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16 乳児の冒険

 さて、話は少し遡るけど、ダイアナは一年間、惰眠を貪っていたわけではない。赤ん坊なのでねんねしているのは当然なんだけど、実は布団の中で色々やっていたようだ。


 まず、私はダイアナが生まれてからすぐ魔法の基礎を教えていた。各属性の魔力を込めながら起こしたい現象をイメージするというやつだ。

 水生成などの基礎的な魔法はいっさい教えていないのに、自分でどんどん魔法を開発していってしまった…。


 寝っ転がったままでどうやって魔法を練習するのかと思ってたのだけど、布団の中に影収納を作って、影収納の中でいろいろ実験していたらしい。まあ、生成系の魔法は材料を外から取り寄せてきたりするので、すでに影収納の中にはいろんなものが入っているらしい。

 おかげで、物作り系はマスターしたようだ。



 ダイアナの電気の精霊は、私の光の精霊ほどといわないけど、かなり大きい。私の光の精霊は一歳の時にこんなに大きくなかったと思う。おなかの中にいるときに私が精霊の育て方を教えた甲斐があった。

 つまり、ダイアナは電気の魔法が異様に得意。ダイアナは私の想像し得ない電気魔法を作り上げていた…。それは、計算機。空中放電で電子回路を形成し、コンピュータのまねごとをさせているらしい。CPU、メモリなどなど…。

 メモリは揮発性で、魔法を使うのをやめてしまうとデータが全部飛んでしまうらしいが、幸いなことに寝たり気を失ったりしても、魔力が尽きない限りは魔法は持続するので、データを維持しているらしい。


 それで、コンピュータで何をやっているのかというと、まずはいろんなアプリを作っているらしい。それも、「CADソフト」とか「通信ソフト」とか、かなり適当なイメージで、本物のアプリをプログラムできてしまうらしい。


 自分でもなんとなく感じていたけど、精霊が大きく育っていると、イメージが適当でも魔法が成り立ってしまうんだな。

 最初は指圧とかは、私の知識の元に筋肉の動きや回復の過程をイメージしていたけど、あるときあんまり考えないでも「体力回復」とか適当なことをイメージするだけで同じような効果が得られてしまった。もちろん、筋肉のことをちゃんとイメージした方が効率も効果も良いけど、何も考えないでもマッサージ効果を得られてしてしまったのはちょっと悲しい。


 とにかく、ダイアナは電気魔法による電気の制御だけでコンピュータを作り出して、そのコンピュータ上で動くアプリを一言二言で作れてしまうということだ。



 しかし、いくらアプリを作っても、それを実行できるのが自分の魔法上に作り出したコンピュータだけというのでは、真価を発揮できているとは言い難い。それに、カメラやディスプレイ、アンテナなどの入出力装置も一切ない。

 とくに通信ソフトなんて、ローカル通信で実験しただけに留まっている。


 そこで、ダイアナは物理的なコンピュータやカメラを作りたいらしい。

 実は、魔道具には魔力の半導体のようなものがあって、簡単な演算ならさせることができる。だけど、非常に大きいため、電気回路の域を出ない。電子回路やLSIというような規模のものは作れない。

 そのため、どうしても本物の半導体と導線を使ったコンピュータが必要なのだ。




 というわけで、シリコン…珪石を探しに鉱山へお出かけ…。子供の落書きみたいな地図を片手に、王国中を探し回ることにした…。誰の領地にもなっていない山とか、他領だけど開発してなさそうな山とかを片っ端からあさっていく。


 今回は何日の旅になるか分からないので、お母様とリーナも連れていく。もちろん、主役のダイアナも連れていく。


ちなみに、リーナは五歳になった。学校に通わせているのに、おてんばは相変わらずで、やることはめちゃくちゃだ。だけど、私が五歳だったときのように、とても可愛らしく育っている。

 今ではもう、ドレスなんて自由に作れるようになってしまったけど、リーナが五歳になったときのために取ってあったドレスを着せてみた。


「リーナ、可愛いですよ!」

「ありがとう!ねーね!」

「まあ、アンネちゃんが五歳のときを思い出すわね!」



 シルバー一頭で何日も連続で移動することはできないので、以前お母様たちを王都に連れてきてくれた馬、ブロンズ(♀)も交代要員として連れていく。連れていくからには、馬車の中に馬屋も併設した。一年前に比べると闇の魔力も上がったし、ダイアナの魔力も使えるから、3LDKプラス馬屋になっても維持できる。

 ブロンズはまだシルバーのように一人で走ったりはできない。しょうがないのでダズンに御者をやらせる。ブロンズは時速八十キロしか出せないから、ダズンは耐えられるだろう。

 ダズンには御者として成長してもらいたいけど、御者をやりたくないなら、ブロンズを一人で走れるように育てろと言ってある。シルバーに協力してもらえば調教も進むだろう。



 こうして、一つめの山に到着。木が少なくて、岩肌が見えている山だ。

 こんなところにドレスを着た華やかな女の子の集団。明らかにおかしい。ちなみに、メイド三人と執事三人も付いてきてるよ。

 この山はそれほど険しくはないが、その山の高さを見てカローナが絶望している。


「こ、ここを登るのですか…」

「あい!」

「だ、ダイアナがしゃべりましたわ!」


 滅多に口を開かないダイアナが返事をした!それを見てカローナが感動してる。絶望の表情からぱあーっと変化したのは、ちょっと面白かった。

 ダイアナは私がだっこしているのだけど、気が付いたらかなり興奮していた。


「まーま、おーって」

「ん?」

(ママ、降ろして!)

「ああ、わかりました」


 私はダイアナを降ろした。


「って、ええっ?」


 ダイアナはつかまり立ちすらできないのだ。私のスカートに捕まっているけど、安定しなくてよろよろとしている。


「まあ!ダイアナが立ちましたわ!」


 ダイアナは私の脚を離してしまい倒れかけたので、私は慌ててダイアナを支えた。捕まっている手や指の力すらおぼつかないのだ。


「どうして急に…」

「あーお!……あーしょーおー。……うー……」

「んー?」

(うぅ…、なぜ私はしゃべれないの…)

「無口だからですね」

(うう、なぜ私は立てないの…)

「運動してないからですね」

(ママ、助けて…)


 私は身体の構造のエキスパートだから、前世から身体がなまらないように運動していたし、転生してからもおなかの中にいるときから鍛えていた。

 でも人間は歳を取るにつれて運動しなくなっていくもんだ。そのままの意識で赤ん坊になったら、事故で寝たきりになってしまった老人と同じように、動く努力なんてしなくなってしまうのかもしれない。よく考えたら辛いことだな。


 本来、赤ん坊は興味を燃料にして運動能力を身につけていくもの。最初は動けなくても、興味のあるものに向かっていくために著しい速さで成長できるのだ。

 家には興味の湧くものがなかったのだろう。それが、ここに来た途端目を輝かせて、いきなり動き始めた。私にはただの岩にしか見えないんだけど…。

 まあ、せっかくやる気になったんだ。身体を鍛えるチャンスだ。


「どうしたいの?」

(あそこ!)

「行ってみましょう」

「うん!」


 私はダイアナの手を握って、ダイアナの行きたい方へ向かった。まだまだつかまり立ちの域に達してない。私にぶら下がっているようなものだ。腕が抜けないように気をつけないと。


「うふふっ、わたくしとも手をつなぎましょ!」


 カローナも寄ってきて、ダイアナの手を握った。


「良い親子ね」

「ホント、うらやましいな」


 ヒルダとクレアに見守られて、私たちはゆっくりと岩に向かっていく。

 近づくにつれて、岩から何か霧状のものが出ていて…、ダイアナに向かっていく?


