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14 少女は母になる

 うぅ…、最近身体が重い…。これはたぶん生理の始まりだ。でもいつもより酷い…。食欲もあまりない…。これは内臓の動きが悪いってことだ。

 食欲がないので、消化に体力を消耗する食事ではなくて、楽に摂取できるお母様の母乳だけですごしている。母乳は、まだちゃんとできあがっていない新生児の内臓に優しいようにできている。内臓が疲れているときに適した飲み物だ。

 いつまで私は母乳に頼っているのだろう。


 というか、先月、生理来たっけ?周期的にはパーティの直後くらいに来るはずだったんだけど…。生理不順かな…。これだけ体調には気を遣ってるのに…。

 と思ったら、いつまで経っても魔道ナプキンに血が付かない。どういうことだ…。



「ようこそ、メタゾール領へ」

「ド田舎だと思っていたのに、プレドールより綺麗な町ね」

「ホントだね。何より臭くないのがいいね」

「衛生環境には気を遣ってますからね」


 ヒルダとクレアが留学してきた。明日からみっちり勉強してもらって、電気魔法も覚えてもらうんだ。

 メタゾール領は下水と水洗便所を整備してあるから、人々が汚物を道ばたに捨てたりしない。

 まあ、王都の近くは、ちゃんとおまるの魔道具を使ってるから、汚物まみれってことはないのだけど、プレドールとかテルカスのような田舎はいまだに裏路地が汚物で溢れている。


「ねえアンネ、調子悪そうよ」

「そうだねえ。ちょっと顔も青いし」

「えっ…、大丈夫ですよ」


 倒れるほどではないし、我慢もできる。でも、これだけ体調が悪くなったのは、この世界に生まれて初めてだ。私、自動HP回復じゃなかったのかな…。


「それでは学校を案内しますね」


「ねえ、アンネは休んでなよ」

「案内はセレスとカローナにお願いするよ」


「そうですわね、わたくしたちにお任せになって」

「無理は禁物よ」


「分かりました…。セレス、カローナ、あとはお願いします…」



 私には身体の血行が悪くなっている箇所に黒ずみ…黒いもやがかかって見える。でも、自分の身体に黒ずみが見えたことは一度もない。

 それが今は、全身にうっすら黒いもやがかかっている。子宮を除いて。これは生理のときに見られる症状だ。子宮に血液が集中して、全身の血のめぐりが悪くなっているのだ。

 でも、お母様やエミリーではこの症状はよく見ていたのだけど、自分の生理のときに見たことはなかったんだけどな…。私は普段からこれでもかというほど血行には気をつけているので、生理にくらいでは日常生活に支障はなかったんだけど…。


 せっかくヒルダとクレアが来てくれたのに、今日は全く相手出来なかった…。

 もちろん、一緒にお風呂に入り、一緒のベッドで寝た。

 お風呂は四人用だったのを、八人用に改築した。二歳のときの魔力でまかなえる水量から四人用にしたのであって、今では何人分の水を出せるのか把握していない。




「おはよう、今日も調子が悪そうね」

「えっ…、大丈夫です」

「どこが大丈夫なのよ」

「そうだよ、ゆっくり寝てなよ」

「はい…」


 私の身体にはいまだにうっすら黒いもやがかかっている。子宮を除いて。なんでこんなに子宮に血液が集中してるんだ…。まさか子宮癌…?私、もう死ぬの?


 ヒルダとクレアは、セレスとカローナと共に授業に向かった。

 寝室に残っているのはお母様とリーナ。


「ねえ、アンネちゃん。あなた、私のおめでたは分かるのに、自分のことは分からないのね」

「はぁ?あり得ないです。男性と触れあったことなど一度もありません」

「ふーん」


 いや、待てよ。私はほんとうに前世と同じ人間という生き物なのだろうか?少なくとも人種は違う。発育も速い。

 法律で同性婚を禁止する項目がないのは、もしかしてそれが可能だから?男同士で?女同士で?子供ができるの?

 セレスもカローナも、ヒルダもクレアも冗談抜きで私と結婚するとか言ってるけど、愛し合って一つ屋根の下に暮らすってだけじゃないの?子供を作るつもりで言っているの?


「あ、あの…、もしかして…、女同士で子供ができたりするのでしょうか?」

「さあ。少なくともアンネちゃんとリーナちゃんは私とゲシュタールの子よ」

「はい…」


 鏡を見ると、私はお母様七割、お父様三割というような顔をしていると思う。


 前世と同じ人間の形をしている私たちは、哺乳類ではないのかなぁ…。両性具有?

