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32 転生令嬢は聖なる親指でみんなに癒してもらいたい

 今日はヒストリア王国に行く日だ。夜に出て船の中で一泊して、翌日にヒストリア王国に付く予定だ。


 ヒストリアに行ったときは、いつも領地を回ってをちまちまと開拓して回っている。

 いつもはダイアナのお付きとしてコーリルかメリザのどちらかを連れていっている。でも、ポロンもダイアナ付きとなったので、三人交代でヒストリアに行くこととなった。今回はポロンの番だ。

 あと、開拓にはドリーの土の魔力も欠かせない。ドリーは私に付いている精霊というわけではないから、ダイアナと一緒に何かしているときも多いけど、基本的にいつも一緒だ。


 メタゾールの南側の港まで魔道馬車で移動。馬車の中にはダイアナとドリーと、今回お付きのポロン。

 そして…、アリシア…。今まで付いてきたことなかったのに…。


 それは、シルバーに対抗意識を燃やしていることが理由のようだ。

 シルバーは魔道馬車に乗って付いてきてるのではない。私たちがシルバーに連れていってもらっているのだ。

 シルバーはどこに行くにも必ずいる。今まではシルバーが馬でアリシアもドラゴンだったからアリシアも我慢できたかもしれないけど、同じヒト型になったのにシルバーだけ一緒にいるのは我慢ならないようだ。


 かつてないほどの修羅場だ…。マイア姫のレベルじゃない…。


 まあいいや。ヒト型になったアリシアをセレスに紹介するために連れていこう。


 さらに、本人はあまり乗り気ではなさそうなのに、ワイヤはダイアナに連れてこられた。ワイヤは別に、愛に飢えているわけではなさそうだ…。ダイアナと同じで、ドライでぶっきらぼうな感じだ。

 まあ、ダイアナはワイヤも紹介するために連れてきたんだよね。



 ところで屋敷から港までの道のりは、時速六〇〇キロ出すほどの距離ではないので、魔道馬車を引いて時速三〇キロで走っている。

 シルバーは馬型だ。メタゾールはドラゴンがいても領民が驚くことはないので、シルバーも角と翼を出してアリコーンの姿だ。

 ちなみに他の地域に行ったときは、角と翼があるとみんなが驚くので、ただの白馬になっている。好きなときにしまえるのは素晴らしい。


「あれ?港までは恒星間ワープモードにならないんじゃないの?もうすぐ港に着くのに、なんで?」


 魔道馬車は影収納に格納されて、窓の外が真っ暗になった。夜だから月明かりは見えていたけど、影収納の中は完全に真っ暗だ。

 シルバーの頭に設置されたカメラの映像が、ディスプレイに映される。映された景色は浜辺を通り過ぎ、海の上へ…。


『シルバーは、一五〇キロの船より速く飛べるように練習したんだってよ?』

「えっ、船にのらないで、シルバーが飛んでいくんだ!」

『そう。だから今回船長は雇っていない』

「すごい…、シルバー…」


 あっ…やばい…。私がシルバーを褒めると、アリシアの嫉妬の炎が…。


「ねえ!私も馬車引きたい!」

「帰りにやってみましょうか」

「うん!」


 シルバー、時速何キロで飛べるんだろう…。カメラの映像じゃ分からない…。

 アリシアがシルバーより遅いと、またアリシアが泣いちゃうかも…。

 っていうか、馬車は影収納の中だから、シルバーが海を単騎で飛んでいるだけなので、私と馬車の中にいられる方が嬉しいと思うのだけど…。



 船に乗り換える必要がないということは、このまま馬車の中でマッタリしまっていいってことだ。


「アリシア、お風呂に入ろっか」

「うん!」


 満面の笑み。すなおに可愛いと思う。

 人数が少ないので、ポロンも一緒に入った。


「あん…」


 アリシア…、可愛い声…。

 アリシアはドラゴンだからか、けっこう筋肉質。ぷにぷにの脂肪に見えるのは、私が普段からほぐしているから。これは私と同じようだ。

 今日はお嫁さんが少ないので、アリシアをくてんくてんになるまでマッサージしてしまった。

 今日はお嫁さんが少ないだなんて、まるでいつもはお嫁さんがいっぱいいるみたいな表現だ…。実際その通り以外の何物でもない…。


『あはああん…』


 ドリーはいつも色っぽい声。指に光と土の魔力を込めるとドリー触れることができる。


『私はやんなくていい』


 ダイアナは筋肉がゼロに等しいので、マッサージしがいがないが、拒否されてもやる。


「ああん…」


 ワイヤはダイアナと違って、私のマッサージを求めている。ワイヤもドラゴンなのでけっこう筋肉質だけど、アリシアほどぷにぷにの筋肉ではない。光の精霊の大きさに差があるからだろうか。


「あああん…」


 ポロンもメイドのローテーションで、数日おきに朝にやってあげていたけど、今日はたっぷりやってあげる。



 ベッドに入ると、アリシアとドリーに授乳した。いや、ドリーが吸うのは私の魔力だけど。

 私のおっぱいを吸っているアリシアはとても可愛い。ダイアナより可愛い。

 ダイアナの中の人はかなりアレなので、それを思い出してしまうと、外見がいくら可愛くてもなぁ。

 それに対して、アリシアは純粋に五歳の女の子なので、やっぱり幼い子供に飲んでもらっている方が嬉しい。


 しばらくすると、アリシアは私のおっぱいをくわえたまま寝てしまった。


『あー、アンネちゃんのおっぱいは美味しいわぁ』


 ドリーの授乳も終了。


 すると、おもむろにダイアナとワイヤも私のおっぱいをくわえてきた。

 ダイアナは和食を手に入れてから、じゅうぶんに食事を取るようになったのだけど、もはや私たちは永遠に卒乳しない。


 ダイアナは母乳を飲み終わると、お休みも言わずに寝てしまった。

 ワイヤは私のおっぱいも好物のようだけど、ダイアナの電気の魔力も好物なのだ。ダイアナが魔力をくれる前に寝てしまったので、ぷんすかしている。


 そして…、物欲しそうな顔をしているポロン…。メイドたちにはマッサージしてあげているけど、まだ授乳したことはないのだけど…。

 やはり、シルバーがお嫁さんに昇格してから、メイドたちはお嫁さんの座を狙っているようだ。今のところ、お嫁さんとメイドとでは、マッサージの頻度の差の他に、授乳の有無という決定的な差がある。

 ここを死守しないと、なし崩しにメイドに授乳が解禁されてしまうのではなかろうか…。

 やっぱりいただけないのか、と泣きそうな顔をしているポロン…。マジかぁ…、コーリルとリメザにもあげたことないのに…。

 ポロンはセレスとカローナに頼ってもらえなくて意気消沈していたけど、最近はダイアナにこき使われているのが嬉しそうだった。

 あっ…、今回はどんな気持ちでヒストリアに行くのだろう…。セレスとカローナにも捨てられて、私も構ってあげなかったら…。


「ポロン、いらっしゃい」

「はい!」


 負けた…。私のおっぱいを吸っているポロン…。可愛い…。このアングルで上目遣いされると、誰だって可愛いんだよ。いや、授乳すると母性本能が働いて、誰でも可愛いと思ってしまうんだ。

 ヤバい、他のメイドにばれたら大変だ。


「ポロン、みんなには内緒ですよ」


 ポロンは私のおっぱいをくわえながら、軽くうなずいた。

 しばらくして、ポロンは私のおっぱいから口を離し…、また寂しそうな顔…。


「ポロン、一緒に寝ましょう」

「はい!」


 その目で訴えられるとかなわない。

 まあ、一緒に寝るだけなら、コーリルとかロザリーのメイドとも寝たことあるしね。おやすみ。




 そろそろ、ヒストリア王国の最北端のバステル男爵領に着く頃かな。寝ていたからか、外の様子を映すディスプレイはオフになっていた。窓の外を見ても影収納の壁は真っ黒なので分からない。

 恒星間ワープモード用のゲートの魔道具は私が作ったものなので、魔道具の機能を使わなくても私の意思でも開くことができる。

 だけど、ゲートの魔道具はシルバーの影収納にしまわれているので、私がゲートの魔道具の影収納を開いたところで、出るのはシルバーの影収納の中だ。これはシルバーの影収納だから、私が勝手に開いたりできない。

 この馬車の車室内は三重の影収納になっているのだ。


 お、窓の外が明るくなった。シルバーが恒星間ワープモードを解除したんだ。バステル男爵領かな?って、


「あれ…、ここってヒストリア王都の手前じゃない?」

『そうみたい。シルバーはやっ』


 うわっ、アリシアがあからさまにむっとしている。

 やめて、ダイアナ。アリシアの前でシルバーを褒めないで。


 ポロンが魔導馬車の前側から御者席に出て、王都の門をくぐる。

 王都民は物珍しそうにシルバーを見ている。もちろん、シルバーは角も翼も出していない。何が珍しいのかな…。シルバーが美人すぎるかな…。



 王城の門を通過すると、王城の門番もシルバーをじろじろ見ていた。何だろう…。

 王城の扉の前に馬車を着けると、いつもならシルバーは馬車を引いて馬車の停留所に馬車を置いて、馬屋でお休みするのだけど、馬屋はもはやシルバーの寝場所ではないし、今回はセレスたちにシルバーを紹介したいし、シルバーが停留所に行ってから戻って来て王城に入場するという段取りもできていないし、ああもう、面倒!


