表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/58

15 うつつを抜かした

 ダイアナは一歳になった。いまだにつかまり立ちには至ってない。そもそも本人がろくに動こうとしない。はいはいだってろくにしない。

 でもまあ、カローナと一緒で筋力に劣る種族なのだ。無理強いはしない。いや、怠惰なのは前世の性格だよね。

 おなかの中でチャットしてたときはとても博識な人と感じたので、怠惰なのは運動面だけと思いたい。



 ダイアナは一度だけ離乳食を口にした後は、いっさい食べていない。この世界の食べ物がマズいからだ。

 私の見つけてきた食材は卵と牛乳だけであって、どちらもまだ食べさせられない。

 いまだに私の腕の中でおっぱいを飲んでいる。


 私はこれをまったく否定できない。なぜなら私は十一歳になった今でも、お母様の母乳をいただいているからだ。卵と牛乳、各種お肉揃えたし、他領から持ってきた野菜も栽培しているけど、なんだかんだいってお母様の母乳がいちばん美味しい。

 このままでは、ダイアナは私二号なってしまう。


 だからといって、これといった解決策はない。どうしたらよいものやら。




 ダイアナが一歳ということは、出産から一年経ったということだ。約束のときだ。来週、王城に出向いて、マイア姫とお茶会をするのだ!数ヶ月前から積極的に手紙をやりとりして、段取りを付けてきた。

 最初に誘われたのは私だけだったけど、私のお嫁さん二人と養女二人も参加するの許可を得た。


 私はあまり長い間お母様から離れることはできない…。王都にお母様を連れていくなら、リーナもダイアナも連れていかなきゃならない。

 かといって、お母様とリーナとダイアナを王族のお茶会に連れていくのは難しい。


 いろいろ検討した結果、私がお母様から離れる時間を極力短くする方法を考えた。



 私の愛馬、シルバーは精霊を付けてあるので身体強化を使える。シルバーは馬車を引く仕事がないときも自主トレをしていて、今では馬車を引いて時速百キロで走れる。

 シルバーには他にもいろんな魔法を教えてある。王都までの街道は私が九年前に整備したが、さすがに九年もの間に多くの人や馬車が通ったことでほころびが出ている。そこで土魔法の整地だ。私が手を下さなくても、シルバー通るときにでこぼこを発見したら、車輪が通る前に直してくれる。


 時速百キロの馬車に追いつける盗賊はいない。はじめの頃こそそんなに速い馬車に手を出そうとする盗賊はいなかった。でも縄を張ったり障害物をおいて道を塞いでくるという知恵を付けた者が現れだした。

 そこで、シルバーにファイヤボールやアイスアローを放ってもらい、障害物を蹴散らすようにした。道を破壊してしまったら、土魔法で整地だ。


 魔法を覚えられるなんて、シルバーとても賢い。私がマッサージして脳への血流が増加した結果、脳が発達したのだろうか。それに何でも言うことを聞いてくれる。頼りになる愛馬だ。


 シルバーは、私が目的地を告げれば、御者がいなくても一人で走ってくれるようになった。昼に出発して、夜に休憩したら、あとは眠ることもなく夜中に走り続けてくれる。寝台特急である。ダズンなんかよりも、よほど頼りになる。


 ちなみに、速さとは関係ないけど馬車も改造した。馬車といっても、基本は影収納の魔道具で作ったコンテナを格納するだけのフレーム。広さはあくまで影収納の容量で決まるのであって、外観の大きさは対外的なものでしかない。しかし、四人乗りの馬車に十人以上乗っているのはおかしいので、六人乗と八人乗りのフレームを用意した。張りぼてなので可能な限り重くならないようにした。


 そういうわけで、八人乗りに見える馬車に十一人乗せて、翌朝、王都邸に到着。

 さすがに徹夜で走り続けたシルバーをこれ以上走らせるつもりはない。一時間ほどたっぷりマッサージしてあげたあと、ゆっくり休ませてあげることにした。今日、王城に行くための馬は別に用意した。



