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イケメン探偵〜桜のような王子様と模範解答のない謎〜  作者: 地野千塩


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散りゆく運命編-8

 結希のいる農家は、火因町の隣にある阿部瑠町にあった。

 麗美香達は、ぞろぞろと列車に乗り瑠璃花に案内して貰う事になった。


 阿部瑠駅からしばらく歩くと、いかにも田舎と言った風な野菜畑やな梨畑が広がっているのが見える。空は抜けるように高く、もう初夏と言ってもいいような気温で麗美香達は額に汗をかきながら田舎の畦道をせっせと歩く。


「ごめんね。この田舎の道は歩きにくいでしょ」


 瑠璃花は謝っていたが、優や豊は笑って気にしないと言う。こんな時、咄嗟に麗美香は感じの良い対応ができなかった。思えば今まで隠キャを言い訳にして殻に閉じこもっていたのかも知れない。そう思うと、麗美香は優や豊と一緒にいると学ぶ事は多いと感じる。


 この探偵の真似事のような調査で答えが出るとは思えなかったが、その過程は全く無駄ではないような気もする。それに田舎の歩きにくい道を歩くだけでちょっとした運動になる。さっきケーキを食べたが、その半分ぐらいのカロリーは消費出来ているようにも感じて、不思議と気分は清々しい。


 しばらく歩き続け、一軒の農家にたどり着いた。大きな屋敷のような日本家屋の周りには野菜畑が広がっている。


 すでに門の前には、ひとりの女性がいた。


「瑠璃花!」

「結希ちゃん!」


 二人は笑いながら落ち合っていた。結希と呼ばれた女性は、モンペのようなズボンをはき、芋臭い雰囲気であった。本当に元アイドルかと疑問に思うほどだった。体格も立派で、太っているわけではないが筋肉質のようで頼もしい雰囲気もある。日に焼けた肌も、生命力溢れる美しさが垣間見れた。


「こちらがさっき話した優さん達。雪村くんの事が気になっているんだよね?」


 瑠璃花がそう言って結希を紹介してくれた。麗美香達もそれぞれ軽く自己紹介をする。


「そう。雪村君の事調べているのね…」


 結希はちょと泣きそうに顔を歪める。やはり、彼の死に大きなショックを受けているのは明らかで、優も何かを感じたのか悲しそうな表情を見せる。言葉を交わさなくても、お互い雪村の死に思うことがある伝わってくる。


「まあ、立ち話もなんですし、庭の方のテーブルの座りません?」


 結希がそう提案し、麗美香達はぞろぞろと庭の向かった。

 庭は田舎らしい広さがあり、春の花やハーブがたくさんうわっていた。よく手入れをされていて見るだけでも綺麗で心が癒される。


 瑠璃花は急に仕事が入ったと出て行ってしまった。なんでも彼女は身寄りのない年寄りの面倒をみる仕事をしているようだった。


「これ、うちで取れた野菜で作ったジュースなの。口に合えばいいんだけど」


 瑠璃花が去ると入れ替わりのようの、結希がやってきて庭のテーブルの野菜ジュースをおく。鮮やかな緑色が綺麗なジュースで、思わず麗美香の食欲がそそられる。


「本当、美味しそうだ」


 普段偏食なくせして、優はジュースをごくごく飲んでいた。


「美味しい!」

「本当、美味しいね」


 麗美香もジュースを飲んでで優に同意する。豊も満足げに頷いていて、爽やかで甘いジュースだった。驚いた事に砂糖は入っていないらしい。


「うちの野菜は全部オーガニックの無農薬なのよ。だからちょっと味もいいわよ」


 少しドヤ顔で野菜について語る結希はキラキラしてみえた。麗美香はこんな大人っていいなと思うほどだった。思えば街中にいる大人で結希のような楽しそうな人はあんまり見た事なかった。


「それで、雪村君の事を聞きたいんだよね?」


 結希は咳払いをして本題に入った。


「うん。実は僕はユッキーのファンでさ。どうしても自殺とは思えないんだよね」


 優は雪村の演技や仕事への態度にどれほど救われ、勇気をもらっていた事を話す。その目は真剣で、思わず麗美香も話に引き込まれる。結希もちょっと目に涙を浮かべながら聞いていた。


