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10 花と団子の開発

 セレスとカローナとキャッキャうふふしている傍らで、無人島から持ち帰ったシルクと…、蚕様を整理していた!そう、蚕様を影収納に入れて持って帰ってきたのだ。一応、土魔法で作った即席の檻に入れて、檻ごと影収納に放り込んだ。


 探検の翌日、影収納を開封したら…、影収納が繭だらけになっていた…。嬉しい悲鳴。檻の隙間から繭がいっぱい外にはみ出ている。どうせ土魔法で綺麗に巻き取れるし。繭ってさなぎになるために作るものでは…。獲物を捕獲したり攻撃したりにも使うんだな…。

 逆に、自分をくるんでさなぎになっている蚕様はいないし、蛾になっているものもいなかった。あくまで白い芋虫という魔物なのだろうか。魔物はよく分からないな…。

 ああでも糞とかも落ちてるな…。何も食べさせてないから少しだけど。影収納はいくつでも部屋を作れるから、他のものとは別にしてるよ。



 蚕様は、電気魔法のスタンガンで気絶させて、オス二匹、メス二匹を連れてきた。領内でまだ開拓していない森に一キロ四方の檻を土魔法で作って、その中で飼うことにした。繁殖してくれるかなぁ。芋虫のまま繁殖するのか。


 一方で無人島から持ち帰った分と、影収納の繭から収穫した分は、八歳サイズのドレスで十着分くらいかな。蚕様が繁殖するまで心許ない。無人島の開拓も進めたいから、あまり私が蚕様ばかりに構っているワケにもいかない。

 そこでだ!


「アンネリーゼ様!ハンターギルドにようこそ!」

「ごきげんよう。今日は依頼があって参りました」

「それはそれは、どのようなご用件で?」

「それはですね…」


 募集人員三十人。期間は三十日で報酬は金貨三十枚と、拾得物一部。

 主な作業は無人島での絹の採集と、基地までの運搬。

 蚕様を殺さないように、逃げ回ったり牽制したりしながら糸を吐かせる。

 吐かせた糸は、別途同行する縫製職人の土魔法で布状にしながら回収。

 縫製職人の護衛もすること。蚕様以外の魔物は倒してよい。

 途中で回収や捕獲物を追加する場合がある。要件の追加になるのでその場合は追加報酬を出すが、追加の要件を拒否することもできる。

 魔物からの拾得物は基本は退治したハンターのものとするが、珍しいものがあった場合、依頼主のものとする場合もあるので、拾得物は一度全て提出すること。


 こうして集まった三十人のハンターと、別途集めた縫製職人十人。ハンターの大半はメタゾールの領民だったりする。だいぶ発展してきたとはいえ、うちは最果の地なので、うちの領の宿をベースに活動しているハンターはそうそういない。


「それではお願いしますね」

「「「「あいあいさー!」」」」


 ハンターと縫製職人を無人島に連れてきてミッション開始だ。


 今回は、船をもう一隻作って、土魔法を使える大工を連れてきたよ。港や倉庫、住居を建設してもらうんだ。私がやれば一瞬だけど、領民にお金を落としたり、領民の技術を成長させないとね。


 ちなみに、セレスとカローナは連れてきていない。二人には学校で勉強してもらっている。逆に、礼儀作法や政治の授業では教師になってもらっている。ロイドステラとヒストリアの作法は微妙に違うから、ロイドステラの教師に修正してもらっている。でもそれさえクリアすれば、二人の作法はたいしたものだ。

 領民に王族の作法を教えてどうするのかとは思ったけど、将来、王族を相手に商売することになるかもしれないしね。



 皆が絹を集めたり建築をしているあいだ、私は島の探検だ。前回は蚕様しか見てなくて、他のことを忘れていた。


「お嬢様、またお一人で行かれるのですか…?」

「だって誰も付いてこられないじゃないですか」

「そうなのですが…」

「兵役中の兵士の訓練に参加してもいいのですよ」

「はい…」


 ダズンにはもっと頑張ってほしい。この調子だと、私のこういう活動に付いてこられるのは、リーナが一番乗りになりそう…。いや、その前に、胎児の魂百まで計画を施した領民の子供たちが先か。

