24 修羅場
ロイドステラの最北端ってラメルテオン領だったのか。
ロザリー・ラメルテオン侯爵令嬢。デビューのときにクレアに嫌がらせしてきたけど、ちゃんと謝ってくれたし、そんなに悪い子じゃないと思った。
最北端の領地なんて、最南端のメタゾール領と似たようなものかと思ったけど、まったく田舎ではなかった。
ラメルテオンの北側には、魔物のはびこる広大な森がある。ラメルテオンは、その森の魔物から国を守る役目を任されている、重要な領地なのだ。
軍備のために国から補助金が出ており、武具や食料などの商流が多いため町は栄えている。
南側のメタゾール領以外は、東も西もラメルテオンと似たようなものだ。魔物の住む森や山が続いていて、自然の国境ができているのだ。
おかげで、ロイドステラの周辺国の情報というのはろくに入らないのだ。
服を作るための生地は他国から輸入されているから高価だと聞いていたのだけど、いったいどこに他国に通じる道があるのか分からない。
ああ、なるほど。国境の地は、完全に魔物の森や山に阻まれて他国と行き来できないわけではなく、わずかな道を支配して密かに貿易を行っているということか。
すると、私も同じように海という私だけの道を使ってヒストリア王国や他の国と貿易をすればよいわけだ。
それはさておき、ラメルテオンの外には魔物の多くいる森がある!そこで、魔物退治の依頼を受けて冒険するんだ!
と思ったら…、いきなり出鼻をくじかれた…。私はランクFハンターなので、ランクFの依頼しか受けられないのだけど、ランクFの依頼は薬草採集しかない。
魔物退治はランクEからじゃん…。しかも、ランクEも大角ウサギかぁ。ウサギって強いのかな…。
がっかり…。しかたがないから薬草採集から地道にやっていこう…。
薬草の群生地は街の外だ。行ってみよう。
おや…、付いてきている足音が五つ。悪意はなさそうだ。
私は心を読む魔法をだいぶ制御できるようになってきた。最初は私が知りたいと思った人の思いを、かってに読んでしまっていたのだけど、知りたいとは思うけど大事な人の心だから、言葉で告げてくれるのを待ちたいというような場合には、うっかり読んでしまわなくて済むようになった。
他には、フィルター機能がある。私に向けられた考え、悪意、強い思いというようなものは、ある程度近くに来ると感じ取れるようになっている。フィルターせずに近くにいる考えをすべて読み取ってしまうと、頭がパンクしてしまう。
ラメルテオンのハンターギルドに入ったときから、悪意はなかったけど、私への興味はたくさんあった。
そして、後ろに私への強い興味が五つ…。男ではない。でも一人だけまるで男のような筋肉のきしみ音がする。だけど、その一人もやっぱり女だ。
この鍛え方、ハンターだ。戦士が二名。魔法使いが二名。
あとは隠密?斥候?一人だけ忍び足がうまい。だけど、私には筋肉のきしみ音や足音が丸聞こえだし、私への興味がダダ漏れなので位置がハッキリわかる。
てっきり一人の私を襲おうとする男でも付いてくるのかと思ったけど、付いてきているのは女なんだよなぁ。
前からずっと思っているけど、私は女を引きつけるフェロモンのようなものを出しているのだろうか。カローナはそういうものを絶対に出していると思っているのだけど。
まあいいや。悪意がないのであればそのままで。
薬草の群生地を探す。ポーション回復薬に使われる薬草なので、ポーション回復薬を生成する魔法を使う。すると、付近から材料が飛んでくる。昔からやっている探索方法だ。すると、群生地は簡単に見つかった。
しばらく薬草を摘んでいると、数十メートル先から魔物の音…、ウサギだ。ウサギにしてはでかい。まっすぐ私のほうへ向かってきている。私にターゲットを定めている。
おや、付いてきた五人が私を守ってくれるらしい。なるほど。護衛として付いてきてくれたのか。私って強そうには見えないかなぁ。鎧を着てきたのに。
やっぱり、現実ではミニスカアーマーなんて防御力ゼロにしか見えない。パンツもはいているから、この世界の女性よりはかなり防御力高いんだけどなぁ。
お嬢様が一人で出歩いていたら、襲ってくださいと言っているようなものか。魔物だけじゃなくて人さらいも出るかもしれない。ここはメタゾールほど平和じゃないんだな。
守ってくれるなら、お手並み拝見と行こうか。私はか弱いお嬢様を装っていればいいのかな。
角の生えたウサギが五匹。まあウサギとしてはけっこうでかいし、凶暴な顔をしている。
「「ファイヤボール!」」
付いてきた五人のうち二人は魔法使い。出会ったばかりの頃のカローナに遠く及ばない。でも、大角ウサギを的確に捉えて絶命させた。
次に飛んできたのは矢だ。忍び足のうまい子が撃ったものだ。矢は急所に当たった。うまいなぁ。
それから剣士と、槍を持った男…のように筋肉の付いた女が飛び出してきて、二人とも一撃で大角ウサギを仕留めた。
こっちもセレスには及ばないなぁ。実戦経験は多いんだろうけど、技はちゃんとした師匠に教わってないんだろう。
あっ、冷静に分析している場合ではない。私はか弱いお嬢様なのだった。
目をうるうるさせて、腕を胸元に寄せて、きゅるるん!
