26 お持ち帰り
翌日、イミグラたち五人はハンターギルドに赴いた。
「私たち、アンネお嬢様の領に行くわ」
「えっ…、聖女の守り手を失うのは、ラメルテオンハンターギルドの損失ですね…」
受付嬢は、戦力のことだけを言っているわけではない。聖女の守り手はラメルテオンギルドの看板娘であった。
女性だけのパーティなど、ほとんど存在しないのだ。
しかも最近、貴族もびっくりなほど綺麗なってきたし…。あのお嬢様と会ってから宿屋にも泊まっていないし、どこかの屋敷でお嬢様待遇なのだろうか。うらやましい…。
と、受付嬢は思っていた。
周りで聞いていた男ハンターたちは絶望に伏した…わけではない。彼らは知っていた。聖女の守り手は、女好きの女の集まりであることを。
それを知らずにアタックした者はすべて玉砕。
聖女の守り手は年頃の娘ではあるが、男どもの目の保養にはなっても、恋愛や結婚の対象にはできなかったのだ。
ちなみに、聖女の守り手以外にも女性ハンターは少なからずいるのだ。ただし女性のみのパーティというのは、ラメルテオンでは聖女の守り手以外には存在しない。
もちろん、彼女らは色恋のためにハンターをやっている者ばかりではない。
「お世話になったわね」
「世話になったな」
「突然出ていくことになってすまない」
「今まで良くしてくれてありがとうね」
「受付のお姉さん、けっこう好きだったわ…」
ハンターはどこに行くのも自由だ。ほとんどのハンターは家を持っておらず、宿屋暮らしだからだ。
拠点を移動するのに、特別な手続きは必要ない。でも、お世話になったギルドに挨拶くらいするものだ。
ちなみに、ハンターギルドは、各町の支部と、ハンターの功績を共有する機会が一ヶ月に一度ほどある。さもないと、拠点を移った際に功績が受け継がれず、昇級できないからだ。
「あの…、その…、アンネリーゼさ…んはどちらですか…」
「アンネお嬢様は忙しいので…」
誰もが皆、聖女であること間違いなしのアンネリーゼを探していた。
アンネリーゼは、ギルドの裏でテントの入り口を少し開いたまま、ギルド内のアンネリーゼへの強い好意が蔓延していることに怯えていた。
「そう…ですか…。残念です…」
「それじゃ、行くわね」
「お達者で…」
「ありがとう」
イミグラたちは、ギルドの裏のテントの扉に戻った。軽く目で合図すると、アンネリーゼはテントの扉を閉じた。
ここで少し話がそれるが、テントの魔道具は、テントの影収納の空間の維持と、影収納の扉を開く機能がある。一方で、テントの影収納はアンネリーゼの闇魔法であるため、アンネリーゼが空間への扉を開くこともできる。
このまま、アンネリーゼが扉を閉じないまま、テントを遠くに持っていけば、アンネリーゼが開いている扉と、テントで開く扉が、瞬間移動の役割を果たすのではないか。
残念ながら、それはできない。アンネリーゼがダイアナと実験済である。
簡単にいうと、扉を二つ開くような使い方は、その二つの扉を含む大きな一つの扉を開くのと同じようなものである。扉は面積と開いている時間に応じて魔力を消費するものである。つまり、遠い二箇所で扉を開こうとすると、膨大な魔力を消費してしまうのだ。
逆にいえば、膨大な魔力を消費すれば、遠い二箇所に扉を開くことは可能である。
では、アンネリーゼが扉を開いたまま、テントを遠くに持っていき、アンネリーゼの扉から誰かが入ってからアンネリーゼの扉を閉じ、遠いテントで扉を開いたらどうか。
残念ながらこれもダメで、アンネリーゼが扉を開いたままテントを遠くに持っていくと、テントが影収納と扉の制御権を失って魔道具が壊れてしまう。
魔道具ではなく魔法としての影収納は、魔法の使用者本人に影収納の扉がくっついていると考えられる。テントの魔道具には、その扉を魔法の使用者ではなく、魔道具にくっつけるということで成り立っているとも考えられる。だから、魔法の使用者が閉じてすぐ、別の場所にあるテントの魔道具で扉を開くというようなことはできていないのだ。
このようなことは、アンネリーゼもダイアナも、さんざん実験しているのである。とくにアンネリーゼは遠くにいるセレスタミナやマイア姫といつでも会えるようにしたいからだ。
だが、瞬間移動やワープゲートのような使い方はいまだに発見されていない。
そういわけで、アンネリーゼがギルドの裏側に開いた扉を閉じると、イミグラたちはテントの魔道具を持って街を出た。
森の中でテントを設置。テントの影収納への扉を開いた。すると、中からアンネリーゼが出てきた。
「ふう。付けられていますね」
「えっ、ほんとうだ…。私がいながら申し訳ない」
レルーパは隠密行動をするのに長けている。当然、隠密行動をされるのにも気がつきやすい。しかし、今回は気がつかなかったようだ。
突然、アンネリーゼを狙った矢が飛んできた。
「危ない!」
レルーパがアンネリーゼをかばって前に出た。
さらに、テントの中からアリシアが出てきて、レルーパをかばった。
アリシアのうろこは、ちんけな矢など通さなかった。
「くそっ、どこだ!」
ゾーミアは敵の位置がわかっていないようだ。
アリシアは敵の位置がわかっている。アリシアは敵に向かって走っていった。
「くそっ、魔物が!わー…」
十秒後、アリシアは一人の男を口にくわえて戻ってきた。
「離せ!」
アリシアにくわえられたままの男。
「心臓を貫かれた者すら治すと噂の聖女に、毒が効くか実験したかったですか?」
「えっ…」
「私に毒矢が刺さり慌てふためく五人を、さらなる毒矢で殺めて、私をさらおうとしましたね。そして、私が毒を自分で治せないようであれば、用意しておいた解毒剤で治すと…。そして私を薬漬けにして操ってやろうと…」
「なっ、なにを…」
「任務の失敗に、さぞかしお怒りになるでしょう、ドペリド伯爵は」
「な…ん…だと…」
「ドペリドって、南隣の領ね」
「アンネお嬢様の噂は、隣の領まで広まってるのか」
「この刺客…、アンネお嬢様の言う通りのやつなの?」
「顔に書いてありますよ」
「えっ…」
いつもまるで心を読む魔法で自分の心を言い当てられているアンネリーゼは悔しかった。アンネリーゼは皆の決め台詞を、自分で使ってみたかった!
「もう用はありません。さようなら」
「…」
アンネリーゼがどこからともなく剣を出し、男を切り裂…かないで、切っ先で男に触れた。
アリシアはくわえた男を離して、男は気を失ってぼてっと地面に落ちた。
「さあ、皆さん、テントに入ってください」
「殺さなくていいの?息をしているけど」
「脳死させました。脳のことは少しお話ししましたね?」
「オークにやったのと同じね。生きてはいるけど、もう自ら動くことはないと」
アンネリーゼは、人間相手の場合はいつもどおり虚弱体質にして森に放置しようかとも思ったが、他の者に情報を伝えられても困るので、脳死を選択した。
アンネリーゼは、誰がどう見てもアンネリーゼのせいで死んだといえるようなことをやっているのに、自分で直接手を下さなければ、それでよいと思っている。流血よりもよほどエグい攻撃ばかり好むアンネリーゼであった。
「おや…、まだ刺客がいるようです…」
「今度は私も分かった」
イミグラたちをテントに入れようとしたところに現れたのはハンターパーティだ。四人の男と、一人だけ女がいる。
今度はレルーパも気が付いたようだ。まあ、彼らは身を隠そうとしていないし。
「あんたたち、やる気?」
「待て待て!俺たちは…、その…」
リーダーらしき男が口ごもった。
「私たちはあなたたちが貴族のお嬢様を拉致して、あんなことやこんなことをしてるんじゃないかと調べに来たのよ」
唯一の女メンバーが出てきて言った。悪意はないし、どうやらほんとうに心配してきてくれただけのようだ。
「何言ってるのよ。私たちがアンネお嬢様にそんなことするわけないでしょ!」
反論するイミグラ。私はあんなことやこんなことをされてないしね。むしろ、私のほうがみんなに…、だからエッチなことはしてないってば…。
それなのに、なんでイミグラは顔を赤くするんだ…。イミグラだけじゃなくて、他の四人も赤いじゃないか。
後ろにいる男どもも赤い。まあ、想像するだけならタダだよ。
「やっぱやってるんじゃない!」
ほら、疑っている…。想像しているようなことはやっていないのに…。
「私は拉致されていませんし、あんなことやこんなこともされていませんよ」
「ホントなの?」
「はい、ご心配していただいたようですみません」
「ほんとうならいいけど…」
「疑り深いわね!」
「だって、あなたたち、いつも宿屋であんなことやこんなことやっていたでしょ!」
「ちょっと、なんで知ってるのよ…」
「宿屋の薄壁で声が漏れないわけないでしょ!」
「聞こえてたなんて…、もうお嫁に行けない…。でもアンネお嬢様がお嫁にもらってくれたから、平気よ!」
私が来る前から、イミグラたちはニャンニャンしてたのかぁ。そうじゃないかと思っていたんだよ。
いや、だから私のはエッチではないし、むしろ健全じゃないか!
