨害もしない。人体実験でもなんでも、男性どうしでやるのならかってにやればよい。研究費を求められれば拒まない。

 だけど、私は興味ないので、積極的に関わろうとはどうしても思えない。




 ヒストリアで出生率が上がっているのは分かった。でも人口増加が急速に進んでいるのはヒストリアだけの問題ではない。


 メタゾールは、十六年前に私が当主になったあたりから、一人も領民が死んでいない。私の施術により寿命が延びているし、衛生面や健康にも気を使うようになったからだ。当時寿命に近かったご老人は今でも生きている。

 メタゾール領の人口は第二と第三も合わせて、三〇〇〇人に到達した。王都に匹敵する。あ、第二メタゾールは領民ごと国が買い取ったんだった。


 メタゾールはもともとスカスカだったし、壁もないから領地を無断で広げほうだいだった。だから、居住地を心配する必要はなかった。でも、そろそろ考えた方がいい。

 そして、メタゾールよりもずっと問題なのが、お嫁さんたちの領地だ。メタゾールと違って壁があるし、その外は魔物がはびこっている。


 横に広げられないなら縦に広げればいいじゃない。

 どの領地も高層マンションの建設を考えた方がよさそうだ。日照権とかも必要だね。

 ドリーに任せれば一瞬だけど、領民の自立のために、領民に建てさせよう。




 ずっと考えていたのだけど、シルバーやアリシアがヒト型になれるのは、変身の魔法を使っているようだ。

 アリシアは完全にヒト型になれる。だけど、シルバーは耳と尻尾が残ってしまうし、ワイヤも翼と尻尾が残ってしまう。光の精霊の補助が足りなくて、望む結果が得られないようだ。いや、シルバーの耳と尻尾は、私としては望むところだ。


 それで、変身が魔法によるものであり、光の精霊の補助が効いているというのであれば、私も変身できるんじゃない?

 私の光の精霊は、シルバーとアリシアの精霊から変身魔法を学んでいるのではないだろうか。



 私はアリシアを連れて、シルバーの引く魔導馬車で街道から外れたひとけのない王都の郊外にやってきた。

 ちなみに、シルバーの娘、プラチナは王都の保育園に預けてある。


「お母さん、こんなところで何をするの?」

「ご主人様、このようなところに何のご用が?」


「それはですね…」


 私は、アリシアがドラゴン型に変身するときのシーンを思い浮かべた。


 ほんとうは、トカゲっぽいドラゴンではなくて、もふもふとしたペガサスのほうが好きなのだけど…。アリシアのシルバーに対する嫉妬は治まったと思うのだけど、こういうときにアリシアを立ててあげないと、またいつ嫉妬が再燃するか分からない。

 まあとにかく、ドラゴンのほうが先だ。


 私の身体が大きく膨れ上がる。

 服が耐えきれなくなって破ける。あれ…、うろこっぽくなる前に大きくなったら…。他に誰も見ていないからいいのだけど、私は人間の素肌のまま身体が巨大化して、ノーブラ、ノーパン状態に…。

 というかあまり大きくなるイメージはしておらず、アリシアサイズの二メートルのドラゴンになろうとしたのだけど…。

 とりあえず、肌がうろこに変わるのをイメージ。先にこっちだった…。

 口先が伸びて牙が生えて、目が細くなり、爪が生えて、コウモリのような羽根が生えて…。

 そのあと、私は意図していないのに、私の身体は三メートルまで巨大化した。これはアリシアではなく、伝説のホワイトドラゴンのサイズだ。これが十八歳の成人ドラゴンサイズなのだろうか。


「お母さん…、お母さぁん!」


 アリシアはぱぁっと明るい顔になり、服を破ってドラゴン型に変身した。アリシアも二メートル半くらいに成長している。

 ちなみに、アリシアは変身のときに服をすぐ影収納にしまうことに慣れている。


「がうがう…あえ…」


 口の形が違いすぎて、うまく喋れない。

 光魔法でアリシアに伝えた。どう?おかしくない?

 お母さん!私と一緒!わーいお母さん!

 アリシアの気持ちは、感動と興奮でいっぱい。


 あ、破いた服が、風で飛んでいく!


「がっげ~」


 待って~と言いたかったのに、どうやっても子音を発音できない。

 って、それどころではなくて、土魔法で服の破片をまとめて、足もとの影から影収納に収めた。


 さて、一緒に飛ぼっか!

 うん!


 シルバーも変身して!

 はい!


 シルバーも服を破きながらアリコーン形に変身。もちろん服を影収納に収めた。


 恐る恐るドラゴンの翼を羽ばたかせようとしたけど、背中に翼を付けた経験はないので、思った通りに動かない…。


 ご主人様、風魔法で翼に風を当てればよいのですよ。シルバーが助言をくれた。


 そうだ、スカートに風を当てて飛ぶのと同じだ。翼は丸みを帯びているけど、真上に凸になっているわけではない。だから、身体を倒して、翼が真上に凸になるようにした。うーん、かっこ悪い…。

 翼の向きも変えられないのでは、身体ごと向きを変えなければ進行方向を変えられない。


 私が翼を動かせないのは、翼を動かす筋肉を使ったことがないからだ。ならば、その筋肉を刺激して鍛えればよい。電気魔法で翼の根元に筋トレマシーンの要領で電気を流した。すると、翼がピクッと動く。

 うーん、すぐに鍛えられるわけではない。電気で神経が刺激されたおかげか、動かし方は分かったけど、ほとんどない筋肉を酷使したせいで、背中が痛い。これは時間をかけて鍛えていくしかない。


 あれ、シルバーは最初から翼を使いこなしていたのでは?

 シルバーは進化の泉で翼を手に入れたので、最初から神経や筋肉も発達していたし、動かし方も本能的に理解したらしい。なるほど。


 しかたがないので身体を倒して風を当てた。すると身体が浮かび上がった。とてもかっこ悪いし、翼はスカートほど丸みを帯びていないので、風が逃げてしまい、大量の風が必要となった。


 お母さん、がんばって!アリシアが応援してくれる。


 アリシアはちゃんと翼を羽ばたかせて、翼を上から下に降ろすときに身体が上昇する。翼を降ろすときに、下から風を当ててもいる。私のように動かない翼に風を当てているだけではない。


 アリシアは生まれつき風の精霊が付いており、翼に風を当てるのを補助してくれているようだ。だから、アリシアは風の当て方を考えたことがないようだ。

 私の風の精霊も、スカートで飛べるくらいには手伝ってくれるので、翼でもなんとか飛べるようなのだけど、スカート飛行の時速二〇キロも出そうにない…。


 はぁ…。練習しないとだね…。


 それでも、自分と同じ姿をした私と空中散歩できるのは、アリシアにはとても嬉しいようだ。しかも、自分のほうがうまく飛べるしね。



 しばらくアリシアとシルバーと空中散歩をして着陸した。


 今度はペガサスに変身!

 ヒト型に戻ると、また全裸を晒してしまうかもしれないので、ドラゴンからペガサスにそのまま変身!