「ありがとうございます!」
「怪我はないか?」
マッチョ女は言葉遣いも男のようだ。だけど、マッチョ女も悪くない…。むふふ…。
「はい!皆さんがあっという間に退治してくださったので!」
「「「「「………」」」」」
あれ?お嬢様ぶりっ子な私は、五人の女ハンターのツボを押さえてしまったらしい。やはり私はツボを押すのが得意だ。
別に考えを読もうと思ったわけではないのだけど、フィルター機能は私への感情や強い感情を通すようになっているので、思いが伝わってきたのだ。
私だって可愛くなれるようにがんばっているけど、セレスやマイア姫の遺伝子には勝てない。そんな私でも可愛いと思ってくれるのは嬉しい。
「一人で薬草摘みなんて危ないわよ。最初は私たちみたいな先輩ハンターに指導してもらうのが基本よ」
「すみません。私、早くハンターランクを上げて一人前になりたくて!そして、お姉様方のようなパーティに入って、一緒に冒険したいんです!」
「じゃあ、私たちのパーティ、聖女の守り手に入りなさいよ!しっかり教えてあげるわ!いいわよね、みんな!」
「もちろんだ!」「しかたがないね!」「いいよ!」「ええ!」
「ありがとうございます!私、頑張ります!」
うーん…。キャラじゃない…。ぼろが出そうだ。
ランクCハンターパーティ「聖女の守り手」…。私は聖女ではないので守ってもらわなくてけっこう。
でも、ここに私が加わってもおそらくパーティランクCを維持できる。パーティランクは、構成員のランクの平均値、ときどき最頻値のような感じなので、Cが五人でFが一人なら、Cでいける。
このことの何が嬉しいかというと、私がランクCの依頼を受けたり、ランクCの魔物を討伐できるということだ。
べつに、ハンターランクに沿っていなくても、魔物くらい倒せるのだけど、ランクに沿っていない魔物を倒しても功績にはならないのだ。
盗賊なら二歳のときから何十匹も倒しているが、盗賊退治はランクD以上の依頼なので、お金がもらえただけで、何一つ功績になっていない。
でも、ランクCハンターパーティの一員として、ランクCの魔物や盗賊を倒すと、功績にしてもらえるのだ。もちろん、功績はメンバーの人数で均等に振り分けられるが。
そういうわけで、かったるい薬草集めなどしなくても、ハンターランクを上げるチャンス!これぞ玉の輿!違うか。
私は大急ぎでラメルテオンのハンターギルドに戻って、オークのヒレ肉集め、大イノシシのもも肉集め、大角熊退治を受けた。数はそれぞれ五頭以上、上限なし!
「それじゃあ行きましょう!」
早歩きで来たからか、みんなけっこうヘトヘト?魔法使いのアマージにはきつかったか。
「それなら」
「えっ…、うわぁ。ええええ!」
私はアマージをお姫様だっこした。
ああ、思い出すなあ。冒険に出てセレスとカローナを拾ったあの日…。
前回は女の子を拾おうと思って冒険したわけではないけど、今回は明確に女の子を拾おうと思って冒険に出た。
実際、こうして女の子を拾ってしまっているのだけど…。私は女の子に呼ばれてこの地にやってきた気がする!でも呼んでいたのはこの子たちではないと思う!何か違う気がするんだ!
「子」とか言っているけど、みんな四歳から六歳、年上なんだよね。でも、弓使いのレルーパと治療魔術師のマクサと、攻撃魔法使いのアマージは私より背が低いのだ。
私より背の高いのはリーダーで剣士のイミグラと、槍使いのゾーミアだけ。十五センチのヒールを履いているから、私はイミグラより高いのだけど、ゾーミアにはまだ届かない。ゾーミアは一九〇センチ以上ありそう。
早歩きで行ったら、またみんなヘトヘトになってしまった。
「も、ももも、もう大丈夫よっ」
アマージは顔が真っ赤だ。けっこう可愛い。平民には珍しく、髪を腰まで伸ばしている。だけど、お手入れされてなくてボロボロだ。今晩お風呂で…むふふ…。
「それでは降ろしますね。このあたりにオークが出そうです」
「もうだめ…」
アマージだけでなく、マクサも限界だったようだ。
しかたがない。むふふふふ…。
「ごめんなさい、疲れましたか?えいっ!」
「ああああん…」
ボクっ娘のマクサは可愛い声を上げるなぁ。ふくらはぎと腿が真っ黒だね。よく揉んであげよう。それから息が上がっているから背中もね。
「ああああああんん…」
次はリーダーのイミグラ。革鎧の上から押すことはできないので、鎧の隙間に手を突っ込んで…。
ふふふ…、筋肉が固くなっているよ。ハンターはトレーニングしたあとクールダウンとかマッサージとかしなさそうだもんね。
「ああああん…。ああはあああああん…」
次はレルーパ。忍びには長い時間音を出さないように変な体勢を維持したりする必要があるのだろう。割と筋肉は固い。
「あ、あああああん…。あああああ…」
次はアマージ。私がアマージを抱きかかえていたので体力はだいたい回復しているけど、このままでは脚が筋肉痛になってしまうね。
「ああああん…。あはああああん…」
最後にゾーミア…。今日のいちばんのお楽しみだ…。よく鍛え抜かれた筋肉…。トレーニングのあと、やっぱりクールダウンやマッサージをしないから、とても堅い。こういう筋肉はボディビルとして見せたいのならいいけど、瞬発力はあっても、酸素が供給されにくくて持久力に乏しい。よーし、ほぐしてしまおう!
