散りゆく運命編-10
その数日後。
麗美香達は、一ノ瀬の屋敷の庭でお茶を飲んでいた。
テーブルを出し、その上には麗美香が焼いたクッキーや豊が淹れた紅茶もある。
よく晴れた日の下でお茶を飲むのは、開放感もあって気持ちがいいと麗美香は思う。
もう屋敷の周りの桜の花はほとんど散り、緑の葉も出ている。まだほんの少し花は残っているが、あと三日もたてば完全に散ってしまうだろう。儚ない桜の時期ではあったが、綺麗な深緑も良い物だ。季節はすぐに移り変わるが、悪い事ばかりでも無いかも知れないと麗美香は思う。
「あー、麗美香ちゃんのクッキーは美味しいな」
「それはいいけど、夕飯は具沢山の野菜スープよ。あんまり食べ過ぎないようにしてね」
「うーん!」
わかってるのかわかっていないのか、優はちょっと笑ってクッキーを摘む。
あれからテレビやネットも雪村の死の事ばかり報道されていた。陽介のような他殺説を唱えるものは後をたたないが、やっぱり真相が明るみに出る気配はない。雪村の自殺以前に亡くなった芸能人の再調査も打ち切りとなり、全て自殺と処理されている。ゲスい芸能記事も多く、あの日記が優の手元にある事はよかったかも知れない。
わだかまりは残るが、一般人はこれ以上首を突っ込めないようだ。ただ、陽介は命の危機を感じながらも調査は続けると言い、優はそこに希望を持っても良いかも知れないと語ってはいた。あの日記帳で優の気はすんだようで、雪村について探偵の真似事をすると言い出す事もなくなってしまった。
「坊ちゃん。なんと栗子先生から絵ハガキが届いていますよ」
豊は玄関の方からやってきて、優にそれを手渡す。
「マジで! ファンレターの返事だ!」
優は栗子からの返事にとても喜び、花の咲くような笑顔を見せていた。
「なんかメッセージは書いてある?」
「ちょと見せてくださいよ、坊ちゃん」
「いいよ」
麗美香と豊は、絵ハガキを見せて貰う。印刷だったが、可愛らしい猫の写真があった。栗子の飼い猫だった。その下には綺麗な文字で栗子からの手書きのメッセージがある。
優くんへ
ちょっと前は会えて嬉しかったわ。
雪村くんの事は残念だったわね。でも、あなたがそこまで行動してくれたことは彼も嬉しかったと個人的には思います。
あと、すぐに日記帳まで辿りつくなんてすごいわ。探偵の才能があるかも知れないわ。
頑張って! 亜傘栗子
素敵な絵ハガキで、優も大事そうに眺めている。
「俺は、探偵の才能あるかな?」
ちょっとぶりっ子っぽく首を傾ける。
「さあ。でもミステリー作家の太鼓判付きはすごいんんじゃない?」
「そうですね。カンは良いかも知れませんよ」
麗美香と豊に褒められて、豊はすっかり鼻高々である。
「でも探偵になるんだったら、バカは治さないとね」
「おぉ、麗美香ちゃん。相変わらずハッキリ言うな〜」
優はわざとらしく震え上がると、この場は笑いに包まれる。
まだ残っていた桜の花びらが強い風に舞い、麗美香の紅茶のカップの中に落ちた。
花はほとんど散ってしまったが、新しい季節の始まりに麗美香の心はドキドキと高鳴った。