 あれ、リーナのことは私が面倒を見られるけど、魔力の高い領民の子供たちって誰も面倒を見られないんじゃ…。まあ、悲鳴が上がってきてないってことは大丈夫なのかな…。

 あ、領の子供たちに精霊を付けたのは、胎児にときではなくて、生まれてからだった。だから手に負えなくなるほどではないのか。胎児の魂計画ではなかったねえ。乳児の魂百まで計画だった。




 さてさて、欲しいものは主に、糸や布の材料と食材だ。食材はまあ見れば分かるけど、糸になる植物ってなんだっけ…。そんなの知らない。

 そこで、生成魔法というものは無からものを生成するのではなく、近くのものから材料を集めるという性質があることを利用する。つまり、私は糸を紡ぐイメージや生地を編むイメージをしながら土の魔力を流せば、近くに糸の材料になる植物があれば、それが材料だということが分かるってことだ!

 魔力をたくさん流すと遠くから材料を集めてくれるけど、魔力消費が距離の二乗くらいなので、ずっと使っているのは厳しい。ロングレンジは、たまにアクティブセンサーとして使いながら進もう!


 そうやって魔法を使いながらジャングルを進むと、これは、麻なのかな、麻布っぽい生地ができあがってきた。材料の飛んできた方向を辿ってみると、たしかに麻になりそうな植物があった。でもなぁ、これは肌触りが悪い。これは服にしたくない。

 今度は肌触りの良い生地をイメージしながら探索していたら、たしかに少しは肌触りが良い麻の植物に辿り着いたけど、ダメだこりゃ。カーテンとかカーペットになら使えるかな…。



 綿花がないかなぁ。ないか…。

 あとはなんだっけ…。そんなに生地や縫製の知識はないよ…。

 ウール!羊いないかな!残念ながら魔法は生き物から材料を取ってきたりはしないらしい。人間から水分を奪ってきたりしたら…。

 動物にセンサーは働かないので目で探すしかない。私は飛べるのだ。スカートがめくり上がってしまうけどパンツをはいているから大丈夫。時速二十キロくらいしかでないけど、地上から探すよりだいぶ楽だ。私一人浮かせるくらいなら、一日中飛んでいても大丈夫だ。


 というわけで、毛がもこもこの魔物を見つけた。スタンガンの魔法で気絶させて、ナイフで毛を刈って、土魔法で布にしたら、なかなかの肌触り。伸縮性もありそうだ。これは採用だ!蚕様の森にお持ち帰りして育てよう。

 領民にこの羊風の魔物の毛を刈らせるなら、命がけになってしまうなぁ。スタンガンの魔道具を作るか。


 というか、輸入している生地や糸の繊維はなんなのやら。シルクでないのはもちろん、綿やウールでもない。これ麻なのか。比較的肌触りはマシなんだけどなぁ。


 結局、手に入ったのはあまり肌触りの良くない麻と、服に使えそうな羊毛っぽい動物繊維だ。綿がほしかったなぁ。まあ、絹があるから、ゆっくり探していこう。




 食材の方は、前世と形が似ているものはなんとなくわかるけど、形が違うとお手上げだ。

 液体であれば、ポーション薬学で学んだ魔法が役に立つ。混合物から必要な成分を抜き出す魔法だ。固体を溶かした水和物でも行ける。そうだ、果糖の水でいいじゃん。サトウキビみたいなものを探さなくても、ある程度甘い果物なら、何でも糖分を抽出できるじゃないか。