 魔物の交尾とか見たことないな。メス同士で交尾できたりするのかな…。オスが子を産んだりできるのかな…。魔法が絡んでいると、物理法則を逸脱している可能性もある。


「でも、あなたの症状は私がアンネちゃんを身ごもったときと同じよ。リーナちゃんのときはだいぶ楽だったけどね」

「九歳で妊娠なんて…、身体がついていけてないですね…。お母様はさぞかし辛かったでしょう…」

「私のことはいいの。今は自分の身体のことを大事にしなさい」

「はい…、お母様…」


 これが子宮癌じゃなくて妊娠なら死ななくてすむか…。だとすると、相手は誰なのか…。性行為なんてしたことないよ…。仮に女の子と子供を作れるとしても、みんなとはただ一緒に寝ているだけだし…。


 しかし、一ヶ月経ってもいっこうに体調は改善せず…。相変わらず食欲はあまりない。吐くことはないけど、これはつわりなのだろうか…。


 うう…。私…、誰に妊まされたの…?酷い…。

 精神的にも肉体的にも絶不調だ…。マタニティブルーってやつか…。



 なんかおなかが温かい…。温度ではなくて、優しいぬくもり。ああ、これは魔力だ。

 私の精霊とは別の精霊がおなかの周りに集まっている。あなたはすでにそこにいるんだね。

 赤に青、紫に緑、黄色に白。黒まで!あれ…、すでに加護を受けてるんでは…。ってか、早いでしょう。リーナだって三ヶ月になってやっと水と光の精霊を付けられたんだ。おかしい…。炎に土…、電気と闇まで!

 百人以上の領民の赤ちゃんに、乳児の魂百まで計画を実施してきたけど、生まれたばかりでは水と光しか付けられなかった。それは水とか身体にまつわることしか認識できていないからというのが理由だと思っている。だとすれば、この胎児は電気どころか異次元を認識できるということに…。それって…。




 時は過ぎ、私は十歳になった。体調はだいぶ良くなってきた。だけど、代わりにドレスのウェストがきつくなってきた。

 信じられないことに、このウェストのサイズは二歳ごろから全く変化していなかった。折れてしまいそうなほど細い。カローナはもっと細いのだけど。

 でもそのウェストが…、横幅は変化せず、前ばかり増えてきた…。いつ妊娠したのか知らないけど、今、四ヶ月くらいかな。

 マタニティドレスなんてものはないけど、生地を継ぎ足せばいいだけだ。


「アンネちゃん、大きくなってきたわね」


 私が半信半疑だったのに、お母様は確信していたんだね。


「ねーたま、ぽんぽんらね!」


 リーナがおなかをポンポンと叩く。四歳になって少しは落ち着いてきたけど、本気で叩かれたらおなかの赤ちゃんは死んでしまうと思う。気が気でない。


「やっぱり赤ちゃんができていたのね!」


 ヒルダはやっぱりって、いつから勘ぐってたの?なんでみんな分かるの?


「誰の子かなぁ」


 クレアはこの中の誰かがお相手だと思ってるのか…。しかもまるでランダムみたいな…。一緒に寝てるだけで子供ができる世界なの?

 えっ、それだとお母様と寝るのはヤバいんじゃ…。寝ているだけで子供ができるのなら、もしかしたら近親婚もあり?


「うらやましいわね。私もアンネかカローナの赤ちゃん、欲しいわ」


 セレスったら…。ってか、女の子どうしで子供を作れるのは常識なの?


「……」


 あれ…、カローナは少し顔が青くなってる。体調が悪いとかではなくて、ばつが悪いというような…。

 セレスとカローナはできてるんじゃなかったかな。セレスとの子供なら嬉しいのでは。それとも、セレスがカローナと私を同列のように扱ってるってことが不快なのかな。いや、それはばつが悪いのとは違うよな。

 これ以上のことは表情筋からは読み取れない。




 時は流れ、妊娠六ヶ月くらい。

 体調は万全とは言いがたいけど、普通に生活できる。食事もできるけど、いまだにお母様の母乳のウェイトが大きい。というか、私はもうすぐ母乳を与える側になるというのに、いまだにもらう側でもあるなんて…。

 あれ…、もうすぐ私も出始めるんじゃないかな。胸も急激に大きくなってきたし。カローナのリンゴを超えたよ。私が生まれたころのお母様と同じくらいはあると思う。前世の感覚からすると、十歳でこんなに重量感のあるものをぶら下げているのは反則だと思う。



「お嬢様、お手紙です」

「ごくろうさまです」


 そういえば私って当主なワケで、お嬢様じゃなくてご主人様なんだけどね。お母様は大奥様だ。まあ、どうでもいいや。


 手紙は二通ある。一通目は…。なになに…。ってこれは王家のマーク…。嫌な予感しかしない…。

 恐る恐る開封してみる。

 うわ…、第五王子…。縁談の申し込み…。しかも一ヶ月後に王城に来いってバカじゃないの?縁談を申し込むなら来るのが普通じゃないの?いや、この世界の普通はよくわかんないや…。

 お断りしたい。でも王家からの縁談を断ってよいものか…。


 第五王子って…、三十三歳か…。嫌だよそんなおっさん。

 私は前世も今も女の子が好きだ。セレスに言われるまで当たり前のことすぎて気が付かなかった…。

 だけど、男が嫌いなわけじゃない。…と思う。王子が男だから嫌だといっているわけではない。二十三歳も離れているのが嫌なのだ。

 んー、歳が離れていても愛さえあれば結婚できるかなぁ…。でも、今から愛を育むつもりはないし…。

 あ、これ、政略結婚ってやつだから、愛は関係ないのか…。いや、愛とは無関係に、利があるから結婚するのであって、利もない相手と結婚してどうするのだ。


 王都までは二日。私の馬車は揺れない。屋敷にいるのと同じ快適さだ。身重の私でも行けるとは思う。

 だけど、そんなことは誰も知らない。メタゾールから王都までの道のりは一ヶ月というのが一般認識。一ヶ月後に来いって、今すぐ出てこいってことだよね。あ、一ヶ月前に手紙を出したから、二ヶ月あれば準備できるだろうってことか。

