21 王国の征服のしかた
ヒストリア王国の最北端に位置するバステル男爵領。その港が慌ただしい。
「おい、あれは船か?」
「近づいているのか?」
「大きさがおかしくないか?」
その船は一キロ以上離れているのだろうか。百メートル付近で魚を捕っている船と同じ大きさに見える。
その船は木の色をしておらず、真っ白だ。
「誰も乗っていないぞ」
「いや、小さな人影ある」
「こびとなんているのか?」
「おい…、でかくないか…」
「うちの船の十隻分…それ以上だ…」
漁船の十倍以上の大きさを持つその船は、十倍以上の速度で近づいてきて、あっという間に港に付けられた。
ちなみに、アリシアのうろこはとても軽い素材であるため、木材の船と比べると喫水がとても浅い。おかげで、浅い港に付けられるのである。
船の背はとても高いため、はしごで人が降りてくる。
港にいた漁師たちは驚愕した。降りてくるのは、腰まで伸びた金色に輝く髪の毛を携え、純白のドレス…、スカートはとても短いが、何やら別のものをはいている…、なのにうっすらお尻が見えて、目を離せない…。
そして、はしごから降りきって振り向いたのは、この世の者とは思えないほど美しい娘。あれは王族に違いない。
バステル男爵領は、王位簒奪には参戦していない。王位簒奪に参戦しているのは、王都に近い侯爵家と上位の伯爵家だけであり、たかが男爵家が王位など狙うわけがないのである。
だから、バステル男爵領は平常運転だ。ここは田舎。十年前のメタゾール領と同じようなものである。いちおう、王族が全滅し、中央で王位簒奪戦が行われており、バステル男爵領は参戦しないことは、領民に知らされている。
その、平和な男爵領の漁師に、王族であろう者が話しかけてきた。
「バステル男爵領のみなさん、私はセレスタミナ・ヒストリア。この国の第五王女です!」
「お、王女…」
王族は全滅したのではなかったのか。
そのあと、次々にはしごを下りてくる美しい娘たち。
「バステル男爵の屋敷まで案内していただけますか」
「は、はい…」
漁師に案内されてやってきた王女の一行。
バステル屋敷の二人の門番はその異様な光景に目をこらした。
「私はセレスタミナ・ヒストリア。この国の第五王女です。バステル男爵にお会いできますか?」
「お、王女…?」
王族は全滅したと聞いている。しかし、目の前の娘は、この世の者とは思えないほど美しいことから、王族というのもうなづける。
門番のうち一人は屋敷に入っていき、少しして戻ってきた。
「バステル男爵様がお会いになります」
「ありがとう」
一行は応接間に通された。
「スチン・バステル男爵です」
美しい娘は、バステル男爵にセレスタミナ王女と名乗った。男爵は、第一王子ならともかく、第五王女など見たことがない。しかし、この顔立ち、美しさ、そして溢れる気品などから、この娘が王族であることは間違いないと判断した。
しかし、これは…。不思議な光沢を放つ純白のドレス…。そして短いスカートから覗く、魅惑的な脚…。イカン!王族に色目を向けるわけには…。
「この国の王族はすべて暗殺され、上位貴族が王位を巡って内紛を起こしているということですね。でも私は生きています。私は正当なる王位継承者です。王位を継ぎ、内紛を終わらしたいと思います」
「はぁ」
バステル男爵領には、紛争の被害は直接出ていない。ここは王都から遠すぎるし、経済的な被害もほとんどない。
バステル男爵はゲシュタールと同じようなものである。何もしない当主なのである。
王位などに興味はないし、誰が王になっても我関せず。今の段階では、誰のことも支持したくない。勝った方に従うだけだ。
「この領で活動する許可をいただきたい」
「そ、それは構いませんが、領民に危害が及ばないようにしていただきたいのですが…」
「もちろんです。領民は国民。国民は私が守るべき者です」
「それであれば構いません」
「ありがとうございます」
演説でも行うのか。こんな僻地のことに王族は関与しないのかと思っていた。
「コンサートライブの許可を得たわ」
「あれそういう意味だったのですかね…」
ヒストリア王国に上陸して、最北端のバステル男爵領に入った。メタゾールからかなり南なだけあって、ちょっと暖かい。まあでも、何千キロも南下したと思うけど、そこまで温度の差は感じられない。
ヒストリア王国の地理をセレスとレグラに教わり、二年前までの情勢についてもレグラから教わった。
ヒストリア王国の王都は、最北端の沿岸から馬車で一ヶ月。つまりメタゾール領とロイドステラ王都のような関係だ。南北は逆だが。
私のような者が現れる前のメタゾール領やプレドール領を思い出せば、ヒストリア王国最北端に位置するバステル男爵領がどのような立ち位置にあるかは想像できる。レグラの見立てでは、バステル男爵は王位簒奪戦には参加していないとのことで、実際に来てみればその通りだった。
まあ、たかが男爵や子爵ごときで王位なんて笑いものになるだけだ。
私は念のため、バステル男爵の心の内を探った。顔に書いてあるとおり、どうでもいい、面倒くさい、勝った者に付くだけ、とのことだった。
この先、三つの貴族領は、男爵領か子爵領なので、同じような立ち位置の可能性が高い。そこまでは難なく領民を味方に付けられるだろう。
ってほんとうにできるのかな…。今からやろうとしていることは…。
「じゃあ、準備を始めましょ。ダイアナ、お願いね」
『任せとけ』
セレスがダイアナを抱えて、ダイアナは土魔法で会場設営を始めた。ダイアナが二歳になって歩けるようになったからといって、よちよち歩いていては日が暮れる。私が二歳のときとは違うのだ。
会場の建物や座席ができると、ダイアナが影収納からスピーカーや照明、カメラやドローンなどの機材を出して、ダイアナの指示で機材を設置していく。
『ママ、サボってるなら、はいこれ、チラシ』
「えっ…」
私としてはこれほど上質な紙や印刷機を開発していたことに驚き…。
チラシはセレスタミナ・ヒストリア第五王女よる演説の開催。その後、治療魔術師による高度な治療を無料で受けられる。
この世界の平民って識字率が一割とかなんだけど…。いや、ヒストリア王国は知らないけどさ。
精巧なCGの絵だけ見ると、破廉恥な衣装を着た私たちと、私に背中を触られてなんだか喜んでいる人…。いや、これダメでしょう…。
「ダイアナ、識字率って知ってる?」
『知っててやってる』
「勘違いさせるの?ウソつくの?」
『何もウソはない。可愛いアイドルに会えて、気持ち良くもなれる』
「あれ…」
そうだ、アイドルの私たちのコンサートの案内と、私のマッサージの案内だ。何もおかしくない。
『識字率低いって分かってるなら、声出して呼び込みやってね』
「えっ?あっ…、はい…」
というわけで、私はチラシを配って回ろうと思ったけど、雑用はメイドのリメザに任せようとしたら、ダイアナに怒られた。しかたがないので自分で声を出しながら配った。領民の私を見る目は、なんだかおかしかった。
急すぎるのだけど、コンサートライブは今夜だ。王都までは二十領くらいあるので、一つの領に何日もかけられない。ライブツアーって大変だな…。
っていうか、マイア姫はこんなに自分の領を開けていて大丈夫?