 というわけで、そのままでもかじれるけど、糖分抽出に適した果実や種をいくつか集めた。


 それから、油を抽出できる植物だ。これもポーション薬学の成分を抜き出す魔法で油を生成するイメージをしながら歩き回っていたら、菜の花みたいな植物を発見。菜種油が取れた!これも種をお持ち帰りだ。



 あと欲しいのは、鶏の卵と、牛のミルク。

 二メートルくらいあるニワトリ…の魔物を見つけた。コカトリスというのかな。卵もあったけど有精卵だったら困る。孵化しないように水魔法で摂氏一度まで冷却。


 それから、三メートルはある二足歩行の牛…ミノタウロスというのだろうか。スタンガンの魔法で雌を気絶させたけど、出産後じゃないから乳は出なかった。

 その後、何頭かミノタウロスを探したところ、やっと出産直後の雌を発見。無事に牛乳をゲット。摂氏百度で三秒くらいで殺菌。前世の牛と同じ菌を持っているとは限らないので適当だけどこれでいいや。


 うーん、この世界には魔物じゃない動物ってあんまりいないのかな?猛獣がいるのは知ってるんだけど、家畜にするような草食動物は聞いたことがない。

 とりあえず、牧畜できるか分からないけど、コカトリスとミノタウロスも蚕様の森に放牧しよう…。けんかするようならエリアを分けよう。




 よし、探検は終わりだ。ハンターのお仕事に、もこもこの魔物の毛刈りを追加。その場で縫製職人に布にしてもらう。卵も欲しいけど、一ヶ月もつか分からないので…。

 追加の要件を拒否する権利は伝えてあるけど、みんな快く引き受けてくれた。領民やハンターは良い人ばかりだ。



 私は船の一隻で一足先に帰った。

 蚕様の森に、もこもこの魔物、コカトリス、ミノタウロスを放した。

 空いている畑に、糖分抽出用の果実の種と菜の花っぽいのの種を植えた。季節による温度変化が小さいので、いつ植えてもそれなりに育つと思う。たぶん。


 そういえばここ数年、冬が少し暖かい気がする。私が二歳のときは十五度だったと思うけど、去年もおととしも十六度か十七度までしか下がらなかったと思う。まあ、偶然かもしれないけど。

 温暖化かと思いきや、夏が二十五度までしか上がらないのは変わっていない。夏は暑すぎず、冬は暖かくなっているのでとてもすごしやすい。


 これでお菓子の材料が揃ったかなぁ。小麦粉はもともとあるとして、糖、乳、卵、油。収穫はとうぶんあとになるとして、とりあえず島から持ち帰った分で…


「アンネちゃん、帰ったのにただいまも言わないで、厨房なんかで何をやっているのかしら?」

「えっと…」


 なんで私はお菓子を作りたいんだっけ…。

 ああ、お菓子に限らず、めしがマズくて、私の食があんまり進まないからだ。そのせいで、いつまで経っても卒乳できないからだった!私の離乳食を作るのだ!

 でも、今ではセレスとカローナもお母様の母乳を飲んでいるし、ここで私だけが飲むのをやめることなんてできない。それに一度やめて出なくなってしまったら、一生後悔するのではないだろうか。

 よし、私はめしがうまくなっても、卒乳しないぞ!


「ねえ、アンネちゃん!何黙っているのよ!」

「あっ、ごめんなさい。考え事をしていました。お菓子を作ります!」

「アンネちゃん、お菓子作れるの?」

「たぶん!」


 大丈夫。作ったものが紫色になったり、火を扱うと厨房が爆発したりする属性は持ち合わせていない。前世でも自炊していた経験はある。ただ、調味料も食材もろくにないこの世界で料理する気が起きなかっただけだ。