しかし、ちゃんとみんなは私に嫁としてもらわれたって分かってるんだなぁ。私の周りに集まる子は、なぜみんな女どうしで結婚するのが当たり前の子ばかりなんだ。
ほんとうは、この世界では女どうしで結婚するのは当たり前のことで、私だけが自分をイレギュラーと思いながらも女の子と結婚したいと思っているのではないかと、錯覚しそうになる。生まれてから何度もそう思うことがあった。
「それでは、行きましょう」
「ええ」
「待ってくれ」
イミグラたちを再びテントに入れようとしたら、またリーダーに止められた。
「なあに?もういいでしょ。アンネお嬢様も同意の上なんだから」
こら、やられてないって言っているのに、何で誤解を招くような言い方するんだ。私が何の同意をしたんだ。みんなが嫁にもらわれることに同意したはず。
「えっ…、いや…、こいつを治してくれたのはそちらのお嬢様なんだろ?」
「オレ、鋭い枝が胸に刺さって死んだと思ったんだ。でも気が付いたら元気になってたよ」
その者の革鎧には、胸に大きく貫かれた痕があった。
「さあ?私は知りませんよ」
「そっか…。ありがとな!」
「ありがとう!聖女様!」
「だから私は知りませんし、聖女ではありませんってば」
聖女禁止!
「そういうことにしておく」
「なんですかそれは!」
あれだけ暴れてバレないわけはないか。
お礼を言われて嫌な気はしないので、笑顔で怒っておいた。
「引き留めて悪かった。元気でな」
「ええ。そっちもね」
良い人たちだ。ラメルテオンのハンターギルドに悪意を持った人はいなかった。
私が顔を出しても悪いようにはされないのかもしれない。でも聖女としてもてはやされるのは嫌だよ。少なくともロイドステラ王国では。
「早く入ってください。同じようなパーティがいっぱい押し寄せてきます」
「アンネお嬢様、なんで分かるの」
「んー、そういう気配に敏感なんです」
「私も鍛える」
私はかなり遠くの筋肉のきしみ音が聞こえたりするし、心を読めたりするのだけど、これをまねるのは、レルーパにはかなり厳しいと思うよ。
そして、同じようにお礼を言いたそうなパーティが、わんさか集まってくる。
十日後にまた来なきゃいけないんだけど、ラメルテオン邸に直接乗り込むから大丈夫かな…。今はラフな鎧を着ているけど、ちゃんと貴族の格好をしたら、やたら話しかけてこないだろう。
ようやく五人をテントに入れて、シルバーをテントから出して、シルバーにまたがり帰路に就いた。
みんなをテントの魔道具に入れて私一人シルバーにまたがって十時間走り続けるのはいちばん速いのだけど、ちょっと寂しい。と思ったら!
『アンネちゃんの馬はすごく速いのね~』
「シルバーはすごい馬なんですよ!」
ドリーは私に付いている精霊ではないけど、同じように付いてくることができるのだ。速すぎて置いていかれるということがない。
『私、五〇〇年前にパートナーが死んでから、あの森を出たことないのよぉ。世の中いろいろ変わったのね~』
「文明が発達したのでしょうね」
『逆よ。昔のほうがいろいろなものがあったわぁ』
「え…」
『それに昔のほうが、みんなもっと魔法を使っていたわ』
「なるほど…、魔法は衰退しているのですね…」
『その点、アンネちゃんの魔法は面白いわね!人の意識だけ奪うなんて斬新!』
「そ、そうですか」
そうかあ。ドリーは長い時を生きている精霊だったのだ。昔のことをいろいろ教えてもらえる!
走りながらといってもシルバーの自動運転なので、私は運転に集中していなくていい。
私はドリーからいろいろ昔の話を聞かせてもらったり、メタゾールのことや私のお嫁さんのことなどを話しながら走った。
みんなには冷蔵庫の食材を好きに使っていいと言ってある。卵と牛乳の使い方は分からないかもしれないけど、野菜や小麦はどうかな。野営とかするし、ちょっとした料理くらい作れるよね。料理すると爆発する子とかいないよね。密閉空間だから、酸素を消費しすぎるのはマズい。
私はお菓子を片手にドリーとお話ししながら、やっとこさメタゾールに帰り着いた。出発が遅かったから、夜十時になってしまった。
メタゾール邸の前でテントの魔道具を開いてみんなを出す。
「あ、やっと出られるのね」
「十時間も部屋でじっとしてるなんて初めてだぜ」
「ここがメタゾール領」
「夜でも町が明るいよ…、どうなってるの…」
「夜の街がこんなに素敵だなんて…」
メタゾール邸から見える町の風景。防犯のためにLEDの街灯や監視カメラを設置してあるのだ。
それに、建物の窓からはちらほら灯りが見える。日没とともに寝るという習慣はまだまだ抜けないが、夜更かしして仕事をする者も増えつつある。
そもそも、この世界の窓というものは木の蓋であり、締め切ってしまうと中の様子など見えないのが普通である。しかし、メタゾールの建物は、平民の家でもガラスがはめ込んであり、外からはカーテンから灯りの漏れる様子をうかがえる。
「皆さんテントの中で夕食を済ませました?」
「ええ」
「それならお風呂にしましょうかね」
「そうしましょ!」「おう!」「お風呂は必要」「やったー」「これからアンネお嬢様と毎日一緒…」
『うふふ。私もお風呂好きよ~』
「アンネちゃん!」
ギクっ!
その口調はドリーに似ているが、精霊用の聴覚ではなく、普通の聴覚で聞こえる声だ。もちろんお母様の声だ。
「最近全然相手してくれないと思ったら、そんなにたくさんの女の子を独り占めしてずるいわ!」
おっと、お母様は私に対しては嫁だけど、他の子に対しては夫側なのか!いや、お母様はすべての母だった。
「アンネお嬢様のお姉様…素敵すぎる…」
アマージはお母様のパレオ水着風ドレス姿にうっとりしてしまっている。
案の定、姉だと間違えている。しかたがない。私は十三歳で、お母様は永遠の十七歳なのだから。
もう訂正するのも面倒だし、私がお母様って呼んでいたらそのうち気がつくだろう。
「お母様、紹介します。こちらが…」
私は聖女の守り手の五人を紹介した。お母様と呼んだのに、誰もがスルーした。
「まあまあ、よく来たわね!私はリンダよ。よろしくね!それでこちらの先進的なドレスの美人さんも紹介してよ~」
「えっ…」
お母様は、まっすぐにドリーを見ている。先進的なドレス…。葉っぱブラ、葉っぱビキニパンツ、葉っぱパレオ…。これが私の趣味だって思われると、なんだか恥ずかしい…。でも、けっこう好き…。
私は精霊であるドリーと実体の区別が完全に付いているのだけど、生まれたあとに後天的に精霊が見えるようになった人は、精霊と実体の区別がいまいち付かないようだ。
私はドリーが遠くにいても近くにいても、目の焦点距離を変える必要がないのに、他の人は近い精霊を見るのに寄り目になったりするのだ。
今もお母様は、近くのドリーに目の焦点が合っていると思われる。ドリーの奥の遠くの壁には焦点が合っていない。やはり、はっきりドリーを見ている。
お母様は、十年以上前に私に精霊を付けられてからは、火と水と風だけはすぐに精霊が見えるようになったのを覚えているけど、土属性はいつ見えるようになったのか知らなかった…。
メタゾール家の使用人は、今は古くからいる者と、若い者が混ざっている。
若い者は乳児の魂百まで計画の子たちであり、とても魔力が高いのでドリーが見えているはず。
一方で、古くからの使用人は、おそらくドリーのことが見えないだろう。
「こちら、ドリーです」
「よろしくね~、ドリーちゃん」
『よろしくぅ、リンダちゃん!』
「私も葉っぱのドレスにしてもらおうかしらぁ」
あらあらうふふさんが二人になってしまった!
