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29 お決まりのお話

「ロザリー、ごきげんよう」

『アンネ、ごきげんよう』


 ラメルテオン領に戻って領地改革を進めているロザリーとは、頻繁にビデオチャットで情報交換している。


「ラメルテオンの領民は勉学に励んでいますか?」

『ええ。ハンターたちが大喜びしていますよ』

「えっ、領民よりハンターが喜んでいるんですか?」

『もちろんです。絵の中とはいえ、自分たちを助けてくれた聖女様に会えるのですから』

「あっ…」


 忘れてた…。っていうか、なんで教師アプリのCGキャラが私なんだよう…。ダイアナのやつ、私のこと、何だと思ってるんだ…。


『聖女様は治療魔法で自分たちを助けてくれただけでなく、治療魔法自体を教えてくれたり、他にもいろいろなことを教えてくれると、もてはやされていますよ』


 ラメルテオンのハンターは、私を聖女として祭り上げているんだった。


「えっと…、あれはほんとうは私では…」

『アンネはすごいですね。一人では多くの人を救うことができなくても、絵の中に入ることでより多くの人を救うことができるんですね!』

「だから、私では…」

『そういえば、いつも思うのですが、絵の中のアンネは衣装の違いで話してくれることが違うのですね』


 やっぱりCGとビデオチャットの区別が付いてないじゃん…。


「えっと…、教師の服を着ている私は、私の分身のようなものです…。いま話しているのが本物の私です」


 完全に別物だというと、夢を壊してしまうかもしれない。いまいち煮え切らないことを言ってしまった…。


『ごめんなさい…、ちょっとよく分からないのだけど…、教師のアンネは本物のアンネとは違うの?』

「私とは違う考えで動いています」

『なるほど。どおりでときどき冷たいと思ったわ。それがまた良いんですけどね』

「えっ…」


 CGの私は教師アプリ内に限らず、いろんなことをサポートしてくれるエージェントキャラに進化してしまっている。OKなんとか、Heyなんとか、ってかけ声を検出すると、そのあとの質問に答えてくれるやつだ。

 というかそんなかけ声すら必要なくて、常に音声を収集していて、使用者が困っていると助け船を出してくれるようだ。

 でも何でもすぐに教えてくれると思ったら大間違いで、余裕があるときは考えさせてくる。基本は教師アプリなのだ。使用者の成長を促すようになっている。

 ポケットに入れているにも関わらず、可視光以外の何かを見て外界の情報を取得しているようだ。


 こんなに機能が加わっているなんて知らなかった…。私はいつも、影収納にスマホを突っ込んでしまっており、電波だけ拾えるように影収納の扉を少しだけ開けているのだけど、それでは音声も視覚情報も得られないから、何もサポートできなかったようだ。


 そんな、何でも助けてくれる私がインストールされたスマホやタブレットを、ラメルテオンのハンターに配ってしまったのか…。


『…ンネ!聞いていますか?』

「あ、ごめんなさい…」

『そういうわけなんで、十日後に来られますか?』

「えっ、十日後なら大丈夫ですけど」

『じゃあ、準備させておきますね』

「はぁ」

『それではごきげんよう』

「あ、ちょっと」


 ツーっ、ツーっ…。電話の切れたあとの音。ビデオチャットだから、アナログ電話の音は関係ないだろうに。ダイアナは変なところにこだわりすぎだ。

 って、十日後に何を準備しているのか聞きそびれた…。




 私は何が待っているのかも知らずに、恒星間ワープモード付きの魔導馬車でラメルテオンに赴いた。

 今回の旅は、メイドのリメザを伴った。ドリーはダイアナとの開発のために、メタゾールに残っている。


「ごきげんよう、アンネ」

「ごきげんよう、ロザリー」

「こちら、右から順に、クローナ・ランドセン伯爵令嬢、メレーナ・メキサム伯爵令嬢、ソラーナ・アンプラム侯爵令嬢、エリス・フルジアン侯爵令嬢です」


 六年前のデビュタントパーティのあとに開店セールをやったときに、ドレスを買いに来てくれた子たちだ。

 みんな、メタゾールブランドのミニスカドレスを着てくれている。

 すばらしい。ランドセン、メキサム、アンプラム、フルジアンって、ラメルテオンの周辺にある四領じゃないか。こんな遠くの地でも、貴族だけなら私のブランドは広まっているんだな!


「お久しぶりです、クローナ様、メレーナ様、ソラーナ様、エリス様」


「再びお目にかかれて光栄です、アンネリーゼ様!」

「アンネリーゼ様、以前お目にかかったときよりも素敵になられましたのね!」

「覚えていてくださいましたか」

「ごきげんよう~~、アンネリーゼ様~~」


 みんな可愛い子ばかりだ。伯爵家以上の子は芸能界にスカウトされるような美人揃い。

 もちろん、子爵家のヒルダだって、男爵家のクレアだって、聖女の守り手のみんなだって、うちに仕えるメイドだって、私の嫁は身分に関係なくみんな可愛い。

 十五歳といったら、前世だと高校生でまだ子供だけど、この世界だと大人にしか見えない。前世の母国人に比べて、平均的に年齢の二割増しの外見をしている。

 ちなみに私は年齢の五割増しの外見をしていたけど、もちろんお母様と同様に、外見は永遠の十七歳で止めている。


「それではアンネ、みんなをよろしくね」

「あっ、はい」


 何がよろしくなのか…。いまさら聞き返せない…。


『電話はすべて録画・録音が残っていますので、いつでも再生可能ですよ』

「そんな機能あったんだ…。って…えっ…」


 影収納に入れたままじゃエージェント機能が働かないから、スマホを胸の谷間に挟むようにしたんだ。ドレスには普通、ポケットがないから丁度いいところがここしかなかったんだよ。

 私のスカートの中にはロマンが詰まっているけど、胸の谷間にもロマンが詰まっているんだ。

 そうしたら、胸元から私の声が聞こえてきた…。私が困っていることが分かったのか…。優秀すぎるだろう…。


 胸の谷間からスマホを取りだして、ロザリーとの会話を再生してみた。

 ロザリーの友達四人が、ラメルテオン領のような発展や、女性主導の改革に興味がある。だから、ロザリーと同じように四人を指導してやってほしい。とのこと。

 連れて行く前に確認できてよかった…。危うく嫁にしてしまうところだった…。いや、嫁にすることには変わりないのだけど…。


「これがアンネリーゼ様の馬車!すごいです!」

「わたくしのお部屋より広いですわ…」

「どうなってるのかしら…」

「馬車の中に~お部屋がありますわ~~」


 それぞれのご令嬢は一人ずつメイドさんを伴って、馬車に乗り込んだ。夕方の四時頃だ。



 出発したら、まずお茶にした。今回はカフェラテだ!リメザが運んできてくれた。

 もう夕方なのでカフェインレスにする。ポーション薬学の魔法で、簡単に混合物を分離できる。

 おやつはシュークリーム。バニラを加えたカスタードクリームが良い香り。もちろん大好評。


 ほんとうは、ダイアナが緑茶や和菓子を開発したから、それを出したいんだけど、この世界の人々の口に合うか自信がなかったので、一発目は無難にした。



 夕食はダイアナの開発した酵母を使って作った、ふっくらパン。今までのパンは、出来損ないのクッキーだった。

 酵母は、ドリーの木で育てたぶどうから作ったらしい。


 あとは、ミネストローネ。ドリーの木から入手した種類の野菜なので、とても味わい深い。この世界の痩せ細った野菜とはひと味違う。


 もちろん、夕食も大好評だ。



「「「「あああああん…」」」」


 お風呂で四人のご令嬢の背中を流してあげた。


「「「「ああああん…」」」」


 自分の主人の背中を流すつもりでメイドさんも一緒にお風呂に入ってきたので、メイドさんの背中も一緒に流してあげることになった。

 もちろん、リメザも一緒に可愛がってあげた。


 さて、一緒に布団に入ろう。ほんとうは午前二時ごろにはメタゾールに到着しているのだけど、到着してもそのまま朝五時まで車庫で眠っていよう。

 ちなみに車庫はメタゾールの屋敷の地下にある。




 朝五時に起きると、私は使用人のお風呂へ。屋敷のメイド八人が集合しているのだ。彼女たちをねぎらってあげる。

 三日に一度くらいは順番が回ってくる。メタゾール家のメイドは役得だ。


 ついでに自分も朝風呂を済ませて、六時。起きてきたご令嬢たちをリメザが馬車から連れ出して、屋敷を案内していた。



「アンネお姉様!またこんなに嫁を連れてきて!」

「ご、ごめんなさい…。ロザリーの推薦なんです…」


 自分で言っていてなんだけど、嫁を推薦ってどういうことだ…。お見合い結婚かな…。

 そうじゃなくて、彼女たちはたんにメタゾールに学びに来ただけだよ…。

 私は同性の友達を集めているだけなんだってば…。なんでいつもこうなるの…。


「と言いたいところですが、実は私にも紹介したいお友達がいるのです」

「えっ、マイア様にも?」

「王都に近い領に住んでいる、お茶会友達ですよ。嫁にしないでくださいね」

「あ、はい。というか、今日連れてきた子たちも、嫁ではなくてお友達ということで…」

「そうしてください。馬車の中では一緒に寝たのでしょうけど、今日からは一緒に寝かせません」

「はい…」


 たしかに、そろそろ嫁が増えすぎて数えられなくなりつつある。可哀想だけどロザリー推薦の四人と、マイア姫推薦の四人は、お友達ということにしよう。

 可哀想だなんて…。私の嫁になれないから可哀想だとか、自意識過剰にもほどがある…。


「それでですね、今回ご紹介するのは四人の令嬢なのですが、そのうち三人は私の友達なのですが、残りの一人は面識のない方なのです。

 こういってはなんですが、友達の友達が友達とは限らないというところです。なので、まず、王都の私の領でお茶会をして人となりを見極めたいと思います。というわけで、十日後に私の領に一緒に来てください」

「はい」


 人の上に立つ者は無条件に人を信用したりしない。前者の三人は付き合いがあるから大丈夫なのだろうけど、会ったことのない者を見定めることは必要だ。



 ロザリー推薦の四人の案内は、リメザに任せることにした。

 だからといってお風呂で背中を流してあげないわけにはいかない。かといって、既存のお嫁さんと混ぜるとマイア姫に怒られるので、既存のお嫁さんのあとにお風呂に入れてあげることにした。


 寝室も別だ。というか、みんなで一緒に寝ないとなると、一人一室必要になることを忘れていた…。

 最初にセレスとカローナを拾ったときから別々の部屋を用意しても、みんなへいきで私とお母様の部屋に押しかけてくるから、誰一人として個人の部屋を用意する必要がなかったのだ。

