22 転生令嬢は聖なる親指で国民みんなを癒した
オキサトミド伯爵の記憶から、紛争に参加している貴族が分かった。そういうところに、のこのこ足を踏み入れてしまうと、また争いごとになりかねないし、毎回家をお取り潰しにするのも面倒。
そこで、まずは中立の領をすべて回って、支持を得ようということになった。それって三十あるんだよね…。
領民の数は、男爵領なら二百人、子爵領なら五百人、伯爵領なら八百人、侯爵領なら千五百人、公爵領なら二千人ってところ。国全体で三万人くらいかな…。
国土は三千キロ四方くらいはありそうだけど、前世から考えると信じられないほど人口が少ない。だいたい、十キロか二十キロ四方くらいの町があって、隣町までは五十キロ荒野や森が続いていたりする。多くの場所は魔物がはびこっていて、人が住んでいる場所など一割にも満たない。それに、病気や貧困で簡単に人が死んでしまうから、こんなものなのだろう。
ちなみに公爵はエッテンザム以外殺されているので、当主不在の公爵領は現在、紛争に参加している侯爵家と伯爵家で支配しているらしい。また、王都はエッテンザムが支配しているらしい。
オキサトミド伯爵の記憶の片隅には、他国の介入もあり得るかもしれないけど、今のところそういう情報はないようだ。
紛争に参加しているのは侯爵家と伯爵家ばかりで、あとは中立を保っているのが三十家。これだけで二万人くらいいそう…。
まあ一日七百人くらいを二時間かけて見れば、一ヶ月で二万人捌けるのか。
というわけで、ヒストリア王国のほぼ全国ツアーは始まった。
せっかく集まってくれるのに、五分の曲が一曲だけじゃつまらないだろうということで、曲をどんどん追加していった。基本的には所信表明の曲だ。だけど、新しく訪れる世界を、明るく素敵なものに捉えられるようになっている。
これ、ほんとうにダイアナが作ったのかな。電気の精霊が良い感じに作ってくれたとかじゃないよね。
毎日ライブをやっているかたわらで、新曲を練習するのは大変だった。みんなよく覚えられるな。私が領民の一押し会をやっている間に、みんな練習しているんだ。みんなずるいよ。
こうしてあっという間に一ヶ月が過ぎ、セレスは中立だった領で次々に支持を得ていった。
この三十の領の貴族は王位に興味のない者だった。誰のことも支持せず、誰が王になっても素直に従うだけ。でも彼らは一人の王女を支持するようになった。三十の領は一枚岩となったのだ!
というか、ヒルダとクレア、とくにマイア姫は、一ヶ月も領地を開けていて大丈夫かな…。まあ、移動に一ヶ月かかるような世界だから、出かけるいったらこれくらい余裕なのか。
とはいえ、ここからは紛争地域。オキサトミド伯爵領のように戦闘になる可能性もある。
「ここからは、争いを避けられないかもしれません。でもできるだけ争わないために、途中の領には寄らずにいきたいですね」
「領地を通らないとなると、険しい山道を進む必要があるわ」
「馬車は通れませんわね」
「じゃあ、馬車は私の影収納にしまって、私がシルバーと山越えをします」
「そんな、危険よ!」
「私はよく一人で山に出かけていますよ」
「そうですね、アンネお姉様は私を放って、一人で出かけていましたね」
「マイア様は学校に通われていましたので…」
「私はアンネお姉様に手取り足取り教えていただきたかったのに…」
「そう言って治療院で私の技を手取り足取り見ていただいたのに、ものにしてもらえなかったので…」
「あれはっ…」
「もう、マイア様は話の腰を折らないで」
「ごめんなさい…」
「それで、ほんとうにアンネは一人で大丈夫なの…?」
「はい。心配しなくても大丈夫ですよ」
「なら、その作戦で行きましょう」
私は影収納に馬車を入れて、シルバーにまたがった。目指すはヒストリア王都!
シルバーは険しい山や森を駆け抜ける。さすがに時速三百キロとは行かない。障害物が多すぎる。
ええい!全部整地してしまえ!土魔法でシルバーの行く手を阻む木や岩ごと平らにしていく。シルバーにはこれを実現するだけの魔力はない。私がやらねば。
こうして私は十時間ほど走り続けて、王都の手前までたどり着いた。朝から走り始めて、もうあたりは真っ暗だ。
門にいるのはエッテンザム公爵の兵なのだろうか。もうオキサトミド領のときの二の舞は踏みたくない。
少し王都から離れた森の中で、影収納から馬車を出して、みんなと作戦会議だ。
「アンネ!十時間も音沙汰ないから心配したじゃない!」
「以前、馬車が壊れたときもこうしたじゃないですか。途中でお菓子を食べたりもしましたよ」
「もう…、無理はしないでね…」
「はい」
たしかに栄養は不足しているかもしれない。でも力の多くは光魔法の念動的なものに頼るようにして、自身のエネルギー消費は押さえたよ。
「それで、門番をどうしましょう」
「エッテンザム公爵家が王族暗殺の首謀者なら、エッテンザムの兵は敵ですわ」
「エッテンザム家の兵士の数は?」
「私が勘当される前は三百でしたけど、二年も経っているのですからわかりませんわ」
「王国の兵士はどうなったのでしょうね」
「王国は二千の兵を用意していましたが、二年前、南の地でスタンピード発生して、多くの兵が出払っていたんです。その隙を突かれたのかもしれませんわ。あとになって、何者かが魔物を操って、王国の兵をおびき寄せたのではないかと言われていました」
「魔物を操れるものなんているんですね」
「伝説の魔物を操っている者が何を言っているんです?」
「あれ?」
おかしいなぁ。私は操ったりしていない。アリシアとワイヤとは友達のような関係だ。
『王城を占拠してコンサートライブしよう。土魔法で巨大なプロジェクタスクリーンを作って、ライブを街中に流そう』
「マジで…」
ここまで歌と踊りで国を統一してきたけど、これまでの領地は中立だったからだろう。だから、敵対的な領地を避けてきたんだ。
そして、これから相手にするの首謀者だ。ボスだ。ボスをこんな夢みたいなやり方でなんとかできるものなのか…。
「それで、問題はどうやって突破するですが…、また馬車を影収納に入れて、私が平民の格好をして普通に門をくぐ…」
「アンネが平民になれるわけないでしょ!」
うう、ヒルダに怒られた…。
「では、私が風魔法で飛んで城壁を越えて行くのは…」
「なんでアンネは一人で行こうとするのよ」
「そうだよ。私たちも何かできるよ」
「でも、大勢で動くと敵に見つかります。敵に見つかるよりは、隠密行動のほうが危険が少ないですよ」
「そうかもしれないけど…」
「なんでアンネばかり…」
ヒルダとクレアは私のことを本気で心配してくれている。
「大丈夫ですよ。みんなはライブのときに力を貸してください」
「分かったわよ!」
「分かったよ…」
『じゃあさ、ママは王城に飛んでいく間に、空からチラシを配って』
「マジで…」
飛んでいるものは親でも使えというやつか…。
というわけで、森の中で再び馬車を影収納にしまって、下から上に風を起こした。
すると、私のスカートがめくり上がって、私のハーフバックのパンツがあらわになった。大丈夫。私はパンツを履いているので、防御力が高い。どちらかというと、シースルーとはいえパンストまではいているので防御力が過剰なくらいだ。
っておかしい…。私はパンツをアピールしたかったわけじゃない。四年前はこれで飛べたはず…。重くなったからか…。たしかに、胸とお尻にかなりのお肉が付いた。でも、ウェストは二歳のことから変わってない。
変わったのもの…、スカートの面積が二歳の頃よりも小さい!このミニスカートがいけないのだ…。これでは浮力を得られるわけない…。
もう、ダイアナのいたずらのせいだ!といっても、最初にシルバーにまたがるためにミニスカートにしてしまったのは私だ。でも、あのときはこんなに短くなかった。あのときの長さにすれば!