よく見たら、顔もけっこう似ている…。というか、私はお母様をモデルにしてしまったのか…。でも、身長はドリーのほうがかなり高い。まあそれは私の前世のイメージによるところなのだろう。
でも…まるで姉妹…。ってそれって私とも似ているってことか。
しかし、今のお母様を葉っぱ水着にしたら、ドリーと区別付かないじゃないか…。
聖女の守り手のみんなにはお母様が虚空と話をするヒロインに見えるだろう。みんな若干不思議そうにお母様を見ている。
私はそれにならないように気をつけていたけど、お母様がなってしまった。お母様にドリーのことを教えてあげないとだ…。
「それで、みんなお風呂に入るのね~。私ももう一度入るわぁ」
「リンダお嬢様とお風呂にご一緒…」
アマージの鼻息が荒い。アマージは綺麗な女性なら、誰でもいける派のようだ。
アマージは脱衣所でもずっと興奮しっぱなし。
「リンダお嬢様…、すごい…」
お母様はエミリーに手伝ってもらってドレスを脱いでいる。私は何でも自分でやってしまうけど、貴族というのは身の回りのことをメイドにやってもらうものだ。
アマージはお母様の肩幅からはみ出た二つのお胸様から目を離せないようだ。脱がなくたってほとんどパレオ水着ようなものだったし、今までとあまり変わってないと思うけど。
「お母様、まずはみんなの背中を流しますね」
「しかたがないわねぇ」
まずは聖女の守り手の五人の背中をポチッと流してあげた。
「「「「「あああああん…」」」」」
「あらあら、みんな可愛いわねぇ」
『次は私でいいのかしら~』
「どうぞぉ」
五人を湯船に入れたら、次はドリーの番だ。五人は意識がうつろなので、私がパントマイムしていても分からないはず…。お母様を待たせているのもおかしいけど、これも気が付かないよね。
ドリーに空気椅子に座ってもらって、ドリーの背中を押していった。いや、実際の力はまったくいらないのだ。光の魔力に少し土の魔力を混ぜて、身体の表面をなぞっていく。
『あはああ~ん…』
「ドリーちゃんは脱がないのかしら。とても素敵なドレスだけど、すぐに破れちゃいそうよ。あ、でもちょっと破れているのも良いかもしれないわ」
「お母様、ドリーは人間にしか見えないかもしれませんが、精霊なのです。触ってみてください」
「ええっ?」
お母様はドリーに寄ってきて、おもむろに両手を差し出し、ドリーの胸を下から持ち上げようとした。触ってみてと言われて、いちばんに触るところがそこですか。でもドリーは私に施術されてうつろなので、とくに何も反応しなかった。意識がはっきりしていても文句を言わなそうだけど。
でも、お母様の手はドリーの胸をすり抜けてしまった。
「あらあら…。ということは、私のおっぱいを飲んでもらえないのかしら」
「そうですねえ」
「残念ねぇ」
そこがポイントだったか…。いちばんに触れるべきで触れられるべきは胸なんだ…。
ドリーにも湯船につかってもらった。でも、水面が揺れたり水かさが増したりしない。さっき空気椅子に座ってもらったつもりだったけど、よく考えたら空気にすら触れられなかった。
『なんだか気持ちいいわ~』
「えっ、気分的なものではなくて?」
『アンネちゃんの出してくれたお湯にぬくもりを感じるのよぉ』
「たしかに魔法で出して暖めた水にはしばらく魔力がこもりますけど…」
「アンネちゃん、はやくぅ」
「はい、ごめんなさい」
「はあああああん…」
お母様を施術するのは久しぶりだ。ラメルテオンに出かける前は、憂さ晴らしのように、マッサージしまくってしまったから、お母様はとろんとろんになってしまっていたけど、時間が空いたから元に戻っていた。
お風呂から上がり、寝室へ…。
でも、この部屋はヒルダやセレスと一緒に寝た部屋だ。ここに新しい嫁を招き入れるのは、なんだか後ろめたい…。
「あらぁ、久しぶりなのに、私の部屋で寝てくれないのぉ?」
そうだ、ここはみんなの部屋ではなくてお母様の部屋だった。
「みんなが帰ってくるまでは、私の部屋で寝ます…」
「じゃあ私もそっちへ行くわよぉ」
「でも、お母様の部屋にはすでにリーナとダイアナが寝ているではないですか」
「もう!スピラちゃんとコーリルちゃんがいるから大丈夫でしょ!アンネちゃんは私と寝たくないの?」
スピラはリーナ付のメイド。光魔法の身体強化に長けており、暴れん坊のリーナを相手できる数少ないメイドだ。
コーリルはリメザと交代勤務で、私とダイアナ付のメイド。私は基本的に何もお世話してもらわないから、主にダイアナのお世話のみ。
二人はお母様の隣の部屋で、いつでも対応できるように待機している。
「お母様と寝たいのはやまやまなのですが…」
「ふたりは大丈夫よ。私はアンネちゃんの部屋で、新しい子たちと寝たいわぁ」
「はぁ…、分かりました…」
「ねえ、あそこで寝ている小さな子たちは誰なの?」
アマージはリーナとダイアナのことが気になるらしい。
「大きい子は私の妹のメリリーナです」
「メリリーナお嬢様!」
ちなみに、リーナはお嬢様ではない。お嬢様は私の娘のダイアナだけだ。それも、隠し子という設定なので、うちには世間的にお嬢様が一人もいない。
それに、アマージはお母様のこともリンダお嬢様呼んでいるけど、お母様もこの家のお嬢様であったことは一度もなく、今は大奥様といったところだ。
「小さい子は私の娘のダイアナです」
「えっ…、ということは、アンネお嬢様がお母様…。ダイアナお嬢様って三歳くらいかしら…」
「そうです。ダイアナは三歳です」
「つまり…」
「私は十歳の時にダイアナを産んだんです」
「素敵…」
「えっ?」
「それでアンネお嬢様のお胸は、お乳の匂いがするんですね!」
「あれ…、匂っていましたか…」
むぅ、母乳パッドの消臭効果では防げなかったか…。
「その…アンネお嬢様のお乳…ください…」
いつも新しい子が入るたびに授乳をどうしようかと悩んでいたけど、今回はお嫁さん側からのまさかの申し出いただきました…。
いつも新しい子が、って、まるで私がいつも新しい子を連れてきているみたいじゃないか…。あれ…、そのまんまか…。私はいつも新しい子を連れてくるのか…。
「ごめんなさい…、こんなこと頼んじゃって…」
あ…、考えにふけていたか…。私が嫌がっているように見えたかな。
「いいですよ」
「ほんとうですか!」
「それでは、私の部屋に行きましょう」
「うー、リーナも!」
「あれ、起こしてしまいましたか…。ごめんなさい…」
お母様の部屋の前で話していたから、リーナを起こしてしまった。
「それじゃあ、ダイアナちゃんもだっこして連れていってあげてぇ」
「はい…」
結局、みんなで寝ていたお母様の部屋には誰もいなくなった。いや、お母様はお父様と一緒に寝ていたはずだ。
あれ…、五年前にセレスたちを迎え入れてからずっとお父様はどこで寝ているんだ…。
マイア姫が来たときに建物は改装したから、同じ部屋というわけではないんだけど…。部屋はいっぱいあるからどこかで寝ているとは思うけど。
まあどうでもいいや。
ダイアナを起こさないようにだっこして、私の寝室に移動した。
誰もいなくなったベッド…。セレスとカローナとヒルダとクレアの匂いの付いたベッド…。みんなが帰ってきたときに、私の部屋のベッドと合体しよう。
「おねーさんたち、だれぇ?」
「リーナお嬢様…可愛い!アンネお嬢様を小さくしたみたい!そして全然お嬢様っぽくない!」
アマージはとにかく可愛い子が好きなようだ。まあ私も同じか。
リーナは全然お嬢様の作法を覚えてくれない。まあ、お嬢様じゃないのでデビューしないから、別にいいよ。
「ねぇってば!」
「あ、ごめんなさい!私はアマージです!よろしくね!」
「あーい」
アマージがリーナのかわいさにうっとりしていたら、リーナに怒られた。
「僕はマクサ!」
「よろしく、マクサ!」
「レルーパ」
「よろしくレルーパ!」
「俺はゾーミアだ」
「ゾーミア、おっきい!」
「イミグラよ」
「よろしくー」