「危ない!」

「だーお」


 私はそれを遮るようにダイアナの前に立ちはだかった。でも、霧状のものは私を避けて、ダイアナの手に集まった。


「何か集めたの?」

(ケイ素化合物)

「なるほど。この岩に珪石が含まれていたんですね」


 探索と採集の方法は、食材と生地を探したときと同じく生成魔法だ。ケイ素の塊を生成することをイメージしたんだろう。

 堅い岩の中に混合しているものを取り出すのはコストが高い。ダイアナの土の魔力は、私の一歳のときと比べれば強いけど、今の私には及ばない。


「ダイアナ、ケイ素の原子番号ってなんだっけ?」

(十四だよ)

「OK」


 私もケイ素化合物の生成をイメージした。物質の原子番号とか性質を知っている方が、効率よく集められるのだ。ダイアナの数倍の勢いで、岩から霧状のものが集まってきた。


「わたくしも手伝いますわ。原子番号なら学校の理科で習いましたもの」

「原子番号十四番ね。私もやるわ」


 カローナとセレスも参戦してくれる。二人とももうそんなところまで習ってるの?


「私もやりたいけど、何を集めればいいのかしら?」

「私もっ!」


「お母様もやるわよ!」

「リーナも!」


「んー…、それなら、鉄や銅を集めてください。土魔法で周囲からものを集められるのは知っていますね?」


 原子番号が分からなくても、性質を知っていればそれなりに魔法の効果は現れる。でも半導体をここで説明するのは無理だ。四人は半導体を集められない。


「ええ」

「よーし、鉄を集めるぞー」

「うふふ、頑張っちゃうわ!」


 ヒルダとクレアには土魔法の素質がもともとそれなりにあるようだ。でも土魔法を学び始めたのは、一年前に留学に来てからだ。まだまだ実用的ではない。

 お母様もそれなりに素質がある。私が二歳のときに精霊を付けて、今では土の精霊も見えるようになっている。私とダイアナを除けば、この中ではいちばん優秀だ。


「できたああああ!」

「えっと…、それは岩ですね…」


 リーナは鉄が何か分かっていない。リーナも土の魔力が強いけど、魔法は願いを叶えてくれるもの。願い自体が間違っていたらどうしようもない。


 実はそんなことはなくて、アンネリーゼの光の精霊とダイアナの電気の精霊は、イメージした内容がかなり間違っていても、術者の記憶や経験をたどって、好ましい結果を導いてくれるのだ。本人たちは知らないことだ。



「うー」

「どうしたの?」

(少ない…)


 集まったケイ素化合物は、ダイアナは野球のボールくらい。私はハンドボールくらい。セレスとカローナはビー玉くらい。


 一方で、鉄と銅は、ヒルダとクレアがビー玉くらい。お母様が野球のボールくらい。

 ちなみに、ヒルダとクレアのメイドと執事は、ちゃっかり主人と一緒に学校で勉強している。なので、同じくらい魔法を使えるのだ。おかげで、四人ともビー玉くらいの鉄と銅を生成していた。


 エミリーは学校には通っていない。うちには女の子がたくさんいるのに、レディースメイドはエミリーしかいないから、忙しくて学校には行けないのだ。というか、レディースメイドを増やさないと…。


「リーナがいちばん!」

「よ、よく頑張りました…」


 リーナのは直径一メートル!ただの岩だけど!岩をくりぬいて移動しただけだ…。


 それから…、シルバー!野球のボールくらいの鉄を生成していた!シルバーは整地の魔法で土魔法を鍛えている。


「シルバー…、ありがとう。でもあなたは休んでいていいんですよ」

「ぶひひいー!」


 シルバー…、優秀な子…。



 期待のシリコンをたいして取れなかったので、次々と場所を換えていった。


「これでどう?」

(スマホ十台、パソコン二台ってところかな)

「満足?」

「あい!」


 ダイアナは信じられないほど活発になった!


「静かに!」


 岩陰から何か近づいてくる音がする。四足歩行の…十、十一、…十六匹。


「十六匹ほどの中型の魔物が岩陰に隠れて、私たちを囲んでいます」


「えっ?怖いわ…」

「ど、どうしよう…」


 そりゃ魔物が出るか…。こんなところにお嬢様を連れてくるのはまずかったかな。


「久しぶりにこの子の出番ね」


 セレスは腰に帯びていた剣を抜いた。セレスは剣を持ち歩いていた。

 私より考えていたんだな。まあ、私は影収納に剣をしまっているから、常に準備してあるのだけど。ロングスカートだと、スカートをまくり上げないといけないから、出しにくいんだよなぁ。

 そもそもこんな山奥にロングスカートで来るのがおかしいよな。こうやって冒険するなら、服装も考えなきゃだ。


「勉強の成果、見せてあげますわ」


 カローナはもともと攻撃魔法がうまかったようだけど、学校で物理を学んで、さらに魔法に磨きをかけたらしい。


「私は子供たちを守るわ!」


 お母様もそれなりに攻撃魔法が使える。


「お嬢様、危険です。お下がりください」

「そうです、ここは私にお任せを」


 ヒルダとクレアの執事と、二人をかばうようにして前に出た。執事もちゃっかり学校で勉強したり魔法を習っているのだ。メイドの二人も同じく、それぞれの主人の盾になろうとしている。

 ダズンはエミリーと一緒に、お母様とリーナを守るように前に出た。


「カローナは、攻撃魔法は強いけど、身を守る手段はないでしょう。皆のところに下がってください」

「分かりました」


 十六匹の魔物は、すでに私たちを囲んでいる。前とか後ろとかいう陣形は取れないので円陣を組む。


 中心部にはカローナ、ヒルダ、クレア、お母様、リーナ。


 そして五人の外周に三人のメイド。


 さらに外周には執事ーズ。んー、武器を持たせないとだな。学校で剣術を学んでくれているのかなぁ。人数がいても魔法使いばっかりでアンバランスだ。

 まあ、この世界は武器を持たなくても、魔法を覚えれば誰でもそれなりに戦えるという世界なのだから、魔法使いが多いのはしかたがない。


 前衛の私とセレスは、両サイドにばらける。ちなみに私はダイアナを片手でだっこしている。

 ちょっとヤバいかも。敵の多いから、壁役が二人ってきつい。



 岩陰の向こうで魔物がじわじわと近づいてくる音がして、ついに岩陰から魔物が姿を現した。狼だ。


「「「「ファイヤボール!」」」」


 息ピッタリなのは、カローナとヒルダとクレアとお母様。

 距離を詰められるのは下策だから、敵が見えた途端に魔法を放った。


「「「「「「ファイヤボール!」」」」」」


 ほぼ同時に、メイドーズ三人と執事ーズ三人も魔法を放った。


 ファイヤボールというと、普通は赤い火の玉を飛ばす魔法そうなのだが、実は炎というのは赤いものより青いものの温度が高いのだ。だから、赤いイメージをしてしまうと、温度を制限してしまうことになる。

 そこで青い炎をイメージすると、より温度の高い火の玉を出せるようになる。もちろん相応の魔力も消費する。


 カローナは長年ファイヤボールで鉄を溶かせないことに疑問を感じていた。学校で炎の色のことを学んだところ、簡単に高い温度のファイヤボールを出せるようになり、長年の疑問が解消したのであった。


