36 新生ロイドステラ王国
私が永遠の十七歳になってから一年が経った。
永遠の十七歳というのは、あくまで前世基準で十七歳といっているのであって、この世界では十五歳くらいと言える。なぜ前世基準の十七歳にしているのかというと、この世界の十七歳は大人を通り越して、若干年増に見えるからである。
前世の人種は、世界的に見れば少し小柄で童顔であった。だから、外国人の大人は、少し老けているように思える場合が多かった。
この世界でも同じで、この世界の十五歳くらいが、前世の大人のなりかけくらいに見えるのである。この点だけは譲れない。
私の身長は一七〇センチ。そろそろ伸びなくなってきた。この世界の成人女性は平均一六五センチだろうか。お母様も一六五センチだ。私のほうが少し背が高い。それなのに、十五センチのヒールなんて履いているから、ヘタな男よりも背が高い。男性の平均身長だって一八〇センチくらいだ。
胸は肩幅より大きい。ロイドステラ王国では、私より大きい胸の人は見たことがない。でもヒストリア王国まで含めると、カローナにはかなわない。カローナの胸は世界一大きいと思う。
でもまあ、邪魔になるほど大きな胸というのはファンタジー世界の住人のたしなみであり、私がファンタジー世界を牽引していくのだから、甘んじて受け入れるしかない。
お嫁さんたちは離宮でそれぞれ執務室を構えて過ごしている。せっかくみんなで寝られる部屋を作ったのに、一緒に寝ることはなくなってしまった…。
それからずっと、私はマイア姫とだけ一緒に寝ている。お風呂だけはみんなで一緒に入っているけど、みんなと寝られないのはちょっと寂しい…。
お嫁さんたちは、胸よりもおなかのほうがけっこう出っ張りはじめた。出産もあと一ヶ月くらい。
もちろん、私のお嫁さんたちもみんな永遠の十七歳だ。おそらく本来ならまだ顔立ちとしては成長するはずなのだけど、これ以上老けませんようにと願いを込めてマッサージをしていたら、十五歳くらいの顔立ちで止まっている。お母様だって私のお嫁さんなので、十五歳くらいの顔立ちだ。
つまり、私のお嫁さんたちは、この世界標準の美人ではなくて、私の考える美人、というか私好みの顔立ちや体型になった。あれ…、マッサージで血行がよくなって人間が本能的に好む美人になるはずだったのに、私の好む美人になっちゃってる…。
シルバーとアリシア、ワイヤは、私と交配することが種を存続させる最高の手段だと本能的に感じ、進化の泉で私の望む姿になった。
でも、ワイヤは私に恋をしているようには、あまり見えない。おかしいな。あれだけマッサージしてきたのに。
いやいや、私に恋をしないことがおかしいだなんて、私はなんて自意識過剰なんだ…。いいじゃないか…。私に恋をしない子がいても…。あれは、私を恋の対象と見なせるようになる魔法であって、恋を強制する魔法じゃないんだよ。
でも、ちょっと寂しいんだよ…。ワイヤからはお返しの魔法をかけてもらっているせいなのか、私がちょっぴりワイヤに恋してるんだよ…、たぶん…。
ダイアナだって同じだ。私に恋をしているように見えない。ダイアナは私のマッサージを気持ちいいと思ってくれないからしかたがない。それにもかかわらず、私はお返しの魔法を受け取って、ダイアナに恋をしていると思う…。
リーナも反抗期っぽいし、五歳くらいまで一緒に水遊びしていた可愛いリーナはどこへ行っちゃったのかな。リーナも十二歳だもんな…。しょうがない…。転生者ではないし、あれが普通の十二歳なんだろう…。
でも私が寂しいことには変わりないのだ。
ダイアナもリーナも私と結婚してくれたらいいんだけどな…。
離宮の廊下でダイアナにばったり会った。
今日のダイアナはメリザとポロンの二人を連れている。ダイアナはもう八歳だというのに、いまだに世話の焼ける子だ。メイドが一人では足りず、いつも二人以上連れている。三人交代制にしてよかった。
メイドたちは、仕事と学業を両立できるように交代制にしたのだけど、側にいながら暇なときはタブレットで勉強しているらしい。実技でどうしても学校に行かなければならないときは希だ。
『ママ、卵にひび入ってるよ』
「うわっ、忘れてた…。先にそっちが生まれるんだった…」
第二メタゾール開拓のときに拾ったレッドドラゴンの卵と、第三メタゾール開拓のときに拾ったブルードラゴンの卵だ。
ダイアナは卵の監視カメラ映像を映した自分のスマホを、私に見せてくれた。たしかに赤い方にひびが入っている。
たしか、名前はベニシアとシンシアだっけ…。雌かどうかも分からないのに…。
しかも、なんでアリシアみたいに「シア」で終わってないといけないんだろう…。ワイヤは「シア」じゃないのに。
最初の頃は光の魔力と、それぞれ火の魔力と水の魔力を上げていたけど、恋にかまけて忘れていた…。今からでも間に合うかな…。
『実は、王都まで鉄道ができあがっていて、メタゾールから王都までの無人テスト走行済だから、王都からメタゾールまで有人テスト走行をしてほしい』
「えっ…、電車の運転なんかできないよ…」
『自動運転だよ。乗ってるだけでいい』
「なんの有人テストなのやら…」
『衝突試験とか』
「やめい!」
『ママなら耐えられる』
「私をなんだと思ってるのさ…」
『この前、十万ボルトを五秒流したのに死ななかった』
「えっ…」
『いやいや、乗り心地とかサービスとかのテストだよ』
「それならいいけど…」
『あと時速四〇〇キロだから、ブロンズより速いよ』
「なるほど。じゃあ乗っていこうかな」
高速特急は、第一メタゾールと第二メタゾールを結ぶ予定だったが、予定外に早くマイア姫が王位を継承してしまったので、急遽、第一メタゾールと王都を結ぶこととなった。
第二メタゾールは農産物を周辺の領地に卸すための領地であって、第一メタゾールともののやりとりをする必要はあまりないのだ。
実際のところ、ドリーがあっという間に第三メタゾールまでのトンネルを掘ってしまったので、第二メタゾール行きのトンネルは残したまま、途中から分岐して王都行きのトンネルが掘られることになった。
ちなみに、終点も第三メタゾールではなくラメルテオンにする予定だ。
というわけで、高速特急の駅に向かう。お供はコーリルだ。
そういや、私とダイアナはもう別の貴族家なのに、コーリルたちが私とダイアナの両方に使えるメイドというのは無理があるな…。これは私がマイア姫と結婚したあとも続く問題なので、別のメイドを雇ったほうがいいか…。
王家のメイドさんで私に付いてこられるような子いないので、当然メタゾール領民から引き抜かなければならない。そろそろ使えそうな次世代が育っているかな。
だからといって、私はこういう遠征のときにしかメイドを連れないので、普段放っておくのも可哀想。かといって、常にメイドを連れ歩いたら、お嫁さんたちが嫉妬しそうだし、私も特別に可愛がるのを我慢できる自信がない。
だいたい今でも、誰かと出かけたときも、メイドに求められたら可愛がっちゃうしな…。
ちなみに、ドリーは最近ダイアナと工事を進めていて、私にはあまり付いてきてくれない。ちょっと寂しい。
駅は地下六階相当の深さにある。今は仮で、王城内に設置してある階段から行けるようになっている。将来的には王都内にエレベーターやエスカレーターを設置する予定。
六階の下り階段なんてきついのではと思ったけど、コーリルは難なく付いてきた。まあ、これくらいでへこたれる若いメイドは、うちにはいないか。
駅にはまだ何もなくて、先端の尖った高速特急が待っていた。
「これは…長い…、屋敷?」
「馬も車輪もありませんが馬車みたいなものですよ」
高速特急はリニアモーターカーなので、車輪すら付いていない。馬車から馬と車を取ったら、何も残らないにもかかわらず、馬車みたいなものという説明はいかがなものか。
「わっ、扉がかってに開いた」
私たちが近づくと、特急の扉が開いた。
高速特急は、私とコーリルしか乗らないのに四列×十五行×五両編成。定員三〇〇人とか、私が爵位を付いたときのメタゾール領民全員が乗車できてしまうではないか。
実際の運用では、客車の他に十両の貨物車両を連結するらしい。
「動き始めましたね」
初めての電車に、コーリルがいちいち驚いているのが可愛い。
影収納を使った魔導馬車と違って、加減速を感じる。また、ときどきカーブで重力が微妙に変化する。完全な地下鉄だけど、途中の領地に寄る都合上、若干のカーブはあるのだ。
乗り心地は前世の高速特急よりも快適だった。
前世のは時速三二〇キロだったかな。ダイアナの特急は時速四〇〇キロらしい。前世のリニア特急は時速五〇〇キロの予定だったと思う。まだ開通していなかったけど。
内装は前世の高速特急と同じだ。ちなみに、前世の高速特急というのは呼び慣れないが、たぶん固有名詞で呼んでいたようで、思い出すことができない。前世の固有名詞は記憶からほとんど消失しているのだ。
車内では、お茶くらい余裕でできる。車内にはコーヒーや紅茶の自動販売機があるので、コーリルは自動販売機にスマホを当てて電子マネーで紙コップのコーヒーを購入し、持ってきてくれた。
一応、窓が付いているが、外の景色は線路と高速道路がずっと続いているだけで何も面白くない。人が使い出したら、車の往来でも見られるのだろうか。
まあでも、灯りは確保されているんだな。やっと魔導炉を永久機関にできたから、電気使い放題ってところか。
車内ではスマホも使える。卵を監視している映像を見ているけど、まだ赤いほうにひびが入ったばかり。
ちなみに、お風呂は付いていない!マッサージベッドもない!