 もうこれだけで脳みそ空っぽ、もしくは思いやりのかけらもないということが分かる。早々、愛なんて育めないと思う。


 それなら、とりあえず身重ってことを伝えてお断りするか…。身重で一ヶ月の旅ができないことくらい分かるだろう。


 問題は妊娠中であるということを伝えてよいかということだけど、この国では一夫多妻は認められており、妾の子を国に届け出する必要はない。そもそも、妾とは正式な結婚ではない。正式な結婚より前に妾との子がいることは問題ない。

 この辺りの法律は、当主が男である前提でしか書かれていない。女当主を認める記述はあるものの、私の前には数百年例がないようだ。あからさまに男尊女卑をうたう文言はないけど、女性が上に立つことは全く考えられていない。

 そもそも、正式な結婚の前に妾の子供がいることに問題がないのは、男の方だけじゃないの?私は女なのであって、一夫多妻というか、一妻多夫…、いや…、一妻多妻…。もうワケ分かんない…。まあとにかく、女当主が配偶者をたくさん持つのはアリなのかなぁ。


 そもそも一緒に寝てるだけで、しかも女の子との子を身ごもるものなのか…。

 ああもう、考えがぐるぐる回ってまとまらない。イライラする。生理のときにイライラしたことはないけど、これはやはりマタニティブルーだ…。頭に血が回らないと、脳の回復能力が阻害されて、平常な思考から遠ざかっていくのだ。落ち着かないと…。ひっひっふー…。


 まあいいや、私が誰の子を身ごもってても王子には関係ない。身重だから一ヶ月の旅はできません。これで返事を出そう。

 問題を先延ばしにしただけで、何の解決にもなってない。向こうからやってくるかもしれない。いいんだ。今は正常な思考ができない。こういう悩みはあとで考えればいい。

 今回の返事の到着に一ヶ月、王子が縁談に来たいという手紙で一ヶ月、そのOKの返事で一ヶ月、それを読んで王子が来るのに一ヶ月。つまり四ヶ月後。すばらしい。こんなふうにだらだらとやりとりをしているだけで、おばあちゃんになっちゃいそうだ。

 って、四ヶ月後って、私の臨月じゃん…。返事を少し遅らせて、出産と被らないようにしよう。出産直後だって会いたくないけど…。

 とりあえず、今回の返事は一週間後に出すことにした。



 そんで、もう一通は…。また王族のマーク…。第六王子とかいたっけ?それとも孫?ひ孫?玄孫?王は六十八歳で、王族は十五年くらいごとに長男長女が子供を産んでいくから、五十三歳くらいの子と三十八歳くらいの孫と二十三歳くらいのひ孫と八歳くらいの玄孫がいるはず。ネズミ講のようにはびこる王族…。いったい誰からだろう…。

 恐る恐る開けると…、マイア・ロイドステラ。あれ?女性?第一王子の第一子の第一子(孫)の第一子(ひ孫)の第一子(玄孫)か。うん、ワケ分からん。あ、同年代なのか。ちょっと興味ある。


 で、そのマイア姫がお茶会を開くと…。二ヶ月後かぁ。行きたいけど、身重を理由に王子への訪問を断っているのに、お姫様からのお誘いに乗るなんてできないな。

 やっぱり私って、男じゃなくて女の子が好きなんだな。いや、三十三歳のおっさんが十歳の私に手を出すなんて死刑確定だけど、八歳の女の子に罪があるわけないじゃん。だからだよ。

 いや、仮に八歳の王子に誘われたら…。いややっぱり、あんま興味ないな…。嫌じゃないけど…。あ、でも四歳くらいの王子に誘われたらアリだな。ああ、私は可愛い子が好きなのであって、そこに男女の差はないのかもしれない。

 女の子はうまくいけば一生可愛い。お母様とかね。でも男は歳を取るたびに可愛くなくなってしまうしなぁ。もし、歳を取らなくてずっと可愛い男の子がいるのならアリだな…。

 おかしいな。わたしはショタコンとかではなかったはず…。


 っていうか、私には結婚してくれるという女の子が二人もいて、さらに二人の女の子を侍らせているというのに、お姫様に浮気しようとしているなんて…。節操ないやつ…。

 ち、違うよ。お友達になりたいだけだよ。お姫様と結婚したいとかじゃないよ。

 って、また思考がぐるぐる回ってる…。落ち着け、ひっひっふー…。



 おっと…、話がだいぶ逸れた…。まあとにかく、マイア姫にはちょっと興味がある。でもお茶会にはいけない。これも身重を理由に断るしかない。でも、十歳なのに妊娠してるって言い回るのはちょっと恥ずかしいんだけど。いや、この世界ではきっと普通なんだ…。もう諦めよう。