「よし!ゾーミア、私と遊ぼう!」
目が冴えてしまったリーナ。
「うー、なんで私じゃないのぉ」
アマージはリーナに選んでもらえなくて残念だったようだ。
「いいぞ、何して遊ぶんだ?」
「いくよ~」
「なんだ?うわぁー」
リーナはドッジボールになって、ゾーミアに飛んでいった。
ゾーミアは受け止めきれず、ひっくり返ってしまった。
「うひょー、すごい力だなぁ!もいっちょ来い!」
「よーし!」
ゾーミアは力が強そうなので、リーナに選ばれたらしい。
「ぐはぁ。いてぇー」
「むー。やっぱり私と遊べるのはねーねとスピラだけだ」
「くそー、負けないぞ!リーナお嬢様!今度こそ受け止めてみせる!」
「んじゃもいっちょー」
「ふんぬーっ!」
「おおー。ゾーミア、合格!」
「やったぁ!」
まったく眠る雰囲気のない二人をよそに…、
「アンネお嬢様の…、欲しいです…」
「はい」
イミグラが上目遣いで物欲しそうにしている…。
結局、アマージ以外のみんなにも飲ませることになった。ゾーミアとリーナも途中で気が付いて飲みに来た。私のおっぱいを飲んでいる子はみんな私の子だ。
「アンネちゃんだけずるいわぁ!私のも飲んで!」
みんな、私の次はお母様のおっぱいを飲んでいった。これで、みんなはお母様の子にもなった。
『ねえ…、アンネちゃん…』
ドリーには物理的に母乳を吸うことはできないのでは…。今はみんなとろけていないので、私が虚空に話しかけているところを見られたくないから、ドリーには魔法で考えを伝えた。
『何でもやってみるのよ~!』
あれ…、普通にいつもどおり吸われている…。いや、母乳は吸われていない…。
胸の先端から母乳ではない何か吸われる感覚…。何これ…。
魔力だ!光の魔力だ!土の魔力も少し吸われている…。
『美味しいわ~!』
指圧も光の魔力に土の魔力をブレンドしたのが気持ち良かったみたいだし、それと同じなのかな…。
それにしても、指からじゃなくて胸からも魔力を与えられるんだね…。
というか、土の精霊は光の魔力をもらって嬉しいのか。私の精霊にもあげてみるかな。それぞれの属性を混ぜたらいいのかな。
「ドリーちゃん!私のも!」
『うーん、リンダちゃんのはあまり魔力が出てこないわ』
「むき~!」
私だけがドリーに話しかけないようにしても、お母様がドリーに話しかけてしまったら、あまり意味がないなぁ。みんなお母様のことを痛いやつと思っちゃわないかな…。
でもなんだか、虚空に向かって怒っているお母様が可愛いらしくて、みんなほっこりしている。悪印象でないならいいや。
そのあと、私とお母様で、互いの母乳を飲みあって寝た。久しぶりにお母様の母乳を飲むと、なんだか心が安らぐ気がした。
「うわっ…」『誰…』
「あらダイアナ、おはよう」
翌朝、ダイアナと同時に目が覚めた。
ダイアナは「あ」行とか「わ」行のように簡単な発音なら自分の口で言うけど、「だ」行とか「ら」行は合成音声ばかりだ。
ダイアナはベッドの上のたくさんのお嫁さんに驚いている。
「うわっ…」『誰…』
「えっ…、酷い…」
ダイアナは私を見て驚いている…。
『何言ってんだ。一ヶ月も娘を放っておいたくせに』
「そうだった…」
『私はリンダばーばがいなければ飢え死にしてたところだ』
「ご飯を食べなさいよ」
『ママだけには言われたくない』
「そうだった…」
ダイアナに口で言い負かされてばかりだ…。いや、口は動いてないので、合成音声に言い負かされてばかりだ…。どうでいいけど…。
『で…、まぶたを閉じても見えるこの…、野生の美女は…』
「ドリーだよ」
『この魔力…、土の精霊?』
「そう」
お母様はいまいち精霊と実物の区別付かないらしいけど、ダイアナは分かるようだ。やはり、おなかの中で精霊と戯れる時間が必要なのだろうか。
『はぁ~い。ドリーよ!』
『私はダイアナ』
『あなた面白いしゃべり方するのね~』
『ねえ、なんでそんなの着てるの』
『これねぇ、アンネちゃんが考えてくれた衣装なんだけど、可愛いでしょぉ。でも脱げないのよ~』
『ママ酷い…。脱げない呪いの葉っぱ水着を着せるなんて…』
「知らなかったんだよ…。一瞬、木の精霊といえばこういうのって想像したら、かってにその姿になっちゃったの…」
『あら~、この服、気に入ってるのよ。似合ってるでしょ!土の精霊の私にピッタリじゃなーい』
『本人が喜んでいるならいい』
「ダイアナお嬢様?可愛いーー!」
「やー」『やめろ』
アマージが目を覚まして、ダイアナを見かけるといきなり抱きついた。
「私、アマージです!よろしくね!」
『私はダイアナ』
「ダイアナお嬢様、小さいのによくしゃべる。しかもどこから声出してるの?」
『秘密』
「秘密のダイアナお嬢様…、素敵…」
『妙なところにツボのある子』
「んっ、あ~…。ダイアナお嬢様?可愛いわ!」
「やー」『やめろ』
「お、ダイアナお嬢様だ!」
『こらー!』
「ダイアナお嬢様…、めちゃくちゃやわらかい…」
『ぷにぷするなー!』
「ダイアナお嬢様だ!僕、マクサっていうんだ、よろしく!」
『うー助けろー…』
ダイアナは朝からみんなにもみくちゃにされたのだった。
『うー…、酷い目に遭った…。おっぱいください…』
「はいな」
『やはりママの方がうまい』
「おっぱいくわえてしゃべったらおかしいでしょ」
『それもそうだ』
「アンネお嬢様からダイアナお嬢様への…、素敵…」
『落ち着かない…』
「ホントにどうやってしゃべってるのか…」
ダイアナの合成音声は本人の口とは無関係。口の付近から音を発しているけど、口を閉じていてもおっぱいをくわえていても普通に聞こえる。
今日は聖女の守り手の五人に学校や町を案内する。
久しぶりにレザーアーマー風の衣装ではなく、普段着のドレスだ。普段着でもミニスカートにガーターストッキングは変わらないが。
みんなにもワンピースを与えた。裕福な商人の娘程度の服だ。
この国では、貴族でない者が貴族を装うのは重罪である。明確な基準はないけど、貴族とは言えない程度に可愛い服をあげたのだ。
「こんな可愛い服…、初めてよ…」
「俺がこんなの…」
「動きづらい…」
「可愛い!嬉しい!」
「お嬢様に一歩近づいたわ!」
文句を言っている人の顔には、嬉しいと書いてある。私だってそれくらい心を読まなくても分かるのだ。はっはっはっ。
「でも…、私もアンネお嬢様みたいな短いスカートをはいてみたいわ」
「オレも…」
「動きやすそうだし…」
「僕も短いの気になる…」
「アンネお嬢様とおそろいがいい…」
『よしじゃあ、これでどうだ』
ダイアナはリメザにだっこされて付いてきている。自分で歩く気がまるでない。三歳なのだから、もっと歩いてほしい。
それはさておき、ダイアナは私がみんなに作ったワンピースのスカートを土魔法で削っていき、最後に裾のフリルの部分をミニスカートに再接続した。みんなのスカートは、まっすぐに立った姿勢で、他の人が水平から見ると、お尻が見えない程度の長さになり、本人がちょっと前屈みになったり、他の人がちょっと下から見たりすると、すぐにお尻が見えてしまうという絶妙なバランスになった。
そして、削った生地をガーターストッキングに変形させて、五人に纏わせた。
五人には出会った日の夜からパンツをはかせているので、防御力に心配はない。
「どうかしら…」
「オレに似合うかな…」
「スースーするけど…、動きやすくて機能性が高い…」
「わー!みんな可愛いね!」
「アンネお嬢様に一歩近づいたわ!」
『それで、私はスカウトしてきたこの子たちをアイドルデビューさせればいいのかな』
「えっ…」
なんかいつのまにか学校のカリキュラムが変わっている。教室も増えている…。
なんと、アイドル養成科なんてのができていた…。音楽室とかダンス練習場ある…。
音楽といっても、ダイアナの打ち込んだコンピュータミュージックに合わせて歌うだけだけど。
ダンス練習場では、ヒーラーガールズ、メタゾール支部の五人組が練習していた!