 魔法の射撃は、狙いを付けて発射するのではない。魔法で作りだしたものが目標に当たるところをイメージするのだ。そのため、イメージ力と精霊の大きさがものをいう。


 十個の火の玉は四匹の狼に向かっていく。当たる寸前で狼が避けた!ヒルダとクレアの火の玉は当たらずに、後ろに飛んでいってしまった。

 残念ながらメイドーズと執事ーズの六つの火の玉も、避けられてしまった。


 攻撃魔法は命中直前までイメージを途絶えさせないことが重要だ。避けられたなら、火の玉が方向を変えて目標を追っていくイメージに切り替える必要がある。

 もしくは、あらかじめイメージしておくこともできる。敵の動きとそれに対するパターンをいろいろと考えておくと、命中が確実になってゆく。

 この辺りは、精霊のサポートも重要だ。精霊が大きいほど、イレギュラーに対するサポートが広くなる。


 だからだろうか。カローナとお母様の火の玉は、避けた狼に向かって方向を変えた。そして見事に命中した。二人は、精霊が育っているだけでなく、外れたときの備えもしっかりイメージできているのかもしれない。


 十発のうち命中は二発。二匹の狼は炎に包まれ、もだえ苦しんでいる。



 火の玉の相手をしていなかった六匹の狼は走り出した。そのうち、二匹を私とセレスで相手する。


 まずは、私が剣を狼に当て、電撃を流して麻痺させた。

 続いてセレスが狼に斬りかかった。剣は狼の腹を切り裂き、狼の動きは止まった。

 私には余裕があったので、すかさずもう一匹の狼を麻痺させた。


 これで向かってきた六匹のうち三匹は止められたけど、残りの三匹が中央に向かっていってしまった。ヤバい。これではほんとうに執事ーズやメイドーズが肉壁になってしまう。


 そのとき、中心から何か…、ドッジボールが飛び出した!


「やー!」


 リーナだ!リーナはいつも私に飛びかかってくるように、狼に頭突きした。狼は球速一五〇キロのリーナを避けることができず、腹に直撃を喰らった。そして数メートル吹っ飛び、岩に激突して動きを止めた。

 マジか…。リーナは光の精霊の加護で身体能力が異様に高いと思っていたけど、これほどとは…。


 続いて中央に向かった狼を遮ったのは、シルバーだった!シルバーは十馬力で加速し、そのまま前足で狼を蹴散らした。


 リーナは一匹の狼を突き飛ばしたあと、すかさずもう一匹の狼の脚を掴んで、岩に投げつけた。


 これでファイヤボールを向けられなかった六匹はすべて仕留めた。



 しかし、休んでいる暇はない。

 ファイヤボールを避けた八匹の狼は、体勢を立て直して再び向かってきた。


 先ほどと同じように、私が二匹、セレスが一匹、シルバーが一匹、リーナが二匹を仕留める。これで残りは二匹だ。


 でも、次のファイヤボールはまだ誰も準備できていない。

 そのとき、残った二匹の狼の頭上から、ゴーンと雷が走った。狼は黒焦げになっていた。


 これですべての狼を仕留められた。



 お母様とセレスとカローナは授業を受けて電気魔法を使えるようになっている。しかし、あれほど強い空中放電を起こせるほど魔力が高くない。

 となれば……。私の抱きかかえたダイアナは、狼二匹の方を見つめて手を伸ばしていた。


「ダイアナがやったの?」

「うん」(生き物に当てたのは初めてだけど、影収納の中で練習はしていた)

「さすが…」

(というか、ママでもあれくらいできるでしょ)

「私はあれだけ離れていると出力が落ちるので、背骨の関節の筋肉を酷使させて、全身麻痺にしたり内臓の動きを悪くするくらいしかできませんよ」

(それ、黒焦げよりエグいでしょ…)


「むー、なんで当たらないのよ!」

「練習したのになぁ」

「もっとがんばりましょ!」

「うん!」


 ヒルダはキレている。クレアも悔しそうだ。



「最後のはダイアナがやったの?」

「まあ!さすがわたくしの子ですわ!」

「あーい!」


 カローナは親馬鹿を発揮していた。



「リーナはすごいのね…」

「えへへ!」

「今度、私と剣の練習をしない?」

「リーナ、手でやる!」

「そう…」


 リーナはまだ五歳なのだ。戦力として考えてなかったけど、あんな馬鹿力があるなんて…。

 セレスが剣の道に引き込もうとしたみたいだけど、断られてしまった。リーナは…、投げ技?格闘術なんてこの世界にあるんだろうか。



「シルバー、あなたに助けられました。ありがとう」

「ぶひぃーん!」


 十六匹の狼のうち二匹はシルバーが倒した。シルバーの功績は大きい。感謝の意を込めてシルバーをマッサージしてあげた。

 シルバーは馬車馬だけでなく、御者もできるし護衛にもなる。なんて多才なんだ。



 狼はどうやら魔物ではなくて、ただの動物だった。この世界で生きていられる動物は、こういう凶暴なものだけなのかな。

 魔物ではないので魔石を持っていない。残念。肉はいらない。毛皮は売れるかな。


 今回はちょっと敵の数が多くて、対処しきれなくなりそうだった…。もしリーナやシルバー、ダイアナが動いてくれなければ危なかった…。他に戦力になるのはセレス、カローナ、お母様ってところか…。

 ヒルダとクレアとその使用人は留学して一年だからしょうがない。でも、エミリーもダズンは訓練してないから全然ダメだ。帰ったら学校に通わせて勉強と訓練だ!

 他の使用人たちも学校に通わせよう。使用人が抜けた分は、学校で有能な子を引き抜いて、週の半分くらい働かせよう。まだ勉強を続けてもらいたいから、フルでは働かせない。




 その後、一ヶ月ほど、馬を交代しながらいろんな場所を回った。手に入ったものは、珪石、その他の半導体、鉄、銅、銀、金。


 魔物の素材も手に入った。


 まずは、おなじみの水分吸収素材。おまるとナプキンに使っている素材だ。

 素材としてしか知らなかったけど、これはほんのり水色がかったスライムの魔物だった。まあるいお餅のような形をしていた。哺乳類とか虫じゃない。無機物なのだろうか。生き物の域を逸脱している。


 そして、水分吸収の素材の相棒、汚物分解。これもおまるとナプキンの材料だ。

 でもこれの元となった魔物を知りたくはなかった…。二メートルのミミズのような形をした褐色のスライムだった。汚物を分解して肥料にするからミミズなのだろうか…。死んでいるとはいえ、今までこれを自分の肌に付けていたなんて…。いや、考えたら負けだ…。


 あとは、服やタイヤに使っているゴムの素材になる魔物だ。これもお餅のようだ。


 それから、電気の魔力を加えると発光するスライム。ダイアナはこれを見て喜んでいた。屋敷の灯りにでもするのかな。


 さらに、ダイアナの喜ぶ素材、電気が一方向からしか流れないゴムのような魔物。シリコンの代わりにするらしい。

 珪石はあまり手に入らなかったし、代用の素材は大歓迎だ。


 あとは、電気じゃなくて、魔力の半導体として使われている魔物だ。扇風機の風力調整みたいなちょっとした回路は、この魔物の素材でできている。これもお持ち帰りだ。



 魔物の素材は原子とか分子とかの概念を逸脱している。この世界の魔法は物理法則をに沿わない突拍子もないことはできないと思っていたのだけど、魔物は物理法則を超えたものが多い。

 もっと柔軟な考えを持てば、魔法でもっといろいろなことができるのかもしれない。


 魔物の素材は、素材だけ持ち帰ってもしょうがない。影収納に入れて生きたまま持ち帰って、森に放って繁殖させるのだ。

 今回の魔物は、ミノタウロスやコカトリスと違って、雌雄の区別が付くものではない。雌雄同体かもしれない。よく分からないので多めに持っていくしかない。私の魔力も上がったし、ダイアナの分も使えるから、けっこうたくさん持って帰れた。