 シルバーは恒星間ワープモードで馬車をしまって、人間形態に変身!予めシルクをゆるく身体に巻いてからヒト型になることで、裸を見られないように変身できるようになってきた。

 変身していく仮定で、シルクを徐々にフィットさせて、ブラとパンツの形にする。さらに、もう二枚のシルクをトップスとミニスカートの形に仕上げていく。トップスのフリルや、スカートのプリーツも忘れない。

 どうしても時間がかかる…。三十秒かな…。やはり、変身シーンを敵に待ってもらえないと、やられてしまう…。




「ごきげんよう、セレス、カローナ、レグラ、クラリス、リーフ」

『ごきげんよう』


 クラリスはベビーベッドで寝ているようだ。リーフはその側に付いている。


「ごきげんよう、アンネ!ダイアナ!」

「ごきげんよう、今日は早いですわね!」


 シルバーがめっちゃ飛ばしてきたからなぁ。


『こんにちは、ママ』

「リーフ、喋れるようになったんですね」


 リーフが私に寄ってきて挨拶してきた。


「ところでアンネ、そっちの白い髪の二人の子、初めて見たわ。あと、金髪の子もよね。紹介してよ」

「会うのは初めてじゃないんですよ。こっちはシルバーで、こっちはアリシアとワイヤなんです」

「えっ…、アリシアとワイヤってドラゴンよね?」


「そうだよ!」

「うん」


「まあ可愛い!」

「ってワイヤには翼と尻尾があるのですね!」


 アリシアは完全に人間にしか見えないけど、ワイヤはヒト型でもドラゴンの翼と尻尾をしまえない。


「それで…、シルバーって…、思い出せないわ。アンネが名前を呼んでいたのは覚えているのだけど…。メイドだったかしら…」


 シルバーは陰の功労者。セレスは思い出せないか。


「まさか…、その頭の上の…、耳?お尻の…尻尾…。シルバーって馬車馬の?」


「正解です!」

「シルバーです。お二人のことは八年前から存じ上げております」


「まあ…、シルバーって栗毛の馬だったわよね…」

「ご主人様は白馬がお好きなようなので、白馬になりつつ人間の姿にもなれるようになりました」

「ちょっとよく分からないけど…」


 シルバーがヒト型になったってだけでも驚きなのに、白馬にもなったって意味が分からないよな。

 すでに混乱しているのにさらに、角と翼が生えたとか言ったら、情報量が多すぎるから、それはまたの機会にしよう…。


「髪が白ってことは、もしかして馬になったときも白馬なの?」

「はい」

「じゃあ今日はシルバーは白馬の姿で登城したのね?」

「はい」

「白馬というのは、王族専用なのだけど、まあアンネはヒストリアでは王族みたいなものだし、構わないわ」

「いいのですか、すみません」

「その代わり、ちゃんと王族の馬車に見えるように装飾してね」

「そうします」


 そういうことだったのかぁ…。




「ところで…、ポロン…」

「セレスタミナ様…」

「久しぶりね」

「ご無沙汰しております」

「あの…、もしよければ、いつでも私たちの元で働いていいのよ」

「お気遣いありがとうございます。でも、今はダイアナ様のお世話をさせていただいております」

「まあ!そうなのね」


『ポロンは仕事が丁寧。頼めば何でもやってくれる』

「お褒めいただき光栄です」


「ダイアナ、少しは自分でできるようにならないといけませんよ」

『貴族たる者、雑事はメイドに任せ、自分は自分のやるべき仕事をやるもの』

「まあ!言うようになりましたわね」


 ダイアナは生まれる前からこんなんだけど。


 よかった。ポロンは吹っ切れたようだ。今日は踏ん切りを付けるために来たのだろうか。だいぶ時間がかかったな。




「そうそう、私、リーフのことがだいぶ見えるようになったのよ」

「光の魔力が強くなってきたのですね」

「まあ、カメラで見ればはっきり見えるのだけど、リーフは小さいころのアンネみたいなのに、胸が大きいのね。人間のアンネもこれくらいあったのかしら」

「えっ」


 リーフの姿は、私の妄想が産んだキャラだということはバレていない。ロリ巨乳なんてのが私の趣味だとバレるのは困る。

 いやいや、趣味なんかじゃないよ。ドリーの胸も私の胸も大きいから、きっとこの子も大きくなるんだろうなぁって考えたら、なぜか中途半端に採用されてしまったんだよ。たぶん。


「私はこれくらいのときは普通にぺったんこでしたよ。それよりも、ダイアナですよ!この子、六歳なのに胸があるのですよ!」

『こらー離せ!セクハラ!』


「ほんとうねぇ。カローナでもこんなにはなかったわよね?」

「わたくしのことは放っておいてください…」


 よし、話題をそらせた。

 それにしてもカローナのお胸様はどこまで大きくなるのだろう。

 私だってお母様を超えてから、邪魔でしかたがないのに。


「ということは、ダイアナはきっとカローナよりも大きくなるわよ!よかったわね!」


 セレスは大きいのがお好きと。セレスもけっこう大きいのだけど。まあ、美貌と胸の大きさというのは、財力と権力で遺伝子に取り入れていくものなので、王族の胸が大きいのは当然なのだ。

 カローナの胸はカローナが十四歳のときにお母様を超えていたし、今もなお大きくなり続けている。すでに一つ一つが胴の幅くらいあるし、とても邪魔で重そうなのにがんばっている姿が可愛くてしかたがない。


