散りゆく運命編-3
優は、珍しく朝食を完食した。麗美香は軽いお盆を受け取り、キッチンの流しに持っていく。
いつもは作った食事を残されれるわけだが、やっぱりこうして完食されると嬉しく無い事はない。優が完食しようがしまいが、時給は変わらないわけだが、やっぱり作った料理を食べて貰えるには悪い事ではない。
朝食を食べて満足したのか、優はリビングのソファに座り、リラックスしながら紅茶を啜っていた。
「坊ちゃん、お湯はありますか?」
麗美香は、ちょうど湯がなくなっていた紅茶のポットにお湯を注ぐ。
リビングには紅茶の良い匂いが広がる。豊も優が朝食を食べてホッとしたのか、リビングで一緒に紅茶を啜っていた。
「もう、坊ちゃん。雪村さんの事は忘れましょう」
豊は大人らしく優に嗜める。言葉だけ見るとちょっとキツいが、その口調は穏やかで慈愛に満ちている。優は一瞬泣きそうな目を見せたが、紅茶を一口飲んで、何かモゴモゴと話し始めた。
「は? 坊ちゃん、何言ってるの? モゴモゴ言わないでハッキリと話したら?」
こんな態度の優にイライラとし、麗美香はハッキリと言う。豊と違って言葉も態度もキツイわけだが、意外と優は気にしていないようだった。
「いや、そのさ。やっぱりユッキーは自殺じゃないと思うんだよ」
優は雪村のことをユッキーと呼んでいるようだ。確かに幸村はファンの間でそう呼ばれていた。この事からもよっぽど雪村が好きである事がわかる。
麗美香も紅茶を自分のカップに注ぎ、ちびちびと飲む。ふんわりとした良い香りが鼻をくすぐり、こんな「自殺した俳優」の話題でありながら、麗美香の緊張感が解ける。
「ほぉ、坊ちゃん。なぜそう思うんですか?」
豊が笑って聞く。この場の空気は全く緊張感がなく、とてもこんな話題をしているムードは無くなってしまった。実際他人事ではあるのだが。
「だってユッキーは新しい舞台や声優の仕事、映画だって決まってたんだよ。そんな途中で投げ出すような男には見えない」
どうも優は雪村を男として尊敬もしているようだった。
「骨折した時も舞台立ってた男だ。自殺するなんて思えない。それに最近芸能人の自殺も多いじゃん? 何か意味がある気がするんだよな。陰謀論者の船木陽介さんだって他殺って言ってたし」
「悪魔の生贄儀式で殺されたっていう情報は私も見たわよ。でも、そんな事やってたら証拠も出てくるし、犯人も捕まるんじゃないの?」
麗美香は陰謀論という言葉が出てきてため息が出てきてしまう。
「でも、麗美香さん。そうとも言い切れませんよ。芸能界は闇ですよ。お互い足を引っ張ったり、もう私はあそこには居たくないですね」
珍しく豊は表情を曇らせている。そう言われてしまうと、麗美香もあながち嘘でも無いような気がしてくる。実際、豊はプロのメイクアップアーティストだったので芸能界にも関わりがある。
「そうだよ。ちょっと前に自殺した芸能人については、また警察が再調査してんじゃん? ユッキーもとても自殺に思えないよ」
優はそう言って胸を張る。
「僕も船木陽介さんが言う通り、悪魔崇拝の儀式でユッキーが殺されたようなきがするよ」
「でも悪魔崇拝っていうのは…」
やっぱりそう言われてしまうとファンシーだ。ファンタジー小説に出て来てもおかしくは無い。
「だったら船木さんに話聞いてみようかな?」
優が何か思いついたように立ち上がった。
「そうだ、船木さんっていつも演説やってる見たいだし、詳しく話を聞けば何かわかるかもしれない!」
優はさっそく船木に会うために、支度を始めようとする。
しかし、こんな優を一人で行かせるのはとても危険である。豊も同意見だった。
「だったら豊さんも麗美香ちゃんも一緒に来れば良いじゃん」
結局この三人で船木に会うことが決まってしまった。
「まあ、乗り掛かった船ね。仕方がない。協力するわよ」
「私もです。坊ちゃん、よろしくお願いしますよ」
「やったー!」
麗美香と豊が合意すると、優は久々に花が咲いたような笑顔を見せた。