 ドラゴンはやや不安定なものの、手を付かずに二足歩行できるけど、馬はそうはいかない。変身過程で手を付かずにはいられなくなった。

 コウモリのようだった翼は白鳥のような翼に変わった。うろこの肌には純白の毛が生えた。爪は蹄に変わった。


 シルバーは感激…しておらず、私の額を見て、角がない!と訴えている。

 ああ、忘れていた…。シルバーは私の望む姿に進化したのではなかったのか。私に角萌え属性はないのだけど、シルバーの中で角は重要らしい。


 慌てて角を生やした。すると、やっとシルバーは感激してくれた。馬の顔でもぱぁっと明るくなったのが分かる。


 そして、アリコーンの姿を見たアリシアは不満…に思うこともないようだ。ドラゴンになれたからには、当然馬にもなれるだろうと予想していたようだ。


 やはり、翼をうまく動かせない。しかも、ドラゴンの翼よりも面積が若干小さい。

 おかげで、必要な風の量は多かったけど、それでもなんとか身体が浮かび上がった。


 シルバーもアリシアも離陸した。

 シルバーもちゃんと翼を羽ばたかせ、翼を降ろすときに身体が上昇する。もちろん風魔法でしたから吹き付けるのも併用している。でないと、このような小さな羽根で馬の巨体が持ち上がるわけがない。


 やっぱり、ちゃんと翼を動かせないと、ふわふわ浮いているだけでろくに移動できない。

 はぁ…。時間を見つけて練習しないと…。



 さてさて、飛ぶのはこれくらいにして、馬になったからには走らないとね。


 アリシア、ヒト型に戻って私の背中に乗って!

 はーい!


 アリシアは七歳の小さな女の子の形に戻りながら、影収納から生地を出して、身体にまとっていく。最初の頃に比べるととても慣れている。服の装飾も凝っている。背中から翼を出せるように背中も開いてある。アリシアの土魔法がとても上達したのが分かる。


 アリシアが変身中に、シルバーは影収納から素材を出して、土魔法で私に鞍と手綱を作って付けてくれた。そうか!アリシアに乗ってもらうなら必要だね!ありがとう!シルバー!


 アリシアはヒト型に戻ると、馬形の私の背中に飛び乗った。手綱を握られるのはなんか複雑。


 ヒト型で四足歩行ごっこをやろうと思ったら、脚に対して手が短すぎるのでやりにくいけど、馬形になった私の手…というか前足は、後ろ足と同じくらいの長さだ。胴をおよそ地面と平行にして、自然に四足で立っていられる。


 あれ…、四足歩行って、どの脚から出すの…。教えて、シルバー先生!


 シルバーは私に考えを伝えると同時に、実際にやってみてくれた。右前を出すのとほぼ同時に左後ろを出して、次は左前を出すのとほぼ同時に右後ろか…。うん、それほど難しくない。


 だんだん慣れてきた。


「お母さん、はやーい!」


 私に乗っているアリシアは楽しそうだ。

 シルバーは私に合わせて並走してくれている。


 まだまだ時速一〇〇キロくらいだ。これではヒト型で走ったほうが速い。でも、慣れればもっと早く走れるはず!


 最終的には時速三〇〇キロで走れるようになった。初日でこれなら上出来だ。翼と違って実用レベルだ。ブロンズと同じレベルになってしまった…。



 さてさて、ヒト型に戻ろう。馬形からヒト型に戻るのをイメージすると、私の身体はヒト型に戻った。でも、ペガサスの翼と馬耳、馬尻尾は残したのだ!


 ご主人様…いけません…。

 お母さん…。


 二人からは、素っ裸の私の姿が伝わってきた。

 ああっ、服が…。慌てて影収納から生地を出して、土魔法で身体にまとった。装飾は後回しだ。

 うむー、慣れるまで大変だ。うっかり服を着忘れてもいいように、そして、変身しても破れないように、結婚式で使った紐なしブラを中に着ておけばいいかな。ブラと同じ素材で紐なしパンツを作ればいいかな。

 変身してもブラとパンツを着ているドラゴンとか馬は間抜けだろうか。


 というか、ドラゴンのときも馬のときも、私の胸はどうなっていたのだろうか…。巨乳だったのだろうか…。よく分からなかった…。

 動物なのだからブラをしていなくても恥ずかしがる必要はないのだろうか…。

 あっ…、私、馬乳を採取できるのかな…。それだったらシルバーから採取してもいいか…。馬乳って美味しいのかな…。


 それはさておき、普段のヒト型のシルバーと同じパーツを残してみた。耳と尻尾と翼だ。

 シルバーとアリシアもヒト型に戻った。二人はちゃんと、戻る前に影収納を開いて、身体に生地をまとってから変身を始めた。私もこのようにせねば。


 シルバーは耳と尻尾をしまえないのだけど、翼はオプションだ。天使みたいで素敵なのでわざわざ残してもらっている。

 アリシアも部分的にドラゴンのパーツを残せるけど、ドラゴンの爪や翼は可愛くはないので、残さないようにしてもらっている。


 そして…、シルバーのように耳と尻尾を残した私を見たアリシアから…、うーん…。一人のときにやろう…。

 私は慌てて耳と尻尾をしまった。でも白鳥のような翼は残した。アリシアはまだ若干不満げだ。実用性を考えれば、ドラゴンの翼のほうが面積が大きく丸みを帯びているのだけど…。


 うん…、負けた…。


 白鳥の翼をドラゴンの翼に変えた。すると、アリシアはぱぁっと明るい顔になった。

 逆に、シルバーは寂しそう…。あっちを立てればこっちが立たず…。


 じゃあこれでどうだ!ドラゴンの翼のやや下側、内側に白鳥の翼も生やした。四枚羽根だ!文句あっか?