 増築したから四部屋くらいは余裕である。ゲストのメイドさんは共同部屋だけどね。ヒルダたちのメイドも一緒だよ。


 でも、別々の部屋に案内したみんなは寂しそうだなぁ…。この四人だけで一緒に寝られるようにした方がいいのかな…。どうしたらいいのか分からない…。

 ああ、こういうときこそ心に聞いてみればいいのか。なになに、私と一緒に寝られなくて寂しい…か…。


「あの…、みなさん、私と一緒に寝ますか?」

「「「「はい!」」」」


 結局、私の部屋に連れていくことに。


「アンネお姉様!ダメって言ったでしょう!」

「ごめんなさい…」


 もちろん、マイア姫はおかんむりだ。


「知ってたわ」

「まあみんなで仲良くしようよ」


 ヒルダは諦めの境地に達している。クレアは誰でも受け入れてくれる。


「お嬢様がいっぱいで幸せ…」


 アマージはお嬢様に囲まれて幸せそうだ。聖女の守り手の他の四人も、まんざらではなさそうだ。

 お母様とドリーも受け入れてくれている。

 リーナとダイアナは、新しい嫁には興味なし。


「受け入れてくださってありがとうございます!」

「感激ですわ!」

「よろしくお願いします」

「みなさんとご一緒できて~嬉しいです~~」


 そして結局、新しい四人にも授乳することに…。私とお母様で。私とお母様の母乳は、いつのまに無尽蔵に出るようになったのやら…。




 というわけで十日後、マイア姫の領地に赴いた。

 馬車の中でマイア姫に釘を刺された。


「アンネお姉様、今回はお茶会だけです。ここからなら四時間でメタゾールに帰れますし、今後連れて帰るときに、お風呂もベッドもナシですからね!すぐに洗脳すればいいってものではありませんよ!」

「はい…」


 メイドや領民にもマッサージしてあげているのに、招待した子にやってあげられないのはツラいなぁ…。


 マイア姫の領地に到着して、しばらくすると招待したご令嬢たちがやってきた。


「紹介します。右から、アレスタ・コーチゾン伯爵令嬢、グリメサ・デキサテール伯爵令嬢、タルメア・アルクロゾン侯爵令嬢、ロコイア・ヒドルチゾン侯爵令嬢です」


「ごきげんよう。

 アレスタ様とグリメサ様とタルメア様は、四年前に私の仕立屋に来てくださいましたね。

 ロコイア様はお初にお目にかかります」


 三人はマイア姫のデビュタントのときにやったセールでドレスを買ってくれた子だ。今は、この子たちはメタゾールブランドのミニスカドレスを着てくれている。

 ロコイアは初めて見る。この子は普通のロングスカートドレスだ。


 マイア姫はパーティで、ラーメンの国のドレスを宣伝してくれたけど、私のデビューのときみたいに広告塔は五人もいなかったから、マイア姫だけではご令嬢全員の注目を集められなかったのかな。

 マイア姫はセレスに匹敵するほど美しい。美しさは金と権力の象徴だ。でも、カローナのような色気に特化しているわけではないから、お色気ドレスを売るにはやはり九歳のマイア姫だけでは無理があったか。

 セレスは私の養女扱いだったけど、マイア姫はちゃんと王族として知られているから、ネームバリューもバッチリなのになぁ。


 それとも、セールを五日間しかやらなかったから、ロコイアは買いそびれたのかな。


 アンネリーゼは、自分のデビュタントのときにすべてのご令嬢を虜にした原因が、自分の洗脳電波であることなどつゆにも知らなかった。


「ごきげんよう、アンネリーゼ様!よろしくお願いします!」

「ご、ごごご、ごきげんよう、覚えていてくださって、光栄です!」

「ごきげんよう、アンネリーゼ様」


 三者三様に可愛い。


「初めまして、アンネリーゼ様」


 うーん…。ロコイアに悪意センサーが反応している…。この子からは微量の悪意が感じられる…。

 メタゾール領発展の秘密を盗み出してやる!甘い汁を吸わせてもらう!かぁ。


 秘密を盗むもなにも、こちらから教えてあげようとしているのだけど。もちろん、開発したばかりの技術や産物は数年は渡さないけどね。

 甘い汁も吸わせるけど、投資した分は返してもらうよ。数年後に返してもらう算段があるからやっているのだ。まあ、みんなで同じものを作り出したら、利益は鈍るだろうけど。



 お茶会では、メタゾール産の紅茶とチーズケーキを出した。

 ダイアナのやつ、食に興味がないといって、自分は白米、味噌汁、豆腐しか食べていないのに、チーズの作り方とかなぜ知っているのだ。

 マイア姫の領地では農地をそれほど確保できないので、こういったものの生産の目処は立っていない。ラメルテオン領でも同じく、外壁に囲まれていて農地を追加できない。農地を追加できたのは、今のところプレドールとテルカスだけだ。


 お茶もお菓子ももちろん好評。

 だけど…、ロコイアは、食材もレシピもすべて盗み出してやるって…。


 他の三人は大丈夫だ。もともと高位貴族として教育を受けており、それなりに貴族としての矜持がある。

 でもロコイアは侯爵家なのに小者感があるなあ。うーん、どう料理してくれようか。



 お茶会は無難に終わり、進め方は後日知らせるということになった。

 メタゾールに帰る馬車の中で、


「アンネお姉様、ロコイア様ですが…」

「ええ、メタゾールの技術を盗み出してやるという悪意を感じました」

「さすがアンネお姉様です。私も彼女が何か悪いことを企んでいるように見えましたが、アンネお姉様はそのような具体的なところまでおわかりになるのですね」

「あっ、はい」


 マイア姫ほど優秀な子なら、ロコイアがどのような態度でお茶会に臨んでいるか分かるようだ。


「それでですね、いずれ私がこの国を統べるにあたって反乱分子がいるのは困ります」

「えっ…、摘み取るっことですか…。穏やかではないですね…」

「服従させましょう」

「えっ…、武力ですか…、少し短絡的では…」

「何を言っているのですか。そうではないです。私としても不本意ですが、アンネお姉様が出会った女の子にいつもやってしまうことですよ」

「えっ…」

「アンネお姉様の魔法にかかった者は、アンネお姉様の不利益になるようなことはできません」

「私、そんな魔法を使った覚えは…」

「アンネお姉様は酷いお方です。私を魔法に掛けておきながら自覚がないなんて」

「それって…」

「毎日お風呂でやってくれることですよ。アンネお姉様の手にかかれば、誰だってイチコロなんですから。つい最近も四人を服従させたばかりではないですか。あれだけダメだと言ったのに、背中を流した時点でもう嫁になってしまっていたんです」


「あの…、マイア様は私の魔法にかかっているという自覚があるのですか」

「はい。アンネお姉様にメタゾールに連れてきていただいた次の日には気が付いてしまいました。アンネお姉様を好きになってしまったのだと。これは恋の魔法です。この魔法は強力です。もう解けることはありません」

「私はみんなを服従させるつもりでマッサージをしているわけでは…」

「アンネお姉様はほんとうに罪作りなお方。こんなにも私の心を奪っておきながら、どんどん他の女をたぶらかしていくのですから」

「うう…」


 なんとなく感じていたけど、考えないようにしていた。私のマッサージは相手を服従させる効果があるのではないかと…。


「今さら手遅れです。アンネお姉様が罪の意識を感じる必要はありません」

「マイア様は私に服従させられているということに問題を感じていないのですか?」

「はい。アンネお姉様になら服従します。アンネお姉様に支配されたいです。ほんとうは、私ではなくアンネお姉様が王になればよいと思っています」

「えっ…」

「アンネお姉様は、メタゾール領民すべてに、アンネお姉様の術を施しているのはなぜですか?」

「それは…、すべての領民が健康で笑顔で暮らしている姿を見たいからです」

「素晴らしいお考えです。では、いずれはすべてのロイドステラ国民の笑顔も見たいですよね?」

「そうですねえ」

「すでにヒストリア国民はすべて笑顔ですよね」

「はい」

「では、何を今さらためらうのです?ロコイアにもアンネお姉様の術を施すことで、ロコイアも笑顔になるし、いずれヒドルチゾン領の領民も笑顔になることでしょう」

「そ、そうですね!」

「では、私としては嫁が増えてしまうことは大変不本意ですが、ロコ…」

「分かりました!ロコイアを嫁にします!」

「えっ…、その表現はちょ…」

「もちろんアレスタもグリメサもタルメアも嫁にします!」

「それは余計…」

「ロイドステラのご令嬢すべてを嫁にしてみます!」

「いやあああ」


 よーし、やるぞー!嫁にするからには、等しく可愛がってあげるんだ。序列とかナシ!

 ロザリーに紹介された四人も、既存のお嫁さんたちとはお風呂が別になってしまっているから、一緒にお風呂に入れるようにしよう。メイドさんはメイドさん枠で入ってもらうことになるけど。

 そして今回マイア姫に紹介された四人も一緒にお風呂に入るんだ!そうなると、お風呂を拡張しなきゃだ。前回なんとなく二十人用にしたけど、今回で、えーっと…私を入れて二十二人かな…。もうオーバーじゃないか…。


 今後増えることを考えて、余裕を持って拡張しておきたいけど、屋敷の中で浴室の面積が大部分を占めていて、屋敷をどんどんいびつに拡張してるのもなんとかしたいから、浴室を地下に移そうかな。地下ならいくらでも横に拡張できるし。

 水は、私の魔力だと三十人分の湯船が限度だけど、今は魔道炉の魔力で水を出すから関係ないし。


 ヒストリア王国では、まずすべての領民を味方に付けることで支持を拡大していった。

 でも、ロイドステラ王国では違うやり方になりそうだ。まずはご令嬢を味方に付けて、ご令嬢に領地改革してもらうんだ。

 あれ、ご令嬢のいない家もあるよね。どうしよう。それはそのとき考えるか。


「…ネお姉様!」

「えっ?あっ、はい」

「着いたみたいですよ」

「あ、はい…」

「はぁ…」


 どうやら考え事をしている間にメタゾールに着いたようだ。




 マイア姫の執務室からマイア姫の領地のスタッフに指示を出して、十日後にふたたび四人に、マイア姫の領地に集まってもらうことになった。

 そして十日が経ち、マイア姫の領地に赴いた。


「ごきげんよう、みなさん」

「ごきげんよう、アレスタ様、グリメサ様、タルメア様、ロコイア様」


「ごきげんよう!アンネリーゼ様!」

「ご、ごごご、ごきげんよう、アンネリーゼ様。ふたたびお会いできて光栄です!」

「ごきげんよう、アンネリーゼ様」

「ごきげんよう、アンネリーゼ様」


「それではマイア様のお手紙でお伝えしたとおり、これからみなさんにはメタゾール領で一年間領地経営を学んでいただきます」


「「「「はい」」」」


 みんなに馬車に乗り込んでもらった。


 今回はメイドのコーリルを連れてきた。ドリーはダイアナとお留守番だ。

 あとは、マイア姫のメイド二人と護衛騎士二人だ。ああ、この、メイドさんと騎士も、実はどこかのお嬢様だったりするから、うちのように平民出身のメイドと一緒くたに扱うのは微妙なんだよなぁ。

 まあいいや、今日はみんなまとめて面倒見てあげよう!