「じゅうぶんな素材や魔物を集められたので、そろそろ帰りましょうか」

「うん!」


 私にだっこされたダイアナはとても嬉しそうだ。こんな表情豊かなダイアナを見るのは初めてだ。


 みんなで馬車に乗り込んでいると、何か空から…。

 突然、馬車だったものが、三メートルはある金色の魔物と入れ替わった。

 馬車は砕け散った。馬車に乗り込もうとしていたセレスに馬車の大きな破片が当たり、セレスは飛ばされ気を失った。


 馬車の外にいたのは、まさに乗り込もうとしていたセレス、メイド三人、執事三人、それとダイアナを抱いた私。使用人は主人を差しおいて先に乗り込んだりしない。私は安全確認のため、エミリーと最後に乗るつもりでいた。

 メイドと執事はそれほど近くにいたわけではないが、あまりに大きな衝撃だったため、少し吹っ飛ばされてしまった。私は踏ん張って留まった。

 シルバーも衝撃で吹っ飛ばされたようだ。


 馬車は見るも無惨な姿になってしまった。中にいたのはヒルダ、クレア、カローナ、お母様、リーナ。

 馬車の瓦礫の中にいるか?そうではない。室内空間は異次元にある。この馬車のフレームはもちろん、実はコンテナですら張りぼてなのだ。出入口を影に作ることしかできない影収納のために、影を作るという役目を持った箱なのだ。

 コンテナは破壊されて影を作れなくなったため、影収納への入り口は閉ざされてしまった。慌てることはない。影収納は魔力が尽きれば、かってに中身が出てくる。でも出てこないってことは、影収納を維持している魔道具と闇の魔道石は正常に動作しているということだ。馬車の中の者達はひとまず大丈夫。


 瓦礫に埋もれているはずの魔道具が破壊されると面倒だけど…。でも今はそれより…、


「セレス!」


 セレスはフレームの柱が腹に直撃して、二十メートルほど飛ばされている。頭から血が滴っている。腹への打撃がヤバい…。

 何よりヤバいのが、全身が黒ずんでいるということだ。この黒ずみは血流の悪くなっているところを示すものだ。全身が真っ黒…。血が流れていないのでは…。

 目の前の巨大な金色の魔物もヤバいけど、セレスが先だ。使用人六人は、腰が抜けてへたり込んでいるだけで、外傷はなさそうだ。


 私はダイアナを抱いたままセレスのほうに駆けだした。

 私の後ろで、何かものすごい魔力が集まっている。電気の魔力だ。私は死を覚悟した。セレス…、助けられない…。ダイアナも死なせてしまう…。使用人も逃げられないだろう…。シルバーだけでも逃げられないかな。


 この世界に生まれて十一年。低い文明、非常識な者達、いろいろなものに悩まされてきた。それでも、私は多くの人に助けられて、楽しく生きてきたと思う。

 ごめんなさい、お母様、リーナ、カローナ、ヒルダ、クレア。影収納の魔道石は二日はもつだろう。この魔物が私たちを殺して去ったあと、二日後に影収納が解除されたら、すぐに逃げられればいいのだけど…。


 これが走馬灯のように、というやつ?一瞬のはずなのに、すごく長い時間、思い出に浸っていられる。



 金色の魔物は口から稲妻を放った。電気抵抗の高低など関係なく、アンネリーゼの元に走る空中放電。


 シルバーはアンネリーゼをかばうために十馬力の力で加速した。しかし、光の速度で放たれる電撃に届くはずもない。


 なぜか稲妻はアンネリーゼの背中を避けて、アンネリーゼ前面に集まっている。集まっている先は…、アンネリーゼの抱えているダイアナが掲げた手の平。


「ダイアナ?」

(これは避雷針。でも電子は一直線に向かってくるのではなく、私の思い描いたとおりの経路をたどる)

「これがダイアナの電気魔法…」

(ママは早くセレスを助ける)

「そうね」


 私はセレスのもとにたどり着いた。頭の傷は浅い。でも柱が当たって内蔵が痛んでいる。そして……、心臓が止まっている…。


 ダイアナだってできたんだ。ダイアナの電気の精霊は大きいけど、私の光の精霊のほうがずっと大きい。私が望むことは叶うはず!私はセレスを生き返らせる!


 内臓を修復。血管を接続。神経を接続。骨を接続。内出血で漏れた血液を血管に戻す。AEDの要領で心臓を動かす。よし、動き出した!

 頭の傷を修復。脳しんとうも起こしてるみたいだからそれも。脳の損傷もあれば修復!

 セレスは呼吸をし始めた。意識は戻っていないけど、もう大丈夫!黒ずみは消えた!



 アンネリーゼがセレスを治療している間に、アンネリーゼの腕の中のダイアナは金色の魔物と電撃戦を繰り広げていた。

 相手は電気魔法が得意な魔物のようだ。でもダイアナは電気魔法のエキスパート。


 ダイアナは手から稲妻を放った。それは金色の魔物に向かっていった。しかし、魔物はびくともしない。

 ダイアナは威力を上げていった。金色の魔物に電撃は効かないのだろうか。いや、魔物は電撃に耐えているようだ。効いている。

 威力はどんどん上がっていき、ついに魔物の身体から煙が上がり始めた。そして、魔物は焦げていき、ついに炭となった!


「あれ…、ダイアナが倒してくれたの?」

「うん」

「相手は電気魔法を操る魔物だったよね?」

(相手の耐性を上回る電流を流しただけ)

「さすが、最強の電気魔法使いだね」

「むふー」


 私に抱かれた赤ん坊はドヤ顔だ。こんな表情のダイアナは初めて見た。



 使用人はずっと腰を抜かしたままで、まったく動くことができていなかったが、魔物がいなくなってやっと立ち上がった。


「お嬢様!」

「エミリー、無事でしたか」


 最初に持ち直したのはエミリーだ。


「あの…、馬車が…。ヒルダお嬢様は…、ううぅ…」

「クレアお嬢様…、うぅ…」


 二人のメイドは馬車の無残な姿を見て、涙を流している。


「奥様…、メリリーナお嬢様…、カローナお嬢様…」


 エミリーも馬車を見て涙を流している。

 メイドだけでなく、三人の執事も同じだ。


 私は馬車のがれきをあさった。黒焦げの魔物の熱を受けて、馬車も少し焼け焦げていて熱いので、水魔法で冷却した。分子振動をゆっくりにするイメージだ。

 そして、影収納の魔道具を探し出した。よかった、無事だ。魔道具は導電性ではないので、ダイアナの電撃が漏れたりしなかったようだ。魔道具は三十センチくらいの箱で、ほとんどは魔道石だ。


「お嬢様…、それは?」

「おそらくみんな無事ですよ」


 木陰に魔道具を持っていき、影収納への入り口を開く。この馬車の魔道具は、普段は影収納への扉が開きっぱなしになっているが、こういう非常時に備えて、別の影でも扉を開けられるように、中にボタンが付いている。でも、ボタンを押さなくても、この影収納は私が作ったものなので、私の魔法で扉を開くこともできる。

 逆にいうと、他人の影収納はこういう手段を用意しておかないと、かってに開けない。ダイアナと実験済みだ。


「扉に明かりが!」


 中からヒルダの声が聞こえ、ヒルダが顔を出した。


「アンネ!どうしたの?すごい音がしたと思ったら、入り口が真っ黒になって、出られなくなったのよ!」

「ごめんなさい、魔物に襲われたんです」


「ヒルダお嬢様!」


 影収納から出てきたヒルダに、ヒルダのメイドは抱きついた。


「アンネだ!助かったぁ」


 続いて出てきたのはクレアだ。


「クレアお嬢様!」


 今度はクレアのメイドが抱きついた。


「アンネちゃん、汚れているわね」

「ねーね!」

「奥様!メリリーナお嬢様!」


 エミリーは出てきたリーナに抱きついた。


 ちなみに執事は抱きついたりしないで、後ろで涙を流すばかり。まあ、ここにいる女の子はすべて私のものなので、執事なんかが抱きついたら打ち首にしてやる。とはいわないけどね。むふふ。


