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27 真の修羅場

 ラメルテオン領にロザリーを迎えに行く日が来た。


 今回、魔導馬車を改造した。馬車としての体を成しながら、シルバー単騎の高速移動モードにもなれるようにしたのだ。

 具体的には、まず、街中では馬車として走る。街を出ると、影収納の扉を作るための鳥居のような、ガススタの洗車機のような、ゲートの魔道具で馬車全体を格納する。馬車を格納したあとは、ゲートの魔道具は折りたたまれ、さらにシルバーの影収納にしまわれる。

 つまり、三重の影収納になっているのだ。


 そして、シルバーは単騎で目的地に向かう。シルバーは私すら乗せない場合、時速四〇〇キロ出せるようになっていた。ラメルテオン領まで九時間で行ける。

 身体強化の魔法で何十馬力も出せるし、追い風の使い方も上達している。さらに、常に道を整地して道なき道を走りやすいようにできる。ファイヤボールや氷柱を出して盗賊や魔物も迎撃する。


 今回はロザリーをラメルテオン邸から正式に連れて行かなければならないので、テントとか謎なものに入れるわけにはいかないのだ。馬車で連れ出したという体が欲しい。

 それに、私は一人がシルバーにまたがって旅というのも、ちょっと辛くなってきた…。ドリーが側にいるのだけどね…。


 シルバーには寂しい思いをさせてしまうけど、カメラで様子を見ているよ。シルバーの頭に取り付けられたカメラから線を延ばし、馬車の中のモニタに映せるようになっている。影収納を完全に閉じてしまうと、電波が届かないので、少しだけ開けてケーブルで映像を送るようになっている。




 というわけで、今回は魔導馬車にメイドのコーリルを連れて、朝六時に出発した。私は馬車の中でゆっくりできる。昼食の準備もコーリルにお任せ。


 コーリルとリメザはメイドの仕事と学業を交代で行っている。普段は私をお世話していないから、ダイアナだけを交代で見ている。だけど、こうして臨時で私を見てもらうときは、両方とも稼働状態になって、学業が減ってしまうなぁ。

 まあいっか。今は学校を休んでも、実技系以外はタブレットで好きなところから授業を受けられるのだから。



 到着したは昼の三時だった。相変わらずラメルテオンは少し寒い。でも少ししか寒くない。前世の母国の最南端と最北端くらい緯度差がある割には暖かい。


 ラメルテオン領の直前でシルバーはスピードを時速一〇〇キロまで落とす。そして、影収納からゲートの魔道具を出して、魔導馬車を出現させる。そして、コーリルが御者席に着く。まあ、メイドが御者をやるなんて、なかなかない。しかも十一歳だし。

 シルバーは自動運転だし、コーリルはお飾りだ。でも、馬車に御者がいないと暴走馬車だと思われるので、誰かしら御者席に必要なのだ。


 街中では普通に時速十キロで走る。そう、これが普通の馬車の速さだ。


「ようこそ、アンネリーゼ・メタゾール伯爵。私はアゴニス・ラメルテオン侯爵だ」

「ごきげんよう、ラメルテオン侯爵様。ロザリー様の留学をお認めくださり、どうもありがとうございます」


 アゴニス・ラメルテオン侯爵。うちのお父様と違って、できる男の匂いがする。だけど腹黒とかではなく、領民を守る意思を持った立派な貴族当主のようだ。


 私はカーテシーでアゴニスに挨拶した。


 今日は町中では馬車から顔を出さず、直接ラメルテオン邸に赴いたから、ハンターには会っていない。会ったら聖女として祭り上げられてしまいそうだ…。

 それに、今日の私は貴族にふさわしい装飾をあしらったドレスを着ているし、平民が話しかけてくることはないだろう。

 だけど…、もう私の中で当たり前になっていた…。貴族の衣装なのに、ボトムスはミニスカートにガーターストッキングをはいてきてしまった…。それに、自立しないピンヒールも…。

 アゴニスの、私の脚への視線が熱い。胸を出している女性はいくらでもいるのに、みんなそんなに脚を好きなのかな。


 今もミニスカートをつまんでカーテシーをしてしまった。カーテシーって少しかがむときに長いスカートだと地面に付いてしまうからスカートをつまんで上げると思うんだけど、こんな短いスカートをつまんで上げたら、パンツが見えるだけだ。でも案外、パンツがこんにちはって感じで良いかもしれない。むしろ、スカートをつまんで少しパンツを見せるのがこれからのカーテシーだ。

 私はこれをグローバルスタンダードにすると決めた。公式の場にふさわしい挨拶だ。


「アンネリーゼ様、ごきげんよう!」

「ロザリー様、ごきげんよう!」


「さあ、立ち話もなんだ。上がってくだされ」

「はい。お言葉に甘えまして」



 私はアゴニスとロザリーに、私の領地の学校で教える知識について、資料を交えて説明した。

 まず、紙の質と印刷技術に驚いていた。淡い色だけだけどCGもたくさん使われているし…。


「なるほど。それらの知識や魔法をロザリーに教えていただけると。そして、さらに、それをうちの領民にも教えるということですな。それによって、領民の技術が上がれば、領民はより良いものを効率良く作れるようになり、領が繁栄すると」

「はい。メタゾール領の領民の稼ぎは、他の領の五十倍です。だから、税収も五十倍なのです。領民が稼いでくれるため、メタゾール領の税率は二割です。それで十分なのです」

「信じられない…。知識と魔法を得るだけでそこまで行くものなのか」

「他にもいろいろあります。まずは領内を清潔に保つこと。それによって病気が減れば、領民はより元気に働いてくれます」

「なるほど…。何もかもが、にわかに信じがたいが、マイア姫様の領地でも実践されており、少しずつ成果が見えているそうではないか」

「はい。マイア姫様には資金援助してはならないのですが、ラメルテオン領には初期投資分を無利子でお貸しできます。三年ほど経ち、黒字になってきたら、徐々に返してくださればけっこうです」

「ありがたい。ラメルテオン領は魔物の討伐のため、王都から資金の援助があるが、魔物の討伐だけで手一杯なのだ」

「そのようですね。ラメルテオン領は、魔物の脅威から領地を守ってくれるハンターへの待遇が良いですからね。おかげで支持も高いですし」

「ははは。よく知っていますな。ハンターへの礼は大きな出費ではあるが、減らすこともできぬ。彼らは重要な戦力なのだ」

「それはよく分かっています」


 スタンピード鎮圧に参加したから現場の雰囲気をよく知っているよ。当主が良くしてくれて、ラメルテオン領が好きだから、彼らは前線に立ってくれるのだ。


「では、まずはロザリーがそちらの学校とやらで一年ほど修行をして、帰ってきてから色々改革を始めるということでよいですな」

「はい」


「ロザリー、がんばるのだぞ」

「はい、お父様」



「それでは、ロザリー様、こちらの馬車にお乗りください」

「はい。お父様、行って参ります」

「気をつけろよ」


「ラメルテオン侯爵、ごきげんよう」

「ああ、メタゾール伯爵も達者でな」



 アゴニスと話をしていたら、夕方の五時だ。辺りはかなり暗い。


「これはまた広いお部屋の馬車ですね…。前回連れられたテントよりかなり広い…」

「はい。今回は私がロザリー様をおもてなししたく、しっかりしたお部屋をご用意しました」


 ラメルテオンの町の中を時速十キロで走り、町の外に出ると、コーリルが御者席から室内に入ってきた。

 そしてシルバーは時速百キロまで加速して町を離れた。


「窓の景色がものすごい速さで流れていくわ…。それなのに、まったく揺れない…。それにこの窓、ガラスをはめ込んであるのね…」

「はい。このあと、四倍の速度を出せるように、窓の外が真っ暗になりますが、ご心配なさらず」

「四倍…」


 シルバーは、恒星間ワープモードに移行…ではなくて、ゲートの魔道具で馬車を格納し、さらにゲートの魔道具を自分の腹に開いた影収納に格納した。

 御者席への窓がディスプレイに代わり、シルバーの頭のカメラの映像が映し出された。

 そしてシルバーは時速四〇〇キロまで加速した。


「窓から馬車の前の景色を見られるのね…。どんどん速くなっていくわ…」


 ロザリーはディスプレイを窓だと思っているようだ。たしかに映像が高画質すぎて窓にしか見えない。

 だけど馬の頭に付いているカメラでは馬が見えないし、いろいろとおかしい。




 しばらくして、コーリルが夕食を運んできた。


「あら…、馬車の中で夕食をいただけるのね…。てっきりどこかの宿に泊まるのかと…」

「この馬車は夜も走り続けますので」

「なんと!あ…、御者をやっていたメイドがここにいていいのかしら?」

「私の馬は、単独でも目的地に運んでくれるんですよ」

「とても賢いのですね…」

「頼れる愛馬ですので」


「こちらは麦かしら?スプーンですくっていただけばいいかしら」

「お米という食材ですが、そのように召し上がってください」


 フフフ…。それは麦ではないよ。お米だよ。チャーハンだよ。


「……!」


 チャーハンを口に入れた途端に目を見開いたロザリー。思わず声を上げそうになったけど、思いとどまったようだ。


「何ですの!こんな味は初めてですわ!」

「お口に合ったようで何よりです」


 少量のニンニク、胡椒、唐辛子、ごま油に加え、さらにネギで風味付けした。

 さらに、牛豚の合い挽き肉の香りも食欲をそそるだろう。ミノタウロスは無人島から連れてきた魔物であり、この国には牛肉がなかったはずだ。オークの豚肉なら、ラメルテオンでインフレさせたけどね。