座席はリクライニングできるけど、完全に平らになったり水平になったりしない。寝台特急ではないのだ!
コーリルは私の隣に座ってもらっている。しかしとてもそわそわしている。
「わかりましたよ…。リクライニングしてうつ伏せになってください…」
「はい!あああん…」
私が我慢できなかった!
コーリルも十六歳…。でも外見は私の前世基準の永遠の十七歳、つまりこの世界における十五歳。
ああ、そろそろ結婚を考えたほうがいいかな?
メタゾールに着いた。王都からメタゾールまで四時間。シルバーの三時間に慣れてしまうと四時間でも長いけど、ブロンズの五時間よりマシ。
特急から降りると、メタゾールでも駅から六階分の階段を上らなければならない。もちろん、上りでもコーリルはへこたれない。
メタゾール邸の地下の、卵を置いてある部屋に来た。
ここに来る直前まで監視映像を見ていたから知っているけど、赤い卵はまだ上側に少しひびが入った程度。青い卵はひびも入ってない。
まだかかるのかな。お嫁さんたちの子たちはまだまだ先だけど、今日中に帰れないとお嫁さんたちを押してあげられない。
私がメタゾールを離れてから魔力をあげていない。知能の低い粗暴な獣になってしまっては困る。
私は慌てて、優しい子に育ってほしいと願いを込めた光の魔力と、それぞれの属性の魔力を与える。
心を読んでいると、卵の中のドラゴンが気持ちいいと感じている。
よし、がんばれ!がんばって生まれてくれ!
と、願いを込めて光の魔力を注いだら…、パリっ…。おお!青いほうにもひびが入ってきた!
ところで…、この子たちをアリシアのようなヒト型にしようと思ったら、私の嫁になることが種の存続に最適であると本能に刻み込まなければならない。
この子たちには、クレアとヒルダのお供になってほしいのだけど、人間型になるためには私に恋をしなければならない。ワイヤがダイアナになついているみたいに、この子たちはクレアとヒルダになついてくれるだろうか。
ああそうか、ダイアナはワイヤに美味しい電気の魔力をあげているから、私に恋をしていながらもダイアナに懐いているんだ。クレアとヒルダはこの子たちに美味しい魔力をあげられるだろうか。
はぁ…、いつから私は人の恋路をかってに決める横暴な人間になってしまったのだろう…。
そうか、この国は貴族社会なのだから、強い者に嫁がせる政略結婚は当たり前。そして、私が強い者なのだから、私との結婚を強いるのは当たり前。あれ…?
だいたい、私が人間種として最強ってどういうこと?ドリーがそう言っていたけど、私っていつから最強になったんだろう…。
そんなことを考えながら、卵に魔力を注ぎ続けている。
あ、この子たちが知的で優しくなるようにしつつ、赤と青がそれぞれクレアとヒルダのことを好きになるように願っておこう。
そうだ、ヒト型になって、クレアとヒルダの子をなすことが、種の存続に最適だとそそのかせばいいのかな?クレアとヒルダの顔をすり込んでおこう。
っていうか、早く生まれてくれないと、お嫁さんたちの待つ離宮に帰れない。
えっと、ベニシアとシンシアだっけか。頑張れ!ベニシア!シンシア!
バリっ。
おっ、殻のひびが進んだぞ。頑張れ頑張れ!
バリっ、ビリっ。
よしよし。赤はもうすぐだ。
青も頑張れ。っていうか、私が来たとき、青にひびは入っていなかったけど、今日出てくる予定だったのだろうか。私が急かしたから慌てて出てこようとしている感がある。
まあいいや。とにかく私のために早く頑張れ!
バリっ、ビリッ、バリバリ、バーン!
なんと、青組の逆転勝利!
三〇センチくらいの、青いドラゴン。トカゲの背中にコウモリの翼。どうやら雌。
キミの名はシンシアだ。
バリバリ、バーン!
紅組も遅れてゴール!
五〇センチくらいの、赤いドラゴン。こっちも雌。
キミの名はベニシアだ。
むう、大きさが違うな。ワイヤとアリシアは生まれたとき両方五〇センチだったし、ベニシアも五〇センチだから、五〇センチが標準かな。
シンシアのほうは、今日は出てくる気なかったのでは…。私が急かしたから、未熟児のまま生まれてしまった…。
まあいいや。ご飯を食べて大きくなれ!
それにしても、またもや雌だ。もしかして、両性具有なのかな。じゃなければ、有精卵を作るためには雄ドラゴンがどこかにいたはず。
それとも、卵の栄養になるため、雄が雌に食われるタイプの生物とか…。
戦ったレッドドラゴンは、身体に炎をまとっていた。でもベニシアはそのようなことはないようだ。常に燃えていたら育てられないので助かった。
ブルードラゴンに至っては、ダイアナが一人で倒していたから、どんな性質があるのかしらないな。
戦闘した親ドラゴンのことはよく知らない。唯一知っているのは、会話したホワイトドラゴンだけど、性別とか分からなかった。あのときは、ドラゴン側が心を伝える魔法を使っていたので、私が知りたい情報を得られる状況ではなかったし、そもそも雌か雄か調べる気もなかった。
「くぉーん…」
「くーん」
可愛い。甘えてくる。こうしているとペットの域をでないのだけど、そのうち人間になって…、もう私は嫁はいらないので…、クレアとヒルダの娘と結婚してもらうか。同い年になるから丁度いい。
っていうか、クレアもヒルダも自分の子が生まれるというのに、ドラゴンなんて構っている暇があるのだろうか。
あれ…、マズいんじゃない?可愛がってもらえないとぐれちゃうよ。
ここは、もうすぐ生まれるクレアとヒルダの娘と一緒に登場させることにしよう。
さいわい、ドラゴンが生まれたことをクレアとヒルダは知らないので、隠しておけばなんとかなるかな…。
生まれるまでに人間になってもらえるよう教え込まねば…。
私は特急に乗り王都への帰路についた。ドラゴンの乗車料金は、人間と同じでいいのだろうか。あ、ゼロ歳だから、タダでいいのか。それともペット枠?
電車の中で、ベニシアとシンシアの本能に、クレアとヒルダのことを親だとすり込み、ヒト型になることをひたすら叩き込んだ。
そして、王都から第二メタゾールまで、ローカル鉄道で移動した。王都と第二メタゾール、旧マイア姫の領、その付近の四人のお嫁さんの領は、ローカル鉄道でつながっているのだ。
第二メタゾールで用があるのは、もちろん進化の泉だ。進化の泉は、第二メタゾールの領主邸の大きな一室にあり、厳重に管理されている。
さあ、あなたたちは何になるべき?
ベニシアとシンシアの身体が光り出して…、ベニシアは二歳くらい、シンシアは一歳くらいの女の子サイズになった…。のはいいけど…、いろんな部分がドラゴンのままだ…。
まず、尻尾と翼がある。ここまではワイヤも同じ。
それから、目がトカゲっぽい…。手も足も爪があったりうろこがあったり…。
生まれたてで光の魔力も少ないから、これが限度なんだ…。
それか、本能からヒト型になる必要性を感じてくれていないかな…。
いやいやそもそも、私はいつから生物の本能を操作できるようになったのだ…。私に恋をさせるとかいうレベルじゃない。神をも恐れぬ所業だ…。
どうしよう…。クレアとヒルダの子供たちが生まれるまでにワイヤのレベルに到達するとは思えない。そもそも、二人がワイヤのレベルで我慢してくれるかも分からない…。
このままだと、二人は自分の子にかまけて、ベニシアとシンシアをいらないとなってしまう。
子供ができるとペットへの愛情が薄れてしまうなんて、ありがちな話だ…。
この中途半端な状態なら、変身しないほうがマシだな…。っていうかごめん…、ちょっとキモい…。
だからといって、ペットのままじゃダメだぁ…。
段取りを間違えた…。このままクレアとヒルダがベニシアとシンシアを可愛がってくれないようなら、私が引き取るしかない。でも、ベニシアとシンシアには、クレアとヒルダのことを親だとすり込んでしまった。なんてこった…。
会わせていいのかな…。会わせるなら今しかないな。子供が生まれたら、ますますいらないってなってしまいそう。
よし!