「あはああああああああん…」
案の定、ゾーミアにいちばん喜んでもらえた!
「皆さん、疲れは取れましたか?」
「「「「「はっ」」」」」
皆、放心状態だったので、静電気レベルのショックを与えた。
「すみません、オークがたくさん接近中なので、戦闘準備お願いします」
「えっ?わかったわ」
「お、おう」
「わ、わかった」
「う、うん」
「え、ええ」
「声を消し忘れていたので、森中にいたオークを集めてしまいました。てへっ」
柄にもなく、自分の頭をコツンと叩いて「てへっ」なんてやってしまった…。
でも私はか弱いお嬢様なので、皆に喜んでもらえたようだ。
オークが十五頭。みんなには一人一頭相手してもらって、その間に私は十頭やってしまおう。
殺すと鮮度が落ちてしまう。でも殺さないと危険。そこで、脳の意識を司る部分に電気を流して焼き切って脳死させた。これで血抜きとか面倒な処理はいらないし、腐る心配もない。だけど、そのうち痩せ細ってお肉としては美味しくなくなってしまうだろう。いや、その前に脱水症状で死ぬかな。
オークを生きたまま背負い袋に入れていく。背負い袋の口ではオークの大きさのものを入れることができない。そのため、背負い袋の中には、もう一つ口の大きな袋が入っていて、その袋を引っ張り出すと、大きなものを入れられるようになるのだ。
けっして、ものを入れるときにものが縮小されるなんてことはないのだ。
イミグラたちの倒した分は死んでしまっている。これは冷凍して持っていこう。
一頭だけ冷凍したのだけど、生き返してから脳死にした方が、面倒がなくてよい。
それに何十頭も冷凍できるほど水の魔力は高くない。生き返らせるための光の魔力のほうが楽だ。
さて、十五頭を六人で割ったら二・五頭。たぶん功績が足りないので、もっと倒さねば。
もう、マクサとアマージに疲れられると面倒だ。
「えっ?」
「あ、ちょっとぉ」
右手でマクサを、左手でアマージを抱えて、険しい道を飛び越えていった。
あとは大イノシシと大角熊だ!
またみんなに気持ちよくなってもらって、イノシシと熊を呼んでもらおう!
「「「「「あああああん…」」」」」
その後はテントを張って、お楽しみのお風呂…。
みんな、とてもばっちい。もう分厚い垢の層ができていて皮膚なのか垢なのか分からない。
お風呂なんて入ったことないし、ハンターだと身体を拭かないで何日も過ごすことだってざらだろう。
「ここでお召し物を脱いでください…。早く!」
「えっ?は、はい…」
「ちょっと」
「待って、あああ」
「あわわわ」
「きゃぁ…」
みんな呆けていて、いつまで経っても服を脱いでくれないので、無理矢理引っぺがした。
あっ、破いちゃった…。あとで直しておこう…。
「それではお背中を流しますね」
「えっ?あああああん…」
「おお?あああああああああん…」
「ちょっ、まっ、あああん…」
「えー?ああああん…」
「えっ、あっ、あはあああん…」
移動中にちょっとずつやっていたけど、やっぱりお風呂でじっくりやらないとね。
ああ、今度から施術用のベッドを持ち歩くか。なんかいつもお風呂でやっているから、お風呂に施術用ベッドを作るか。
石けんできれいに洗って、肌荒れも髪の傷みも治してしまおう。ほら、みんな綺麗な女の子だ!
っと、五人を湯船に入れつつ、私は先に上がって、破いてしまった服と鎧を直して…。ああ、全部新調してしまおう。革鎧はいけるけど、金属鎧はちょっと無理。汚れだけ落とそう。
それから、夕食の準備っと。なんとなく朝から煮込んでいた牛肉のミルク煮込み。数日かけて食べるつもりだったけど、みんなに出したら喜んでくれた。
みんなにシルクのネグリジェ、それからパンツと魔導ナプキンをあげた。パンツと魔導ナプキンを売り始めてから五年経つのだけど、王都から遠く離れたこの地には存在を知られていないらしい。平民も買えるように流通量を増やさねば。
ネグリジェは別にスケスケとかではないけど、パンツをはいてから着るのが前提のミニスカートのワンピースだし、薄手なので丸めておけば邪魔にならないだろう。
それから、ホワイトドラゴンのアリシアをみんなに紹介した。やっぱりドラゴンというのは伝説の魔物として知られているらしい。
そして就寝。お風呂で楽しんだから、夜は普通に寝たよ。ベッドは一つだけどね。
翌日、みんなに玉子サンドを出して、帰り道でまた同じようにみんなの声で魔物を呼んで、倒しながら帰った。
ラメルテオンのハンターギルドにて依頼の達成報告と、依頼されていない収集物の換金をした。すると、どうやらみんなの一年分の稼ぎになってしまったらしい。
大型の魔物の肉なんて、一人一頭の一部位を持って帰れればいいところであり、まるごと一頭持って帰るなんて不可能だ。それを九十頭も持って帰ったため、一年分の稼ぎになってしまったというわけだ。
私ははした金はいらないし、はっきりいってみんなを利用させてもらっちゃって悪いので、報酬と売却金をイミグラにすべて渡した。
まあ、おかげでいっきにランクDに昇格できたよ!