「セレス!何があったのですか?血が…」

「セレスはちょっと怪我をしましたが大丈夫ですよ」

「う…、うーん…」

「セレス!大丈夫なのですね!」

「いったい何が…」


 カローナが出てきて、私のそばに横たわるセレスを見て心配したようだが、私の言葉を聞いてすぐに安心しようだ。

 そして、すぐにセレスは目を覚ました。




「ママぁ」

「どうしたの?」

「あえ」


 ダイアナはまだ人差し指だけ出して指さすということがうまくできない。だけど、ダイアナの示す方向には、電撃で炭になった魔物。原型をとどめていない。どんな魔物だったのかよく分からない。

 しかし、その真ん中には、何やら黄金の楕円形のものが…。


「何かしら、これ」

「卵かな?」


 ダイアナが指した方向にあったのは卵。それを見て、ヒルダとクレアが疑問を浮かべている。


 長い方の直径が五〇センチの卵。コカトリスのよりもでかい。コカトリスのだって鶏の卵の何十個分かというほどなのに、これはもっと大きい…。

 しかも黄金。金の魔物の卵なのだろうか…。

 その卵とは別に、大きな電気の魔石。電気の魔物だったんだなぁ。電気の魔法で攻撃してきたし、当たり前か。


「これで作った玉子焼きを食べた二人は、きっと結ばれますわ!」

「帰ったら楽しみね!」


 意外に食いしん坊なカローナ。いや、団子より花を求めているのか。玉子焼きの食べ方といったら、最後にキスが待っている。っていうか、これ持って帰るんだ…。

 セレスはこいつの親に殺されかけた…、いや心停止して殺されたというのに、たくましいなぁ。一瞬のことすぎて、認識できてないのか。


 しかし、卵を持っていたということは、は虫類?空から降ってきたから鳥類?いや、魔物にはスライムのような無機物っぽいものもいるし、あまり生物の法則に則って考えていると罠にはまる。



「ところで…、馬車はどこだったかしら?」


 ヒルダは黄金の卵のそばで、あたりを見回した。自分がどこから出てきたのか忘れたようだ。

 卵があるのは炭になった魔物のいるところであり、魔物のいるところは馬車のフレームとコンテナがあったところである。馬車は木製。魔物に踏み潰されて、さらに電撃の熱で少し焦げている。


 車室内への入り口は木陰に設置したままだ。車室内へのアクセスはできる。でもそれは、異次元の屋敷にはなるが、移動手段ではなくなってしまった。


 馬車の中にいた者達は、なぜ馬車がなくなったかという以前に、魔物と遭遇したことすら気が付いていない。とりあえず、私は何が起こったかすべて話した。


「んー、こうしましょう。皆さんは馬車の魔道具に入っていただきます。それで、私が魔道具を抱えて、シルバーに乗ってメタゾール領まで戻りましょう」

「どれくらいかかるの?」

「四十八時間くらいですかね…。ブロンズと交代しても、三日はかかりますね」


 いろんなところを回ってきたから、いつの間にか王都よりかなり北側に来ていた。


「アンネは大丈夫なの?」

「私は大丈夫ですよ。もちろん、休憩や睡眠は取りますよ」

「そう…。アンネばかりに負担をかけて申し訳ないわ」

「心配しないで、ヒルダ」

「ええ…、無理はしないでね」

「はい」


「アンネ、疲れたら休んでね」

「はい、クレア」


 木陰に設置した馬車の影収納の扉からみんなに入ってもらって、扉を閉じた。

 馬車の影収納とは別の、私の常備品を入れた影収納からシルクを取り出して、影収納の魔道具をシルバーにしっかりと結びつけた。結びつけるというか、土魔法で結び目のない風呂敷を作って、シルバーに固定した。

 それから、土魔法で付近の木を削り取って鞍を作成。お尻が痛くならないようにシルクとゴムの素材でクッション性を高めた。

 それからシルクとゴムの素材で手綱を作った。


 よし。これで準備OK。シルバーは乗馬としてはあまり訓練していないし、私も数えるほどしか練習したことない。だけど、シルバーは手綱で指示をしなくても私の言うことが分かるようなので、私が振り落とされなければ大丈夫。たぶん。


 っと、ロングスカートのドレスでは馬にまたがるのは無理か?土魔法で切り取ってミニスカートにしちゃおう。この世界で初めてミニスカートだ。

 切り取った布は影収納にしまう。ミニスカートだとスカートをめくらなくても手が届くから、すぐにものを出し入れできる。もっと早くミニスカートにしていればよかった。

 この世界の女性はノーパンなので、ミニスカートなんてもってのほかだ。でも私はパンツをはいているので安心。


 でも、ちょっと寒いかも…。この国は夏が二十五度くらいで湿度が低く、冬は十五度くらいで湿度が高いので、年中快適なんだけど、さすがに素足では寒い。

 なので、シルクでガーターストッキングを作った。


「それじゃあシルバー、よろしくね」

「ぶひーん」


 シルバーが十馬力で加速し始めた。馬車を引いていない分、加速が良い。最高速度も一五〇キロまで出せるようだ。

 いやー、風がすごい…。前世でバイクに乗ったことはないと思う。こんなにすごい風だとは…。

 って、ミニスカートが風でまくり上がってしまった。でも大丈夫!私はパンツをはいているから、この世界のどの女性よりも防御力が高い。


 とはいえ、風に逆らうのは大変なので、風魔法で空気抵抗を受けないようにした!むしろ、追い風で押してもらえるようにした。楽ちんだ。最初からこうすればよかった。追い風で押すようにしたら、さらに加速して時速二〇〇キロまで出せるようになった!


「すごい!シルバー!」

「ひーん!」


 ちなみに、風は順風になったので、スカートはまくり上がらなくなったよ。



 おなかが減った。ふふふ、今の私はスカートから何でも取り出せる。出発前に作っておいた玉子サンドをスカートから取り出す。私のスカートの中は夢いっぱいだ!

 ちなみに、玉子サンドというのは玉子焼きを挟んだものであって、けっしてゆで卵ではない。これは交流電源が六〇Hzの地域に生まれた者の宿命なのだ。重要なことなので何度でもいうよ。


 おかげで昼食の時間も無駄にせず、晩ご飯の時間まで走り続けられた。

 車室内に入って晩ご飯だ。


「ねえアンネ、なんて素敵な格好をしているのかしら!」


 入ってすぐ、セレスに食いつかれた。あ、ミニスカートとガーターストッキングだった。


「ロングスカートでは馬にまたがれないので、短くしたんです」

「それ、すごく良いわね。私、ずっとアンネの脚は素敵だと思っていたのよ」


 プレドール家にパンツとナプキン売りに行ったとき、ヒルダは私の脚を食い入るように触っていたね…。


「カローナの魅力にはかなわないと思うのですが…」

「いいえ、わたくしの脚は、少し太すぎると思います。アンネの脚は、何というか、黄金比ですわ」


 カローナはボンキュッボンなだけでなく、女の子から好かれるフェロモンみたいなものを出してる気がするんだよ。


「ママぁ」

「なあに?」

(絶対領域の長さが間違ってる。あと四センチと七ミリ出さないとダメ)

「ええっ?」

(こうだよ)