 ごま油は水魔法で簡単に抽出できた。ポーション生成魔法は料理に欠かせないのだ。


 今回は、コーリルに調理法を覚えさせておいた。コーリルは全属性の魔法をそれなりに使えるので、魔法を使った料理もお手の物だ。


 チャーハンなんてご令嬢に出すものじゃないかもしれないけど、いいんだよ。貧相な野菜を塩茹でしただけの料理しか知らないこの世界の人にとっては、前世のどんなジャンキーなフードでも、宮廷料理クラスなんだよ。

 もちろん、私なりに栄養バランスを考えて、玉葱や人参とかの野菜も入っているよ。


 私もチャーハンを口に入れる。


『ホント、アンネちゃんの料理は美味しいわね~』


 食事の時は私の感覚をドリーに共有している。ドリーもほっぺたが落ちそうだ。

 ちなみに、ロザリーは例に漏れず、火と水と風の魔法に長けているようだが、精霊を見られるほどではない。もちろん、土属性はからっきしだ。ドリーのことは見えない。




「お茶でございます」

「あ、ありがとう」


 私たちが夕食を終えると、コーリルがロザリーにお茶を出した。

 ロザリーはメイドに対しても礼を言う度量を持っている。やはり、私の見立てどおり良い子なのだ。

 いくら良い子だと私が知っていても、一度クレアに意地悪をしてしまったのは事実だ。クレアが受け入れてくれるとよいのだけど…。


「良い香り…。赤い?」

「はい、それは開発中のお茶です」

「まあ!新しいお茶なのね!」


 フフフ…。それはドリーの木で育てた茶の木の葉で作った紅茶だ。

 ダイアナが紅茶の作り方を知っていたのだ。食に興味がないといいながら、なぜそんなこと知っているのやら。

 お茶は紳士淑女のたしなみ。新しいお茶とあらば、興味を示さずにはいられない。


「美味しい!」

「お口に合ってよかったです」


 今までも、この世界にあったお茶に果糖やミルクを入れて飲んだりしていたけど、やはり紅茶は段違いだ。

 でもここではまだ砂糖とミルクを勧めない。なぜなら…、


「お菓子になります」

「まあ、ありがとう」


 コーリルがお菓子を運んできた。

 この世界でお菓子といえば、前世の非常食の乾パンのほうがマシといえるような、ぼそぼそのビスケット。それでも、ご令嬢のお茶会には御用達なのだ。

 今回出したのもビスケット。しかし、生地には砂糖と卵と牛乳を使っている。そして、決め手はコーヒーとバニラだ!これもドリーの木で育てたものだ。


「独特の風味…。いただきます…。んーっ!うぉぃひい!」


 侯爵令嬢が、口にものを入れて、甲高い声で叫ぶほどの美味しさ。

 先ほどのチャーハンでも声を上げそうになっていたが、今度は我慢できなかったようだ。やはり、女の子は甘いものに目がないのだ。


「こちらもご満足いただけたようですね」

「これをいただけるなら、どこまでも付いていきますわ!」


 をいをい、お菓子をくれる悪い私にさらわれちゃうよ。もう手遅れだけどね。

 ガツガツと両手でお菓子を口に入れるロザリー。


「はっ!はしたなかったですわ…」

「うふふっ」


『うふふ、ロザリーちゃんも可愛いわね~。また良いお嫁さんをお持ち帰りするのねぇ』


 お菓子をほおばったり顔を赤らめたりしているロザリーを、ドリーも微笑ましく見ている。




 夕食のあとはもちろん、


「それではこちらでお召し物をお脱ぎください」

「あ、はい…」


 ロザリーは顔を赤らめているにもかかわらず、前回のお風呂の記憶がおぼろげのようだ。

 ここではドレスを脱ぐべきだ。身体がそうしろと言っている。身体が自然に動く。

 なぜならお風呂はとっても素敵なのだから。お風呂はとっても気持ち良かった。

 でもよく思い出せない…。



 メイドさんもお風呂に付いてきた。でもね、


「お背中を流しますね」

「えっ?あっ、はい…」


 ロザリーには既視感があるのだろう。前回よりもすんなり受け入れてもらえた。

 メイドさんが、私の仕事を取るな、みたいな顔をしている。でもお風呂での世話なんて知らないでしょ。もっとも、私のお風呂の世話は誰にもマネできないけどね。


「あああああああん…」


 ロザリーの声は綺麗だ。大人っぽくて色っぽい。

 十日間で少し肌と髪が傷んだかな。私は、お風呂で施術した子の容態をすべて覚えている。

 これからもっと綺麗にしてあげよう。


 メイドさんの顔が若干引きつっている。私が背中を流すと言って、まったくお湯を掛けてあげないからかな。

 じゃあ、ここらでお湯を掛けて、普通に身体を洗ってあげよう。

 髪の毛を石けんで洗うといたんでしまうけど、治療魔法をかけるから、切れさえしなければいいのだ。


「あああん…」


 タオルでなでているだけなのだけど、これでも気持ち良いのか。箸が転んでも気持ちいい年頃だしね。


 ロザリーを湯船に入れると…、メイドさんがうらやましそうな顔をしてこっちを見ている…。


「こっちにいらっしゃい」

「は、はい…。あああああん…」


 やってきたメイドさんの背中を押したら、メイドさんはへたり込んでしまってた。スカートが床について濡れてしまった。まあ、水魔法で乾かせばいいだけだ。

 そのままどんどんメイドさんの背中を押してあげた。


 ヒルダやクレアのメイドさんを押してあげたことはないのだけどねえ。今はロザリーの意識が飛んでいて、メイドさんと二人きりだから気まずいんだよな。


『あらあらぁ、メイドさんにも手を出しちゃうのね~』

「人聞きの悪いこと言わないでください。私は、この者の体調を整えているだけなのですから」

『よそのメイドさんじゃなくて、私を早くやってほしいわぁ』

「それもそうなのですが、メイドさんの意識がしっかりしているとやりづらいでしょう」

『それもそうね~。早くしてねぇ』

「はい」


 ああ、また意識を飛ばすために施術してしまった。いや、やってほしそうに見ていたからやってあげたんだよ?


 メイドさんがとろけたので、服を脱がして湯船に入れてやった。

 ぼーっとしていて脚がおぼつかないけど、指示すればちゃんと動いてくれる。湯船に投げ入れたとかではないよ。



「それじゃあドリー、や…」

『よろしく~』


 もう、やってほしくてしょうがないらしく、喰い気味だ。


『はああああん…』


 魔力を込めると、ドリーに触れることができ、ドリーを指圧できる。ドリーは土の精霊なのだけど、私の光の魔力に土の魔力をブレンドして指から魔力を流すと、とても気持ちいいらしい。