夜六時にもなると、あたりは真っ暗。この世界の灯りはランプ、もしくは火の魔道具なのだ。燃料となる油と火の魔石はどちら高価だ。街灯など存在しない。
日が暮れると滅多なことでは人々は出歩かず、七時、遅くとも八時には寝静まるのだ。
しかし、今日のバステル領はどうだ。チラシに描かれている通りの幻想的な輝きを放つ建物がそびえ立っており、町中がうっすら明るい。
ちなみに、開発済みのメタゾール領、プレドール領、テルカス領には、夜間の犯罪抑制のため、LEDの街灯と監視カメラが設置されている。
開始の時間になると、私たちは入場した。今回のライブツアーのセンターはセレスだ。セレスが最後に入場すると、大きな歓声が沸いた。
「皆さん、今日は私の演説を聴くために集まってくださり、ありがとう!」
広い会場に不思議と響き渡るセレスの美しい声。
あれ…、演説…。そうだ演説だった。この世界には歌とかダンスとかいう言葉がないのだからしょうがない。
領民は初めて聞く音楽というものに言葉が出ない。そして、私たちの歌と踊りが始まると、自分たちのいる世界を見失った。ここはどこだ!
会場はプロジェクションマッピングで歌詞の内容どおりの情景が描写される。
四年前に王女の身に起こった悲劇。ちょっと改ざんされているけど、王国の再建を目指して勉強に励んだ四年間。そして王女は戻ってきた!
王女が王に即位すると、誰もが仕事のための技術や魔法を身につけられ、無料で治療魔法を受けられ、便利な魔道具で生活が楽になり、平和で豊かな国となる。
いやー、これって所信表明だよねえ。これ、半分以上私頼みだよね。
まあ、マイア姫みたいに出資が制限されているわけじゃないし、ヒルダとクレアみたいに全力でサポートしよう。
といいたいところだけど、子爵領と国だと、規模が何十倍も違うよね…。私、ヒストリア王国の規模、何も知らないんだけど。
実をいうと、私の財産はすでに、ロイドステラ王国の三倍くらいにはなっているのだ。だけど、ヒストリア王国の規模が分からないと、足りるのかどうか分からない…。
それに、自国じゃなくて他の国に先に投資しちゃうってどうなの?売国奴?まあ、セレスが王になれば、友好国、いや、姉妹国、むしろ、養女国だし。
そもそも、互いに国の存在すら知らないんだ。バレないバレない。あっ…、マイア姫にしっかり見られちゃうじゃん…。でもマイア姫もロイドステラの王になれば、ロイドステラは嫁国だし、両方とも私の身内だ。争う必要なんて…ないよね?
しかしみんな覚えるの速いなぁ。一日も練習してないのに。
ちなみにカローナは最初のライブのときから、自動音程補正が入っているらしい。ダンスのほうは、たっぷんたっぷん揺れる胸に振り回されて大変そうなところがそそるから、うまくできなくても誰も文句を言わない。
お母様はわざとたっぷんたっぷん胸を揺らして、お手本どおりに踊らないけど、これも人気なので問題ない。
リーナも相変わらず適当にアクロバットしてるけど、可愛いから許す。可愛いは正義。
バックダンサーの女の子たち…、じゃなかった、治療魔術の優秀な領民の女の子たち十人も、とてもダンスが上手。バックコーラスも素晴らしい。
「おれ、セレスタミナ王女殿下を支持します!」
「セレスタミナ王女、バンザーイ!」
「一生付いていきます!」
「あんな可愛い王女様を酷い目に遭わせたなんて許せない!」
「俺たちのために尽くそうとしてくれているなんて!」
曲が終わると、バステル領の支持率百パーセントを獲得した。私が会場の皆の考えを読んだから間違いない。不支持は一人もおらず、満場一致だった。バステル男爵も含めてだ。
王女様に可愛いとか、不敬罪に問われそうな気もするけど、そんなことで目くじらを立てるセレスではない。
バステル領は田舎なので、領民の雰囲気はメタゾールに似ているかもしれない。
そして、来場者特典、握手会…ではなくて、私が領民の背中をポチッと押していく会…。
「×××!」
「あああん…!」
レグラは私が領民を押しているのを、不思議そうに見ていた。
一人十秒ではできることに限りがあるけど、領民は悩んでいた腰痛や頭痛、生理痛、古傷や脱毛症などが改善し、大変喜んでくれた。
ここは男爵領領民が二百人しかいないからまだいいけど、他の領はどうするの?私、ヒストリア王国の国民全員を診るの?何万人いるの?
