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イケメン探偵〜桜のような王子様と模範解答のない謎〜  作者: 地野千塩


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散りゆく運命編-1

 日菜子の事もひと段落し、平和な日常が戻ったところだった。案の定、日菜子はSNSで問題発言を繰り返し、その界隈でプチ炎上していた。


 それでも太々しく学校に来ていたが、聡美や麗美香に嫌がらせをするような素振りは見せなかった。


 星川アリスの英語力も徐々に上がっていたし、聡美も無事に推しに声優のイベントに出かけていた。


 優は相変わらずおバカではあったが、ようやくbe動詞や三単現のs、完了形や受動態、なんと関係代名詞までわかってきた。あと前置詞は苦手なようだが、ちょっと前と比べると大きな進歩である。


 気の強い麗美香が怖くて勉強に勤しんでいる事は否めないが、とりあえず中学英語は網羅できそうだった。


 麗美香がだした小テストも80点だった。英単語のスペルも完璧に書けてきた。


「ねー、麗美香ちゃん。せっかく小テストでいい点とったんだから、なんかご褒美して?」


 小テストの採点を終えると、優は上目遣いで麗美香に甘えてきた。いつもだったらこんな優にイラッとするし、テストのいい点のご褒美で何かあげるのは反対な立場だ。学ぶ事は、苦行でがない。ご褒美目当てに勉強をしても、苦行である事をどんどん認識してしまい、逆効果である。だから、優にも星川アリスにもテストのいい点のご褒美で、ご褒美をあげるのを避けてはいたが。


「ご褒美? 何が良いの?」

「嘘! 本当にご褒美くれるの?」

「まあ、テストというよりは聡美の事のお礼だよ。ただし、お金がかかる事とかはダメよ。せいぜい五千円ぐらいまでよ」

「そっか〜。じゃあ、パンケーキ食べたい!」

「パンケーキ?」


 高額なものを要求されたらどうしようかと思ったが、ささやかなもので麗美香は拍子抜けした。


「うん。親と昔、ハワイ行った時に食べたパンケーキが美味しくてね」


 優はうっとりと目を細める。こんな表情は珍しい。いつもは偏食気味で食の好き嫌いも多いが、甘党ではあるようだ。


「トロトロでふわふわでさ。でも日本で売ってるパンケーキミックスでは何か違うんだよね」

「うーん、あれはあれでおいしいと思うど?」


 パンケーキといえばミックス粉と卵、牛乳があればできる節約メニューでもある。意外と甘さは控えめで食事としても食べられる。麗美香は母と暮らしていた時、食費がきつい時はよくパンケーキを作っていた事を思い出す。


「ハワイのミックス粉でパンケーキ食べたい。これがご褒美!」

「ハワイのねぇ。輸入食品店であるかなぁ。ちょっと探してみるわ」

「やった!」


 こうしてご褒美は、パンケーキに決まった。麗美香はしばらくハワイのパンケーキミックス粉を探し、輸入食品店で見つけ、土曜日の午後にパンケーキパーティーを開く事になった。


 豊の提案で、リビングも花を生けて少し華やかに飾り付け、テーブルに大きなホットプレートもおく。滅多に使わないものだそうだが、問題なく電源も入る。


「おぉ、ホットプレートって何かワクワクするなぁ」


 優はこの様子を見てキャッキャと騒ぎ始めた。いつもは豊もこの落ち着きのなさの注意するものだが、今日は大目に見ているようである。まあ、確かにちょっとだけお祭りのような雰囲気も感じられ、麗美香の気分も軽くなっていた。


「じゃあ、さっそく焼きましょうか?」

「そうですね。私の手伝いましょう」


 麗美香はパンケーキミックス粉でタネを作り、焼き始めた。表面がプツプツし始めると、豊がさっとひっくり返す。麗美香は正直なところ、日本のパンケーキミックスとハワイのパンケーキミックスの差はよくわからないが、香りもよく、表面のキツネ色がとても美味しそうだった。それに隣にいる優が嬉しそうに笑っていると作りがいもあった。優だけが一人で先に食べているが、今日は良いだろう。


 普段は、陰キャ故に人と一緒に食事をするのは苦手であるが、いつの間にか慣れてしまったらしい。


 パンケーキも山のようの焼き上がり、麗美香や豊も食べ始める。


「ちょ、麗美香ちゃんって食べるの早くない? ちゃんと噛んでる?」


 優はパンケーキを食べながら、麗美香の悪癖を指摘してきた。陰キャ故に人と食事するのが苦手になり、早く食べる悪癖がついてしまっていたのだ。


「噛まないのはよく無いですよ。健康的にも」

「そ、そうですね…。ちゃんと噛みます……」


 豊にも指摘されると恥ずかしくて居た堪れない。


「まあ、頭良い麗美香ちゃんでも欠点あるのか〜」


 優はニヤニヤと笑っている。普段、勉強中に厳しい麗美香の欠点を見つけて嬉しいようである。意外とゲズであるが、あまり悪意は無いのだろう。そに証拠に「ゆっくりお食べ」などと優しく言っていたりもする。麗美香はその言葉に頷き、出来るだけゆっくりと噛み締める。


 まあ、ゆっくり食べても誰も何も言わない。麗美香もすっかりリラックスしながら、おいしいパンケーキを味わった。


「あ、そういえば『名探偵クリスティ!』のアニメ映画の再放送やってるんだった。テレビつけていい?」


 豊も麗美香も頷く。優は「名探偵クリスティ!」の大ファンだった。


 優がテレビをつけると、「名探偵クリスティ!」のアニメのシーンが流れる。ちょうど主人公が死体を見つけたシーンで血だらけの死体が出てきた。


「ちょっと食事中よ。さすがに死体シーンは見たくないんだけど」

「おぉ、こわ! 麗美香ちゃんは意外と気が強いよな〜」

「まあ、坊ちゃん。死体よりも動物か何かの番組はないですかね?」

「今の時間他に良い番組はやってないよ」


 意外と優は頑固な面を見せてテレビのチャンネルを変えなかった。ここでくだらないチャンネル争いをしても仕方ないと麗美香も思い、しばらく「名探偵クリスティ!」をみんなで視聴。


 確かにミステリといえども痛快な話で、死体シーンをのぞけばなかなか面白い。意外と引き込まれ、麗美香も豊も真剣に視聴していた。


 ちょうど主人公が大きな手がかりを見つけたシーンの時だった。


 速報がテロップで流れた。


「は?」


 この場にいた全員が変な声をあげていた。


 俳優の雪村成都さん、死亡。都内の自宅で自殺しているのが発見された。


「嘘だ!」


 今までの平和なパンケーキパーティーがぶち壊された。優は悲しそうに叫んでいた。

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