 王都邸で朝食を取って、ドレスの着付けする。シルクをふんだんに使っているけど、デビューのときみたいに派手で色気を出したドレスじゃないから、パンツを出したりはしない。

 でも、胸元を開くのは標準なのでそちらは大きく露出している。私は妊娠してからメロンがなってしまったし、カローナもメロン、セレスもリンゴがなっている。前世の感覚からすると、とても十一歳とは思えない。


 王城に赴いた。例によって執事三人は馬車で待機。馬車には食料が乗せてあるので、勝手に食べてもらう。

 メイド三人は連れていく。



「私はマイア・ロイドステラです。本日はようこそおいでくださいました」

「アンネリーゼ・メタゾール伯爵です。お招きいただき、誠にありがとうございます。当初は、私一人だけお誘いいただいたの、このような大所帯で押しかけてしまい、申し訳ございません…」

「そのことついてはむしろ歓迎だと、手紙でもお伝えしたでしょう。この話はおしまいです」

「はい」

「それに、そんなにかしこまらないで。私はあなた方と仲良くなりたいのです」

「はい。分かりました。それでは、こちらの者を紹介させていただきますね」


 マイア姫は綺麗で可愛い!私の二つ下で九歳だ。

 それなのに、手紙をやりとりしていた限りでは、かなり聡明だと思われる。代筆とかだと分からないけど。

 マイア姫はシルクのドレスを着ている。シルクを生地としては流通させていないので、これはうちの仕立屋のものだ。

 金に糸目を付けず作ったものだろう。これだと大金貨百枚しそうだ。

 デビューのときのスケスケのやつではないけど、私たちのと同じように胸だけは強調されている。二年前に出会ったころのセレスくらいの胸がある。やはり、美貌は権力がものをいうのだ。



 私はうちのメンツを紹介した。


「さあ皆様、お座りになって」

「「「はい」」」


 セレスとカローナは、表情を崩すことなく席に着いた。

 さすが元王族と元公爵家。

 私もとくに物怖じしない。


「「は、はい…」」


 ヒルダとクレアはちょっと緊張している。子爵家と男爵家が王族にお呼ばれなんて、なかなかないことだもんね。

 でも、作法はちゃんとできているよ。


「まずは、お茶とお菓子をどうぞ」

「はい」

「いただきます」

「いただきますわ」

「「は、はい…」」


 うーん。ヒルダとクレアは二人とも緊張しすぎだ。

 ふふっ、クレアが緊張してるなんて、成長したなあ。お菓子が美味しくて私のお皿に手を出しちゃったのを思い出しちゃったよ。


「どうなさったの?」

「えっ?顔に出ていましたか?」

「ええ。皆さん緊張なさっているみたいですが、アンネリーゼ様は緊張を緩めていただいたみたいですね」

「ふふっ。初めてのお茶会のことを思い出したんです。クレアったら、お菓子が美味しくて、私のお皿に載った分を取っていっちゃったんですよ」

「ちょっとアンネ!そんなこと今言わなくたっていいじゃん…」

「あのときは私も驚いたわ…。クレアの作法は打ち首ものだったもの…」


 クレアは昔のことを思い出して、恥ずかしさのあまり赤くなった。ヒルダもあきれ顔になった。二人ともいつもの口調に戻った。


「お二人ともやっと緊張が解けたみたいですね」

「あっ…」

「その…」


 あらら、二人とも、もとの緊張顔に戻ってしまった。


「いいんですよ。それくらいの砕けた話し方にしてください」

「わ、わかったわ!」

「わかったよ!」


 いいって言われても、なかなか砕けられないものだ。二人は度胸あるなあ。


 二人はいつも、王族のように美しいメタゾール三姉妹に囲まれているので、マイア程度の美人で驚くことはなかった。また、アンネリーゼに綺麗なドレスを仕立ててもらっており、自分も綺麗になったという自負がある。なにより、セレスタミナとカローナに作法もしこまれているので、それなりに度胸が付いていた。