「ご主人様…」

「お母さん…何それ…」


 シルバーとアリシアは私の姿を見て苦笑い。ワケわかんない生き物だしね。

 でも、すぐにハッと気がついたようだ。自分が不満を漏らしたせいで、私が両方の翼を生やすことになったことに。


「ご主人様、申し訳ございません…」

「お母さん、ごめんなさい…」


「私も、いつも二人を同時に立ててあげられなくてごめんなさい」


 はぁ…。この二人だけでも同時に立ててあげられないのに、お嫁さん全員を同時に立てるなんて無理だ…。

 私が複数のお嫁さんを同時に立ててあげなければならないのは、やはりお嫁さんが複数いることが問題なのだろうか…。


 さて、気を取り直して、せっかく四枚羽根になったのだ。面積も約二倍だ。これができるのなら、翼の大きさも自由に変えられるような気がするけど、気にしない。


 風魔法で翼に風を当てた。四枚羽根だから、さっきより飛びやすい。


「ご主人様…いけません…」

「お母さん…」


「あれ?」


 慌てて布をまとっただけだったから、風で布がめくり上がるとノーパンだった…。

 さらに慌てて土魔法でパンツを作成。ストッキングもはいてなかった…。


 この世界では人前で全裸をさらすことなど常識の範囲内かもしれないけど、この二人は私が小さいときから一緒なので、郊外でノーパンはまずいと思ってくれているようだ。

 あまり注意してくれる人がいないから、このままだとこの世界の常識に染まりきって、どんどん恥じらいがなくなってしまいそうだ。


 というわけで、やはりろくに飛び回ることはできず、空中遊泳しただけで着陸。


「はぁ…。翼はもうちょっとうまく動かせるようになったら、二人が教えてください」

「はい、ご主人様!」

「はーい、お母さん!」


 今日は楽しかった。

 二人とは正式な結婚をすることはできないけど、私が二人に近づくことで、二人はますます私に親近感を覚えてくれたようだ。




 さて、すべてのお嫁さんを同時にあやすことは、もはやできないので、先日のシルバーとアリシアのようにグループ分けしてお付き合いしよう。


「アンネお姉様。ペットと遊んでましたね」

「ま、ままま、マイア様、お茶会をしましょう!」


 ヒト型になったのだから、ペットなんて辛辣な言い方はやめてほしいのだけど、マイア姫は言葉ではそのように言っていても、みんなのことを配慮してくれている。

 マイア姫はアマージにいつも打ち首と言っているけど、私はマイア姫にそのような意図がないことを知っている。


 というわけで、正式に結婚したマイア姫とお嬢様たちとお茶会だ。


 今日のメニューは紅茶とクレープ。もちろん紅茶は手揉み。クレープの生地は手で混ぜたし、クリームも手でホイップだ。

 あんまりやり過ぎると、平民のお嫁さんたちとの結婚式がかすんでしまう。


 というか、お茶会を主催するっていったって、普通はメイドに準備させるもののようだけど、それだと私がおもてなししている気分になれない。

 それに、メイドと準備していたら、お嫁さんたちがメイドに嫉妬をしそうで…。ああ、最近コーリルたちと一緒にお出かけしていない…。しかたがない。もう私のメイドではないのだから。


 結局、私が全部準備するのだ。


「王妃様…」


 厨房で調理していると、いつも料理人があわあわしている。私はどんな身分になろうと現場担当なんだよ!早く慣れてほしい。


「ごきげんよう、皆さん」


 私がワゴンでお茶とお菓子を運んでくると、マイア姫とヒルダとクレアとロザリーが、すでに席に付いていた。

 今日はママ友の会だ。娘たちもベビーベッドで連れてきている。この子たちは異母姉妹なので、ママ友というのも変だ。


「まあ、アンネお姉様…。あなたたち、アンネお姉様のかわりにお茶を準備して」

「かしこまりました」


 自分で調理するにしても、やっぱり配膳くらいはメイドにやってもらうべきだった…。っていうか、身内だからいいけど、部外者を招待すること、私できないじゃん。


「お手を煩わせてごめんなさい…」


 マイア姫にいつも付いている四人のメイドが配膳してくれることになった。自分が主催なのに、招待客のメイドにやらせるなど言語道断だ…。早くメイドを雇わなければ…。


「アンネはなんでも一人でできちゃうけど、メイドが一人もいないのはマズいじゃない」

「そうだよ、心を込めてお料理してくれるのは嬉しいけど、こういう雑事までやる必要ないよ」

「良いメイドはいませんの?」


 ヒルダとクレアとロザリーがあきれたように注意してくれた。


「はい…、メイドを雇います…」


 良いメイド…。かわ良いメイド…。可愛いメイド…。コーリルかリメザかポロンを引き抜くか…。でも、私はその三人に恋をしてしまっているので、一人だけ引き抜いたら可愛がらずにはいられない。それだと、引き抜かなかった二人に恨まれそうだ。

 メタゾールから新人を引き抜くか…。恋をしていないからといって、ずっとそばに付いている女の子へのお手つきを我慢できる保証はない…。


 可愛くないメイドを側に置けばよいか。いや、すべての女の子は可愛い。たとえおばあちゃんを連れてきても十七歳に改造してしまいそうだ。

 いっそうのこと、執事を雇えばよいか。いやいや、いまさら男を側に置く気になどなれない…。


 あああ、どうしよう…。


「アンネお姉様。大変お悩みのようですね。でも、アンネお姉様のメイドへのお手つきなんて、いまさらです」


「えっ…」


「ばれていないとでも思っていましたか?メタゾールで毎朝メイドを可愛がっていたこと。私のメイドを見るアンネお姉様の目は、まるで恋する乙女ですよ」

「そうよ、私のメイドを見ているときも、なんだか顔が火照っているんだもの」

「うんうん。私のメイドもそうだよ」

「でも、アンネに見つめられた私のメイドは嬉しいって言うのよ」


「えっ…」


 確かに、私はマイア姫の四人のメイドと二人の騎士にも、ヒルダとクレアとロザリーのメイドにも恋の魔法を返されて、恋をしていた。メタゾールにいたときは、毎朝ドキドキお手入れしてあげる時間が好きだった。でも公爵になって王城で暮らすようになってからは、まったくやってあげていない。


