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イケメン探偵〜桜のような王子様と模範解答のない謎〜  作者: 地野千塩


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散りゆく運命編-4

 船木は、火因町という小さな町の駅前で毎日のように演説しているらしかった。演説といっても彼の独特な陰謀論で、世を騒がせる疫病やワクチンについてなどを吠えているようだった。


 一ノ瀬の屋敷から火因町までは意外と近く、電車で40分ほどの場所にあった。


 こじんまりとした町のようで、駅前には昔ながらの商店街が他と並び、住人も高齢化しているのか老人が多い。


 さっそく麗美香達が、駅にたどり着くと船木の姿が見えた。


 駅前のロータリーの中心部でマイクを持って何か叫んでいる。意外と背の高い男なので、人だかりの中でもかなり目立っていた。顔も意外と悪くは無いが、優と比べるとやっぱりおじさんだと麗美香は思う。30歳ぐらいの男だった。


「今日は、芸能人の悪魔崇拝の陰謀論を語ろうじゃ無いか」


 タイミングが良い事に船木はこんな事を話し始めた。

 人だかりに紛れていた麗美香達だったが、前の方に進む。特に優は身を乗り出して真剣に聞いていた。豊もそうだった。


 麗美香はこう言ったファンシーな陰謀論にはあまり興味は無いが、今回の件は気になる。人だかりの声はうるさいが、船木の話に耳を傾ける事にした。


 船木によると芸能人や支配者層といえる人々は、悪魔に魂を売った連中が成功しているのだという。悪魔というと、ファンタジックな存在ではあるが、「聖書にハッキリと書かれている!」と船木が吠える。船木の声は大きく、話し方も劇的な感じで、ファンシーな話も思わず麗美香達も引き込まれていた。船木は意外な事にクリスチャンのよう今朝の日曜礼拝から帰ってきて演説していると言っていた。


 ここで船木は聖書を基準に悪魔崇拝の歴史を語る。学校で習う西洋史なんかよりも麗美香は面白く感じた。ところどころファンシーな話題もあるものの、なぜ戦争があるのか、なぜお金というシステムがあるのか、なぜ支配者とそうで無い一般庶民がいるのかわか解る。特に金融システムについては、麗美香も勉強したことがある内容で思わず納得してしまう。船木が言う、支配者層達は悪魔を拝んでいるという説明もあながち嘘では無い気がした。


 西洋の歴史の話でおバカな優はついていけてない感じではあったが、船木の口ぶりにすっかり引き込まれていて、言葉も無いようだった。船木は人を惹きつけるオーラのようなものが強くありそうだった。


「船木さん、支配者層達が悪魔を拝んでいるのは何となくわかった! でも、それと芸能人の死がどう関係あるの?」


 優はちょっと大きな声で船木に質問していた。この人だかりの中で質問しているものはいないので、人々はちょっとどよめいている。


「ああ、少年よ。質問ありがとう。では、その悪魔を呼び寄せて力を貰うためには具体的に何をすれば良いか? ちょっと考えてみよう」


 船木はすぐには答えず、逆に質問を投げかけていた。確かに「悪魔に魂を売る」事は、具体的にどうすれば良いのか。麗美香は考えてみたが想像つかない。優も考え込んでしまっていた。


「もしかして『生贄』ですか? 人を殺すとか…」


 豊はちょっと恥ずかしそうに大きな声で言う。


「そう。このダンディなおじ様が言う通りだよ。酷い儀式をすればするほど悪魔が力を与えるっていうカラクリさ。初詣で行って、神社で絵馬買って賽銭投げるのも極僅か悪魔に魂を売る行為ではあるが、それなりの結果しか返ってこないぞ。まあ、偶像崇拝の近くには惑わしの悪霊が動いているから、一旦悪魔を信じさせる為に人の願いが叶ったように見える事もあるが」


 船木にちょっと褒められて豊は、照れ笑いしていたが、麗美香は笑えない。


「そう、悪魔崇拝儀式は、酷ければ酷いほど良いわけだ。行き先は神様に裁かれて地獄行きなのによ」


 船木はその後も悪魔崇拝儀式とは何か聖書を交えながら説明し始める。驚いた事に神殿で乱行(同性愛も)したり、子供を焼き殺したり、生贄の死体を食べていたりしていたらしい。カニバリズムである。想像しただけでも気持ち悪いが、聖書ではそんな行為はキッパリと神様が否定されているそうなので麗美香はホッとする。