領民はチラシどおりのミニスカアイドルに出会え、気持ちの良い思いして満足した。セレスは公約を守る議政者であると信頼を得たのであった。
ライブが終わると、即座に機材を影収納にしまって、会場を土に返す。
そして、船のエンジンや機材も影収納にしまって、船自体を潰した。こんなところにオーバーテクノロジーをおいておけないのである。まあ、魔道炉とかそのうち市販するけどね。
船体はアリシアが身を粉にして作った材料なので、あとで回収予定だ。というか、船の形に戻さないとロイドステラ王国に帰れない。
バステル男爵領から次の領に向かうのには、シルバーの引く魔道馬車を用いる。魔道馬車自体は影収納に入れてきた。
影収納はダイアナと合わせればかなりの量のものを運べるけど、いくらあっても足りない。お嫁さんたちの影収納はまだまだ数リットルなので頼るわけにはいかない。
レグラは魔道馬車にいろいろと驚いていた。まあ、この驚きっぷりは、マイア姫のときに慣れた。
「久しぶりだわ!」
「このために来たといっても過言ではないよね」
「そっか…、二人は何ヶ月も…」
「しかたがありませんわね…」
ここは馬車のお風呂の脱衣所。馬車に乗り込むと、もう待てないと言わんばかりに、ヒルダとクレア、それにマイア姫は脱衣所に駆け込んだ。トイレじゃないんだから駆け込まなくても…。それトイレに先に行ってもいいんだよ。トイレは一つだけどね。
というか、キミたち何しに来たの?私はセレスの護衛のつもりだったけど、いつの間にかライブツアーになってるし、今はただ私に会ってマッサージしてもらいたかっただけとはっきり言っているし。
もちろん、私だってみんなに会えて嬉しいよ!
もう!
「ああああああああんんん…」
「ああああああんんんんんん…」
「あああああああん…」
ついつい力が入ってしまった。久しぶりなので、ヒルダとクレアとマイア姫の筋肉は堅くなりつつあった。だから、とても気持ちいいらしい。マイア姫なんてあれだけとろけさせたのに、ちょっ見ないあいだに…。
やっぱり一ヶ月に一回は見てあげたい。ビデオチャットで毎日お話できるだけじゃダメだ。ビデオチャットでマッサージできればいいのに。
まあ、私が一ヶ月に一回、シルバーに乗ってみんなのところを回ればいいだけだ。
っていうか、三人ともトイレも行かないで真っ先にお風呂に入ったから…。力が抜けたらお漏らししちゃったみたいだ…。それに、マッサージしていると、内蔵の活動も活発になるから尿も溜まってくるんだよ。
お漏らしのクレアちゃん…、懐かしい…。
換気扇を付けないとだ…。風魔法でアンモニア臭を集めて…、排水口に入れられるかな…。
「は~…」
「はぁはぁ…」
「じゃあヒルダとクレアとマイア様は湯船にどうぞ」
「「「はい…」」」
名残惜しそうな三人は湯船に入った。
「三人は久しぶりだもの。しかたがないわね」
「セレス、この旅が終わるとわたくしたちも…」
「そうね…」
この旅が終わると、二人はヒストリア王国に残ることになるだろう。海を隔てた異国には滅多に来られない…。
あれ、ここまで船で半日だし、ここからヒストリア王都までもシルバーで半日で行けるんじゃない?他のみんなと同じように、毎月会いに行こう!
「セレスタミナ様…、これはいったい…」
私がヒルダとクレアとマイア姫の背中を流しているかたわらで、私たちのいつものお風呂の光景を目の当たりにして顔を赤らめているレグラ。さっきも領民をポチポチ押しているのを見て不思議がっていた。
「じゃあ、ヒルダたちの次は、レグラに譲ってあげるわ」
「ええっ?そもそも、なぜ馬車にお風呂が…。なぜメイドが一人も付かず、伯爵であるアンネリーゼ様が背中を流して…、というか背中を流しているだけではなさそうですね…」
お風呂はかなり広めに作ったけど、十人はちょっと人が多すぎる。
私とダイアナ付きのリメザ、お母様付きのエミリー、リーナ付きのスピラ、セレスとカローナ付きのポロン、ヒルダのメイド、クレアのメイド、マイア姫のメイド二人。メイドも八人いるのに、誰一人お風呂に付き添えていない。
でもレグラはセレスとカローナの背中を流している。四年前までこうしていたのだろう。レグラは侯爵令嬢だから王族の侍女をやっていても不思議はないのだ。
「それでは次はレグラ様のお背中を流しますね!」
「えっ?伯爵様にそのようなこと…」
「いいからやってもらいなさいよ」
「はい…」
主人の許可いただきました。ポチッとな。
「はあああああああん…。あああああん…。あああああ…」
マイア姫が連れてきたときから分かっていたけど、レグラはかなり筋肉質なスレンダーボディ。レグラは剣士だ。セレスの筋肉の付き方に似ているから、レグラはおそらくセレスの師匠だ。
トレーニングのあとマッサージしないから、とても筋肉が固い。これはやりがいがある。
「あはあああん…」
「アンネ…」
「やり過ぎですわ…」
だいたい初めての人は気を失って、翌日記憶が残ってないんだ。それほど長い時間やったわけではないのに、レグラはとろけてしまった。
最近魔力が上がったのか、それとも技術が向上したのか、みんなとろけやすくなっている。
「初めての方ですし、それにレグラは剣士なのでしょう。筋肉の固くなっている方ほど効果が高いのですよ」
「もう!我慢できないわ!私も!」
「わたくしもお願いします!」
「はい!」
「あああん…」
「はああん…」
そのあと、いつものようにお母様とリーナとダイアナをやっておしまい。
レグラは気絶しているので、私がお姫様だっこでベッドに運んだ。
私とお母様はみんなに母乳を与えた。久しぶりなのに、むしろずっと飲んでいなかったから張っていたくらいだ。ヒルダとクレアとマイア姫は私の母乳を泣いて飲んでいた。
これをレグラに見られなくてよかったと一瞬思ったけど、明日も気絶してくれるとは限らない。毎回新しい子が加わるたびに困っている…。いや困っていないな…。みんなすんなり受け入れすぎだろう…。
翌日、「侍女が主人と一緒に寝るなんてあるまじき行為」とか言っていたけど、レグラは侯爵令嬢だし、彼女より身分の低い子もいっぱいいるんだし、良いではないか良いではないか。
レグラは私の顔を見るなり、突然、火がついたかのように、ボッと顔が真っ赤になった。でもあまり具体的には覚えていないみたいだ。何かとても気持ちいいことがあった。それをやったのは私。私の顔を見たら、またやってもらいたくてたまらなくなった。でも何をやってもらったのかよく分からない。あああ、アンネリーゼ様、好き!