私はローカル鉄道で王都に戻り、離宮のクレアの執務室を訪れた。
「クレア…」
「あ、アンネ!仕事中に会いに来てくれたの?嬉しい!」
「紹介したい子が…」
「えっ?」
私の背に隠れていたベニシアが顔を出した。といっても、ロングスカートをはいているわけではないので、脚の隙間から赤い爬虫類っぽい何かが見えていたと思うけど…。
「ベニシア!生まれたんだね!」
名前、忘れていなかった!
「くぉーん…」
クレアはベッドから出てきて、しゃがみ込んでベニシアを抱きしめた。これくらいではおなかの子には問題ないと思う。もうとっくに安定期だしね。
「何ヶ月も会えなかったら寂しかったよ」
「くぅーん…」
生き別れの親子の再会みたい…。
「まだ私の魔力を美味しいと思ってくれるんだね!」
「くおーん!」
「クレア、魔力をあげていたんですか?」
「うん。ワイヤはダイアナの魔力になついたんでしょ?私程度の炎の魔力で満足してくれるか分からなかったけど、メタゾールにいるときは頻繁にあげにいっていたんだよ」
「そうだったのですか…」
「どうやら私の魔力の味を覚えていてくれたみたい」
「くーん」
「これからは一緒にいようね!」
「ぐおーん!」
一緒にいるってどこまでかな…。ベッドまで一緒だと、ビビる子もいると思うんだけど…。
さて…、あとは若い二人に任せて…。私はクレアの執務室を出て、ヒルダの執務室へ。
「ヒルダ…」
「アンネ、脚の後ろにいるのはシンシアね!」
そりゃ、分かるよね。私の脚の隙間から、青いうろこの生物が見えるからね。
「おいで!」
「くぉーん!」
ここは離宮に設営したヒルダの執務室。
ヒルダはベッドから出てきてシンシアに寄っていった。ヒルダは身重なので、動きはゆっくりだ。
シンシアは私の後ろから出てきて、ヒルダに寄った。シンシアは未熟児のまま生まれることを強いられたから、歩きがたどたどしい。
そしてヒルダはシンシアを抱き上げた。
「まあ!小さくて可愛いのね!」
「くぅーん…」
軽いからって、身重でひょいっと抱き上げるのはちょっと怖い。
「私の魔力を覚えていてくれたのね!」
「くーん…」
「アンネ、シンシアを連れてきてくれてありがとう!」
「はい」
ヒルダは笑顔で私に礼を言った。私も笑顔で返した。
「これからは一緒にいていいのよね?」
「もちろんです」
「よかったわ!」
「くぉーん!」
私はヒルダに執務室を出た。廊下を歩きながら考える。
クレアとヒルダはベニシアとシンシアのことを忘れていなかった。とても可愛がってくれそうではある。
でも、二人に子供が生まれたら、ベニシアとシンシアが愛に飢えないだろうか。
ベニシアとシンシアは子供の情操教育によいペットになってくれるだろうか…。
そんな不安を抱えて、一ヶ月がすぎた。
『ロザリーに陣痛の兆候があります』
「えっ…」
エージェント・アンネリーゼの体調監視機能か…。まさかあなたに呼ばれると思わなかったよ…。てっきり、電話でロザリーのメイドに呼ばれるのかと思っていた。セレスのときはカローナが電話してくれたし。
しかも、一番乗りはロザリーかぁ。体格差かな。お嬢様たちのなかではいちばん体格がいいからかな。
私はロザリーの執務室に赴いた。
「ごきげんよう」
「アンネ、来てくれたのね。エージェントのアンネが教えてくれたのよ。今日陣痛が来るだろうって」
「はい、私にも知らせが来ました。
エージェント、この部屋の様子はラメルテオンの執務室に筒抜けですよね。アゴニス様とラトニー婦人にお知らせをして、向こうの部屋にはお二人だけ入室できるようにセキュリティを変更してください」
『かしこまりました』
両親にはリモート出産立ち会いの権利を与える。
執務室は魔紋認証になっていて、入室を制限できる。
魔紋はすべての生き物が固有で持っている、魔力の乱れのちょっとした振動から個体を特定するものらしい。スマホの認証にも使われている。
「うぅ…」
「陣痛が来ましたね」
私はロザリーの産道の痛覚を麻痺させた。
バタン。ディスプレイ越しのラメルテオンの執務室に、両親が到着した。
『もう始まっているのね』
『ロザリー、大丈夫か』
「アンネが痛みを和らげてくれたから大丈夫です…」
背中を押してやり、お産が進むようにした。便秘解消のツボと近いところにある。
ロザリーだって光魔法の身体強化を鍛えてきた。お産に必要な筋力も体力もじゅうぶんだ。
「生まれましたよ!ほら!」
「はぁ…はぁ…。ペルセラ!あなたはペルセラよ!」
「アゴニス様とラトニー様も見えますか?」
『ああ…。美人に成長するだろう…』
『抱けないのが残念だわ!早く見せに来てね!』
よかった。ダイアナとクラリスみたいにほとんどカローナに似ているとかじゃなくて、ペルセラはちゃんとロザリーと私に同じくらい似ていると思う。
遺伝子の割合が偏らないのは、ヒストリアでメイドに実験したときに分かっていたことだ。
ダイアナとクラリスがカローナに似ているのは、おそらくエッテンザムの血によるものだ。エッテンザムの遺伝子を優位にする仕組みがあるのだろう。エッテンザムの生き残りはカローナだけだから絶滅させないようにしようと思っていたけど、気をつけないと人類がエッテンザムの遺伝子に駆逐されかねない。
影収納からロザリーの子供の容姿になる予定の精霊を取り出して、ペルセラに付けた。ロザリーもそのメイドさんも、カメラ越しの両親も、誰も光と土の精霊を見ることはできず、精霊に気が付いていない。
必要になるまで人間型にならなくてよい。人間型になると名前が欲しくなるかもしれないけど、主人と同じ顔をした守護霊みたいなものだし、名前はいらないかもしれない。
アゴニスの言うとおり、とても美しく成長するだろう。
私だって子爵家出身のわりにはだいぶ綺麗になったと思うけど、でもそれって私が血流を良くしたからであって、後天的なものだ。遺伝子によるものではないはずだ。
それなのに、みんな私が最強の遺伝子を持っているのだと思っているのかな。とくに、アリシアとシルバーは本能的にそう感じているようだし。
となると、私は光魔法による施術で、遺伝子も変わってしまっているのだろうか。私だけでなく、お嫁さんたちの遺伝子も変えてしまったのだろうか。美しく、強くなるように。
まあいいや。魔法は望みを叶えるもの。望まない結果にはならないはず。
ロザリーの両親には、妊娠したことをロザリーから話してもらっていた。法整備の都合上、結婚もせずに妊娠することになったとはいえ、私からはかなり説明しづらいので、本人から伝えてもらっていた。
ロザリー以外のお嫁さんについても同様だ。私一人で全員の親に説明して回るなんて大変すぎる。
いや…、普通はお嫁さんは一人なので、経緯はともかく、両親に妊娠を告げることは大変なことではないのか…。お嫁さんがたくさんいることがすでに大変なことなのか…。
私としては、みんなのことをずっとお嫁さんと呼んできたけど、本来なら女どうしで結婚できるわけではないので、ずっと一緒にいられる女友達くらいの気持ちでお嫁さんと呼び始めたような気がするけど、子供をもうけた今、あとは法律を施行して正式に結婚すれば、名実ともに本物のお嫁さんだ…。
あれ…、結婚式もお嫁さんの数だけやるのかな…。出費は痛くないけど、短期間に何度も結婚式を挙げる私は相当痛い人だよな…。
今になってこれだけたくさんの子と結婚することが大変なことだって実感が湧いてきた…。
ああ、側室との結婚式って挙げるものなのかな。ロイドステラ王国では王族にしか側室が認められていないけど、マイザー前王はどうしたんだろ…。ヒストリア王国では貴族でも側室が認められているみたい。セレスに聞かないと…。
今まで貴族に側室はなかったけど、今回法律として認める予定だ。私が第一号なのだから、私が挙式するかどうかがロイドステラ王国での風習になっちゃうじゃん…。
うわぁ、責任重大だ。挙式しなかったらお嫁さんが悲しむだろう…。挙げるしかないか…。そして、私が恥をさらすしかない…。
数日後、マイア姫の陣痛が始まったと知らせがあった。
私はマイア姫の執務室に赴いた。みんなそうなのだけど、執務室とみんなで一緒に寝る寝室しかないのだ。そして執務室には介護ベッドが置いてあるので、そのまま出産するのに都合がいいのだ。