「それから、お菓子も全然手を付けてないですけど、気にせずにどんどんどうぞ!」

「はい!」

「ええ!」

「美味しかったら、私のに手を付けてくださってもいいのよ!」

「それはさすがに…」


「うふふっ」

「あははは」

「「「「「「あははははは」」」」」」


 マイア姫は話の分かる子だ。ここでは身分も関係なく、キャッキャうふふできそうだ。



「セレスタミナ様とカローナ様は、アンネリーゼ様の養女になられたのですよね?」

「はい」

「そうですわ」

「どのような経緯で?」

「えっと…、アンネ…」


「この二人は、とても綺麗でしょう」

「はい。それはもう、この世の者とは思えないほどお綺麗です」

「そんなに褒められると照れてしまいます…」

「カローナ様のほうも、大人のような色っぽさがうらやましいです」

「わ、わたくし、その…」


「それで、綺麗だから私のお店で出すドレスを売り込むための広告塔になってもらうために、養女にして一緒にデビューしてもらったんです」

「はっ?」

「おかげさまで、売れに売れているのですよ。マイア様も、うちのドレスの噂を聞きつけて買ってくださったのでしょう」

「そうです。先鋭的なデザイン。そして、この光沢のある生地は触り心地も素晴らしいですね。普段の生活でも使わせてもらってます。それに、これだけふんだんに宝石を使っているのに上品な仕上がり」

「お褒めに預かり光栄です」


 広告塔にしたのは事実だ。ウソはついてない。二人の出自を問われると困るから、うまくドレスの話に誘導できてよかった。


 私たちは原価で自分で作れるから普段着にしているけど、屋敷が建つような値段のドレスを普段着にできるとは、さすが王族。




 しかし、私たちの大事なキャッキャうふふに水を差す不届き者はやってきた…。


「やあ」

「この不届き者を部屋に入れたのは誰です?衛兵!」


 誰だろう…。若くはないけどキラキラオーラを纏った、ザ・王子みたいなおっさん…。


 ここは女子の園。いや、男子禁制の部屋というワケではないけど、女子だけでお茶会をしてたら、入ってはいけないというのが暗黙のルールだ。

 そんなルールを知らないのか、それとも知ってて無視しているのか…。ああ、思い当たる人物が…。


 まあ、女子の集まりなのだけど、マイア姫が呼んで駆けつけた衛兵は男だ。これはしかたがない。


「不届き者とは酷いな。私はサレックス。この国の第五王子だよ」


 キター!これがあの第五王子!

 第五王子は私たちのことを、品定めをするような目で眺めている。セレスがお気に入りかな。いや、カローナの胸やお尻を見て鼻の下を伸ばしているな。


「王子であれば女子のお茶会に乱入してもよいというのですか?」

「ああ、王子だからね」

「何をおっしゃいますか。この国で強権を持っているのは王だけですよ」

「次に王になる私にそんな口を聞いていいのかい?」


 この国では、このようなボンクラが王位に就く可能性を排除している。今のところ次の王は、第一王子か第二王子、または第一王子の長男と次男、その長男の第一子と第二子あたりまでだ。彼らは、王の下で政務に就いている。

 能力のない者、誠実でない者が王に選ばれることはない。王は脅しに屈したりしない。脅しに屈するような者を後継者に選ぶようなこともしない。


 しかし、マイア姫は二十五歳上のおっさんを相手に臆することもなく、口で負けるようなこともない。このような子が王位に就くのかも知れない。

 この国は王が男でなければならないという法律はないけど、女でよいということも書いていない。貴族の当主と同じだ。


「あなたが王になる目がどこにあるというのですか」

「フフフ…。我が妻、アンネリーゼと力を合わせれば、王位などすぐに手に入る」

「聡明なアンネリーゼ様があなたなどと結婚するはずがないでしょう」


「おまえがアンネリーゼか…」


 何その、ちょっとがっかりみたいな顔…。どうせ私はたいした美人じゃないですよ。

 っていうか、今知りましたってか?自分の妻だと言っているのに、顔も知らなかったとは何ごとか。私もおまえの顔なんて知らなかったけどね。


 マイア姫が私の方を向いて、「結婚するはずがないでしょう。ねえアンネリーゼ様?」みたいな顔をするから、私が当人だってばれたじゃないか。マイア姫もまだまだ甘いな。まあそれはいいんだけどさ…。