あ…、考えを読んでしまった。マッサージしたばかりの子の心情を初めて知ってしまった…。まさか一発で落としてしまっていたなんて…。
私はなんて罪作りな女なんだ。あれ…、領民もみんなこんな感じなの?みんなこういう感情を抱いているの?どうしよう…、次から領民の心を読んでみるかどうか…。
ところで…、忘れていた…。領民の女の子十人の部屋…。リビングで寝たらしい…。
そして、なんだか寂しそうな顔をしていた。バックダンサーとして華々しいデビューを果たしたのに、かまってあげてなかった。ごめんよ、昨日は久しぶりのお嫁さんたち、そして新しいお嫁さんもいたので、夢中になってしまったんだ。
次からはバックダンサーズもお風呂にも入れてあげよう。そしてご褒美もあげよう。お嫁さんたちのあとだけどね。
その後、私たちは一日一領でライブを開催し、支持を得ていった。
いつのまにか、私のメイドのリメザと、お母様付きのエミリー、リーナ付きのスピラ、他のみんなのメイド、それとマイア姫の護衛の女騎士も衣装を着ていて、バックダンサーとして踊っていた…。
この子たちも汗をかくし、ライブのあとで私が背中を流してあげないとダメかな…。私、ライブのあとも、めちゃくちゃ忙しいんだけど…。メイドだろうと護衛だろうと、ちゃんと可愛がってあげるけどね。
というか、今回、マイア姫は女性騎士しか連れてきていなかったのか。馬車一台で来ていたしね。
しかし、ライブ開催は男爵領とか子爵領ならまだいい。でも伯爵領となると千人規模になって、会場設営が大変だ。影収納に会場を入れて持ち運べればいいのだけど、それは闇の魔力が光の魔力と同じくらいないと無理だ。
「さて、次のオキサトミド伯爵領は、領地の広さや財政規模からすると、王位を狙っている可能性があります。セレスタミナ様、じゅうぶんにご用心を」
「ええ、ありがとうレグラ」
今までは、王位に興味がないか王位を狙えないような貴族ばかりだった。でも次は伯爵家でも上位の財力を誇る。王位を狙っていてもおかしくない。
「馬車を止めてください。門の様子がおかしいです」
窓から前方を見ていたレグラが、オキサトミド伯爵領の入り口が慌ただしいことを発見した。
「兵士がたくさんいますね」
入って調べるまでもなく、他の領に出撃するところのようだ。
「気が付かれました。御者席には私が座り、応対します」
「よろしく、レグラ」
御者のいない馬車は暴走馬車だ。矢を撃たれたりすると困る。
「どこの馬車だ。見たことのない紋だ」
「私はレグラ・フェナージ。フェナージ侯爵家の娘です」
「フェナージ侯爵家は、中立を保っているはずだ。オキサトミド領に何の用だ」
「オキサトミド伯爵に話があります」
「伯爵様はお忙しい。中立だから見逃してやっているが、今は他領の者に構っている暇などない」
「レグラ、セレスタミナの名前を出しなさい」
「姫様…、それは…」
「いいから」
御者席との扉を通じて、セレスがレグラに自分の名前を出すように言った。
「この馬車には、セレスタミナ・ヒストリア第五王女殿下が乗っておられます。王女の命です。通しなさい」
「なんだと?王族はすべて暗殺したはず!」
された、ではなく、した…。自分か、自分の所属団体の者が暗殺したということか…。このような浅はかな発言をする者相手には、心を読むまでもない。
セレスの鼓動が速い。セレスも今の言動から、私と同じことを考えたようだ。
自分の母を殺した者かもしれない。
誰もがセレスを認め、争いなくセレスが王になれればよいと思っていた。刃向かう者がいなければ戦闘など起こらないと思っていた。でも、王族を殺した者を罰しなければならないのだ。
私の頭にはなかった。セレスは復讐を考えているだろうか。
私の頭にはきれい事しかない。私は前世の平和な世界で育ったのだ。殺伐としたこの世界に転生して、大切な人を殺されかけたりもしたのに、いまだに頭の中はお花畑だ。
「ならば、その王女とやらを出せ」
「私がセレスタミナ・ヒストリアです」
「こっちへ来い」
ダメだ。発言からしておかしい。殺そうと考えている。
話を聞いていたもう一人の門番Bも寄ってきた。手柄は俺がいただく、か。
まだ生き残っていた王族を殺したとなれば、士官に取り立ててもらえるかもしれない。
私はいつでも馬車から飛び出せるようにスタンバイしつつ、スカートの中の影収納に手を突っ込んで、剣を握った。
それから、セレスが傷ついたときにすぐに治せるように、バックダンサーズ…じゃなくて治療魔術師ーずにスタンバイするよう指示を出す。肉壁にするつもりはないよ。っていうか、ネーミングセンスが…、ヒーラーガールズにしよう。うん。