ちなみに、ヒーラーガールズ、ヒストリア支部の五人組は、向こうでアイドルデビューしてるんだって…。全部ダイアナの差し金…。
アイドルは歌と踊りだけできればいいわけではない。教養トップクラスの者だけが、アイドル養成科に進むことができるのだ。
「あの子たち…、かっこいいわ…」
「すげー!あんな激しい動きできるのか!」
「ただ者じゃない」
「身体強化の使い方がすごいよ…」
「ここは可愛い子ばかりいて幸せ…」
領民の中でいちばんの身体強化使いは、リーナ付のスピラだけど、ヒーラーガールズは光魔法に長けた子たちなので、身体強化もかなり高いのだ。アクロバティックなダンスもお手の物だ。
カリキュラムに加わったのは、歌とダンスだけではない。
今までの授業は、私の覚えている高校三年生までの教科と、人体の専門的な知識、それとカイロプラクティックの知識、あとはこの世界のポーション薬学と魔道具作成だけだった。
今回、ダイアナの覚えている、大学の専門的な理数系、機械工学、電子工学、情報工学などが加わった。
『はい、これみんなにあげる』
「何かしら?」
ダイアナが渡したのはタブレット端末だ。
『ようこそ、メタゾール学園へ』
「アンネお嬢様だわ!」
「アンネお嬢様の絵が動いてるぞ!」
「このドレスは素敵」
「このアンネお嬢様にはなぜかしごかれたくなる…」
「これ…、触るとスカートの下から見えるわ…。そして、アンネお嬢様に見下してもらえるなんて…」
いつの間にかほとんどの教科は、ディスプレイ、プロジェクタのスクリーンやタブレットでAIボットが教えてくれるようになっていた…。しかも、そのAIはCGも声も私だし…。
この世界には存在しないタイトなミニスカートのスーツに眼鏡…。いかにも女教師という感じの私だ…。みんなCGと実物の区別がちゃんと付いているのだろうか…。
そして、必ずいる、スワイプしてローアングルで見る子…。さらに、ピンチアウトして、スカートの中を拡大しているし…。スカートの中は亜空間ではなくてちゃんとパンツをはいている…。
スカートの中を覗くと、CGの私がさげすむような目で見てくれる…。なにこの作り込み…。
というか、私も知らない工学系大学の専門的な内容が多いし、これは私も勉強しなければ…。私が私に教えてもらわなければならないとは…。私が私に見下されそう…。
「お、槍をやってるぞ!」
「剣も練習してるわね」
ゾーミアとイミグラは戦闘訓練の授業に興味があるようだ。
この領には兵役があるので、学校で武器の扱い方の練習もしている。最初は、兵役の一環として訓練をやっていたが、学校のカリキュラムに組み込んでしまった。
さすがにこういう実技はAIには任せられない。と思ったら、録画してAIの私が筋肉の動きを分析。一流のスポーツ選手のような訓練をやっていたよ…。
みんな私の言うことをよく聞くから、上達が速そうだ…。
「あ、お嬢様の礼儀作法だわ!」
アマージが礼儀作法の授業に食いついた。
将来、貴族の使用人として召し抱えられたり、商人として貴族の相手をしたりするときに困らないように、礼儀作法を教えている。商人の娘なら、貴族に嫁ぐ可能性もある。どこに行っても恥ずかしくないようになれるのだ。
これはさすがにAIは役に立たないだろう。と思ったら、腕の動きが〇・五秒遅いとか、頭が五ミリ高いとか、AIの私が厳しく指導していた…。おまけに、AIの私の完璧な動きを何度も繰り返し再生しできる。
それに、自分を録画した動きと私を重ね合わせて動きの差を確認できる。というか、自分と私を重ねるモードばっかで遊んでるんじゃない!わざと対面して、私と抱き合ってるシーンを作るんじゃないよ!お前ら勉強しろ!