『えっ…、私はそんなに大きいのはいらない…』

「何言っているのよ。あなた、カローナよりも綺麗になるわよ。それなのに、なんでいつもそんなみすぼらしい格好をしているのよ」


 ダイアナは装飾の少ない、かろうじて貴族と呼べるような質素なワンピースを着ている。


「アンネ、もっと可愛いやつを着せてあげなさいよ」

「何度可愛いのを着せてあげても、全部自分でこんな風にしてしまうんですよ」


『私を着飾る必要はない。私は裏方。ほんとうはツナギでいいくらい』


「ダメよ。せっかくだから胸を出しましょ。それから、スカートも長すぎるわ。アンネ、削ってあげてよ」


 ヒストリアでは国主導でパンツとナプキンの普及を進めるとともに、ミニスカート化も推してる。セレスやカローナはもちろん、メイドも全員ミニスカートだ。


『ぎゃー、やめろ。セクハラ!』

「ダイアナ、私のスカートをさんざん削っておいて、自分だけロングなんてずるいよ。観念しなさい」


 土魔法で、六歳にしては膨らみのある胸元の布を削った。この世界なら、色気で攻める家なら、六歳でもこれくらいは出すと思う。

 そして、スカートの長さの七十五パーセントを削った。ダイアナのスカートは今まで、十六歳の私のスカートよりも長かったと思う。そんなスカートはみっともない。

 削った分の布をフリルにして追加。スカートにプリーツを入れて、こんな感じかな。

 六歳児にガーターストッキングはいらないだろう。


『もうお嫁に行けない。ママ、責任取って結婚して』

「親子で無理でしょ」

『ママなら遺伝子操作して近親婚もできるはず』

「そうまでして私と結婚したいの?」

『誰と結婚する気もないけど、ママなら…いいよ…』

「えっ…」


 ダイアナのデレを初めて見た…。こんな美少女に「ママならいいよ」なんて言われたら、ときめかずにはいられない。言ったのは合成音声だけど。


『照れちゃって、ママ可愛い』

「えっ…」

『私のこと好きでしょ』

「ちょっと!親をからかうんじゃないよ!」


 デレじゃなかった…。私が手玉に取られていた…。


『まあ、私はワイヤと結婚するから、綺麗に着飾る必要はない。わかった?』

「親子でも血が繋がってないからいいけど…」


「ダイアナはワイヤの子を産むのですか?」

『うん。ドラゴンハーフだよ。やばいっしょ』


 たしかに、ドラゴンハーフはやばい…。いや、すでにヒト型ドラゴンがいるのだから、あんまり新鮮味はないと思う。

 でも、ダイアナは自分で産みたいのか。

 私は…、きっとシルバーとアリシアは私の子を産みたいのだろう。たぶん、みんな私の子を産みたがるだろうから、私の腹から産む必要はないかな…。


「何がやばいのか分かりませんが、愛しているのなら大事にしてあげてくださいね」

『わかってるよ。重宝してる』


 分かっていないだろう。導線に使いたいだけだろう。


「とにかく、ダイアナはそれくらいのおしゃれはしなさいね」

「そうですね。貴族たるもの、自分の身だしなみを整えることも怠ってはなりませんよ」

『うう、ごてごてしてる…』

「わかったぁ?」

「わかりましたか?」

『はい』


「じゃあアンネ、ときどきダイアナの写真を送ってね」

「そうですね。ダイアナは平気で約束を破りそうですから」

『子に監視カメラを付けるとは何事?』


「子を保護監視するの親の義務だよ」

『ああ言えばこう言う』

「はいはい。これからは私がコーディネートするからね」

『横暴だー』

「はいはい」


 ダイアナは私の言うことは聞かないのに、セレスとカローナのいうことは聞くんだな。




「ところでアンネ。アンネはいつも私たちとの会話でも、少し堅いくらいの話し方をするけど、ダイアナとの会話のときだけは砕けているのよね。なんで?」

「えっ…」


 なんでだろ…。ダイアナに敬語を使うのはおかしいような。それは親が子に敬語を使うのはおかしいからとかじゃなくって…。

 ダイアナが転生者だからかな。前世の母国のことは覚えてないけど、互いに年齢を覚えていない以上は、身分差なんてあり得ないから、敬語を使うのはおかしいと思ったのだ。


 私とダイアナが転生者であることは、誰にも打ち明けていない。私は胎児のときから物心ついていたし、ダイアナはオーバーツをいろいろ開発していて、二人ともかなりおかしいと思うんだけど、誰も疑問に思ったりはしないんだよな。


「…ンネ、言いたくないなら言わなくていいのよ」

「ごめんなさい、自分でもなぜなのか分からなくて、考え込んでしまいました」


 いつか言えるときが来るだろうか。そもそも、言うべきか言わないべきかすら考えたことがなかった。




「うわーん」

「クラリスが起きたわ」


 セレスがクラリスを抱き上げ、一緒にベッドに横たわり、授乳を始めた。セレスの胸は大きすぎて、赤ん坊を抱いて授乳するには手が届かないのだ。

 もちろんセレスは私たちに前で胸をはだけることに、なんらためらいもない。というか、胸をはだけることにためらいを持っている人に会ったことがない。生まれたときからずっと考えているけど、大事なところを出しちゃいけないのと考えているのは、前世の記憶を持っている私だけの概念であり、私だけがおかしいのではないかと何度も思わされる。

 この前の収穫祭だってそうだ。私だけポロリしないように必死にしていたのは、皆にどのように映ったのだろう。


 それはさておき、クラリスが母乳を飲み終わったら、今度はカローナがセレスの母乳をいただいている。

 この光景を見るのは初めてではない。去年クラリスが生まれたあと、何回目かの訪問時には、すでにカローナがセレスの母乳を吸っていた。

 続いて、レグラがセレスの母乳をいただく番。


 私たちは卒乳できない。


「今日はアンネがいるのよ。私のより美味しいでしょ」

「そうですわね。アンネ…」


「はい」


 セレスもカローナもレグラも私の子だ。私が授乳した。

 そして、クラリスも…、セレスの母乳を飲んだばっかりだというのに、私の母乳のほうが美味しいらしく、食いつきが良い。っていうか、私の母乳を与えるんだったら、私の子にしちゃうよ。


 さらに、リーフにも授乳。ドリーに授乳できるのだ。リーフにできない道理はない。あげているのは魔力だけど。

 セレスはリーフのことが見えるようになってきたと言っていたが、カローナは全然なのかな。エア授乳に見えるのだろうか。


 そのあと、アリシア、シルバーが私の母乳を欲しがり授乳。

 ダイアナ、ワイヤ、ドリーにも授乳。

 ポロンが泣きそうな顔をしていたので授乳。


 結局、全員に授乳した。



 その後、授乳した全員でお風呂。やばい、メイドとの境界がなくなってきている。




 翌日、ヒストリア王城を出るときに、セレスたちが建物の入り口まで見送りに来てくれた。


「あれ、馬車はまだなの?」

「馬車はここです」

「ええええええっ?!」


 セレスの質問にシルバーが答えると、シルバーは服を破きながら馬形態に。同時に地面の影から破れた服を影収納に回収。

 そして、腹の影からゲートの魔道具を出して、ゲートの魔道具から魔道馬車を出して、自ら馬車と連結。


「シルバーは馬にもなれるのね!」

「ぶひいいん」


「それではごきげんよう」

「「ごきげんよう」」


 窓からセレスたちが手を振るのを見ていると、シルバーは恒星間ワープモードに移行。窓の外は真っ暗に。



 ここから先は、ヒストリア王城に設置された監視カメラの映像を、あとでダイアナに見せてもらって知ったことだ。


 ダイアナのタブレットに映るシルバーは城の庭で加速し、羽根と角を出現させ、そのまま離陸。飛んで城壁を越えて、ヒストリアの王城から去った。


『『『ええええええーーー!?』』』


 驚きの声を上げるセレスとカローナとレグラ。レグラ、驚きすぎてクラリスを落としそうになっていた。


『いまいち』

「そうだね」

『馬車を飛べるようにして、空中で恒星間ワープモードに移行できるようにしよう』

「賛成。空飛ぶ馬車なんて胸熱だね」

『うむ。この世界の者には、飛行機より受け入れやすい。さすればペガサスも自然に普及させられるかも』

「なるほど…、うちの馬、全部ペガサス娘にするか…」

『それでいいと思う』


 ちなみに、シルバーの飛行は時速二〇〇キロのようで、路面走行の時速六〇〇キロの三分の一しかでない。

 シルバーは飛行で王都を出ると、着陸して六〇〇キロまで加速したのであった


 そして、いつもどおり、ヒストリア王国の領地の改革と、領民へのひと押し会をやった。




「さて、帰りなのですが、アリシア、馬車を引いてみますか?」

「うん!」


 領を出てひとけのない街道で、アリシアの馬車の練習をしてみることにした。


「まずは、ドラゴンになって陸で馬車を引いてみて」

「わかった!」


 アリシアは服をビリビリ破きながら、ドラゴン変化した。自分の影に破けた服を収納した。

 馬車との接続を試みるも、なかなかうまくいかない。


「ここはね、こうするんです」

「ありがと、シルバーお姉ちゃん…」


 シルバーはアリシアを妹のように見ている。

 アリシアが一方的にシルバーを苦手なようだ。母親の愛が欲しい姉妹。私は二人を等しく愛してあげられるだろうか。


 馬車と接続できたら、みんなで馬車に乗り込んだ。私とシルバーは御者席でアリシアを見守る。

 時速三〇キロなら安定して走れる。でもそれ以上となると、風魔法で馬車の姿勢を安定化させたり、地面のでこぼこを車輪が通る前に土魔法でならしたりと、やることがたくさんあるのだ。長年時速一〇〇キロや一五〇キロで馬車を引いてきたシルバーはだてじゃない。


 一連の操作をアリシアに伝えたが、すぐにものにできるわけがない。

 時速五〇キロになると、馬車ががたがして今にも転倒しそうだ。馬車の中は影収納なので、外の振動の影響を受けないし、転倒しても重力の向きが変わったりもしない。


 アリシアはチラチラと後ろを見て、御者席の私の様子を伺ってくる。シルバーの方もたまにちらっと見ている。

 なんだか今にも泣きそうだ。うまくできないからだろうか。それとも、私とシルバーが隣に座っているからだろうか。だから、馬車なんて引かないで、中で私と一緒にいられるご身分の方がいいんだってば。


 アリシアは私の方を見ていたので、地面の石を見逃してしまった。その石に車輪が当たり、馬車は転倒を始めた。


「くおおおおん」

「危ない!」


 シルバーは風魔法で車体に風を当て、傾いた車体を元に戻した。倒れずに済んだ。

 アリシアは失速してやがて停止。そして、ヒト型に変身。服は着ていない。

 振り向いたアリシアは


「うわああああああん」

「初めてであれほど早く走れるなんてよくやりましたね…」

「うわああああああああああああん」


 やっぱりこうなった…。シルバーの得意な領域で張り合ってもしょうがないじゃんか…。

 そうだ、アリシアの得意なこと!って肉弾戦…。って、そんなに戦いに行ったりしないからなぁ。


 いや、アリシアは私と同じように、敵を脳死させていた。それって、もしかしたら、私と同じく人体構造を理解しているからできるのか、光の精霊のサポートでできるのか、どちらにせよ脳死させられるんだったら、カイロプラクティックもできるのでは?


 私はアリシアの背中を押した。


「うわあ………あふん……」


 泣いていて赤くなっていた顔は、途中から気持ち良いために赤くなった、かどうかは分からないけど、とりあえず、泣き止んだ。

 いやいや、なんでもこれで解決しようと思っているわけじゃないよ。以前、マイア姫はこれでやり込めちゃったけど。


「ねえアリシア、私の背中に、同じことをやってみて!」

「えっ…、うん…。こうかな…」

「ああああああん…」


 声を上げずにはいられなかった。これっていつも私がみんなにやっていることなの?

