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イケメン探偵〜桜のような王子様と模範解答のない謎〜  作者: 地野千塩


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陰キャの矜持編-5

 旧校舎は、今はほとんど使われていない。一部の部活は利用しているようだが、多くは空き教室となっていた。


 木造建てで、雨が降るとよく雨漏りがするらしい。廊下には、バケツがいくつか無造作に置いてあった。冷房も無いのせいか、掃除が行き届いていないのか、ちょっと埃っぽい。


 麗美香は、優と日菜子がいる部屋に直行した。あまり足が早く無い聡美はまだ到着していない。もしかしたらまた教師に出くわして、雑用を押し付けられているのかもしれない。


「なんで、立花君が?」


 日菜子は心底不思議そうにぶつぶつ呟いている。確かに何も知らない日菜子は、この状況は不可解だろう。


 優はちょっと呆れたように日菜子を見下ろしていた。優の前の卓の上には、「隠キャ」「ゴミクズ」「毒キノコ」などと書かれた紙もある。現行犯で捕まえたらしい。やっぱり日菜子が犯人だったようである。


 こうして証拠もあり、言い逃れはできないらしい。日菜子は、観念して犯人である事を話す。


「っていうか何で立花くんが?」


 日菜子はちょっと目をキラリとさせて優を見ている。やっぱりイケメンには強くなれないようである。一方、麗美香の存在は完全に無視している。


「それはいいからさ。なんでそんな事したわけ?」

「そうよ。正直に答えなさい。声優のイベントに落ちて、当選した聡美に嫉妬したんでしょ?」

「は?」


 リア充の言う「は?」ってどうしてこんなに感じが悪いんだろうか。優はともかく、麗美香には飼い犬に手を噛まれた心境なのかもしれない。日頃から麗美香達を馬鹿にしている事は、この「は?」からありありと伝わってくる。


 しかし、日菜子はすぐに態度を改める。媚を売るように優に上目遣いをしている。悔しいが、やっぱり美人ではある。整形美人の幸花と違って、自然な生き生きとした可愛さも見える。麗美香はこの状況をどうすれば良いのかわからなった。


「実は私もレン様のファンでね。聡美ちゃんとも仲良くなりたかったのぉ」


 いやらしい!


 麗美香は怒りで叫びそうになる。優の前なので、そう言ってぶりっ子しているのがありありと伝わる。SNSでは聡美の悪口も書いていた。これが嘘である事は明らかだった。


 いじめっ子は、「いじめじゃないです。遊んでいただけです、友達になりたかっただけです」とイジメがバレそうになると開き直る。人を傷つける行動をとっているのに、その行動を冗談や仲間内の「イジリ」だとアピールする。日菜子は、典型的なイジメっ子の態度を取り、もはや麗美香はため息しかでない。


「本当か? 本当に友達になりたかったの?」


 優はちょっと騙されているのかもしれない。驚きながらも、日菜子の話に耳を傾けている。


「そうよ。同じ趣味だし。でも、朝比奈さん達って壁があるじゃない? どうやって仲良くなっていいのかわからなかったっていうか」

「へー」


 麗美香は死んだ目になり、棒読み調の言葉しか出てこない。よくここまで嘘がスラスラ言えるものかと感心するものだが、優はちょっと騙されかけている。


「まあ、小学生が好きな子いじめてしまったみたいなものよ。ごめんなさーい」


 こんな心のこもっていない謝罪は初めてきいた。一応謝ってはいるが、軽いというか、口先だけであるのが伝わってくる。騙されかけていた優だが、さすがに日菜子が嘘をついている事に気づいたらしい。


「そうだ、立花くんも私と仲良くしてよ。友達になろう?」


 厚かましくそんな事まで言っている。日菜子の中では、嫌がらせの紙を書く事など、些細な事なのだろうと確信する。もちろん反省などしていないし、罪悪感も持っていない。むしろ、隠キャがそうされて当然と言いたげな態度である。腹がたつが、こんな状況は今まで何度も見てきた。彼らの中でが、イジメや嫌がらせはとても軽い出来事。いじめられた当事者の気持ちは一生わからないだろう。


「えー、こんな頭が悪そうで性格も悪そうな女は嫌だよ!」


 優は、キッパリといった。こんな事言うタイプに見えなかったので、麗美香は驚いて変な声が出てしまうほどだった。


「そ、そう…」


 イケメンな優に言われたら、日菜子も立場がないようだ。しゅんと俯く姿はちょっと可愛そうでがあるが、別に同情はしたくはない。


 ちょうどそこへ聡美が入ってきた。


 この共通点のない3人を見て驚いてはいたが、卓の上の証拠の紙を見て何かを察したらしい。


「聡美、日菜子が犯人だったのよ」

「あー、やっぱりね…」


 麗美香が小声で言うと、深く納得していた。


「違うのよ。私は聡美ちゃんと仲良くなるためにやったのよ?」


 この後に及んでもまだ日菜子はそんな事を言っている。

 優はかなり白けた顔をしているが、まだ媚を売るつもりもあるらしい。日菜子は再び上目遣いで優や聡美を見た。


「ああ、それはお断りします!」


 いつもは大人しい聡美とは信じられないぐらいハッキリと言った。


「なんで? みんな仲良くって小学生でも言うでしょう?」


 普段は隠キャを馬鹿にしているくせに、日菜子はこんなときだけ「みんな仲良く」と言った綺麗事を持ち出し、麗美香は心底呆れてしまった。


「だって、あなた、レン様のファンの中でもめっちゃくちゃ評判悪いもの。いつか事務所からも注意受けるんじゃない?ってぐらい言われてるし。いくらそう言われてもね…」

「その通りよ、聡美。こんなキモいヤツ相手にしなくていいわ」

「はは、麗美香ちゃんもよく言うな!」


 何がおかしいのか優は笑い転げていた。


 つられて麗美香も聡美も笑ってしまう。日菜子だけのけものにされたような状況が出来上がってしまった。優だけでなく、聡美にもはっきりと言われてしまい、さすがの日菜子ももう何も言えないようである。渋々と言った感じではあるが、先生にこの事を報告する事を認めた。


「あのね、陰キャだって友達選ぶ権利はあるのよ? 誰が好き好んでいじめっ子と仲良くなるもんですか。それって一方的にこっちが犠牲になるだけで、仲良くなる事とは違うわよね? はっきり言って迷惑だから、もうそういう事するのやめてね」


 最後、麗美香はそう言うと日菜子は何も答えなかった。


「麗美香ちゃんは、見た目の割にはすんごい気が強いよな……」


 優はわざとらしくぶるっと震えたフリをし、麗美香に気の強さをちょっと怖がっていた。

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