それじゃあ、ハンターランクも上げられたし、これからは自分で魔物討伐してランクを上げていこうかな…?
でも、目の前で捨てられた子犬のような顔をしている五人…。
私はここにお嫁さんを探しに冒険しに来たのだ。そして、このラメルテオンの地には、何か私を呼んでいる者がいる気がする。でも、それはこの五人ではないと思うのだ。
いや、この五人も捨てがたい。今まで美しい貴族のお嬢様や王族のお姫様とばかり付き合ってきたけど、平民の子が可愛くないとはいっていない。
イミグラは頼れるお姉様タイプ。
マッチョなゾーミアは今まで会ったことのないタイプでほぐしがいがある。
無口で小柄なレルーパもツンデレっぽくて可愛い。
マクサもこの世界で初めて出会ったボクっ娘。
アマージは髪を伸ばしてお嬢様に憧れている少女。
せっかく出会ったのにお別れするには惜しいな…。何より、お嫁さんと別れて寂しい私の心の隙間を埋めてくれた…。
「あの…、私はまだ聖女の守り手にいてもいいですか…」
「もちろんよ!」「当然だ!」「当たり前」「大歓迎だよ!」「おそばにいさせてください!」
私はまだランクDだし、オークや大角グマは討伐対象ではないんだよね。ランクCになるまで一緒にいてもいっか!
その後、数日、私たちは行動を共にした。毎日、一年分の魔物を退治していたら、私はあっという間にランクC、五人はランクBに昇格してしまった。
でも…、もうちょっと一緒にいてもいいかな…。
ちょっと、お肉の値段が下がってきた…。でも、ラメルテオンの周りにはいくらでも魔物がいるので、倒しすぎて困るということはない。他のハンターの仕事を取ってしまうということもないようだ。素晴らしい!いや、素晴らしくない。どんだけ魔物いるんだよ。
ちなみに、ランクCにはお肉の美味しい魔物が多かったのだけど、ランクBは虎とかゴリラとか、美味しくない魔物ばかりで、お肉を売れない。ただ、依頼の報酬は高い。
べつに、ランクCの魔物を倒していけないわけではないので、ランクBの魔物の討伐依頼を受けつつ、オークや大イノシシなども見つけ次第倒して収集していった。
魔物退治ばかりをやっていたわけではない。
仲良くなった人みんなにやってあげていることだけど、精霊を付けてあげた。それから毎晩精霊に魔力をあげて、精霊と魔力を鍛える方法を教えた。ただし、電気と闇は後回しだ。精霊のサポートなどについても教えた。
炎を青にしたりとか、分子振動による温度変化など、ちょっとした魔法を教えた。それから、人体の知識を教えて、治療魔法の効果が高まるようにした。
数日して、マクサは光の精霊、アマージは炎の精霊が見えるようになった。二人は前からその属性の魔力がそれなりに高かった。
「アンネお嬢様…。ボク…、前から少し感じていたんだけど…、それってアンネお姉様に付いている光の精霊なんだね…。それがアンネお嬢様の力の秘密…」
マクサは私に付いている四メートルの光の精霊がうっすらと見えるようになって、驚いているようだ。
「そうですね。光の魔力を鍛えると、身体強化で強い力を出せるようになります」
「オレもがんばる!筋肉を付けずに力が付くなんてすごい!」
あれ?ゾーミアは筋肉を好きなわけではないのか。
それから、イミグラ、ゾーミア、レルーパと近接戦闘の特訓もした。私の剣の技術はセレスには及ばないけど、速さや反応速度には自信がある。
「お嬢様は私たちが痛くないようにしてくれているの?すごい速さで剣を当てられても、全然痛くないのだけど」
私は流血沙汰がいやなので、刃のないレイピアを使っているにもかかわらず、本気で殴ることがない。寸止めならず、当て止め状態。
「それはですね…、普段は剣を当てて相手に魔法を流しているんです」
「それはどんな魔法なの?」
「ちょっと説明が難しいので、いずれお教えします」
この世界で電気の魔法を使えるのは、転生者である私とダイアナを除けば、メタゾールの学校に通っている者だけだ。あ、一年経ったから、そろそろお嫁さんたちの学校でも理化を教えているかな。
もちろん毎日みんなをお風呂に入れてあげて、マッサージしてあげた。みんな見違えるように綺麗になった!
「あの…、みんな…イミグラまで筋肉質な体型がお嬢様のような柔らかい体つきになっているのに、オレはやっぱり筋肉が付きすぎていて、みんなのようにはなれないのか…?」
「ゾーミアお姉様の筋肉も柔らかくほぐしてしまってよいですか?てっきりご自慢の筋肉なのかと思っていました」
「いいんだ。ほんとうはオレは、アンネお嬢様のような女の子の体つきに憧れていたんだ」
男勝りなのに実は女の子になりたいタイプだったか…。ネグリジェとか嬉しそうに着るのに、みんなと比べてなんだかがっかり、みたいな気持ちが伝わってきたから、もしやとは思っていたけど…。
「それでは、今日からみっちりほぐしますね!」
「頼んだ!」
私の筋肉は常に完全にほぐされていて、ぷにぷにの赤ん坊のようにしてある。脂肪に見えるのはほとんどは筋肉だ。力を入れるとかなりの力こぶを作ることはできる。
あ、お尻はいまいち脂肪が取りきれない。もうちょっとお尻は小さくてよいのだけど。
あと、胸に成っているメロンは鍛えようがない。私の体脂肪率のうち五パーセントは胸の脂肪が占めている。
ふふふ…、ゾーミアもイミグラもレルーパも、私と同じ、ぷにぷにの筋肉にしてあげよう!