 私の身体は常に光の精霊の魔法でほぐし尽くされていて、私にマッサージなんて意味がないと思っていた…。

 初めての快感…。


「も、ももも、もっとお願い…」

「うん!」

「あはあああああああああああん…」




 いつのまにかお風呂に設置したベッドでうつ伏せになっていた。

 私の背中にはアリシアが交差して乗ったままうつ伏せで寝ている。

 私を押したまま寝落ち?そうだ、私、アリシアに押してもらったんだ。


 うつ伏せといっても、私の胸部装甲の厚みは胴の厚みの四倍ほどあって、うつ伏せになってムニっと潰している状態でも胴の二倍の厚みまでしか潰せない。だから腰から上がそり上がっていてちょっときつい…。

 うつ伏せで寝るのは何歳以来だろう…。


 うーん動けない。この体勢、おかしくなりそう。

 でもなんだか、お肌がかつてないほどつやつや。頭もすっきり。

 私にこれ以上マッサージしても意味がないと思っていた。私、これ以上綺麗にならないと思っていた。

 

「気が付かれましたか」

「ええ、ポロン。状況を教えてください…」


 浴室にポロンが入ってきて、説明してくれた。


 私はアリシアに押されすぎて、しばらくの間、あえぎ声を上げるか「もっと、もっと」としか言っていなかったらしい。

 アリシアもそれに応えて、たくさん押してくれたらしい。

 やばい…、何も記憶にない…。


 そこでシルバーが、アリシアに馬車のお風呂でやらないかと提案。なぜなら、私はずっとあえぎ声を上げていて、アリシアも裸だったから…。

 街道に誰も通っていなかったからよかったものの、いつ人が通るか分からない。

 それに、このままでは帰れない。とにかく、アリシアと私を早く馬車にぶっ込むべきとシルバーが判断。


 そして、お風呂で私がアリシアに好き放題されている間に、シルバーは馬車を引き、恒星間ワープモードでメタゾールに向かうことになった…、とさ…。


「まさか私ともあろうものが…」


 アリシアに一押しもらった後の記憶がほんとうにない。ただ、気持ち良くてもっとやってほしいという気持ちだけが残っている。

 これが、私がみんなに与えている快感なのか…。


 私のマッサージには洗脳効果があると思っていたけど、まさかこれほどとは…。これには抗えない。


 あっ…、ポロンが欲しいって顔をしている…。

 私はいつも、この快感を我慢させているというのか。私はなんて酷いやつなんだ。

 でも、私の背中にはアリシアが交差して眠っている…。動いたら起こしてしまう…。

 いやむしろ、起きてくれたら、またやってもらえるかもしれない。むしろ、わざと起こしてやってもらいたい。

 うわぁ…、私、何考えているんだ…。そんなこと、私のお嫁さんだって、誰一人やらないだろう。

 でもポロンにやってあげたい…。ここは私の欲望を我慢して、なんとかポロンの希望を叶えてあげるべき…。ああでも抗いがたい…。抑えろ…。はぁはぁ…。


「ポロン、私は動けないので、私の前で背を向けて座ってください…」

「はい…、こうですか?」


 変な体勢だから力は入らないけど、まあ魔力を込めてなでるだけでもそれなりの効果はあるのだ。


「あああん…」



『あらぁ、抜け駆けぇ?ポロンちゃんは悪い子ねぇ』


 ポロンの声を聞いたドリーが、壁を抜けて浴室に入ってきた。


「ど、ドリー様、すみません…」

『いいわよ~。アンネちゃん、次、お願いねぇ』


「はい」


 今後、お預けしたり待たせたりするのは、私からは言い出しにくい。なぜなら、私が待てなくて、今にもアリシアを起こしてしまいそうだからだ。



「ドリーの番です」

『待ってたわ~』


 ポロンが名残惜しそうにしながら立ち上がった。

 たしかに、いくらでもやってほしい。私は記憶にないのだけど、もっともっとと言い続けていたらしいし…。

 でも、ドリーに交代しないとドリーが可哀想だ。


『あはああん…』


 ところで今何時なんだろう。アリシア、起きてくれないよね。

 気持ちよさそうなドリーの声に、アリシアが起きてくれないかなぁと期待を込めていたけど、起きてくれなかった。




 いつのまにか寝ていた。

 私は目覚ましなど使っていないのだけど、何時に寝ようが、いつも起きるとだいたい五時前十分くらいだ。

 しかし、私はお風呂のベッドでうつ伏せであり、私の上にはアリシアが交差して眠っている。さらに、前にはドリーがいる。


『はぁ~い』

「おはようございます。今五時ですかね」

『見てくるわね~』


 ドリーは浴室の壁を抜けて、リビングの時計を見に行った。

 物理的な壁は精霊の見える視覚を遮らないので、壁の向こうにいるドリーが見える。まぶたを瞑ってもドリーは見えるのだ。

 いっぽうで、ドリーも物理的なものを透過して見ることはできないので、隣の部屋のものは隣に行かないと見えないのだ。


『四時五十五分よ~』

「いつもどおりですね。ポロン呼んでください」

『は~い』


 いつも朝帰りすると、シルバーは馬小屋に戻っていたけど、今はシルバーの寝床は馬小屋ではない。でも、シルバーには弟子の調教訓練という仕事があるので、やはり馬小屋へ行ったのだろう。

 しかし…、シルバーは十時間以上走ったり飛んだりしているはず…。いつもだったら、一時間ねぎらってやっているところ…。

 などと考えていたら、ポロンがやってきた。


「おはようございます、ご主人様」

「アリシアを起こさないようにベッドへ運べますか」

「かしこまりました」


 五時からは使用人のお風呂でメイドにマッサージする時間なのだ。サボってはならない。メイドたちが期待を膨らませてお風呂で待っている。もし私が来なかったら…、ああ、その絶望感を想像できるようになってしまった。


 ポロンにアリシアをどかしてもらい、私は起き上がった。というか、昨日のうちにどかしてもらえばよかった…。

 どうせお風呂に行くのだから、このまま何も着ないで行きたい。馬車の車庫も風呂も地下一階なのだ。お風呂に入る子以外には会わないはず。

 けど、まだ私はこの世界で大事なところをさらしてはいけないと信じているので、それはできない。


 普通にいつものミニスカドレスを着て使用人のお風呂に向かった。でも、目と鼻の先だから、ブラもパンツもガーターストッキングも付けなくていいや。おお…、このミニスカートでノーパンは勇気いる…。誰も来ないから大丈夫…、大丈夫…。

 脱げそうとか、見られそうって、収穫祭のときも思ったけど、前世に忘れてきた私の中の乙女が育つわぁ…。


 使用人のお風呂の脱衣所に行くと、浴室から八人のメイドの気配。私が早く来てくれないかという期待と、もし来てくれなかったらどうしようという不安が渦巻いている。

 着てから一分も経っていないミニスカドレスを脱いで、いざ浴室へ。


「お待たせしました」

「おはようございます!ご主人様!」


 メイドたちの感激の気持ちが伝わってきた。なんだか、今までよりも気持ちの詳細を理解できる。私が同じ思いを経験したからだろうか。

 そうか!私が経験したことのない思いは、読み取っても理解できないのか!

 アリシアに起きてマッサージしてほしいという気持ちを私が抱いたから、私にお風呂に来てマッサージしてほしいというメイドの気持ちを理解できるようになったのか!


「「「「「「「「ああああああああああああん…」」」」」」」」


 なんだか、自分でこの快感を味わったら、腕が上がった気がする。より気持ち良くさせてあげられるようになったと思う。




 使用人のお風呂から出ると、丁度、馬車の車庫からアリシアとダイアナが起きてきた。


「お母さん、おはよっ」

『おはよ』

「おはようございます」


 あれ…、アリシアが可愛すぎる…。直視できないほど可愛い。直視したら、私の顔は真っ赤になってしまいそう。

 昨日は馬車をうまく引けなくて悲しい思いをしたはず。二度とあんな思いをさせたくない。

 アリシアをもっと喜ばせてあげたい。アリシアの笑顔を見たい。何を優先してでもアリシアの笑顔を守りたい。

 アリシア…、大好き…。


 これが…、私のみんなにやっている洗脳…。洗脳に抗うことができない。洗脳に抗う気すら起きない。自分がやっている側でなければ、洗脳であることすら気が付かないだろう。

 すべてを投げ出してアリシアを喜ばせてあげたい。よし!とりあえず、アリシアを褒めてあげよう!