AIの私も注意してくれ!っていうか、AIの私、抱き合って嬉しそうな顔をしている…。たしかに、嬉しいかも…。
ちなみに、男性の礼儀作法では、男性の服を着た私が表示されるけど、重ね合わせる機能はないらしい。うん、そんな機能あったら困る。
さらに、礼儀作法の授業に限ったことではないけど、男性向けの授業アプリでは、スワイプしても私のスカートの中がギリギリ見えないところまでしかアングルを移動できないらしい。
ダイアナは私を弄りまくっているけど、一線は越えないでいてくれる…。
「あ、治療魔法の訓練だ」
マクサが治療魔法の授業を見学している。
今まで人間の身体のことを知識としては教えていたけど、いつの間にか実技が…。魔物を骨折させて、それを治すという授業…。X線でリアルタイム撮影して、折れた骨がつながる様子を見られる。たしかに、こういうのを想像できるようになれば、治療魔法で骨折をうまく治せるようになるのだ。
しかし、いくら魔物でもこんな使い方は…。カエルの解剖なものか…。
「こっちは生活魔法の訓練、あっちは攻撃魔法の訓練だわ」
例えば、炎は青い方が熱いとか、分子振動による加熱・冷却だとか、前提科目として理化が必要な魔法の訓練を行っていた。
それから、電気魔法だ。これも理化が前提科目だ。
闇魔法の恥ずかしい動画はまだ使われていた…。いや、すべての授業に女教師の私が使われている方が、よほど恥ずかしい…。
あああ、これってもしや、プレドールやテルカスの学校でも使われているのかな…。マイア姫の領地とヒストリア王国でもか…。
マイア姫、CGの私で遊んでそうだなぁ…。
ラメルテオンで聖女として祭り上げられそうになって、しばらくなりを潜めていようと思ったのに、大々的に私を宣伝しすぎだ…。どこの誰だか丸わかりだろう。
私、これでも伯爵なんだから、いたずらするとお仕置きするぞ。
「はぁ…。ダイアナ…、午後の案内よろしく…」
「あい」
「さて、ドリー、あなたの木を植えましょう」
『よろしくね~』
いつまでも影収納に入れておくと、闇の魔導石に貯めた魔力がもったいない。
屋敷の裏庭に木を植えるスペースを作って、影収納からドリーの木を出した。
屋敷を改築したときに、少し広くしておいたのだけど、木を植えるといっぱいいっぱいだな。もう少し壁を広げて庭を拡張しよう。
領地というのは、すべて貴族当主のもの…、ではなく、貴族当主が王から借りているものなのである。まあ、いいたいことは、私が領地内でかってに屋敷の敷地を広げることに問題はないということだ。
「ところでドリー、これは何の木ですか?何か花が咲いたり、実が成ったりするんですか?」
『何の花でも咲くし、何の実でも成るわよ~』
「えっ…」
『何を咲かせたいぃ?何の実を食べたいのかしらぁ?』
「米…」
『ごめんなさい、聞いたことないわぁ』
「うう…」
『そうだ!あなたの魔法で考えを教えて!』
「それだ!」
考えを伝える光魔法は、言葉で表せないような感覚を伝えることができる。味、食感をダイレクトに伝えられるし、実の成り方や炊き方、調理法など、あらゆる記憶をドリーに伝えた。
『すごいわぁ、私も食べてみたい!』
「いつできるんですか?」
『魔力を流すほど速くできるけど、あまり速くしても美味しいものができなかったりするの。だから一週間間ってところね』
「それでも十分に速いです!」
『他にはない?この木をお米いっぱいにすることもできるわよぉ』
「大豆…、サトウキビ…、茶の木…、コーヒー…、カカオ…、バニラ…、唐辛子…、胡椒…、ショウガ…、ニンニク…、ごま…、あとなんだっけ…。食べ物以外で欲しかったのは…綿花…」
私は味や風味、実の形などをドリーに伝えた。
『あうあう…、口の中が痛くなりそうなものもあるのね…。そんなものの何が良いのかしら…』
イメージが足りなかった。香辛料を使った料理のイメージも送らないと。
『なるほどぉ。これはお料理が美味しくなるわね!』
「あとは…、ダイアナに頼まれていたゴムの木…」
ゴムになる魔物を養殖しているのだけど、足りないから本物のゴムの木を欲しいと言われていた。
『アンネちゃん、それじゃ分からないわぁ』
「うう、私がよく知らないものは無理ですね」
『でもよかったわねえ。五〇〇年前は、私のパートナーの望むものは漠然としたイメージで何でも作れたけど、今はアンネちゃんみたいに魔法で考えを伝えてくれる子がいなかったら、言葉で言われても私の知らないものを作ることはできなかったわよぉ』
「なんという巡り合わせ…」
『一週間後が楽しみね!』
「はい!」
五年前に玉子と牛乳を発見したのはいいけど、そのあとどこを探してもたいした食材が見つからなかったんだ…。いい加減、飽き飽きしてたところだ…。
この世界のにんじん、キャベツ、玉葱とか、基本的な野菜はあったけど、品種改良がなされてなくて、味がしょぼい。そうだ!前世の味を思い出して、美味しい野菜も再現できるかな!
この木はご神木だ。誰にも触られないように厳重に…、と思ったけど、あんまり仰々しくしたくないし、領主の敷地に忍び込むような領民はいない。
触っちゃダメとかお触れを出すと、逆にスパイが入ってきそうだし、誰にも言わないでおこう。どうせ私しかドリーにイメージを伝えられないんだ。
ちなみに、金のなる木ににはできないらしい。あくまで自然の植物だけだ。
「みなさん、学校と領地はいかがでした?」
「アンネお嬢様!学校ってすごいわね!」
「オレ、槍だけでなくて、剣も習いたい!」
「世の中知らないことだらけ」
「アンネお嬢様がちょっと教えてくれた治療魔法の知識、ここならもっと学べるんだね!」
「私もお嬢様になれるかもしれないわ…」
アマージは魔法より礼儀作法に興味があるのかな。何をやってくれてもいいけどね。
今日もお嫁さんたちとお風呂とベッドでキャッキャうふふしてすごした。
「ママぁ」『ドリーって、土の魔法使えるの?』
「うん」
『土の魔力、ヤバいよね』
「うん」
ドリーが誰かを加護している精霊ではないので、直接思い浮かべたイメージを実現したりはできないけど、言葉などで要件を伝えれば、実行してくれることなどを説明した。
そういえば、私も木に実を成らせたいものを頼んだだけで、他の魔法を試してないな。
『これを作ってほしい』
「あら、何かしら~」
ダイアナがドリーに見せたタブレットには、設計図と魔力回路図が表示されている。なるほど、考えを伝える魔法がなくても、具体的な物質をどのように配置するか図示すれば、希望を叶えてもらえるのか。
魔力でも、電気と同じように回路を作れるのは分かっていた。メタゾール製以外の従来の魔道具の扇風機などは、風力調整に簡単な魔力回路が使われている。
しかし、集積化が難しく、高度で大規模な回路を作れなかった。細かいものを作るのには、土魔法の技術が足りなかった。
魔力ではなく、普通の電気の回路なら、ダイアナの土魔法でいくらでも集積化できるらしい。でも、魔力を帯びた素材の加工が難しく、魔力回路は集積化をできていなかった。
そこで、ドリーの土魔法に頼るわけだ。ドリーは十メートルの精霊。土魔法のエキスパートだ。
ダイアナは回路図の見方などを説明した。
『分かったわ~。えいっ!どうかしら?』
『試してみる』
ダイアナが作りたかったのは、魔道アンテナ。パラボラアンテナで魔力に変換したデータを送受信する装置だ。
電気と同じように、魔力の強弱でも0と1を表して、デジタルデータを扱えるのだ。
どの属性でも魔力回路を作れるけど、他の回路はすべて普通の電気回路なので、電気との変換が容易な電気の魔力回路にした。
『実験成功。今度はこれ』
『ずいぶん大きいのね~』
徐々に大きく、距離を長くして実験していった。
『よし、この減衰率ならいける』
「どうするの?これ」
『マイア姫の領地に設置する』
「マイア様と通信できるの?」
『そう。あと、南の無人島とヒストリア王国のバステル領で中継すれば、ヒストリア王都とも通信できる』
「マ…ジ…で…」
『ヒルダとクレアとマイア姫は、意思決定や書類仕事だけできれば、領地にいる必要はないよね。三人とも土魔法で箱物を作ったりできるわけではないのだから。だから、領地の執務室にはビデオチャットを設置しておけば困らないと思う』
「三人はうちで仕事すればいいってこと?」