「二人がとろんとしている間に、こっちもどうぞ」

『はぁ~。美味しいわぁ…』


 私の胸から出した魔力は美味しいらしい。


『もう、アンネちゃんから離れられないわぁ。契約していないのに離れられないなんて、アンネちゃんはすごいわぁ…』


 私の光の魔力って気持ちよかったり美味しかったりするのか。あれ、これってドリーに限らず、お嫁さんがみんな言っていることか。

 ああ分かった。私の母乳が美味しいのは光の魔力が混ざっているからか。



 ロザリーとメイドさんは仲良く湯船に浸かっている。互いに誰と入ってるのかよく分かっていなそうだ。

 ロザリーはそろそろのぼせてしまうかな。


「ロザリー様、上がりましょうね」

「はい…」


 今日のロザリーはもうダメだ。ネグリジェを着せて、ベッドまで抱きかかえて運んだ。

 ロザリーはちゃんとパンツをはいてきていたし、換えも持ってきていたから、換えのパンツをはかせてあげた。

 さもないと、ネグリジェはミニスカートのワンピースなので、ノーパンではちょっと防御力が心許ないのだ。


「メイドさんも、そろそろ上がりましょう」

「はい…」


 こっちもダメだ。一人で寝かせるのは可哀想だから、この子にもネグリジェを着せて私のベッドに運んだ。

 お風呂に入る前、メイドさんはパンツをはいていなかった。やはり、ラメルテオンは遠すぎて、文化を伝えるのが難しい。

 もちろん、ネグリジェの下には私の用意したパンツをはかせてあげた。このネグリジェはミニスカートすぎるのでノーパンでは使用禁止だからだ。


 すると、コーリルが泣きそうになってこっちを見ていた。そりゃそうだよねえ。他人のメイドを可愛がるなら、自分のメイドも可愛がってあげないとね。


「コーリル、いらっしゃい」

「はい!」


 コーリルはぱぁっと花が咲いたような顔になって寄ってきた。

 私はコーリルを脱衣所に連れていき、メイド服を脱がせた。そして、浴室に入り、


「はああああん…」


 そういえば、屋敷のメイドに辻マッサージして回ったことは何度もあったのに、コーリルやリメザにやってあげたことはなかったなぁ。


『コーリルちゃんも可愛いわね』

「そうですね」


 二歳下で十一歳のコーリル。大人になり始めのつぼみ。可愛い。

 私はコーリルと湯船に入りしばらく暖まった。


「アンネリーゼ様…、お慕いしております…」

「コーリル、いつもありがとう」

「もったいなきお言葉…」


 生まれてから十一年間、英才教育を施されて、私とダイアナのレディースメイドとして選ばれたコーリル。今までちょっとご褒美が足りなかったかも。

 帰ったらリメザもお風呂に入れてあげようかな。


 コーリルの光の精霊はそれなりに大きいので、自動疲労回復を使ってくれるのだろうか。コーリルはそれほどこっていなかった。

 おかげで、施術のあとでも意識がしっかりしている。


『アンネちゃんは、たくさんの可愛い子に囲まれているのに欲張りねぇ』

「その通りかもしれません…」


 コーリルはドリーに視線を向けて顔を赤らめた。あっ!見えるんだった!乳児の魂百まで計画の子は、土の魔力もかなり高いんだ。


「コーリルにドリーのことを紹介していませんでしたね」


『ドリーよ~。よろしくねぇ』

「よろしくお願いします、ドリー様」

『堅くならなくていいのよ~』

「は、はい」


「ドリーが精霊であることは分かりますか?」

「はい」

「土の精霊を見ることのできる使用人をリストアップしてください。ドリーを紹介しましょう」

「承知しました」


 物心ついたときに精霊を見ることのできていた者は、精霊を見ることのできない者がいることを知らないかもしれない。そうすると、ドリーのことで余計な混乱が生じるかもしれないから、あらかじめ説明しておこう。



 コーリルとお風呂から上がった。コーリルは、ネグリジェを着せてほしそうに私のほうを見ていたので、私はネグリジェをコーリルに着せてあげた。パンツもはかせてあげた…。

 どっちがメイドなのやら…。でも、コーリルはとても嬉しそうだった。

 ちなみに、うちの領民には全員にパンツが広まっている。女性はもちろん、男性にも。だからといって、領民全員にパンツをはかせてあげるほどの余裕は私にはない。


 寝室に行ったときには、ロザリーとメイドさんはすでに眠っていた。

 そこに私とコーリルも加わって一緒に寝た。たまにはこういうのもいい。




 ラメルテオン領を出たのは午後五時であり、ラメルテオン領からメタゾール領までは九時間なので、実は午前二時には到着していた。

 メタゾール領ではシルバーが単騎で走っていても何も問題ないので、シルバーは馬車を引かずにそのまま領に入った。

 シルバーは、自分で屋敷の地下の車庫に向かい、恒星間ワープモードを解除、じゃなくて、ゲートの魔道具を使って魔道馬車を出した。

 シルバーは自分で馬車を切り離して、馬屋に戻った。


 私が六時に起きると、コーリルがすでに目を覚ましていた。さすが、優秀なメイドだ。


 魔道馬車のコンテナを取り出し、コンテナの影収納のスイッチを切った。すると、コンテナが元の大きさに戻る。これが魔道馬車の保管方法だ。


「それではコーリル、ロザリー様とメイドさんが起きたら、お世話をよろしくね」

「はい!」


 コーリルは笑顔で元気いっぱいだ。やっぱりたまには可愛がってあげないとだね。


 私は馬屋に行き、シルバーをねぎらってやった。使用人の中ではシルバーをいちばん可愛がってやってるなぁ。シルバーがいちばん優秀なのだからしかたがない。

 でも、他の子も頑張っているのだから、もっとねぎらってあげよう。


 私の周りには、ねぎらってあげるべき、頑張り屋さんがたくさんいたというのに、気が付かないでお嫁さんをたくさん連れてきてしまったなぁ。

 まあいいや。みんなまとめて可愛がってあげよう。



 ロザリーは七時には起きてきた。ロザリーも、ロザリーのメイドさんも顔が真っ赤だった。

 二人ともすでに着替えていたけど、主人と一緒に同じネグリジェを着て、同じベッドで寝てしまうなんて、使用人としてあるまじき行為。でもロザリーはそれくらいで怒らないし、メイドさんは嬉しそうだ。ロザリーのことを好きなのだろう。


 侯爵令嬢のメイドさんだから、伯爵令嬢か子爵令嬢なのだろう。うん、この子は子爵令嬢だ。私のセンサーがそう言っている。

 この世界の美貌は、権力と財力の関数となっている。これが面白いほどよく当てはまる。むしろ、当たりすぎて面白くない。私はこの法則を壊したい。すでに、クレアや聖女の守り手のみんなには、この法則が当てはまらない。私のお嫁さんはみんな可愛くて綺麗だ。コーリルやヒーラーガールズも可愛い。


 まあそれは置いておいて、私だってヒルダとクレアと一緒に寝ているんだ。いいじゃないか。身分なんかくそ食らえ。

 ヒルダとクレアはメイドじゃないけどね。


「おはようございます、ロザリー様」

「おはようございます、アンネリーゼ様」

「朝食にしましょう」

「ええ」


 ダイニングには、ロザリーだけでなく、聖女の守り手の五人とお母様、リーナ、ダイアナもいる。


「あら…、あなたたち…」

「ロザリー様…、私たちがロザリー様と一緒に食事をいただこうなんて…、失礼しました…」


 イミグラがそう告げると、聖女の守り手の五人は席を立とうとした。


「待ってください。私は、あなた方を追い出すつもりはありません。この席はアンネリーゼ様が用意なさったのでしょう。アンネリーゼ様がよいと言えばよいのではありませんか?」

「すみません、私がもっと配慮すべきでした…。ロザリー様がよろしければ、この五人と朝食をご一緒させていただきたいのですが…」

「私は構いません。平民とか貴族とかいうつもりはありません。この者たちはラメルテオンのために命をかけてくれていました。恩を仇で返すようなマネはしません」

「ご配慮、痛み入ります」


「ありがとうございます…、ロザリー様」


 やっぱり平民とかメイドと貴族を一緒くたに扱うのは難しいな…。でもめげない。私はみんな一緒に寝たいんだ。


「みんな仲良くしてくれて嬉しいわぁ。私はリンダよ。ロザリーちゃんもよろしくねぇ!」

「はい、よろしくお願いします、リンダ様」


 お母様は自分を紹介するときに、あえて私の母とは言わない。皆がかってに姉だと勘違いすることを期待しているのだ。


 ロザリーは、お母様のパンツ丸見えパレオスタイルに見入っている。

 ロザリーはデビュタントパーティのあとも、私の仕立屋でハーフバックのパンツもぐいぐい上げていたし、レースも少なめにしていたから、お母様のように攻めるスタイルはロザリーには魅力的に映っているようだ。

 フフフ…。ここはファッション業界の最先端を行くメタゾールなのだよ。


「リーナだよ!よろしく!」

「え、ええ。よろしく…」


 リーナはイミグラたちよりも礼儀がなってない。ヒヤヒヤもんだ。

 ロザリーは元気すぎるリーナに引き気味だ。


「これは私の娘のダイアナです」

「えっ…、養子ではなく?」

「はい、私が産みました」

「そうなのですね…」


 思うところはあるだろうけど…。まあ気にしない!



 本日のメニューは、サンドイッチだ。でも、ドリーの木の野菜だから美味しいし、胡椒などの香辛料使っているから、今までとはひと味もふた味も違うのだ。

 サンドイッチといっても、この世界のパンに玉子と牛乳を練り込んだパンに肉や野菜を挟むだけなのだが、この世界にはパンに具材を挟むという発想すらなかったので、最初はそれだけでありがたがられたものだ。


 ドリーの木から採れたものはそれほど多くないし、米などはまだ少し植え付けたばかりだ。残念ながら、領民や使用人に分けてあげる分はない。私とお嫁さんの分だけだ。

 料理人に食材を渡して、朝食を作ってもらった。料理人にはコーリルたちと一緒に、レシピを仕込んである。


 お米はちょこっともらったけど、ほとんどはダイアナのために取ってある。ようやく離乳食を口にするようになってきたので、まだ数日はダイアナメインで使ってもらう。といっても、茶碗いっぱいも食べられないのだけどね。三歳なのだから、離乳食じゃなくて普通に食べていてもいい歳なのだけど…。

 だからまあ、みんなはサンドイッチなのに、ダイアナだけ白米だ。リメザにスプーンで食べさせてもらっている。



「これは手づかみ食べるのですね」

「はい。まあお菓子も手づかみで食べることですし…」

「ええ、堅いことは言いません。アンネリーゼ様のされることは非常識なことばかりですが、すべてが良いことですし」

「そ、そう言っていただけると幸いです」


「それではいただきます…。んー!うぉいひ……んぐ……」


 ロザリーは、また思わず声に出してしまった。途中で気が付いて慌てて口を押さえているのが可愛い。

 ロザリーがサンドイッチを口に入れたのを確認すると、イミグラたちも食べ始めた。やはり、貴族より先に食べたら失礼とか考えちゃうのかな。でも私には遠慮ないのだから、そのうち打ち解けるよね。


「美味しいわ!」

「んめぇ!」

「風味が味を引き立たせている…」

「これも美味しいね!」

「んー、アンネお嬢様の味がしないわ…」


 アマージは、毎回私の味がするとかしないとか言うのだけど…、それって私の魔力?今日は料理人に作らせたからいけないのかな?