「「「あはああああああん……」」」
マクサもアマージも魔法職なのだけど、ヒルダやクレアなどと比べると筋肉の量がかなり多い。ぬくぬくと育ってきたお嬢様とは違うのだ。
ハンターパーティ「聖女の守り手」は、私色に染まってしまった…。私が乗っ取ってしまった…。
聖女である私が聖女の守り手に入っているのはどうなのだろう。って、誰が聖女だ!私は聖女ではないってば。
ラメルテオンのハンターギルドにたむろしているハンターどもの視線が熱い。この世界でお肌や髪の手入れなんかできる平民なんていない。根無し草のハンターなんてもってのほかだ。
それなのに、まるで貴族、いや王族でもあり得ない、さらさらな髪と、もちもちの肌を備えた女性ハンターパーティ「聖女の守り手」。
綺麗なだけではない。技も魔法も一流。この子たちは私が育てた!
なーんて、たった数日でそんなに強くなれないけどね。でも、魔法は知っているのと知らないのとでは、格段に効率が違うことがいくつもあるからね。
二週間がすぎた。
「すみません、用事がありまして四日ほど自分の領に戻らねばなりません…。四日後の夜には戻れます…」
「そう。しかたがないわね…」
「四日なんてすぐだ」
「離ればなれ…」
「また、戻ってくるんだもん、平気だよ」
「南の貴族のご令嬢が何日も一人でこんなところにいられるわけないわよね…」
「あの…」
「何ですか?レルーパお姉様」
「トイレを…」
「ああ…」
私のテント魔道具に備え付けの、温水洗浄便座付きトイレ。あれを味わうと、普通のトイレには戻れない。たとえ消臭脱水の魔道具付きのトイレでもだ。
「うーん…。このテントをお貸しします。ただし、このテントは私の魔力で維持されていまして、五日経つと中身が出てきてしまいます。私は必ず四日で戻ってきますので、それまで使っていてください」
このテント魔道具は、3LDKの馬車の魔道具よりは小さいので、闇の魔導石をいっぱいにしておけば五日は保たせることができる。
「恩に着る…」
「それでは、お風呂の入れ方などもお教えしますね」
「ありがたい…」
お風呂には、水道の魔道具が備え付けてある。水の魔導石と火の魔導石によってお湯を出せるようになっている。シャワーも出せる。魔導石をいっぱいにしておけば一ヶ月は保つ。
ちなみに、水を出す魔法というのは、空気中の湿気を集めるだけであって、無から水を生み出すのではない。しかし影収納の中の湿気には限りがある。そのため、実は予めタンクに貯めておいた水をくみ上げるだけになっている。空気中の湿気を集めるのに比べて、ただ水をくみ上げるのは魔力の消費も少ない。
そのタンクだが、実は下水と一緒になっている。水魔法は、汚物と混ざったタンクの水であっても、H2O…、水分子だけを集めるようになっている。とてもエコなシステムなのだ。
「あの…、ドラゴン…」
「あ…。アリシア、お部屋でおとなしくしていてください…。あの…、アリシアのご飯をあげていただけますか…」
アリシアはこのテントに入れて持ってきたのだった…。私の別の影収納に入れることもできるけど、部屋がないと快適には過ごせないだろうし…。
「わかった」
「すみません…」
「部屋を借りるのだから、それくらい当然」
「そう言っていただけると助かります。もし、戦闘で危機に陥ったら、テントに向かってアリシアを呼んでください。力になってくれます」
「分かった」
北から南に戻るので、ロイドステラ王都付近のマイア姫の領地から回ることにした。ラメルテオンからマイア姫の領地まで二〇〇〇キロだ。
「アンネお姉様…、何その服…。ではありませんね。それは鎧ですね」
「え、えっと…、素材集めをするのに、危険なので防具を…」
「素材集めをした足で来たのですか…」
「は、はい、そうです…」
しまったぁ…。ドレスはテントのクローゼットの中だ…。いや、私の影収納の中にシルクはいつも入れてある。でももう遅い…。
素材集めをした足で来たなんて苦しい…。嘘はついてないのだけど…。あれ…、ダイアナに頼まれた素材…、完全に忘れてた…。
「他の女の匂いがします…」
「え…」
「いえ、匂いというのは言葉の綾ですが、アンネお姉様は顔に出やすいのですよ。満たされているという顔をしています」
「そ、そそそ、そんなことは……、すみません、あります…」
やはり王族の人を見る目は侮れない…。
「私たち五人の穴埋め…、五人いますね!」
「えっ…、そ、そうです…」
なんでそこまで分かるんだ…。まさか心を読む魔法を使えるのか…。
しかし、マイア姫の中でレグラはカウントされていないのかな…。まあツッコミを入れると余計怒られそうだ…。