 まあ、料理する前に、素材の味そのものを確認しよう。前世と同じ食材は小麦粉しかないのだから。いや、小麦も同じ種類とは限らないけど。


 まずは果物から果糖を抽出する。まあ、これは果糖を指定したからには、前世と同じものだと思うけど。うん、砂糖とは違うけど甘い。


 それから卵…。七面鳥とかの比ではない。土魔法で大きなボウルを作って、卵を割ってみた!机の角でひびを入れるなんてことをしたら、机がへこんでしまいそうなので、剣で叩いた。そうしたら…、ぎゃー、少し育った有精卵だった。これは破棄。ごめんなさい。

 次の卵は…、これは育っていない有精卵か、もしくは無精卵だ。よかった。


 あとでお菓子を作りたいから、ポーション薬学の成分分離魔法で、卵白と黄身に分ける。

 でもとりあえず味見したいので、卵白と黄身を少し取り分けて、二つを混ぜる。

 ガスコンロの魔道具に火を入れて、フライパンに菜種っぽい油をしいて、混ぜた卵を薄く垂らす。

 固まりだしたら、くるくる巻いて、また薄く垂らす。これを繰り返して、玉子焼きのできあがり!油以外に味付けしてないけど!


「これがお菓子なの?初めて見るわぁ」

「これはまだお菓子ではありません。初めて扱う食材なので、素材の味を確かめるだけです。おそらく美味しくはないです」

「そうなの?それでもちょうだ~い」

「はぁ…。まずは私が毒味します」

「そんなこと言って自分ばっかりずるいわ!」

「ちょっとお母様!」


 お母様は味ナシ巻き玉子を手で掴んで、かじり始めた。ちょっと、味見させてよ!

 私はお母様が掴んでいる玉子焼きを反対側から慌ててかじりついた!


「むふふ…、アンネちゃん…」

「ふぁっ…!」


 二人で玉子焼きを両端から食べきったら、最後にキスをしてしまった!バカップルになってしまった!お母様にならファーストキスを奪われても悔しくないんだからね!

 物心つく前に母親や父親にファーストキスを奪われていることなんてよくあることだよ!私は生まれる前から物心ついていたから、お父様にキスなんてさせなかったけどね!


「ふーん、初めての味だけど、まあまあね」

「だから言ったでしょ。味付けしてないんです」

「最後のアンネちゃん唇のほうが美味しかったわ」

「そ、それは…」


 お母様の唇…。ぷるんとしていて良かった…。いや…、そっちの味見はいつでもできるから置いておいて…。


 菜種っぽい油はほとんど菜種油だと思う。玉子焼きは、前世の鶏の玉子焼きと比べるとコクがなくてバカ味だけど、まあ玉子の味だ。


 もう一度卵白と黄身を少し削り取って、今度は果糖を入れて、よく混ぜる。

 そして、油をしいて、混ぜた玉子を薄くのばして巻いてを繰り返してできあがりだ。


「できたのね。どれどれ」


 お母様はまた手で掴んで片側にかじりついて、そして反対側を私に差し出した。いや、バカップルしないと食べられないものじゃないんだけど…。

 でもまあ、差し出されたものに私はかじりついた。お母様の顔は笑顔だ。可愛い…。玉子焼きが短くなって、お母様の顔が近づいてくる。そして迷うことなくお母様とセカンドキスを交わした。