 一年後くらいにまた誘って欲しいということを添えて、お断りの手紙を出すことにした。第五王子の手紙より先に届いても困るから、同じタイミングで。




 身体の調子はだいぶ良い。おなかの子も順調だ。というか、しばしばおなかが魔力に包まれている。これはやっぱり…。


「ねえ、聞こえる?」


 この国の言葉で言ってもしょうがないか。今度は前世の言葉で言ってみる。返事はない。まあ、おなかの中からは子音がほとんど聞こえないからなぁ。


 トントン。おなかを軽く叩いてみる。すると、ポフポフ、と赤ちゃんが蹴り返してきた。

 トントントン。ポフポフポフ。

 トン。ポフ。

 トントントントン。ポフポフポフポフ。


「あなたは転生者ね」


 ポフ。


 前世の言葉でゆっくり言ったけど、母音だけで理解したかは分からない。何か他にコミュニケーションの方法は…。

 おなかの中で見えていたものは精霊だけだ。じゃあ精霊で文字を書けるかな。

 精霊に魔力を与えて餌付けできるのは一種類につき一つ。でも餌付けしていない精霊にも魔力を与えると、魔力のある方に寄ってくる。これを利用して、無数に漂うピンポン球のような精霊を使って、前世の文字で「こんにちは」と描いてみた。ドットフォントを作るのは面倒…。

 すると、私が精霊で描いた文字がバラされて「こんばんは」と描かれた。おなかの中は万年夜だからこんばんはなのかな。

 しかし、この子、ドットフォント作るの速いなぁ…。


 というわけで、おなかの中にいるのは転生者で確定だ!



 胎児は寝たり起きたり気まぐれ。精霊で文字を描くのは大変だけど、可能な限りコミュニケーションを取った。魔法や魔力、精霊のこと。ここが異世界であること、私が転生者であることや、現世での私の名前も教えた。

 この子、私が文字を書くのよりも、かなり早く返してくる。すごくおしゃべりだ。


 今やっておかなければならないのは、胎児の魂百まで計画だ。この子の魔力は、私が胎児だったときより大きいみたい。魔力は遺伝するとされていて、後天的に獲得した魔力も少しだけ子に引き継げるとされている。だから、光の魔力はデフォでかなり多いんじゃないかなぁ。

 この子は電気の精霊が好きなようで、黄色だけやたら大きい。一種類の魔力を気絶するまで放出するのではなく、気絶寸前まで使って、他の魔力の放出に切り替えるということ教えた。見込みでは、光の精霊以外は私のより大きくなりそう。


 前世の記憶が中途半端なのは私と同じだ。知識や経験があっても、思い出がない。固有名詞や個人情報がない。ただし、同じ文字を扱えるし、時代も同じくらいだと思う。

 唯一覚えている…、というか経験から推測できる個人情報…、それは前世で女だったということ。だからといって、現世での性別はまだ分からないので、名前を付けるには早計だ。でも、前世と性別が違うとかだったらどうしよう…。それでも、前世と性別が同じという願いを込めて、おなかの子にダイアナという名を付けた。文字を使ってそう伝えた。


「アンネちゃん、おなかの子が女の子って分かるの?」

「本人がそう言っているのです」

「まあ、アンネちゃんの子は、もうお話できるの?」

「あ、えっと、なんとなくです…」

「ふーん。アンネちゃん一緒で、優秀なのね!」

「ふふっ、どうでしょうね」



 お互い前世の思い出がないから、ローカルトークのようなものはできない。でも、職業や知識は共有できた。ダイアナは前世では自動車会社で電気設計をやっていたらしい。工学系ですごく優秀な人みたい…。

 あとは、この国の言語や文化レベルを教えたりしている。音を伝えるのは難しいけど、前世の文字を音に当てはめて発音を教えている。

 おなかの中で魔法を使われては大惨事なので、魔法は教えてない。でも、イメージして対応する属性の魔力を流すだけなんだよね。とくに精霊が育っている属性は、望む結果をイメージするだけでいい。



 ところで、せっかくヒルダとシンクレアが来てくれているのに、ろくに相手できていない。でも二人は、毎日お風呂で私のおなかを優しい目で見てくれている。これは妊娠中の妻を見る旦那の顔かもしれない。みんな私の旦那さんだ。




 十ヶ月だ。苦しい。ウエストの三倍くらいの厚みになっている。私のウェストは腿よりも細いのだ。想像してみてほしい。赤ん坊の大きさの球体が腿にくっついているような…。鏡を見るとキモい…。


「ううう…」

「お嬢様、どうなさいましたか」

「陣痛が…始まりました…」

「分かりました。皆様を呼んできます」

「はっ、皆様って…、ちょっ、エミリー」


 あれ…、この世界に産婆っていないの?私を取り上げたのって誰だったのかな。まさかエミリー?


「アンネ!生まれたのね?」

「どこ?」


 ヒルダとクレア…。待って…、まだ早い…。


「まだ始まったばかりです…。何時間かかかりますよ…」


「いいわ。私が付いててあげる」

「私もだよ!」


「私も付いてるわよ!」

「わ、わたくしもですわ」


「今回は私が取り上げるわ!」

「リーナもっ!」


 リーナに取り上げられたら、頭がもげる…。お母様、頼んだよ…。

 ここは分娩室でも何でもなくて、ただのいつもの寝室なのだけど…。だからといって、こんなに大勢出産に立ち会うとか…。

 でも心強いな。

 私のお嫁さん、いやお婿さん?ヒルダとクレア。

 私の養女、セレスとカローナ。

 私のお母様、そして妹のリーナ。

 それから、メイドのエミリー。


 細菌感染が怖いから、こんなに大勢呼ぶものじゃないと思う…。でも私の身体もダイアナの身体も、光の精霊に守られている。大丈夫!