土魔法でスカートに生地を継ぎ足した。アリシアのうろこではなくてシルクだけなので防御力はない。
飛べなかった…。
というか、いまだけロングスカートにしよう。いや、べつに、ミニスカートにするのはシルバーにまたがるときだけでよかったのに、ダイアナに普段着にさせられてしまったんだ。普段着はべつにロングスカートでいいんだけど…。
いや、私はミニスカートを最先端のファッションにすると誓ったのだから…。
あー、もうっ!とりあえず、今はロングスカートじゃないと飛べないんだよ!
スカートにどんどんシルクを継ぎ足して、足首まで隠れるようにした。うーん…、たしかにこれは色気が足りない…。じゃなくて、飛べさえすればいいんだよ…。
私がこんなにもミニスカートを好きになっていたなんて思ってもいなかった…。
今度こそ下から上に風を起こして、スカートがパラソルのように広がって、浮力が生まれた。やった!
これで闇夜の中の城壁を越えて、王都に侵入!そのまま王城に突撃しちゃえ!時速二十キロくらいしか出ないから、王城までは少し時間がかかるけど。
夜だし、少女が空を飛んでいても、誰にも分からないだろう。パンチラを見せられないのが残念。
あ、風魔法で窒素だけを集めたり、火魔法で温風にしたら、あまり風を強くしなくても浮くのかな。なんて、余計なことを考えながら、空中からチラシをばらまきながら王城のてっぺんの屋根の上に到着。
良い眺めだ。灯りが一つもなくても、街中って結構見えるものなんだな。でも、ところどころ破壊された跡が。
やはり、早く紛争を終わらせなければならない。
屋根の上から降りて、てっぺんの部屋に入った。このあたりに、人の心や物音を感じないのは確認済だ。
もう少し心を読む範囲を広げると、少し下のフロアに邪悪な考えがある。
能なしの貴族どもめ、私を王と認めないから、いつまでも国が統一できぬ。
こいつはエッテンザム公爵か?
まあいいや、ここで馬車を出す…スペースはないので、馬車を入れている影収納を開く。ここは建物の中だし、今は夜なので、どこの面にも扉を開ける。なので、壁に扉を開いた。
「皆さん、ここなら安全です」
影収納に入っている馬車から、まずセレスとカローナ、レグラが出てきた。
続いて、他のみんなも顔を出して様子を伺っているけど、この部屋は六畳ほどしかなく、これ以上はぎゅうぎゅうになってしまうので、影収納の扉を大きくして、部屋を拡張しているように扱うことにした。
すると、次に出てきたのはヒルダとクレア、マイア姫、お母様とリーナ。続いて、ダイアナを抱いたメイドのリメザ、ヒーラーガールズ、メイド、騎士、諸々…。
多過ぎ…。影収納の入り口から馬車までの空間も足りない。影収納の他に使ってない空間を切り詰めて、入り口から馬車までの空間を拡張した。これならなんとか…。
「ここは王城のいちばん上ね。ここなら誰も来ないわ」
セレスには勝手知ったる自分の家というところか。
「二つ下の階に、エッテンザム公爵らしき者がいるようです。その近くに、兵士らしき者が四名」
「王の寝室のあるフロアよ」
「お父様は王になったつもりですのね…。でも、お父様ではこの国をまとめ切れていないようですわ」
「人を殺めて得た地位で人を支配できないわ」
「お父様…、そこまで浅はかだったとは…」
「兵士が四人なら制圧は簡単ね」
「お父様は大魔道士ですわ。油断しないでください」
「わかったわ」
「じゃあ行きま…」
『ママ、そんなスカートは禁止したはず』
あ、しまった。ロングスカートのままだった。
『罰として、ママのスカートをパレオにする』
「えっ、ちょっと、ああぁ…」
スカートに継ぎ足したシルクを切り離されて、さらに、残ったミニスカートも右側から斜めに削られて、パレオ風になってしまった…。
「アンネちゃん!私にパンツで出歩くなって言っておいて、自分だけずるいわ!」
左側の長さは普段のミニと変わってないのだけど、最初から見えないギリギリの長さだったため、右側から斜めに削っただけでパンツが見えるようになってしまった。
私のせいではないんだから怒らないでほしい…。
「いや、これはダイアナが勝手に…」
「ダイアナちゃん、私のも可愛くして!」
「あい!」
ダイアナは普段は合成音声で、簡単な言葉のときだけは自分の声で喋るんだね…。
「それなら、みんなも同じようにしてもらいましょ。いいわね?」
「「「「はーい」」」」
マジで…。ここまでやるなら、ブラとパレオとビキニパンツだけになりたい。
これは鎧だからしかたがないけど、長袖のインナーとパンストは間抜けだと思う。それに、コルセット部分も不要。
この件が済んだら普通にパレオの水着を着て海に行きたい。
「さあ、気合いも入ったし行きましょ」
パレオ軍団はぞろぞろと階段を降りて、二つ下のフロアに降りた。
「静かに。ここから二つ角を曲がると、兵士がいます。消音魔法をかけつつ、無力化してきます」
「ちょっと、アンネ」
セレスの制止を無視して、高速で兵士に近づき、虚弱体質にしつつ、気絶させた。
みんなのところに戻って、みんなを呼んできた。
「中の者は起きてはいますが、こちらに気づいている様子はないので、開けますね」
「ええ」
私はエッテンザム公爵のいると思われる部屋の扉を開けた。鍵はかかっていない。
「誰だ!衛兵!」
「お兄様?」
カローナの父親じゃない?兄?遠かったから、そこまで深く記憶を調べられなかった…。
やけに美しい男だ。男の娘という種族かもしれない。カローナによく似た顔で、ほっそりとして筋肉の少ない…男だ…。
若干、茶色みを帯びた銀髪。カローナとダイアナみたいな、無彩色の銀ではない。
カローナの兄とやらは衛兵を呼んだが、部屋の外の兵士は再起不能だ。この部屋に消音の魔法をかけてあるから、声に気がつく者はいない。
「何だおまえらは。やけに美しい娘がたくさん…。妾か?気が利くなぁ…。む…、カローナではないか!追放されたはずだ!」
「お兄様こそ、なぜこのようなところに」
「私がシーノン・エッテンザム公爵であり、もうじき王になるからだ」
「そんな…、お母様とお父様は…」
「お前が知る必要はない。お前もあとを追うのだから。ファイヤボール!」
シーノンはカローナに火の玉を放った。私はカローナの前に出て、水魔法で火の玉の温度を常温まで下げた。火の玉は消滅した。
セレスもカローナをかばおうとしたが、セレスでは間に合わなかっただろう。
「なんだと?」
「アンネ、手を出さないでくださいまし!この者にはわたくしが引導を渡します!」
「危なくなったら、すぐに助けますからね!」
「ええ。ありがとう」
「私も付いているわ」
「ありがとう、セレス」
部屋にはそんなに入れないけど、廊下にはヒーラーガールズもいる。外から襲われても大丈夫だ。
「もうお前に用はない。ファイヤボール!」
「酸素奪取!」
「なんだと!なぜ火が消える!」
カローナは学校で物理化学を学んだ。火には酸素が必要。風魔法で酸素を奪ったのだ。