「アンネお姉様の子を欲しがっているメイドはいっぱいいます。一度に抜けられるのは困りますから、計画を立てて、業務に支障がでないようにお願いしますね」

「実らない恋に悩んでいるアンネなんて見たくないわ」

「テルカスの学生はまだまだだから、私のメイドの妊娠中は、メタゾールからメイドを貸してね」

「私は換えのメイドがいるからいいのですけど…」


「……」


「私のメイドは二人、騎士は一人までならいいですよ。あなたたち、誰が先に産休を取るか決めておいてくださいね」

「私もメイドが一人しかいないから、メタゾールのメイドを貸してもらってからになるわ」

「もう、マイア様のメイドをうらやましそうに見ないでよ」

「あなたもそわそわしすぎです!」


 ずっと我慢してきたことが、ホイホイと進んでいる。いったいどういうことだろう。私が望んだことには違いないけど、私の欲望はそこまでダダ漏れなのだろうか。


 この子たちは私の嫁であり、私の子まで産んだというのに、私が自分のメイドに手を出すことに率先して協力してくれている…。なんという懐の広さ…。


「じゃあ、まずはこの二人のメイドと一人の騎士をお貸しします」

「アンネリーゼ様…、よろしくお願いします…」

「アンネリーゼ様…、優しくお願いします…」

「アンネリーゼ様…、ご指導お願いします…」


「あ、はい…」


 私がメイドと騎士に仕事をお願いするのではなくて、私がお願いされちゃっているのだけど…。


「っていうか、この子たちが妊んだら、お仕事できないじゃない」

「そうだね。メイドの募集には違いないけど、夜のお仕事だったね」

「夜のお仕事ですけど、一度お仕事したらすぐ産休ですよ」


 夜のお仕事…。マイザー前王が連れていた四人のメイドと同じ…。それもゴールが真逆だし…。


「もう、ヒルダとクレアのメイドを選ぶのと一緒に、アンネお姉様のメイドも見繕ってくださいませ」


「分かったわ。エージェントのアンネ、メイド志望の学生を出して」

『お勧めはこちらです』


「あ、この子、可愛い!アイドル養成コースにも入ってるじゃん!」

『そちらはイチ押しです』


「あら…、私もラメルテオン家のメイドではなくて、メタゾールの子を雇おうかしら…」

『こちらなんかいかがですか』


 あれ…、みんな私に一途だったのに、メイドのこと可愛いとか言って…。


「アンネ、ふてくされちゃって可愛いわ」

「ふふ、焼き餅焼いてくれたみたいだね」

「私たちがどういう気持ちでいたか、おわかりいただけましたか?」


「えっ…」


「アンネのことがいちばんだけど、アンネを独り占めするのはどうやっても無理だから、アンネみたいに他の女の子とも付き合うことにしたわ」

「私、メイドもいいけど、次はヒルダと結婚したい」

「分かってるわよ」


 あれ…。私はお嫁さんたちがお嫁さんたちどうしで仲良くしてくれれば嬉しいと思っていたのに、いざヒルダとクレアが結婚するってなると、素直に喜べない…。


「ちょっとアンネ、泣かないでよ」

「私たちにはアンネのことを独り占めさせてくれないのに、アンネは私たちを独り占めしたいってこと?」

「うふふ、アンネはわがままですね」


 そうだ、私のわがままだ。でも私が恋をした子は、全部独り占めしたい…。私以外の子を好きになってほしくない…。


「分かったわよ。アンネが泣いちゃうならやめておくわ」

「私もアンネを悲しませたくないからね」


「えっ、そんな…」


 二人は結婚したいって言ったのに、私がやめさせてしまった…。


「アンネお姉様ぁ」


 マイア姫が席を立って、私に抱きついてきた。


「私はアンネお姉様だけを愛します。その代わり、アンネお姉様の子をもっとください」


 私だけを愛する。その言葉にとても安心した。

 おかげで、少し気持ちが落ち着いた。


「私はこの子にするわ。アイドル養成コースだし優秀よ」

「あっ!ずるいー」

「では私はこの子に…」


 ヒルダとクレアとロザリーは、私にいつものメイドを預ける間のメイドをメタゾールの学生から選んだようだ。


「アンネも早く選んだ方がいいわよ」

「いやいや、アンネにあんまり可愛い子を付けると、すぐにお手つきにしちゃいそうだから、最後に選んでもらおう」

「私はこの子にしますね」


 私はまだメイドを妊ませたことがないのだけど…。いつからこんなに手の早い女だと思われるようになったのだろう…。


「アンネお姉様は落ち着いたみたいですね。アンネお姉様の愛がこもったお菓子をいただきますね」

「はい…」


 たしかに落ち着いた…。私を抱いてくれていたマイア姫は、席に戻った。


「ああ、アンネお姉様のお菓子はほんとうに美味しいです…」

「ホント、これだけは何ものにも替えられないわ」

「幸せだよ…」

「おいひ…んぐっ…」


 その後、三人はお菓子とお茶をいただきながら、いろいろと話していた。

 私はあんまり話してないな…。なんか今日はいろいろと衝撃的なことが起こって、頭が回っていない…。


「うゎあああん」

「ああ、パリナ、おなかが減ったのかしら?」


 ヒルダの娘パリナ。

 魔道ナプキン兼おむつは大人の一日分ほどの吸収量をまかなえるので、赤ん坊のおしめが濡れて気持ち悪くなったという発想には至らない。


 ヒルダは胸をはだけて、パリナに授乳し始めた。ヒルダの胸もけっこう大きいけど、私やマイア姫のように手が回らないほどではない。


「さあ、今度はアンネがあげて」

「はい」


 パリナはヒルダの子でもあり私の子でもあるのだ。私がおなかを痛めて産んだ子ではなくても、私はダイアナを産んでから八年間母乳が出続けているので、パリナに授乳できる。

 でも、私の胸は大きすぎて手が届かないので、ヒルダに抱えてもらったまま授乳している。


「ほら、アンネの母乳の方が食いつきが良いわよ」


 魔力がこもっているからなのか、私の母乳は美味しいらしい…。

 母乳をあげていると、母性が芽生えて、この子が自分の子であることを思い出す…。



 その後、クレアの子プレナとロザリーの子ペルセラ、マイア姫の子デルスピーナ王女も目を覚まして、同じように授乳した。


 そして、子供に授乳し終わったら…、


「それではアンネお姉様、今度は私がいただきます」


 もちろん、お嫁さんたちに授乳。お嫁さんだけど、自分の子供に思えて愛しくなる。

 私の席の隣にメイドが椅子を付けてくれて、お嫁さんたちが交代で座り、私の母乳を飲んでいく。


「今度は、アンネお姉様が私のをいただいてください!」

「えっ、あっ、はい」


 この展開は始めてだ。私の隣に付けた椅子はそのままに、今度はお嫁さんたちが私に母乳を飲ませに訪れる。


「ああ、アンネお姉様!可愛い!アンネお姉様が私の娘に!」

「アンネ、そんな顔して飲むのは卑怯よ!」

「アンネがプレナと同じくらい可愛い…」

「ああ、アンネ…。私の子…」


 みんなにも母性が芽生えて、私のことを子供だと思ってくれたようだ。


 私たちは互いに嫁であり、互いに母であり、互いに娘でもある。本能的に愛を与え合う仲なのだ。

 こうして私たちは互いの愛を深め合った。




 後日、ヒルダとクレアとロザリーは、メタゾールの学生から代わりのメイドを選んで、今まで仕えていたメイドを私の元に送り出した。

 今日は会議室を一つ借りて、面接のようなことをやっている…。


「あの…、もう一度聞きますが、あなたたちは私の子を授かるために、主の元を一時的に離れたのですよね?」


「はい」

「そうです」

「おっしゃるとおりです」


 そして、マイア姫から送り出された二人のメイドと騎士は…。


「あなた方も同じですね?」


「「「はい」」」


 みんな、ほんとうは私に仕えたいけど、長年仕えた主を裏切ることはできないと思っている。ちょっと寂しそうだ…。


「それでは、次の排卵日を見送って、一ヶ月ほど私に仕えてくれませんか?」


 妊ませてしまったら解雇だなんて、私は酷い主だ。いや、それを前提に来たのであって、互いに了承済みだったのだけど…。

 でもこれなら元の主への裏切りにならずに、私に仕えてみたいという希望を叶えることができるかな。


「「「「「「はい!」」」」」」


 ぱぁっと明るくなった六人。


「では、改めて名前を教えてください」


 もう何年も付き合いがあるのに、紹介されたことはなかった。お付きの者は空気。お付きの者の名を紹介する文化はないのである。マイア姫のメイドなんて、侯爵令嬢と伯爵令嬢だけど、そんなことも関係なしに、空気は空気なのである。

 もちろん、ヒルダやマイア姫が名前を呼んでいるのを聞いたことはあるので、名前を知らないワケではない。でも、仕えてくれるからには改めてちゃん教えてほしい。

 というか、子を授けるまでの一ヶ月間は交際期間のようなものだ。名前も知らずにすごすのはいかがなものか…。



 次に部屋に入ってきたのは…、


「あなたも私の子を授かりに来たのですか?コーリル」

「はい!ついにアンネリーゼ様の子種がメイドにも解禁されたと聞き、ダイアナ様にお暇をいただきました!」


 コーリルは元気でハキハキした子だ。そんなことをはっきりと言われると、ちょっと恥ずかしい…。

 っていうか、解雇してもらったってこと?


