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イケメン探偵〜桜のような王子様と模範解答のない謎〜  作者: 地野千塩


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番外編短編・坊ちゃんの壁ドン

 ある朝、麗美香はキッチンでせっせと朝食を作っていた。

 野菜を刻み、出汁をとり、ご飯を炊き、テキパキと動く。学校では星川アリスに勉強教えなければならんしので、朝はこんな風に忙しい。


 ちょうどそこに優が入ってきた。いつもの朝のように寝癖はつけてなく、もう学校の制服に着替えていた。身支度も整っているようである。


 あまり朝に強くない優にしては珍しい。これは良い兆候なのかも知れない。これで偏食もやめ、おバカを直せば完璧な王子様なのでは?そんな考えが麗美香の頭の中を駆け巡る。


「れ、麗美香ちゃん」


 しかし、優はなぜか思い詰めていた。表情は苦悩に満ちている。


 イケメンはこんな表情でも、「何か悩みがあるんだろう……」と察して貰えるから良いものだ。一方麗美香は、ちょっと悩んで顔を見せるだけでも「愛想の悪いブス!」と言われ、笑っても「作り笑いキモい」と罵られる。そう思いと、やっぱりこんな優にイライラとしてしまった。完全な麗美香の逆恨みではあるが。


 そんな事を考えていると、優は突然麗美香を壁の方に連れていく。


「は? 坊ちゃんどういう事?」

「いいからさ」


 そして覆いかぶさるように、片腕を壁にドンとつく。


「は? この痴漢!」


 麗美香の全身に恐怖が駆け巡り、気づくと優に護身術を仕掛けていた。麗美香は休日に動画を見ながら護身術学ぶのが趣味だった。思わぬところで役に立った。


 満足気に崩れ落ちている優を見下ろす。優は麗美香にボコボコにされて痛みでちょっと気が抜けてしまっているようである。ヘラヘラと不気味な笑いも見せている。ちっともイケメンに見えない。


「そ、そんな…! 栗子先生が昔書いていた少女小説では、壁ドンされたヒロインはとても喜んでいたのに!」

「えー! あれ壁ドンのつもりだったの?」


 驚きで麗美香の目が大きくなる。


「なんで、そんな事を?」


 麗美香は優の意図がさっぱりわからなかった。


「うちのクラスの女子達にやってもめちゃくちゃウケたから、麗美香ちゃんも楽しんでくれると思ったんだもん!」


 そう言って口を尖らす。優の壁ドンが女子達に受ける様子はありありと想像できるものだが、突然やられると恐怖心しかない。むしろ痴漢にしか思えないものだが。


 確かに壁ドンは少女小説や少女漫画ではキュンとするシーンなのだろうが、実際好きでもない男にやられても何も嬉しくは無い。むしろ怖い。


「もしかして私に楽しんで欲しかったの?」


 麗美香は優のそばにしゃがんで、慰めるように言う。外見はイケメンであるが、中身の残念さに麗美香はため息しか出ない。


「うん。麗美香ちゃんは笑うと意外と可愛いし」

「は?」


 顎が外れそうなほど驚く。可愛いと親以外に言われた事は初めてだろう。しかし、陰キャ故に素直に喜べない。何か裏があると疑ってしまった。


「そんな事言っても宿題は減らさないわよ、坊ちゃん」

「そんな〜!」


 優は悲痛な叫び声を上げる。やっぱり宿題を減らすためにこんな事をやっていたのか。ため息が出るが、これは逆にもっと宿題を増やさなければ。


「でも、坊ちゃん? そんな顔だけで世の中上手くいくほど簡単じゃないんだから、勉強しましょうね?」


 麗美香は笑顔を作りながらも、ちょっと脅すように言う。陰キャゆえに笑顔も何か裏がありそうな怪しさが漂う。


「ひー、麗美香ちゃんはやっぱり怖い!」

「さあ、坊ちゃん。今日は偏食も直して貰いますからね。野菜スープを残したら、漢字プリント20枚追記ですよ。普段は残しても良いですけど、せっかく結希さんのところで美味しいオーガニック野菜を頂いたんですから」

「そんな〜」


 優の情け無い声がキッチンに響く。


 どうやら優の壁ドン大作戦は失敗に終わったようである。宿題もたんまりと出され、その後も優の悲鳴が一ノ瀬の屋敷に轟いた。


 優と麗美香の間には、甘い雰囲気は全く無さそうであった。

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