 圧迫感はあるし、ときどき痛みがある。でも、産道に傷が入ったりしても精霊がすぐ治してくれているようだ。光の精霊が付いていないお母様だって私を無事に産めたんだ。ダイアナも無事に生まれると信じたい。

 息張る力も十分にある。汗を掻いたりするけど体力には余裕がある。大丈夫。私はたかが十歳だけど、子供を産める!


「頭が出てきたわ!」


 もうすぐ…、もうすぐだ…。


「んんんんーーーーっ!」

「生まれたわ!女の子よ!」


「はぁ…はぁ…。あなたはダイアナよ!」


 よかった。前世と同じ性別で。


「ダイアナ、産声を上げないと、もうへその緒は切れてますよ」

「お、おぎゃあ…」

「何その控えめな産声…」


 そして、力尽きてすやすやと眠ってしまった。


「もう起き上がって大丈夫なのかしら」

「はい。もう大丈夫です。ありがとう、お母様。ありがとう、みんな」

「リーナもっ!」

「リーナもありがとうね」


 お産中に産道の傷は治ってしまったし、骨盤なども自動で元に戻った。体力はまだ妊娠前ほど戻っていないけど、産後とは思えないほど体調が良い。


「私にも抱かせてぇ」

「はい、お母様」

「私もおばあちゃんなのねぇ」

「お母様…」


 まあ、お母様は永遠の十七歳なので、孫が生まれようとひ孫が生まれようと違和感があると思う。



 さて、生まれたばかりの我が子…。すやすやと眠っているけど…。生まれる前からコミュニケーションを交わしていたし、前世は別の人間だったわけだし、自分の子供という実感がわかないな…。まあ、眠っている限りは可愛い赤ん坊だ。

 私はちゃんとお母様の子供をやれていたのかな。おかしな子と思われていなかったかな。この屋敷の人たちはほんとうに常識がないから、これが普通と思ってくれていたのだろうか。


 それにしても…、この子…、銀髪だ…。銀髪といったらカローナしかいないけど…。父親?はカローナなのかな。

 思わずカローナの方を向いたら、カローナは目をそらした。表情筋から読み取れるのは、愛おしさと…、後ろめたさ?何か隠している?


「カローナ、抱いてみますか?」

「えっ…、そんな…、わたくしは…」

「はい。首を支えるように抱えてくださいね」

「あっ…、はい…」


 カローナはダイアナを抱き上げた。カローナは母親の顔をしていた。いや産んだのは私だから私が母親なのであって、カローナは父親だ。まあどっちでもいいけど。

 とにかく確信してしまった。もう一人の親はカローナだ。カローナもそれを知っているっぽい。


「そっかぁ。この子、銀髪だし、カローナとアンネの子なんだね」

「ひうっ!」


 クレアに指摘されるとカローナはビクッとなって血の気が引いてしまった。浮気がばれたとかじゃないんだから、そこまでビビらなくても…。

 カローナは知っていたんだ。一緒に寝ているだけでかってに子供ができるってワケではなさそうだな。


「カローナ、私はあなたのことを養女にしてしまいましたが、結婚してくれてもいいんですよ?」

「アンネ…。この子がわたくしの子だと分かるのですね…。わたくしは、あなたに妊ませてしまったようです…」

「私はあなたと交わってその子を授かれて幸せですよ。だから、自分のことを責めないでください」

「あ、あの…、わたくしは…」

「むしろ、女の子どうしで子供を作れるなんて、素敵じゃないですか。あなたは女の子どうしで子供を作る方法を知っているのですか?」

「えっと…、その…、わたくしは二つ禁忌を犯してしまったんです…」

「禁忌…。話してくれますか?」

「はい…。わたくしの家系では、光魔法を使うことは禁じられているのです」

「えっ、光の精霊の加護を与えたのはまずかったですか…」

「はい…。そして、もう一つの禁忌が、もし光魔法を使ったあとは、二度と人を愛してはならないということです。でも、わたくしはセレスとアンネ…、ヒルダとクレア…、リンダお母様とリーナのことを愛することをやめられませんでした…」

「それと女の子どうしで子供を作ることが関係あるのですか?」

「わたくしの家系は、大昔、女だけの国を作っていたと言われています。女だけで子孫を残すことができていたのでしょう。それが、光魔法に関係があるのだと思います」

「なるほど…。カローナの家系は、女どうしで子供を作る光魔法を使えると」


「ねえ、さっきから子供を作る魔法って何かしら?」

「そうだよ。女の子どうしで子供を作るには魔法が必要なの?」


 ひとまず、女どうしで子供を作るには魔法が必要と…。ヒルダもクレアも当たり前のように私と結婚すると言っていたけど、その魔法のことを知っていたわけではなくて、単に子供を作る方法を知らなかっただけか…。