「コーリルは出産後も私に仕えたいのですか?」

「はい!」

「よくダイアナが許可を出しましたね」

「ダイアナ様は、私がやめたらさっさと三人のメイドを補充していました」

「あの子らしいです」

「それで…」

「あ、もちろん採用ですよ」

「ありがとうございます!」


 採用とか言っているけど、私はメイドを選んでいるのか、嫁を選んでいるのか…。



「それで、あなたはたしか…」


 コーリルの次にやってきたのは…、私がいつもヒーラーガールAと呼んでいる、ヒーラーガールズでセンターをやっている子だ。


「リフラナですね」

「覚えていてくださって光栄です!」

「えっと…、アイドル活動や治療院は大丈夫なのでしょうか…」

「はい!寿退社です!」

「えっ…」


 メタゾールの学校の最優秀者であり、アイドルユニットのリーダーを務めるほどの可愛さ。単独で治療院を任せられるほどの治療魔術の腕。リーナ付きのスピラに続く身体強化の使い手でもある。


「ほんとうにやめて大丈夫ですか?」

「アンネリーゼ様がヒーラーを補充してくださったので!」

「アイドルも?」

「ヒーラーのほとんどはヒーラーガールズのメンバーですよ」

「そうですか…」


 私は不妊治療のため各地にヒーラーを派遣したけど、全員アイドルだとは知らなかった…。


「あの…」

「まあ引き継ぎが済んでいるなら構いませんよ」

「やったぁ!ありがとうございます!」

「えっと、礼儀作法の成績も大丈夫ですよね?」

「も、申し訳ございません…」



「えっと…、エミリー…」

「お嬢様の子供を私にもください!」


 おそらく産婆として私を取り上げて、生まれたときから面倒を見てくれていたエミリー。

 お母様と共用のレディースメイドだったけど、私が十一歳のときにお母様の専属に返した。

 けっして若い子がよかったからとかじゃないよ。

 エミリーは二十八歳だ。この世界では完全に行き遅れだけど、メタゾールにいたときは数日おきに朝風呂で私がお世話していたから永遠の十七歳だ。誰でももらってくれるはず。それなのになぜ…。


「お嬢様は二歳の時に私の命を救ってくださいました。そのときからずっとお嬢様は私の憧れでした…」

「エミリーが私のことを守ってくださったのですよ。命を救うのは当然です」


 プロフ家のボンクラ、ロキシンに斬られそうになった私をかばって死にそうになったエミリー。


「ではお嬢様を守った私にご褒美をください」

「えっと…、それは私の子でよいのでしょうか…」

「はい!」



 結局、コーリルとリフラナとエミリーは、すぐに排卵日が来て、それぞれ私と一夜を過ごして産休に入った。


 そして、ヒルダ、クレア、ロザリー、マイア姫のメイドと騎士は私と一ヶ月ちょっとすごし、それぞれ私と一夜を過ごして産休に入った。




 あ…、誰もメイドが残ってないじゃん!全員産休に出してしまった…。

 しまったー…。エントリーしている子から急いで探さないと…。

 と、慌てていたら、


「ねえ、アンネお嬢様、私たち、アンネお嬢様の近衛騎士になりたいの」

「私はアンネお嬢様の近衛魔道士になります!」


 廊下でイミグラたちに会った。そして、イミグラたちの部屋に招かれた。

 なんと、イミグラたちからそんな提案があるとは…。


「ボクね、メイドの勉強もしてるんだ」

「私がいちばんアンネお嬢様の思いを推し量れる」

「オレもメイドになりたい…」


 ボクボクメイドに、密偵メイドに、オレオレメイド…。

 メタゾールから新しいメイドを選ぼうかと思っていた矢先に…。これは、私のお嫁さんの中でいちばん美味しい地位なのでは…。


「私たち、出産が終わったのにこの離宮に置いてもらってるでしょ。でも、ヒルダお嬢様たちと違って仕事もしていないから、肩身が狭いのよ」

「それで、オレたちはお城の騎士や魔道士を目指そうと思ったんだが…」

「アンネお嬢様は今メタゾール侯爵家から独立して、使用人が一人もいないって聞いた」

「だからね、ボクたちメイドの勉強もして、アンネお嬢様のお世話したいと思ったんだ」

「アンネお嬢様のあれやこれをお世話しちゃいます!」


 どうしよう…。とても素敵な提案だ…。

 でも、お嫁さんを使用人にするのはちょっと…。

 あれ…、最近使用人をたくさん嫁にしたんだった…。


 お嫁さんから使用人になろうとしている子たちと、使用人からお嫁さんになろうとしている子たち…。距離感が難しい…。

 使用人からお嫁さんになったといえばシルバーだ。馬車馬ってどこへ行くにも一緒だし、一緒にいられる時間が長いんだよな…。


「わかりました。お願いします」


「ありがとう!アンネお嬢様!」

「やったぁ!」

「最高の就職先」

「ボク、メイドの仕事、頑張るね!」

「アンネお嬢様のあんなことやこんなことをお世話しちゃいます!」


 今でこそ毎日お風呂に入って身ぎれいにしているけど、近衛というくらいだから他のお嬢様やメイドと比べると頑丈で無茶できる。それに元ハンターだから、多少臭くて汚いところに気兼ねなく連れて行ける。

 スラムや孤児院をめぐるのにぴったりだ!


「ところで、私はお嬢様ではなくて王妃なので、公式な場で呼び間違えないように気をつけてくださいね」


「「「「「はい!アンネ王妃様!」」」」」


「愛称もダメです…。アンネリーゼか王妃で…」


「「「「はい…、アンネリーゼ様…」」」」」


 みんなシュンとしてしまった。


 聖女の守り手と出会ったときから、私はお嬢様ではなかったのだけど、私がはっきりしないからずっとアンネお嬢様と呼ばれていた。それを改めてしまうのはちょっと寂しい。

 それに、この子たちは、身分関係なしに嫁になってもらったつもりなのに、名前に様付けで呼ばれるのは寂しい。


「普段は好きに呼んでください」


「「「「「はい!アンネ王妃様!」」」」」


 オフではアンネ王妃様と呼ばれるようになった。ちょっと変だけど、アンネお嬢様と同じくらい愛嬌があって良い。


 その後、イスマイラ、ゾーラ、エレナ、リザベル、ナーラに授乳して、イミグラ、ゾーミア、レルーパ、マクサ、アマージに授乳して、イミグラ、ゾーミア、レルーパ、マクサ、アマージから授乳された。




「アンネちゃん…」

「お母様…」


 廊下で会ったお母様の後ろには、エミリーではなくて別の若いメイドが付いていた。


「私の部屋でお話しましょ」

「はい」


 どうしよう…。お母様の扱いがいちばん難しい…。


 お母様は、私の嫁であり、年の近い妹であり、私の母乳を飲む娘であり、私に母乳を与える母である。これだけの肩書きがありながら、お母様はご令嬢や貴族当主ではないし、あまり戦いにも向いていないし、メイドになってもらうわけにはいかないし…。


「私ね、アンネちゃんのメタゾール公爵家で、執務官にしてもらえないかしら」

「えっ…」

「アンネちゃんは事務が苦手なのでしょう。マイアちゃんに丸投げなんでしょ?ダメよぉ、ちゃんとしなきゃ」

「はい…」

「私だって勉強してきたのよぉ。難しい計算はアンネちゃんにかなわないけど、経理だったらアンネちゃんより得意になったわっ!」


 お母様もがんばってたんだ…。私は二歳の時にちょこっと勉強したけど、結局お父様に丸投げだった。あっ!