 だんだん腹が立ってきた。王位継承の可能性がゼロじゃないからあからさまに拒否することはできなかった。今もそれは同じ。

 この国の王とは何度か話をしているけど、腹を割って話したわけでもないし、実際のところ後継者をどうしようと考えているのなんて知らない。

 もし、今の王が死ねば、結婚もしていないコイツは平民落ち確定だ。たいていの王族は、そうならないように、王城内で何かしらの役職に就くか、どこかの貴族に嫁ぐ。しかし、コイツはプー太郎なのだ。

 いつまでもこういうゴミに王位継承の可能性を残しておくのは悪いことだと思う。なぜ国民の血税がゴミを養うのに使われているのか。


 第五王子は、私の胸に目をやるや否や、


「まあいいだろう。さあ、アンネリーゼ。私に会いに来てくれたのだろう」


 何がいいって?妊娠して、カローナよりも大きくなったメロンをぶら下げていること?

 なんで、私がおまえに会いに来なきゃいけないんだ。


「勘違いもたいがいにしてください!アンネリーゼ様は私と派閥を組むのです!」


 へっ?


「私が王位に就くための手助けをしてくれるのです!」


 誰があなたの手助けをするって?


「おまえのような小娘に何ができるというのだ!」


 その小娘と二歳しか違わない私を頼っているのは誰なんですかね。それどころか、最初は二歳児を頼ろうとしたのでは?


「少なくともサレックス様よりは、この国をより良く導くことができます」

「生意気なやつめ!」


 第五王子は帯剣している。王族は王の前以外では帯剣が認められているからだ。

 そして、腰に帯びている剣に手を伸ばそうとしている。遅い。素人丸出し。セレスの方がよほど速いね。

 短絡的なやつだなぁ。こいつが王になったら一日で国は終わりだ。


 一方で私はスカートをまくり上げて、その裏側に影収納の扉を開いて、そこから剣を取り出すのには時間が足りない。そもそも、王族でもないのに王城内で帯剣していたら打ち首ものだ。ああ、剣がダメなら、鉄の扇でも持ち歩こうかなぁ…。

 素手でいけるか?真剣白刃取り?電撃で指の筋肉を萎えさせるか?

 あんまり現実離れした魔法や力は見せたくない。よし、電撃にしよう。


 王子が剣を抜き、振り上げた瞬間を狙った。


「きゃーーーっ」

「「「きゃー」」」


 マイア姫が悲鳴を上げる。周りの者も悲鳴を上げた。

 セレスは自分が腰に剣を携えていないことに歯がみしている。私も泣いている場合ではない。


 剣を握っている王子の指に電流を流して筋肉を酷使させる。まあ、筋肉トレーニングマシーンみたいなものだよ。いや、静電気?雷か。

 魔法は発動する場所が自分から離れると、距離に応じ魔力消費が大きくなり、制御も難しくなるけど、指を麻痺させる程度の魔法なら十メートル離れても正確に行使できる。誰が起こしたことか、何が起こったかも分からないはずだ。


 バチンっ!爆竹のような音が部屋に響いた。


「うわっ…」


 第五王子は右手では剣を握れなくなり、落としてしまった。カランっカラーンと、剣が落ちた音が鳴り響く。

 何が起こったのか分からない第五王子は、痛む右手を左手で押さえている。酷い筋肉痛のおかげで、今は手首から先が全く動かないし、適切に処置しないと筋肉が固くなって、完全に元通りに動くようには回復しない。

 また、指を動かせないということは脳や体中の機能をほんのわずかに低下させたりもする。それは、老死による死期を数年早めるかもしれない。


 私はあまあまだ。こんなゴミは死んだ方がいいと思っている。でも、私は人を殺す勇気がない。今だって、私の知らない遠い未来に、こいつが勝手に死んでいくのを早めるような、そんな生ぬるい反撃しかしていない。

 いや、むしろじわじわと弱っていく毒のような攻撃ばっかして、意外に残酷?