「ファイヤボールというのは…、こうやるんです!」
「青い炎だと?ずいぶんと涼しそうだな」
カローナが放ったのは、青い火の玉。赤い炎をイメージしてしまうと、温度が制限されるが、青い炎ならより高い温度の炎となる。
火の魔法のイメージカラーが赤だなんて罠だ。
「こんなもの避けるのは…、くっ…、追尾か!」
攻撃魔法は投げて当てるのではない。的に当たるところをイメージするのだ。避けられたら、即座に、避けた相手を追尾するイメージに変更する。それを繰り返すことで、追尾型の攻撃魔法になるのだ。
「ウォーター!くそっ!なぜ消えぬ!ぐわぁ」
追尾してくる青い火の玉に、シーノンは水を当てた。しかし、炎はちょっとやそっとでは弱まらない。それどころか、自分の出した水が突沸して水蒸気になり、シーノンは顔に火傷を負った。
「ヒール!」
皮膚組織のことをよく知らないと、火傷を正しく治せない。赤みは引いたが、ただれは残った。美しい顔が台無しだ。シーノンは自分の顔を触っておかしな凹凸ができていることに激怒した。
そういえば、カローナの一族は光魔法を学んではならないのではなかったか。男は関係ないのかな。
「私の美しい顔がああ!カローナ!殺してやる!ファイ…、ぐわあああ」
先ほど水を当てた青い火の玉は消えていなかった。しかし、顔を火傷し、慌てて治療したため、そのようなことを忘れていたようだ。
カローナは火の玉の追尾をやめていなかった。火の玉はシーノン後ろから迫り、シーノンに直撃、シーノンは瞬く間に炎に包まれた。
「ううう、ウォーター!なぜ消えぬぅううあああ」
カローナは、火の玉がシーノンに当たっても、なお燃えるイメージをやめない。これは魔力とイメージ力の勝負だ。命中してはい終わり、ではないのだ。
「酸素収集!」
カローナは周囲の空気からシーノン元に酸素を集めた。すると、炎は勢いを増した。炎の燃えさかるイメージをしながら、酸素が集まるイメージを追加する、高等テクニックだ。さすがカローナ。攻撃魔法のセンスが良い。
「カローナぁ…、助けてくれぇ…」
「さようなら…、お兄様…」
周囲のベッドや机にも火が燃え移っている。カローナはいまだに火の魔法のイメージをやめない。周囲は赤い炎が燃えさかっているのに、シーノンだけが青い炎を纏っている。
やがて人肌だった部分はなくなり、人の形の炭だけが残った。
私はセレスの手を汚させまいとしていた。もちろん、カローナや他のお嫁さんたちのもだ。しかし、これはカローナがやる必要があったのだろう。
カローナは私たちを背にして、兄であった炭を眺めながら語り始めた。
「エッテンザム公爵家は女系の家です。代々、長女が家を継いできました。
エッテンザム公爵家は、女だけで国を作っていた者の末裔です。エッテンザムの女はかつて女どうしで交わることができていました。長きにわたり女どうしで交わることを禁じてきたため、女どうしで交わる方法を忘れてしまったのです。
わたくしは…、エッテンザムの女は男を好きになれないのです。ですが、男と交われないわけではありません。男と交わって子を作った場合では男が生まれることがありますが、まれです。
ですが、息子は決して家を継ぐことはできません。シーノンお兄様の髪色からわかるよう、男はエッテンザムの因子が薄いのです。
エッテンザムの女は強い魔力を持って生まれます。それを買われて公爵家に取り立てられました。ですが、男はその因子が薄いため、王家にとってはあまり価値がないのです。
だからでしょうか。お兄様は王位に憧れたのでしょう。それで王家転覆などを謀るとはなんと浅はかな…。
エッテンザム公爵家は大罪を犯しました。わたくしもただではいられないでしょう。だからわたくしも…」
「ダメって言ったでしょ!あなたは私の嫁になるのよ!」
「セレス…」
「ねえ、カローナは女どうしで子供を作る方法を知っているのですか?あっ…もしかしたら…、ダイアナはアンネとカローナとの子なのですか?」
「そのようです…」
「まさか…、てっきりカローナの兄弟との子だと思っていました…」
マイア姫はダイアナの親がずっと気になっていたのか。このシーノンという兄がダイアナの父親だとでも思っていたかな。こんなやつ知らないよ。
「わたくしの子なのは間違いないのですが、わたくしはどうやってアンネを妊ませたのか覚えてないのです…」
「なんと!私のアンネお姉様を傷物にしておきながら覚えていないとは!」
「ごめんなさい…」
「カローナが謝ることではないですよ。私はダイアナを産めて幸せですから」
「はい…」
「ねえアンネ、あれから何か分かったことはないの?」
「そうだよ。私は早くアンネの子が欲しいよ」
私はアレの作り方を知っている…。だけど、私がいうのもなんだけ、十二歳で妊娠させたくないので、黙っておく。
「ごめんなさい…、私もまだ分からないです…」
「そうよねー」
「分かったら、いちばんに私にちょうだいね!」
「ちょっと!私がいちばんにもらうのよ!」
「こらっ!」
「へへーんだ」
クレアは何をちょうだいって!ヒルダは何をもらうって?分かってて言っているのかな…。ちょっと前まで、女どうしで結婚できることを当然と思っていた二人が…。
まあ、二人とも私のお嫁さんだから、私があげるのは当然なんだけど…。
「あの…、その話はまた今度にして…」
「そうよ、シーノン・エッテンザムだけ倒せば終わりじゃないわ。他にも王位を狙っている貴族が十ほどいるのよ」
「でも、エッテンザム公爵家が有力だったことのは変わりないのですよね。であれば、カローナ、あなたがエッテンザム公爵家をまとめたらどうですか?」
「わ、わたくしが?」
「そうよ。おそらく、あなたが正当なる後継者でしょう」
「そうでしょうね…。お母様も二人のお姉様も殺されてしまったんだわ…」
「だから、あなたがエッテンザム公爵家を統率しなさい。あなたがエッテンザム公爵です」
「分かりました。王命により、ただいまからわたくしはカローナ・フェイナ・エッテンザムはエッテンザム公爵の名を拝命します!」
「良いわ、カローナ」
『カローナお母様、新曲できた。明日はセレスとダブルでセンターね』
「わかりましたわ!わたくしの歌と踊りで、エッテンザム公爵家まとめてみせますわ!」
「えっ…」
ほんとうに歌と踊りで国を統一する気なのか…。
「せめて、ドレスは王女や公爵令嬢らしくロングスカートにしませんか?」
『ママはまたそんなことを言ってると、パンツだけにする』
「ひぃ…」
いいのかなぁ…。まあいいか…。ヒストリア王国でもパンツを広めないとね。
今日は疲れた…。いや、肉体的に疲れても自動回復するから、気疲れだけど。
大事な人の兄が焼かれるのを目の前で見たのだ。この世界で初めて人が死んだのを見た。
私はどんな悪人でも、遅効性の攻撃ばかりしてきた。私がその者の寿命を縮めたからといっても、その者が寿命で死んだのなら、それは私が殺したのではない、と言い訳するために。