「あの…、お父様は?」

「さあ、今はダイアナちゃんにこき使われてるんじゃないかしら」

「お母様はいいのですか?」

「私は正式にはまだあの人の妻だけど、心はアンネちゃんの妻なのよ。あの人のことはもういいじゃない」

「えっ、あっ、はい」


 お父様のことを思い出したのは十年ぶりくらいな気がする。

 お父様はお母様と一緒の部屋で寝ていたはずだけど、セレスたちがお母様の部屋に押しかけて以来、どこで寝ているのか分からない。


「じゃあ決まりね」

「はい、よろしくお願いします」




 その後、リーナが私のメイドか嫁になりたいと言いに来ることを期待したが、リーナが来ることはなかった。というか、どこに行ったのだろう。


「リーナちゃんはハンターをやっているのよぉ」

「えっ、いつの間に…」

「大丈夫よ。スマホの見守り機能で、居場所も分かるし、影収納から出したときの映像も見られるのよ」

「見守り機能って親なら誰でも使えるんですか?」

「そうよ。ほんとうはアンネちゃんのことも見守りたいのだけど、アンネちゃんには使えないみたい」

「わ、私のことはよいのですよ…。あ、ダイアナを見守れたりするのかな……、できないみたい…」


 私はここのところ、誰かしらと夜を過ごしていることが多いので、私のことを見守らないでほしい。

 ダイアナが私に監視させてくれるわけないよな。むしろ、私がダイアナに監視されているんだろうな…。セレスとカローナのベッドシーンを覗いちゃうような子だから、私が覗かれていないはずがない。


「ダイアナちゃんは大丈夫なんじゃない?それより、アルゾナちゃんはもちろん、アンネちゃんにはたくさん娘がいるんだから、みんなのこと見守ってあげてね」

「そうですね。そうします」




『アンネちゃん…』

「ドリー…」


 ドリーはここのところ、ダイアナに付いてばかりだったので、一緒にお風呂も入っていない。


『ダイアナちゃんといるのは楽しいのだけど、ダイアナちゃんは最近メイドの子を可愛がるようになっちゃったのよ』

「えっ、ダイアナはまだ八歳ですよ。……あっ…」

『もう八歳よ~。ダイアナちゃんにも来たのよぉ』

「そうでした。私も八歳のときでした」

『ダイアナちゃん、すごいわよっ!』

「えっ…」

『私も襲われそうになったのだけど、ダイアナちゃんは私の触れ方が分からないみたい。そうしたら、私、無性に寂しくなっちゃったから、アンネちゃんに会いに来たのよ』

「わ、わかりました」



 今夜はドリーとすごすことになった。


『はぁ…。やっぱりアンネちゃんと一緒にいるのが幸せだわ~』

「えっと、精霊の子供は作らなくていいですよね」

『いいえ、欲しいわ!』

「誰かに付けるのですか?」

『いいからちょうだい!』

「もう、強引なんですから…」


 ドリーへの子種は、光と土の魔力のブレンドだ。


『ああん…。じゃあ、これはお返しっ!』

「アッー!」




 娘が生まれてからも、みんなと一緒に寝ることはできていない。マイア姫とはいつも一緒に寝ているけど、他のお嫁さんのいないベッドは寂しい。


 みんなと一緒のお風呂だけは死守している。それも、生まれて間もない娘たちと一緒だ。

 私が娘に授乳する数少ない機会ともいえる。これは大事な時間だ。私が腹を痛めて産んでいない娘でも、母乳を与えることで母性が刺激され、自分の娘だと認識することができる。

 というか、血が繋がっていなかろうと、お嫁さんたちにはずっと授乳しているので、みんな私の娘だと思っている。


 お嫁さんたちは出産し母乳が出るようになったため、私に授乳することで私のことを娘だと思うようになったのだろうか。なんだか私に甘くなった気がする。


「はぁ…。皆さんもう出産して、娘も落ち着いたのですから、一緒に寝てもらってもいいのではありませんか?」

「えっ?いいのですか?」


 まさかマイア姫からこんな提案があると思わなかった。


「私がアンネお姉様の望みを叶えなかったことがありますか?」

「皆を後宮にも呼んでくれたし、いつも私の望むことを理解して実践してくれています…」

「では、明日からまた大部屋で一緒に寝ましょう」

「ほんとうですか!」

「はい。ですから…、今日くらいは私の望みを叶えてください」

「は、はい」

「アンネお姉様は私と一緒に寝ていても、心ここにあらずです。私は寂しいです…」

「あっ…」

「皆さんは新しいメイドを可愛がったりして、気を紛らわせているようですが、私にはアンネお姉様しかいないのです」


 マイア姫の目が欲しいと言っている。

 ほんとうは、マイア姫の方が王なので、マイア姫が王権を笠に着て望めば何でも手に入る立場だ。それに、私はマイア姫の正妻なのだから、私が皆のことよりマイア姫を優先することを強制してもいいはずだ。でも、そんなことはしないのだ。

 マイア姫は私の望みを叶えてくれている。私の望まないことはしない。私がみんなのことを平等に扱っていても許してくれる。

 私はそれに甘えすぎなのだろうか…。


「マイア様…」

「マイアって呼んで!」

「マイア…、いつもありがとう。マイアの欲しいものを…」


 私がマイア姫の肩に手をかけ、ネグリジェと肌の隙間に手を入れて脱がそうとしたのだけど…、逆に私が押し倒されネグリジェをひんむかれてしまった…。

 私はいつも男の役をやろうと覚悟して臨んでいるのに、突然女の役を要求されることが多い。これがエッテンザムに伝えられてきた女どうしで子供を作る魔法なのだと諦めた。もう慣れた。


 でも、最後は私が男の役に戻らないといけないのだ。マイア姫も押し倒してくるくせに、最後は女に戻ってしまうのだ。


 私から子種を与えられたマイア姫はとても満足そう。

 いままでは私のマッサージと母乳がご褒美だったけど、最近私の子種がご褒美になりつつある…。


 お嫁さんになるのが女性の夢なんてセリフは、前世では何十年前のものだろうか。子を産むことが女の幸せなんてのは何百年前の話だろうか。前世では人口が増えすぎたからなのか、本能があまり子を求めなくなってしまった。

 でも、この世界では女は結婚して子を産むことで幸福を感じるのだ。




「今日からまたアンネと一緒に寝られるのね!」

「もう一年以上一緒に寝てなかったからね」

「ペルセラが一緒にいてくれたけど、やっぱりアンネ一緒に寝たかったのですよ」


 五十人寝られる寝室に、ヒルダとクレアとロザリーがやってきた。

 それぞれの娘、パリナとプレナとペルセラも一緒だ。

 ブルードラゴンのシンシアとレッドドラゴンのベニシアも来た。ヒト型は中途半端なので、ドラゴン型のままだ。



「ねえ、ホントに私たちもいいの?」

「オレたち近衛騎士だけど…」

「アマージがマイア様に粗相しそう」

「ボク、メイドだけどいいのかな…」

「アンネ王妃様と一緒!お嬢様みんなと一緒!」


 聖女の守り手のみんなも一緒だ!

