芋臭女子の大変身編-11
幸花の証言が役にたったのか、ひき逃げ事件はスピード解決した。やっぱり犯人は幸花の証言通りの男で、元ヤクザだったそうである。地域新聞でもこの事が記事になり、被害者も問題なく元気だという。
リビングで優はその地域新聞を読みながら、ホクホクと嬉しそうな顔をしていた。直接、優が事件を解決したわけではないが、重要証言を引き出したのは確かである。
「坊ちゃん、紅茶ができましたよ」
麗美香は紅茶一式セットをリビングのテーブルに置き、優とお茶を始めた。休日の長閑な昼下がりだった。事件が解決した事に麗美香もホッとしていた。
「あれ? 麗美香ちゃん、今日ちょっとメイクしてるの?」
「うん。さっき豊さんに教えてもらったの。ちょっとメイクも勉強しようと思ってる」
「へぇ、何で?」
優はちょっとニヤニヤしながら紅茶を飲み干す。何か誤解しているかもしれないが、恋愛や色っぽい理由ではない。
今は芋臭いのが良いかもしれないが、やっぱり社会に出たらハシゴを外されるのが目に見える。学生時代はメイク禁止な校則なのに、大人になったらメイクはマナーになるには、麗美香は全く納得できない。
ただ、そうやってずっと頑固になるのも違うような気がした。幸花のような目的でメイクや整形をするのは、馬鹿だと思うが、「この社会で賢く生きる為」にメイクをするのは悪くない。麗美香はその区別が今まではできていなかった。
「秘書検定の本にもメイクはマナーってあったしね。就活の時も有利になると思ったわけよ。化学物質の件もあるし、毎日したいわけじゃないけどね」
「あ、そういう意味ね…」
優はなぜかガッカリとしたような表情を見せる。
豊はやっぱりメイクのプロだけあって教え方も上手で、麗美香も衣装部屋で教えてもらう時間も楽しみになるほどだった。
「幸花はこれからどうなるのかしらね」
麗美香は窓の外の桜の木を見ながら言う。満開の時期はすぎ、地面は花びらの絨毯が出来始めている。
「さあ。でも、この事でちょっと変わるといいかもね」
「そうね」
麗美香も頷いて紅茶をすすった。
「でも、まあ犯人が見つかって良かったよ」
「そうね」
優は花が咲いたように笑った。確かにこの笑顔を見ていると毒気が抜かれるなぁと麗美香は思った。