 てっきり、女どうしで子供を作るのはこの世界では当たり前で、私だけが前世基準でおかしなことをいっているのかと思ったよ…。

 でもまあ、カローナは女どうしで子供を作るのが当たり前の一族の末裔ってことか。銀髪だし、やっぱり人間とはちょっと違うのかも知れない。


「なんか言いなさいよ!」

「えっと…。本来なら子供は男と女が交わらないと作れないんですよ」


「えっ…、そうなの?」

「そんなこと私も知らなかったよ…」


 ヒルダもクレアも、そんな絶望的な顔をしないでよ…。


「それなのにアンネは私のプロポーズを受けてくれたってわけ?」

「私は子供ができなくとも、ヒルダとクレアと一緒にいられるのならば、それでいいと思っていましたよ」

「そういうことだったのね…」

「そっかぁ…」


 はっきりプロポーズを受け入れるなんて言った覚えはないけどね。結婚っていうのは言葉の綾で、ずっと一緒にいようって意味に受け取っていた…。まあでも、そういうことを知らないで、女の子どうしで結婚しようなんて約束するってのも、可愛くていいな。


「でもさ、カローナは女の子どうしで子供を作る魔法を使えるんでしょ?すごいじゃん!私にも教えてよ!」

「えっ…、それが…、私もどうやったのか覚えていないんです…」

「ええー」

「おそらく、デビュタントパーティの夜なんですが、突然泣き出してしまったアンネを慰めてあげたくて…」

「そういえばあの日はいつの間にか朝になっていたなぁ」


 あー…、それで私、パンツはいてなかったのか…。どんな慰め方されたのやら…。まあカローナなら奪ってくれてもいいよ…。私の初めてが…、記憶がないのは残念だけど…。


「あのときカローナが魔法をかけたの?」

「だから、自分でも覚えてないんです…」

「そっか…。私もアンネの子供、欲しいなぁ」


「まあ、カローナの魔法はゆっくり解析していきましょう。急ぐ必要はないですよ。十歳で子供なんて作るものじゃないです…。下手をすると障害を持った子が生まれたり、母子ともに死んでしまいます」

「えー、リンダお母様もアンネも十歳で産んだんでしょ?説得力ないよー」


 はぁ…。私、十歳なんだよな…。小学校四年生じゃんか。


「そうなんですが、お母様は単に運がよかっただけです。私は普段から身体を鍛えているからたいした不調もなかっただけです」

「そういうものなのかぁ」


 アンネリーゼもリンダも知らないことだが、受精してすぐにアンネリーゼに魔力を与えられた光の精霊は、アンネリーゼを無事に成長させるために、アンネリーゼ自身と、母体であるリンダの不調を軽減していた。


 アンネリーゼは真剣に考えた。この世界の魔法は、あまり物理法則から逸脱した突拍子もないことはできない。ならば、女と女で子供を作るにはどうすればいいか、ある程度物理法則に則って考えればいいはずだ。

 魔法とは願いを叶えてくれるもの。その願いにいたる行程まで詳しくイメージすることが魔法のコツだ。だけど、よく育った精霊は、その行程をすっ飛ばしても願いを叶えてくれるようだ。

 カローナの光の精霊はあまり育っていないけど、女と女で子供を作るなんて割と突拍子もないような願いを、行程のイメージなしでかなえてくれるものなのかな。それがカローナの種族というワケか。

 カローナも私も覚えてないけど、私がパンツをはいたままではできなかったってことは、コウノトリが運んできた赤ちゃんを私の子宮内にワープさせるとかそういう魔法ではないんだろう。ならば…


「ねえ、アンネ!聞いてる?」

「赤ちゃん起きてるよ」

「えっ?ああ、ごめんなさい。ダイアナ、起きたのですね。おなかがすきました?」


 おなかの中でダイアナには言葉を教えていた。音は伝えられないから、現世の言葉を前世のカタカナ語で文字として発音を教えた。まあ、初めて本場の発音を聞くのだから、ちょっゆっくり話してあげた。


(母乳ください)


 ダイアナは電気の精霊で描いた文字で意思表示してきた。


(でも、赤ん坊は泣いて意思を示せばいいんですよ。それにカタカナ語で発音も教えたでしょう。この世界の言葉が発音できなければ、前世の言葉で伝えてくれてもいいですよ)


 私も電気の精霊の文字で返した。


(私、コミュ障なの。前世でも話すよりチャットをした方が速かった)

(マジで…)


「この子、おとなしいわね」

「おなか空いてないのかな」


 おなかの中であれだけ話してたのがウソみたい…。というか、今でもおなかの中にいる誰かとチャットしているのではないか?