「むきーっ!アンネお姉様!」
「は、はひっ!」
「今日は帰しませんよ…」
「ええ…」
えっと…、今日帰れないとなると…、明日の朝、マイア姫の領を発って、クレアとヒルダをとろけさせて…。メタゾールから船を出せるのは昼頃かな…。すると、ヒストリア王国のバステル領に着くのは夜中だから…、あさっての朝一にヒストリア王城に着けるかな。
ヒストリア王城には泊まらないで、昼頃に出発して…、北側の領地の一押しツアーにすれば、予定どおりに帰ってこられるかな…。
「なーんて、アンネお姉様を困らせることはしませんよ」
「ふぅ…」
「でも、アンネお姉様…、ひどいです…」
「ご、ごめんなさい…。我慢できなかったんです。お母様はもうふにゃふにゃだし、メイドにも手を出してしまって…」
「アンネお姉様の色魔!」
「はい…、そのとお…、えっ…、私はべつに…」
私はべつにエッチをしているわけでは…。これは性欲ではないんだ。ああ、なんで私は、こんなにもみんなを気持ちよくしてあげたいんだろう…。
指先から光の魔力が漏れ出ていてむずむずする…。
「もういいです。なんだか新しい女のところに早く帰りたいようですから…」
「マイア様…、ごめんなさい…。失礼します…」
ああ…、ついに嫌われてしまった…。マイア姫が私のことを嫌いになってしまった…。お嫁さんとの初めての離婚…。
「待って…、ごめんなさい…、いつもどおりでいいので…、ください…」
はやっ。マイア姫から伝わってくる、寂しさ、悲しさ、愛おしさ…。読まないようにしているとはいえ、強い思いは伝わってくるようにしてある。
それに、嫌悪があればそれも伝わってくるはず。でも嫌いという思いは伝わってきていないのだ。
私はずるい…。マイア姫が私のことを嫌っていないと知って、安心してしまった…。でも、マイア姫を悲しませているのは事実…。
「マイア様…、ごめんな…」
「謝らないでいいから、いつものようにお願いします…。そんなお顔もいやです。もっと嬉しそうなお顔をしてください」
「はい…!」
「はあああああああああああん…」
いつもより力が入ってしまった。いや、もう光の魔力が暴走気味で、ちょっと指で触れただけですごく感じさせてしまうらしい…。
魔力の暴走だなんて…。魔法は使用者の意図しないことは起こらないはず…。だから、これは私の意図…欲望…。私はマイア姫を気持ちよくさせたくてしかたがない!暴走しているのは私の欲望!
「アンネお姉様…、うれし…ぃ……」
いつもどおり二時間施術した。だけど、威力がすごすぎて、途中でマイア姫を気絶させてしまった。
気絶させてしまったマイア姫をベッドに運んで、私はマイア姫の領をあとにした。
今日はマイア姫を怒らせてしまったので、お話ししながら授乳できなかった。ちなみに、ラメルテオンにいるときから、常に母乳は溢れていて母乳パッドにお世話になっていた。
だけど、聖女の守り手のみんなに授乳したりはしていない。別に、飲んでほしいという願望を持っているわけではない。
いや…、意外と癖になる…。授乳していると飲んでいる姿が自分の可愛い子供のように思えてきて…、それがまた心地よい…。一度やってしまうと、やめられなくなってしまうので、聖女の守り手のみんなにやらなくて済むのであればやらないでおこう…。
マイア姫の次はクレアだ。
その前に、影収納の中でドレスを作って着替えだ。
ダイアナがいないのでロングスカート…、と思ったのだけど、なんかもうミニスカートで慣れてしまって、ロングスカートは落ち着かない。
結局いつもどおりの絶対領域を確保したスカートとガーターストッキングにしてしまった。
「もう~、バカっ!遅いし電話にも出ないから、今日は来てくれないのかと思ったよぅ」
「ご、ごめんなさい…」
電話の電波が届くのはメタゾールからテルカスの間だけ。ラメルテオンはもちろん、王都にもに届かない。
私の胸をぽかぽかぷにぷに叩くクレア。やはり恋人にするのなら、こういう可愛い妹系の子が良い。
口では謝っておきながら、クレアの泣いている姿を見て可愛いと思ってしまった…。ああ、私はクレアやマイア姫のことを裏切っているのだろうか…。
私の中で、色々な思いが葛藤している。
私はたんに同性の友達を増やしているのである。同性の友達が何人いたっていいじゃないか!
私のマッサージは気持ちいいかもしれないけど、エッチではない。誰にやったっていいじゃないか。
私は前世から、お客さんが気持ちいい顔をしているのを見たり、気持ちいい声を上げているのを聞くのが好きなんだよ。私だって満足感はあるけど、私が気持ちいいわけじゃないんだよ!