「それではみなさん、こちらへどうぞ」

「えっ、アンネお姉様、今回はお風呂はナシって」

「いえ、まずはみなさん身も心も綺麗になっていただきます」


「「「「あ~れ~」」」」


 四人の令嬢のドレスを回しながら脱がし、


「「「「あ~れ~」」」」


 それぞれのメイドさんを回しながら脱がし、


「「「「あ~れ~」」」」


 マイア姫のメイドさん二人と騎士二人を回しながら脱がし、


「ちょ、アンネお姉様、あ~れ~」


 マイア姫を脱がし、


「あ~れ~」


 コーリルを脱がし、


「「「「ああああああん…」」」」

「「「「あああああん…」」」」

「「あああああん…」」

「あああん…」

「あああん…」


 みんな背中を流して湯船に浸かってもらった。


「コーリル、しっかりして。メイドさんの服を着せてあげて」

「は~…、あ、はい!」


 それぞれのお付きメイドはとろとろなので、私とコーリルでお世話してあげるしかない。

 コーリルは光の精霊が育っており、自動疲労回復がわずかに効いているので、私の施術によりとろとろになりにくい。

 そのあともコーリルと一緒に、私が手もみで出した紅茶と、私が手でホイップしたクリームを挟んだミルクレープを準備して、四人とマイア姫とでいただいた。みんなお茶とお菓子に感動してくれた。


 コーリルとメイドさんたちと騎士が指をくわえて物欲しそうにしていた…。ごめん、いつかごちそうするよ…。手でホイップはえらい時間がかかるから量を作れないんだよ…。


 洗脳とか餌付けとか、やっていることが外道…。でも、これがみんなで幸せになる道なんだ。



 メタゾール到着したら、四人をコーリルに案内してもらった。

 夜は、ロザリーに紹介された四人と、今回加わった四人も一緒に、私と二十一人のお嫁さんでお風呂。お風呂は地下に移設して拡張済み。

 私の部屋はお母様の部屋と連結して、ベッドを拡張済み。私の部屋に二十二人も入らないから、隣の部屋との壁を取り払って部屋を拡張した。

 そして、私とお母様で全員に授乳してベッドに入った。


 ヒルダとクレアはもはや嫁が増えることを諦めたような顔をしているし、聖女の守り手のみんなとドリーとお母様は嬉しそうだ。


 翌朝、五時に起きて、使用人のお風呂でメイドたちをねぎらう。このローテーションに、新たなお嫁さんのメイドと、マイア姫のメイドも騎士も入ってもらった。



 しばらく経って、ロコイアからは悪意が消えていた。もう秘密や食材を盗む気はなくなったらしい。たんに、メタゾールで幸せに暮らしていければいいらしい。って、おいおい!


「ロコイア様、メタゾール領発展の秘密はあばけましたか?」

「えっ…、な、ななな、何のことでしょう…」


「それではお父上がお困りでしょう。ヒドルチゾン領を発展させるための知識をメタゾール領で手に入れてこいと、お父上から仰せつかったのでしょう。その命も果たさずに、ただ安穏と日々を過ごしているだけではダメですよ。

 あなたはメタゾールの秘密を盗んでいく意気込みだったのかもしれませんが、私は最初から必要な知識をお分けすると言っているでしょう」


「な、なんでそのことを…」

「そのようなことはあなたを見ていれば分かります。でも、それはどうでもよいのです。あなたはほんとうにヒドルチゾン領を発展させる気があるのですか?やる気がないのなら帰っていただきますよ!」

「が、頑張ります!私、頑張りますから、私を見捨てないでください…」

「同時期に来られた七人に対する後れを取り戻してくださいね。私はあなたの頑張りを見ていますよ」

「はい…」


 侯爵家っていったってダメな子もいるんだな。ヒルダとクレアのほうがよほど優秀だ。

 親はもっとダメなんだろうな。でも、ロコイアが頑張って引っ張っていってくれることを期待しているよ。



 その後も、メタゾールに来て知識を得たいというご令嬢がたくさん集まり、私の嫁はどんどん増えていった、なんていうことはない。

 この国のほとんどの貴族は、領民を虐げ、私腹を肥やして生きている。領地を発展させ、領民の生活を向上させることなどに興味はないのだ。


 あとは、ヒストリア王国みたいに、王家主導でやっていくしかないかなぁ。そうなったら、ヒストリアと同じで全国ツアーをやらないとダメか…。骨が折れるな…。




 ロザリーがラメルテオン領に戻り、自領の改革を始めてから一年が経った。改革はようやく落ち着いてきて、ロザリーが現場で直接指示を出す必要もなくなってきた。


『そういうわけなので、私にもメタゾール領で執務室を貸していただけないでしょうか』

「はい、そのつもりですよ。それでは、十日後にお迎えに行きますがよいですか?」

『ええ、お願い』

「はい」


 ロザリーとビデオチャットで打ち合わせ。ラメルテオンの屋敷とメタゾール屋敷も、執務室を大きなディスプレイによるビデオチャットで繋いで、ロザリーはメタゾールの屋敷にいながらラメルテオンの一室にいるかのように仕事できるようするのだ。

 すでにヒルダ、クレア、マイア姫も同じことをやっている。常に執務室で仕事をする必要はなく、みんなで学校に通っているときもある。必要があればスマホに呼び出しが来る。



 というわけで十日経ち、やってきましたラメルテオンの屋敷。今回はラメルテオンの屋敷にディスプレイを設置するから、ダイアナを連れてきた。お付きはリメザ。

 今回もドリーはダイアナとお留守番。最近、二人、仲良いな。


「ごきげんよう、アンネ」

「ごきげんよう、ロザリー」


 一年間直接顔を見てないけど、頻繁にビデオチャットしてたし、寂しくはなかった。でもそれは私だけだったのかな。ロザリーはなんかもじもじむずむずしている。


「久しぶりだな、メタゾール侯爵」

「ごきげんよう、ラメルテオン侯爵」


 アゴニス・ラメルテオン侯爵。一年間、ミニスカートのロザリーと暮らしたおかげで、私の脚に食いつくこともないかなと思ったのだけど、いまだに私の脚が気になるのか…。


「ごきげんよう、アンネリーゼ様」

「ごきげんよう、ラトニー様」


 ラトニー・ラメルテオン公爵夫人。


「アンネリーゼ様、見てください、私の顔!見違えたでしょう!」

「え、ええ」

「メタゾールから輸入している化粧品!すごいです!まるでお肌が十歳若返ったようです」

「喜んでいただけて何よりです」


 顔、近いよ!たしかに、一年前に三十歳に見えたのが、今は二十歳だね。

 そうだ。ご令嬢のいない家でも、ご婦人はたいていいるよね。今度はご婦人を招待しようかな。私の手にかかれば、化粧を使わなくても若返らせられると思うし。

 いやいや、べつに年増がいやだってワケじゃないけど。



 ラメルテオンの屋敷にディスプレイを設置したら、トンボ返りだ。うちの商品をラメルテオンに回すようになったといっても、食料品や生ものはまだ届けられていないから、ラメルテオンの食糧事情は改善していないのだ。だから、食事のおもてなしを受ける前に帰るぞ!


「ほんとうに泊まっていかれないのですね」

「はい、メタゾールに戻って仕事もございますので」


「それではロザリー、またしっかり学んでくるのよ」

「ええ、お母様。何かあればスマホでご連絡ください」



 挨拶もちゃちゃっと済ませて、逃げるようにラメルテオンあとにした。


「アンネ!」

「はわわ、ロザリー、あ~れ~」


 馬車に入って窓の外の景色が流れ出すなり、ロザリーは私を脱衣所に連れ込んで、私をくるくる回しながらドレスを脱がした。


 そして、ロザリーは浴室に備え付けのベッドにうつ伏せに寝転んだ。こっちを向いて催促するような顔をしている。強い思いが伝わってくる。早くして!我慢できない!


「はい、分かりましたよ」

「あああああああん…」


 一年間よく我慢したね。ビデオチャットでは伝わってこなかった。顔には出さないし、ビデオチャットごしに心は読めないからね。


 お風呂から上がったら、ロザリーは今度はダイニングでフォークとナイフを構えて、私に訴えてくる。


 ゴメン、ダイアナ、リメザ。お風呂はあとね。


 夕食は、私のこねたお蕎麦。私のこねたかまぼこ。私、練り物は得意だよ。手間を掛けて練ると、それだけ私の魔力がこもって美味しくなるんだ。

 出汁はダイアナの開発した醤油。この醤油は、交流電源が六十Hzの地域のなかでも、酒豪の多い地域のものらしく、醤油自体が甘めにできている。

 他にも油揚げやほうれん草などを加えて、栄養バランスを整えてある。


「いただきます!うぉーいひー!」


 ロザリーは蕎麦をフォークですくって口に入れた。ロザリーのほっぺたは溶け落ちそうだ。

 お箸の文化はないのでフォークを使うのはもちろん、この国にはパスタのような麺すらないので、麺自体初めてだったと思うのだけど、そんなことは関係ナシに、がつがつ食べている。口の中にものを入れたまましゃべるのもお構いなし。

 普段は侯爵令嬢の仮面を被っているけど、私の前では素顔を出してくれる。いや、出し過ぎだろう。女の子の仮面くらい付けておいたらどうかな…。まあ私しかいないしね。メイドというのは空気だし、ダイアナも空気に徹しているので。


 夕食を終えると、ロザリーは私を寝室に連れていき、私のドレスをひんむいて、私にネグリジェをかぶせた。そして、自分にも同じことをしてほしいと顔で訴えてきた。

 しかたがないので、私はまず、中途半端に着せられたネグリジェにちゃんと袖を通してから、ロザリーのドレスを脱がし、ネグリジェを着せてあげた。

 ロザリーは私をベッドに押し倒し、ネグリジェから私の胸をはだけさせ、母乳を吸い始めた。一年のブランクを取り戻すかのような吸引力…。ちょっと痛い…。私、干からびそう…。

 この強引さ…、マイア姫に匹敵する…。


 ロザリーは私の胸をくわえたまま、幸せそうな顔をして寝てしまった。抱きついたりはしていないので、起こさずに離れられた。

 以前マイア姫のときはがっしりと抱きつかれていて、翌朝まで離れられなかったんだ…。



 私がロザリーを寝かしつけている間に、ダイアナはリメザにお風呂に入れてもらっていた。ダイアナは私のマッサージを求めていない。筋肉がほとんどないし、わずかな筋肉も精霊による自動疲労回復でほぐされてしまう。

 脂肪しかないので揉み甲斐がない。いや、五歳にしてはぷにぷにで揉み心地はとても良いけど、それは私の仕事ではない。

 脂肪っていったって、ウェストや腕とかにはまったく付かずに、脚とかお尻ばっかに付いている。すでに、少し胸にも付いている気がする。エッテンザムという種族は、エルフとかそういう類いの、種族全体で美人でボンキュっボンなのだろう。


 でもリメザはマッサージナシというワケにはいかない。乳児の魂百まで計画の子は自動疲労回復をそれなりに身につけているけど、私の施術を求めている。

 乳児の魂百まで計画の子には生まれてから精霊を付けてあげたけど、胎児の魂百まで計画であるリーナやダイアナほど、精霊が大きくないのだ。

 ダイアナをお風呂から上がらせて寝室に送ると、私はリメザとふたたびお風呂へ。リメザを可愛がってあげた。



 翌日、メタゾールに着くと、ロザリーは自分の送り込んだ以上に嫁が増えていることに驚…くことはなく、予想の範囲内という感じだった。

 ロザリーはメイドとともに、メタゾールの屋敷の自分の執務室に荷物を置き、通信確認すると、ヒルダたちとともに学校に向かった。




 ロザリーがメタゾールに戻ってきてからしばらく経ったある日。なんだか屋敷のみんなそわそわしている。


「アンネ、なにぼーっとしているの?早く準備しなさいよ」

「えっ、いったいなんの…」

「何とぼけているの?行くわよ」


 連れていかれたのは魔道馬車。いったいどこへ行くというのだ…。

 魔道馬車のリビングルームは拡張されていて、二十二人の嫁が四つのテーブルに分かれて座っていた。しかも、みんな裸…ではなくて、水着!いや、ほとんど裸!