「そう、そんな雪村君は愛されていたのね」


 しみじと頷いている結希をみて、この人は何か知っていそうだと麗美香は感じた。証拠はなく、単なるカンではあるが。


「悪魔崇拝の生贄儀式で殺されるって事はあるんですかね?」


 豊はちょっと笑って話す。確かに言葉だけはちょっとファンシーである。てっきり結希も笑うのかと思ったら、口をつぐんでしまった。


「この事は言えないわ。もちろん雪村君の事じゃないけど」

「え…」


 麗美香達は面食らって言葉も出ない。暗にそんな事がある事を肯定しているように思えた。


「雪村のことは知らない。でも、私も墓場まで持っていく秘密はある。今でも悪夢を見るわぁ。本当の芸能界から足を洗えてホッとしている……」

「そうですか。私もメイクアップアーティストで芸能界にいたんですが、もう懲り懲りですね」


 結希の何があったのかは詳しくは聞けない雰囲気が漂う。ただ、こうして豊の言葉の共感しれいる様子を見ると、これ以上深く聞いてはいけないようだ。おバカな優もしれを察したようで、ちょっと黙ってしまった。


「この坊ちゃんも芸能人の息子なのですよ。立花綾香と一ノ瀬浩の」

「ええ? あの。まあ」


 豊からその話を聞くと、結希は嬉しそうにしていた。なんでも二人のファンで、特に一ノ瀬浩に方には頻繁にライブにも行くそうだ。


 すっかり結希は警戒心を解いていた。


「だったら、 幸村君から貰った日記を、預かってもらおうかな」

「日記?」


 さっきまで黙っていた優が口を開く。


「ええ。つい1ヶ月前に突然送られて来たの。意味わかんないけど、何か危機があったのかも知れないわね。一応元アイドルの私の所にもさっそく記者がう彷徨いているし、あなたに預かってもらった方が安全かもしれない」


 結希は早口でそう言うと、一旦家の方に行き何かとって戻ってきた。その手には、分厚い日記帳があった。よく使い込まれて、表紙には雪村の名前も刻まれている。特注で名前を入れてもらったのだろうか。大事な日記帳である事は麗美香の目にも伝わってくる。


「これ、何か書いてあった?」


 優が日記帳を少し怖がりながら聞くが、結希は首を振るばかりだった。


「うーん。実は私も怖くて読んで無いのよ。読んだら、別れた時彼を傷つけたかも知れないとか、色々考えてしまってね。私はこの事は知らない方がいいのかも」


 結希はそう言って無理矢理優に日記帳を手渡す。ちょっと乱暴なぐらいで麗美香は思わず目を見張る。


「謎は謎のままの方が良い事もあるわね。少なくとも私が雪村君の死の真相を知りたいとは思えない。自殺とは思えないけれど、自殺でいいと思ってる」


 そうハッキリと言われてしまうと麗美香達は言葉も無い。果たしてこの謎を探し続けても良いものか。麗美香も自信を失ってしまった。


 日記帳を手渡された優は戸惑うばかりであったが、しっかり胸に抱え直した。


「わかった。でも僕は答えを知りたいよ」

「優くん、答えなんてそう簡単にでないのよ」


 結希はちょっと鳥肌がたつぐらい優しく言った。これ以上、結希に話を聞ける雰囲気ではなくなり、結局帰る事になった。


 帰り際、結希が育てたというオーガニック栽培の野菜を袋いっぱい貰う。


 帰り道、この大量の野菜をどうしようかなみんなで話す。


「うちで食べても良いけど、話聞いてくれた陽介さんにちょっとお裾分けしても良くない?」


 優のその提案は悪くないという事で、再び麗美香達は火因町の駅前に戻る。陽介のSNSを見ると、ちょうど再び演説をやっている予定だった。


 しかし、火因町の駅に着くと、予想外の光景が広がっていた。救急車やパトカーがロータリーのつめよせ、人だかりと喧騒。


「栗子先生!」


 人混みの中にいる栗子に気づき、優が叫ぶように話しかける。


「栗子先生、どうしたの? 何、これ」

「大変よ、優くん達。陽介さんが何者かに襲われてしまったみたい!」

「え!」


 麗美香達は思わず大きな声をあげてしまった。

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