私たちはまだ法で認められた結婚をしたわけじゃないんだ。それに、法律でも妾や側室、第二夫人はいくらでも認められているのだ。
前世の母国だって、何百年も前の殿様はたくさん女を侍らせていたんだ。
それに、すでに八人もいるんだし、何人いたっていいじゃないか。
でも…、
前世の母国では、一夫多妻制は認められていなかったし、私もそれでよいと思っていた。昔、一夫多妻制が認められていたのに、現代では廃止されたのには、それなりの理由があるはずだ。
私たちは何年も夜を共にした仲。裸の付き合いをした仲。ただの友達ではない。
私たちは幼心に結婚を誓った仲。たとえ女どうしでも。とくにカローナとはほんとうに子供まで作ってしまった…。
それに私はみんな子供を作る魔法を知っている…。同性だからなんて言い訳にならない。私とみんなは男女の関係と考えていい。
「…ンネ!ねえってば!」
「あっ…、ごめんなさい…」
「私のこと、もう好きじゃなくなっちゃった…?」
「そんなことはありません…。好きで…、一緒にいられないのが辛くておかしくなりそうなんです…」
「アンネ…。私もアンネのこと好きでたまらないよ!なんで領地経営なんか…」
「どうすればまた一緒に暮らせるのか考えましょう。真剣に」
「うん…」
はぁ…。領地経営なんて罰ゲームでしかない。お金を好きに使いたいから、商人くらいでいいんだ。
私が浮気していることはクレアにはばれなかったけど…。いや浮気じゃないし…。女友達だし…。この話は堂々めぐりなので保留だ。
だけど、クレアは私の気持ちが離れていってるのではないかと心配になっているようだ。私がみんなを悲しませているのは事実だ…。
クレアに授乳して、クレアを二時間施術して、テルカス領をあとにした。
「アンネ!遅いわよ!ひどいわ、電話にも出ないし!」
「ごめんなさい…」
うう…。ここも修羅場だ…。でもこれは浮気ではないはず…。
「また他の女に手を出しているんでしょ!」
ぎゃー、さっそくばれた…。
「は、はい…」
「今度はどこの誰よ!」
「えっと…、ラメルテオン領のハンターです…」
「なんでそんなところ…」
「えっと…、素材集めをしていたところで、出会いまして…」
嘘は言っていない。あまり嘘はつきたくない。
でも大事なことは隠しておく。嫁を探しにいったなど、口が裂けても言えない。
「はぁ…。何人増やしてもいいから、私のこと、忘れないでね」
「えっ?はい!」
あれ、意外と寛容だ。一夫多妻制を受け入れているということだろうか。
私が一夫多妻制をおかしいんじゃないかと感じることがあるのは、やはり前世によるところが大きい。でもこの世界の人にとっては普通のことなんだ。
いやいや、自分を正当化できそうになってうかれている場合ではない。はぁ…。とにかくこの辺りのことを考えるのは堂々めぐりだから保留だ。
「じゃあ、いつもみたいに、いただくわね」
「はい!」
ヒルダに授乳をして、ヒルダを施術して、プレドール領をあとにした。
さて、メタゾールに戻った頃にはもう真っ暗だった。まあ、ラメルテオンからメタゾールまでは、メタゾールと王都の往復より五〇〇キロ長いだけだ。一時間半遅れってところかな。
お母様は二週間経った今でもふにゃふにゃにとろけていそうだしスキップ…。これで遅れを挽回できる。
夜中の間に船でヒストリア王国、バステル領へ!
寝る前に船の中で、三五〇〇キロ走り続けたシルバーをいたわってあげた。
翌朝、バステル領からヒストリア王城へ移動した。
「会いたかったわ」
「わたくしも会いたかった…」
「一ヶ月に一度しか会えないのは辛いですね…」
セレスとカローナは、私のことを信じてくれている。二人なら、ヒルダのように受け入れてくれるだろうか…。
後ろめたい…。法が私を捌かないのであれば、私は自分で自分を捌くべきだ…。でも、まだ私は言い訳をしている…。
いつもどおり、セレスとカローナとレグラに授乳して、たっぷり施術。
翌日、ヒストリア王国の領地を回って、国民にサービス。ああ、忙しい…。
そして深夜の間に船でメタゾールに戻った。
翌朝、船が到着すると、シルバーを駆ってラメルテオン領へ。朝六時に出ても、到着は夕方六時だ…。ほんとうに忙しい…。
忙しいのだけど、新しい女の子を見つけたからといって、ここでお嫁さんたちに会いにいくのをやめたら、完全に離婚だ…。
ラメルテオンに到着して、ハンターギルドに赴いた。ハンターギルドに聖女の守り手の姿はなかった。
「あの…」
「アンネリーゼさ…ん、お帰りなさい。他の皆さんは魔物の討伐依頼を受けていますよ。朝に出ていきましたので、もう戻るのではないですかね」
「そうですか、ありがとうございます」
私は正式な聖女の守り手のメンバーだ。普通は他のハンターがどこに行ったかを教えてくれることはない。だけど、同じパーティメンバーなら教えてくれるのだ。
しかし、私はハンターパーティの一員だけど、伯爵家当主でもある。二重生活なんてまさに浮気の最たるもの。
っていうか、伯爵なんてやめたい。
「「「「「アンネお嬢様!」」」」」
聖女の守り手の五人の声がハモった。
「明日からまた一緒に狩りできるのね!」
「よかった…よかった…」
「アンネお嬢様がいなくて大変だった」
「帰ってきてくれてよかったよぅ…」
「アンネお嬢様ぁ!」