 んー、たしかに私が触ったものには、わずかに私の魔力が染みついているかも。今度、わざとたくさん魔力を込めてみようかな。


「アンネちゃん、ここ最近料理が美味しいわねえ」

「ふふっ、冒険の収穫なのですよ」

「探しにいったのはお嫁さんだけじゃなかったのねぇ」

「そ、そうです」


 お嫁さんであるドリーの副産物だけどね。




「今日は学校の見学をしていただきます」

「ええ。よろしくお願いしますわ」


『ではこれをどうぞ』

「え、ええ」


 ダイアナ…。口パクしなさい…。そして、リメザにだっこされていないで、自分で歩け。

 ダイアナがロザリーに渡したのはタブレット端末。


『メイドさんもどうぞ』

「えっ?ありがとうございます」


 ロザリーのメイドさんにも渡した。学校ではメイドと主人が一緒に授業を受けるのだ。


『メタゾール学園にようこそ』

「えっ…。アンネリーゼ様の絵がしゃべった…」


 これは時代を先取りしすぎていると思うよ…。


 ロザリーはCGの私をつついている。


『痛いです…。もう少し優しくお願いしますね』

「ご、ごめんなさい…」


 また新しい機能が加わっている…。こんな機能があったら授業に集中できないだろうに…。


『それでは、そのタブレット内の母の指示に従ってください』

「ええ、分かったわ。タブレットっていうのね」

『はい』


 ダイアナの合成音声も、ちゃんと礼儀正しく喋れるじゃないか。

 ってうか、学校案内はAIに丸投げなのか。授業が丸投げだから案内が丸投げなのは当たり前か。



 AIにいろいろ任せられるおかげで私はフリ-だ。私が対応していないのに、私が対応していると思ってくれるかな。

 でもあれって、私の姿をしているだけで、中身はダイアナだよね…。なんかおかしな風評が立ちそう…。


 さてさて、フリーになったからには、私は久しぶりに治療院を開きたいのだ。私の周りでがんばっている人はメイドだけではない。領民全員ががんばっているのだ。

 ここのところラメルテオンにずっと行っていたから、治療院は臨時休業だった。今日は領民に報いよう。


『ママ、お店開くの?』

「うん」

『それなら、予約入っている人に通知しよう。いきなりお店を開くことになっても、領民は仕事を休んで最優先で来てよいことになっている』

「マジで…」


 予約って、私がサボってたから、もはや日時の予約ではなくて、ただの順番待ちになっている。エステサロンの予約システムじゃなくて、病院の順番待ちシステムか…。

 メタゾール領民全員と、メタゾールを拠点にしているハンターほとんどの予約が、ぎっしり詰まっているんだよね…。今、八〇〇人か…。

 一人十分しかやっていないのだけど、一日十時間で六十人しか捌いていないので、何十日も待ち状態になっている。まるで王への謁見の予約だ…。

 残業しようかな。今日は十二時間やろう。明日もやろう。




 治療の十分間はただ寝っ転がってもらって指圧するだけの時間ではなくて、領民との大事なコミュニケーションの時間なのだ。

 治療を受けに来たことのある領民は、基本的にみんな覚えている。仕事内容や家族構成なども知っている。他愛のない世間話をしたりもする。


 さらに、今では少し心を覗いたりもしている。フィルターはいつもどおりだ。悪意、または私への強い思いを読み取るようにしてある。

 基本的に領民は私への強い崇拝や畏敬の念、感謝の意を感じていて、強い思いフィルターがほぼ常に反応しているのだけど、悪意フィルターが反応したことはない。領民だけでなく、在住のハンターも同じだ。

 ずるいかもしれないけど、悪人を見逃すと、別に私だけの不利益じゃなくて、領民全員の不利益になるのだから、こういう使い方はいいだろう。


 私が店を突如開くと聞いて、ヒーラーガールズが見学に来た。彼女らは治療魔法のエキスパートだけど、カイロプラクティックを会得しているとはいいがたい。私の技を見てどんどん覚えていってほしい。


 私は昼休みの時間も惜しんで、サンドイッチをくわえながら、客を捌いていった。




 朝七時から始めて、夜の七時までやった。みんな夕食を終わらせたかな。


「アンネお嬢様、お疲れ様」

「腹ぺこだぁ」

「何やってたのか興味ある」

「待ってたんだよ」

「アンネお嬢様とご一緒できない昼食は何も味がしなかったので…」


「皆さん、先に夕食を召し上がっていただいてよかったのに…」

「みんなアンネリーゼ様とご一緒したいから待ってましたのよ」

「そうでしたか…。悪いことをしました…」


 みんな私のお嫁さんとして来てもらっているのに、一緒にいる時間が少なくて申し訳ない。

 うーん、明日は朝の六時から夜の八時までお店を開こうと思っていたのだけど…。もう少しのんびりやるか…。

 いや、明日は私の治療院の見学でもしてもらうか。それなら十四時間開いても…、十四時間見学はみんなにはしんどいか…。


 悪いけど、私が夕食を作る時間はない。アマージはまた私の味がしないとか言っていた。


「今日、学校というものを見せてもらいました。平民がとても高度な勉強をしているのですね。貴族の礼儀作法もありました。貴族がお金を払って家庭教師から教えてもらうことを、はるかに凌駕しています。それなのに、すべての授業が無料なのですね。

 でも学校で知識を得た領民は、数年後に高価なものを作れるようになって、大量に税を納めてくれると。そんな先のことまでなかなか信じられませんが、すでにそれが実現されているのですね」


「まあ、そんなところです」



「ところで…、話は変わりますが…、レグラは…国へ帰ったということでしたけど…」

「そうです…」


 レグラはラメルテオンのメイドとして務めていたのに、ヒストリア王国解放ときに、ヒストリア王国に留まることになった。だから、簡単ないきさつを手紙にしてロザリーに送ったんだ。

 人んちのメイドをかってに奪ったみたいになってるので、ちょっと細かく話すことにした。


「やはり、レグラが他国の…ヒストリア王国の貴族というのは本当で、セレスタミナ様はその国の王女だったのですね…。

 それにしても、他国の内紛を解決したなんて…。今は国交があるのですね」

「はい。王国には内緒です」

「まあ、それくらいは国境の領地ではどこでもやっていることです」

「なるほど…」


 やっぱり。


「他国と協力して、国家転覆を目論んでいるなんて噂が立たないように気をつけてくださいね」

「はい。でもいずれマイア様が王になった暁には、公にします」

「マイア様が王になるのは、アンネリーゼ様の中では決定事項なのですね。たいした自信です」

「あ、そういうわけでは…」

「でもそれは実現するのでしょうね。今日、学校を見学していて分かりました。マイア姫様の領地でも同じことをすれば、数年後に税収が大幅増額。晴れて王に認められるということなのでしょう」

「はい。そういうことです。あ、そういえば、レグラとお話しできますよ」

「えっ?その、ヒストリア王国というところまで赴いてレグラと話したいとは思いませんよ」

「昨日、タブレットとスマホというのをお渡ししたでしょう。あれで、遠いところの人とお話できるんですよ」

「なんと!」

「ロザリー様がラメルテオンにお戻りの際には、私といつでも連絡ができるようにして、必要なときにはアドバイスさし上げますよ」

「そんなすごい魔道具があるのですね…」

「はい。とりあえず、レグラと話しますか?レグラのアカウントをお教えしますね」

「よく分かりませんが、お願いします」


 食後に、ロザリーにビデオチャットのしかたを教えて、レグラと話してもらった。それほど長電話にはならなかった。

 ロザリーは、今のメイドさんともわりとドライな関係のようなので、レグラがいなくなってもとくに問題はなかったのだろう。




「それではお風呂に入りましょうね」


「一日ぶりだわぁ」

「待ってたぜ!」

「一日空けるのも辛い」

「昨日はリンダお嬢様と仲良くしてもらったけど…」

「今日はもしや…ロザリー様も?」


 みんな、お風呂には入ったんだろうけど、私とは一日ぶりってことだよね?


「えっ、皆さんも一緒に入るのですか?」


 ロザリーは、私とお風呂に入るのは当然自分、というような顔をしていたけど、聖女の守り手の五人が当たり前のように一緒に入ろうとしていたので、面食らってしまった。


「あの…、みんな私の大事な人たちなので…」


「そ、そうでしたね…」


 うう…、新しいお嫁さんたちどうしで、すでに修羅場だ…。

 ロザリーはまだ私のお嫁さんになったという認識はなさそうだ。なんとなく昨日と同じように私とお風呂に入ろうとしたのだろう。でも、他にも一緒にお風呂に入る子がいたのが予想外だったようだ。


 それに対して聖女の守り手の五人は、私の嫁になったという認識があって、さらにロザリーのことを新たに加わった嫁だと思っている。そして、やっぱり平民の自分たちでは物足りないの?綺麗なお嬢様のほうが好きなの?自分たちを捨てないで!みたいな顔をして私を見つめている…。


 この状態はよくない!はっきりさせるべきだ!


「ロザリー様!お願いします!みんな私の大事な人なのです。この五人のこともロザリー様のことも等しく愛しますのでお許しください」


「私を愛してくださるのならかま…。えっ?わ、わわわ、私はアンネリーゼ様に愛してもらわな…」

「ありがとうございます!ロザリー様!」

「あ…いえ…、はい…」


 よし、強引に押し切った!私がロザリーを愛すると言っても拒否されなかった!されなかったぞ!