「ほう…、美しい娘だ。遊んでやりたいところだが…」
最初の門番Aの発言は、明らかに王女に対するものではない。
セレスの美しさ、そして短いスカートから覗く脚に、よからぬことを企んだため、間があった。
その隙に、あとから来たもう一人の門番Bが剣を抜き、セレスを切りつけようとした。
私は馬車から飛び出してスカートの中から剣を出し、門番Bの剣を受け流した。そして、剣伝いに電流を流す。電流はピンポイントで、背骨の間接の筋肉を酷使させることにより臓器の能力を低下させた。
門番は虚弱体質となった。心臓、肝臓、腎臓、消化器官などの機能低下により、疲労回復、栄養摂取、免疫機能など、すべてを低下させた。
「くそっ…」
門番Bは立っていられなくなった。すぐに体力を奪ったわけではない。でも、金属鎧を着て立っているだけでも酸素を消費する。その酸素の供給が極端に悪くなっているのだ。
声には力がない。もはや座っているのもやっとなはずだ。
「お、おい、これは俺の獲物だ」
先に応対していた門番Aもあわてて剣を抜き、セレスを切りつけようとした。もちろん、私は剣を受け流し、もう一方の門番Bと同じ目に遭わせてやった。
先に無力化された門番Bは、なおもセレスを狙おうとしていて、門番Aに手柄を奪われるのを遮ろうとしたが、うまく身体が動かない。
「うぅ…」
門番Bは剣を振るうのに使った腕の筋肉疲労が回復しない。腕になかなか酸素が回ってこないのだ。もはや重い剣を持ち上げる酸素は残っていない。
疲労で息が切れたりはしない。心臓から腕に酸素が送られないので、新たな酸素を必要とすることはないからだ。
「アンネ、ありがとう」
「私はあなたを守るために来たのですからね」
「おい、おまえら!」
出兵しようとしていた兵士が私たちに気がついて集まってきた。
最悪だ。もっといいやり方がなかっただろうか。
兵士たちはセレスを見て、様々な邪悪な考えを抱いている。もてあそんでやる。王族は殺す。昇格の手柄に。
エミリーを傷つけたロキシンや、マイア姫を切ろうとしたサレックスと同じ匂いがする。このような者たちは救いようがない。生まれ変わるヒストリア王国には必要ない。
兵士は二百人ほどだろうか。多すぎる。千人規模の領に兵士を二百人も抱えることはできない。
でも邪悪な考えを持っているのは金属鎧を着た者ばかり。大半の者は革鎧を着た領民であり、徴兵なんて嫌だなぁ、と士気が低い。セレスのことを見て、美しい娘だと見惚れてはいるけど、お貴族様か王族だろうし、関わりたくないというのが本音だ。
よし、積極的に向かってくるのは、金属鎧の専任兵士三十人と、そそのかされた十人の領民兵士のみ。
囲まれたら守れない。先手必勝!
あれも王女か?美しい娘が胸を揺らしながら自分たちの元に駆け寄ってくる。短すぎるスカートから覗く脚もそそる。そんなに遊んでほしいなら、遊んでやろう。
そんな醜い心が伝わってきた。男はそんな風に見てるんだ…。あまり男の心は知りたくないな…。
そんな醜い生き物たちは再起不能にしてやる。
「くそっ!速い!」
このアマ!捕まえればこっちのもんだ!
後ろからの考えも読める。そうでなくても、筋肉のきしむ音で私を捕まえようとしているのが分かる。
私は、兵士が一歩動く間に五歩動き、次々に兵士の金属鎧に剣を当てて電流を流し背骨の間接の筋肉を酷使させて、内臓の機能を低下させていった。
そんな短い剣一本で、金属鎧の兵士に傷を付けられるはずがない。大半の者から浅はかな考えが伝わってくる。
金属のほうがやりやすいんだよ。皮だろうと布だろうと、放電させれば同じだけどね。
私が兵士を蹴散らし始めると、セレスもスカートに手を突っ込んで剣を取り出した。スカートを少しめくり上げて、手を入れるさまはとてもえっちぃ…。
あれ…、私、いつもこんな風に見えてるのか…。闇魔法習得用動画で分かってたつもりだったのに、なんてえっちぃんだ…。
って、見惚れている場合ではない。セレスの手を汚させたくはないのだ。
どうしよう。セレスが手をかける前に全員再起不能にするのは難しい。
私が悩んでいる間にセレスが兵士に斬りかかろうとしている。間に合わない!
そのとき、馬車の中から白い影が!アリシア!
アリシアはセレスの狙っている兵士に体当たりをした。アリシア、速い!セレスよりも早く回り込んで一撃を加えるとは。
アリシアを呼んだ覚えはないのだけど、私の考えが伝わったのだろうか。
兵士はすごい勢いで吹っ飛んでいった。骨は折れたが死んではいない。アリシアは私が兵士を殺さないようにしているのをくんでくれる。
それに、ヒーラーガールズ!次々に金属鎧の兵士をぶん投げていく!そんなに強かったの?