「アリシア、昨日はとても気持ち良かったです」

「よかった!」


 ヤバい。いちいち可愛い…。


「アリシアは、自分の得意なことを見つけられましたよね!」

「私の得意なこと…、お母さんを気持ち良くしてあげること!」

「はい!私のお仕事をよく見ていますね!今日は私と一緒にお仕事をしませんか?」

「お仕事?」

「マッサージのお仕事です。私と同じように領民を気持ち良くしてあげられますか?」

「分かった!やってみる!」


 私は貴族当主なので、個人の望みよりも領民全員の利益を優先しなければならない。それにもかかわらず、私はアリシアの望みをいちばんに叶えてあげたい。

 だから、アリシアの得意技を活かして、アリシアと一緒に領民を癒す。これが今の私にできる最高の選択だ。


「っと、その前に朝ご飯を食べましょうね!」

「うん!」




 朝食の席。ここも、お嫁さんが多すぎて限界に近い。

 北方の四人が帰らずに、シルバーとアリシアとワイヤの三人が増えたら、ここも増築が必要になるところだった…。

 ああ、シルバー、疲れていないかな…。でも朝食の後はアリシアと一緒に治療院だ…。


「アンネお姉様」


 ギクっ…。ってなんでビビらなきゃいけないんだ…。だって、マイア姫の声が怒ってるんだもん…。


「アンネお姉様…」


 あれ…、今度は悲しい声に…。


「は、はい…」

「私のこと、忘れないでくださいね…」

「わ、忘れるわけありませんよ…」


「アンネ、私のことも忘れていないでしょうね」

「忘れませんってば」


「アンネ、私のことも構ってよ!」


 どうしよう…。みんなかまってちゃんだ…。


 何も言わないけど、ロザリーも寂しそうだ…。

 聖女の守り手のみんなも、何か求める顔をしている…。

 お母様は…、何考えているのか分からない…。

 リーナとダイアナとワイヤは我関せず。

 ドリーは面白そうに私のことを見ている…。


 これは、娘が生まれたら娘が可愛くなってしまって、嫁のことを構わなくなってしまったというパターンだ…。

 ダイアナが生まれたときにはこんなことにはならなかったのに…。ダイアナは放っておいても大丈夫な子だったし。というか中身が子供ではないし。


 つい昨日まではシルバーという嫁を構い過ぎて、アリシアという娘が寂しがるというパターンだったのに、いきなり逆転だ。しかも、すべてのお嫁さんを巻き込んで、アリシアが逆転勝ちしている。


 今まで比較的均等にみんなのことを愛しているつもりだった。でも昨日までは明らかにシルバーを構っており、そして今は気持ちがアリシアに全集中している。

 そして、そんな私の気持ちの流れを、みんなが感じ取っている…。


 考えを伝える魔法で、気持ちが漏れ出ているのかな…。いや、顔に書いてあるというやつか!


 どうしたらいいんだ…。


「今日は、みなさん、私の治療院に来ていただけませんか」


 とりあえずみんな来てもらっても、何か良い案があるわけじゃない。


「いいですよ」「いいわよ」「それでいいよ」「いいですよ」


 マイア姫とヒルダとクレアとロザリーは、しかたがないという感じだ。


「私もそれでいいわ」「オレも」「同意」「僕もいいよ」「アンネお嬢様に揉んでもらえるのね!」


 聖女の守り手は、自分が拒否するわけがないという感じだ。

 アマージだけは、何があっても幸せそうだ。

 居残りで勉強しているロコイアも、なんだか鼻息が荒い。




 どんよりとした朝食の時間を終え治療院へ。


 とりあえずやってきたけど、時間をかけてお嫁さんたちをマッサージすればいいのかな…。でもそれじゃアリシアが…。

 とりあえず、今日はお嫁さん多すぎて、領民を治療するどころではない。貴族当主が私欲で仕事をさぼるなんて、私は貴族失格だ…。というか、二歳の頃からずっといっているけど、貴族なんてやめたい。

 治療院のドアには、本日休業の看板を出したままだ…。


「今日は…」


 うー…。


「みなさんで私をマッサージしてください!」


 ネタに詰まって、すごく適当なことを言ってしまった…。


「それはとても良いですね!」

「アンネを揉めるなんてすごく良いわ」

「私は脚がいい!」

「せんえつながら、私もやらせていただきます」

「私にもやらせていただけるのですね…」


 あれ?マイア姫とヒルダとクレアとロザリーには受けているようだ。

 ロコイアは、やっぱ鼻息が荒い。


「それってなかなか良いわね」

「あ、アンネお嬢様を、も、揉んでいいのか…」

「とても興味がある…」

「僕だって鍛えてるんだからね!」

「アンネお嬢様を揉ませていただけるなんて至極恐悦!」


 聖女の守り手のみんなも、なんだか嬉しそうだ。


「アンネちゃんの胸の秘密をあばいてあげるわぁ!」

「ねーね、覚悟しといてね」

『いろいろ実験できるかも』


 お母様もリーナもダイアナも怖いんだけど。


「ご主人様に恩返ししたいです!」

「お母さん、昨日みたいにやってあげるね!」

「おばあちゃんがやってるみたいに電気を流せばいいのか」

『私もやってみるわぁ!』


 シルバーは実はけっこうできるのでは。

 アリシアの…いちばん欲しい…。けど、今日はみんなに均等に平等にやってもらうんだ…。

 ワイヤは私の低周波治療器を覚えているのかな。

 ドリーから私に触れてもらったことはないなぁ。


 なんだかみんな気合い入っている…。



 馬車の中にある施術用のベッドも同じだけど、治療院のベッドには、うつ伏せになったときに呼吸できるように、頭部にドーナツ状の穴が開いている。

 だから当然、私はそこから顔を出すべきなのだけど、私は胴の四倍の厚みのスイカを胸に抱えているので、うつ伏せになったときにスイカの分、胴が浮いてしまい、まっすぐに寝そべることができない。つまり、ドーナツ状の穴は無意味だ。

 このことは、いつもお母様を見ているから分かっていたのだけど、私はお母様の胸が大きすぎてまともうつ伏せに寝そべることができないのを可愛いなぁと思うだけで、改善すべきことだという発想に至っていなかった…。でも、昨日馬車の浴室のベッドで目覚めたときにうつ伏せになっていて、ちょっときつい体勢であることに初めて気が付いた…。

 胸の部分にも穴を開けようかな…。お母様に優しい仕様なのはもちろん、これからは私もこのベッドにうつ伏せになる機会も増えるかもしれない。


 そのきつい体勢のうつ伏せになることを覚悟しながらベッドに座ると、みんなにすごい勢いで服をひんむかれた…。みんなはマッサージするときは裸になるのが常識だもんな…。


 再度、スイカを抱えてうつ伏せになった。


「アンネお姉様の肌!」

「ああああああん…」


 あれ…、今触ったのってマイア姫だよね?なんだかかなり気持ちいい…。


「アンネの(もも)!」

「あふん…」


 今のはヒルダ?なんでこんなに気持ちがいいの?ヒルダは私の脚、好きだなぁ…。


「ちょっと、(もも)は私がやるの!」

「そっちにもあるでしょ」

「あふっ…」


 今度はクレアだよね?クレアもできるの?クレアも脚が好きなんだよな…。


「せんえつながら…」

「あん…」


 ロザリーなんて光魔法を鍛え始めて一年くらいのはずなのに…。


「はぁはぁ…」

「あん…」


 ロコイア…、鼻息荒いけど、けっこういける…。



「アンネお嬢様の華奢な腕!」

「ああん…」


 イミグラのも気持ちいい…。


「アンネお嬢様の腹筋!」

「うふん…」


 うつ伏せなのに、スイカを抱えて胴が浮いているからって、ゾーミアは下から手を突っ込むのアリ?でも気持ちいい…。


「ここを調査する」

「はあん…」


 レルーパの…、首は…、普通にいける…。


「僕はここが気になっていたんだぁ」

「ああああん…」


 腰は王道だよ…。マクサはけっこううまい…。


「ああああ、アンネお嬢様ぁああ」

「ああああああん…」


 えっ、今のアマージ、全身触った?全身、ぞわぞわっと気持ち良い…。



「アンネちゃんのもいじゃう」


 お母様、それはもげません…って、


「ああん…」


 おかしい…、胸のお肉を揉んでも気持ちいいはずがないのに…。


「ねーね、おらっ!おらっ!おらぁ!」

「ああん…ああん…ああん…」


 リーナはベッドに乗って、私に蹴りを入れて…?その衝撃が、また良い…。


『ふふふ…』

「あああああああん…」


 全身電撃が走って、ちょっと強い低周波治療器みたいでいいよぉ…。ダイアナ、分かってるぅ…。


『これくらいじゃ死なないか』



「ご主人さまぁ…」

「ああああああん…」


 シルバー…光魔法のかなりの使い手…。これは商売になるレベル…。


「お母さん!」

「あはああああああああああん…」


 ああ、アリシア…、最高…。やっぱりいちばんすごい…。もっとやってほしい…。


「おばあちゃん!」

「あああああん…」


 また低周波治療器キター。ワイヤか!すごくしびれるわぁ…。


「おかあさんより電圧上げたのになぁ」


『最後は私よ~』

「あああああああああん…」


 何これ!ドリーの土の魔力?


 ああ…、もうダメ…。



 ……ふと気が付くと…、お嫁さんたちの姿はなく、その代わりにヒーラーガールズやメイドに囲まれていた。


「あ、起きましたかぁ?えいっ!」

「あああああん…」


 今の、ヒーラーガール?これもう、治療院分院、開けるじゃん。


「ご主人様…」

「あああん…」


 今度はボロン?