「うぅ…、アンネお姉様…、痛いです…」
「今、楽にしてあげますね」
「はぅ…」
もちろん今回も私が取り上げる。私より人体に詳しいものなどいない。
マイア姫の執務室には、いつものメイド四人と、女騎士二人がいる。
メイドだってミニスカメイドだし、女騎士もちゃっかりミニスカアーマーになっている。
「マイア!大丈夫か!」
「ほんとうに生まれるのね!」
マイア姫の父親キプレスと母親アドミナが駆けつけた。
アドミナに会ったのはつい最近だ。
マイア姫の希望だったとはいえ、結婚もせずに妊ませた身としては、母親に挨拶もしていなかったのは、やっぱりちょっと申し訳なかった…。
アドミナ義母様…、可愛い…。じゃなかった。今はそれどころじゃない。
「生まれましたよ」
「はぁ…はぁ……。きゃー!可愛い!アンネお姉様と私の愛の結晶!あなたはデルスピーナよ!」
マイア姫、元気だなぁ。とても出産直後とは思えないね。
「おお、この世の者とは思えぬほど可愛いな」
「美人に育つわぁ!見事な金髪よ」
両親も大絶賛だ。
私は自分をそれなりに可愛いと思って生きてきたけど、マイア姫やセレスの足下にも及ばないと思ってもいた。ただの子爵令嬢アンネリーゼとマイア姫の遺伝子を掛け合わせても、こんなに可愛い子は生まれなかっただろう。やはり、私は自分のこともお嫁さんたちのことも遺伝子改変してしまったに違いない。
まあ、それは些細なことだ。
私は影収納から精霊を取り出して、デルスピーナに付けた。
マイア姫の出産のあとには、イミグラとゾーミアが続いた。体格が良いからだろうか。イミグラの娘はイスマイラ、ゾーミアの娘はゾーラだ。
二人とも、自分と私の両方に面影のある娘をとても喜んでいる。二人の娘にもそれぞれ精霊を付けた。
その次に陣痛が来たのは…、お母様だ…。
お母様は仕事をしていないけど、離宮にリーナと一つの部屋を借りてすごしていた。エミリーも一緒だ。
お母様はさすがに、水着ではなく普通のミニスカドレスだ。
私がお母様の子を取り上げるのは二度目。とくに問題なく生まれたのだけど…。
「あなたはアルゾナよ!とても可愛いわ!」
アルゾナ…、お母様と私の娘…。お母様の娘ということは、私の妹…。私の娘で私の妹…、カオス…。
いやいや、お母様は母であり姉であり娘であり嫁だったのだ。あ、今では私の方が大きいので姉ではなくて妹かもしれない。だから娘であり妹であるというのは、今さら驚くことではない。
アルゾナは私にそっくりだ。私の生まれたばかりのころは知らないけど、そうではなくて、今の私を小さくしたらこんな感じだろうということだ。
お母様に植え付ける種を生成するときに、劣性遺伝となりうる遺伝子を排除したつもりなのだけど、自分の親と交配するなど前代未聞のことやってしまったのだ。どこかおかしいところはないだろうか…。見た目は大丈夫だ…。でも、何か障害があったとしても、私はこの子を治療してみせる。
そもそも、私は自分で知らないうちに自分の遺伝子を弄ってしまっているのだろう。ドリーは私のことを完璧な生き物だと言っていたけど、まあ私はかなり抜けているので完璧かどうかともかく、それってそもそも、私自身から劣性遺伝となる遺伝子を取り去ってしまっているのでは?もしかしたら、自家交配してもなんの問題もなく子供ができてしまうのでは?
まあ、そんな実験はしたくない。といっても、お母様ともこれ以上は…ないとは言い切れないし、ダイアナやリーナとも結婚したい。
母親との交配という大実験を成したけど、大実験はまだ残っている。異種交配だ。
「シルバー、生まれましたよ!」
「プラチナ!生まれてきてくれてありがとう!」
プラチナは薄い金髪で、頭に馬耳が付いている…。そして尻尾もある人間型…。その他に馬の部位はないようだ…。
馬型になれるのかは分からない。本人が望まない限りは。
まあ、もふもふが付いてる以外はおかしなところはない。
そういえばすでに精霊と異種交配したんだった。今さらかな。
それにしても…、プラチナ…ヤバい…。可愛すぎる…。萌え死にそう。
シルバーだって一日中耳と尻尾でもふもふできそうなのに、プラチナの小さな耳と短い尻尾は凶器だ。
あとのお嫁さんの娘はとくに何も問題なく生まれた。まとめると…
ヒルダの娘パリナ。
クレアの娘プレナ。
マイア姫の娘デルスピーナ。
ロザリーの娘ペルセラ。
イミグラの娘イスマイラ。
ゾーミアの娘ゾーラ。
レルーパの娘エレナ。
マクサの娘リザベル。
アマージの娘ナーラ。
シルバーの娘プラチナ。
お母様の娘アルゾナ。
お嫁さんの娘といっているけど、私の娘でもある。でも自分の腹を痛めて産んだダイアナとは、やっぱりちょっと違う。いや、ダイアナも自分の腹から出てきた他人だよな…。
父親というのはこういう気持ちなのだろうか。申し訳ないけど、ちょっと十把一絡げ気味だ…。こんなにたくさんの子を愛せるのだろうか…。
と心配していたのだけど、私は父親の役割でありながら母乳を出せるのだった…。
胸が大きすぎて、赤ん坊を抱いておっぱいをくわえさせることは相変わらず難しいので、ベッドで横になって母乳を与えたのだけど、そうしたらすぐに母性が働いて、自分の子だと思えるようになった。
ちなみに、マイア姫とロザリーもかなり胸が大きいので、赤ん坊を抱いておっぱいをくわえさせるのは難しいようだ。
しかし、みんなそれぞれ別の部屋を持つようになってしまったので、子供が生まれてからも一つの部屋で寝ることはなくなってしまった。いつも一緒に寝ていたのに寂しい…。
「さあ、アンネお姉様、法律施行のお知らせを出しましょう」
「はい。同性婚と側室については、とくに何も制限がないので、即時施行したいところですが、通信網がない地域への伝達も考慮して二ヶ月後からですね」
「まだ二ヶ月もかかるのですね…。早くアンネお姉様との結婚式を挙げたいです」
「そのことなのですが…」
「なんですか、アンネお姉様は私との結婚式を挙げたくないのですか?」
「いえ、マイア様との結婚は嬉しいです。ですが…、他の嫁を側室にするにあたっては、結婚式を挙げるべきか迷っているのです」
「挙げなかったら皆がっかりするでしょう。私としては大変不本意ですが、挙げた方がよいです。というか、挙げないと私がいらぬ恨みを買いそうです」
「しかし、側室をこんなにたくさん抱えることを大々的にお披露目するなんて…、ちょっと恥ずかしくて…」
「何をおっしゃるのですか!今さらですよ!アンネお姉様がタラシなのを隠し通せるわけないでしょう!」
「うぐぅ…」
「妾なんて貴族のたしなみみたいなものですよ。アンネお姉様が筆頭になれば、他の貴族もいままで妾だった側室とこぞって正式に結婚式を挙げることでしょう」
「そ、そうなのですね…」
やっぱり、第二、第三夫人なんて当たり前の世界なんだ。恥ずかしがっているのは、前世が一夫一妻の世界だった私だけなんだ。
でも、第十夫人とか、第二十夫人とかまでいていいのだろうか。加減というものがわからない。
「でも、平民は妾にとどめておいた方が外聞が良いです。男爵や子爵くらいならともかく、アンネお姉様は最高位の公爵なので、平民を正式な側室に召し上げるのはお勧めできません。本音を言うなら、子爵令嬢と男爵令嬢だって身分に差がありすぎます」
「そんな…、それではヒルダとクレアのことも諦めろと言うのですか…」
「ふふふ、アンネお姉様を悲しませないようにするには、どうしたらいいか三人で作戦を練ったのですよ」
「えっ…」
「ヒルダもクレアも頑張ったのです。二人とも伯爵家と呼べるほどに領地を発展させています。あとは、親から爵位を継いで、陞爵するだけです」
「クレアは伯爵に飛び級ですか?」
「そうです。本当ならテルカスはとっくに子爵になってもよかったところですが、法律に施行に合わせることにしました」
「ロザリーはどうするか聞いていますか?」
「現ラメルテオン侯爵は優秀ですから、ロザリーに爵位を譲らなくても領地運営に問題ないでしょう。それに、侯爵令嬢が公爵に嫁ぐのも問題ないでしょう」
「では、私が正式に結婚式を挙げるのは、マイア様とロザリーとヒルダとクレアだけですね」