「ヒルダ、やっとアンネを連れてきてくれたね。二人とも早く着替えて」

「アンネ、こっちよ」

「は、はい…」


 何このイベント…。私だけが知らされてないのかな…。

 みんな、ちょっと動いたらポロリしそうなほど小さな面積の白のビキニ水着を着ているんだけど…。


「はい、アンネのよ」

「はい…」


 みんなと同じ面積の白のビキニ水着を渡された。一辺が十センチの正三角形の布に紐が取り付けてある水着だ。

 私の胸はみんなよりはるかに大きいので、みんなの胸がポロリしそうな面積の水着は、私にとってはかなり心許ない…。


 馬車に乗り込んだということは、どこかに行くんだよね…。馬車でお風呂に入って終わりじゃないよね…。

 お風呂で裸の付き合いはさんざんやっているけど、裸同然で外を出歩くのは初めてなんだけど…。

 あれ、いつも胸とお尻を出して出歩いているし、あんまり変わらない気がしてきた。いややっぱり、外でポロリするのはさすがに恥ずかしい…。

 ちなみにパンツのほうは、いつものパンツと同じ面積ようだ。パンツの面積は個人差がある。ロザリーなんてほぼTバックだし。


「着いたみたいね。行きましょ」

「はい…」


 歩いていると、いつポロリしてしまうか不安でならない。手で押さえてないと、すぐにずれてしまう。


 ヒルダやクレアだって私が鍛えてあげたから標準的な子爵令嬢や男爵令嬢よりかなり大きな胸をしているので、この水着で激しく動いたらポロリしてしまうよ…。それなのに、堂々としっかり歩いている。歩くたびに胸がゆっさゆっさしている。危なっかしくて目を離せない。


 新しく入ったお嫁さんは伯爵家以上ばかりなので、みんなスペックが高い。十三歳のアレスタとグリメサでさえ危険水域だ。


 聖女の守り手の五人の胸の大きさはけっこうばらばらだけど、激しく動いたらポロリするのは確定だ。



 外に出たらみんなもけっこう平気で歩いたり飛んだりしている。いやあ…、そんなに跳ねたらずれるって…。ヤバいって…。

 みんなポロリ上等なのかな?この世界では胸はポロリしてでもアピールすべきものであり、恥ずかしがっている私だけが変なのかな。いいかげんこの世界の常識に慣れてきたつもりだったのに、肝心な常識をまだ見落としていたというのだろうか。


 っていうか、外に出たのにみんなのこぼれ落ちそうな胸にばかり目が行って、どこに来たのか認識するのに時間がかかった。

 ここは海だ!着替える時間で移動できる距離…、メタゾールの南側の海だ。

 水着を着たのだから泳がないとだよね。でも、これじゃ腕を上げただけで脱げちゃいそう…。


 あれ…、後ろには観客席…、領民一〇〇〇人…。何これ…、私がいない間にドリーとダイアナで作っていたものってこれ?


「アンネちゃん、なにもじもじしているのよ」

「えっ…、お母様…」


 お母様のお胸様は私よりも…、実をいうとあんまり差がない。私の胸は最近お母様のスイカに到達した。二十人以上に授乳していたから、自然に鍛えられてしまった。

 お母様とは身長も同じくらいだし、どっちが姉か分からない。姉じゃないや、母だった…。


 それはさておき、私と同じ大きさの胸でこの水着を着ているお母様は、なぜそんなに堂々と歩けているのか。歩くたびにたっっぷんたっっぷんと胸が揺れて、大事なところが見える寸前まで水着がずれている。

 あと少し余計にずれたら完全に大事なところがオープンしてしまうというのに、なぜそんなにしっかり歩くことができるのか。やはり、ポロリ前提なのか?ポロリしたもん勝ちなのか?それで勝ちだと思っていない私が常識外れなのか。


 リーナも同じ水着を着ている。九歳のリーナ用としても、この水着は少し小さいんじゃないかな…。リーナだって九歳とは思えないほどのリンゴが実っているというのに…。リーナなら普通に歩いている分にはポロリしないと思うけど、リーナお得意のアクロバットとかしたら、確実にポロリしそう…。


 ダイアナも同じ水着を着ている。この水着は五歳のダイアナで丁度いいのでは…。紐を結ぶ長ささえ変えれば、五歳から大人まで着られるフリーサイズって、フリーにもほどがあるでしょう。


 ちなみに、ドリーは着替えられない。いつもどおりの葉っぱ水着だ。葉っぱ水着の面積は、私たちの着ている水着より、はるかに大きい…。よかった…。こんなきわどい面積の水着をイメージしなくて…。


 はぁ…疲れた…。もちろん、私は身体的には疲労しないので、精神的に。



『位置について、よーい』


 パーン!


 えっ…、何?ダイアナの合成音声を、拡声器でうるさくして劣化させたような声のあとに、ピストルのような音。


 ヒルダとクレアが海に向かって砂浜を走っている。そんなに走ったらヤバいってば…。

 そして、向かう先の海には浮きで作った足場。段差とか隙間がある。足場は海の上をぐるっと回って、砂浜に戻ってくるように配置してある。

 足場を飛び越えて進んでいく競争?アイドル水上競争、ポロリもあるよってやつ?

 気がついたら、カメラやドローンをいっぱい配置してあるし…。


 巨大なスクリーンがあって、ヒルダとクレアのアップが映されている。

 二人ともポロリを恐れずに、どんどん足場を飛び越えていく。絶対脱げそうなのに脱げない。どうなってるの…。何か水着に細工してあるのかな…。

 足場がなくて、雲梯みたいになっているところもある。足場が不安定で、手すりにつかまっていないと落ちてしまいそうなところもたくさんある。お嬢様にはきついんじゃないかと思ったけど、二人とも学校で鍛えているから、難なく通り抜けた。


「勝ったわっ!」

「負けたよぅ…」


 体格で勝るヒルダが先にゴールイン。

 勝利に喜ぶヒルダがぴょんぴょんと跳ねている。そのたびに、水着は限界ギリギリまでずれている…。

 でも、勝利条件は先にポロリすることではなくて、ちゃんと先にゴールインすることのようだ…。助かった…。



『位置について、よーい』


 パーン!


 またダイアナの合成音声とピストルの音だ。

 そもそも、劣化させずに大きな声にできるだろうし、ピストルもなんもないのにパーンって何なんだよ。


 次に走っているのはマイア姫とロザリー。

 二人とも良い勝負だ。胸の大きさが。じゃなかった。進み具合が。

 いやいや、二人ともヒルダとクレアよりも胸が大きいので、いつポロリしてもおかしくないでしょう。それなのに、たぷたぷと胸を揺らしながら、全力で走って飛んで、先にゴールしたのはマイア姫。


「やりました!」

「さすがです、マイア様…」



『位置について、よーい』


 パーン!


 次はお母様とアマージだ。

 私のお胸はもはやお母様とほとんど同じ大きさなので、お母様の走りは大変参考になる。お母様はその大きすぎる胸を持て余していて大変そう…。そして、その姿が可愛い…。


「きゃー!」


 ばしゃーん。


「きゃー!リンダお嬢様、素敵!もうだめ…」


 お母様が浮きと浮きの間を飛び越えられず、海に落下。

 その後…、流血?えっ…、お母様、大丈夫…?

 と思ったら、血を吹いているのは、アマージの鼻。お母様の、大きすぎる胸を持て余している姿に、アマージは鼻血を吹いてしまい、お母様と同じところで海に落下。

 二人ともリタイアとなった。

 しまった、可愛いお母様に見とれて、なにも参考にできなかった。



 次はイミグラとゾーミア。二人とも胸がこぼれそうで危ういのはもちろんだけど、それを気にせず軽快に進んでいく。さすが、肉体派の二人。イミグラがわずかな差で勝利。


 次はレルーパとマクサ。この二人の胸は控えめなのだけど、ダイアナで丁度いい水着が二人に危うくないわけがない。でも、ポロリなどなく、進んでいった。軽快なあゆみでレルーパの勝利。


 その後、クローナ対メレーナ、ソラーナ対エリス、アレスタ対グリメサ、タルメア対ロコイアの順で勝負が行われた。

 腕の力が足りなくて、雲梯でリタイアしている子も多かった。やはり、最近加わった子は、まだまだ身体強化が甘い。



「ねーね、負けないよ」

「えっ…、次は私なの…」


 みんな終わったのか。相手はリーナ?


「位置について、よーい」


 パーン!


「え、ちょっと待って…」


 リーナ、超速い…。リーナの胸はまだリンゴくらいだけど、あれだけひょいひょい動いたら脱げちゃいそうだよ…。

 私はお母様と同じ大きさのスイカをぶら下げているからといって、それを持て余すことはないのだけど、でも…、ちょっと動いたら脱げてしまいそうで、胸から手を離すことができない。それも両手。私の二つの胸は片手で抱えることができない…。片手でひと胸持っても足りないくらいだ。抱えているからといって安心もできない。やはり激しく動いたら、腕からもこぼれ落ちそう…。


 でも、みんなあれだけ飛び跳ねていたのに、誰一人としてポロリしなかった。いちばん危ういと思われたお母様ですら。

 それなら、この水着に何か細工されている可能性が高い。じゃあ私も大丈夫かな。でも試してみようにも、一〇〇〇人の観客の目があるし、ここでは不可能。万が一、私のだけ脱げない細工がないのであれば、試すことがあだになってしまう。更衣室で試せばよかった…。


 みんなは水着に脱げない細工があることを知らされているから、安心して走っているのだろうか。なんで私だけ知らされてないのかな…。これってダイアナのしわざだよね…。イベントがあることを知らなかったのも私だけみたいだし…。

 こういうのってカローナの役じゃないかな。カローナの胸はお母様をとうに超えていたし、この世でいちばんでかいんじゃないかな。


 まあここにいないカローナのことはさておき、今は私がこんな罰ゲームのような役割をさせられている。水着に脱げない細工があるかどうか分からない以上は、胸から手を離すことができないし、手で抱えているからといってもちょっと激しく動くと、手からこぼれ落ちてしまいそう。水着を着ているのに手ブラ状態。



 歓声が沸いた。


「勝ちぃ~。ねーね、雑魚すぎ~」

「ええっ?」


 そんなことを考えながら、慎重に進んでいるうちに、リーナはあっという間にゴールしてしまった。

 リーナを映していたスクリーンは、リーナのVサインを映し終えると、私の上半身のどアップに切り替わった。私のスクリーンは別にあるからこれ以上いらないよ。しかもどアップなんてやめてよ…。私、なんて恥ずかしそうな顔をしているんだ…。


 私はなんとか障害を切り抜けながら進んでいる。足場が悪くて手すりにつかまらなければならないようなところでも、私なら手すりにつかまらずに行ける。狭い隙間のジャンプも大丈夫だ。

 そしてやってきました、最大の難関…、雲梯…。足場がなくて、手で鉄棒を掴んで進まないといけない。でも私の手は自分の胸を抱えるので精一杯。胸を抱えたままの私はかなり間抜けだと思う…。


 うう、なんで私ばっかこんなハンデでやらなきゃいけないんだ…。もうリタイアしていいかな…。もうゴールしてもいいよね…。観客席を見回すと、領民の熱い眼差し…。領民の期待。強い思い。

 あれ、でもポロリを見たいという希望は伝わってこない。やっぱり、領民は私を害するようなことは考えないということだろうか。どうやってクリアするかに興味があるのかな。

 じゃあ、やってやろうじゃん。私にはまだ足がある!