でもこの世界は、かたきとあらば、妹が兄を殺すのもいとわないような世界なんだ。私はいつまで非殺を貫けるだろうか。
王の寝室だった部屋は、カローナの炎で黒焦げだ。私たちは城の最上階の部屋に戻り、影収納の中の魔道馬車で一晩を明かすことにした。
翌日、朝早いうちに活動を開始した。
まず、王の部屋にカローナがスタンバイ。シーノンのメイドが来るのを待った。
「シーノン様、入ります…。はっ!カローナ様!」
すまし顔で窓の外を見ているカローナ。ちなみに、窓とは木の蓋であり、私の屋敷のようにガラスをはめ込んだものではない。この国にもガラスはまだないようだ。
「あなたは…、シーノンお兄様付のメイドですわよね」
「は、はい…。あの…、シーノン様は…」
「お兄様は、そこですわ」
カローナが指さしたのは、ヒト型の炭。
「えっ…」
「あなたはお兄様が何をしてきたのか知っていますわね」
「は、はい…」
「お母様もお父様も、二人のお姉様もみんな、シーノンお兄様が殺めたのですね」
「はい…」
「セレスタミナ様や多くの王族に暗殺の命を下したのもお兄様ですね」
「はい…」
「では、この程度ではぬるいくらいですわ。お母様もお姉様もいなくなったのなら、わたくしがエッテンザム公爵です。そもそもお兄様は家督を継ぐことができません。これも分かりますわね」
「はい…」
「では、この城に巣食っているエッテンザム家の者を、謁見の間に集めなさい」
「わ、分かりました…」
昨日、カローナとの戦いのさなか、私はシーノンの記憶を漁っていた。シーノンは半分以上の王族の死に関わっている。
それから、オキサトミド伯爵、あと二名の侯爵が王族殺しだ。他の八貴族は便乗して王位簒奪に参加しているにすぎない。
「あの…、カローナ様…」
「何ですの?」
「大きくなられましたね…」
「四年ですもの」
「それから素敵なお召し物です…」
「これは、流行のドレスですわ。さあ、行きなさい」
「はい…」
シーノンのメイドはカローナに敵対的ではないようだ。シーノンの悪事を知っていながら、メイドの立場では止めることができず、もどかしい思いをしていた。
謁見の間には、王座がある。その隣に立っているカローナ。その横に立っているレグラ。
王座の後ろに、影収納の小さな扉を開けて、中で私たちはスタンバイしている。
「か、カローナ様!」
「ま、まさかカローナ様が生きていらした!」
「よくぞご無事で…」
「レグラ様も…」
謁見の間に入ってくるなり、カローナの存在に驚きざわめく者たち。五十人の使用人が集まった。
よくぞご無事で、は嘘くさいと思ったら、追放されて野垂れ死ねばよかったものを、だ。ちょっと、家臣や使用人をお掃除する必要があるねえ。
「静まりなさい」
「シーノン様は…」
真っ先にシーノンのことを尋ねてきたのは、よくぞご無事で、と言っていたやつだ。コイツは真っ黒だ。シーノンの側近だったらしい。名前はエクタス。もしシーノンが王になっていたらコイツは宰相だ。実質、今回の企てはシーノンではなく、コイツによるところが大きい。
「わたくしはシーノンお兄様を処刑しました」
「「ええぇ…」」
「シーノンお兄様は、お母様とお父様、二人のお姉様を手にかけました。お母様とお姉様たち亡き今、エッテンザム公爵家の当主は誰です?」
「それは…」
ざわめくエッテンザム家の者たち。
「シーノンお兄様には、家督を継ぐ権利がありません。お姉様たちがいなければ、家督を継ぐのはわたくしです。だから、わたくしはわたくしの裁量でお兄様を処刑しました」
「では、カローナ様が王位に就かれるのですか?」
シーノンの側近、エクタスはそのことで頭がいっぱいだ。自分はカローナをうまく操って、国を好き勝手できるのか。
しかし、カローナはこれほどまでにハッキリとものを言うやつだったか。これでは、操るのは難しい。ボンクラのシーノンのようにはいかなそうだ…。
などと考えている…。
「ここに座るのはわたくしではなく…」
真打ちは遅れて登場する。王座の裏に設置した影収納の扉を出て、セレスは王座に座った。
ここで、私も側近ですよ、みたいな顔をして、セレスと一緒に登場した。
申し訳ないけど他の子たちを登場させる余裕はない。でも、セレスやカローナが危なくなったら、いつでも出てこられるようにスタンバイしてもらっている。まあ、見ているわけではないので、音で判断するしかないけど。
「セレスタミナ・ヒストリア王です」
「「セレスタミナ様!」」
「セレスタミナ第五王女殿下か!」
「よ、よくぞご無事で…」
「ま、まさか…」
よくぞご無事で、イコール、なんで死んでないんだ。セレスに暗殺者を放ったのはエクタスか。
そして、どうやら実行犯もここにいるようだ。
「静まりなさい。あなたたち、エッテンザム家は、なぜ王城に巣食っているのです?王家に仕えていた者たちをどこにやりましたか?」
セレスが凜とした声で問い詰めると、エクタスがビクッと身体を硬直させた。セレスがそれに気が付いてエクタスを見つめると、エクタスはセレスから目を背けた。
私が心を読むまでもなく、誰でもあやしいと分かるやつだ。
セレスの質問に誰も応えない。答えを知っていそうなのは何人かいるけどね。
「ではもう一つ聞きましょう。この中に王族の暗殺に関わった者はいますか?」
セレスが問うまでもなく、私が記憶を読めば分かることなのだけど、今考えていることと記憶の奥底にあることは、探る手間が異なる。
こうやって問いただすことで心の浅い層に考えを引き出すことで、読みやすくなるようだ。
おかげで、首謀者と実行犯が分かった。本人の記憶だけでなく、話を聞いていて知らない振りをしていた者も明らかになった。
「まあ、報復を恐れて打ち明けにくいこともあるでしょう。今から一人ずつ尋問します」
エッテンザム家の者たちが逃げないように、そして、口裏を合わせないように、一人一部屋に監禁した。まあ、口裏を合わせたところで、私が全部知っているのだから、他の者が吐いたと言えば何も問題ないのだけど。
鍵のかかる部屋ばかりではないので、ドアと窓の外にごく狭い影収納の扉をおいて、外に出られないようにした。
影収納の空間の体積とは無関係に、扉維持にも魔力を消費する。扉の位置が遠いと維持に必要な魔力が大きくなる。これを解消したのが魔道馬車の魔道具であり、術者の私から離れても、魔道具からの距離で扉の維持コストが決まるようになっている。
すでにだいたいのことは分かっているけど、一人一人尋問することにした。五十人も面倒だ。
私とセレスとカローナで一人を尋問する。順は分からないようにしてある。
エクタスの前に、実行犯と思われる男を先に尋問することにした。
「あなたには、第一から第五までの王子の殺害の容疑がかかっています」
「な、何を証拠に…」
「えっ?そうなの?」
本人の記憶の辿ったし、エクタスがこいつに指示したことも分かっているので間違いない。
明らかにあやしいやつだから、セレスもこいつが誰かしらやったやつだと勘ぐっているが、誰をやったかまでははっきりと分かっているわけではない。