 人を癒すための知識と技は、裏返すと人を傷つけるものとなる。私は聖女ではない。私の大事なものを害するやつを許さない。



 誰も事態を飲み込めず、動こうとしない。私が進行させるか。


「私はあなたのようなお方は存じ上げません。今は女性だけでお茶をしているのです。用があるならあとにすべきではありませんか?」

「くっ…」


 自分の思い通りにならなかったのが悔しい?なんで私が思い通りになると考えたのやら…。

 深窓のご令嬢でも想像してた?深窓のご令嬢が領地経営できると思った?いったいどんな夢を見て生きているのやら。


「そうです!早く立ち去りなさい!」

「覚えておれ…」


 マイア姫の言葉に、第五王子はお決まりな捨て台詞を吐いて去っていった。




 私たちはしばらく無言でいたが、やっと落ち着いたマイア姫が沈黙を破った。


「はぁ…。身内がお騒がせしました」

「マイア様の責任ではないでしょう」


「王家全体の問題ですね。あの者は、現在の王が退位するまで、王城で暮らすことができます。王族の定義は、王の配偶者と王の子孫だからです」

「あのような者に国民の血税が使われているのはいただけないですね」


「おっしゃる通りです!だから、私は法を改正して、王家の問題を正したいのです!だから、アンネリーゼ様が私と派閥を組んでくださるならとても心強いのですが…」

「ああ、先ほどそのようなことをおっしゃっていましたが…」


 売り言葉に買い言葉だったのかもしれない。結婚ではないものの、この子も勝手に私を協力者であると、都合のいいことを言った。

 九歳の女の子と三十四歳のおっさんなら、迷わず九歳の女の子を選ぶけど、まあそういう下心は置いておいて…。

 

「お願いです!私に力を貸してください!」

「私はただの田舎の伯爵ですよ…」


「知っていますよ。アンネリーゼは二歳のときに伯爵になり、たった一年で税収を二倍にしたと聞き及んでいます」

「いや、それは…、もともとがゼロに等しかったから、数値上で二倍になっただけであって…」


 私のマッサージによって領民が元気になり仕事の効率が上がったとか。さらに中毒効果で何でも拒むことなく言うことを聞いてくれたからトントン拍子にことが進んだとか。それから、箱物のコストが私の魔力だから実質タダだとか。

 そんなことは言いづらい。


「今も、二倍とはいかないまでも、毎年税収が八割近く上がっていってますよ。八年間で百倍以上になっています!」

「よく知っていますね…」


 実は、ここ一年はドレスが一着につき屋敷が一つ建つくらいの儲けがあったりして、次の税収は今までの五倍になる見込みだ…。これは、領地運営じゃなくて、私個人がドレスを売った利益を税に換算したものであって、私の収入はそのさらに五倍くらいあったりする…。

 まあ、その収入を惜しみなく使って投資をしてるから、領民の仕事の効率が格段に上がっているんだよね。最初は投資の分はマイナスだけど、数年で回収できるし。


 そんなわけで、来年以降もどんどん税収は上がっていく予定だ。


「王族は皆、領地の運営に関する資料を閲覧する権限があるのです。でもアンネリーゼ様の領に目を付けている者はあまりいないようです。皆、田舎領と侮っています。でも、アンネリーゼ様の領がこのまま成長を続ければ、経済力は王都を越えると思うのです」

「買いかぶりすぎです…」


「そんなことございません。アンネリーゼ様、どうか私に力をお貸しください!」


 すいません、あと一年で超える計算です!