 私はひょいっと上下逆さになり、雲梯の鉄棒に足首を引っかけた。

 ぎゃー、重力が逆になったから、胸が上に落っこちてきた。胸が邪魔で前が見えない。胸の下側から抱えるのではなくて、上側から抱えるようにしないと…。

 危なかった…。競技ではなく人生リタイアするところだった。お嫁に行けなくなるところだった。いや、もう嫁は数えられないほどいるし、子も産んだ。だからといって、ポロリするのは嫌だ。


 逆さになって足首を鉄棒に引っかけると、歓声が沸いた。

 胸さえ抱えていなければ、一つや二つ飛ばしても行けそうなんだけど、大きく動くと手から胸がこぼれ落ちそうなので、一つ一つゆっくり慎重に進んでいる。


 やっとの思いで雲梯を進みきると、再び歓声が沸いた。領民から気持ちが伝わってくる。これは、私がお母様に抱く気持ちと似ている。小さい子がまだ不器用にしかできなくてがんばっている姿を見守って応援したくなる気持ちだ。

 お母様は最近、胸が大きすぎてドジが多く、それでもがんばっている姿がけなげで可愛い。それと同じ気持ちが領民から私に向けられた。

 私もお母様と同じ胸の大きさに到達したのだから、同じ目で見られるってことか。でも私は普段ドジをやらない。今回は強制的にドジっ子をやらされている気分だ…。


 そんなことを考えながらゆっくり進んでいると、最後の難関。ちょっと距離のある隙間だ。今までは軽いジャンプで隙間を飛び越えてきたけど、ここは距離があるのでそうはいかない。

 ちょっと力を入れてジャンプ!うわあ、足場が沈んだ…。なんでえ…。

 そうか、他の子は助走を付けていた。私ならこの距離を、ちょっと力を入れてジャンプするだけで飛び越えられるけど、それがあだとなった。

 私が力を入れた足場は沈み込み、私は大きくバランスを崩した。私はバランスを取り戻そうと、胸を抱えていた手を離してしまった…。終わった…。

 踊り狂う胸。水着のずれる感触。さようなら水着。

 私はバランスを直しきれずに、海に落下。きっと水面にはぷかぷか浮いている私の水着が…。

 水の中なら外からは見えないよね。と思ったら、しっかり水中でもカメラやドローンが見ているし…。私の胸を領民に公開したいのなら、お風呂に隠しカメラでも設置しておけばいいのに…。ダイアナのバカ…。

 ………あれ…、脱げてない…。水着はまだ私の胸にある…。

 やっぱり脱げない細工が施されていたのか!心配して損した!

 水に濡れると破けるとか、透けて防御力がゼロになるなんて罠もない。


 はぁ…、疲れた…。ゴールドドラゴンにセレスが殺されたときくらい神経をすり減らした…。


 ダイアナの、私の扱いはかなりひどいけど、一線は越えないでいてくれる。いや、今回の件も教師アプリも、かなり一線を越えていると思うけど…。



 水面に顔を出した私を待っていたのは、領民のものすごい歓声。私、何もすごくない…。何が嬉しいのやら…。

 やっぱり、ドジなのにがんばっている姿に感銘を受けたらしい。

 今まで領民からは、崇拝とか畏敬の念、他にはアイドルに対する憧れとかは伝わってきていたけど、今回新たな思いが加わった。「守ってあげたい」だ。


 このイベントは領民にそう思わせることが目的なのだろうか。領民とは良好な関係を築いており、これ以上好感触を与える必要はないと思うのだけど。




『続いての種目は、ビーチバレーです。アンネリーゼ選手、ぷかぷか浮かんでないで、早く上がってきなさい』


 むぅ…。ダイアナのやつ…。何が選手だ。私、何も知らされずに来たんだぞ。


 ちなみに、私の身体の体脂肪率のほとんどは、胸とお尻が占めており、他の部分の体脂肪率はゼロに等しい。完全にほぐしてありぷにぷにだがすべて筋肉だ。

 だから、私の身体で浮くのは、胸とお尻だけだ。ちょっと浮かびにくい。


 競技の足場に上がり、砂浜に戻る。なーんだ…、跳んだりはねたりしてもポロリしないじゃん…。すごく脱げそうなのに脱げない。どういう細工だ…。魔道具なのかな…。

 今まで胸を手で押さえて、慎重に進んでいたのがバカみたい…。


 っていうか、みんな平気な顔して動き回っているのに、私だけ必死に胸を支えている姿はどのように見られていたのだろう。ああ、それが「守ってあげたい」につながるのか。私が必死に守った胸をみんなが守ってくれるのかな…。


 あ、でも、急に動き出したら、今までのはなんだったのかって思われる。ハンデを負っているように見せて、実は嘘でしたみたいな…。

 慌てて胸を手で押さえる。手遅れかな…。まあいいや。手で押さえて、あまり激しい動きはしないで砂浜に戻ろう…。



 ピーっ。笛の音。どうせ電子音だけど。

 ああ、ビーチバレーって言ったっけ。チームAとチームBの対戦?


 チームAは、ヒルダ、ロザリー、イミグラ、ゾーミア、ソラーナ、グリメサ、メリリーナ。

 チームBは、マイア、アマージ、レルーパ、メレーナ、アレスタ、タルメア、リンダ。

 チームCは、シンクレア、マクサ、クローナ、エリス、ロコイア、アンネリーゼ。


 ダイアナとドリーの名前がない。くそーダイアナめ。傍観者気取りか。

 ドリーはボールに触れないからしかたない。さっきもこの二人は出ていなかったような。


 バレーボールなのに七人いる。あれ、うちのチームだけ六人か。ドリーはどうやっても参加できないけど、ダイアナが出ればうちも七人なのに。役に立つか知らないけど。


 だいたい、バレーボールなんて、みんないつ練習したんだよ。学校でやっていたのかな。


 マイア姫のサーブから始まり、イミグラがレシーブ、ゾーミアがトス、そして、


「てーい!」


 リーナのスパイク、誰も受けられないでしょう。ボールは軽いから当たってもそれほど痛くないかもしれないけど、ボールが割れそうになるほどの威力がある。


 ぱしんっ!


「いったーい!」


 無謀にもそれを受け止めようとしたのはお母様…。お母様は腕を前に構えたけど…、その上に大きなスイカが二つあるので、ボールはスイカでレシーブされた…。すごい音が鳴った…。

 お母様のお胸はたっっっぷんと大きく変形して、ボールの勢いを殺した。そして、ボールは高く舞い上がった。ボールと一緒に、お母様のお胸も飛んでいってしまうのではないかというほど揺れている。水着が脱げることはないのかもしれないけど、ずっと脱げそうなので見ていてヒヤヒヤする。


「リンダお嬢様、素敵!ナイス、レシーブ!」


 お母様の上げたボールをアマージがトスした。


「いきます!」


 それをマイア姫がスパイク!


「させるかぁ!」


 マイア姫のスパイクをブロックしたのはゾーミア。ゾーミアは一九〇センチくらいある。壁として最強でしょう…。

 ゾーミアはもともと、ボディビルかというほどのマッチョだった。腹筋も六つに割れていたし、力こぶも腕や腿など至る所にあった。

 その筋肉を私がほぐし続けたから、だいぶなめらかな凹凸のある女の子っぽい体つきになってきた。今では長身スレンダーの美人だ。

 筋肉がなくなったわけではない。力を込めたときには、腹筋や力こぶは顔を出す。

 それに、身体強化の念動力的な力の強化も使いこなせるようになったから、自分の筋力で力を出すか、魔法で力を出すかは状況に応じて選べるようになっている。


 結局、チームBは安定のレシーバーであるお母様がいても、ゾーミアの鉄壁を打ち破ることができず、チームAの勝利に終わった。

 チームA、強すぎだろう。リーナとイミグラとゾーミアだぞ。このチーム分けを決めたのはダイアナかな?



 続いて、チームAとチームC…私たちの対戦か…。さっきの競争を見ている限りは、使えるのはクレアとマクサくらい。新しい嫁は、運動や身体強化を始めてまだ一年も経っていないから、運動不足のお嬢様に毛が生えた程度でしかない。


 チームAは、ヒルダ、ロザリー、イミグラ、ゾーミア、ソラーナ、グリメサ、リーナ。

 チームCは、クレア、マクサ、クローナ、エリス、ロコイア、私。


 ピーっ。電子音の笛の音。


 イミグラのサーブだ。うまいなぁ。いつから練習していたんだ。

 そして、あ…、私がレシーバーか…。私、バレーボールなんて中学以来だよ…。ルールは覚えているけど、うまくないよ。

 あ、バレーボールじゃなくてビーチバレーか…。ルール同じでいいのかな…。


 っていうか、お母様と同じやり方でレシーブしなきゃいけないのか…。

 レシーブの形に手を構えても、最初から大きなボールが腕に二つ載ってる…。大丈夫、イミグラのサーブは、リーナのスパイクほどじゃない。

 ボールは私の胸と胸の間でぽよんっと跳ねた。やっぱちょっと痛いし…。


「ナイス!アンネ!」


 それを、クレアがトス!


「いっくよー!」


 そしてマクサのアタック!マクサは後衛の治療魔術師だけど、光魔法を鍛えているから、身体強化もそれなりにできるようになっている。

 でもそれはゾーミアも同じ。マクサのアタックはゾーミアにあえなくブロックされた。


 もちろん私はそれを見逃さない。ボールの行き先に回り込み、すかさず胸でレシーブ。さっきの競争とはうらはら、急加速して急減速したものだから、私の胸がたっっっぷんと遅れて揺れる。

 うわぁ…、すごく脱げそう…。いつ脱げてもおかしくないけど…、なぜか脱げない…。

 でもここまで来たら、ポロリを恐れずにみんなを勝利に導きたい。


 その後、クレアのトスとマクサのアタックを繰り返すが、ゾーミアにはほとんど通じない。

ときどきゾーミアの脇を抜けるけど、後ろにはイミグラが控えている。二重ブロックなんて抜けるわけない。

 強力な一撃が必要だ。私がレシーブに回っていると、反撃できない。


「アンネリーゼ様、次のレシーブを任せてください!」

「えっ、ロコイア様?」


 ロコイア…、ダメな子だったけど、私に捨てられそうになってから目覚めた。

 ゾーミアが跳ね返したボールを、ロコイアがレシーブ!ボールは場外のあさっての方向へ。


「わたしが取ります~~」


 それを、エリスが必死に走ってすくいに行った。たぷたぷと胸を揺らしながら。エリスはかろうじてトスを上げたが、まだまだ場外でネットまでかなり遠い。でも、大きく打ち上げてくれたのが幸いした。

 私は高速でボールの後ろに回り込み、ボールが最高地点に到達するのを見計らってジャンプ。

 その際に、胸がたっっっぷんたっっっぷん揺れて、今にも水着が脱げそう…。ほんとうに脱げないのかな…。これが魔道具なら、いつか魔石の魔力が切れて、脱げない効力がなくなってしまうのでは…。

 とりあえず、胸のことを我慢しつつ…、


「いっけぇー!」


 そして、スパイク。この高さなら、場外から打っても、相手のコート内に入れられる。


「げええ、アンネお嬢様の本気!ぐわああ…」


 ゾーミアはネットの前でジャンプし、私のボールをブロック…できずに、後ろに飛ばされた。


「任せて!わああ…」


 そこにイミグラがジャンプして、ゾーミアを支えようとしたが、勢いを殺せずに一緒になって後ろに飛ばされた。


「ねーねのバカああああ」


 空中で一体化して飛ばされているゾーミアとイミグラを、今度はリーナが受け止めようとしている。


「ぐえっ…」

「ぐはっ…」


 リーナは飛び上がりドッジボールとなってイミグラの背中に激突。イミグラとゾーミアは前と後ろから衝撃を受け、胃の中身が出そうだ。

 しかし、ゾーミアとイミグラとリーナは、ボールの勢いを殺せずに、後ろに飛ばされ続けた。


 このボールは空気抵抗で簡単に失速するような、すごく軽いやつなのだけど、私はそんなボールに三人を吹っ飛ばすほどの運動エネルギーを込めちゃったのかな。

 っていうかボール、割れないな。アリシアのうろこを薄くのばしたものかも。


 ボールに抵抗する三人は、そのまま地面に墜落。地面をずるずると進み、コートの外へ少し出たところで勢いがなくなり、ボールがポトンと落ちた。



 このボールは一〇〇グラム。そんな軽いボールが、三人を飛ばすほどのエネルギーを持つとは、いったいどれだけの速度だったのだろうか。

 ゾーミアの腹を貫通するほどの速度が出ていたが、アンネリーゼは嫁を傷つけてはならないという思いを込めてボールを打ったため、相手に当たったときに防御魔法と回復魔法があらかじめかかるように、ボールに無意識に魔法をかけていた。

 だから、ゾーミアは胃の中身が出てきそうになる程度で済んでいた。



「やったー!アンネ!」

「やったね!アンネお嬢様!」

「クレア、マクサ、ありがとう!でも、ロコイア様とエリス様の活躍あってこそなんですよ」


「うう…、アンネリーゼ様、やりましたね…」

「お役に立てて~~…はぁはぁ…、何よりですぅ~~…はぁはぁ…」


「ロコイア様、エリス様、ありがとうございます!」


「ううう、私、何もできていないいい」

「クローナ様も次はがんばりましょう!」

「はい!」



「むきいいい、ゾーミア、イミグラ、もっとがんばれ!」

「ごめんな、リーナお嬢様」

「次はもっと頑張るわ」


 向こうも気合いを入れ直したようだ。

 今度は私のサーブだ。スパイクみたいに強く打つと確実に場外だから、威力はほどほどにしておこう。その代わりカーブを掛けよう。上から前方向に回転させれば、下に落ちるんだっけか?