「はい。平民と…親とか馬は妾にしておいてください…」
「はい…」
聖女の守り手、お母様やシルバーと正式に結婚できないなんて…。序列なんて付けたくなかったのに、結局付いてしまった…。
こんなことになるんだったら、正式な結婚なんてしたくなかった。お嫁さんたちは皆平等なのに…。
二ヶ月後に、同性婚と側室に関する法律が施行されることが発布された。電子化されている領地や王都では、スマホ・タブレットで通知される。もちろん、掲示板などにも張り出される。
本当は電子化された領地だけなら、すぐにでも施行したいところだが、電子化されていない東西の僻地には手紙が届くのに一ヶ月以上かかるので、それを見込んで二ヶ月だ。そういうところには、手紙が届いてすぐ法律が施行されることになる。
別に、今まで妾だったのもを正式に登録してお披露目できるようになるだけだ。もともと妾の子供を養子にしてしまえば後継者として登録することもできる。突然施行されても困るような法律ではない。
さらに、女どうしで子供を作れる魔法のことも公表した。開発中の領地にあるヒーラーガールズの治療院で不妊治療を受けられる。このときのためにヒーラーガールズもたくさん育成した。開発中の各領地に十人以上派遣した。
マイア姫との結婚式は、さらに二ヶ月遅らせることになった。東西の僻地に招待状が届くのは一ヶ月半もかかり、それから一ヶ月準備をして、一ヶ月半かけて王都に赴くには四ヶ月かかるのだ。四ヶ月でも急ぎすぎているくらいだ。
結婚式への招待状は、同性婚の法律施行の手紙と一緒に出すので、マイア姫の結婚相手がアンネリーゼ・メタゾール公爵であることがちゃんと書かれている。法律の手紙より招待状を先に見ちゃったら混乱するだろう。それもまた一興だけど。
同性婚の法律とか女どうしの結婚式の招待状とか、文字だけでは一見何を言っているのかぽかーんとしてしまうと思う。だからなのか、スマホの通知にも手紙にも、写真が入ってる。
写真では、マイア姫が嬉しそうにして私の腕を両手で掴んでいる。私は苦笑いだ。でも他の者にはたんに清ましてニコニコしているだけのようにも見える。こんな写真を撮った覚えはないのだけど、CGというワケでもない。
こんな恥ずかしい招待状は前世でも出さない。まるで結婚した次の年賀状のような雰囲気だ。この年賀状をもらった独身の友人は、これを破り捨てるかもしれない。毎年自分の子供の可愛さを訴えてくる年賀状よりもウザい。
「私たち、結婚します!」なんてメッセージは入っていないけど、写真はそのように訴えている。でも文面はいたって真面目だ。
ヒストリア王国に遅れること三年。長かったなぁ。ほんとうに長かった。
長い長い四ヶ月がすぎて、晴れて、マイア姫と私の結婚式の日がやってきた。
この日のために、ダイアナは、ガラスではなく本物のダイヤモンドをキラキラとちりばめたドレス二着を作ってくれた。二着だ。マイア姫と私は、どちらも新婦なのである。
マイア姫が、私とおそろいがいいと言ったので、同じデザインだ。王の地位を示すため、マイア姫のドレスを豪華にしようと提案したけど、それなら聖女である私を立てたいと。でも、聖女はそういう身分ではないだろうということで、同じデザインになった。
ここ数年でお嫁さんたちの領地でドレスを作るようになり、それらの地域のドレスはミニスカートが基本になりつつある。ロングスカートは駆逐されるのだ。
この世界に決まったウェディングドレスはないようだ。でも前世のウェディングっぽく純白にしていた。ミニスカートのウェディングドレスなんてコスプレ衣装みたいだけど、ここはファンタジー世界なのでこれを標準として推し進めるのである。王と聖女の命令が絶対だ。私たちが法なのである。
九年前に私がデビューしたときと同じように、レースをたくさんあしらったドレス。今回は二人とも純白。前回は何枚か重ねたレースのロングスカートからパンツがうっすら見えていたけど、今回はそれがロングスカートではなくてミニスカートだ。
レースなのでスカートをめくらなくてもパンツがうっすら見える。はっきり見えないので、中を覗きたくなる点は前回と同じだが、ミニスカートなのでちょっとめくれば完全に中を拝むことができる。あと一歩でパンツを拝むことができるので、めくりたくてしょうがなくなる一品なのだ。
ブラジャーの部分は、ダイアナの開発した吸着素材によって、紐なし、ベルトなしになった。前世でもあったけど、貼り付けて固定する。それなのに、シリコンのようにひんやりねちょっとしているわけではなくて、普通のシルクのように肌触りがよい。
というか、この素材、収穫祭のときの三角水着のときにすでに使われていたらしい。やっぱい脱げない仕組みがあったのだ。あのときは、紐で引っ張っていたために、揺れたときにむしろずれやすかったようだ。そのために、毎回外れる寸前になってビクビクしていた。
それに比べると、これはまったくずれない。歩いても揺れるだけで、ずれて脱げそうになる心配がない。
でも、何も固定していないので、ノーブラみたいに揺れ放題だ。あまり揺れすぎるのは恥ずかしい…。それにずっとこの状態だと型崩れしそう。
三角水着と違って締め付けてもいないから、鏡で横から見たときの厚みがすごい…。重心も前になってしまって、姿勢を維持するのが大変。
デビュタントのときもそうだったけど、パーティでは髪を結い上げるのが基本らしい。でも、私は長い髪の毛が花のようにふわふわ揺れているのが好きなので、いつもとあまり変わらず仕上げた。
流行に反していても、マイア姫と私がこうしたのだから、これがこれからの流行なのである。私が法なのである。
「アンネお姉様とおそろい!」
マイア姫と同じデザインにしたので、マイア姫も固定されていない、肩幅ほどある胸をたっぷんたっぷんと揺らしている。それが嬉しいようだ。
やはり、胸が揺れたりブラが脱げそうになったりして恥ずかしがるのは、前世の記憶を持っている私だけらしい…。
マイア姫の胸も、押さえつけていない分いつもより厚みが増して見える。だけど垂れたりしない。さすがマイア姫。
「マイア様…、綺麗です…」
今日は化粧もバッチリだ。王族が金と権力で手に入れた美貌を、私が鍛えたのだ。化粧なんかせずとも世界で一、二を争う絶世の美女なのだ。そこに化粧が加わると、この世の者とは思えないほど美しくなる。
私がマイア姫に恋をしているのは間違いない。綺麗なマイア姫を見ると、私の顔が赤らむのを感じた。
「アンネお姉様も素敵です!さあ行きましょっ!」
「はいっ!」
私はマイア姫と手をつないで、王城のバルコニーに出た。
王城の前には広場があり、広場からはバルコニーを見ることができる。
王都の人々の歓声。
マイア姫も私も、スマホにインストールされたエージェントキャラになっているので有名人だ。エージェントの二人が、「このたび結婚することになりましたので祝ってくださいね」と王都民に通知したらしい。それは王命なのではなかろうか。
エージェントはどちらか一方しか選択できないが、この通知だけは私とマイア姫の両方が現れて、そう継げたらしい。さぞかし特別な通知だっただろう。
「私たちは、女性同士で子供を授かる魔法を手に入れました!私は、聖女アンネリーゼを妻に迎えます!」
マイア姫の演説により、ふたたび歓声が沸いた。
この内容は、すでにスマホや掲示板で伝えられていた。誰一人として驚かない。
マイア姫は大きくはっきりしゃべってるが、マイア姫のドレスには小さなマイクが付いており、そんなに頑張らなくても王城の前に集まった者たちにはちゃんと聞こえるのである。なんなら、各自の持っているスマホにバルコニーの様子が映されており、スマホからも同時に音声が聞けるのだ。
今日は、マイア姫と私の娘、デルスピーナ第一王女のお披露目でもある。
できちゃった婚であるが、同性婚を世間に認めさせるには、この手順しかなかったのだ。ヒストリア王国でも通った道だ。
できちゃった婚は合法だ。結婚していない者は妾として扱われ、その子供は正式な子供と見なされないだけだ。そして、妾をあとから正妻として、その子を正式な子供とすることはよくあるらしい。