「わかりました…。できるだけのことはいたします」


「ありがとうございます!ヒルダ様もクレア様もよろしくお願いしますね!」

「えっ?私は領地経営なんて…」

「私も考えたことなかった…」


「お二人ともアンネリーゼ様の派閥なのでしょう」

「派閥っていうか…」

「私たちけっ…んぐぐ…」


「ん?」


 クレアは結婚って言おうとしたよね。ヒルダがクレアの口を塞いだからよかったけど、クレアはまだ女同士の結婚が普通のことだと思ってるのかな。


「それでは、私のほうで準備が整いましたら、お便りを出します」

「はい」


「今日はほんとうにありがとうございました!今後ともよろしくお願いします!」

「はい、よろしくお願いします」

「「よ…よろしくお願いします」」




 帰りの馬車で…、


「はぁ…、面倒ごとに巻き込まれま…」

「自業自得よ!」

「えっ…」

「私たちという結婚相手がいながら、他の女の子に手を出そうとするからでしょ!」


 ちょっと待ってほしい。私がカローナとの子供を産んだとか、ヒルダとクレアが子供心に私と結婚するとか言っていたから、なんだか私とみんなが、男と女の関係みたいになっちゃってるけど、でもそうじゃなくって、普通に考えたら私は同年代で同性の友達を作ろうとしてるだけだよね?


「あの…、私はお友達を増やしたいだけで…」

「アンネはいつも、お姫様、きっと可愛いだろうなー、とか独り言を言ってたよ」

「えっ…」

「鼻の下伸びてたよ」


「はぁ…、私だって王女だったのに…。あんな小娘には負けないわよ」


 おかしい。ちょっと前までは、女の子と結婚したり子供を産んだりできるわけないと思っていたから、いずれ男と結婚して子供を産むのだと思っていた。そのことを嫌だと思ったことはない。

 でも、ダイアナを産んでからかな…。女の子どうしで子供を作れるって分かったからなのか、もう男と結ばれる必要はないんだ!と思ったら、何か開放された気がした。ってかすでにカローナと結ばれちゃってるワケだし。


 それか…、デビューのあたりからかなぁ…。みんなと一緒にいると、なんかこう、友情以上の……、恋愛感情みたいな……、性欲のような……。もしかしたらカローナは私に女の子を好きになる魔法でもかけたのでは…。いや、カローナを疑ってはいけない…。


「まあ、マイア様が可愛かったのは確かですわ」


 おお!同士よ!さすがカローナ。


「そうね、アンネはタラシだものね。私からカローナを奪ったんだもの」

「えっ…」


 そういえば、カローナはセレスとできてる様子だったのに、私と結ばれてしまった…。

 私がタラシなの?あの夜の記憶はないけど、カローナから襲ってきたんじゃないかな…。カローナの魔法なワケだし…。

 私の処女ってカローナに奪われたのに…。いや、処女の定義は男に接していないということなので、カローナに奪われることはないのかな?


「だから責任取ってよ。私もアンネと子供を作りたい」

「えっ」


 どうしてそういう発想に結びつくのやら…。


「そうよ!私もアンネと結婚したんだから赤ちゃん欲しいわ!」

「私もだよ!」


 ヒルダとクレアまで…。というか、留学してるから一緒にいるけど、正式に結婚ってワケでは…。それに女どうしの正式な結婚をして受け入れられるかはまだ分からないし。


「えっと…、どうすれば…」


「ねえカローナ、どうやったのかほんとうに覚えてないの?」

「ええ…、まったく…」


「アンネは何か分からない?」

「んー」


 ダイアナが生まれたときにも考えた。

 この世界の魔法では、あまり突拍子もないことは起こせない。ある程度現実的な現象に沿ってイメージして、いくつかの細かい過程を省略すればいい。


 魔法では無から物質を作ることはできない。

 無から赤ん坊を作ることはできない。

 赤ん坊を作るには…、卵子と…、もう一方は…。自分の遺伝子を持った…。指先に…なんかできた…。


 うん。今はやめておこう。


 ダイアナは転生者だからそれほど手間がかからないけど、次も転生者が生まれるとは限らない。普通の赤ちゃんが生まれたら、手間をかけて育てなければならない。普通は赤ちゃんなんて十一歳の子供の手に負えるものではないのだ。