「むふっ。何これ!甘いわ!美味しい!」

「はい。甘いです」


 まあ前世で作った甘い玉子焼きとはだいぶ違うけど許容範囲だ。


「すごいわ!アンネちゃんのお菓子、美味しいわ!」

「あっ、えっと…、これはお菓子ではなくて…」


 果糖を混ぜて油で焼いただけの玉子焼きが、お菓子だと思われてしまった…。



「ただいまー」

「ただいま戻りました」


 玄関のほうで声が聞こえた。


「セレスちゃんとカローナちゃんが学校から帰ってきたわ。お菓子を分けてあげましょうよ!もっと作って!」

「あ、はい…」

「呼んでくるわね!」


 お菓子じゃないんだけど…。

 じゃあ今度は牛乳も加えてみよう。少し水分を飛ばしながら固めに焼いてっと。

 できた、牛乳入りの甘い玉子焼き、二本。さっきより少ししっとり。


「アンネがお菓子を作ったんですって?」

「アンネはお菓子を作ることもできますの?」


「えっ、だからこれはお菓子ではなく…」


 セレスとカローナは、目を輝かせている。お菓子でないと言っているのに、もはや聞こえない。


「これよ!こうやって食べるのよ!」

「いや、そういう決まりはなく…」

「ふんっ、ふんっ」


 お母様は玉子焼きを手で掴んで片側をくわえながら、私に反対側をくわえるように催促してきた。首を上下に振ると玉子焼きがしなりながらぷるんぷるんと上下する。それとともに、お母様の立派なメロンがぷるんぷるんと上下する…。お母様…、そんなふうにされたらイチコロです…。

 思わずお母様の待つ玉子焼きにかじりついた。そして、玉子焼きはだんだん短くなっていって、終わりにキス…。


「わ、わかったわ!行くわよ!カローナ!」

「はい!」


 二人は、貴族が手づかみなんてはしたない!と思ったのもつかの間、どんどん接近していく顔!最後に待っている口づけ!なんて素敵な召し上がり方なの!と、鼻息を荒くして、玉子焼きの両側にかじりついた。一口食べたところで、口の中に広がる甘さに目を見開き、あっという間に玉子焼きを短くしていき、そして顔を最接近させて唇を触れあわせる…。


「カローナ…」

「セレス…」


 二人は目がとろんとしている。


「はっ!甘いわ!美味しいわ!何これ!」

「こんな甘いお菓子は初めて食べました!」


「あ、だからこれはお菓子では…」

「アンネちゃん、さっきよりマイルドになって美味しくなったわ!」

「牛乳を入れましたからね」


 牛乳は脂肪分が少なそうだ。やっぱりコクが足りない。まあでも、牛乳の味だ。

 まだ小麦粉を入れてないけど、クレープ生地の出来損ないくらいにはなったかな。お菓子といってもいいか。

 玉子焼きじゃなくて薄焼き玉子にすればよかったかな。まあ形はあとでいいや。今日は素材の味見だったんだよ。それがどうしてこうなった。


「おかわりはないの?」

「作りますから待ってくださいね」

「はーい」


 一気に四本の玉子焼きを作った。っていうか、これを薄く切って食べるのが普通だよね。でも、一本を二人で丸かじりするのが基本になってしまった…。


「今度はアンネと食べたい…」

「は、はい…」


 セレスからの申し出…。受けずにはいられなかった。

 セレスの整った顔…。ピンクの唇…。いただきます…。


「じゃあ、私はカローナちゃんを食べるわっ」

「リンダ様…お願いします…」


 お母様、「を」って言った…。助詞が間違っています…。


「次はリンダお母様と食べたいわ…」

「ええ、そうしましょ」


「それではわたくしはアンネと…」

「はい…」


 カローナって大人っぽい…。ぷっくりとして妖艶な唇…。


 結局、パートナーを交換して全員とキスしてしまった…。みんなの唇は甘い味がした。いろいろな意味で。

 玉子焼き…いくつ食べたのやら…。うぇっぷ…。


 残りの玉子…。前世の鶏の卵換算で、百個分以上あると思う…。おなかがいっぱいだから、食べたいものが思い浮かばない…。とりあえず、水魔法で摂氏一度に冷やして、影収納に入れておこっと。影収納は熱伝導しないから、入れたときの温度を維持できる。


 晩ご飯は入らなかった。でもお母様のおっぱいは欠かさない!




「アンネちゃん、今日もお菓子?」


 お母様の嗅覚はダテじゃないなぁ。まだなんも作ってないのに。


「今日はプリンアラモードです」

「プリンあら…何?」


 プリンは卵と牛乳と砂糖を加熱魔法で固めて冷却魔法で冷やすだけだしね。

 あとは、果糖水を焦がしてカラメルに。うーん、砂糖じゃないからちょっと違う。


「なんだか香ばしいわ!」

「ふふっ、できるまでまだ時間がかかりますよ」


 それから…、ポーション薬学の成分抽出魔法で…、牛乳から生クリームを抽出できた!化合物は分解できないけど、混合物は分離できるのだ!