「アンネお嬢様…」

「オレのことも愛してくれるって…」

「すなおに嬉しい…」

「僕もアンネお嬢様のこと好きです!」

「アンネお嬢様のこともロザリー様のことも愛します!」


「はぁ…、分かりました…。みなさん、よろしくお願いします」


「「「「「よろしくお願いします!」」」」」


 なんとか丸く収まった…。と思ったら…、今度はロザリーのメイドさんが当然のように服を脱いでいる…。

 さらに、それをコーリルがすごい形相で睨んでいる…。メイドはメイドで修羅場ってる…。


「ご、ごめんなさい。メイドさんの浴室は隣なんです」

「えっ…、申し訳ございません…」

「あとで行きますので、隣でゆっくりしていてください。こ、コーリル、案内お願いします」

「はい」


 改築したときに、使用人のお風呂を別に作ったんだよ。女湯と男湯を。お嫁さんのお風呂と使用人の女湯は、脱衣所が扉一枚で繋がっている。もちろん男湯には繋がっていない。

 今では水の魔力インフラによる水道もあるし、私がいなくてもお湯を使い放題なんだよ。


 ロザリーのメイドさんをコーリルが隣に連れていくと、今度はリメザがコーリルをすごい形相で睨んでいた。

 さらに、お母様付きのエミリーは、寂しそうな顔で私を見ている。


 いくら貴人用と使用人用のお風呂が分けられていても、他のメイドはともかく、レディースメイドは主人の脱衣着衣の世話をしなければならないので、主人と同じ時間に風呂に入れないのだ。基本は主人の就寝後に風呂に入る。

 コーリルとリメザは交代で私とダイアナをお世話するレディースメイドだ。でも、昨日と今日は、私がコーリルを連れていたため、リメザはダイアナの相手をしており、臨時で両方が稼働している。

 そして、ダイアナのお世話中のリメザはダイアナのお世話中なので、今は脱衣所で待機中であり、お風呂に入ることなどできないのだ。だから、コーリルが私のお世話中にもかかわらず、お風呂に入ろうとしていることにたいして反感を抱いたのだ。


 エミリーは私を生まれたときから面倒見ていてくれたけど、お風呂で可愛がってあげたことはない。私が若いメイドを入れてからはお母様に返してしまったので、寂しい思いをさせていたようだ…。

 いや、今のは…、私が年増のエミリーから若いメイドに乗り換えたみたいないい方になっているけど、エミリーだってまだ二十三歳だし、若くて可愛いんだよ。

 メタゾールにもともといたエミリー以外のメイドの年齢は知らないけど…。


 やばい…。メイドに修羅場が蔓延している…。

 でも、ダイアナは見た目年齢以上にお世話の必要な子なので、リメザもお風呂にどうぞとというのは難しい…。

 お母様もエミリーに頼りっきりなので、引き離すのは難しい…。

 

 ど、どどど、どうしよう…。みんなとろとろしておけば時間稼ぎできるかな。


「二人とも、コーリルと一緒に、向こうでお風呂に入っていてください…」

「「は、はい!」」


 そんなに嬉しそうな顔しちゃって…。



 メイドさんを使用人の女湯のほうにやって、私はお嫁さんたちの背中を流す。


「「「「「ああああん…」」」」」

「ああああん…」


「あはあああん…」

「あはははは!」

『私はくすぐったいだけなんだけど』


『あはあああん…』


 こっちはちょっと定員オーバーだ…。このお風呂は八人用なのだ。それに対して、ここには私を入れて十二人もいる…。あ、ドリーは人数から抜いていいか。

 リーナは七歳だけど体格が良くて、年齢の割には大きい。ダイアナも三歳なので、無視できない大きさになってきた。


 むー、みんなで入ったら、ぎゅうぎゅうすぎになってしまった。

 今日は増築する余裕もない。ここは一つ…。

 浴室の壁に影収納の扉を開き、部屋と浴槽を拡張。真っ黒でちょっと不気味だけど今日は我慢。

 部屋と浴槽を拡張したら、水面が低くなった。水道で出すのも時間がかかるので、私が水魔法と火魔法でお湯を追加。


「お風呂が急に広くなったわ!」

「すげえぜアンネお嬢様!」

「圧巻…」

「アンネお嬢様の魔法、すごい…」

「私はさっきのぎゅうぎゅうの方が…」


「これもアンネリーゼ様の魔法なのですね!」



 さて、お嫁さんたちとのお風呂を済ませたら、使用人のお風呂だ。

 裸のまま脱衣所経由で、使用人の女湯に行った。すると、ロザリーのメイドさんとコーリル、リメザ、エミリーの他に、うちのメイドが四人が湯船に浸かっていたり、身体を洗ったりしていた。

 うちのメイドは、若い子は八歳から十一歳、古くからいる使用人は何歳か知らないけど、せいぜい三十歳かな。


「ご主人様!なぜこのようなところに」


 みんな私を見て顔を赤らめている。突然アイドルがやってきちゃってどうしようキャー、みたいな顔をしている。

 私はアイドルじゃなくて当主なんだけど。いや、アイドル活動もしたか。


「今日は日頃のあなたたちのお勤めに感謝を込めて、あなたたちをねぎらおうと思います」

「「「「「「「「ありがとうございます!」」」」」」」」


 私が感謝しているのにお礼を言われちゃったよ。


「「「「「「「「あああああん…」」」」」」」」


 屋敷の廊下で辻マッサージすることはけっこうあったけど、お風呂でやるのは初めてだ。


「ロザリー様のメイドさん、リメザ、エミリー、あとコーリルもですね、呆けている場合ではありませんよ。あなた方は仕事中なんですから、すぐに向こうの脱衣所に戻ってください」


「えっ…、あっ…、申し訳ございません!」

「ご主人様…申し訳ありませんでした…」

「お嬢様、申し訳ございません…」

「も、申し訳ございません…」


 ロザリーのメイドさんは、主人と一緒に風呂に入ろうとしたり、主人と同じ時間に風呂に入ってしまったり、やらかしてしまったことに気が付いたようだ。

 リメザもダイアナをほったらかしで欲望のままに振る舞っていたことに気が付いた。

 エミリーもお母様をほったらかしだ。エミリーはいまだに私をお嬢様呼びだ。学校には行っていないからなぁ。

 コーリルの扱いは微妙だ。今日のコーリルは臨時の私付きであり、ダイアナのお世話は不要。さらに、私に関しては常に着替えの世話は不要なのだ。だけど、一緒くたにしてしまった…。


「今日は勘弁してあげますけど、あなた方は明日から朝五時にお風呂に集合です」


「「「「「「「「はい!」」」」」」」」


 本来ならお嫁さんとお風呂に入ったらすぐ寝室だし、今日みたいなのはレディースメイドには忙しすぎる。だから、朝風呂でやってあげよう…。私が忙しいな…。



 お嫁さんの浴室に戻ると、お嫁さんたちはまだ湯船に浸かっていた。よかった。時間稼ぎできた。

 湯船に浸かりっぱなしでのぼせないのかとも思ったけど、まあ、私の施術によって、湯船に浸かる前からのぼせているようなものだ。


 ダイアナとリーナだけは意識がはっきりしている。

 リーナは少し拡張されたお風呂で泳いで遊んでいる。


「あははははは!」


 ダイアナはもう上がりたいようだが、お嫁さんたちの身体に阻まれて出られないようだ。


「うー…。あっママ!」『助けろ!なんでリメザ呼んでも来ないんだ!』


 リメザはサボってたんだ。


「ごめんね。皆さん、もう上がりましょう」


「「「「「「『はーい』」」」」」」


 ドリーまで一緒だ…。




「さて、寝ましょう」


「「「「「はーい」」」」」


「あの…、私の寝室は…」


 あれ?ロザリーは昨日私と寝たことを覚えていないのか。そうだ、お風呂でうつろなままベッドに連れていって、さらに朝も私が先に起きちゃったんだ。


「あっ、えっと…、ロザリー様もここで一緒に寝ませんか…」

「えーっと……。はい…」


 平民と一緒に寝るなんて非常識、みたいな顔をしている。でもアンネリーゼ様と離れるのは嫌だ、という強い思いが伝わってきた。


「あの…、皆さん…何を…」


 私はベッドに座った。その両サイドにイミグラとアマージが座り、少しかがんで私のおっぱいをくわえている。

 お母様も同じように座り、その両サイドでゾーミアとレルーパが、お母様のおっぱいを飲んでいる。


「アンネお嬢様とリンダお嬢様からお乳をいただくのよ」

「アンネお嬢様の味は格別なんです…」


 イミグラとアマージは、私のおっぱいを離して返答した。


「アンネちゃんのおっぱいは美味しいから、最近私のはあまり売れないのよぉ…」


 お母様の母乳はどれだけ飲まれているのだろうか。いつのまにか、私のほうが多く飲まれているのでは。


「しかたがないので、ロザリー様にもあげます」


 いや、これはアマージのものではなくて私の胸なんだけど…。

 ロザリーはゴクリと喉を鳴らし、はだけた私の胸を見つめている。

 はしたない!でもいただきたい!でもはしたない!でもいただきたい!と強い思いがせめぎ合っているようだ。


「ロザリー様。いらっしゃって」


 私は両手を広げてロザリーを迎えた。ロザリーは私の横に座りおっぱいを飲み始めた。

 すると、ロザリーはとろんとなってしまった。なんだか指圧のときと表情が似てきたな。

 まあ、これは母乳じゃなくて光の魔力の効果だ。私の光の魔力は気持ちいいし美味しいのだろう。


 ロザリーは私の母乳を飲んだあと、お母様のもいただいていた。とろんとなったりはしなかったけど、お母様の包容力に満足したようだ。


 そして、最後に私とお母様が交互に飲み合っておしまい。


 こうしてロザリーは私のお嫁さんになり、私の子供になり、さらに、お母様の子供になったのであった。




 翌朝、私は五時前に起きて、使用人の女風呂へ。すると…、ロザリーのメイドさん、コーリル、リメザ、エミリーだけでなく、昨日その場に居合わせたメイド四人までいた…。そういえば、昨日集合を言いつけたとき、八人返事していたような…。