 有名な某海賊漫画にも生贄のシーンがあるらしいが、あれも悪魔崇拝の一種だという。古くから海賊と悪魔崇拝は密接に関係しているようで、そんな昔からやっていたら相当根が深い。漫画などのエンタメでは綺麗に演出されているようだが、実際はそうでも無いようだ。子供や処女を生贄に捧げる事は間違いなく犯罪だ。エンタメで描かれているようなロマンチックでファンタジックな一面は、幻想と言って良いだろう。


「だから、芸能人達が悪魔崇拝やっていても何の不思議もないな。あの雪村って俳優も騙されて犠牲になった可能性も大いにある。彼の事務所が大きくなったり、追悼コメントあげている俳優連中が突然売れ始めたりしたら、要注意だな」


 船木がそう言うと、優は黙り込む。信じられない話であるが、雪村の自殺が信じられない優にとっては、むしろ受け入れやすい話なのかもしれない。


 その後、船木はワクチンやコロナの陰謀論を語り演説が終わった。麗美香は、船木については信頼は出来ないが、言っている事は一応筋は通っているように感じた。


 こうして演説も終わり、人だかりも散っていく。


 優は演説の終わった船木につかさず話しかけに行った。船木の方も優を覚えているらしかった。


「おぉ、少年。何か質問かい?」


 麗美香や豊も質問する優の背中を見守る。ここは二人とも口を出さない方が良いように感じていた。


「船木さん、もう一つ質問良いですか?」

「少年は妙にヤル気があるな。陰謀論に興味があるなら、私のオンラインサロンも招待するぞ」

「いえ、僕はそれには興味は無いんですが、どうしても雪村さんが自殺と思えないんです!」


 優の眼差しは真剣で、船木も圧倒されているようだった。


「そうか。雪村の死に興味があるのか」

「ええ。船木さんは何か知りませんか? そもそも警察は何で動かないんでしょうか?」


 優の質問はもっともであった。確かにこの問題で警察はすぐに自殺と判断していた。


「日本の警察なんてあんまり信用するなよ。雪村の事務所には、元警視庁の関係者が居るんだよなぁ。いくらでも握りつぶせる。自殺と判断されている日本人の死体も実際は他殺や不審死という事も多いんだよ。まあ、芸能人の生贄儀式の証拠などは、出にくいだろう」

「何でですか?」


 優はちょっと悲しそうな顔を見せる。


「生贄儀式参加者は全員グルだからさ。誰か裏切って本当の事を告発なんて出来るわけがない。今度は自分は殺されるかもしれないからな。噂では雪村は、事務所が組織がらみで生贄儀式に使う幼児誘拐を告発しようとしていたらしいな。口封じで殺された可能性もある」


 優は言葉を失って下を向いていた。麗美香もそうだ。船木の話が本当だとすると、想像以上に闇である。豊は意外と涼しい顔をしていた。


「まあ、芸能人は夢なんて売ってないですね、船木さん」


 豊はそんな事まで言っていた。


「そうだ。売ってるのは魂だよ。本当にファンにに夢を売るとしたら、細々とやるしか無いわな。まあ、そっちの方が長く活動できてファンには良いかも知れん」


 船木の言葉は意外と優しく、まるで優を慰めているようだった。


「この件はほじくらない方が良いかもねぇ。下手したら殺されるぞ」

「そんな」


 船木は優しい口調であったが、忠告までしている。優は狼狽えてさらに言葉を失った。確かにこの問題は探偵気取りの男子高校生が手を出していい問題では無いかもしれない。


「かくいう俺も毎日殺害予告が届いているのさ」

「船木さん、その割にはぜいぶんと余裕ですね」


 麗美香は呆れながら突っ込む。


「俺は良いのさ。どうせ殺される覚悟でやってるし。ハニトラ仕掛けられるのは鬱陶しいが。少年、死にたくなければ、この問題は手をひくんだな」

「そんな…」


 優はさらに船木に釘を刺されて、涙目である。


「ちょっと船木さん! 何、子供をいじめてるのよ!」


 そこにおっとりと優しそうなルックスの60歳ぐらいの女性が現れた。

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