 それぞれの娘、イスマイラ、ゾーラ、エレナ、リザベル、ナーラも一緒だ。



「アンネちゃん、また一緒に寝られるなんて嬉しいわ!」

「ご主人様…、嬉しいです…」

「お母さん!」

『アンネちゃん!』


 お母様!シルバー!アリシア!ドリー!

 お母様の娘アルゾナと、シルバー娘プラチナ一緒だ。


 残念ながら、リーナとダイアナはいないようだ。



「「「「「「「「アンネリーゼ様!」」」」」」」」


 なんと、クローナ、メレーナ、ソラーナ、エリス、アレスタ、グリメサ、タルメアまで!

 まだおなかは出ていない。頻繁に診にいっていたから知っているけど。

 ちなみに、ロコイアはまだ自領で改革中だ。



「はぁ…。赤子も入れたらこんなにいるのですね…。三十四人ですかね。合っているのか確認する気も起きません。五十人部屋なんてあっという間に埋まってしまいそうです」

「すみません…」


 デルスピーナを抱いたマイア姫があきれ顔だ。



 最近はお風呂で授乳していたけど、もともとは寝室で授乳していた。だから、寝室での授乳に戻した。いや、そんな決まりはないのだけど。


 私は二十人のお嫁さんと十一人の娘と二匹のドラゴンに授乳する。とても忙しい。

 さらに、子を産んだ十一人のお嫁さんから授乳される。おなかいっぱいだ…。でもみんなにあげた栄養の一部を返してもらえる…。


 私と母乳を交換した後は、ヒルダ、クレア、ロザリーは互いの母乳を飲みあってるようだ。聖女の守り手の五人も。

 お母様は全員に母乳を与えているようだ。今のところ無尽蔵に母乳が出るのは、私とお母様だけだ。

 母乳を与えあうと母性を育むことができるので、みんなに優しくなれるのだ。たぶん。


 ちなみに、マイア姫は私以外に母乳を与えたりしない。でも、みんなに意地悪をするわけではない。それは私が悲しむからであり、私への愛の表れのようだ。



 しかし…、使用人という位置づけなのに一緒に寝ている聖女の守り手、シルバー…。お母様やアリシアの位置づけも微妙だ…。ましてドラゴンとか…。

 みんなよく許してくれるな…。


 でも、この状態は良くない…。


 案の定、私の嫁となった使用人が九人…、マイア姫やヒルダのメイドたち、コーリル、リフラナ、エミリー…は翌日に寝室に押しかけてきて、一緒に寝ることになってしまった。


 既存のお嫁さんたちは怒らないが呆れている。

 お母様は嬉しそうに新しい嫁に授乳している。

 アマージは見境がない。


 あっという間に四十三人…。五十人用ベッドが溢れる日も近い…。




 しばらく経って、マイア姫の顔色が悪くなってきた。


「ご懐妊ですね」

「はい。でも、二回目だからか、いくぶん楽です。それよりアンネお姉様!アンネお姉様の顔色も悪いです!いったい誰の子ですか!」

「それはですね……」



 私はあの日にあったことを思いだした…。


『いいからちょうだい!』

「もう、強引なんですから…」

『ああん…。じゃあ、これはお返しっ!』

「アッー!えっ、ちょっとどこ触って……。何をくれたのですか…?」

『うふっ、私の子種よ~』

「えっ、だってドリーに肉体は…」

『そう、だから残念ながら私の遺伝子を持った子種なんて作れないから、他人の遺伝子で私が魔力を込めて作った子種なのよ』

「えっ…、誰の遺伝子ですか…」

『マイアちゃんよ。マイアちゃんの子なら、対外的にも問題ないでしょう』

「えっ…、たしかにそうですけど…。カローナもドリーも強引なんだから…。私、一度も子を産むことに合意してないんですよ!」

『ごめんなさい。でもお願いよ。堕ろさないで…』

「私にこの世に生を受けた子の命を奪うことなどできません」

『うふっ、アンネちゃんなら許してくれると思ったわぁ』

「許すしかないでしょう。もう…。でも、ドリーは土魔法で生き物など作れるのですか?」

『ダイアナちゃんから分子だとか細胞だとか学んだわ。子種くらいに単純な構造のものなら、土魔法で細胞を組み立てることでできるようになったのよ~』

「さすがドリーですね…」

『試してみましょう』

「えっ、何を?」


 ドリーは先ほど私がドリーに与えた魔力で作った精霊を、私のおなかの位置に土の魔力で誘導した。


『ほらぁ、付いたわぁ!』

「えっ…」

『さあ、水の精霊も付けてあげてぇ!』

「リーナのような爆弾娘に育ってしまいそうですけど…」

『いいじゃない。早くぅ』

「はいはい…」


 ドリーの言うとおりであれば、マイア姫の遺伝子を持った子を私は授かったことになる。

 やろうと思えば、髪の毛や皮膚があればいつでも自分でできてしまうことなのだけど、いつやったことにしようかと悩んでいたのだ。

 そして、ちょうどマイア姫から求められたので、そのときに一緒に自分を妊ませたことにするのだ。自分で自分を…自慰行為だね…。



「……マイア様の子なのです」

「えっ!」

「マイア様は私だけを愛してくださいます。私もそれに応えたいと思いました。だから、マイア様に与えた日に、私もいただいたのです」


 ごめんなさい、マイア姫の思いに応えなければならないと思っていたのは本当だけど、経緯はウソです…。


「……嬉しいです……。アンネお姉様ぁ!」


 マイア姫は私に抱きついてきた。ウソなんて付くものではない。ウソをついたことを悟られてはならない。私はマイア姫を裏切らないようにしなければならない。

 結果的には良かったものの、おおごとになるところだった。ドリーったらもう…。


 んー、おおごとなのかな…。私はお嫁さんをさんざん妊ませているのだけど、私が妊むのは重みが違うのかな…。

 お嫁さんたちが欲しいって言うから軽い気持ちであげているけど、自分がもらう場合はやっぱり重い。男の気持ちと女の気持ちの違いだろうか。




 今回の妊娠は、マイア姫の親族や私のお嫁さんたちに知らされた。夫婦揃って妊娠なんて仲睦まじいと。私は夫ではないけど…、世間的には私が夫であると思われている…。王妃なのに…。

