エピローグ
「坊ちゃん! すごく良い教材を見つけましたよ!」
すっかり季節は初夏になった。麗美香も優も制服は半袖にして毎日学校に通っていた。
相変わらず麗美香はおバカな優のビシビシと厳しく勉強を教えている。
今日はなんと、ミステリーでよく使う英単語が纏まっている本を見つけ、さっそくこれを教材にして勉強していた。
「やっぱり好きなミステリーだと勉強が捗るね」
「良かったわ。作戦大成功ね」
麗美香は、思惑通りに上手くいったようで思わず微笑む。この教材を使えば優のヤル気も増すだろうと思ったが、効果が出たようで嬉しい。さっそくちょっと長めの文章も優は読めるようになっているし、英語にも興味を持ったようだ。
「ちゃんと英語の勉強すれば、英国のミステリーも原書で読めるわよ」
「たしかの洋書でホームズとかコージーミステリーとかも読みやたいな。英国ミステリのドラマも見たい!」
「でしょ。勉強だって意外と役に立つでしょ?」
「そうだな…。麗美香ちゃんの言う通りだったよ」
麗美香がガミガミと口うるさく言ったからでは無いだろうが、雪村の事件以来、優は勉強にも少しずつヤル気を見せていた。雪村の日記帳には、真面目に仕事に取り組んでいた形跡も多く、優も何か感じとったらしい。
勉強は意味が無いという人も多いが、こうして机の向かって取り組む事は忍耐力もつき、社会に出た時にプラスになり事はあってもマイナスになる事は無いだろう。特に優はその外見のおかげで世の中を舐めたような所もあったが、いつまでも美しい外見が保てる保証は無い。実に儚いものである。その点、勉強というか教養はあっけなく散ってしまう儚さはない。
ふと、優は真顔になって麗美香を見つめ始めた。優はときどき真っ直ぐに麗美香を見つめる事があった。
「ちょ、何?」
決してドキドキはしないが、不意打ちでやられると心臓に悪い。おバカではあるが、イケメンである事は変わりないし。
「僕さ、探偵になりたいんだよ」
「知ってるけど?」
この夢については幾度となく聞かされている。
「うん。探偵といえば助手がいるじゃん? ホームズにはワトソン」
「そうね」
あんまりミステリーに詳しくない麗美香もこのコンビぐらいは知っている。
「だから、麗美香ちゃんには俺の助手になってほしいんだよ」
「え?」
それは思ってもない提案だった。
「どうよ? 優秀な麗美香ちゃんが居ればすぐに事件が解決できそう!」
キラキラとした目で夢を語る優を見ていると、麗美香の中の冷静さとか打算的なものは砕け散ってしまった。いつもだったら、「お金にもならなそうな探偵なんて!」と言って突っぱねそうだが、今日は笑って頷いてしまった。今日のコロナ対策の麗美香はマスクをしていない。船木の演説を聴いて無意識に影響されていたのかも知れない。
「そういうのも良いね!」
学校では陰キャとは思えないぐらい花の咲いたような笑顔を見せていた。
ご覧頂きありがとうございます!
これにて本編完結です。次は番外編短編の予定です。
桜の木をテーマのミステリーを書かせていただきした。ふだんは人が死にまくるコージーミステリを作っていますが、今回は死体シーンもなく、日常の謎解きミステリーっぽく纏めてみました。
よく誤解されていますが、コージーと日常の謎解きは全く別物です。実際に二つとも書いてみてよくわかりました。殺人事件が起きて、主人公がかなりピンチな目に遭いやすく、主人公の年齢はアラサー以上〜おばあちゃんなのが個人的にはコージーの定義だと感じます。本作は舞台となる町の設定は細かく決めていませんが、コージーの場合は舞台設定を細かく設定しないと書きにくいですね。
あと、コージーは癖強めキャラを入れてもいい感じですが、日常謎解きの本作は全体的に優等生キャラで少女漫画っぽく綺麗な感じを意識して書きました(麗美香は気が強すぎますが、筆者比ではだいぶマトモです)。
短編形式でサクッと後味良い話を目指し、コージーのようにグダグダしないようスピード感も考えました。コージーはむしろ日常描写たっぷり入れてグダグダさせてもいいんですが、本作はサクサク展開させる事を優先しました。