マイア姫の母アドミナがデルスピーナを抱いてバルコニーに出てきた。そして、デルスピーナをマイア姫に渡した。
「私はこの身にアンネリーゼの子を授かりました!デルスピーナ第一王女です!」
マイア姫がデルスピーナを高く掲げると、また歓声だ。
高く掲げられるのは怖いのでやめてあげて。
デルスピーナは四ヶ月だ。首は据わっている。
「私はアンネリーゼとともに、女性の社会進出を促進します!女性も男性も一丸となって国を発展させましょう!」
私の目指す女性の社会進出。その第一歩。それが国の指針として打ち出された。
生理の煩わしさから解放され、常に最高にポテンシャルを発揮できるようになる。
教育や雇用の機会が公平に与えられる。
身体強化の魔法で、力仕事にも携わることができる。
男性でないとできないことは何もなくなるし、種の存続には女性だけで必要十分なのだけど、男性はいらないとならないように情報操作していくつもりである。
何度もいうが、私は男を毛嫌いしているわけではない。いらないだけである。おっと、本音が漏れた。
前世の歴史を顧みれば、この世界には比較的、女性差別が少ないとは思うけど、全くなかったわけではない。だからといって、男性に性差別で仕返ししたりするような大人げないマネをしようと思っているワケではない。
同性婚の法律は、女性に限ったものではない。
ただし、男性同士で子供を授かる魔法など知らない。私が本気で男性の体内に子宮を植え付けることを望めば、私の光の精霊はかなえてしまうかもしれない。でも、それが私の望みになることはあり得ないのだ。 学校で人体の知識を与えているので、光の精霊を育てた、同性婚を希望する男性が必要な魔法を開発すればよい。
バルコニーから戻ると、王城でパーティだ。結婚パーティでドレスのお色直しという概念はないらしい。ミニスカートだしゴテゴテしているワケでもないので、そのまま歓談に入った。
私が出たパーティなんて、デビュタントパーティだけだ。それも、ドレスを宣伝しただけだったし。
パーティって何をすればいいんだろう…。
「「「「マイア様!」」」」
王都付近の自領を改革中の、アレスタとグリメサとタルメアとロコイアだ。
「「「「アンネリーゼ様!」」」」
国の北側の自領を改革中のクローナ、メレーナ、ソラーナ、エリスだ。
「「「「「「「「ご成婚、おめでとうございます!」」」」」」」」
みんな揃って私たちのことを祝福してくれた。
八人は皆、ミニスカートのドレスを着ている。
もはやロングスカートのドレスは流行遅れ。いまだにロングスカートなのは、流行に乗り遅れている西側と東側の者たちだけだ。
「ありがとう、皆さん」
「ありがとうございます」
マイア姫と私は礼を述べた。
しかし、みんなの祝福の裏には、うらやむ気持ちが隠れている。
ああ、この子たちも私のお嫁さんなのだ。でも、この子たちは、ロコイアを除いて、私は恋の魔法を返してもらっておらず、私はロコイア以外に恋をしていない。じっと見ているとわずかにドキドキしてしまうのはロコイアだけだ。
今なら明確に区別できる。私は、カローナの影響を受けて、マッサージと一緒に私を恋の対象と見なせるようにする魔法をかけてきたかもしれないけど、それ以上に私が魔法に込めていたのは愛だ。皆に健康で気持ちよくなってほしいと願う愛だ。それは前世でも抱いていた願いだ。
私が皆に恋をしてしまうと、自制が難しくなってしまう。だけど、愛なら振りまいてもいいじゃないか。
私はこの子たちにも愛の手を差し伸べよう。
ちなみに、ヒルダとクレアとロザリーは来ていない。後日、私の側室として結婚式を挙げるからである。
よし!アレスタたちとクローナたちとも一緒に結婚しちゃおう!いや、結婚なんて大事なことを十把一絡げにすることはできないので、時間がかかって大変だけど、一人一人式を挙げようか…。
「マイア様、アンネ、おめでとう!」
「セレス!」
なんと、セレスが来てくれた!その後ろには、私よりも大きな胸の…
「いけませんよ、他国の王と王妃なのですから。マイア様、アンネリーゼ様、ご成婚、おめでとうございます」
「カローナ…様…、ありがとうございます…」
作法にうるさいカローナ。
セレスとカローナももちろん、ミニスカートのドレスだ。ヒストリアのほうが全国的にミニスカ化が進んでいる。平民にも浸透している。
「セレスタミナ様、カローナ様、ありがとうございます」
マイア姫がセレスとカローナに礼を述べた。様だなんて、変な感じだ。
私も礼儀をしっかりせねば…。
マイア姫から来場者に、ヒストリア王国のセレスタミナ王とカローナ王妃のことが紹介された。もちろん、ヒストリア王国との国交についても公表された。
ロイドステラ王国に先んじて女性だけで子を授かる魔法を実現し、同性婚が国民中に広まっている国であることが知らされた。
まあ、第一号は私なのだけど。
残念ながら、レグラとクラリスはヒストリア王国でお留守番らしい。
パーティには、ロイドステラ王国のほとんどの領地から当主夫妻が訪れている。マイア姫と私の結婚だけでも驚きなのに、すでに同性婚が広まっている国があることに驚愕を表している。
しかし、結婚はともかく、子供を作れることには半信半疑のようだ。女どうしで子供を作れるなど、当事者以外には悪魔の証明に近い。まったく男性と触れあわずにすごしているところをずっと監視していなければ、男から子種を植え付けられていないという証明は難しいのだ。
そんなことは、これからヒーラーガールズの治療院で不妊治療を受けた女性が証明してくれればよい。
大勢の貴族が集まる中、私とマイア姫は、夫婦…、婦婦になった。
いままでもずっとお嫁さんだと思っていたし、先に子供も作ってしまったので、何かが変わったという実感がない。
でも、とても嬉しそうなマイア姫にそんな思いを知られるわけにはいかない。マイア姫との結婚式に集中しなければ。
マイア姫…、私の恋した人…。私の愛した人…。ああ、そう思えば、結婚式も悪くないな。
パーティで出した料理は、ドリーの木で入手した前世の野菜や、魔物の肉や卵を、前世の家庭料理に仕立てたものだ。つまり、わりといつもどおりのメニューだ。残念ながら、ダイアナも私も、高級料理の知識がない。ごめんね、マイア姫。
でも、私と関わりのない貴族にとっては、目をむくような美味しさだったようだ。
この世界の料理といえば、塩ゆでしただけの貧相な野菜に固いパン。地域によってはオークの肉や大角ウサギの肉が出たり。それは貴族にとってもあまり変わらないのだ。
私が改革する前のメタゾールはとくにひどかったけど、極端に差があるわけでもなかったのだ。
マイア姫との結婚式の数日後、クレアと私の結婚式を挙げた。式といっても、神父に誓うとかいう儀式はなく、パーティで私たち結婚しましたと宣言するだけである。
もちろん、セレスもカローナも来てくれてた。
べつに関わりの薄い他の貴族は来てくれなくても構わないのだけど、マイア姫のパーティから日が経っていないので、ほとんどの貴族が領地に帰らずに、参加してくれてしまった。
こういうときヒルダはなぜかクレアに先を譲ってくれる。ロザリーも、付き合いの長さを考慮して、そこは譲ってくれる。
クレアと私のウェディングドレスは、デザインはマイア姫のときと同じだけど、色はクレアのイメージカラー?であるピンクだ。デビュタントのときと違って、ドリーの木から染料となる植物を入手しているので、鮮やかでしかも明るいパステルなピンクだ。
私は別におそろいにする気はないのだけど、みんなおそろいにすると言って聞かないのだ。そして、私がそのようにしてしまうと、それが流行として固定化されてしまう。まあいいや。一体感があって良いだろう。
クレアとの結婚パーティでは、クレアが男爵位を継ぎ、さらに伯爵に陞爵したことも告げられた。もちろん、実際の告知は別途、手紙やスマホで行われる。
公爵である私との結婚には、それなりの箔付けが必要らしい。貴族、めんどくさい。
でも、クレアは領地の発展に尽力しており、功績はじゅうぶんだ。
私はマイア姫に嫁いで、籍を入れることになったのだけど、私は領地を持たない法衣貴族だったので、とくに問題がなかった。
でも、クレアは領地持ちの伯爵でありながら、私と結婚してしまった。