「えいっ!」


 ボールを上に上げるときも、打つときも、水着が脱げそうで怖い。

 ボールはネットを超えたところで、ストンと垂直に下に向きを変えた。やった!できた!変化球!


「うわっ、なんだそりゃ!」

「間に合わないわ!」


 サーブをブロックしてはいけないので、ゾーミアもイミグラもいきなり落ちてきたボールに対応できなかった。


「さすがアンネ…、ワケが分からないわ…」

「アンネ、すごいですね…」


 ヒルダもロザリーもボールが落ちる様子を見ているしかなかった。

 もちろんソラーナとグリメサも反応できなかった。


「おまえら役立たずー!」


 誰も拾えなそうなネット間近のボールをリーナが取りにいった。リーナはズサーとスライディングして、なんとかボールに手が届いたものの、ボールはあさっての方向へ。



 ずっと私のターンだ。今度は真下じゃなくて、少し横に落としてみよう。


「えいっ!」


 何をやっても胸がたっっっぷんたっっっぷん揺れて、そのたびに水着が脱げそうになる。いつ、魔道具の効果が切れて脱げてしまうか、不安でならない。


 なんだか私の中の乙女が蘇ってきた…。

 本来なら、スカートがめくれてお尻が見えちゃいそうだとか、胸の谷間が見られちゃいそうというところでこういう気持ちが育っていてもおかしくなかったのだ。

 でも、この世界では胸の谷間は無料だし、そこに私がお尻も半分だけ無料でサービスすることにしたから、見られちゃったらどうしようという気持ちを前世に置いてきてしまっていた。

 でも、今回、乙女として絶対に見られてはならないものが何度も見られそうになっているおかげで、私の乙女としての恥じらいが前世から舞い戻ってきた。

 どうしよう…。私、こんな裸同然の格好で大勢に見られている…。


「うわあ、今度はそっちに曲がるのか!」

「無理よこんなの!」

「役立たずううぅぅー」


 私がそんなことを考えていると、ボールはネットを超えて、ネットすれすれのまま斜め四十五度に落ちていった。



 また私のターンなのだけど…。この水着は激しく動いても脱げたりしないのかもしれない。でも、なんかいろいろ考えているうちに、胸が揺れるだけでも恥ずかしくなってきた…。

 ボールを控えめに上に投げるだけでも、胸がたぷたぷと揺れる…。胸なんて、八歳ごろからずっと揺らして生きてきたのに、なんで今さら恥ずかしくなってしまったんだろう…。


「アンネ!どうしたの!」

「アンネお嬢様!」

「「「アンネリーゼ様!」」」


 あれ…、ボールを上に投げただけで揺れる胸に恥ずかしくなって、ボールを打つのを忘れていた…。

 チームのみんなが心配してくれる。でも…


「な、なんでもないです…」



 サーブはゾーミアに交代。

 ゾーミアは一九〇センチあるので、サーブがヤバい…。

 ゾーミアの打ったボールを取れそうなのは私だけ。でも、ボールを取りに行くには胸をたっっっぷんたっっっぷん揺らしながら走らなければならない…。しかも、レシーブだって胸で受けなければならない…。もう、恥ずかしくてできない…。


 ボールは誰にも取られることなく、地面に落ちた。


「いいぞ!ゾーミア!ねーね、恐るるに足らず!」

「アンネお嬢様のキレが悪くなったな」

「さっきの競争みたいね」


 リーナは私をあざ笑う。ゾーミアとイミグラは、私の変化に気が付いたようだ。


「アンネ…」

「アンネお嬢様…」

「「「アンネリーゼ様…」」」



 その後、ゾーミアの一方的なサーブが続き、ついにマッチポイント。

 どうしよう…。みんなで勝とうと思っていたのに、もうダメだ…。


 私が胸を抱えて縮こまっていると、声援…、いや心の声が聞こえてきた。観客…領民の心。がんばって、アンネリーゼ様!私たち、俺たちが守ってやる!さっそく守ってあげたいモード発動だ。

 領民は、私の胸が揺れるたびに、尊いと思っているようだ。けっして、エッチな目で私のことを見ているわけではないようだ。女も男も。


 恥ずかしいのは私だけじゃない。みんな恥ずかしい格好をしている。

 いや、この格好が恥ずかしいと思う方が間違っている。この世界では裸の付き合いは当たり前。

 私は恥ずかしくない!



 ゾーミアのサーブが飛んできた。

 私はボールの落下地点に移動しレシーブ。移動で胸が揺れようが、胸でレシーブしようが恥ずかしくない。


「クレア!」

「分かった!」


 クレアにトスをさせる。


「マクサ!」

「うん!」


 マクサにアタックをさせる。


「アンネお嬢様の復活か。でも遅いぜ」


 当然、ゾーミアにブロックされる。これを見越して私が動くのは簡単だけど、それでは永遠にアタックが決まらない。


 だから…、


 キラーン!私にも見える!


 次にゾーミアは右三十度にボールをはじく。

 これを声で伝えたら、ゾーミアはボールをはじく方向を変えてしまうので、ゾーミアの行動の様子を光魔法を使ってクレアに伝えた。


「えっ…、私にも見える…」


 マクサがアタックしたボールをゾーミアが弾く瞬間、クレアが右に飛ぶ。


「なんだとっ?」


 ゾーミアはボールを弾いたときに、先回りしていたクレアに驚いた。


 私はクローナに光魔法で指示を出す。クレアがレシーブしてボールを飛ばす先に、予めクローナが移動するように考えを伝えた。さらに、どれくらいトスを上げればよいかも、一緒にイメージを伝えた。


「あれ…、私にも見えるわ!こっちね!」


「よし!クローナ様!」


 クレアはゾーミアの凶悪なブロックからボールをすくい上げた。ボールはクローナの元へ飛んでいった。


「任せて!はい!アンネリーゼ様!」


 クローナは私に向かってトスを上げた。指示した通りの高いトス。絶交のポジション!

 私が飛び上がると、チームAはみんな防御の体勢を取った。


「やばい!防御陣形だ!イミグラ!」

「ええ!」


 ゾーミアとイミグラはブロッカーだ。


「ロザリー、ソラーナ様、グリメサ様、ボールに備えて!」

「「「はい!」」」


 ヒルダとロザリーとソラーナとグリメサは、レシーブを構えている。


「ねーね、来るなら来い!」


 リーナは臨機応変に立ち回ろうとしている。


「えーいっ!」


 私は超高回転のスパイクを放った。明らかに右側の場外のコース。

 私の胸はぶるんぶるん揺れている。水着が脱げないわけないと思うのだけど、脱げないようだ。でももういいんだ。見えそうになることを恐れていたら、この勝負には勝てない。


「なんだ、どこに打ってるんだ、ってえええええ」

「「「「「えええええ」」」」」


 ボールはブロッカーの二人とレシーバーの四人を無視して右側に行ったと思いきや、急旋回してコート内に戻ってきた。


「みんなバカぁ!」


 リーナは一人、ボールの筋を見極め、ボールに追いついた。しかし、うまい位置でレシーブできたものの、ボールには異常な回転がかかっており、リーナのレシーブしたボールは、水平に飛んでいった。


「ねーねえええええええ!」


 リーナ…、怖いよ…。



 ところで…、さっきゾーミアのボールを打つ方向が分かったのは、何だったんだ。ゾーミアの心を読んだわけじゃないよ。そんなずるして勝とうとなんて思っていないよ。

 それに、ゾーミアの心を読んだのなら、ゾーミア視点で、ゾーミアがボールを左に弾くシーンが見えたはず。でも、見えたのは私から見てゾーミアがボールを右に弾くシーン。そして、実際にその通りのことが起こった。


 よく分かんないけど、ずるして勝ちたいわけじゃない。

 指示は光魔法で出しちゃったけど…。



 サーブ権獲得で、エリスのサーブだ。

 うーん…、サーブミス…。ネットに届かず…。


 サーブ権は再び移って、イミグラのサーブ。イミグラもけっこう背が高いし、威力も高い。

 私が取るのは簡単なのだけど、それだと攻撃につながらない。

 でも、イミグラのサーブを取れそうなのはクレアとマクサくらいだ。


 丁度、マクサのところにボールが来た。


「えいっ!うわあ…やっちった…ごめん…」


『ゲームセット!』


 ダイアナの声の拡声器劣化版が鳴り響いた。

 しまった…、マッチポイントだった…。何が何でも拾わなきゃいけなかったのに…。



「ゾーミア、イミグラ、よくやった!」

「リーナお嬢様、やったな!」

「リーナお嬢様のおかげよ!」


「ヒルダとロザリーもよく頑張った!」

「まあ、リーナがいなければアンネに勝てるわけないわよね」

「アンネのボールは、なんであんなに曲がるのでしょう…」


「キミたち、名前わかんないけど、もっとがんばれ」

「あ、はい…。私、ソラーナです…」

「わ、わわわ、私は、グリメサです…」


 リーナ…、お嬢様相手に偉そうだな…。リーナは、お父様が子爵ではなくなったあとに生まれたから、お嬢様でもなんでもないんだぞ。だから、デビュタントパーティにも出られない。出る気もなさそうだったけど。あ、今年じゃんか。もう終わっちゃったね。



「はぁ…、はぁ…」


 マクサには疲れが出ていた。みんなの疲れは、黒ずみの見える私がいちばん把握できるはずなのに…。


「うう、ごめんなさい…。私が途中不調だったので…」


「そんなことないよ」

「アンネお嬢様がいなかったら僕たちまったく反撃できなかったよ」


「うう、二人とも、ありがとう…」


「アンネリーゼ様、私、役に立てずにごめんなさいぃぃ…」

「私~、どんくさくてぇ、ごめんなさい~~…」

「私がもっとレシーブできていれば…」


「いいえ、クローナ様もエリス様もロコイア様もよくがんばってくださいました」


 はぁ…。勝てなかった…。私が胸の揺れなんて気にし始めたばっかりに…。

 ああ…、悲しい。みんなを勝たせてあげられなかった…。


 あれ…、何これ…。周りから悲しみが集まってくる…。領民が悲しんでいる…。私が勝てなかったからがっかりしている?いや、私ががんばったのにできなかったことを悲しんでくれている…。

 うう、申し訳ない…。でも…、そんなに悲しみのオーラを浴びせないでほしい…。私がシャキッとしなきゃいけないのか!