 次はリメザ?コーリル?エミリー?スピラ?

 屋敷のメイド?

 ヒルダやクレアのメイドまで?


 みんなでよってたかって私のことを…。


 ああ…、もうダメ…。




 目を覚ますと、お嫁さんのたくさんいるベッドの上だった。ネグリジェを着せられている。ここはみんな寝室だ。

 なんだか、雲の上にいるよう。ああ…幸せ…。


『あら、起きたのね~』

「ドリー?私は…」


 あれ…、ドリーを見ていると、なんか顔が火照ってくる…。


 えっと、何があったんだっけ…。朝食を取って…。あれ…。


『今日はみんなでアンネちゃんをマッサージしたのよ~』

「ああ、苦し紛れにそんなことを言ったような…」

『苦しくなんかないわよ~。大好評だったわぁ!』

「えっ、私にマッサージしてもらうのではなく、私をマッサージするのが、そんなに良かったのですか?」

『何も覚えていないのねぇ。アンネちゃん、すごく敏感なんだから。ほらっ』

「ああん…。あれ…」


 ドリー触れられた途端、とても気持ち良かった!


『私の土の魔力でもいけるのよぉ!』

「どうなってるの…」

『みんなのだってすごかったんだからぁ!』

「えっ、でも何も…」


 覚えてない…。

 と思って、寝ているマイア姫を眺めていると、あれ…、また顔が火照ってきた…。

 ヒルダも…、あれれ…。

 クレアも…、あれ…、どうしたのかな…。

 ロザリーも…。


 イミグラも…、ゾーミアも…、レルーパも…、マクサも…、アマージも…。


 お母様も、リーナも、ダイアナも。


 シルバーも、アリシアも、ワイヤも。


 誰を見ても、顔が火照ってくる。胸がキュンっとなる…。


『アンネちゃんって、みんなのことを好きって言っている割には、恋したことはないみたいね』

「えっ…、私は女の子が好きで、みんなのことを愛していますよ…」

『だから、恋じゃないでしょ』

「あれ…、恋ってなんですっけ…」

『もぉ!アンネちゃんはひどいわねぇ。私に恋をさせておいて』

「えっ…」

『光の魔力を込めたアンネちゃんの手に触れられたら、アンネちゃんに恋をしちゃうのよ』

「それは好きとか愛とは違うんですか?」


『恋っていうのは、子孫を残したい異性を本能的に求めることでしょう。相手のことを単に求める好きっていう気持ちや、良くしてあげたいと思う愛とは違うのよ』


 恋の定義ってそうなの?この世界での定義?恋も愛も大好きもLOVEじゃないのか…。この世界では別の言葉なんだな…。


『恋は子孫を残すことのできる相手にしか芽生えないの。だから普通、女は男にしか恋できないのよ。

 カローナちゃんに教えてもらった魔法のおかげで、女どうしで子供を産めるようになったのでしょう。でもアンネちゃんが言葉でそれを伝えたって、相手は恋してくれないのよ』


「でも、みんな私との子供を産みたいって…」


『きっと、アンネちゃんが女どうしで子供を産めることを相手に本能的に分かってもらう魔法も、カローナちゃんに教えてもらったのよ。それがアンネちゃんのマッサージに混ざっているのよ』


 うわっ…、やっぱりカローナが、女同士で結婚したくなるフェロモンを出していたんじゃないか…。


「えっ…。じゃあやっぱり、私のマッサージを受けると、相手が強制的に恋をするように洗脳されてしまうんですね…」


『それ違うわ。あくまで、アンネちゃんが恋をする対象になり得る、つまり男の役割を果たせるってことを、相手の本能に知らせるだけよ。ほんとうに恋をするかは、アンネちゃんの…外見や能力よ』


「えっ…、見た目…」


『そうよ。アンネちゃんは人間種としては最強だと思うの。アンネちゃんと子供を作れば、強い子孫を残せるわ。自分が強いことを示すのは、相手が好む見た目や雰囲気、音、匂い。すべての生き物に埋め込まれた本能よ。

 立派な角を持っている動物、綺麗な模様で大きな羽を持つ鳥、美しい音を奏でる虫。それらは自分が種として強いことを示しているのよ。そして、異性はその角や音に魅力を感じることで、その持ち主が強い子孫を残せると本能から感じているのよ』


「私、見た目でみんなに好きになってもらったのか…」


『だから恋と好きは違うって言ったでしょう。みんながアンネちゃんのことを好きなのは、アンネちゃんの優しさや人柄よ。でも、好きとか愛から恋に発展することがあるし、逆に恋から好きとか愛に発展するのも事実よ。

 人間は複雑な心の生き物だから、恋だけでは結ばれないのよね。恋と一緒に愛が芽生えないと、結婚には至らないのでしょう。だから、恋と愛を混同している者も多いわよ』


「なるほど…」


『それでね、アンネちゃんは今まで、みんなのことを好きになったり愛したりすることはあっても、みんなに恋をしたことはなかったのよ』


「えっ…」


『みんながアンネちゃんに、恋の対象と見てもらえるようになる魔法をかけられなかったのよ。だって、アンネちゃんはみんなにマッサージしてもらったことがないでしょう』


「たしかに…。あ、一回だけあったような…」


『そのときはまだ何かが足りなかったのねぇ。魔力か、精霊の大きさか分からないけど。

 でも今回は条件が揃っていたのね。恋の対象と見てもらえるようになる魔法を、アンネちゃんにかけられたんだわ』


「それで…。それで、顔が火照ったり、胸がドキドキしたりするんですね…」


『そういうことよ』


「エッテンザムの…、カローナの種族は、どうやって相手に恋の相手だと認めてもらうんですかね?」


『カローナちゃん自体はそういう種族だから、最初から女の子に恋をできるのよ。そして、本来なら、一緒にいたり触れあったりすることで他の女の子がカローナちゃんを恋の対象と見なすことのできる魔法を無意識にかけるはず。

 でも、カローナちゃんは光の魔力が弱いから、たぶんその魔法を使えないか、使っていたとしても効果が弱いのよ。だから、セレスちゃんはカローナちゃんに恋をしていない。もちろん、愛しているのだろうけど。

 セレスちゃんが恋をしてくれないと、自分が子孫を残せる相手だと認識してもらえない。

 そこで、光の魔力の弱い者への救済措置として、カローナちゃんが恋をしちゃった相手の寝込みを襲うという魔法が発動したんじゃないかしら。

 無意識に発動しちゃうのは、たぶん種族絶滅の危機に対して本能がそうさせたのよ。

 この前見せてもらった動画、きっとそういうことよ』


「カローナ…、けっこう危ない種族ですね…。あ、ダイアナ…」


『ダイアナちゃんは光の魔力が高いから、救済措置の魔法は発動しないんじゃないかしら。

 それに、ダイアナちゃんなら、たぶんときが来れば、自分が恋をするに値すると知らしめる魔法を、無意識に使い始めるわよ。

 でもまあ、ダイアナちゃんは人でなしだから、恋をできる対象だと分かったからって、愛が伴わなければ誰も結婚してくれないんじゃないかしら』


「なるほど…。それならいいです」


『いいのね』


「いいのです。

 まあそれはさておき、えっと…、私は自分が恋をするに値する者だとみんなに訴え続けてきたにもかかわらず、私がみんなに恋をできるようになる条件を逃していたんですね…。

 なんで私のマッサージにその魔法が載っているんですかね…」


『それはよく分からないわ。本来ならカローナちゃんの種族の魔法だから、アンネちゃんに伝わるときには何かしら変化が必要だったんじゃない?』


「はぁ…。私のマッサージにそんな危険な魔法が含まれていたなんて…。これじゃやたらに使うわけにはいかないです…」


『大丈夫よ。アンネちゃんは逆に男の子には、アンネちゃんに恋をしないでくださいって、メッセージを込めてマッサージをしているんじゃないかしら。

 じゃないと、アンネちゃんはとっくに男の子に襲われているわよ』


「そうだったんですね…」


 そういえば、収穫祭のときに私に向けられた思いには、エッチなものや結婚したいとかいうのはなかった。それも私が仕向けたことだったのか…。


『この魔法を知った今なら、女の子に対しても恋の対象にならないように制御できるんじゃないかしら。というか、もうマッサージしなくても、この魔法単体で使えるんじゃない?』