 生クリームに果糖を加えて、風魔法で泡立ててホイップクリームに!手でホイップはちょっと大変だ。

 冷やしておいたプリンにカラメルをかけて、ホイップクリームを乗っけてできあがり!


「どうぞ、召し上がれ!」

「スプーンで食べるの?何これ!雲みたいなのが濃厚でまろやか!黒いのが香ばしくて苦みも良いわね!そして、黄色いのがこれまた甘くてマイルドで美味しいわ!」

「白い泡がホイップクリーム、黒いのがカラメル、黄色いのがプリン、全部合わせてプリンアラモードです。スプーンで一緒にすくっていただくと良いですよ」

「ほんとうだわ!甘さや苦みの調和がなんとも言えないわ!」


 卵、牛乳、砂糖、油、あと小麦とか既存の材料でできるもの…。


 堅くてマズいパンをフレンチトーストに。

 アイスクリーム。

 カスタードクリーム。

 ホイップクリームのクレープ。

 ミルクレープ。


「ちょっと、アンネちゃん!何この冷たいの!」

「それはアイスクリームです」

「すごいわ!こんなの初めてよ!」


 そういえば、この国というかメタゾールは、夏は二十五度だけど冬でも十七度までしか下がらない、穏やかな気候なのだ。雪など見たことない。惑星の自転の傾きが浅いのかな。

 おかげで氷というものを知らないのか。もっと北に行けばあるのかもしれないけど、少なくともロイドステラ王国最南端のメタゾール領には雪などないし、このような時代では王都よりも北に行くようなこともないのだろう。



 セレスとカローナが学校から帰ってきた。


「今日もお菓子を作っているのね!」

「こんなにたくさん…」

「何これ!冷たいわ!」

「冷たくて甘い…。このような食べ物は初めてですわ…」


 セレスとカローナは、メタゾールより南の海を超えた大陸から来た。氷にはもっと縁がないだろう。


 ああ、それでか!理科の授業で、氷に関するところがみんな弱いのは。水を冷やすと凍るということがイメージできないのだ。



 屋敷の唯一の料理人は、アンネリーゼのお菓子作りを見ていた。アンネリーゼの知識は三割くらい間違っていたり抜けたりしているが、最終的な味や食感がイメージできていれば、精霊さんがそれなりになんとかしてくれるのである。そのため残念ながら、アンネリーゼの製法は料理人には再現困難だ。

 とはいえ…、


「卵も牛乳も何日ももたないので、お菓子じゃなくてもいいから何か作ってみてください!」

「は、はい…」


 メタゾール家の料理人風情では荷が重い要求であった。




 アンネリーゼは九歳になった。デビュタントパーティは数え年が十歳のときに参加する。あと数ヶ月だ。


「本日はお泊まり会にお集まりいただき~」

「もうそういうのいいわ。何回目よ」

「うふふっ!」


 プレドール邸でお泊まり会、兼、作戦会議だ。毎月お泊まり会をしていて、かしこまったヒルダの挨拶にセレスは呆れぎみだ。


「今日はですね、デビュタントパーティのためのこのドレスを試着していただきます!」

「「えええっ!?」


 私は影収納から、ドレスを着せたマネキンを出した。それを見て驚愕するヒルダとクレア。

 セレスとカローナはメタゾール領で試着済みだ。


「こちらがヒルダので、こちらがクレアのです」

「光沢があって、中が透けて見える…」

「まるで幾重にも重ねた花びらみたい…」


 このドレスは、パンツとブラジャーの宣伝のためのものだ。トップスはビスチェのように見えて、コルセットとブラジャーが独立している。

 一方で、ボトムスは、幾重にも重ねたレーススカートから、パンツや脚のシルエットがうっすら見えるようになっている。スカートは足下にかけて大きく広がる、前世でプリンセスラインと呼ばれたもの。この世界にはここまで広がったスカートは存在しないようだ。