「あ、あの…、わたくし…、母乳は出ないと思います…」

「おっぱい、飲ませてみましょうかね」


 カローナは父親の役割だったようなので、いくらダイアナがカローナの子だとしても、カローナは母乳を出せないようだ。

 あれだけ立派なタンクを備えているというのに…。胸なんて飾りです。


 カローナからダイアナを受けとった。

 初めて母乳を与える。こうやっておっぱいを吸っている姿を見ていると、自分の子供なのだという実感が湧いてくる。ああ、可愛いなぁ。リーナも可愛かったけど、リーナとは違った気持ちがこみ上げてくる。これが母性…。


「お母様…」

「はいはい。アンネちゃんもまだ赤ちゃんねー」


 ダイアナにおっぱいをあげたあとは、お母様からおっぱいをもらう。お母様が直接ダイアナに母乳をあげた方がいいのでは…。私というフィルターを挟む意味があるのだろうか…。

 いや、ダイアナは私の子なのだ。お母様におっぱいをあげさせたら、私はダイアナを自分の子と認識できなくなるかもしれない。




「お嬢様、お手紙です」

「はぁ…」


 私はこの家の当主で、子供も産んだのに、いつまでお嬢様なのやら?

 というのは置いといて、やっぱりダイアナを産んで二週間ほどで王家からの手紙が来てしまった。今回も二通だ。


 一通目…。マイア姫!やったぁ、当たり!

 っじゃなくて、身ごもってるとはつゆ知らず、ごめんなさいとのこと。十一ヶ月後に会えることを楽しみにしていますだって。うん、できたお姫様だと思う。

 この子とは今後も文通を続けていこっと。お茶会にお嫁さんと養女をつれていけるかな。お母様も付いてくるとか言い出しそう…。



 もう一通…。捨てちゃおうかな。

 この国の王位継承権について調べたんだよ。王位継承権の順位については、王が遺言書に記してあって、王が死んだときに初めて公開されるらしい。今までは、すでに何年も王の補佐として政務を行っている孫やひ孫が第一継承者とされていた。そう、一代や二代、すっ飛ばすことがあるのだ。


 有能で人格者である後継者を何十年もかけて王が見定める。そんなシステム、初めて聞いたよ。でもまあ、よくできてるんじゃない?王と一緒に政務を何年もやってなければ、継承の目はないのだ。ボンクラが王位に就く可能性を可能な限り排除できる。

 王位にも就かず、政務の役職にも就かない王族は、どこかの貴族と結婚しない限り、平民落ちするらしい。普通の貴族の次男三男と同じ。

 つまり、第五王子なんて何の価値もなく、誰とも結婚できなければただの平民。私の方が立場が上なワケだ。

 だから、こんな手紙見るまでもなく捨ててしまっても問題ない。…と思う。んー、万が一にも第五王子が王位に就いてしまったら、と考えると、やっぱりできない…。


 まあいいや。保留。永久に保留かもしれない。次、なんか手紙が来たら考えよう。



 ダイアナは三ヶ月になって首が据わったというのに、あんまり動かないし、しゃべりもしない。

 私はダイアナを抱っこして話しかける。


「ねえ、ダイアナ。私の言葉わかる?」

(うん。カタカナ語で発音教えてもらってるから分かるよ)

「何かしゃべってみてよ」

「…」

「声を出すだけでいいから」

「うー」

「発音を知ってても三年くらいしゃべる練習しないと、口はうまく動くようにならないよ」

(よく覚えてないけど、私は声を出してしゃべっていた記憶があまりない)

「前世で声が出ない病気だったとか?」

(たぶん違う。しゃべるのが苦手だった。今もこうやって文字を出して意思疎通してるのが、すごくしっくりくる。会社ではメールやチャットでは長文乙ってほど書き込んでたけど、対面とか電話会議とかでは何も発言できなかったと思う。ゲームでもみんなボイチャしてたのに、私だけ文字打ち込んでた)


 マジで長文乙ってほどの長い文が、一瞬で表示される。


「そう…。ねえ、生まれ変わったんだから、練習してみない?」

(ぼちぼち…)


 この子にしゃべる練習をさせるにはどうしたらいいのかな。


「あと、寝返りの練習もしないと」

(おっくう…)

「家ではゴロゴロしてたタイプ?」


 今はゴロゴロすらしない。ずっと仰向け。


(ゲームやってるかアニメ見てたと思う)

「はぁ…。えいっ!」


 私はダイアナの腕を触って…


「いあっ!」(痛いよ!何それ!静電気?)


 ダイアナの腕がピクッと動いた。


「低周波治療器の高出力というか、筋トレマシン的な」

(赤ん坊になんてこと…ひどい…)

「動かないと寝たきり赤ちゃんになっちゃうぞ」

(うう…)

「はい、まずは寝返り」

(はい…)

「返事くらい口で言ってよ」

「あい…」

「赤ん坊って好奇心で動く練習をするんだよ。あなただってやりたいことがあるでしょう」

(やりたいことあるけど、動きたくはない)

「はぁ…」



「アンネちゃん、ダイアナちゃんを苛めてない?」

「そんなことはないです」

「泣き出しそうじゃない」

「泣いてはいないです」


「ダイアナちゃん、意地悪なお母さんはいやよね~。やさしいお姉ちゃんが抱っこしてあげるわ~」


 お母様が催促してきたので、ダイアナを渡した。

 お姉ちゃん…。マジで誤解するじゃん…。

 ダイアナにとって、お母様はお婆さまだ。でもどう見たってお婆ちゃんに見えない…。仮にダイアナがお母様の第一子だとしても、お母様はヤンママだ。これがヤンババといやつ…。


 お母様はお胸様をぺろんと出して、だっこしたダイアナにくわえさせようとしている。

 私が三歳になるころは、さすがにお母様にだっこされて母乳をもらうなんてことはできなくなっている。今ではお母様に座ってもらって、私は立って母乳をもらうようになっている。もしくは、お互いベッドに寝っ転がってからもらっている。

 リーナも同じもらい方をしている。


 でもダイアナは乳児だ。だっこされて母乳をもらうのは当然。なのだけど… 


「うーん、見えないわ…」

「もうちょっと右です」

「しかも、手を伸ばさないといけないから疲れるの…」


 お母様のバレーボールは大きすぎて、赤ん坊をだっこして母乳を与えるということができなくなっていた!