 しかたがないので、五分コースを八人にやってあげた。このメンバーだけやってあげるのは不公平なので、翌日からローテーションで、屋敷のメイド全員を回すこととなった…。

 ちなみに執事には内緒だ。


 ああ忙しい…。でもみんなの気持ちよさそうな顔を見るのは好きだ。


 だから今日も治療院を開く。今日はやっぱり十四時間勤務したい。


 朝六時には、サンドイッチをくわえて治療院に向かった。別に廊下で素敵な女の子にぶつかったりはしなかった。トーストではないのでしかたがない。

 というか、私は廊下の角で誰かが走ってきたら、筋肉のきしみ音で分かるし、相手が焦っていたりすると何かしらの負の感情が接近中ってくらいは分かるものだ。


 六時からオープンすることは、予約客には前日に通知が行っている。六時の五分前に私が治療院の扉を開けると、すでに二人の客が待っていた。

 この世界には五分前行動というマナーはない。領民に教えた覚えもない。むしろちょっと遅れていくくらいがマナーだ。この、ちょっとの加減を間違えて、数年前に痛い目を見たなぁ…。

 でも領民にとっては、私を待たせるのはあり得ないのだろう。気を遣わせて申し訳ない。

 五分前だけど治療を始めることにした。



 七時ごろに、聖女の守り手五人とロザリーが、ぞろぞろと見学にやってきた。


「アンネリーゼ様は、私たちに毎日やってくれていることを、領民全員にやっているのですね…」

「はい。これは他ではなかなか実践できないと思いますが、領民が元気になってくれれば、さらにお金を稼いでくれるんですよ」

「なるほど…」


 昨日もヒーラーガールズに見られていたけど、これだけ大勢に見られていると、なんだか落ち着かないなぁ…。私への強い思いが伝わってくるのは分かるけど、中身までは読み取らないようにしておこう…。



「皆さん、今日は十四時間やりますから、ずっと見ていても飽きるでしょう。授業に戻ってもいいんですよ」

「いえ、いつまでも見ていられます」


 アマージはまっすぐに私を見て、そう言い放った。


「うーん、私は授業に戻るわ」

「丁度戦闘訓練の時間だ。オレも戻ろっと」

「別の授業に行く」

「僕は人体の知識を基礎からやってくるよ。アンネお嬢様の技術はまだ早過ぎるや」


 他の四人は学校に戻っていった。聖女の守り手はセットで購入したけど、べつにいつも一緒にいなければならないというわけではない。


「私も今日から普通に授業を受けさせてもらいますね」

「はい」

「アンネリーゼ様とは絵の中でいつでも会えますしね」

「ああ、そうですね…」


 タブレットのCGは私じゃないんだけど…。だいたい、私が現実にも絵の中にもいるっていうことを不思議に思わないのか?


 その日は一日アマージが見ていたんだけど、マイア姫と同じ匂いがする…。これは技を習得できないだろうなぁ。




 翌日。ヒルダとクレアとマイア姫がやってくる日!

 ドリーの木の食材を使って、ごちそうを出すんだ!


 ロザリーと五人を学校に送り出して、夕食の仕込みを始めた。


 三人には時速一〇〇キロ出せる馬と馬車を送ってある。ヒルダは一時間、クレアは一時間半で来られる。魔道馬車ではないけど、ゴムタイヤ、サスペンションやクッションなどで、それなりに快適なものだ。


 マイア姫は十五時間かかるから、今朝四時に出発して夜七時に到着予定だ。魔道馬車なら前日の夜に出発して馬車の中で夜を明かせばよいけど、残念ながら魔道馬車ではない。

 もうちょっと速く移動できるといいんだけどなぁ。いくらリモートでデスクワークできるからって、直接出向かなければならないこともあるだろうし。


 こういってはなんだけど、連れ回すメイドと騎士が多過ぎだ。王族だからしかたがないのだけど…。

 おかげで、魔道馬車にしようと思っても使用人の待機部屋が多く必要で闇の魔力のコストがかかりすぎる。

 私がラメルテオン領で使っていた、ワンルームで我慢してもらえばいいかな。



「アンネ!」

「ヒルダ!よく来てくれました!」

「メタゾール領は久しぶりね」

「ゆっくりしてくださいね」


「アンネ!会いたかったよう」

「クレア!私も会いたかったです!」

「クレア、久しぶりね」

「ヒルダも会いたかったよ」


 昼前に二人が到着した。数分差だった。


「二人ともミニスカートなんですね」

「ヒストリアから帰ったらすぐ、ミニスカートドレスを作ったのよ」

「私もー!」

「二人ともとても可愛いです」

「「ありがと!」」


 領内でライブを開催したあたりから、領民にもミニスカートが流行り始めた。とうぜん、メタゾールの文化を取り入れたプレドールとテルカスも、ミニスカートが流行りつつある。


「良い匂いがするわね」

「初めての匂いだ!おなか減ってきた!」


 フフフ…、今日のスペシャルは、マイア姫も合流する夕食だけど、昼食にだってドリーの食材を使っているのだ。私は夕食の仕込みで忙しいから、料理人に作らせているけどね。


「もう少し待ってくださいね。それまで楽にしていてください」

「わかったわ」

「はーい」



「良い匂いがするわ!」

「腹減ったー!」

「またもや独特の匂い」

「何の匂いだろ!」

「アンネお嬢様の匂いじゃないわ」


「今日も美味しそうな匂いがしますね」


 私、いつもはそんなに匂うのか…。なんで私が作っていないって分かるんだ。

 聖女の守り手五人とロザリーが帰ってきた。


「あら…、ロザリー様だったかしら…。ごきげんよう…」

「ヒルダ様とクレア様ね。ごきげんよう」

「ご、ごきげんよう…」


 顔を覚えていたようだ。ちょっとぎこちない挨拶…。


「そちらの方たちは?」

「素材探しの旅をしているときに出会った、イミグラと、ゾーミアと、レルーパと、マクサと、アマージです」


 ヒルダがイミグラたちのほうを見て問うた。

 私は聖女の守り手の五人をヒルダとクレアに紹介した。


「こちらはヒルダ・プレドール子爵令嬢、こちらはシンクレア・テルカス男爵令嬢です。二人とは幼い頃からの付き合いなんですよ」

「そうよ、私たち、アンネとずっと付き合ってるんだから!ね?クレア」

「う、うん」


 ひいい…。ヒルダの目から火花が散っている…。

 ヒルダはお嫁さんを増やすことを認めてくれるのかと思ってたけど、いちばんの座を譲る気はないという感じだ…。


「わ、わかりました…」


 イミグラたちは萎縮してしまった。

 貴族との交渉役はリーダーのイミグラだったのだろうか。イミグラだけが応えて、他の四人は声を出さない。

 アマージなんて、うつむいて怯えて震えてしまっている…。


 これは交渉じゃないんだよ…。私のお嫁さんどうしの顔合わせなんだよ…。


「あの…、ヒルダ…、みんな私の大事な人なので…」

「分かってるわよ!そんなの!アンネがみんなを分け隔てなく愛していることくらい!」


「素敵…。ヒルダ様って素敵です!」


 あれ…、後ろでうつむいてぷるぷる震えていたアマージが…。


「私、こんなにたくさんの綺麗なお嬢様に囲まれて感激です!」

「えっ…、あなた何を言っ…」

「もちろんアンネお嬢様がいちばん素敵ですが、ヒルダ様も長くて輝く髪を持っていて、お肌もつやつや、スタイルも抜群ですね!」

「そんなこと…あるわよ…」


 おお…、ヒルダの、ツンが短すぎるデレ…、久しぶりに見た…。


「ヒルダ様のような素敵なお嬢様に会えて、夢のようです!」

「なかなか…見る目あるじゃないの」


 あれ…、何これ…、アマージの出してくれた助け船…。ではなくて、たんに本能の赴くままに、好きなものを述べているだけか…。


「まあまあ、ヒルダ、こうしてアンネとまた一緒に暮らせるんだからいいじゃん」

「そ、そうね。突っかかって悪かったわよ」


 こんなにいっぱいお嫁さんを連れてきたら、クレアを泣かせてしまうかと思っていたけど、意外にもクレアのほうが受け入れてくれた…。


「皆さん、アンネリーゼ様が好きなのですね。そこに私のような者も加えてくださって、ありがとうございます」

「あ、はい…」


 あ…、クレアにとっては、ロザリーのほうが問題だった…。やっぱり苦手なんだ…。ロザリーに嫌がらせされたもんね…。口では許すと言っても、心の中では苦手意識が抜けないよね…。