そこで、私がはっきりと殺害対象を言ったものだから、セレスも驚いてしまった。
そして、ドンピシャのことを言われてもっと驚いているのが、この尋問対象だ。明らかに動揺している。
「あなたはエクタスに指示されて、まず第三から第一まで王子を殺害。これはエクタスも自供したことです」
「ま、まさかエクタス様がそのようなことを…」
「そして、エクタスの指示とは無関係に第四と第五の王子を、あなたの独断で殺害しましたね」
「くっ…」
「アンネ…、いつの間に…」
「私が独自に調べ上げたことです」
「そ、そう…」
調べる時間などどこにあったというのか。昨日みんなを影収納から出す前に、城を回って調べたんだよ、きっと。
問い詰められたらそれでいこう。
「そこまで分かっているのなら…」
尋問対象は諦めて、私が述べた内容と同じことを言い始めた。
自供内容を先に述べることで自供を引き出すという誘導尋問だな。けっしてウソの罪を突きつけて認めさせているわけではない。
「あなたには、第一から第四までの王女の殺害と、第五王女、つまりセレスタミナ様の殺害未遂の容疑がかかっています。
それから、エッテンザム家のアセトミーナ公爵様と、長女と次女の殺害容疑がかかっています。
あなたはシーノン指示されて、第六王子よりも王位継承権の低い者たちの殺害を指示されましたね。
そして、第四王女を殺害し、セレスタミナ様を殺害しようしたところで逃げられた。
これはエクタス自供したことです。間違いありませんね?」
「えっ…、は、はい…」
反論する暇を与えず、本人の記憶やシーノン記憶にあったことをすべて述べた。
私はここでは何の身分もない者なので、セレスのことを様付けでちゃんと呼んでおこう。
「アンネ、私はこの者には襲われてないわ」
「実行犯があと二人いました。ですが、セレスタミナ様を取り逃がしたことに激怒したこの者は、セレスタミナ様を追っていた者を殺しています」
「まぁ…」
「それも間違いありませんね?」
「はい…」
もう反論する気は起きない。
「この者がお母様とお姉様たちを手にかけた…」
それから、実行犯を四人尋問した。彼らは王宮の使用人や、他の公爵家の者も殺害してる。
ようやくエクタスの番だ。今まで実行犯に述べたことを繰り返し、それらを実行犯が自供したことにする。
「…間違いありませんね?」
「わ、わわわ、私は指示などしていない。下位の使用人の言うことを信じるというのか」
「すべての実行犯の自供は一致しています」
「そ、そそそ、そいつらが口裏を合わせて私をはめようとしているだけだ」
明らかな動揺。セレスもカローナも、エクタスとシーノンが首謀者であることを確信したようだ。
「それから、南の森と東の森にオークキングを放ち、意図的にスタンピードを起こした。それにより、王国軍を分断させ魔物の群れに襲わせた。わずかに生き残り帰ってきた兵士を、私兵に始末させた」
「お、おおお、オークキングを捕まえるなどできるわけなかろう!」
「もうじゅうぶんね。この者は死刑にします」
「異論はございませんわ…」
「わ、私は指示していない!やっていない!」
べつに、物的証拠は必要ない。王の強権の前には、状況証拠すら必要ない。もちろん罪のない者を捌きまくってる王は支持されないだろうが。
今回は自供だけだが、二人は確信を持ったようだし、情報はすでに抜いたから、犯罪者は用済みだ。
供述を元に、王家とエッテンザム家の暗殺に関わった使用人、それから王家の兵士を殺めた兵士をリストアップ。すべて死刑とした。
「それから、この者たちは悪事に加担しないまでも、エッテンザム家が王位を取ることを望んでいました。人をおとしめて自分の利とするような誠実さに欠ける者たちです」
さらに、直接関わっていないものの、人の不幸を喜ぶようなやつをリストアップ。
「アンネ…、ほんとうにいつの間に調べたんですの?たしかに、この者たちの印象は悪かったのですが…」
「実は昨日王城の最上階で皆さんを影収納から出す前に、一人で調べていたんですよ」
「また一人で危険なことをなさってたのですね」
「大丈夫ですよ。聞き耳を立てていただけですから」
「ほんとうにそれだけですかぁ…?」
「ほんとうですよ」
ほんとうは何もやってません。
罪を犯してない者を裁くわけにはいかない。この者たちは、あとで何かしら理由を付けて解雇することにした。
「今日は穏便に進んだのね」
「でも、セレスとカローナのかたきがいっぱいいたんだよね…」
すでにヒルダとクレア、他の人のことをエッテンザム家の使用人や兵士に明かし、王城内でみんな活動している。
「まだ終わってないのよ…。エッテンザム家に何も罰を与えないわけにはいかないわ…」
「やはりわたくしも責任を取ってし…」
「それはダメだって言っているでしょ!カローナの知らない間に起こったであることを鑑みて、領地没収と罰金で済ますわ。あなたはこれから法衣貴族よ」
「それは…」
「私の側で私を支えてもらわないとね」
「ふふ、一緒にいられるなんてご褒美じゃないの」
「いいなぁ。私なんて爵位をついでもいないのに領地経営させられているのに」
「バレちゃったか」
「セレス…」
「泣くのはまだ早いわよ。王位を狙っている貴族はまだ十いるんだから。王家の兵士も使用人も、エッテンザム家の兵士と使用人はそのままもらうわよ」
「それでかまいませんわ。でも、エッテンザム家の兵で残っているのは三百です」
「戦わないで済ませるために私たちがいるんでしょ」
「そうだよ!今日のライブ、頑張ろうね!」
昨日、空から王都にばらまいたチラシ…。
王城には民衆に演説やお披露目を行うためのバルコニーがある。結構広いので二十人くらいは踊れる。
『ママ、土の魔力が足りない。私のも精霊のも限界。バックダンサーズにも手伝わせて左半分を作ったから、右半分を作って』
「えっ?」
『プロジェクタのスクリーン』
「わかった…」
バルコニーは高いところにあるし、柵もあるから上半身しか見えなくてつまらないと思う。と思ったら、柵は撤去されていた…。危ないでしょう…。
今までもやってきたけど、今回はかつてないほどの大スクリーンで私たちのアップやCGシーンを映し出す。
バックダンサーズは乳児の魂百まで計画を施してあるので、光の魔力以外もかなり高い。だから土魔法でスクリーン建造を手伝わせたのだろう。
ダイアナの土の魔力は、二歳の時の私より高いけど、まだまだ私のほうが上だ。私なら一人で同じ大きさのスクリーンを建てられる。
こうして迎えた夜六時。王城の前には三千の民衆。かつてない規模だ。
誰も初めて体験する音楽というもの。そして歌によってもたらされる演説。
王族の暗殺、セレスに襲いかかった悲劇。遠い地で学び、力を付けた。私は今、戻ってきた!
私は約束する。この国を豊かにすることを。誰もが学び、良い仕事に就ける国。誰もが清潔な家に住み、高度な治療魔法を受けられる平和な国!