 ほぼ全てがシルクでできており、不思議な光沢を放っている。

 所々に小さなガラス玉がちりばめられていて、キラキラと反射するようになっている。この世界の人はこれでダイヤだと思ってくれるからチョロすぎる。


 シルクはアンネリーゼが無人島で発見したものであり、まだ出回らせていない。ガラス細工は数年前から流通させているが、ドレスの装飾としてあしらったのはやはり初である。


 ヒルダのは水色、クレアのはピンク。これは私が勝手に決めた二人のイメージカラーだ。

 といっても、鮮やかな染料はこの世界にはないので、淡い色しか出せない。原色系などどうやっても出せないのだ。


 ヒルダとクレアには毎月のお泊まり会でかなり豊胸マッサージ施した。お母様は乳腺を鍛えた結果、胸まで大きくなってしまったけど、その知見から豊胸に繋がるマッサージを開発したのだ。そのおかげもあって、ヒルダもクレアもなかなかのお山が育った。

 でも、二人とも年相応の体型なんだよね。十歳の子をこんなお色気作戦に巻き込んでいいものなのだろうかと疑問に思ったので、二人のスカートはレースが多めになっていて、パンツや脚のシルエットが見えにくいようにした。

 それに対して、胸元から上は露出が多めになっている。この世界では十歳のドレスでもそれが当たり前のようなので。


「どうかしら?」

「お嬢様、まるでおとぎ話の妖精のようです!」


 ヒルダはお付きのメイドにドレスを着せてもらった。メイドは大絶賛。


「私もどうかな」

「はい!とても可愛らしいです!」


 クレアもメイドにドレスを着せてもらった。メイドは、男爵家ではあり得ないほど綺麗なドレスを着たシンクレアの姿を見て感激している。

 クレアの髪型は普段はポニーテールだけど、こういうドレスのときは髪を下ろす。腰まで伸ばしたストレートの髪は、普段よりもちょっと大人っぽく見せてくれる。



 一方で、セレスとカローナ、私もそれぞれ着替えている。うちにはレディースメイドがエミリーしかいないので、一人で三人も面倒を見ている。とはいえ、もともと一人で着られるものだし、何回か着て練習しているから、そこまで大変でもない。

 ちなみに、セレスとカローナは、救助したときかなり上等なドレスを着ていた。あれでも普段着だったんだよな。平民と一緒に学校に行ってたときは目立ったんじゃないかな。

 でも、二人は成長してしまって、そのドレスは入らなくなった。土魔法で生地を継ぎ足せばサイズを調整できるんだけど、二人はもう祖国の身分を捨てた身ってことで、私と同じ伯爵令嬢クラスの普段着ドレスを作った。

 とはいえ、今回作ったドレスはこの世界基準じゃランクを測れないだろうな。



 カローナは、もはや大人の体型をしている。カローナのドレスは黒だ。だってカローナの体つきがエロすぎるんだもの…。

 コルセットと独立していブラジャーは、こぼれ落ちそうな二つのリンゴがわざとよく揺れるようになっている。

 コルセットといっても、紐でぎゅうぎゅうに縛り付けるのは健康に悪いのでやらない。ゴム紐で身体に密着させるさせるくらいだ。それでも、カローナの腿よりも細くくびれた腰を十分に引き立たせる。