 ああ、私って無神経なのかな…。うう…。


「あの…、シンクレア様…、ごめんなさい…」

「えっ…」

「デビュタントパーティのとき、あなたのドレスを破ってしまったこと…」

「それはもう謝っていただいたから気にしていないです」


「聞いてください。もし、すぐにアンネリーゼ様がドレスを直してくださらなかったら、取り返しの付かないことになっていました。あなたの大事なデビューを、台無しにするところだったんです。

 破れたドレスのままでは、素敵な殿方との出会いを潰してしまったかもしれないんです。あなたの一生を奪ってしまったかもし…」


「ちょ、ちょっと待ってください。私はべつに殿方との出会いを求めていたわけじゃないです。そりゃ、綺麗なドレスを着られて嬉しかったですよ。私だって綺麗になれるんだって思いましたから。それを破られたら誰だって悲しいです。

 でも、私が綺麗になったところを見せたかったのは、男の人じゃなくてアンネだもん。

 あのドレスをパーティに着ていったのは、アンネにドレスを宣伝してほしいって言われたからだもん。

 もう、なんでロザリー様が泣きそうになってるんですか。私は許すって言ったんだし、あの件はもう終わり…にしたつもりでしたけど、やっぱり本当はロザリー様のこと苦手です!」


 クレア…、こんなにはっきりものを言う子に育っていたなんて…。

 ロザリーも、ずっと思い詰めていたなんて…。


「うぅ…、やはり許してもらえていなかったのですね…。私があなたの心の重しになっているのではないかと、ずっと思っていました…」


「わ・た・しがロザリー様の心の重しになっていたんでしょ。でも懺悔できてすっきりしましたか?

 私もロザリー様のことを知ることができてよかったです。ロザリー様が自分のやったことを心の底から悔いていることが分かって、私も本当にロザリー様のことを許せます。過去のことを忘れてロザリー様と友達になろうって気になれました」


「ああ…、シンクレア様…。心の広い方です…。こんな私とお友達になってくださるのですね」

「だって、アンネのお嫁さんになりに来たんでしょ。私たちが喧嘩していたら、アンネが悲しむよ」

「えっ、お嫁さん…。まあ、私たちの仲が悪かったら、アンネリーゼ様が悲しむのは事実ですね」


「そっちの五人もアンネのお嫁さんなんでしょ。もう、アンネったらしょうがないなぁ。こんなにお嫁さんを増やしちゃって…。でもみんな、仲良くしようね!」


「は、はい!」

「お、おう…、はい…」

「分かりました…」

「はい!」

「クレア様、素敵な方…」


「もう、みんな堅いよ。アンネにはもっとラフに接してるんでしょ。私にも同じように接してよ。それに、みんな私より年上なんでしょ」


「わ、わかったわ!」

「おう、よろしく!クレアお嬢様!」

「よろしくクレアお嬢様」

「仲良くしてね、クレアお嬢様!」

「お慕い申し上げます…クレア様…」


「ヒルダもそれでいいでしょ?」

「ええ。イミグラと…、ゾーミアと…、レルーパと…、マクサと…、アマージだったかしら。私にもアンネと同じように接していいわよ。よろしくね」


「わかったわ!ヒルダお嬢様!」

「ヒルダお嬢様、よろしくな!」

「よろしくヒルダお嬢様」

「ヒルダお嬢様も仲良くしようね!」

「ああ、ヒルダお嬢様も素敵!」


「ロザリー様も…、ロザリーって呼んでいい?」

「ええ、構いません!クレアって呼んでいいかしら!」

「もちろん!」

「アンネリーゼ様もヒルダ様もロザリーと呼んでください」

「はい、私のこともアンネとお呼びください」

「ヒルダって呼んでね」


 はぁ…。泣きそう…。みんなの心の広さに…。

 男爵令嬢は貴族と平民の架け橋。男爵ってのは貴族のいちばん下だから、下手な商人より貧乏だ。平民の気持ちを理解できるんだ。

 私はたいした考えもナシに、みんなで顔を合わせれば仲良くやれるって思っていた…。私だって身分制度のない前世で育ったんだから、貴族と平民の両方の気持ちを持ち合わせているはずなんだけど…。


 お嫁さんたちは私が好きで集まったけど、他の子を好きかどうかは、またそれぞれだ。

 聖女の守り手の五人は、もともと互いを好きだったんだろう。それに、アマージはお嬢様なら誰でも好きになってしまうようだ。

 ここにはいないけど、セレスとカローナは互いに愛し合っていた。

 ヒルダとクレアは幼なじみで仲好しだけど、やっぱり私のことをいちばん好いてくれている。


 でも、無関係なグループを引き合わせて、うまくいくはずなんてなかったんだ…。バカだったなぁ…。

 たまたまクレアがうまくまとめてくれたからよかったけど…。ヘタをすると、今回すべてを失っていたかもしれない…。



「で、そちらの女性の紹介がないのだけど、着ているドレスはアンネの新作なのかしら」

「そうそう、私も気になってた」


「えっ…」


 ヒルダは、ドリーの葉っぱパレオ水着のことを言っているんだよね?


『私のこと、見えるの~?見えるのよね!さっきから目線が合っていたもの!

 私、ドリーよぉ!よろしくねぇ!これでも土の精霊なのっ。見えるってことは魔力を感じるのよね?』


「たしかに…。言われてみれば、すごい魔力だわ…」

「ホントだ…。でも…、ドリーもアンネのお嫁さんとしてきたの?」


『そうよ~』


「「はぁ……」」


 うわ…。二人とも土の精霊が見えるほど魔力が育ってたんだ…。でもやっぱり、精霊の視覚と普通の視覚の区別が付かないみたいだ。


「ねえ、ヒルダとクレアは何を言っているの?」

「ドリーって誰」


 イミグラとレルーパは、虚空に話しかけているように見えるヒルダとクレアに疑問を持ってしまった。


「あなたたちには土の精霊が見えないのね。魔力が高くなると精霊が見えるようになるのは知ってる?」

「ええ、アンネお嬢様に精霊を付けてもらったわ。毎晩魔力を与えていれば、そのうち見えるようになるって」

「普通、精霊は光の玉みたいなものなんだけど、ここに人の形をした土の精霊がいるのよ。とてつもない魔力を感じるから、きっと特別なのね」


「じゃあ、もしかしたら今までもお風呂とかベッドで一緒だったの?」


 レルーパに鋭い突っ込みをいただいてしまった…。


「はい…」


 うわぁ…。もう一人嫁がいたことが発覚。しかも、いつも隠れて会っていたみたいな…。

 どうしてこう、浮気発覚みたいになってしまうんだろう…。

 私は女であり、女どうしの友達を集めているだけ…、この話は堂々巡りだから考えてもしょうがないのだけど、いつもここに行き着く…。


「見えないお嫁さんが隠れているなんて素敵だわ!二人は私が見ている前で、私に気づかれることなく抱き合うことができるのね!」


「えっ…」

『そうなのよ~。って聞こえないのよねぇ』


 アマージの感性は、ちょっと不思議だ…。いや、理解できないこともない。


「アンネ、みんなに隠していたのね!もう…、まだ隠し球がいるんじゃないでしょうね」

「いませんよ…。今回お嫁さんになってくれたのは、イミグラとゾーミアとレルーパとマクサとアマージとドリーとロザリーの七人です」

「はぁ…。七人も…。まあアンネにかかれば誰だってイチコロだものね」

「す、すみません…、ってイチコロってなんですか…」



「なんだか賑わってるわねぇ。あ、ヒルダちゃんとクレアちゃん!着いていたのね!」

「「リンダお母様!」」

「会いたかったわぁ。こんなに私の子がいっぱい…、私、幸せだわぁ」


 お母様はみんなの母だ。私もみんなの母になりつつある。

 でも私はみんなの嫁でもある。どちらかというと夫ポジションだけど…。

 いやそれは、一夫多妻みたいな概念とか、男は外で稼ぎ女は家を守るみたいな概念があるから、稼いでいる私が夫ポジションに見えるだけであって、女性の社会進出が進んだ国ではきっと、男らしいとか女らしいとかいう言葉はないはずだ。

 もはや、主人と配偶者でいいよね。性別関係なしに。でもそんな堅苦しい呼び方はいやなので、やっぱりみんなのことはお嫁さんでいいや。妻でもいい。



 知らないお嫁さんどうしが出会うたびに修羅場だった…。

 メイドにまで修羅場が飛び火したし…。


 いやあ…、とりあえず丸く収まって、ほんとうによかった…。

 みんなで楽しく昼食を取ったのだった。




 しかし、安心するのはまだ早かったのだ…。

 私が夕食準備を終わらしたところで、嵐はやってきた。


「アンネお姉様」


 なんという殺気…。


「私というものがありながら、いったい何人の女を連れ込んでいるのですか」


 以前訪問したときに、五人までは発覚していたのだけど、あれから二人増えちゃったからな。あ、ドリーのことは見えないかな。

 まあ、こうなることを予想していなかったわけではない。今まではクレアやみんなの心の広さになんとか助けられていたけど、自分でなんとかしなければダメだ。


「もう許しませんよ、アン…ふが…。むぐむぐ………ごく……!!」


 ここで私の一手。

 私はマイア姫の口に、一口おにぎりを突っ込んだ。塩むすびを海苔で巻いただけの。

 メタゾール領は海に面しているので海苔だけはあった。お米はもちろんドリーの木に成ったものだ。

 マイア姫は口に突っ込まれたおにぎりを、もぐもぐ噛んで飲み込んだ。

 すると、一瞬目を見開いて、目から涙をこぼし始めた。


「アンネお姉様の味…」


 なんてことはないただの小さなおにぎりだけど、私が丹精込めて握った。


 私の味…。アマージがよく言っていた言葉だけど、予想どおり、マイア姫も口にした。

 マイア姫は私の母乳をいちばん飲んでいた。きっと、私の母乳が美味しいのではなく、私の魔力を美味しいと感じる感覚に優れているのだろう。

 アマージもそうだ。味だけでなく匂いとしても感じているようだ。


 アマージは私が作った料理に、私の味がすると言っていた。私が食材に触れると、私の魔力が移ってしまうようだ。

 だから私はおにぎりを丹精込めて握った。どうやらもくろみどおり、魔力がたっぷりまとわりついたようだ。ちゃんと手を洗ったし、汗とかも付いていないよ。私のエキスとかではないよ。