 いや、まあ貴族だからメイドさんが面倒見てくれるのだろうけど…。ダイアナだってエミリーに面倒を見てもらっている。


 私たちはまだ十一歳の子供。私とお母様はイレギュラーすぎる…。見習わないでほしい。みんなにはせめて十五歳になるまで待ってもらおう。


「んー、分かりません…」


「そう…」

「そっかぁ」


 ごめんね。

 でも、カローナはこれの原理を知らずに魔法を使ったのだろうか。カローナの種族が持つ特別な能力なのかもしれない。




 王都邸に戻って夕食を取った。


 馬車の馬をシルバーに戻した。シルバーは今朝到着してからたっぷり休んだ。出発前にもう一度マッサージして気合いを入れてあげた。


 王都邸を夜八時に出発して、領には朝の十一時に着く。マジで寝台特急だ。

 まあ、それは休みなしに走り続けた場合だ。シルバーには途中で好きに休んでよいと言ってあるのだけど、シルバーは頑張り屋なので十五時間走り続けてしまうかもしれない。

 ほんとうにダズンより頼りになる。というか、もはや御者が乗っているのは王都内で体裁を繕うためだけであって、王都を出てからすぐにダズンも車室内に入れた。


 闇夜を走り続けるシルバー。光魔法による身体強化で夜目も利くようになっていた。



 翌日、朝食を取り、案の定、領に十一時に到着した。


 帰ってすぐ…お母様の元に行きたいのをこらえて、十五時間も走り続けたシルバーを一時間ほどねぎらってあげる。ああシルバー…、なんて可愛いんだろう。つぶらな瞳。ご令嬢顔負けの、つやのある立派なたてがみ。



 シルバーを寝かせて、今度こそお母様の元へ。


「あれ…、出ない…」

「さっきみんなすごい勢いで吸っていったのよ…。おかげでちょっと痛いの…」

「ひどい…」


 私はお母様の胸に治療魔法をかけた。乳腺の疲労を取って、さらに全身の血流を集めて活発に…。


「よし!」

「あら、まだ出るのね」


 翌日、お母様の胸はまた大きくなってしまった…。このまま需要過多の状況が続くと、お母様の乳腺とお胸はどんとん成長してしまう…。

■アンネリーゼ・メタゾール(十一歳)

 ダイアナを産んでから、カローナよりも胸が大きくなった。


■ヒルダ・プレドール(十一歳)

■シンクレア・テルカス(十一歳)

■セレスタミナ・メタゾール(十一歳)

■カローナ・メタゾール(十一歳)


■ダイアナ(一歳)

 まだつかまり立ちできない。


■マイア・ロイドステラ(九歳)

 マイザー王の玄孫。綺麗で可愛い。身体的スペックはセレスタミナの二年前と同じくらい。

 腰まで伸ばした若干ウェーブがかった金髪。


■サレックス・ロイドステラ第五王子(三十四歳)

 若くはないけどキラキラオーラを纏った、ザ・王子。

 アンネリーゼに電撃を喰らい、右手に麻痺を残すこととなった。


■シルバー(雌)

 二歳で王都に行ったときからずっと懐いている馬。

 筋トレや魔法トレーニングを自主的に行う。馬車を引いて時速百キロで走れる。

 目的地を告げれば、御者がいなくても一人で走ってくれる。

 使用人の中で最も頼りになる存在。

 つぶらな瞳。ご令嬢顔負けの、艶のある立派なたてがみ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