「なるほど…。ドリーは物知りですね」


『私は土の精霊だから、光魔法にはあまり詳しくないけど、だてに五〇〇年は生きてないわよ。

 だいたい光魔法なんて呼ばれてるけど、動く生き物の身体と精神を司る魔法なのよ。

 ちなみに土魔法ってのもおかしいわ。精神を持たない植物などの生き物と固体物質を扱う魔法だもの』


「なるほど…。イメージカラーに惑わされてはいけませんね…」


『数百年、人と関わらずに過ごしてきたから知らなかったけど、魔法はずいぶんと衰退したわね。アンネちゃんがいなかったら、魔法はなくなっていたかもね』


「実際に電気魔法と闇魔法はなくなっていましたからね」


『そうよ。誰も使ってくれなかったら、精霊も絶滅してしまうわ。そうなったら完全にその属性の魔法を消失するわ』


「精霊がいなくなる前に気がつけてよかったです」


『まあ、心配しなくても、魔物はけっこう使ってくれているのよ』


「なるほど、ゴールドドラゴンがいましたね。あと、有機ELの魔物も」


『さて、もう一度寝たらどうかしらぁ。午前二時よ』


「そうします。おやすみなさい、ドリー」


『おやすみ~』


 相変わらず、まぶたを閉じても見えるドリー。ドリーにおやすみと言っても、ドリーは精霊なのでおやすまない。

 などと考えつつ、私は眠りについた。




 翌朝五時。私はいつもどおり、使用人の風呂に向かった。

 そこで私が見たものは…、いつもどおり裸のメイド…。なんだか…、顔が火照る…。胸がドキドキする…。

 メイドの中にはコーリルもいる。今日のダイアナ当番はコーリルか。


「「「「「「「「おはようございます!」」」」」」」」

「み、皆さん、おはようございます…」


 みんな綺麗な身体をしている…。そりゃあ、私の施術を受けていれば、そこらの貴族なんて目じゃないくらい綺麗になる。

 今までは、うちのメイドはとても綺麗で自慢のメイドくらいには思っていたけど、こんなに綺麗な子を前にしたら好きにならないわけないじゃん…。なんで今まで気がつかなかったんだろう…。


 あれ…、昨日の記憶はおぼろげだけど、私はベッドでメイドにも囲まれていたような…。メイドにもマッサージされていたのかな…。

 ってことは、私はメイドに恋をするようになっちゃったの?

 まさか昨日、領民全員が私を触っていったりしていない?さすがに男には触らせてないよね…。でも、領民の女の子全員に恋をすることになったら、どうしよう…。私の心臓がもたない…。


 私はベッドにうつ伏せになっているメイドを…、裸のメイドを…、ダメだぁ…。今までこれはマッサージ治療であり、エッチではなかったはずなのに、エッチな気持ちが混み上がってきてしまう…。

 そんな気持ちをなんとか抑えつつ、メイドの背中に触れる…。


「ひゃっ…」


 そんな声、初めて聞いた…。可愛い…。

 ダメダメ…、抑えるんだ。これはマッサージ!これは治療!


「あはあああああん…」


 かつてないほどの威力。相乗効果ってやつ?相思相愛?愛っていうかこれが恋なのか…。


 じゃあ、今までもみんなには私のことがこんなふうに見えていたってことなのか…。みんなの胸を締め付けておいて、自分は何も知らない鈍感娘だったなんて…。


「「「「「「「「あはああああああん…」」」」」」」」


 エッチな気持ちをなんとか抑えながら、八人のメイドを施術した。


「それではご主人様…、ベッドに寝そべってください…」


 顔を赤らめているメイドは可愛い…。って今私に寝そべってって言った?


「えっと…、はい…」


「「「「「「「「それではいきます!」」」」」」」」


「あはあああああああああん…」




 目覚めると…、浴室…、使用人の浴室…。


「お目覚めになられましたか?」

「えっ、はい、って、あっ…」


 そばに座っていたのはコーリル。コーリルと目を合わせられない。さっき、メイド八人にマッサージしてもらったんだった…。コーリルにもやってもらったんだよね…。

 おかしい…。この魔法は、恋に落ちることを強制するものではなくて、恋するに値する相手だと認識させるだけだったはず。

 なのに、なんでこんなに胸がドキドキするの…。


 しばらく過ごせば慣れるのかな…。マイア姫とか最初はヤバかったけど、今では落ち着いているものな…。


「今何時ですか」

「十二時です」

「はぁ…。私、サボってばかりですね…」

「そんなことはありません!ご主人様は私たちに良くしてくださいます!」

「使用人だけでなく、領民全員のことを考えるのが領主の勤めです」

「それでは、今からでも治療院を開きますか?」

「そうですね…。あっ…、昨日私にマッサージしてくれたのは、メイド?もしかして領民全員?」

「あ、奥様方と屋敷のメイドです。あと、奥様方付のメイドです。マイア様の騎士様もですね。それからヒーラーガールズです」

「なんと…」


 領民全員じゃなくてよかった…。

 でも、私は屋敷のメイド全員に恋しちゃうのかな…。おかしいなぁ…。恋の対象にはなっても、恋をする魔法じゃないはず…。

 最初っからみんなに恋をする条件が整っていたってことなのかな…。


「あの…、私のお嫁さんたちはどうしていますか?」

「奥様方は、晴れやかな顔をなさって、領地のお仕事や学校に向かわれましたよ」

「そう…、良かったです…」


 私をマッサージすることで、気持ちが晴れたんだ…。私はマッサージされているときの記憶がおぼろげだけど、私がみんなに恋する条件が整ったことを感じたのだろうか。


 っていうか、私のお嫁さんのことは、メイドの間では奥様で通ってるんだね…。




「あ、お母さん!大丈夫ぅ?」

「アリシア!大丈夫ですよ」


 アリシア…。その一つ一つの仕草が可愛い…。でも、今までとは違った感情がこみ上げてくる…。これが恋?


「ねえ、昨日やろうって言ってできなかった治療院の仕事をやってみませんか?」

「うん!お母さんにあれだけ気持ち良いって思ってもらえるなら、みんなにも分けてあげたい!」

「アリシアは良い子ですね」



「エージェント、お店をオープンして」

『かしこまりました』


 私が私のCGをアンネリーゼと呼ぶのはおかしい。とりあえずエージェントと呼んでいる。

 影収納に入れておいたパンをかじりつつ、治療院にか向かいながら、スマホの私に言いつけてオンラインでお店をオープンに設定した。

 すると、順番待ちをしている客のスマホにそれが伝わるようになっている。べつに、お店のセキュリティが解除されたり、電光掲示が光り出したりとかはない。そもそも、そこまでのオーパーツを導入していない。

 屋敷から治療院まで五分とかからないのに、もう客が治療院の前で待機していた。女性の客だ。


 よかった…。領民の女性を見てもドキドキはしなかった。

 私をマッサージしたのはメイドとヒーラーガールズまでということだったけど、もし領民全員とかだったらどうしようと、ハラハラしていた。

 ちなみにヒーラーガールズはうちの使用人というわけではない。戦時に臨時雇用する傭兵みたいなものだ。傭兵だけど、歌って踊ったりするけどね。


「それではアリシア、私が一度やるので見ていてください」

「はーい」


「あああああああん…」


 やっぱり威力が上がっている…。


「アリシア、ここを触ってみて。ほら、筋肉が固いでしょ」

「ここ?ホントだ」


「ああん…」


 アリシアがちょっと触るだけでも気持ちいいみたいだ。でも、アリシアにはちゃんと原理からカイロプラクティックの技を教えたい。


「ここが堅いとね、内臓の働きが……。

 この人は荷物を運ぶので、この筋肉に負担が……」


 アリシアに話しながら、考えを伝える魔法でもイメージを伝える。


 アリシアは研修医としては破格の能力だけど、お客さんは私の施術を期待して来てくれたのに、アリシアの施術だけでは申し訳ない。

 だから、ちょっと余分に時間をかけて、私が仕上げをした。

 といっても、五分が八分になっただけだけど。



 アリシアはみるみるうちに上達していった。

 アリシアの光の精霊は、私が五歳の時のよりも大きい。アリシアの精霊は私の魔法を見て覚えたのだろうけど、アリシアが原理を知ることで格段に効果が上がる。


 アリシアは年齢どおりの五歳の女の子だと思ったけど、理解力は高い。でも年齢どおりの泣き虫。そこが可愛い。


 シルバーもけっこう良かった…。っていうか、みんな良かった。おかしいなぁ。光の魔力とかあんまり関係なかったような…。ドリーなんて土の魔力だったし…。




 夕食も取らずに、遅くまでアリシアと治療院で仕事をした。でも、お風呂の時間は欠かさない。あ、昨日は私、朝からみんなに揉みくちゃにされて、そのままベッドだったから、お風呂に入ってないじゃん…。ばっちいなぁ…。

 って、そういうことではなくて、問題はお風呂でのお嫁さんたちとの時間を過ごせなかったってことだ。


 だから今日は、お嫁さんたちとのお風呂の時間を大切にしよう。そう思って、アリシアとお風呂に行くと、すでにお嫁さんたちが待っていた。


 あれ…、お嫁さんたちを見ると…、顔が火照る…。鼓動が速くなる…。

 そうだ…、朝のメイドとのお風呂のときにも思ったけど…、私、お嫁さんたちに恋をしちゃったんだ…。


 これがほんとうの恋。私はお嫁さんたちのことを好きだとか愛しているとか思っていながら、恋を知らなかった。愛と恋は、ベクトルが一致しているわけではないけど、天と地との差がある…。愛は理性で育むもの。恋は本能が育むもの。それがこの世界での定義。

 きっとお嫁さんたちは私のことを、こんな風に思ってくれていたのだろう。それなのに、私はお嫁さんたちのことを愛することしかしていなかった。それしか知らなかったから、それで十分だと思っていた。


 お嫁さんたちを見ると、身体が熱くなって爆発しそう。でもお嫁さんたちを見ずにはいられない。

 私がみんなをこんな美人に育てたんだ。私は前世から女の子を好きで、女の子の肉体美が好き。胸やお尻の大きな女の子が好き。腰のくびれが好き。でも、それは好きにすぎなかった。

 今は本能がそれを求めている…。みんなの身体を見ると、自分の身体が熱くなる…。みんなのことを欲しくなる!