 ダイアナは土魔法で私のスカートを四センチ七ミリ削ってしまった。


「ちょっと短すぎるような…」

(ダメ。それが黄金比)


 ちょっとひるがえすだけで、すぐお尻が見えてしまうのだけど…。パンツはハーフバックなので、中途半端にひるがえすとお尻だけ見えてしまう。半分以上ひるがえせばパンツをアピールできるんだけど。

 いっそうのこと、パンツの存在をほのめかすためにシースルーにするか…。いや普段からそんなランジェリーみたいな服装をしているのはちょっと…。

 

 ここは魔法や魔物の存在するファンタジー世界だけど、防御力皆無なビキニアーマーを纏った女戦士がいるような漫画の世界ではない。


(ママはこの世界のファッションリーダー。だから率先してミニスカ騎士を広めるべき)

「えっ…」


「たしかに、これはかなりいいわ」

「そうですわね。やはりアンネの脚が最高ですわ」


 セレスとカローナは私の右脚をぷにぷにしている…。


「この、見えそうで見えないところがそそるわね…」

「ちょっと動いたら見えるかもしれないっていうドキドキ感がたまらないよ」


 ヒルダとクレアは、私の左脚からお尻のほうまでぷにぷにしている…。


「あの…、なんで私の脚をぷにぷにしているんですか…」


「何よ、アンネはいつも私たちの身体を揉んでいるでしょ」

「そうだよ、たまにはいいじゃん」

「私もアンネの身体を触りたいわ」

「わたくしだってできるってところ、見せてあげますわ」


「えっ、あの……。ん……、はぁ…んんー」


 おかしい。マッサージが気持ち良いのは、滞っていた血流が良くなることを本能的に良いことだと感じるためだ。私の身体はいつも完全にほぐしてあるはず。だから、これ以上血流が良くなりようがないので、気持ちいいと感じるはずがない。

 それなのに…、なぜか私は気持ち良いと感じている…。だんだん、考えることができなくなっていく。


 いつの間にか、みんな私の脚以外のところにも手を入れている。十歳以上のドレスは胸元の開いていないものは存在しないくらいなので私も胸元は開いているのだけど、そこからも手を突っ込まれて…。いや、私はいつもそんなところはマッサージしていないはず…。




 気がついたら朝だった…。あれ…、昨夜はどうしたんだっけ…。晩ご飯食べたかな…。お風呂入ったかな…。

 あっ!よかった…、パンツはいてた…。またカローナにはらまされたと思ったよ。でも排卵日じゃないから大丈夫か。他の子もパンツははいているようだ。

 みんな起きていないけど、一人で朝食を済ませて、昼食用の玉子サンドを作った。昨夜、お風呂に入った記憶がないのでお風呂にも入った。


 昨日の夜、シルバーをマッサージしてあげたっけ…。いまいち記憶がないので、シルバーを入念にマッサージしてあげた。


 いざ出発!


「シルバー、もう追い風の魔法を覚えたのですか?」

「ぶひいーん!」

「シルバーは頼りになるね!」

「ひーん!」


 シルバーはヒルダよりも魔力が高いんじゃないかな。ああ、シルバーって私が二歳のときから鍛えているもんね。若いときの成長が効いているんだ。動物にもこの法則、適用されるんだねぇ。


 それにしても、このドレス…。昨日、ダイアナにスカートを短く改造されちゃったんだ…。順風なので翻ることはないのだけど、シルバーにまたがっているだけでパンツ丸見えなんだけど…。ちょっと帰ったら考えないと…。

 スカートを改造されたあとのことを、いまいち覚えていない…。何かとても良いことがあった気がする…。んー…。思い出せない…。


 そんこんなで、時速二〇〇キロで、昼もサンドイッチをかじりながらノンストップで晩まで走り続けた結果、一日半でメタゾール領に帰り着いた。見積もりの半分の時間だ。まあ、二倍の速さで走ったし。


「シルバー、今日もありがとう!たっぷり休んでね」

「ぶひひー」


 シルバーをねぎらってあげ馬屋に返した。


「ブロンズ、あなたもご苦労様でした」


 ブロンズもねぎらってあげた。ブロンズも鍛えないとなぁ。

 あれ、ブロンズを使うのを忘れた。予定の半分の時間で済んだし、まあいいか。



「ところでアンネ、昨日も今日もお昼は食べなかったの?」

「朝に作った玉子サンドを、走りながら食べましたよ」

「馬に乗って食事できるなんてすごいね」

「シルバーが揺れないように走ってくれるおかげです」

「シルバーはすごいんだねえ」

「はい」


 クレアが私の昼食の心配をしてくれた。そして、シルバーのことを褒めてくれた。愛馬が褒められるのは嬉しい。




 翌日、危険な魔物の生息域とかを調べた。金の魔物と出会ったあの山は、伝説のゴールドドラゴンの住まう山だということだ。あれってドラゴンだったのか!あれ…、ダイアナは伝説の魔物を倒してしまったのでは…。

 まあ、ゴールドっていっても、レモンイエローっぽかった。あれは電気の魔法のイメージカラーだ。


 付近の住民は掟で入山を禁止されているらしい。山に入って戻ってきた者はいないという。

 下調べもせずにみんなを危険に巻き込んでしまい申し訳なかった。

 いや、下調べはしたんだよ。どの山や森でも、どういう素材が取れるとかそういう情報がないことだけは分かっていたんだ。あくまで素材ベースの調査だったから、魔物の特性まで気が回ってなかった…。



 それから、馬車の修理だ。というか魔道具部分しか残っておらず、フレームもコンテナも全壊だし、焦げてたから捨ててきたよ。

 ちょうつがいや車軸など可動部は鉄だけど、ほとんどは土魔法で木を整形してできあがる。

 というか、予備のパーツくらい馬車の中にあるし、木材は現地調達できるのだから、現地で修理すればよかった…。



 そして、戦利品整理。半導体。金属。これ自体はたいした量ではない。

 目玉商品は、電気的半導体の魔物。魔力半導体の魔物。これらをうまく繁殖できれば、ダイアナはコンピュータを作れる。

 それから、ゴムの魔物。水分吸収スライム。汚物分解スライム。魔道ナプキンを格安で量産できる!女性の社会進出の第一歩だ!


 例によって、領地よりかなり北にある、蚕様養殖の森というか檻に…、と思ったけど、あそこは蚕様とミノタウロスとコカトリスが、所狭しとひしめき合っているので、別のところにした。それに今回連れてきたのは、なんだか生物でないというか、有機物ですらない感じなので、混ぜるのも気が引ける。


 そういうわけで、別の森に檻を生成して、そこに解き放った。蚕様の森は、格子状の檻なのだけど、スライムとか変形するし、隙間から簡単に逃げられてしまう。

 しょうがないので、かなり高い壁を作った。上側は格子状にした。上から魔法を撃てば倒すことができる。回収は土魔法や水魔法で、それを生成する魔法を使って指定の場所から集めるようにすればよい。


 しばらくして繁殖していることを確認できたら、ハンターギルドに採集依頼を出そうと思う。




「ママぁ」

「なあに?ダイアナ」

(昨日のミニスカートとガーターストッキングはどうしたの?)