そのあと、二曲を歌い踊って、ライブは終了。たった二十分だ。
でも、民衆は大きな歓声をあげた。誰もがセレスに希望を持った。
ちなみに、シースルーではあるけど、インナーとパンストで肌が隠れているのは、エッチすぎならなくて案外よかったと思う。だって、スカートはパレオ風にしてしまったし、ひるがえらなくてもパンツが見えるし。
そして…、ライブのあとは…。なぜかセレスではなくて、私との握手会…ではなくて、一押し会。って三千人も無理だってば。
一日に千人捌くってことで、翌日も翌々日もライブと一押し会をやることに。
すでに一押しされた人を避けるため、ダイアナの開発したカメラによる顔認証が導入された。無駄にハイテクだ…。
同じ曲を何回もやったってつまらないと思ったけど、歌というものを知らない人たちには、何度見ても飽きないようだ。
うちの領でやってた曲がいくつかあるけど、恋の歌ばかりだしNGだ。
「はぁー、疲れたぁ」
「アンネ、お疲れ」
「セレスもお疲れさま」
一週間のライブと一押し会が終わり、誰もいなくなったバルコニーで、私は夜空を眺めて背伸びしていたら、セレスがやってきた。
「国民が私のことをあんなに慕ってくれるなんて、思ってもみなかったわ」
「そうですね…。普通に演説してもここまで支持を得られなかったかもしれません」
民衆から伝わってきたのは、王への支持だけでなく、アイドルへの憧れも多かった。
所信表明なんて、完全に信じてくれている人はあまりいなかった。ただ、この王なら信じてみたい、もしかしたらやり遂げてくれるかもしれない、という思いは多かった。
ちなみに、この国…、ヒストリア王国も、ロイドステラ王国もだけど、王は王だ。女王という言葉はない。王という言葉に男という意味は含まれていない。王という言葉に女という言葉をくっつけた言葉もない。差別的でなくてよいと思う。
翌日。
「報告します!紛争を起こしている貴族の軍が東から攻めてきました!」
「規模は?」
「二〇〇です」
「それなら、エッテンザムの兵三〇〇で鎮圧できるかしら…」
「報告します!西から二〇〇の兵が攻めてきました!」
「同時に相手は無理よ…。どうしたら…」
「それが…、王都の住民が西門で戦っています…」
「何ですって?」
「東門も住民が戦っています…」
「なんてこと…。兵を半分に分けて加勢すれば…」
ライブ中に読んだ心の中には、この王のためなら死ねる、みたいな狂信的なものもあった。まさかセレスを守るために兵に立ち向かってしまうなんて…。
『兵を分けるのは愚策。片方に集中させてさっさと終わらせるべき』
「わ、分かったわ…。では…、西から制圧しましょう」
ダイアナ…、それは兵法ってやつ?どこでそんな知識を…。
たしかに、兵を分けて一五〇にしたら二〇〇の兵に勝てない。西も東も負け確定だ。
それなら、片方だけでも勝った方がいいということか?片方を見捨てるということか?
戦術的に考えるならアリなのかもしれないけど!
西門行きのエッテンザム軍にはヒーラーガールズをやった。住民の怪我人を助けられるといいな。
そして私は、影収納にアリシアを入れて、シルバーを駆り、一人で東門へ向かった。
兵が攻めてきていることを聞いて、住民は家に避難しているようだ。街には人が見当たらない。
だからといって、街中では時速三〇キロも出せればいいところだ。前世の車道のように六〇キロも出せるような道ではない。
東門に着くと、門自体は破壊されていた。
そして、四〇〇ほどの住人が肉壁となり、門をふさいでいた。
なんということ…。
シルバーは急加速してジャンプ!住民をまたいで、住民と敵兵の間に割って入った。
そして私はスカートに影収納の扉を開いてアリシアを…出そうとしたけど、布面積が小さすぎて、アリシアを出すには至らなかった…。
しかたがないので剣だけを出しつつ、日の光でできた私の影からアリシアに出てもらった。
というか、いつもスカートからものを出しているけど、それは手が届くからそうしているのであって、実際には影ならどこでもよいのである。影というのは、他より暗くなっているところだ。
外に日が差していれば、部屋の中ではだいたいどこでも扉を開ける。だけど、日差しから遠すぎると部屋の中が影とは見なされない場合がある。
必要な明暗差とか、明るいところからの距離制限とかは、いまいち分からない。そもそも何の制限なのかも分からない。
闇魔法の知識は前世のフィクションによるところが大きくて、原理がいまいち分かっていないため、そういうよく分からない制限があるのかもしれない…。
「うわっ!騎兵か!」
私の剣はショートソード。シルバーに乗っていては敵に届かない。だから私はシルバーから降りた。私は騎兵ではない。
「なんだ小娘、俺が遊んでやる!」
私には遊んでる暇がない。それに私が遊ぶのは女の子とだけであり、兵士のおっさんとは遊ばない。
シルバー、アリシア、兵士の相手を頼んだ!私は光魔法で考えを伝えた。
シルバーは光魔法をかなり鍛えており、光の精霊もかなり大きい。身体強化だけでなく、自動HP回復もできる。
シルバーは目の前の敵兵を前足で踏み倒した。
「なんだ!馬がぁ。がはっ…」
アリシアはすでにリーナより強いようだ。もともとドラゴンというのはポテンシャルの高い魔物だ。それが身体強化により、とてつもない強さとなっている。アリシアのうろこは、まず剣を通さない。
アリシアは目の前の敵兵を、爪で裂…かないで、爪をしまってパンチしている。猫か!
アリシアは私が流血沙汰が嫌いなのを知っているので、打撃だけで済まそうとしてくれている。でも、敵兵は、数人の敵兵を巻き込んで、後ろに吹っ飛んでいった。打ち身で血が出たりはしているけど、これくらいなら…。
「魔物だ!なんだこ…、ぎゃああ…」
その隙に、私は傷ついた住民を探す。
私の目に入ったのは、うつ伏せで倒れていて、全身が黒ずんだ者。心を読めない。心臓の音がしない。
血を流しすぎている。私は水魔法で血液を集めた。致命傷となっている傷を光魔法でふさぎつつ、血液を血管に戻した。そして、電気魔法で心臓の鼓動を再開した。心臓の動きを活発にするために、背骨の関節の筋肉を一押しした。
よし!もう大丈夫!