 私、大丈夫だよ!観客の方に向かって、笑顔を見せる。すると、歓声が沸いた。

 あああ、スクリーンに私のアップが映ってた…。



『続いて、チームBとチームCの対戦です』


 そうだ。もう一試合残っている。


 チームBは、マイア姫、アマージ、レルーパ、メレーナ、アレスタ、タルメア、お母様。

 チームCは、クレア、マクサ、クローナ、エリス、ロコイア、私。


 チームAほど凶悪じゃない。


 お母様のサーブだ。お母様はボールを上げた。ボールと一緒に二つのスイカも舞い上がったけど、スイカは胴体に引き留められて戻っていった。

 空中に残ったボールをアンダーサーブ。間違えて自分のスイカを打ってしまいそうだった。アンダーサーブなら、あんなに高く上げなくてもいいでしょうに。でも、そんなドジっ娘のお母様が可愛い…。

 あれ…、私もあんな風に見えるのかな…。


 おっと、お母様に見とれている場合ではない。ボールが飛んできた。でもゆっくりだ。


「私が受けます~~」

「お願いします!」


 エリスがレシーブ。エリスもなかなかのお胸をお持ちだ。ロザリーより大きい。レシーブするときは胸を腕で挟み込む必要があって邪魔そうだ。

 それでも、私やお母様のように胸に当たるということはなく、普通にレシーブ。


「私がアンネリーゼ様に繋ぎます!」

「はい!」


 ロコイアが高くトスを上げた。

 ボールは私の元へ。


 チームAとは違い、チームBはか弱い女の子ばかりだ。まあ、アマージとレル-パはそれなりに鍛えられているけど。

 いや、ゾーミアとイミグラとリーナが女の子じゃないといっているワケじゃないよ。みんな私の育てた可愛い女の子だよ。


 まあそれはさておき、そんなか弱い女の子の集団に、さっきのように力を込めたスパイクや変化球を打つ必要はない。

 私は、メレーナのレシーブしやすい位置に緩やかなアタックを打った。


 明らかにメレーナに向かっていったボールを、なぜかマイア姫とアマージが横取りして一緒にレシーブ…。


「ちょっとあなた不敬よ!」

「マイア様の柔らかなおててもいいけど、アンネお嬢様の愛のボールは譲れません!」

「ちょっ…」


 うわっ…、私の打ったボールに触りたくて、二人とも飛びついたのか…。


 ひとまずまともに上がったボールを、先ほどレシーブし損ねたメレーナがトス。

 それを、レルーパがスパイク!


 なかなかの球速。マクサとクレアでも荷が重いだろう。だから私がレシーブ。相変わらず胸で受けるのは痛い…。

 私がアタックすると、マイア姫とアマージがけんかするから、私がアタックする必要はない。ここはレシーブに回ろう。


「あなた!アンネお姉様に愛のボールを受けとってもらうなんて不敬です!」

「えっ…、私は愛を込めたりはしてない…」


 マイア姫はレルーパを怒鳴りつけた。

 マイア姫…。私への執着が異常…。私、レシーブもダメか。


 私が胸でレシーブすると、私の胸がぽよんと揺れた。もともと軽いボールなのだからこんなものだろう。私の胸をたっっぷんたっっぷん揺らすリーナやゾーミアの凶悪なスパイクがおかしいのだ。


 私の受けたボールを、マクサがトスした。


 それをクレアがアタック!


 ボールはアレスタの近くに向かったが、アレスタはうまい体制で受けられず、手に当たったボールは場外へ。


「ぎゃー、ごめんなさいい」


 マイア姫とアマージからボールまでの距離は、さっきのメレーナに放ったボールまでの距離より短かったから、マイア姫とアマージはボールをすくえたと思うのだけど、二人はそうしなかった。

 二人は私のボールだけ受けたいのか…。


 チームAとの対戦とは違って、女の子の微笑ましいボール遊びになると思っていたのに、違う争いが勃発している…。それもチームA内で…。



 サーブ権が移り、ロコイアのサーブ。

 お母様のようにボールを高く上げることはしない。右手に落とすようにして、右手でアンダーサーブ。

 中学生の体育の授業レベルくらいだと思う。

 学校に体育の授業があったのかぁ。私もやろうかな。こんな風にキャッキャうふふできるなら、学生ライフも悪くない。


 ボールはマイア姫のところに向かっていったというのに、マイア姫は構えない。


「タルメア様、よろしくお願いします」

「えっ、分かりましたわ」


 おい、私のボール以外受けないつもりか。


 慌てて駆けつけたタルメアは、なんとかレシーブ。

 それをアレスタがトスして、メレーナがアタック。


 うん、か弱いお嬢様の、微笑ましいボール遊びだぁ。


 クレアがレシーブして、レルーパがトス。


「アンネお嬢様!」

「はい!」


 私が打つと、マイア姫とアマージが群がるんだよなぁ。でも、私のボール以外見向きもしない。

 ちょっとお仕置きしよう。


 私は、ボールに回転を加えて、マイア姫に向かってアタック。


「キャー!アンネお姉様の愛の玉!」


 マイア姫は、ボールに向かって顔を差し出した…。


「ずるいです!」


 アマージが横取りしようと顔で向かってくる。

 キミたち、仲良すぎだろう…。


 でもこれはマイア姫へのお仕置きなのだ。

 マイア姫へ向かっていったボールは、途中で向きを変えて、タルメアの方へ。


「えっ…、アンネお姉様のいけずぅ…」

「きゃー」

「ちょっとあなた!きゃー」


 アマージは勢いを止められず、アマージの顔とマイア姫の顔が激突。

 いや、アマージは止めようとしなかった。むしろマイア姫の唇を狙っていたかもしれない。残念ながらおでこがぶつかっただけ。それでもアマージは嬉しそう。


 それはさておき、私の打った変化球にタルメアが対応できるとは思えないので、変化球の曲がるシーンを光魔法であらかじめタルメアに伝えておいた。

 回転がかかっているので、まともに受けるとあさっての方向に跳ね返ってしまうので、どの方向に受ければいいかまで指示するサービスっぷり。


「ま、まさかほんとうにこっちに来ましたわ。こうですわね!」


 タルメアはうまいことレシーブ。

 それをメレーナがトスして、アレスタがアタック!


 うーん、女の子のがんばっている姿は可愛い。


 こんどはマクサがレシーブして、エリスがトス。


 それを私がスパイク!

 今度は、アマージめがけて打ったと見せかけて、ボールは途中で曲がりレルーパへ。

 レルーパなら反応できるだろう。だからイメージは送っていない。


「アンネお嬢様のボールがぁ…」


 アマージは自分の目の前で向きを変えたボールの行く先を眺めているしかなかった。


「私にも見える!」

「うわああ」


 マジで?私、マイア姫にイメージを送ってないよ。なんでレルーパの方にマイア姫が移動しているの?

 レルーパを押しのけてマイア姫がレシーブ…しようとしたけど、レルーパを押しのけきれずに、ボールはマイア姫の顔に激突。


「アンネお姉様の味…」


 えっ、狙って顔で受けた?

 ボールはポトンと落ちた。



 その後も、みんなが打ちやすいようにボールを回そうとしたけど、マイア姫だけでなく、ついにはアマージまで私の変化球を読めるようになって、二人で遠いところのボールを取りにいって頭をぶつけたり、邪魔をしあったりして、あっという間にチームCの勝利で終わってしまった…。


 だけど、マイア姫とアマージは私のボールをたっぷり顔で受けられたようだし、アマージに至ってはときどきマイア姫に抱きついたりして大満足だったようだ。


 というか、真面目にやってほしかった…。人のこと言えた義理ではないけど…。




『これにて、午前の催しを終わります。ただいまより、昼食をお配りします。そのまま席でお待ちください。なお、午後の催しは、一時からです』


 ダイアナの劣化音声。

 領民にごちそうするの?気前が良いねえ。


「さすがアンネよね。収穫祭なんてお祭りを催すなんて」

「ホントだよ。領民に感謝の意を込めて料理を振る舞うなんて、アンネは優しいよね」


「え、そ、そうですか…」


 ヒルダもクレアも何言ってるんだ。これは収穫祭だったの?

 それに、私が領民に料理を振る舞ったことになっているの?

 主催者は私なの?ダイアナのしわざだよね?私、主催してないのはもちろん、何も知らされていないし、それどころかひどい目に遭っているんだけど…。

 ダイアナのやつ、教師アプリの私を使って、私が計画したことにしているのか…。悪いことをしているわけではなさそうだけど、自分の顔でやってほしい…。



 昼食はお寿司だ!でも、初めての人にもなじみやすいように、生魚ではなくて、焼き魚や、炙りチーズ巻き、コーンマヨネーズ、って回転寿司のお子様メニューかいな。

 他にも、味噌汁や豆腐、山菜の甘醤油煮とか、和食のオンパレード。


 そうか、ダイアナがドリーの木から種を収集して、それを元に領民に作らせた作物が実ったんだ。お米とか大豆とか、大量生産できるようになったのか。

 ダイアナは和食を広めないとか言っておきながら、結局広めるんじゃないか。


 それから、おやつはみたらし団子だ。まあこれなら受け入れてくれるかな。みんなうまいうまいと食べている。

 私が振る舞ったことになっているから、マズいなんて言わないか。うーん。詐欺っぽい…。



「さあ、昼食を食べたなら、そろそろ行きましょ」

「早くリハーサルしようよ」

「えっ、はい」


 ヒルダとクレアにされるがままに連れていかれた先では、みんなが歌とダンスを練習していた。

 午後も、水着ギャル運動会ポロリはないよ、だったらどうしようかと思っていた。

 あ、でも今回は水着で踊るのか…。激しく動いたら脱げそう…、って、かなり激しく動いても脱げないことは、バレーボールのときに分かったんだけど、どうしても水着がずれて、さようならしていくような感覚が襲ってくる。


「はい、アンネはセンターなのにみんなと合わせるのははじめてなんだから、しっかりやってよね」

「はい」


 センターでポロリしたらどうしよう…。


 練習場には、お嫁さんだけでなく、メイドやヒーラーガールズもいた。メイドは、メタゾールのメイドだけでなく、お嫁さんのメイドも全員だ。

 みんな私たちと同じ水着を着ている。パンツの面積は各者各様だけど、ブラの面積は統一されている。

 何人いるのやら…。お嫁さんと合わせて全部で五十人以上いるんじゃない…。ご当地アイドルっぽくなってきたよ…。


 リハーサルでは曲の最初だけなめていった。なぜか、「私の心を奪ったあなた」はなかった。もちろん、ヒストリアの所信表明の歌もなしだ。



 午後一時になると、「振り向いて」のイントロが鳴り始めた。

 みんなで歌いながら入場。

 最後に私が登場すると、大きな歓声が沸いた。


 三年ぶりかぁ。身体が覚えているものだ。でも三年前に比べると、胸がたっっぷんたっっぷんと揺れてしまい、キビキビとした踊りができない。止まったつもりがあとから胸が付いてきて引っ張られる。

 あれ…、これじゃお母様と一緒じゃないか…。てっきりお母様はわざと大きく胸を揺らして適当に踊っているのかと思ったけど、そうじゃない…。この大きさの胸を抱えていると、どうしてもこういうふうになってしまうのか…。


 お母様、ごめんなさい…。わざと胸を揺らして適当に踊っているなんていってしまって…。

 っていうか、こんなの胸を揺らして踊っているなんて恥ずかしい…。さっき克服したはずなのに…。


 マイア姫が私に抱きついてきた。私のほうを見ながら心を込めて歌っている。


「振り向いてー私を見てー」


 歓声が沸いた。マイア姫と私の抱擁シーン、そんなに良かった?