「えっ…、あれは身内以外に見せるにはちょっと…」


 あれは恥ずかしいから封印しておいた。今日は別の普段着用ドレスを着ている。


(ロングスカートを廃止することを要求する)

「えっ…、あああ、ちょっとぉ…やめて…」


 土魔法を使ってスカートを短くされて、余った生地で作ったガーターストッキングをはかされてしまった…。

 やっぱり、帰りの馬車の中であったことを思い出しそうで思い出せない…。何かとても良いことがあったはずなのに…。


「わぁ…、何?靴にまでいたずら?」

(普段からハイヒールを履くように)

「ええっ?」


 さらに、靴のかかとがにゅーっと伸びてとても高いピンヒールになってしまった…。急にかかとが伸びたから、私はバランスを崩した。


「ちょっと、これまっすぐ立ってられないんだけど…」

(美貌のセレス、胸とお尻のカローナ、脚のアンネリーゼで行こう)

「何それ…」


 その後、ダイアナは普段ろくに動かないにもかかわらず、はいはいでクローゼットまで行き、私のすべてのドレスをミニスカートに、そしてすべての靴を自立しないほど細くて高い不安定なピンヒールに改造してしまった。よそ行きのドレスと靴まで全部…。

 布を追加してロングスカートにして着ていても、ダイアナに見つかり次第ミニにされてしまう…。かかとも急に生やされるから、歩いている転びそうになって危ない。


「お嬢様…、それを普段着になさるのですね…。とても素敵です…」

「あ、ありがとう…。あ…、いや…、そうではなくて…」


 エミリーを始め、メイドの私を見る目が…。なんというか、あれはありがたいものを見る目だ。いや、以前からそんな風潮はあったのだけど、崇拝度が上がってしまった気がする…。


 執事たちは、私の脚を直視しなくなった。やっぱりちょっとエッチ過ぎるのでは…。

 なんだか顔を赤らめていて、下の方を見たくてしょうがないようだ。

 脚を見せるというのは、もしかしたら前世よりもかなりエッチなのかな…?前世の感覚からすると、胸のほうがエッチだと思うんだけど…。


「ねえ…、ダイアナ…。私は何を目指しているの?もうやめたいのだけど…」

(ダメ。ママはファンタジー世界のミニスカ騎士として私がプロデュースする)

「アニメの見過ぎじゃない?ここはたしかにファンタジーな世界だけど現実だよ?現実にはこんなハイヒールの騎士はいないよ」

(この世界はファンタジーさが足りない。私とママでもっとファンタジーにしてみせる)

「私まだ十一歳なのに、こんなエッチな格好をしているのはちょっと…」

(はっ?十一歳?てっきり十八歳くらいかと…)

「あれ…、話してなかったっけ…。私、あなたを十歳で産んだんだよ」

(マジで?じゃあ、もっと成長するの?リンダ叔母さんくらいになる?)

「たぶんね。あと、リンダは私のお母様だよ。それも話してなかったっけ」

(マジで…。あれでお婆ちゃん…。魔法をかけて永遠の十七歳にしたの?)

「そんな感じ。でも、お母様はまだ二十一歳だよ」

(お婆ちゃんも十歳でママを産んだのか…。そう…。ふふふ…。てっきり、前世の小柄な人種の感覚でいたし、私を産むような歳なのだから、もう成長しないのかと思っていた。でも、あそこまで成長するんだね。それなら文句ない。やっぱり、ママにはミニスカハイヒール騎士になってもらう)

「えー、なんでそうなるのさ…」

(異論は認めない)

「はぁ…。もういいよ…」


 私は普段から姿勢がとても良く、身体のバランスを取るのがとてもうまい。ハイヒール程度で転んだりすることはない。だけど、このハイヒールを他の人は履けないだろう…。

 それに、ずっとハイヒールなんて本来なら足に負担がかかるのだけど、私の光の精霊は自動でそういう不具合を回復してくれるので、モートン病とかになったりはしない。でも、他の子はその限りではないので推奨しない。


 そして、私が抵抗しなくなったことに安心したダイアナは、持ち帰った材料で電子機器を作り始めたようだ。また、ベッドに引き籠もりのねんねちゃんになってしまった。




 さて、今回は使用人のふがいなさが浮き彫りになった。もうちょっと、主人を守れるようになってほしい。ドラゴンと戦えとはいわないけど、狼くらい倒してほしい。

 ほんとうは護衛騎士とか専門職がいればいいんだろうけど、うちは国民皆兵なんだよ。メイドと執事に護衛もやってほしい。


 うちの使用人がダメなのは、今まで屋敷の仕事が忙しくて、学校に行かせていなかったのが原因だ。私が生まれて以降、使用人が増えた形跡はない。私が当主になってからは、私の人事責任だ。


「というわけで、今日から屋敷で働いてもらう二十人です」


 新しい使用人は、みんな九歳。私が当主になってから生まれた子たちだ。乳児の魂百まで計画を実施して、可能な限り早くに精霊を付けた者達だ。おかげで精霊がかなり大きく育っているし、魔力も大きい。そして保育園のときから英才境域施しているので、若いのに優秀だ。

 礼儀作法もしっかりしている。王宮に出しても恥ずかしくない。あげないけどね。


 今まで屋敷には十八人しか使用人がいなかった。今日からは、今までの使用人には、週の半分は学校に通ってもらう。今までの使用人が学校に行っている時間には、新しい使用人に働いてもらう。新しい使用人も、半分の時間は学校に通ってもらう。



 レディースメイドだけは余分に雇った。レディースメイドは女性の貴人のお世話をするメイドだ。

 うちにはお母様、私、リーナ、セレス、カローナ、ダイアナと、六人も女性がいるのに、レディースメイドがエミリーだけだったので、エミリーはいっぱいいっぱいだったのだ。

 まあ、私はもちろん、セレスもカローナも自分で色々できるようにしているので、世話がかかるのはお母様とリーナとダイアナくらいだ。それでもエミリーはキャパオーバーに近かった。


 まず、エミリーはお母様専属になってもらうことにした。エミリーはお母様と同じ、二十一歳なのだ。私が生まれるまではお母様専属のレディースメイドだった。今後もお母様とともに歩んでほしい。


 それから、新しく雇った、私とダイアナ付の、コーリルとリメザ。新しく雇った子は、基本的にみんな水魔法と光魔法が得意だけど、コーリルは火魔法が得意で、リメザは風魔法が得意だ。


「よろしくね、コーリル、リメザ」

「はい!アンネリーゼ様とダイアナ様のために誠心誠意尽くします!」

「は、はい…」

「二人とも、そんなに堅くならなくてよいですよ」

「はい!がんばりますであります!」

「は、はい…」


 それから、セレスとカローナ付のポロン。ポロンは土魔法が得意だ。土魔法が得意だと、服を補修したりできて便利。


「これからよろしくお願いね」

「お世話になりますわ」

「は、はい、よろしくお願いします」


 そして…、リーナ専属のスピラ。乳児の魂百まで計画を実施した子たちは、基本的に光魔法が得意で、身体強化もけっこうできるのだが、スピラはとくに身体強化が得意だ。

 リーナは五歳になった今でも、ときどきドッジボールになったりするので、私しか手に負えなかったのだけど、ようやくリーナについて行けそうな子が現れた。


 私とダイアナ付のコーリルとリメザは交替勤務だ。私とダイアナは学校に通わないので、常に私たちと一緒だと学ぶ機会がなくなってしまう。コーリルとリメザはまだ九歳で伸び盛りなので、教育の機会を奪うわけにはいかない。なので、交替で学校に行ってもらうことにした。

 一方で、お母様とリーナとセレスとカローナは毎日学校に通っているので、メイドも便乗して学校に行ってもらう。だから交替して学校に行く必要はない。

 ヒルダとクレアのメイドもそうしているのだ。二人のメイドはエミリーより優秀になっていると思う。



 まあ、エミリーはともかく、新しい子たちはみんな、光魔法による身体強化がそれなりにできるので、護衛を務められると思う。


 一方で、ダズンは護衛としては役に立たないし、女の私たちには常に付いていられないこともあるから、もう連れ回さないことにして、お父様に返した。

 けっして、私の周りに男を置きたくないとか、男が嫌いとかそういうことではない。私は別に、男と交わることに抵抗があるわけじゃない。

 ただ、私にはすでにカローナとの子供、ダイアナがいるし、もっと子供が欲しくなったとしても、女の子どうしで子供を作る手段を得てしまったのだ。なので、どうしても男が必要というワケではない。