光魔法に長けた子たちだからな。身体強化も得意なのか!護衛にするつもりなかったのに、これならちょっとやそっとではやられないでいられるな。
「リーナも!」
そのヒーラーガールズの活躍を見ていたリーナが飛び出してきた…。
ヒーラーガールズの三倍の速さで動き、三倍の距離、兵士たちを投げ飛ばしていった…。
よし、セレスの出番はない!ごめんね、セレス。セレスの手を汚させない。セレスの手を血で染めたくない。
私とアリシア、リーナとヒーラーガールズで全員無力化させちゃおう。
「アンネ…」
「セレスがこんな奴らのために手を汚すことはないよ」
「そうね…」
影収納は船のエンジンなどでいっぱいいっぱいなのだけど、それは闇の魔力の自然回復量を上回らない範囲でのことだ。闇の魔力の消費前提であれば…兵士四十人も入れておくスペースを維持するのは三時間が限度ってところか…。
土魔法で兵士を一カ所に集め、屋根を作って影を作り、影収納に放り込んだ。魔力節約のため、兵士たちを入れたあとに影収納を可能な限り小さく圧縮した。
門番も兵士もいなくなったオキサトミド領の入り口。
私たちは再び馬車に乗り込み、オキサトミド伯爵の屋敷へ。
御者席にはセレスとレグラ。
屋敷にも門番がいた。
「私はセレスタミナ・ヒストリア第五王女。王族である私を兵士が殺そうとした罪で、オキサトミド伯爵を処刑します!」
部下のしつけは当主の責任。理にかなっている。
「王族だと!でたらめを言うな。王族はすべて殺したはずだ!」
ここでもまた兵士が自供するんですか。オキサトミド伯爵が暗殺を企てたというのか。
いいだろう。能力はこういうときに使うべきだ。
「通しなさい。刃向かうなら処刑します」
「小娘が粋がっ…、ううぅ…」
屋敷の門番Cが剣を抜いたので、すかさず私が馬車から飛び出し、門番Cを虚弱体質にしてやった。
剣を抜くというのは、攻撃の意思ありということだ。王族を攻撃しようとした時点で普通は死刑だ。
「この!何をし…、ううぅ」
もう一人の門番Dも剣を抜いたので、同じめに遭わせた。
門をくぐりそのまま進み屋敷の入り口に馬車を着けた。降りたのはセレスと私、ヒーラーガールズ五人とアリシア。
残りのヒーラーガールズ五人とメイド、リーナ、ワイヤは馬車の護衛。ワイヤの実力は知らないけど。
お嫁さんたちも少しは戦えるのかな。カローナは近接されなければ無敵の砲台だ。あと、ダイアナは最後の砦。
あ、マイア姫の護衛はもちろんマイア姫を守るために馬車の中。まあ、私が命令する立場ではない。
セレスは屋敷の扉を開けた。かなり不用心だけど、私を信頼してくれているのだろう。
「私はセレスタミナ・ヒストリア第五王女!王女である私を兵士が殺そうとした罪で、オキサトミド伯爵を処刑する!」
「なんだと!まだ生き残りがいたのか!」
残念ながら当主本人は自供してくれなかった。でも、私はお前からいろいろ教えてもらうとしよう。
しくじりやがったか。まったく、エッテンザム公爵も使えないな。しかし、ここで私が引導を渡してやろう。
エッテンザム公爵…、それがセレスのかたきか?
屋敷の中の心を読んでみると、敵対的な兵士と執事が十五人、中立的な執事が五人とメイドが十五人というところだ。
何がやってきたのかと思いきや、綺麗な娘ばかり。俺が遊んでやろう。
王女を殺して手柄を立ててやる!
ああ、男の心を覗くもんじゃないな。醜いしアホだし。
門番をかいくぐってここまで来られたのに、どうして懐柔できると思うのか。
セレスと私が剣を持っているのに気が付かないのかなぁ。バカみたいに突っ込んでくる。小娘が剣を持っていても何の迫力もないってか。
まあ、油断しているアホばっかだから楽でいいよ。
寄ってくる兵士をちょいちょいつついて、虚弱体質にしてやった。
後ろから鼻の下を伸ばして執事五人が寄ってきていたけど、次々に倒されていく兵士に気が付いて、やっと歩みを止めた。いっそうのこと来てくれればダメにしてやったのに。
でもこいつらは警戒しておこう。
私は影収納に入れておいた兵士四〇人と門番ABを屋敷のエントランスホールに天井からぼてっと落とした。リーナやアリシアに吹っ飛ばされたり、虚弱体質になっているのに、中で積み重なっていたり、酸素不足だったりして、中でどのようにしていたのかは知らない。
「これらは私を殺そうとした者たちです。配下の不始末は当主に不始末。さあ、オキサトミド伯爵!罪状は明かです。責任を取って自害しなさい」
「ば、バカを言うでない!兵士のやったことなど、私には関係ない」
私はオキサトミド伯爵の記憶を辿った。処刑する前にいろい教えてもらわないと。
「この者には私が尋問します」
拷問じゃないよ。
「私も尋問するわ」
「ごめんセレス。私一人にやらせて」
「アンネがそう言うなら任せるけど…」
「さあ、この部屋に入りなさい」
「何だおまえは。なぜおまえのような者に従わねばならん」
「だまらっしゃい!」
「ひぃ…」
こいつはセレスの親のかたきかもしれないのだ。それを思うと、声に力が入ってしまった。
すると、オキサトミド伯爵は腰を抜かしてしゃがみ込んでしまった。
面倒なのでオキサトミド伯爵の首筋を後ろから掴んで、個室に連れ込んだ。私一人だとみんなが不安に思うだろうから、アリシアに付いてきてもらった。
すでに尋問は始まっている。訪ねる必要もなければ、声に出してもらう必要はないのだ。
個室に連れ込む必要もない。ただ、こいつの口から私が聞いたという体にしたいだけだ。
「ま、魔物!」
「あなたが暗殺の指示をした者を挙げなさい」
「わ、私は誰の暗殺も指示していない」
「ほんとうのことを言いなさい」
「ひぃ…」
またちょっと声に力を入れたら、オキサトミド伯爵は泡を吹いて気絶してしまった。アリシアを見て怯えはしていたけど、可愛い少女の声で気絶するとは何事?
はぁ…。まあいい。寝ていても記憶は引き出せるようだ。
オキサトミド伯爵はエッテンザム公爵と共謀して王族を次々に暗殺していった。ほとんどはエッテンザム公爵の放った暗殺者の手によるが、最後に第六王子の暗殺を指示したのはオキサトミド伯爵だ。
エッテンザム公爵は他の公爵家も駆逐していった。そして、自分が王位に就こうとした。オキサトミド伯爵は、公爵家に取り立ててもらおうとしていた。
ところが、自分が王位に就こうという他の侯爵家と伯爵家が内紛を起こした。
一時期は二十の貴族家を巻き込む酷い内乱状態だったが、今では中央に近い十の貴族家が小競り合いをしているだけに留まっている。
中央から遠い三十の貴族家や低位貴族家は内紛には参加せず、中立を保っている。王国に統治されていないので、小国のような状態だ。
こいつは用済みだ。虚弱体質にして放置しよう。
「アンネ!早かったわね」
「だいたいのことは分かりました」
敵対心のなかった執事とメイドは呆然と立ち尽くしたままだ。
「セレス」
「そうね。オキサトミド伯爵家は取り潰しとします。近日中に代官を派遣しようと思いますが、それまでは…、そうですね…」
セレスは私のほうを見て何かを訴えている。この家の管理人を選んでほしいようだ。
私は使用人の中で誠実でリーダーシップに優れていそうな者を、記憶を頼りに選ぶ…のってちょっめんどう…。セレスは私の人を見る目を信じているのかな。
短時間ではそうそう分からないけど、まあメイド長が比較的誠実でしっかりしてそうだ。
「あなたにお願いしましょう。代官が来るまであなたがこの家を切り盛りしてください」
「はは~」
メイド長は私にひれ伏した。いや、王女はセレスだってば。
馬車に戻ると、ダイアナに…
『はいこれチラシね。会場はこの屋敷の前でいいよね』
すでに、屋敷の前に会場ができていた。千人規模の会場だ。もう建物にするのは難しい。プロジェクションマッピングできるだけの壁を作って、あとは野外ステージだ。
「はぁ…」
『とりあえず屋敷の人に配ってね』
「…」
立っている者は親でも使えとはこのことか。
「それじゃあ、今晩のライブに向けて練習しましょ」
「ちょっと待ってください。尋問して得た情報を元に作戦会議です」
「そ、そうだったわね」
セレスさん、ライブが楽しみでしょうがない?