他にも四人、死んでしまっている者がいたので、同様に治療した。
それから、重症者だ。血を失いすぎて意識を失っている者が多い。でもやることは変わらない。傷を治しつつ、血を集めるだけだ。
あとは、重傷ではないが、四肢を切られて動けない者、深くないが放っておくと感染症を起こしそうな傷、かすり傷…。
魔法というのは距離の二乗に反比例して精度が落ち、二乗に比例して消費魔力が上がる。これくらいなら、少し離れていてもうまく治せるだろうか。
私は近くの住民すべての傷を治ることをイメージする。鎧を着た敵兵を除くようにする。鎧っぽい服を着た住民を除いたりしないように、ちょっと集中。
私が住民を治療している間に、シルバーとアリシアが敵兵を蹂躙している。門は狭いので、一度に多くの敵兵がなだれ込めないのが幸いしている。さもなければ、大勢に囲まれて二頭ともあっという間にやられて…しまうのだろうか…。
ときおり、後ろから矢が飛んでくる。アリシアのうろこには矢どころか剣も通らない。
アリシアの攻撃って、殴ったり爪で裂いたりするだけ?ゴールドドラゴンは口から電撃を吐いたけど…。きっとレッドドラゴンとかいるとすれば、口から火を吐くんだろう。でもアリシアは光属性だし、肉体派なんだな。
シルバーは馬とは思えない動きで矢を避けているが、ときどき矢に当たってしまう。でも、身体強化で防御力が上がっているようで、かすり傷で済んでいるようだ。血の跡は残るけど自動HP回復があるので、すぐ傷は塞がって問題なく動けているようだ。
あれ?これって敵兵を全部撃退できるんじゃない?普通は徐々に疲れたり傷ついたりして戦えなくなるから無双なんてできないんだろうけど、シルバーは短時間で大きな傷をたくさん受けない限り回復するし、二頭とも光の魔力が続く限り無限に戦い続けられる。
ダイアナが戦力を分けるのは愚策と言ったけど、ここなら大軍の意味は薄い。それ住民が門で敵をせき止めていてくれたからか。住民グッジョブ。でも肉壁は良くない。
「セレスタミナ様と一緒にいたお方だ!」
「演説のあとに腰痛を治してくださった聖女様だ!」
「俺は頭痛を治していただいた!」
「「聖女様だ!」」
ありゃ…、聖女疑惑復活?敵対されるよりいいか。むしろ、セレスの人気向上に利用すべきか。
「なあ…、お前死んだはずじゃ…」
「腕が…ある…」
「聖女様が治してくださったんだ!」
生き返った人や重傷だった人が目を覚ましたようだ。
「あの魔物、セレスタミナ王とバルコニーにいたよな」
「あれは聖女様に仕える聖獣だ!」
「じゃあ、あの馬は聖馬か?」
「聖女様のしもべとともに戦うぞ!」
「聖女様がいれば怖くない!」
「「「おおおおおお」」」
ちょっと待ってよ。いくら死んでも生き返れるからって、痛いのはいやでしょ?これは肉壁か死兵か。住民の士気は高い。敵兵はひるみ始めた。
いっきに住民がなだれ込み、兵士を外に押し出した。
一緒にシルバーとアリシアも押し出されて、二頭は縦横無尽に暴れ始めた。
私もスカートから剣を取りだ…そうと思ったら、パレオの短い側は狭すぎて剣を取り出せなかった…。しかたがなく、反対側から剣を出した。
それでなくても大きなものを出せないので、もうちょっと長くしたい…。
というか、しゃがめば日の光による自分の影からものを取り出せるんだけどね。スカートから出すのは様式美なのだ。
剣を取りだした私は、次々に敵兵に剣を当てて、電気魔法で電流を流して、背骨の関節の筋肉を酷使させて、内臓機能を低下させて、虚弱体質にしていった。敵兵は革鎧を着ているけど、別に金属でなくても、ちょっ電圧を上げれば革鎧越しに放電できるのである。
住民と協力して、あっという間に敵兵二〇〇を鎮圧した。
「やった!敵兵を倒したぞ!」
「「「聖女様、ばんざーい!」」」
住民の中には重傷を負った者もいたけど、私の治療に期待して突っ込んでくれたんだ。約束したわけではないけど、期待を裏切るわけにはいかない。
「聖女様!ありがとうございます!」
「皆さん、よくぞ王都を守ってくださいました。さあ、傷ついた者は集まってください」
四肢を繋げたり。視力を取り戻したり。
「長年動かなかった脚が動くようになった…」
どうやら古傷も一緒に治してしまったり。
「「「聖女様!ありがとうございます!」」」
「さあ、怪我をしていない方も集まって」
「×××!」
「あああーん…」
戦いで疲れた住民四〇〇人をねぎらった。
「それでは、私は西門に向かいます。皆さん、お気を付けて」
「「「聖女様、ありがとう!!聖女様こそお気を付けて!」」」
一方その頃、セレスタミナの指揮するエッテンザム兵三〇〇は西門に到着し、住民に代わって戦闘を開始した。他に指揮する者がいないのだ。王が直々に指揮するほかない。
こちらにはヒーラーガールズ同伴している。ヒーラーガールズは生まれてすぐ光の精霊の加護を受け、学校でアンネリーゼによる人体の知識を身につけ、高度な治療魔法を扱えるようになったエリートである。
けっして、ライブのバックダンサーが本職ではないのである。
純白の衣装に身を包み、重症者を癒していくその姿はまるで天使。この世界には統一的な宗教はないが、神や天使といった共通の像はある程度根付いている。
さすがにアンネリーゼのように死者を蘇らせることはできないが、四肢接続、内臓損傷回復程度であればお手の物であった。
エッテンザム兵は敵兵より数が多いが、門で戦っている限り数の利が小さい。同数対同数で戦っていればそのうち勝つだろう。
普通に考えれば三〇〇引く二〇〇で、エッテンザム兵が一〇〇残る。しかし、エッテンザム兵はやられる側からヒーラーガールズに治療されて復帰するため、この戦い方では兵の数は無限に等しい。
ヒーラーガールズは、国に一人いるかいないかという高名な治療魔術師をはるかに超えている。それを、この程度の戦いに投入するアンネリーゼ。アンネリーゼは自分の価値はもちろん、ヒーラーガールズの価値もまったく理解していなかった。
エッテンザム兵は最終的には傷を負った状態の者はゼロであり、武器と防具の損害と、数名の死者だけで、敵兵に勝利した。
また住民にも数人死者が出ている。これはヒーラーガールズではどうしようもない。
そんなとき、東門での戦いを終えたアンネリーゼが馬に乗り駆けつけた。
「セレス!無事でしたか?」
「アンネ!来てくれたの?」
「あなたたち、よくやってくれましたね」
「アンネリーゼ様、申し訳ありません。私たちではこの者たちを…」
「よいのです。まだ助かります」
ヒーラーガールズが内臓を修復した跡はあるけど、完全ではないため心臓が動いていない。
でも私なら治せる。まあ光の精霊のおかげだけど。
私は心臓の止まっている住民と兵士を完全に治療して、背中をポチッと押して鼓動を再開させた。
「アンネ…、あなた、そんなこともできるのね…」
「セレスは覚えてないかもしれないけど、セレスだって一度心臓が止まって私が生き返したのですよ」
「そう言っていたわね…。今やっと意味が分かったわ…」
「奇跡だ!」
「聖女だ!」
「聖女様、ばんざーい!」
「「聖女様、ありがとうございます!」」
「あなた、聖女になったのね」
「そんなつもりは…」
「死んだ人を生き返らせるなんて聖女どころじゃないけどね」
「そうですかね…」
うう、どこに行っても聖女扱いだ。いまいち煮え切らないけど、まあ、セレスの人気取りに利用するって決めたんだ。
王都の住民は、すべてアンネリーゼに一押しされており、アンネリーゼのことを知っている。
そして、アンネリーゼが、他領の侵略のために命を落とした住民を生き返らせた聖女であるという噂は瞬く間に広まった。
『よし、これで初期の歌でライブを開催できる』
「なんでそうなるの…」