ここで、マイア姫とダイアナの作った新しい法律が生きてくる。結婚はするけど、籍を入れるということをしないのだ。クレアはテルカスに籍を置いたまま、私と結婚したのだ。家名も変わらない。
そもそも、王の正妃の側室というのは意味不明だ。いや、側室に関する法律は、王妃である私がクレアたちと結婚するために作ってもらったといってもいい…。
それもこれも、通信インフラが整いリモート領地経営できるようになったからできることだ。クレアはこれからも王城の離宮の執務室からテルカス領を管理する。いざとなれば数時間で帰ることもできる。
結婚したら名前が変わるとか、夫のものになるというような概念は、前世でも嫌いだった。新しい法律では、籍を移すことなく、結婚することができる。名前も変わらない。
子供は両方の家の所属となる。子供によって、互いの家の情報が筒抜けになることで、従来よりも結束を高めることができる。
もちろん、そうしたくない場合は、籍を移せばよい。従来通り、相手の家の所属になり、家名も変えるのだ。その場合は、子供の所属は明らかだ。
「アンネ!私、アンネとの結婚を認めてもらえて嬉しいよ!」
「私もですよ。小さい頃は漠然とした願いでしたけど、こうして叶えることができましたね」
女どうしで子供を作れるとはっきり分かる前から、私と結婚したいと言っていたクレア。ほんとうに願いが叶った。
それに対して私はどうだろう。私は最初、ずっと一緒にいられる女友達くらいのつもりでいた。
でも、女どうしで子供を作れると分かってから、ずっとみんなのことをお嫁さんとか呼んできた。だからだろうか。今さら結婚といわれても実感が湧かない。
結婚式が前世と違うからだろうか。いまいち結婚式に特別感がない。
でもそんなことを表面に出しては、クレアに申し訳ない。
クレア…、私の恋した人…。私の愛した人…。このことに偽りはない。
クレアとの結婚式の数日後、ヒルダとの結婚式、ロザリーとの結婚式を挙げた。ヒルダはイメージカラーのパステルな水色、ロザリーはパステル名緑色のペアルックドレスで臨んだ。
私の恋したお嫁さんと一緒に並んでいると、だんだん結婚式が特別に思えるようになってきた。
テンションがスロースターターで申し訳ない。
やはり、結婚式は特別なようだ。でも、建前上、公爵は平民と結婚することはできない。聖女の守り手、お母様、シルバーとは子供も産まれたのに、世間的には結婚したとはいえないのだ。それは悲しい。
そこで私は、聖女の守り手、お母様、シルバーと、離宮でプライベートな結婚式を挙げることにした。一人一人ではなくて、合同でだけど。
子供を産んだとかは関係ないので、アリシアも一緒に結婚だ!
もちろん、ドリーも。ドレスを着られないけど。
残念ながら、リーナとダイアナ、ワイヤは私と結婚してくれなかった。
正式に結婚式を挙げたマイア姫、ヒルダ、クレア、ロザリーは、平民のみんなとの結婚式を歓迎してくれた。でも、ダイアナの仕立ててくれたみんなのドレスが、マイア姫のものと同等であったことには、マイア姫は難色を示していたけど。
平民のみんなとのプライベートな結婚式はとても喜ばれた。マイア姫と同等のドレスを着られたことで、私がみんなのことを同等のお嫁さんだと思っていることを感じてくれたらしい。
私としては、法律上の正式な結婚にできないことと、合同でやってしまったことに、ちょっと後ろめたさを感じているので、別のところに力を入れた。料理だ!私の手料理だ!
手料理とは手を使って調理する料理である。
手ごねパン。手で潰したトマトと手で挽いた肉のミートソースをかけた手ごねパスタ。手でちぎった野菜。手で捌いた肉の手ごねハンバーグ。
そして、ついにやってしまった…。私の母乳…をホイップしたクリーム…を乗せた手ごねケーキ。さすがに生地に使った卵は私の卵ではない。私は、食べることのできるような卵を排卵することはできない。
今回はさらに、至る所にあらゆる属性の魔力を込めることに尽力した。水は水魔法で生成するし、お湯は加熱の魔法で沸騰させる。沸騰させるときは、遠隔で加熱魔法を使うのではなくて、鍋に手を突っ込んで沸騰させたほうが良い。ハンバーグやパスタは土魔法で整形できた。
茹でる以外は加熱魔法を使ってしまうと、電子レンジのような仕上がりになってしまうので、ハンバーグとパンは手のひらで焼いた。私の手で包める大きさなので小ぶりだ。手のひらを四〇〇度に熱したら、ちょっと熱かった。私の身体は、傷つくそばからかってに回復していくので、手が焼け焦げたりしない。
魔法の料理人の真髄に到達しつつある。
私とみんなの結婚式だというのに、なんだか私がみんなをおもてなしする形になってしまった。でも身を焦がすような思いをして調理した甲斐があった。
「アンネお嬢様の手料理…。今回はアンネお嬢様の味がかつてないほど濃いです…」
いちばん喜んでくれたのはアマージだ。
他の子も、美味しい美味しいと言いながら食べてくれている。
みんな、私の愛情を感じてくれている!正式に結婚できない罪滅ぼしが少しはできたかな…。
結婚式のあと、お母様がドレスの紐なしブラを普段着にしてしまったのは言うまでもない。
妊娠中、王城にいるときはおなかが冷えるので水着ではなかったし、出産後も普通のドレスを着ていたけど、ほんとうは水着でいたかったらしい。でも、さすがに王城で水着はマズいと思ったのだろうか。
そこで、新しく紐なしブラを手に入れたものだから、飛びついてしまった。あまり固定されていない水着もどうかと思うけど、ノーブラ状態では型崩れするのでお勧めできないんだけど。
完全フリーの胸をたっぷんたっぷんさせる日々を満喫してるようだ。個人的には完全フリーの胸はお風呂で見慣れているので、動きが制限されている水着のほうが萌えるのだけど、その辺りは私とお母様で感性が違うようだ。
平民のお嫁さんたちとのプライベートな結婚式の夜…、
「ねえ、アンネ…」
「セレス、どうしましたか?」
離宮の廊下で、思い詰めた表情のセレスに会った。強い意志が感じられる。
「私も欲しいわ!」
「ちょっ、廊下でそのようなこと…」
いくら周りにカローナしかいないからって…。
ちなみに今回はレグラの代わりのメイドさんも付いてきている。でも、この離宮の廊下にいるのは私とセレスとカローナとメイドさんだけだ。
セレスは私の手を掴んで、強引に部屋に連れ込んだ。ここはセレスに割り当てられたゲストルームらしい。
というか、セレスは最初のマイア姫との結婚式にしか出ていないのに、ずいぶん長く滞在しているな…。まさか、結婚式が一通り終わるまで待っていたのか…。いや、排卵日を待っていたのか…。
「あの…、ここはカローナと一緒の部屋ではないのですか…」
「今はカローナのことはいいじゃない!」
いやいや、あなたの正妻でしょう…。
「ヒストリアに帰ったら、聖女アンネリーゼを側室として発表するわ!」
「えっ…」
「ほんとうは正妻に迎えたいのよ!でもアンネはロイドステラ王の正妻だもの…。マイア様から奪ってやりたいくらいよ!」
「私のために争わないでください…」
「私の側室にする許可なら、マイア様にもらっているわ」
「えっ…。でも、カローナは何と言っているのですか…」
「カローナもアンネの子を産みたいって言っているのよ。でも今回は私がもらうわ」
「えっ…」
「私たち、あなたに出会ったときにあなたのことをいちばん好きになったのよ。私はカローナのことが好きだったのに、あなたに心を奪われたの。離ればなれになってしまったけど、もう我慢できないわ!」
そう言いながら、セレスは私をベッドに押し倒して、私のドレスを脱がし始めた。私は抗うことなく、セレスを受け入れる。
紐なしのブラは、胸が揺れても剥がれたりしないけど、人の手で剥がそうと思えば簡単に剥がせる。それはそれでどうなのか。
「ああん…」
傍目には私が襲われているようにしか見えないと思うけど、私が攻めに転じなければ子供ができたりはしない。
セレスに身体を触れられると、とても気持ち良く、気を失ってしまいそうだ…。
セレスだって私のお嫁さんなのだ。ほんとうは私もセレスと結婚したい。セレスと結婚できないなんていやだ!