『そそ。王が不在はまずいからセレスとカローナ、あとレグラは別の方法を考えないとねえ』
「三人とまた一緒に暮らせる!」
『ヒルダとクレアは、すでに呼べるね。とりあえず、マイア姫んところとヒストリア王国にアンテナを設置しに行こうか』
「待って。マイア姫のところはいいけど、八日後にラメルテオンのお嬢様を迎えに行くんだ」
『むう…。またジェットコースターに乗るのは嫌だし…。いや、テントの魔道具に乗せてくれれば、ママだけジェットコースターで行けるのか』
「ジェットコースターって何さ。シルバーは馬だよ」
『とにかく、マイア姫は半日、ヒストリアは無人島も含めて二日あれば済むでしょ』
「それもそうか…」
『じゃあ、とりあえずここにアンテナを設置する。ドリー、これをお願い』
『は~い。ずいぶん大きなものを作るのね~』
この世界初の、高さ五〇〇メートルの塔を作ってアンテナを設置した。
さらに必要な発電所・魔道炉を塔内に設置。風力発電にも、高い塔は都合がいい。側面だけど太陽光発電もできるかな。
魔力自体は基本的に物体に干渉しないけど、吸い取ろうと思ったら簡単に吸い取れてしまう。誰にも干渉されない高さにアンテナを設置したかったのだ。
私とダイアナは、こんなでかい建物を一気に建てるほどに魔力を持っていないけど、今ならドリーの魔力を使い放題だ。
しかも、ドリーの土魔法で作った建物は、強度が半端ない。これなら何年も保ちそうだ。
『これでこっちはOK。じゃあいこっか』
「うん」
まずはマイア姫の領地。ダイアナはテントの魔道具に入って、私がシルバーで移動。でもドリーが付いてくれるから寂しくない。
「アンネお姉様ぁ!」
「ごきげんよう、マイア様」
ドリーに同じ施設を建ててもらった。アンテナや発電所の材料は影収納で持ってきた。かなり多いので、影収納の維持の魔力を闇の魔道石に頼っている。
パラボラアンテナの設置は大変だ。正確な地図がないから、方角の精度が悪すぎる。
メタゾール側は、最初、指向性をあまり持たせないで、試験電波…、魔力波をパルス的に発するようにしてある。指向性をあまり持たせない広範囲の魔力を飛ばすには、必要な魔力が多すぎるからだ。
だから、この指向性を絞っていない送信方法では、魔力消費が大きすぎて実用に耐えない。マイア姫側を設置したら、メタゾール側も再調整が必要だ。
ひとまず、メタゾール側が仮設置の状態での通信は成功した。
マイア姫に資金援助してはいけないので、必要な施設をすべて売りつけた。でも、塔は現地の土だし、工数はほぼゼロだし、費用は機材の材料費だけだ。
ちなみに、マイア姫にドリーは見えなかった。
だいたい、貴族や王族は、火と水と風の魔力の高い者を好むけど、建物や物を作るような職人向けの土魔法はからきしなのだ。
マイア姫には学校に来てから土の精霊を付けて、土の魔力を鍛えてもらっているけど、まだまだだね。魔力の成長は鍛え始めた年齢がものをいうので、若い頃から鍛えているうちの領民のレベルに届くことは一生ないだろう。でも、今からでも鍛えておけば、いろいろ役に立つから損はない。
「こんなに大きな建物が一瞬で…。アンネお姉様、すごいです!」
「あ、これは…、まあ…、はい…」
ドリーの存在なしには、私の魔法でないことを説明できなかった…。まあいいや。
マイア姫に授乳して、マイア姫をマッサージしてからメタゾールに戻った。
メタゾールに戻ったら、アンテナの本設置だ。指向性を持たせて、マイア姫の領に設置したアンテナだけに魔力波が飛ぶようにする。これでマイア姫の領とつながった。
「マイア様、見えていますか?」
『ええ!アンネお姉様ぁ!』
巨大なディスプレイごしのマイア姫。ディスプレイを見ても互いに目線が合うように、ディスプレイにカメラが埋め込まれている。あいかわらず無駄に高度な技術。
ここは、メタゾール邸の一室。マイア姫の執務室となる予定。マイア姫の領の執務室とつながっていて、マイア姫の領の執務室に来れば、ディスプレイごしにマイア姫と会話できるのだ。
「これで、領の統治はメタゾールからできるようになりますよ」
『やったわ!荷物をまとめて十日後には行きますね!』
「はい、待ってます」
次は無人島だ。すでに夜中だけど、設置を済ませてしまおう。
無人島の方角を定めるのはもっと大変かと思ったら、以前ヒストリア王国に大陸を探すときにドローンを放ったから、意外に方角を絞れるらしい。
船で無人島に行って、同じ作業をして、テスト通信に成功した。
ちなみにこの無人島…、最初は資源の宝庫だと思って、港や倉庫などを建てまくったけど、必要なものは持ちだしてメタゾールで育てられるようにしてしまったので、無人島に逆戻りしていた…。
今回もこの島に管理者を置きたくないから、無人のセキュリティ機能を充実させておこう。
その次はヒストリア王国の最北端、バステル男爵領だ。私たちは船の中で一晩を明かした。
バステル男爵領に着いたらバステル男爵に断って、謎の塔を建てた。そのうちここにも通信網を引いてあげるよ。
そしてやってきました、ヒストリア王都。
「ダイアナ!久しぶりですわ!」
『カローナお母様、苦しい…』
ダイアナは、カローナの胸の谷間に挟まれて窒息しそうだ。カローナのスイカは、そろそろお母様を越えそう。
「どうしたの?ダイアナを連れてくるなんて」
「それはですね…」
電波塔ならぬ魔力波塔もろもろの話をした。
「それはすごいわ!」
「毎日アンネとダイアナとお話できるなんて素敵ですわ!」
さっそく魔力波塔を設置した。
ちなみに、セレスとカローナとレグラにもドリーは見えなかった。やはり、カローナでも火と水と風しか見えないらしい。
それほど急ぐわけでもないので、ヒストリア王城で一泊することにした。
たまにはカローナにも家族サービスしてあげないとね。
「もう行っちゃうのね」
「これからはいつでもお顔を見られますのね!」
『うん』
「それではまた」
ヒストリア王都向きのバステル男爵領のアンテナの向きを再調整。指向性を持たせた状態で通信が開通した。
そして船で無人島へ。バステル男爵領向きのアンテナの向きを再調整して、通信が開通。
船で一晩明かしつつ、メタゾールに到着。無人島向きのアンテナを再調整して、これでヒストリア王都まで通信が開通だ!
「セレス、聞こえますか?」
『聞こえるわ!』
『ほんとうに毎日お話できますのね!』
これで、セレスたちといつでもお話できる。いざとなったらすぐに飛んでいこう。
それにマイア姫はメタゾールにいながら自分の領地を運営できる。
ヒルダとクレアはもともとできたんだから、もっと早く呼べばよかった。そうすれば、ここまでお嫁さんが増えることもなかったかもしれない…。
あとは三人が来るのを待つのみ…。
『そろそろ木に実が成っているころよ』
「そうでした!」
ドリーの木にいろいろ植え付け?してから一週間が経った。
「ママぁ」『何それ』
「ダイアナも来る?」
ダイアナはメイドのリメザにだっこされてきた。三歳だしそろそろ重くなってきたと思うけど、乳児の魂百まで計画の子たちは身体強化をそれなりに使えるので、まだ十一歳ながらにかなり力があるのだ。
『何…これ…。稲穂が成ってる…。こっちは唐辛子じゃん…』
「これは異様だね…」
『どお~?想像と違ったぁ?』
「もともと木に成るものではないものを頼んでしまったので、ちょっとびっくりしただけです…。でも…、それぞれの形は期待通りです」
『じゃあ食べみて~』
「まずはお米を炊かないとです」
『待って…、圧力釜電子炊飯ジャーを作る…』
「それは必要だね…」
木に成っている稲穂…を刈って、精米した。そんなにたくさんはない。二キロくらいかな。
『できた』
「はやっ。お米、研ぐね」
食にこだわりがなさそうなのに圧力釜とか。
二合の米を研いで、炊飯ジャーへ。
『四十分待つ』
『楽しみね~』
「でもドリーは食べられないと思います…」
『アンネちゃんが食べているときの感覚を教えてよ』
「なるほど!それでいいんですね!」
ああ、炊飯ジャーから湯気とともに懐かしい匂いが…。
ピーっ、ピーっ、ピーっ。
『あと五分蒸らし』
「再現性高いなぁ」
ダイアナの炊飯ジャーは、前世の高機能な炊飯ジャーそっくりだ。ボタンでモードを選べるようだし。普通のモードと速炊きしか使ったことないよ。