デビュー曲、「振り向いて」がアンネリーゼ思うマイア姫の気持ちを綴った曲であることは、アンネリーゼはダイアナから聞かされている。
そして、二曲目の「私の心を奪ったあなた」の「あなた」は、もちろんアンネリーゼであり、「私」は曲の一番ではセレスタミナ、二番ではカローナとなっていて、これも二人がアンネリーゼを思う気持ちを綴った歌なのである。それなのに、アンネリーゼはこのあたりのことに感度が低いので、気が付いていない。
それに、三曲目の「憧れの先輩」の「先輩」も、当然アンネリーゼである。この曲の主人公はヒルダとクレアである。もちろん、アンネリーゼはそのことを分かっていない。
ちなみに、誰から誰への曲なのかは、メタゾールの領民にはバレバレである。領民は、学校に通っていたセレスやヒルダたちに、気安く話しかけたりはしないものの、毎日一緒に授業を受けていたので、どういう関係なのかをよく知っている。
その後にリリースしたCD…ではなくてメモリカードの曲も、すべてアンネリーゼを恋愛や憧れの対象とした曲である。それが領民の心を最も強く掴む曲なのである。
そんな、アンネリーゼのことを思った曲でライブは行われた。それはヒストリア王都の住民の心をわしづかみにしたのであった。
王都周辺で王位を狙っていた貴族は気がつき始めていた。王族は全滅したと思われていたのに、第五王女のセレスタミナがすでに王都で多大な支持を集めていること。さらに地方の領地でもセレスタミナを支持しているところが多いこと。
彼らは小競り合いで疲れていた。エッテンザム公爵家だけなら逆転も狙えたかもしれない。しかし、第五王女が戻ってきて返り咲いた今、もはや王位を狙うことなど無理そうだ。
二つの侯爵家が合同で王都を攻め込んだというのに、両者とも全滅したという。いつのまに軍事力を整えたというのだ。
政治的と軍事的、両方の面でもはやセレスタミナにかなわないだろう。これ以上刃向かい続けるのは得策ではない。
そして、彼らは王城に講和の使者を送ったのだった。
王国に直接危害を加えていない貴族に罰金を課した。彼らは付近の貴族と小競り合いをしていただけだ。
一方、王国にあだをなした貴族を死刑とした。最後に王都を襲撃した二つの軍の貴族だ。お家お取り潰しにはしなかった。まだ育っていない後継者に交代するだけだ。
せっかくだから、残っている貴族の領地でもライブツアーを行うこととなった。これで全国制覇だ!私は結局、三万人の国民全員の背中を一押ししたのであった…。
こうして、ヒストリア王国に平和が訪れた。しかし、これで終わりではない。セレスは約束したことを実現しなければならない。
歌は所信表明だった。プロジェクタで映したCGを現実のものとしなければならない。
誰もが高度な教育を受けられ、高給の仕事に就ける国。誰もが高度な治療魔法をうけられ、病気や怪我で死ぬことの少ない国。誰もが飢えることなく、毎日美味しいものを食べられる国。
はぁ…。これってメタゾール領ではすでにおよそ実現していて、ヒルダのプレドール領とクレアのテルカス領でも改革を進めている。マイア姫の練習用領地でも、金銭的な支援はしてあげてないけど、改革を始めている。
でも、全国規模なんて初めてだよ。まして、自国ではなくて他国。まあ、私の大事な養女の国だから、投資して育ててあげたのに反乱を起こされるなんて心配は皆無なわけだけど…。
「あの…、マイア様…」
「アンネお姉様を売るようなマネはしませんよ。もちろん思うところはあります。ヒストリア王国全土を改革する前に、ロイドステラ王国全土を改革したいです。でも、アンネお姉様から私への投資が禁止されている今は、それできません。
私はできるだけ早く能力を示して、王位を継ぎます。そのときは、アンネお姉様、是非そのお力を貸してください!」
「は、はい…。痛み入ります…」
私は売国奴。マイア姫はそれを見逃してくれる。私はマイア姫に頭が上がらない。もしかしたら身体を売れなんて言われる…ことはないと信じている…。
ここからは作業だ。ヒルダとクレア、マイア姫には帰ってもらった。二ヶ月なんて領地を開けすぎだ。自分の領地の改革を進めてほしい。
「セレス、カローナ…、寂しくなるわね…」
「また会いに行くよ!」
「ヒルダ、クレア、ほんとうにありがとう。あなたたちがライブを手伝ってくれたおかげで、私の支持も上がったわ」
「ヒルダ、クレア、わたくしからもお礼を言わせてください」
「ふふっ、私たちは家族よ」
「家族は無償で助け合うものだよ」
「それじゃ、また会いに来てね」
「またお会いしましょう」
「ええ。またね」
「バイバイ、セレス、カローナ。アンネも早く帰ってきてね」
それから、お母様とリーナにも帰ってもらった。メタゾール領にはお父様がいるけど、書類仕事をやっているだけで、あまり考えたりはしてくれないのだ。まだ、お母様のほうが考えてくれる。
私とダイアナはヒストリア王国に残って、まずは土魔法を使って街道や学校などの箱物の整備だ。
でも二人で全国整備なんて無理だ。
最北端のバステル領においてあったアリシアのうろこの材料を船の形に戻して、メタゾール領から土魔法の優秀な使い手を三十人連れてきた。他にも、教師となる人材や資材、美味しい魔物とそれを刈れる者などをたくさん運んできた。
すでにバステル領は友好的なので、今後は船を置きっぱなしにしても問題ないだろう。
こうして二ヶ月かけて、箱物の整備を終えた。あとは、連れてきたメタゾールの領民にお任せだ。私とダイアナはロイドステラ王国に帰ることにした。
おいていくのは土木作業員や教師だけではない。ヒーラーガールズも五人置いていくのだ。彼女らは私ほどではないものの、四肢接続なども行えるエキスパートなのだ。でも公約は守らないとね…。
「アンネ…、ほんとうにありがとう…。ジャングルであなたに出会っていなければ、私たちはここまで来られなかったわ…」
「お別れじゃないですよ。また来ます」
「ダイアナ、ありがとう…。あなたはわたくしの娘なのに、お別れしないとですわね…」
『やることはたくさんある。まずは通信を確立して、いつでも話せるようにしたい』
このような文化の世界では、何千キロも離れた海の向こうに帰るってのは、永遠の別れに思えるのかもしれない。
でも、二人だって数百キロ離れたヒルダとクレアとビデオチャットのだから、距離が十倍になって海を隔てたくらい、大差ないよ。
今だって、二日あれば来られるんだから。
「またね、アンネ、ダイアナ」
「またお会いしましょう」
「また来ます、セレス、カローナ」
『覚悟しておくといい』
私とダイアナは、改革の軌道に乗ったヒストリア王国を発った。
■セレスタミナ・ヒストリア王(十二歳)
セレスタミナはメタゾール家の養女とされていたが、ヒストリア王国に戻り、王族がすべて死亡しているようなので、王に即位した。
■カローナ・フェイナ・エッテンザム公爵(十二歳)
カローナはメタゾール家の養女とされていたが、ヒストリア王国に戻り、親や姉がすべて死亡してるようなので、エッテンザム公爵家を継いだ。
■シーノン・エッテンザム
エッテンザム家の長男。カローナの兄。男の娘。
エッテンザム公爵を名乗っていたが、エッテンザム公爵家は女系であり、男に継承権がない。
髪は無彩色の銀ではなく、若干茶色身を帯びる。
カローナと違い、エッテンザム家の男は光魔法の習得を禁止されてはいない。
■エクタス
王家簒奪を企てた黒幕というに等しい。
■シーノンのメイド
シーノンの悪事に心を痛めていた。カローナに協力的。
■エッテンザム公爵家の使用人と兵士
ヒストリア王家の使用人や兵士が全滅したのをいいことに、王城に居着いている。
■攻めてきた他領の兵士
二〇〇人が二組。
◆ヒストリア王国
国全体で三万人。国土は三千キロ四方。
◆エッテンザム公爵家
カローナの実家。