 ちょっやり過ぎた…。この胸は、胸なんて飾りではないのに。乳児に母乳を与えるという本来の使い方ができなくなってしまった、お母様のお胸様…。やっぱり胸なんて飾りになってしまった…。

 今でも六人でおっぱいを吸っているので、よくマッサージしておかないといけないんだよね…。おかげで、これ以上大きくするつもりはないのに、いまだに成長を続けている。そろそろバスケットボールといえそう。


「ダイアナ、こっちにいらっしゃい」

「ダイアナちゃんにおっぱいをあげるなら、横にならないとダメねえ…」


 お母様からダイアナを受け取って、おっぱいをくわえさせた。

 この子の中の人は、かなり頭がよさそうなのだけど、ろくに喋れないし動けないし、こうしてると本物の赤ちゃんみたいで可愛い。いや、本物なんだけど。

 やっぱり六ヶ月でペラペラ喋って、危なげなく歩き始めた私は、可愛い赤ちゃんではなかったんじゃないかな。まあ過ぎたことはいいや。


 ダイアナに付いている光の精霊はリーナが産まれたときより大きい。筋力のサポートもしてくれると思うんだけど、本人が動くことを望まないとサポートもしてくれないか。




 ダイアナは十ヶ月でやっとはいはいできるようになった。何より本人のやる気がないので、練習もたまにしかやらない。


「ダイアナはもうはいはいできるのですわね!」

「遅いくらいですよ」

「あ、わたくしの一族は十六ヶ月くらいではいはい、二十四ヶ月で歩き出すのが普通だそうです」

「なるほど…」


 カローナの筋肉と敏捷性のなさを思い出して納得した。一族というか種族なのだろう。

 光の精霊を付けてからもう二年ほど経つのに、筋肉があまり増えてない。やわらかくてぷにぷにで触り心地は抜群なのに、脂肪が付くところは限定されていて、胸とお尻と、あとせいぜい太ももにしか脂肪が付かない。もちろん他の部分もガリガリというわけではなく、バランスのよい肉付きをしている。筋肉が全然ないのに理想のプロポーションを保っているなんてうらやましいかぎりだ。


「そんな、ジロジロみないでくださいまし…」

「あ、ごめんなさい。カローナがあまりにも魅力的な体型をしているので」

「もう!ご覧の通り、わたくしは頑張っても筋肉が付かないのです!」

「それなら、ダイアナには私の指導は辛かったかもしれませんね…、ごめんなさい…、ダイアナ」

(そうだそうだ!人種差別だ!)


 はいはいをしていたダイアナは、私の方を睨んで、電気の精霊の文字で意思表示してきた。


「ダイアナ、もうおしゃべりとかはいはいとか言いませんから、そのかわり炎の精霊で文字を書いてくれませんか?」

(こう?)


 ダイアナは赤いドットで文字を描いた。


「なんですの!?それ!」

「ダイアナはおなかの中にいるときから文字の練習をしていたんですよ」

「まあ!ダイアナはすごいのね!私の一族は身体能力は劣りますけど、魔法や勉学では優秀なんですよ!こんなに早く文字を書けるようになるなんて!」

(照れる…)

「ダイアナ!可愛い!」


 カローナはダイアナに寄っていき、ダイアナを抱き上げた。


(カローナお母様、優しくて好き!)

「私もダイアナのこと好きよ!」


 こうして見ていると、ダイアナはカローナによく似ている。髪の色といい、筋力といい、遺伝子の強い種族なのだろう。

■アンネリーゼ・メタゾール(九歳~十歳)

 おそらくカローナの魔法により妊娠して、ダイアナを産んだ。


■ダイアナ(胎児~十ヶ月)

 アンネリーゼの娘。もう一人の親はおそらくカローナ。

 アンネリーゼと同じように、胎児のときから意識を持っている転生者。

 アンネリーゼよりもカローナに似ている。銀髪。

 カローナ同様、筋肉や体力があまり発達しない。


■カローナ・メタゾール(九歳~十歳)


■セレスタミナ・メタゾール(九歳~十歳)


■ヒルダ・プレドール(九歳~十歳)


■シンクレア・テルカス(九歳~十歳)


■マイア・ロイドステラ(八歳)

 現在の王、マイザーの第一子の第一子(孫)の第一子(ひ孫)の第一子(玄孫(やしゃご))。


■サレックス・ロイドステラ第五王子(三十三歳)

 現在の王の息子。アンネリーゼが二歳の時にアンネリーゼに目を付けている。


◆エッテンザム公爵家

 ヒストリア王国の公爵家。大昔、女性を愛し女性だけの国を営んでいた種族。

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