たった二週間しか一緒にいなかったのに、みんなこんなにも私に依存しちゃってる…。やっぱり私は罪作りな女なんだ…。
私もみんなのこと好きだよ…。正妻とか妾とかじゃなくて、ヒルダたちと同じくらい好きなんだ…。
「私も皆さんとまた一緒に冒険ができて嬉しいです!」
テントを返してもらい、ギルドを出て街の外に向かった。
「アンネお嬢様、馬も乗れるんだな」
「この馬はシルバーといいます。私はそれほど乗馬がうまくありませんが、シルバーがうまくサポートしてくれるんですよ」
ラメルテオンを離れる前は、シルバーはテントの中にいたから、顔見せしていなかった。いや、帰るときにちょっと見せたかな。
今回はギルドを出てから、シルバーは皆と一緒に歩いて付いてきている。
「へー!なあ、明日オレを乗せてくれないか?槍のオレにぴったりだろ!」
「シルバー、お願いできますか?」
「ぶひいいん!」
「おまえ、頭良いんだな!」
ふふふ。シルバーはヘタな執事よりよほど役に立つよ。雌だけどね。
ご主人の愛人ならしかたがない、乗せてやろう。という気持ちがシルバーから伝わってきた。
愛人…。うん、そうだね…。
森に到着してテントを張った。
街の宿があるのに、外で野営をするとはこれいかに。ここは田舎ではないので、トイレはちゃんとしているけど、お風呂なんてどこに行ってもないのだからしょうがない。
「ただいま、アリシア!」
「くーん」
私がテントに入るなり、アリシアは甘えてきた。
「大角グマ十頭に囲まれてピンチになってね、アリシアを呼んだのよ。そうしたら、大角熊十頭を瞬殺…」
「まあアリシア、みんなを助けてくれたんですね。偉いです!」
「くぉーん」
「あの…、アンネお嬢様のドレス…、素敵…」
「あ、そういえば着替えていませんでした」
マイア姫の領からテルカスへの移動中に即席のドレスに着替えたままだった。いや、私のドレスはすべて即席なのだけど。
アマージは貴族のお嬢様に憧れる女の子。ドレスを作ってあげてもいいのだけど、そうすると、他の子も欲しがりそう。さすがに五人分の生地を持ってきていない…。そのうちね…。
メタゾールに戻ったときに、玉子や牛乳などの食材を補充してきた。今日はそれを使って…、
「これは玉子焼きといいます!こちら側をイミグラが、こちら側をゾーミアが食べてください」
「「えっ…」」
私は知っている。私が入る前から、この子たちは女の子を好きな女の子であることを。なんというか、同じ穴の狢は見ただけで分かるんだよ。
「はい、こう持って、イミグラお姉様がくわえて、それをゾーミアお姉様が持って、くわえてください」
「「…」」
「そして、そのままもぐもぐと食べ進めてください。そして最後に…口づけ…」
「「……」」
「うふふ、どうですか?お互いの唇の味は」
「「………!」」
イミグラとゾーミアの唇が触れた途端、二人はとろんとなってしまった。でもこの二人、キスしたのは初めてじゃないな。
「じゃあ、レルーパお姉様がこれを持ってくわえて、こっち側をマクサお姉様が持ってくわえてください」
「「…」」
「あのっ!アンネお姉様がそっち側をお願いします!」
玉子焼きを手に持ってくわえ始めたアマージ。
「はい!喜んで!」
私は返事をして、アマージのくわえている玉子焼きを手に持って、自分の口に入れた。
どんどん短くなっていく玉子焼き。そして、アマージの匂いが強くなってきた。
うふふ、今日はまだお風呂に入ってないからね。でも女の子の一日分の汗なんて、ちょっとした香水みたいなもんさ。
そして、アマージと唇が触れあう…。
「次はオレ!アンネお嬢様!オレオレ!」
詐欺かな?男勝りを振る舞っているけど、ほんとうは乙女なゾーミア。このギャップに萌える。うん詐欺だね。
「ボクだよぅ。ボク!」
ボクボク詐欺!ボクボク詐欺とは、ボクっ娘が相手を魅了して陥れる詐欺のことである。
「次は私」
「私よ!」
みんなと玉子焼きを食べて、物理的にも精神的にもおなかがいっぱいになった。
■イミグラ(十九歳)
聖女の守り手のリーダー。よく鍛え抜かれた身体を持つ剣士。髪型はポニーテール。
革鎧を纏っている。革鎧のボトムスはロングスカート状。
■ゾーミア(十八歳)
槍使い。マッチョで大柄な女性。髪型はベリーショート。一人称は「俺」で、言葉遣いはまるで男のよう。
チェインメイルを纏っている。チェインメイルのボトムスはロングスカート状。
■レルーパ(十九歳)
弓使い。ナイフも使いこなす。髪型はショート。
鎧は革の胸当て、厚手の服。ボトムスは膝丈のスカート。
■マクサ(十七歳)
治療魔術師。髪型はボブ。僕っ娘の女の子。
服装は厚手のローブ。杖を持っている。
■アマージ(十八歳)
攻撃魔法使い。平民には珍しく、腰まで伸ばしたロングヘアー。まったくお手入れできないので、痛んでいてボサボサ。
服装は厚手のローブ。杖を持っている。
■ロザリー・ラメルテオン侯爵令嬢(十三歳)
四年前のデビュタントパートでシンクレアのドレスを破いて意地悪した悪役令嬢、と見せかけて、領民に慕われている、ほんとうは真面目で誠実なご令嬢。
◆ラメルテオン侯爵領
ロイドステラ王国の最北端に位置する。
◆聖女の守り手
ラメルテオン領で活動するランクCハンターパーティ。イミグラ、ゾーミア、レルーパ、マクサ、アマージの、女性だけのパーティ。