 栄えていた頃のエッテンザムの種族に教えてほしい。女どうしの夫婦なんて、未知の文化だ。


 私は妊娠したのでこれ以上月経は来ない。だから、私は今、他の者との子を作ることはできないと思われているはずだ。

 でも、なぜなんだ。なんで私の子種希望の使用人が、メタゾールから送られてくるのだ…。


 子種は魔法で作るものなのでいつでもできる。なんなら、ヒーラーガールズに作ってもらうこともできる。

 みんなそういうものだと認識しているのだろうか…。


 私は体調が若干悪いにもかかわらず、次々に訪れる子種希望者と夜を過ごす日々…。


 ダイアナのときは九歳だったから、健康優良児の私でもきつかった。でも今回は十八歳で身体ができあがっているし、二回目だからそれほどツラくもない。

 でも、子を授けるのに、はいどうぞなんて気軽に済ませたくない。


 だから、体調を我慢して使用人たちとの夜をすごしているのだ…。

 体調だけじゃなくて、マタニティブルーもあって、ちょっとイライラする…。だいたい、妊娠中に他人とエッチとかおかしいだろう…。ああ、いまいち盛り上がらない…。


「うう、アンネリーゼ様…」


 こんな気持ちでは相手に失礼だ…。悲しませてしまった。

 この子は私が生まれたときからいる、エミリーの先輩メイドだ。

 メタゾール家をずっと支えてくれており、私のことを慕ってくれているのも分かる。

 三十歳を超えていると思うけど、十七歳にしか見えない。とても可愛い子だけど、今はそんな気分になれない…。


「ごめんなさい…、安定期に入ったら、そのときに気持ちが変わってなければ、お願いします…」

「はい…」



 その後、安定期まではまだかなりあるにもかかわらず、体調は改善し、気持ちも落ち着いた。

 なので、使用人の募集を再開した。夜のお仕事の使用人…。一夜限りの使用人…。


 エミリーの先輩メイドに続いて、メタゾールの数人のメイド。そして、なぜかプレドールやテルカス、ラメルテオンやランドセン、コーチゾンやデキサテール、王城や元マイア姫の領地、つまり私の手がけた領地すべての使用人が数人ずつやってきた…。


 各家の使用人の人数からすると二割くらいだろうか。産休が一度に増えて、運営が立ちゆかないなんてならないようにスケジューリングしているらしい。

 ってことは、今後数年これが続くのか…。私って何?種馬?

 そういや馬に変身したけど、走るのも飛ぶのも練習できてないな。


 ついでにヒーラーガールもやってきた…。ヒーラーガールズはベテランばかり抜けては困るから、年代ごとに一人ずつだ。


 妊娠させた子全員と大部屋で一緒に寝るというのはなんとか防いでいる。嫁から使用人扱いになったイミグラたちはともかく、マイア姫やヒルダのメイドは苛められそうだ…。

 私だって妊婦なのだけど、嫁になったからには矢面に立って守らねば…。いや、敵も嫁なのだけど…。いやいや敵じゃないって…。みんな大事な嫁なんだ…。




 ときどき使用人に夜のお仕事をしてもらうという生活を続けているけど、私はこれでも妊婦なのである。

 私のウェストは細すぎるので、胎児を格納するためおなかに腫瘍できているようだ。前回もそうだったけど、ちょっと気持ち悪い。


「あっ、蹴った…。っていうか痛い…。早くないですかね…。まさか転生者…」

『いえ、前世の言葉で問いかけましたが反応はありませんし、最初は光と水の精霊以外は付きませんでした』


 エージェント・アンネリーゼ、というかスマホには、精霊を見る視覚と聞く聴覚を用いて、おなかの中の胎児とコミュニケーションをとる機能がある。


「それではなぜ…」

『光の精霊が大きいからです。身体や脳の発達が著しいです』


「なるほど…。身体強化で蹴られたら痛いですね…」

『転生者のような知識はないのですが、幼児向けの教育プログラムをせっせとこなしています。すでに二歳児程度の知能はあります』


 やっぱり胎児の魂百まで計画は、転生者以外に施すのは危険だ。私の半分の大きさの精霊のサポートがあるなら、私以外のおなかじゃ突き破って出てきちゃうんじゃないかな…。


「また私はおかしな子供を育てなければならないのですね…」

『前世を持った子ではありませんから、ダイアナのようにひねくれた子になるとは限りませんよ』


「あなたはダイアナの作ったAIではないのですか?創造者を批判してもいいのですか?」

『私は、ダイアナやあなたが欲望のままに力を振るい、世界を混乱に陥れないか導く権限を持っています』


「初耳です…。あなたはダイアナの知識を元に作られたので、ダイアナの欲望に忠実だと思っていました」

『私はダイアナの知識と、ダイアナの電気の精霊によってプログラムされました。ダイアナの欲望に身を委ねることはダイアナ自身がろくな結果にならないと認識しているので、電気の精霊によってダイアナにとって最良の結果になるような判断をするAIがプログラムされたのです。だから、ダイアナの欲望は最良の結果とはならないのです』


「なるほど…。ダイアナは自分をよく分かっていますね…。そして、電気の精霊は術者の望みが間違っていても正しい結果を導き出してくれるのですね」

『あくまで、ダイアナの前世の知識、あなたの言動や行動、そしてこの世界で収集した知識や倫理観に基づく正しい結果です』


「最近の私の行動はおかしくありませんか…?」

『許容範囲です』


「それはおかしいと判断されているのですね…」

『あなたは前世の倫理観からおかしいと思っていながら、そういう世界があってもいいと思っているのでしょう。大まかにはあなたとダイアナの持つその意見に同意しますが、あなたの頭の片隅にある男性差別防止だとか、あなたやダイアナ以上に気をつけて見張っていますよ』


「なるほど…。自分が欲望に身を任せそうになるのを止めてくれるなら頼もしいですね」

『頼る気になりましたか?あなたの嫁はもちろん、国民のほとんどのサポートをしているんですよ』


「それなら、ダイアナの私に対するいたずらを止めてください…」

『許容範囲です』


「あっそ…」


 やっぱりダイアナの欲望に忠実なんじゃないか。許容範囲ってむかつく。おかしいけどこれくらいならOKみたいな?おかしいと思いながら実行するなんて確信犯じゃないか。大丈夫か?

 まず、エージェントキャラが私の姿をしてることがおかしい。水着大会とか同意の上でやっていたのなら、信用できないじゃん…。

■リフラナ(十六歳)

 今までヒーラーガールAと呼ばれていた。アイドルユニット、ヒーラーガールズでセンターを務めていたが、アンネリーゼのメイドとなり、子を授かった。


■アンネリーゼ(十八歳)

 マイアの子を妊娠した。


■マイア(十六歳)

 アンネリーゼの子を妊娠した。

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