五分経って私はジャーを開けた。すると湯気が上がり、その先にホクホクのご飯。
「しゃもじ」
「あい」
「用意いいんだね」
土魔法で作った茶碗も用意されていた。陶器ではなくコンクリートのようにざらざらだけど形は茶碗だ。
それから木の箸だ。
しゃもじでジャーのご飯をかき混ぜて、茶碗にご飯をついだ。
「どうぞ」
『おお…、箸、持てなかった…』
「練習しないから…」
『スプーンすら持ったことない…。うう、リメザぁ…助けて…』
「はい、お嬢様」
私もご飯を茶碗についだ。
私も今世で箸を持つのは初めてだ。でも、箸をすんなり扱えた。
『ご飯…、うまい…』
リメザにご飯をすくってもらい、口に入れてもらったダイアナ。
口でもぐもぐしているの関係なしに、合成音声が感動している。
私も箸でご飯を口に入れた。久しぶりご飯の味…。感動のあまり泣けてきた…。
『ちょっとぉ、私にも教えてぇ』
「うぉうぇんわはい」
口にご飯を入れたまま返事してしまった…。
飲み込んでから改めて、考えを伝える魔法を発動してから、ご飯を口に入れて、そして噛んで味わってから…、飲み込み…。
『ん~、ほんのり甘いのねぇ。アンネちゃんの感動は伝わってくるけど、この味からこの感動には至らないわぁ』
「この感動は、前世の母国を生きた者にしか分からないです」
『うう…、もうおなかいっぱい…』
「ダイアナは一歳の時に離乳食を一口食べただけだよね。初めて食べる固形物でそんなに食べていいのかな…」
『これからはご飯、食べる…。あと大豆もあったよね。味噌と豆腐と醤油作ろう』
「作り方、分かるの?」
「うん」
「食べ物に興味ないのかと思ってた」
『作り方くらいは知ってる』
「私は自炊していたけど、味噌や醤油の製法を知らないよ」
『早く残りのものを収穫するのだ。そして量産するのだ』
「あの木ではそんなに作れないから、種にして領地で育てようかな。
お米、売れるかな。リメザ、食べてみて」
「はい、いただきます」
『どう?正直な感想を言って』
「美味しいです。でもいつも食べている卵と乳の料理のほうが美味しいです」
『なるほど』
「チャーハンとか丼物にすればいいかな」
『そこまでして売りたいと思わない』
「この世界の料理はショボすぎるから、みんなの食卓が少しでも賑わうようにしたいよ」
『止めはしない』
味噌や醤油は時間がかかるから、仕込んで放置するとして、ドリーの木で育てた他のものは、お菓子の材料や、調味料が多い。
「アンネちゃん」
ぎくっ…。って、なんでいちいちビクッとしてしまうのかなぁ。
「なんでしょう」
「また何かお菓子を作っているのね!」
何も悪いことしてないのに、悪い子を見つけたみたいな言い方しないでほしい。
「できたらあげますよ」
「今日は良い匂いがするわぁ」
「だからできてからのお楽しみです」
ダイアナに、カカオからチョコを作る方法を教えてもらった。なんでそんなこと知っているんだか。
だから、今日はチョコケーキを作るのだ!
「はー、午前の授業が終わったわー」
「腹減ったー」
「なんか良い匂い…」
「何これ…すごく…」
「アンネお姉様の匂いがする…」
午前の授業を終えて、聖女の守り手の五人が昼食に戻ってきた。
五人のことを聖女の守り手っていっているけど、私も一員なんだよね。
私の匂いって何だろう…。母乳パッドから漏れてるかな…。
「皆さん、丁度いいところに戻ってきましたね。もうすぐ昼食ができますので、ダイニングルームで待っていてください」
「アンネお嬢様の料理だわっ!」
「やったー!」
「ここの料理人さんの料理も良いけど、アンネお嬢様の料理は格別」
「アンネお嬢様の料理、大好き!」
「アンネお嬢様のお料理は、アンネお嬢様の味…」
私のよりも、専門の料理人に作らせた方が美味しいと思うんだけど。最近は料理人も腕を上げてきたんだよ。
「リーナも!」
いつの間にかリーナもいた!
「はーい、できましたよー」
少し大きめのチョコレートのホールケーキをテーブルに置いた。
「アンネちゃん…、何この黒いの…」
「あはは、ねーね、下手くそー」
「匂いは良いけど…」
「アンネお嬢様でも失敗するんだな」
「これは中に秘密があるはず」
「焦がしちゃったんだねー」
「愛があれば何でも食べられるわ!」
フフフ…。何とでも言うがよい。料理すると何でも炭にしてしまう属性は私にはない。
テーブルでケーキを切り分けて、みんなに配った。私を含めて八人。八等分だ。切り分けやすい。
食べ方が分からないのか、それとも見た目に食指が動かないのか、みんな食べようとしない。
バニラオイルも入れたから、チョコとバニラの風味が良いでしょう。それだけでも食べたくなるはず。
私が率先してフォークをケーキに刺し、口に入れる。
皆が注目する。
「んー!」
『んー!』
思わず声が出てしまった。でも、久しぶりのチョコケーキはほっぺたが落ちそうなほど美味しかったんだ…。
私の感覚はドリーに伝わるようにしてある。ドリーも同じようにほっぺたが落ちそうだ。
演技じゃないんだよ。でもわざとらしいリアクションに見えたかな。いや、私の反応を信じて、みんな同じように食べ始めた。
「「「「「「「んーーー!」」」」」」」
ふはははは。みんなガツガツとケーキを食べ、あっという間にお皿は空に。
「「「「「「「おかわり!」」」」」」」
「今日はこれでおしまいです」
「「「「「「「は…い…」」」」」」」
みんなとても残念そうだ。でもないものはしかたがないでしょう。
「まあ、ほんとうは先にこっちを出せばよかったんですが、はい、スープです」
ケーキだけじゃなくて、豚…オークのバラ肉と野菜のスープも作ったよ。野菜はドリーの木で取れた、前世で品種改良の進んだものだ。
そして、いつもの塩味だけじゃなくて、胡椒とちょっぴりニンニクが入っている。
みんな午後も授業だから、あんまり匂わない程度にね。
「「「「「「「はぁ…」」」」」」」
ケーキのあとで、いつもの見栄えのスープなもんだから、落胆が酷い。でも、匂いが違うでしょう。
「そう言わずに食べてみてください」
さっきもそうだったけど、最初の一口が重い。だけど、
「んー!何これ!いつもと違う!」
「なんかどんどん食べたくなるぞ!」
「野菜も甘みと歯ごたえがある」
「おーいしー!」
「これもアンネお嬢様の味がするわ!」
「とっても美味しいわぁ!」
「ねーね!最高だよ!」
どうだ!塩だけのスープとは違うだろう!
で、私のエキスは入ってないよ!
「「「「「「「おかわり!」」」」」」」
「はいはい、こっちはたくさんありますよ!」
みんなガツガツ食べてくれる。嬉しいね。
『アンネちゃ~ん、私も味わいたいわぁ』
私もスープをいただいた。食欲をそそる、ほんのりニンニクと胡椒の味。
これでやっと私もダイアナも卒乳できるかな…。関係ないか…。
ちなみにダイアナは甘いものにあまり興味がないようだった。だから今回は参加していない。とりあえず味噌や醤油ができるまでは、ご飯だけ食べているようだ…。
偏食だけど、結局私の母乳を飲んでいるから、まだ大丈夫かな…。
ドリーの木に成ったものを収穫したあとは、ダイアナと次に欲しいものを植え付けていった。
ダイアナは考えを伝える魔法を使えなくても、イメージを動画にしてタブレットで見せられるし、食べ物の分子式とかも示せるので、ドリーに伝えるのには困らなかった。
もちろん、ダイアナも鉄の成る木や銅の成る木を要求したけど、そういうのは無理だ。
美味しいものを領地で育てて、特産となる農産物を増やそう。
ガラスや絹のドレスは、プレドールとテルカスにも製法を教えたり、材料となる魔物を養殖させるようにしてしまったので、値段が落ちているのだ。とはいえ、ガラスの材料である砂は、砂浜のあるメタゾールから輸入しなければならないのだけどね。
新しい農産物は、しばらく荒稼ぎしたら、またプレドールとテルカスにも種や苗木を分けようと思う。両方ともうちの姉妹都市だ。というか嫁都市だ。
マイア姫の領地は狭いし、周辺に開いている土地もないので、農地を増やせない。残念だねえ。マイア姫の優秀さを示さなければならないのだけど。
■誘拐犯
聖女と噂のアンネリーゼをさらおうとした。
■アンネリーゼにお礼を言いに来たハンター
男四人。女一人。良いやつら。