 そうだ、大丈夫。みんな付いていてくれる。領民もがんばれと応援してくれている。

 私はやれる!


 練習になかった、マイア姫との抱擁から、私はマイア姫を抱き上げたり、くるくる回したり、アドリブのオンパレード。



 次は「憧れの先輩」だ。今度はヒルダと抱き合ったりくるくる回ったり。

 あ、二番はクレアに交代だ。


 その後の曲では、ロザリーや聖女の守り手の五人、ラメルテオン付近のお嬢様四人、マイア姫の領地付近の四人とも踊った。

 みんな、段取り知っていたんじゃない?また私だけ何も知らないのね。まあ、みんなと踊れて楽しかったからいいよ。


 そして最後の曲。


『アンネちゃん、今日、私、ずっと我慢してたのよぉ?』


 そうだよね。ドリーは浮きで作った足場もボールも素通りだしね。マイクが入っているので、光魔法で考えを伝えた。


『だから、最後は一緒に踊って~』


 えっ、あっ!私は手に光の魔力を込めれば、ドリーに触れられる。これでどうかな?ドリーの手に触れてみた。


『あああん…』


 ちょっとドリー、抑えめにしているんだから、気持ち良くても我慢してよ。

 ドリーは私の手を取って、私とドリーは曲に合わせて歌い踊り始めた。舞踏会で踊るようなダンスじゃないよ。ポップスだよ。


『いいわぁ、アンネちゃん』


 領民でドリーが見えるのは、若い子…十八歳くらいまでかなぁ。それより上には、私がエアダンスしているように見えるのかな。


『うふっ、アンネちゃん、こっち~』


 ちょっと、ドリー!私はドリーに手を捕まれて、宙を舞った。そういう演出も良いね!でも、私がかなり踏ん張らないと、私がただぶらーんとしているだけに見えてしまう。とくにドリーが見えない人には。

 そうならないように、私は自分で浮いているように振る舞うことにした。腕や指だけで身体全体を支えるのはしんどい。

 それはドリーも同じか。いや、ドリーには私の重さは関係ないようだ。


 私は風魔法を使えば飛べるけど、これはまた違った趣がある。それに今はスカートをはいていないから風魔法では飛べないし。

 今、風魔法を使ったら、ブラがパラシュートのように飛んでいってしまうかな…。いや、面積が小さいから大丈夫か…。面積が小さくてよかったぁ。よくないけど…。


 曲が終わりに近づくと、私とドリーは降下し始めた。

 名残惜しいけど、これでおしまい。


『はぁ、楽しかったわね~』


 うん!


 大きな歓声が沸いた。



『今日の感動をもう一度味わいたい方は、お持ちのタブレットまたはスマホで、収穫祭ライブをご購入ください。男性向けは銀貨二枚、女性向けは銀貨三枚です』


 値段違うんだ…。

 相変わらず、拡声器で劣化したダイアナの合成音声。


『今回のコンテンツはボリュメトリックビデオになります。出場者を間近で見られるチャンス!ただし、男性向けコンテンツは、出場者の一メートル以内に近づいて見ることはできません。女性は、学校の成績で一定以上の成績の方が、出場者の一メートル以内に近づいて見ることが可能です。この機会に、あなたも学校での勉学に励んではいかがでしょう?』


 何それ…。教師アプリのお触りと同じような制限…?

 私でも分からないような単語で説明されて、領民は買ってくれるのかな。


『すべての領民のみなさんのお買い上げありがとうございました』


 マジか…。速いでしょ…。ポロリはないのによく買ってくれたなぁ。

 帰ったら私も買ってみようかな…。




 はぁ…、今日は散々な目に遭った。やはり、ゴールドドラゴンにセレスが殺されたときより神経をすり減らした。


 いつもどおりお嫁さんをお風呂で可愛がって、ベッドに入った。


 みんなが寝静まったあとタブレットを取り出して、銀貨三枚で収穫祭ライブを買ってみた。前世の三千円の感覚だ。高いのか安いのか分からない。

 電子マネーはクレジットカードの口座にもなっているので、口座引き落としで買えた。ワンタップで買えた。領民はお金を使っているという感覚があるのかな。


 みんなが一生懸命胸を揺らしているさまが見られる。ピンチアウトすると、カメラを近くに寄せられる。私は成績優秀者ではないので、一メートル以内には近づけなかった。

 いやいや、これ一メートル以内に近づいたらダメでしょ…。だいたい、一メートル以内なのはいいけど、何センチ以上なのさ…。


 うわぁ、私が胸を抱えているの、めっちゃかっこ悪い…。もうちょっと乙女なポーズにすればよかった…。いや、そんな余裕は全くなかった。どうすれば脱げないか、ぎりぎりの抱え方だった…。

 でも、なんだか好評だったなぁ。みんなこういうのが好きなのかぁ…。


 あれ、でも、同じことをお母様がやっていたら、可愛いと思う。実際、小さな隙間で落っこちたお母様は可愛かった。守ってあげたいと思える可愛さだ。

 今日、観客から伝わってきた思いは、守ってあげたいだ。やっぱりあれで可愛いと思ってもらえたんだ…。


 私より可愛い子がいっぱいいるのになぁ。マイア姫は綺麗だし、ヒルダやクレアは可愛い。聖女の守り手のみんなも魅力的だし、新しいお嫁さんたちも美人。お母様は巨乳だし、リーナは爆弾だし、ドリーは見えないか。いや、年頃の子に見えているはず。

 ああ、強い思いフィルターは、私に向けられたものだけ感知するんだった…。悪意フィルターは誰に向けられても感知するけど…。

 じゃあきっと、他の子オシの領民もいるはず。

 もういいや、寝よっと…。



 翌日…、


「お母様、その格好はもう終わりです…」

「あら、いいじゃない!ドリーちゃんだっていつも水着でしょ!ね、ドリーちゃん」

『そうよね~、ほんとうは私も着替えたいけど、一度決めた服装は変えられないみたいなのよ~。毎日着替えられるリンダちゃんがうらやましい~』


 あらあらまあまあさんに結託された。かなわない。


「それならせめて、ドリーみたいにもう少し面積を大きくして、パレオを巻きましょう。そうだ、フリルを付けると可愛いですよ!」

「わかったわぁ」


 この水着がどのような仕組みで脱げないようになっているのか分からないので、これに手を入れるのはやめよう。だからフリルを追加して、面積を稼ごう。


「まあ、可愛いわ!これなら素敵ね!」

『良いわね~。私もお花とかで飾りたいわぁ』

「喜んでいただけたなら、光栄です…」


 常に水着ギャルのあらあらまあまあさんが増殖してしまった…。いつもこんな危うい格好でいていいものなのやら…。

 あれ?でもいつものドレスとあんまり変わらない。おへそが出ていて、スカートが斜めカットでパンツが丸見えなくらいしか、違いがない。お胸はいつもこぼれ落ちそうだったしなぁ。


 あれあれ?私もあんまり変わんない?私のお胸もこぼれ落ちそう?なんか昨日あれだけ脱げそうで肝を冷やしたというのに、実はいつもドレスで脱げそうだった…。

■リメザ(十三歳)

 アンネリーゼとダイアナのレディースメイド。コーリルと交替勤務。


■教師アプリのCGアンネリーゼ

 教師アプリの枠を超えて、エージェントアプリとなった。


■ロザリーに推薦されて新しく嫁になったご令嬢

 九歳のとき、デビュタントパーティのあとに、王都の仕立屋で開店セールをやったときに、ドレスを買いに来てくれたご令嬢のうちの四人。

 今はメタゾールブランドのミニスカドレスを着ている。

 ご令嬢の住む各領地はラメルテオンの周辺にある。


・クローナ・ランドセン伯爵令嬢(十五歳)

 熱狂的ファンなキャラ。


・メレーナ・メキサム伯爵令嬢(十五歳)

 わたくしさん。


・ソラーナ・アンプラム侯爵令嬢(十五歳)

 むっつりデレ。


・エリス・フルジアン侯爵令嬢(十五歳)

 間延びした口調。

 なかなかのお胸をお持ち。ロザリーのより大きい。


■十五歳のご令嬢のメイド四人

 それぞれのご令嬢は一人ずつメイドを伴っている。


■マイアに推薦されて新しく嫁になったご令嬢

 マイアが九歳とき、デビュタントパーティのあとに、王都の仕立屋でセールをやったときに、ドレスを買いに来てくれたご令嬢のうちの三人。

 今はメタゾールブランドのミニスカドレスを着ている。

 ご令嬢の住む各領地は王都の周辺にある。


・アレスタ・コーチゾン伯爵令嬢(十三歳)

 元気な子。


・グリメサ・デキサテール伯爵令嬢(十三歳)

 緊張しがち。


・タルメア・アルクロゾン侯爵令嬢(十三歳)

 おしとやか。


■ロコイア・ヒドルチゾン侯爵令嬢(十三歳)

 マイアと同時にデビューしたが、パーティのあとのドレスセールには現れなかった。

 アンネリーゼに悪意を持って近づいたが、改心して真面目に取り組むようになった。


■十三歳のご令嬢のメイド四人

 それぞれのご令嬢は一人ずつメイドを伴ってる。


■ヒルダ(十五歳)

 普通の子爵令嬢よりかなり大きな胸。


■シンクレア(十五歳)

 普通の男爵令嬢よりかなり大きな胸。


■ロザリー(十五歳)

■マイア(十三歳)

■リンダ(二十五歳)

 外見は永遠の十七歳(前世母国人基準)。


■アンネリーゼ(十五歳)

 胸の大きさがリンダと同じスイカになった。身長も同じ(一六五センチ)。どちらが姉か分からない。


■メリリーナ(九歳)

 九歳にしては、立派なリンゴが実っている。アンネリーゼの九歳のときより、体格が良い。

 六歳の時からずっとツインテール。


■ダイアナ(五歳)

 筋肉がほとんど付かず、脂肪ばかり付いている。

 しかし、ウェストや腕とかにはまったく付かずに、脚とかお尻ばっかに付いている。すでに、少し胸にも付いている。

 エッテンザムという種族は、種族全体で美人でボンキュっボンなのである。


■イミグラ(二十一歳)、アマージ(二十歳)


■ゾーミア(二十歳)

 もともと、ボディビルかというほどのマッチョだった。腹筋も六つに割れていたし、力こぶも腕や腿など至る所にあった。

 その筋肉をアンネリーゼがほぐし続けたから、だいぶなめらかな凹凸のある女の子っぽい体つきになってきた。今では長身スレンダーの美人。

 筋肉がなくなったわけではない。力を込めたときには、腹筋や力こぶは顔を出す。

 身体強化の念動力的な力の強化も使いこなせるようになったから、自分の筋力で力を出すか、魔法で力を出すかは状況に応じて選べるようになっている。


■レルーパ(二十一歳)、マクサ(十九歳)

 胸は控えめ。


■ドリー

 葉っぱ水着を脱ぐことができない。みんなの際どい水着よりは、ドリーの葉っぱ水着の面積はかなり大きい。

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