私はオキサトミド伯爵の記憶を読んで得た情報を皆に話した。
「えっ…、エッテンザム公爵家が首謀者…」
あっ!どっかで聞いたことのある響きだと思ったら、カローナの実家じゃないか…。出会ったときにカローナ・フェイナ・エッテンザムって言ってたな…。なんてこった…。
「お父様はセレスを手にかけるのに、いつも側にいるわたくしが邪魔になったから、いわれのない罪を着せて勘当したというの?」
「エッテンザム公爵は私が殺されるところをあなたに見せたくないから、私と離すためにそうしたのかもしれないわよ」
「お父様がセレスを暗殺しようとしたなんて…。わたくし、いったいどうしたら…」
「あなたは関係ないでしょ。気に病む必要はないわ」
「うう…、わたくしの家が王家転覆を企んでいたなんて…、セレス、わたくしは死を持ってつぐ…」
バチンっ!セレスがカローナの頬を叩いた。
「しっかりしなさいカローナ!私はヒストリアの名を取り戻すけど、あなたはカローナ・メタゾールのままでもいいのよ!あなたはエッテンザムの企みに無関係よ!」
「ううぅ…、セレス…」
「そして、私が王になった暁には、あなたは私に嫁いで王妃になりなさい」
「はい!セレス!」
即答!私フラれた!子供まで産んだのに!これが父親側の意識か?いいけどね!いいけどね…。
みんなは私のことをいちばん好き。なんとなくそう思っていた。でもそんなわけないよね…。それでいいんだ。
今までが異常だったんだ。みんな私のお嫁さんだなんて、欲張りにもほどがある。それに、ほんとうは私のことよりも、私のマッサージのほうが好きなんだ。マッサージの快感で中毒症状になってるだけなんだ。
前世の感覚からすれば、何人もお嫁さんを連れているなんて、傍目から見ればひどいやつだって何度も思ったことがある。でも、この世界では側室とか妾が普通に許されているから、って都合のいいときだけこの世界のルールを利用していた。
「……ネ!」
「えっ?んん~…」
呼ばれたような気がして、振り向いたら、セレスに唇を奪われた。
甘い…、玉子焼きの味…、ではない…、セレスの味…。
離さない。離れたくない!私はセレスの腰に手を回して抱き寄せた。
私はセレスのことを好き。凜とした立ち振る舞い。王女の気品。気高さ。私との愛よりも国をとろうとしているセレスのことを好き。
セレスは私のことをいちばん好き。窮地を救ってくれたときからずっと好き。かっこよくて、何をやってもうまくやる私のことを尊敬している。
あれ?これはセレスの心?ああああ…、読んじゃった…。反則だ…。でも…、ホント?もうちょっとだけ覗かせて…。セレスは私のことをいちばん好き!
「こらあああああ!アンネお姉様の唇ぅ!」
ドッジボールになったマイア姫を止めることは、セレスには難しい。セレスは体当たりされて私から離れていった。
私は唇の寂しさを感じる暇もなく、私の唇にはマイア姫の唇が吸い付いてきた。相変わらずディープ…。
マイア姫は私のことだけが好き。自分だけを見てほしい。振り向いてほしい。あれ…、どこかで聞いたフレーズ…。
私もマイア姫のこと好きだよ!なんだかんだいって、国のために王になろうとしている崇高な心をもったマイア姫を好き。
「わたくしのアンネを奪わないでくださいまし!」
筋力のないカローナが、かつてないほどの力でマイア姫を押しのけて、私と唇を重ねた。
カローナは私のことをいちばん好き。ときどき悲しい顔をしている私を癒したくなる。
私もカローナのことを好き!完璧な令嬢であろうと一生懸命なカローナのことを好き!
カローナの胸と私の胸がむにゅむにゅと潰れ合う…。これ…、とても良い…。
「ちょっと、ずるいわよ!早くどいてよ!」
ヒルダがカローナを引っ張って、私から引き離した。そして私の唇に突撃してきた。
ヒルダは私のことを好き。優しくて頼りになるお姉さんのような私のことを好き。
私もヒルダのことを好き!
「私も!ねえ、変わってよぉ」
「しょうがないわね」
クレアは強引にはいかず、ヒルダに頼んでどいてもらった。そして、私に笑顔で唇を寄せてきた。
クレアは私のことを好き。初めて会ったときからずっと、自分の失敗をフォローしてくれたり、何でも優しくしてくれる私のことを好き。
私もクレアのことを好き!守ってあげたくなっちゃうような愛らしさを持つクレアを好き!
あれ?何これ。みんなの気持ちが唇から伝わってきていた。心を読むつもりはなかったのに…。
心を読む魔法は遠いほど精度が悪くなるけど、今は触れあっていた。もしかして粘膜で触れあうと、よりハッキリと、そして伝えたい思いを機敏に感じ取ってしまうのかもしれない。
「ねーね!リーナもちゅっちゅ!」
「ぎゃあ」
強烈なドッジボールがクレアに襲いかかった。そして、私の唇…を通り越して歯が当たった…。痛い…。おお…、歯抜けだね…。生え替わっている途中の歯と歯の間に唇が当たると痛いよ…。
リーナはねーねを大好き!ねーねはいちばん遊んでくれる!