 あれ…。これって、男の子が女の子に感じることなのでは…。てっきり、私がお嫁さんたちに恋をするということは、私が女として、みんなを男のように素敵に感じることなのだと思っていたけど…。これではまるで、私が男の目線で、みんなの女の子としての魅力に惹かれているみたいじゃないか…。

 そりゃ、お嫁さんたちは女の子なので、女の子としての魅力しか持っていない。だから、私はお嫁さんたちの持っている女の子の魅力に惹かれるしかないのか。


 もし私が男に恋をしたら…、あまり想像できないけど、ちゃんと私は女として、男の魅力に惹かれるのだろうか。まあ、そんなことはどうでもいいや。


 あ…、お嫁さんたちは私のことをどう見ているのかな…。私はどう見ても女なわけで、男の魅力を持っているとは思えない。お嫁さんたちも男の目線で私のことを見ているのかな…。まあそうとしか考えられないか…。



「…ンネお姉様、いつまで突っ立っているのです!」

「あ、ごめんなさい…。その…、皆さん…、いつの間にかすごく素敵になってしまって…、見とれていました…」


 マイア姫に怒鳴られて気がついた。いや、怒っているというよりは、早くしてほしくてしょうがないというような感じだ。

 お嫁さんたちの身体を、じろじろ目で追っていた。これはきっと男の目線だ…。なんだか思ってた恋と違うけど、お嫁さんたちの身体を見たくてしょうがない…。


「もう、アンネったら。見ているだけじゃなくて、いつもみたいにやってよ…」

「そうだよ。そのあとは私がアンネのことを治療してあげるよ…」


 お嫁さんたちの、私を見る目も変わったのかな…。今までは、私に触れるのは恐れ多いという感じもあった。今はそれが吹っ切れて、どんどん触れたいという感じだ。

 私も、今はみんなに触れたくてしょうがない。それなのにこんな気持ちで触れたら嫌われてしまうんじゃないだろうかと思ってしまう。でも、そんなことはないんだろう。だって、私もみんなに触れてほしいから。


 それに、ヒルダだっていつもみたいにマッサージしてほしいって言っているし、クレアは逆に私を治療…、そう、これは治療!マッサージ治療!今朝も、メイドにやるとき、自分にそう言い聞かせたじゃないか!


「はい!」



 といっても、いざ触るとなったら勇気がいる。いつもどおり背中の硬くなりやすいところを押すだけなのに…。

 朝もメイドにやったのに…。メイドにも恋しちゃったのかと思ったけど、やっぱりお嫁さんはメイドとは違う。


 朝と同じように、なんとかエッチな気持ちを抑えて、みんなをマッサージした。そう、これはエッチじゃない。みんなをマッサージしているだけ。

 あれ、でも、よく考えたら、マッサージは血流を良くするものだし、血流が良くなることによって気持ち良くなるのだ。それに対して、恋も顔が火照ってきて、心臓がバクバクなって血流が良くなるから、恋を求めるんだよね。ってことは、マッサージと恋は紙一重…。


 威力がかなり上がっていて、みんな意識が飛びそうだったけど、こらえているようだ。


「さあ…、今度はアンネお姉様です…」


 マイア姫は少し表情がおかしい。私、何されるんだろう…。


「アンネって、実はうぶなのよね。昨日初めて知ったわ」

「でもそこが可愛いんだよ」


 ヒルダのやつ、私がうぶってどういうことだ!って、恋を初めてしたことがバレバレなのか…。

 そういうのって、クレアにとっては可愛いのか…。


 私は浴室のベッドにうつ伏せになった。うつ伏せになるのは胸が邪魔で身体に負担だ…。


「アンネお姉様ぁああ」

「あはあああああん」



 目覚めたら、また寝室のベッドだ…。ネグリジェを着せられている。

 今回は二回目だからなのか、記憶がある。

 フライングでマイア姫が私の背中を触りまくって、そのあと…、ヒルダとかクレアとか…、あ、やっぱり記憶がない…。


 周りを見回すと…、ああ、愛しいお嫁さんたちの寝顔…。愛しいって言うけど、愛以上の、求めてやまない何かを感じる…。これが恋…。


 さらに見回すと、


『はぁ~い』

「ドリー…」


 ドリーも愛しい…。


「私…、サボってばっかで貴族失格です…」

『アンネちゃんは真面目すぎよぅ。じゃあこうしましょう。これはお勉強よ。恋のお勉強!』

「えっ…」

『初めて恋したアンネちゃんに必要なことなのよ』

「はい…」

『分かったら寝る!朝はメイドさんに恋を教えてもらいなさいね~』

「は、はい…」


 その後、何日か同じパターンの日々を過ごした…。朝、使用人の風呂でメイドとキャッキャうふふ。昼に起きてアリシアと治療院。そして、夜にお風呂でお嫁さんとキャッキャうふふ。

 意識を失っている時間が増えただけで、いつもの日常と変わらないような…。でも私はすごく満たされているし、お嫁さんもメイドも幸せそうだ。




 ところで、お嫁さんもメイドも、いつこんなにマッサージがうまくなったんだ。

 気になったので、すべてのお嫁さんやメイドを治療院に呼んで、領民を施術させてみた。


 でも、うまいのは光の魔力の強い子だけで、かろうじて実用レベルなのはシルバーとヒーラーガールズ、あとはスピラだけだった。


 でも、私を押してくれるときだけは、なぜかとても気持ちが良いのだ。つまり、お嫁さんたちは私限定で気持ちよくさせてくれるようだ。あくまで、私がお嫁さんたちにかけた恋の魔法のお返しなのかもしれない。


 シルバーは馬の調教の仕事があるので治療院には入れないけど、ヒーラーガールズは交替で治療院を任せることにしよう。

 こうして、治療院には二つのベッドが増設された。私とアリシアと、ヒーラーガール一人が担当。

 私の人気は根強いけど、アリシアの腕は確かなので、アリシア指名も増えてきた。

 ヒーラーガールは、腕では選ばれないけど、実は、私たちに抜け駆けでアイドル活動をやっていたりするので、そっち目当てで指名する人はそれなりにいた。


 ちなみに、治療院のベッドと、屋敷と馬車の施術用のベッドの胸の部分に穴を開けて、蓋として開けられるようにした。この穴を必要とするのは私とお母様くらいなので、常時開けておく必要はない。

 この穴はかなり大きい。ほんとうは胸二つ分の大きさの穴を開けたいのだけど、胸は肩幅より大きいので、胸の大きさの穴を開けたら、肩から落っこちてしまう。しかたがなく、胸を潰して通すようになっている。

 これで、お母様を施術するときと、私がアリシアに施術してもらうときに、無理のない体勢でできるようになった。



 お嫁さんたちの機嫌は、私がお嫁さんたちに恋をして、毎日お風呂でマッサージしあうことで、完全に治ったようだ。

 きっと、私がアリシアだけに恋をしてしまったから、お嫁さんがそれを察知して、寂しくなってしまったのだろう…。


 お嫁さんやメイドを可愛がる時間がかなり増えてしまったなぁ。いったい、私、毎日何時間お風呂にいるんだろう…。

 それでも何とか治療院の時間を減らさないように努めている。私は治療魔法の腕を認められて貴族になったのだ。治療魔法で領民に貢献するのは当然なのだ。

■ダイアナ(六歳)

 かろうじて貴族といえるような質素なワンピースを着ていたが、セレスタミナとカローナの指導により、フリルを付けて、プリーツ付きのミニスカートを着るようになった。


■ポロン(十四歳)

 主にダイアナとアンネリーゼ付のレディースメイドとなった。

 セレスタミナとカローナのレディースメイドであったが、何でも自分でやってしまっていた二人から、ポロンは頼ってもらえなかったので、おとなしめな性格のポロンは、二人がヒストリアに帰るときに、レディースメイド辞職してしまった。

 今では、逆に何でもメイド任せのダイアナ付となって、意欲的に働いている。

 土魔法が得意。


◆バステル男爵領

 ヒストリア王国の最北端の海に面した領地。無人島から時速八〇キロで十二時間。

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