 それから、カローナのよく揺れる魅惑のお尻を際立たせる、ハーフバックのパンツ。そして、そのお尻がよく見えるように、カローナのスカートのレースは少なめだ。

 さらに、脚のシルエットをより綺麗に見せるハイヒール。カローナは運動神経がゼロなので、ハイヒールを履きつつ普段の所作を再現するのには苦労していた。


 この世界にはハイヒールがない。基本的にパーティのドレスは足下まであるので、脚の長さがあまり重要視されていないようだ。でもレースで脚のシルエットを見せるとなれば、ハイヒールを履いた方がいい。まあ、ハイヒールもセットで売り込みたいな。


 何年か前に、十歳のガキがランジェリーみたいなドレスでデビューしても笑いものになるだけだと思った。でもカローナはその考えを覆してくれた。



 セレスも良いプロポーションしてるんだよな。カローナと違ってバランスが良い。剣術をしているので、引き締まったボディなのも良い。

 セレスのドレスは白だ。やっぱお姫様は白だよねえ。


 私も頑張ったんだよ…。でもお姫様と公爵令嬢の遺伝子にはかなわなかったよ…。セレスとは出会ったときは私も良い線いってるって思ってたんだけど、二人を鍛えたらあっという間に突き放されてしまった。でもいいんだ、私もまだまだ成長するよ。

 私のドレスは黄色。エミリーは私の方が白にふさわしいと言っていたけど。いいんだよ。私は余りもんで。


 私もセレスも、予想以上にお尻が大きくなってきて、フルバックのパンツだと野暮ったいから、カローナと同じくハーフバックにした。カローナほどじゃないけど、レースのスカートからパンツが見えるようになっている。

 まあでも、前世の感覚からお尻が大きいと思っているけど、前世でも外国人ならこれくらいはありふれていたかもしれない。



「みんな着替えましたね。ふふふっ、綺麗ですよ、ヒルダ、クレア」

「「ありがとう!」」

「あの、私たち、パーティにこのドレスを着ていっていいの?」

「はい。それは差し上げます」

「「えええっ?」」

「言ったでしょう。あなた方に広告塔になっていただくと」


 でもパンツの広告塔は、うちの三姉妹だけ。だから、二人の役割はドレスの広告塔だ。最初はドレスがおまけでパンツがメインだったけど、絹を発見したから、原価率低めの強気の価格設定で行くために、大々的に宣伝するのだ!


「私、こんな素敵なドレスを着ていけるなんて思っていなかったよ…」


 そりゃ、男爵屋敷が建つくらいの価格設定にするからね。


「それでは、セレスとカローナに所作の稽古をお願いしますね」

「任せてよ!」

「いけません、セレスタミナ様、言葉遣いが乱れて乱れておりますわ」

「うふふっ」


 私は礼儀作法の先生を付けて勉強したけど、まああの先生は高名な先生とかではなかったしね。セレスとカローナを見たら私の所作なんてやり直しだと分かったよ。

 セレスって剣を振り回すおてんばなのに、立ち振る舞いはやっぱりお姫様だなぁと思う。

 カローナは普段はかなりどんくさいのに、所作だけはしっかりしている。

 私はいつまでも田舎の子爵上がりでいるわけにはいかない。せめて伯爵として恥ずかしくないように練習しなきゃ。


 アンネリーゼは筋肉を見て動きを覚える天才なので、二人の動きを見てあっという間に王族の所作をマスターしてしまった。


「ふー…、休憩させて…」

「私も限界…」


 ヒルダとクレアはひいひい言いながらなんとか所作をものにしている。この調子ならパーティに間に合うね。

■アンネリーゼ・メタゾール(八歳~九歳)


■ヒルダ・プレドール(八歳~九歳)

 アンネリーゼに豊胸マッサージされて、それなりのお山ができた。


■シンクレア・テルカス(八歳~九歳)

 アンネリーゼに豊胸マッサージされて、それなりのお山ができた。

 普段はポニーテールだけど、デビュタントドレスのときだけ髪を下ろす。


■セレスタミナ・メタゾール(八歳~九歳)


■カローナ・メタゾール(八歳~九歳)



■無人島探索のハンターと領民の縫製職人

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