私も可愛いリーナのことを大好きだよ!
「うふふ、アンネちゃんっ!」
リーナは飽きたのか、自分から離れていった。
そして、交替でお母様と口づけ…するにはちょっと大きすぎる胸が邪魔で、なかなか近づけない…。
ぐいぐいと強引に互いの胸を潰した状態でお母様と口づけ。ちょっと苦しい…。
伝わってくるお母様の愛。愛の化身。私がお母様を育てた。やり過ぎた…。お母様はすべての母になる勢いだ…。
とはいえ、お母様がいちばん愛してくれているのは私とリーナ、それとダイアナだ。でも、みんなのことも愛している。
リーナともお母様とも、痛かったり苦しかったりで、キスをするっていう雰囲気ではなかったのだけど、気持ちは伝わってきた。
もじもじとしたオーラを放っている人が一人…。レグラ…。最近加わったばかりのお嫁さんなので、いまだに遠慮がちだ。マッサージで洗脳してしまった感が否めないけど、それ以外には私との接点がなくて、私とキスしたいのに理由がなくてもじもじしているのが伝わってくる。いや、見ただけでもじもじしている。
「ほら、行きなさい。アンネを好きなんでしょ?」
「えっ?私はそんなはず…」
「ほら」
「あぁぁ…」
セレスに押されてバランスを崩したレグラの唇を、私の唇でキャッチ。
ああ、私の身体も心もすべて解きほぐしてくれるお方。好き…。
ふふっ、騎士というのは己の身体にも心にも厳しく生きているもの。まだ十六歳なんでしょ?もっとのんびり生きていいと思うよ。
反乱が起きて二年間苦労して生きてきたようだけど、セレスが王になってからは力を抜きなね。
ああ、みんなの気持ちを知ることができてよかった。好きな人の気持ちを読んでしまうなんて卑怯だと思ったけど…。
「アンネの気持ちが分かったわ。アンネは私のことを好き」
「アンネはわたくしのことも好きですのよ」
「私だってアンネに好かれているんだから!」
「私もだよ!アンネは私のこと好きって伝わってきたもん。守ってあげたいって!」
「アンネちゃんもみんなのことを愛しているのね~」
あれ…、私の気持ちも伝わってたのか…。かってに気持ちが漏れちゃうなんて、ちょっと困った魔法だな…。いや、私が気持ちを伝えたいと思ったから伝わったのか。
「どう?落ち着いた?」
「はい…」
「このゴタゴタが済んだら寂しくなるけど、私のアンネへの愛は変わらないわ」
「はい!」
結局、作戦会議どころではなく、ライブの時間が来てしまった。
チラシは、ヒーラーガールズが気を利かせて配ってくれていた。素晴らしい!それとも自分たちもライブをやりたいってことかな。
ライブはオキサトミド伯爵が王家転覆を企んでいたことが発覚し、取り潰しにしたことを発表したところから始まった。
でも、近いうちに優秀で誠実な貴族当主を配属させるから心配しないでほしい。
そのあとは、今まで通りのライブだ。
夜六時からライブを始めて十分ほど演説…そして、たった五分の曲でも領民はとても感動してくれているようだ。よく支持を集められるなあ。
それに対して、そのあとの私の握手会…じゃなくて一押し会は、一人十秒でも千人も見たら三時間だよ…。最後のほうの人たちはよく待ってくれていると思う…。
私が一押し会をしている間にみんなは会場の片付けを終えていた。私が終わるのは九時半の予定。待たせてしまうので、先に夕食を済ませてもらうことに。
一押し会が終わると、私は夕食をいただかず、お母様から母乳をもらうだけにして、お楽しみのお風呂。私はお嫁さんをとろけさせて、お風呂から上がらせたあとに、ヒーラーガールズにもご褒美をあげているのだ。
ちなみに、私たちが授乳プレーをしていることは、二日目にはレグラにばれてしまっていたけど、レグラは遠慮してずっと飲んでいなかった。
でも、今日は私とキスをして何か吹っ切れたのか…、
「あの、私にも…その…ください…」
私の母乳量は、最初はダイアナの分しか出なかったのに、みんなに飲まれている間にどんどん量を増していった…。お母様にはまったくかなわないけどね。
これだと、奪われる栄養のほうが多くなってしまうので、こそこそとお菓子をつまんでいるんだよ…。
■レグラ・フェナージ侯爵令嬢(十六歳)
セレスタミナの侍女。剣士。筋肉質で押し甲斐がある。
■ヒーラーガールズ(十歳)
乳児の魂百まで計画を施された、治療魔術師の女の子たち十人。
アンネリーゼたちと同じミニスカアーマーを着て、コンサートでバックダンサーおよびバックコーラスを務めた。
オキサトミドの兵士との戦いでは華麗な投げ技を披露。
■リメザ(十歳)、スピラ(十歳)、エミリー(二十二歳)
■ヒルダのメイド、シンクレアのメイド
■マイアのメイド×四、マイアの護衛騎士×2
アンネリーゼたちと同じミニスカアーマーを着てコンサートでバンクダンサーを務めた。
■バステル男爵
ヒストリア王国における、ゲシュタール、元メタゾール子爵相当に無能な貴族。
■バステル領民
田舎者。穏やかな気質。二〇〇人。
■オキサトミド伯爵
王族暗殺の罪でお家お取り潰し。
■オキサトミド伯爵領の兵士
金属鎧の兵士三〇人。領民から徴兵された兵士一七〇人。
■オキサトミド領民
一〇〇〇人。
◆バステル男爵領
ヒストリア王国の最北端の海に面した領地。無人島から時速八〇キロで十二時間。
◆オキサトミド伯爵領
バステル男爵領より、三領南。