 それに、こういってはなんだけど、この世界で出会った男は、あまり役に立たない。お父様とダズンがいい例だ。

 プレドールとテルカスの当主もそうだ。彼らは悪さをすることはないし、私腹を肥やしたりもしないようだけど、だからといって何か良いことをするわけでもない。

 あとは悪印象の男ばかりだ。私の能力を手に入れようとしたプロフ家のロキシンとか第五王子のサレックスとか。


 あ、王はさすがに無能ではない。何度か会っているけど、かなりできるんだと思う。でないと、この国はとっくに終わってると思う。

 なんて偉そうなこといえるほど、私は優秀ではないけどね。


 まあ、無能な上に力もない男なんていらないよ。

 この世界では身体強化という魔法がある。それに身体強化以外でも、身を守る魔法はたくさんあるんだ。魔法さえ使えれば男尊女卑なんて考えは消し去ることができるはずだ。

 カローナの血筋を広めて、女だけの王国を作ってもいいかもしれない。




「ねえアンネ。黄金の卵で玉子焼きを作ってほしいの」

「そうですわ。その玉子焼きを一緒に食べれば、子供ができるかもしれませんわ」

「私もアンネと食べたいわ!」

「私もアンネとー!」


「分かりましたよ…」


 そんなもの持ち帰っていたね…。っていうか、あれはドラゴンの卵だよね…。ドラゴンって爬虫類?その玉子は美味しいのかな…。


 玉子焼きを食べてキスをしたからといって子供はできないと思うけど、まあいいや。作ってみよう。


 あああ…、冷やしてない。有精卵だったらどうしよう。そもそも無精卵を産むのかな。いや、それ以前にあれは産み落としたものだったのか?

 この卵は、激しい電撃戦を繰り広げて、灰になったドラゴンのあとに残っていたものだ。産み落としたのではなくて、まだドラゴンの胎内で育てていたものだったのかもしれない。

 よく原型を留めていると思う。卵の中にも電流が流れただろうし、熱も伝わったと思う。中身はすでに玉子焼きになっているかもしれない。だとすると、腐ってもう食べられないはず…。


「あれ、卵が転がったわよ」

「誰か触りましたか?」

「私は触ってないわよ」

「触ってないよ」


「外でリーナが暴れているのでは。まあいいです。とりあえず割っちゃいます」


 コカトリスの卵と同じように、剣でひっぱたいた。割れない…。あれ?なんか音が…。

 ひっぱたいたあと、内側から音が返ってきた。うわ…、中身は生きていて、しかも育っている…。


「すみません、これは有精卵で、すでに結構育っているようです…」


「ええっ?何が生まれるのかしら?」

「見てみたいな!」


 ヒルダとクレアはチャレンジャーだなぁ…。ああ、コカトリスの本体を見たことがないから、そんなことを言えるのか。


 黄金の魔物…、ゴールドドラゴンを見たのは、私とダイアナ、それと使用人の六人だけだ。

 私は必死だったし、近すぎて巨体の全容を掴めなかった。だからドラゴンだなんて分からなかったくらいだ。空から降ってきたのだから、おそらく羽根があったんだろうけど、それすらよく分からなかった。


「あの…、調べたのですが、あの山にはゴールドドラゴンが住んでいるという伝説がありました」


「つまり、ダイアナが倒したのはゴールドドラゴンというワケね」

「そして、これはゴールドドラゴンの卵ってことかぁ…」


「ゴールドなんて素敵ね」

「ゴールドドラゴンなんて、やっぱり御利益がありそうですわ!」


 セレス…、内臓をズタズタにされて、心停止までしたんだよ。やっぱり王族は金が好きなの?

 カローナ…、恋愛成就の御利益なんてないよ…きっと…。っていうか、もう玉子焼きにはできないよ…。食い意地がはってるなぁ。カローナは見た目どおりの肉食女子だ。もちろん、団子より花の方面でね。


「そういうわけなので、この卵は危険です。処分します」


「可哀想よ!」

「そうだよ。アンネひどいよ」


「ええぇ…。セレスはこれの親にひどい目に遭わされたんですよ」


 セレスが一度死んでしまったことは、みんなには伝えてない。すでに治療したあとだったし、ちょっと頭を打って血が滴っていたくらいだ。あとはドレスが汚れていただけ。実感がわかないのだろう。


「この子に罪はないわ」

「そうですわね。親の罪は子とは無関係です」


 セレス…。子だなんて…。

 カローナ…。罪とかそういうことを言っているのではなくてね…。

 二人ともドラゴンを育てる気満々か…。


「いえ、そういうことではなくて、親と同じくらい凶暴で力を持っていたらどうするんですか?」


「アンネならどんな動物とも仲良くなれるわよね」

「そうだよ。聖女のアンネにかかれば、ドラゴンくらい手懐けられるよ」


 ヒルダもクレアも私頼み?

 その聖女とかいうのはやめてほしいんだけど…。


「はぁ…。分かりました。生まれたら私が調教しますよ…。でも生まれるまでは地下で厳重に閉じ込めておきます」


「それならいいわよ」

「まあしかたがありませんわね」


 セレスもカローナも納得してくれたようだ。


「産まれてくるのが楽しみね」

「名前、何にする?」


 あのね、人間の子が生まれるんじゃないんだよ。ヒルダもクレアも、なんでそんなに楽しみなのやら。



 地下一階は、馬車の魔道具を保管できるようなスペースになっている。魔導石の魔力がもったいないので、異次元ではなくて、実空間に置いておくためのスペースだ。だから3LDK以上のスペースがある。馬車には馬屋も付けたので、さらにスペースを拡張してある。


 なので、地下二階を増設して、そこに分厚い牢を作って、中に卵を置いた。今まで温めなくても育っていたみたいだし、私としては最悪死んでしまってもいいので、今までどおり、そのまま置いておく。さすがに五十センチの大きさで、牢を破って地下から這い出てきたりしないだろう。

■アンネリーゼ・メタゾール(十一歳)

 馬にまたがるためにスカートをミニにしたら、ダイアナにロングスカートをはくことを禁止されてしまった。おまけにハイヒールまで履くことになってしまった。


■メリリーナ(五歳)


■シルバー

 馬車を引かずにアンネリーゼを乗せるだけなら時速二〇〇キロ出せるようになった。


■ブロンズ(雌)

 シルバーの弟子。


■伝説のゴールドドラゴン

 ダイアナと電撃戦を繰り広げ炭になった。


■エミリー(二十一歳)

 リンダ専属のレディースメイドとなった。


■コーリル(九歳)、リメザ(九歳)

 アンネリーゼとダイアナの専属レディースメイド。交代勤務。

 ほとんどダイアナのお世話しかしない。

 コーリルは火魔法が得意で、リメザは風魔法が得意。

 コーリルはハキハキしている。リメザは緊張気味。


■ポロン(九歳)

 セレスタミナとカローナの専属レディースメイド。土魔法が得意。おとなしい。


■スピラ(九歳)

 メリリーナ専属のレディースメイド。光魔法、とくに身体強化が得意で、ドッジボールになったメリリーナを受け止められる。


■その他の新しいメイド(九歳)

 アンネリーゼが当主となったあと、産まれてすぐ精霊を付けられて、幼少の頃から英才教育を施された優秀な領民から選ばれた。

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