「あああああん…」
気が付いたら、いつのまにか私がセレスの身体に触れていた。そして、私の指には…。
翌朝、目覚めるとセレスの寝顔。
記憶がないワケではないけど、けっこう無意識に身体が動いていた…。これではカローナと同じだ…。カローナも光の魔力さえあれば、記憶が残るのだろうか…。
マイア姫…、側室なら許可したんだ…。ふところ広いなぁ…。
「あ、アンネ…。おはよっ。そしてありがとう…」
「おはようございます」
人のことめちゃくちゃにしておいて、なんで自分がしおらしい顔になるんだ。
まあみんなそんな感じになるけど。
「来年はカローナにあげてね」
「はい」
ダイアナはノーカウントなのかな。それとも自分が一度は母親になってみたいのか。
「その次の年はレグラよ」
「あっ、はい」
二人抜けると政務が滞るから、交代なのか。
セレスはとても大事なものをもらったような顔で、ヒストリアに帰っていった。
やはり、子供を授かるというのは嬉しいことなんだね。私は知らないうちにカローナに妊まされたから損した気分だ。それに生まれたのは大人の心を持った赤ん坊だ。私ももう一度くらいは子供を授かってもいいかもしれない。
「将来の夢はお嫁さん」だなんて、前世ではいつのまにか聞かなくなった。でもこの世界では、お嫁さんになって子を授かることは、女の夢なのだろう。
セレスは特急と船を使って帰ったらしい。私の知らない間に、特急と船が開通していた。
そして、セレスが帰った夜…、私はクローナにゲストルームに連れ込まれた。
クローナが私の子を授かり、側室になることは、マイア姫に許可をもらっているという。ウソをつくような子ではないし、悪意もない。
その夜はクローナとすごすことになった。
翌日から毎日立て続けに、メレーナ、ソラーナ、エリス、アレスタ、グリメサ、タルメアが押しかけてきて、子を授けることになった。
この子たちからは恋の魔法を返してもらっていないので、私はこの子たちに恋をしていないはず…。でも、私はこの子たちを愛しているのだ。求められたら拒むことはできなかった…。
この七人は、メタゾールから自領に戻って改革をし始めて一年経っている。だから、離宮に執務室を借りて、リモート領地経営する予定だったのだ。
去年のヒルダたちと同じように、介護ベッドにタブレットを置いて、休み休み仕事をできる。
それに、私が体調を見てあげられる。
ああ、来年また七人の娘が増えるのか…。セレスの子も入れると八人か…。もう、お嫁さんも娘も増やしたくないのだけど、そんなことをいっておきながら、母乳をあげたらきっと、自分の娘という実感が湧いて、愛しくなってしまうのだろう。そして、そのことに悪い気はしない。
で、ロコイアもやってきたのだけど…。
「アンネリーゼ様、わた…」
「まだダメです」
「がーん…」
「あなたはまだ自領の改革が軌道に乗っていないでしょう。一年経っていないだけでなく、進捗が遅いです。収益の伸びも悪いです」
「そ、それは…」
「何ですか、この社交費という多額の支出は」
私とダイアナとマイア姫は、お嫁さんの領地の会計を見ることができる。私は自分のスマホにヒドルチゾン領の収入と支出の項目を表示した。
「それは…」
『家族の服や装飾品の購入費です』
ロコイアのスマホのエージェント・アンネリーゼが応えた。
「それは言っちゃダメって言ったじゃないですか…」
エージェントは、より上位の者に命じられれば、持ち主の不利益になることもするのである。
スマホの会計システムは、多くの事務が自動化されるが、悪いことは上に筒抜けなのだ。
「まだ切り捨てられないでいるのですか?」
「うう…」
「数年後に、領地運営費の横領を厳しく取り締まる法律が施行されます。あなたの家族の処刑は確実です。でも、法律の施行まで待っていると、あなたも連座で爵位継承権を失います。今だから内部告発という形であなたを救うことができるんですよ」
「うぅ…」
ロコイアは涙を流し始めた。
ヒドルチゾン家はダメな貴族の典型であるが、身内には甘かった。ロコイアは大事に育てられたので、家族を切り捨てることができないようだ。
「期限はこの国の九割の領地の改革が始まるまでです」
ロコイアのような年頃のダメなお嬢様をメタゾールで教育中だ。でも、令嬢のいない領地には手を出していない。猶予はけっこうあるのだ。
「あなたが自分の家族を廃嫡にして爵位を継ぐまで、私の子はお預けです」
「私、家族を廃嫡にして、アンネリーゼ様の子を授かれるように頑張ります!」
「頑張ってくださいね」
「はい!メタゾールで勉強中のご令嬢も、きっとアンネリーゼ様の子供を欲しがります。家族の不正を暴露して自分で爵位を継がないと、アンネリーゼ様から子供を授かれないとなれば、みんな頑張ると思います!」
「そ、そうですか…」
ご褒美が私の子種とか…。っていうか、今勉強中の子たちとは結婚するつもりはないのだけど…。
今まで私のマッサージがご褒美だったのに、さらにとんでもないことになってきた…。
ロコイアからは恋の魔法を返してもらっているので、私はわずかながらロコイアに恋をしてしまっている。まあ、恋の気持ちがなくても、私はロコイアを愛している。ロコイアを見捨てたりはできない。ロコイアが良い貴族当主となれるように導くだけである。
ロコイアとの結婚は延期になったけど、ロイドステラ王国で施行された新しい法律は、王妃である私が率先してたくさん慣例を作ることになったのであった…。
■アンネリーゼ・ロイドステラ王妃、アンネリーゼ・メタゾール公爵(十八歳)
永遠の十七歳。
身長は一七〇センチ。十五センチのヒールなんて履いているから、ヘタな男よりも背が高い。胸は肩幅よりはるかに大きい。
■ダイアナ・メタゾール侯爵(八歳)
■メリリーナ(十二歳)
■リンダ(二十八歳)
永遠の十七歳。三角水着ですごしている。
■マイア・ロイドステラ王(十六歳)
■ヒルダ・プレドール伯爵、シンクレア・テルカス伯爵(十八歳)
父親から爵位を受け継ぐとともに、領地発展の功績により伯爵になった。
■ロザリー(十八歳)
■イミグラ、レルーパ(二十四歳)
■ゾーミア、アマージ(二十三歳)
■マクサ(二十二歳)
■ドリー(永遠の十七歳)
■クローナ・ランドセン伯爵令嬢、メレーナ・メキサム伯爵令嬢、ソラーナ・アンプラム侯爵令嬢、エリス・フルジアン侯爵令嬢(十八歳)
■アレスタ・コーチゾン伯爵令嬢、グリメサ・デキサテール伯爵令嬢、タルメア・アルクロゾン侯爵令嬢、ロコイア・ヒドルチゾン侯爵令嬢(十六歳)
■セレスタミナ(十八歳)
アンネリーゼの子を妊娠した。
■コーリル(十六歳)
■ベニシア(ゼロ歳)
レッドドラゴン。第二メタゾール開拓時に倒したレッドドラゴンから捕れた卵から生まれた。
■シンシア(ゼロ歳)
ブルードラゴン。第三メタゾール開拓時に倒したブルードラゴンから捕れた卵から生まれた。
■パリナ・プレドール伯爵令嬢(ゼロ歳)
アンネリーゼとヒルダの娘。
■プレナ・テルカス伯爵令嬢(ゼロ歳)
アンネリーゼとシンクレアの娘。
■デルスピーナ・ロイドステラ第一王女(ゼロ歳)
アンネリーゼとマイアの娘。
■ペルセラ(ゼロ歳)
アンネリーゼとロザリーの娘。
■イスマイラ(ゼロ歳)
アンネリーゼとイミグラの娘。
■ゾーラ(ゼロ歳)
アンネリーゼとゾーミアの娘。
■エレナ(ゼロ歳)
アンネリーゼとレルーパの娘。
■リザベル(ゼロ歳)
アンネリーゼとマクサの娘。
■ナーラ(ゼロ歳)
アンネリーゼとアマージの娘。
■プラチナ(ゼロ歳)
アンネリーゼとシルバーの娘。薄めの金髪。馬耳、馬尻尾あり。ヒト型のみで馬型になれない。
■アルゾナ(ゼロ歳)
アンネリーゼとリンダの娘。アンネリーゼそっくり。
■アゴニス・ラメルテオン侯爵
■ラトニー・ラメルテオン侯爵婦人
■キプレス(三十一歳)
マイアの父。
■アドミナ(三十一歳)
マイアの母。