「アンネお姉様…、おかわり…」


 泣きながらおかわりを催促するマイア姫。

 しかたがないので、もう一つのおにぎりを右手でマイア姫の口元に運んだ。すると、右手の指ごとほおばられた…。

 犬とか子供とかにご飯をあげると、よく指ごとかじられるよね…。


「ああ…、アンネお姉様の味…」


「ちょっとぉ!ずるいです!その食べ物からはアンネお嬢様の匂いがぷんぷんします!私にもください!」


 やはり次に反応したのはアマージだ。私の魔力を味や匂いとして感じるのだ。

 王族を前にして不敬とか、もはやそんなことは関係なしに、私のおにぎりを欲しいようだ。


「はい、どうぞ!」


 アマージにおにぎりを手渡そうと、アマージの手元に私の左手を伸ばしたのに、アマージはわざわざかがんで私の左手の指ごと口に入れてしまった…。


「アンネお嬢様の濃い味…」


 アマージは号泣。


 マイア姫もアマージも、私の指を口に入れたまま、離してくれない…。

 マイア姫は吸引力がすごいし…、アマージは歯を立てているし…、ちょっと痛い…。


「私も欲しいわ」「何それずるーい!」

「どこにあるの?」「オレにもくれ!」「同じものを要求する」「僕もー!」

「私もいただきたいです…」


「あの…、お二人は私の指を食べないでください…。ごちそうを用意していますので、みんなで食べましょう」


「うう…アンネお姉様の指…」

「アンネお嬢様の柔らかな感触が…」


 二人はやっと離してくれた…。

 すると、皆が私の指を順番に食べに来る…なんて恐ろしいことにはならなかった…。助かった…。

 私はみんなに喜んでもらうのが好きだけど、自分の身体を分け与えて奉仕するタイプのヒーローではないので…。

 


 マイア姫は、まるで今までみんなと一緒に滞在していたかのように、夕食の席に着いた。十五時間の馬車で疲れているのは忘れているようだ。


「マイアちゃん、久しぶりねー!」

「リンダお母様、ご無沙汰しております」


 ドリーもちゃっかり席に着いている。ドリーを見られない人もいるので、気が付かずに重なってしまうことのないように、端のほうに座っている。ドリー、ごめんね。


「今日は皆さんの歓迎会です!私が丹精込めて料理を作りました。さあ、召し上がってください!」


 今日は新しいお嫁さん七人と、戻ってきてくれた三人のお嫁さんの歓迎会なのだ。


 今日のメニューは、海苔巻きおにぎりの他にも手ごね料理を用意したんだ。手ごねハンバーグ、手で潰したトマトのデミグラスソース和えと、手ごねポテトサラダだ!


「「「「『いただきまーす!』」」」」」


「おいしいわ…」

「うますぎる…」

「この世のものとは思えない」

「アンネお嬢様の愛を感じるよ…」

「濃厚なアンネお嬢様の味がするわ!」


「昨日までにいただいたどの料理よりも美味しいです…」


 みんな美味しいと言ってくれる。魔法で美味しくなるなんてちょっずるい…。

 マクサは私の愛を感じると言っているけど、マクサも私の魔力を感じているってことかな。


「アンネ…、また腕を上げたわね…」

「メタゾールから食材を買い付けていても、アンネの手料理にかなうはずがないよ」

「アンネお姉様の愛の結晶…」


 まだドリーの木の食材は輸出してないからね。まあ今回は私の魔力に寄るところも大きいだろうけど。

 愛の結晶…。魔力が結晶化したりするのだろうか…。


「アンネちゃんの料理がいちばんね」

「ねーね!ぐっじょぶ!」

『このおにぎりヤバい』


 ダイアナにも一通りのメニューを出した。おにぎりを普通に食べているし、ポテトサラダもやわらかいから食べてほしいなぁ。もちろんハンバーグも。


『んー、すごく美味しいわ~!』


 あれ…、ドリーが普通に手づかみで、おにぎりやハンバーグを食べている…。どういうことだ…。実際の物体に干渉できないのでは…。食べたものはどこへ?


「なあ、アンネお嬢様。おかわりは?」


 ゾーミアは物足りないようだ。

 夕食の量はちょっと控えめだ。なぜなら、


「このあとデザートがあるんですよ!」


 食後のデザートは、手で生地を練ったケーキだ!手でホイップしたココアのクリームを、手でたっぷり塗ってある。

 ちゃんと手を洗ったけど、こんなに手ばっか使ってしまって、私の魔力以外に私のエキスが染み出ていないか、少し自信なくなってきた。

 マイア姫とアマージは涙を流して食べているけど…、美味しいんだよね…?お皿に残ったクリームまでなめて…。いや、お皿は食べられないよ…。この二人、仲良いな…。

 他にはガツガツ食べてくれる人多数。


 最後は、私が手揉みで出した紅茶。これも大好評だ。


 こねたり揉んだりする時間が長いほど、みんな喜んでくれるということが分かった。とくに手でホイップはえらく時間がかかった。水魔法で冷やしながらだったから手がかじかんで痛かった…。

 これからも歓迎やお祝いのときは、私が料理を作ろう。




「アンネお姉様!お風呂です!」


 昼の間にお風呂を二十人用に増築したんだ。もうお嫁さんの数を数えるのも面倒になってきたから、あと何人か増えても大丈夫なように、余分に増築した。


「あああああああん…」


 マイア姫をたっぷりマッサージした。歓迎しているだけだよ。さっきの怒りを忘れさせようとしているとかじゃないよ。


「「あああん…」」


 ヒルダとクレアも強めにやってあげた。


 それから、ロザリーと、聖女の守り手の五人と、お母様とリーナとダイアナとドリーをマッサージした。

 えっと、全部で十三人だ…。ほんとうに数えないと、何人お嫁さんがいるのか分からなくなってきた…。まだセレスとカローナとレグラが帰ってきていないというのに…。



 ベッドも昼のうちに、お母様の部屋のを削り取って、自分の部屋に連結しておいたんだ。


 部屋に入るなり、マイア姫は私をベッドに押し倒して、私のネグリジェから胸をはださせて、おっぱいを吸い始めた。ああ、やっぱり私って、身を削って奉仕するタイプのヒーローじゃん…。


「ちょっとあなた、ずる…んぐぐ…」

「やめなさいよ」


 アマージがマイア姫にずるいと言いかけたところを、イミグラがアマージの口を押さえて遮った。


「アマージ、今日は我慢した方がいいぞ」

「あれ王族」

「たとえ侯爵令嬢様と伯爵様が許してくれても、王族が許してくれるとは限らないよ…」


 やはり、王族というものはオーラが違う。いや、ただ金髪を見て言っただけだったりして。


 イミグラ、助かったよ。ここでマイア姫を怒らせたら、私の作戦が台無しだ。

 私の作戦は当然、怒っているところに美味しいものを口に突っ込んで、そして気持ち良くなってもらって、気分が良いときに新しいお嫁さんを紹介するというものだ。母乳を飲んでいる今が最高潮かもしれない。


「マイア様…、紹介します…。こちら、ロザリー・ラメルテオン侯爵令嬢です。つづいてこちらが……、あれ?」


 マイア姫は私のおっぱいをくわえたまま寝てしまった…。引き離そうとすると、ふたたび吸い付いてくる…。

 やっぱり長旅で疲れていたのか…。


 私は身動きをとれなくなってしまった…。なんてこった…。マイア姫が最高に気分の良い状態でみんなを紹介する作戦が…。


 今日はみんなにはお母様の母乳で我慢してもらった。

 私は寝返りを打てなくて身体が痛く…なったりはしないけど、これは勘弁してほしい…。



「ん~、アンネお姉様のお胸様……。なんでこんなに女がいっぱいいるんですか!」

「ひいいいぃ…」


 翌朝…、マイア姫の叫びとともに目が覚めた…。マイア姫に無理矢理母乳を飲ませて、さらに、マッサージして気持ちよくなってもらって、やっと落ち着いたところでお嫁さんたちを紹介するという、前日とおよそ同じ作戦を実行したところ、何とか成功し、丸く収まったのであった…。

 こうして、新しいお嫁さんたちは、ヒルダとクレアとマイア姫に受け入れてもらったのであった。


 あとは、セレスとカローナと…レグラか…。毎日ではないけど、よくビデオチャットしてるんだけど、いまだに新しいお嫁さんたちを紹介できていない…。

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