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イケメン探偵〜桜のような王子様と模範解答のない謎〜  作者: 地野千塩


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芋臭女子の大変身編-8

 金持ちが考えている事はよくわからない。


 二階の空き部屋は、麗美香が一度も立ち寄った事の無い部屋があるが、その一つに衣装部屋と言うのがあった。


 まるでどこかの舞台の楽屋のような鏡台があり、数々のメイク道具が乗っている。ドラッグストアで売っているようなものに見えない。麗美香もよくわからないが、プロ仕様のものに見えた。奥には男女の各種服やアクセサリーも置いてあり、カツラまである。


 こんな部屋は貧乏人の家には絶対に無いだろう。


「こに部屋なんですか?」


 麗美香は鏡台の前に無理矢理座らされるち、豊がニヤッと笑って答える。


「ここは坊ちゃんのお母様とお父様が集めた衣装部屋ですね。舞台や演劇の勉強する為です」

「それにしても本格的ね」


 グルリとこの衣装部屋を眺めながらいう。よく見るとロックミュージシャンがよく着ているようなゴツいジャケットやブーツも置いてある。豊の言うことは事実のようである。確か優の父、一ノ瀬浩はロックミュージシャンだった。


「変装目的もあるんだよな。よく記者に追いかけられていたし、母はよくここで男のフリして出かけてたな」


 優は懐かしそうに呟いていた。芸能人ならではの悩みのようだ。記者に追いかけられるなんて麗美香が想像するだけでも嫌な気分になる。その点麗美香は、いくら髪や眉毛がボサボサで外出しても誰も何も言ってこない。むしろ存在がなかった事にされる。まあ、クラスメイトたちに「ブス」と言われる事も多いが、街中や道端では麗美香の存在は黙殺されている事が多い。おそらく自分は視界に入っていないのでは無いかと思う。


「それで豊さん。メイクしてどうするんですか?」

「幸花にギャフンと言わせてやるよ!」


 優が代わりに答える。果たして今の時代に「ギャフン」などと言う人はいるだろうか。


「メイクで変わると思えませんよ」


 麗美香が鏡のブスな顔を見つめながら答える。


「いいえ、威嚇ですよ。やれば出来るっていう所を見せつけてやりましょう!」

「いえ、豊さんも意外とノリノリですね…」


 さっそく豊にメイクされる。最初は化粧水や乳液をつけられ、ファンデーションの下地を塗られる。豊がうんうん唸りながら下地のカラーを決めていく。その横顔は確かにプロっぽい。


 優は飽き始め、衣装部屋のカツラをかぶって自撮りをしている。一人でキャッキャと騒いでいるが、楽しそうで何よりである。


「ここニキビあるんですよねぇ」


 麗美香はおでこのニキビを指差す。下地をぬったぐらいでは変わらないが、顔色は良くなった気がする。


「夜ふかししたでしょ」

「当たってます! 幸花の事調べていたから」

「ニキビなんて大方生活習慣が問題ですよ。生活習慣を変えない限り、化粧品いくら塗っても変わりないですよ」


 豊の言うことは最もである。人はついつい外側のせいにしがちだが、原因は内側に潜んでいる。


「坊ちゃんはニキビないですよねぇ」

「坊ちゃんは、早く寝てますからね。食生活は悪いですが、ストレスは全くないでしょうしね」

「確かに」


 キャッキャと自撮りをしながら騒ぐ優に声を聞いていると確かにストレスなど無縁そうである。


「坊ちゃんは悩みが無さそうですね。成績が悪いこと以外は」

「朝比奈さん、なかなか毒舌ですね」


 豊は口も動かしていたが、手も休めない。肌が仕上がると、アイメイク、チーク、最後に口紅をつけてメイクが終わった。


 鏡の中にいる麗美香は、確かにいつもと変わりはないが、ほんの少し顔色が良くなり、明るい性格に見えるのは事実だった。ちょとリア充みたいで居心地が悪いが、明るい自分の顔は悪くない気がした。


「けっこう雰囲気変わりましたね」

「そうですね、豊さん。別に顔の作り自体は変わってないのに」

「まあ、メイクは魔法じゃないですよ。綺麗になる為には、運動や生活習慣も努力しなきゃ。所作や言葉遣いだって大切ですよ。意外と中身は外見に表れますからね」


 そう言われると納得するしかない。メイクで美人になれるわけでは無いし、努力しなければ維持できない部分も多いのだろう。


「坊ちゃん、朝比奈さんのメイクできましたよ」


 優は自撮りをやめて麗美香達のいる鏡台の方にやってきた。


「おぉー、いいじゃん! 悪くないっていうか、イイね!」

「そうかなぁ」

「ちょっとリア充っぽいよ!」


 優にそう言われてしまうと、ちょっとだけ苦笑してしまう。自分は陰キャやリア充という事にこだわり過ぎたのかも知れない。優はメイク前もメイク後も態度をあまり変えない。メイクで麗美香が何か劇的に変化したわけでも無いのだが、もし劇的に変わったとしても優は態度をあまり変えない気がした。思えば優は麗美香の容姿について一度も悪口を言っていない。


 その後、髪の毛もセットして貰い、服も衣装部屋から薄色のワンピースに着替えさせられた。ただちょっと外見を変えただけで、豊や優にすごく褒められたわけでもないのに、なぜか気分は軽くなる。


「お似合いですよ!」

「麗美香ちゃん、ピッタリだよ!」


 褒められたわけではないが、二人の反応は悪くない。美人になったわけではないが、芋臭い麗美香としては大変身と言っていいだろう。


「それにしても人の容姿をあれこれ言うやつって最低だよなぁ」


 優はしみじみと呟いていた。幸花の事を言っているのだろう。


「そう?」

「そうですよ。アメリカなんかでは、人の容姿についてコメントするのはマナー違反ですよ。あちらのバラエティやエンタメでは容姿で笑いをとるものもあんまり無いですよ」


 豊の言う事には一理ある。


「やっぱり人の容姿についてあれこれ言うのってダメね…」


 麗美香はしみじみとつぶやいた。優については、何度容姿をジャッジしたかわからない。そう思うと自分も意地悪なリア充と何も変わらない事に麗美香は気づく。


「まあ、俺は単純に褒められるのは好きだけどね」


 珍しくしょんぼりと反省してみせている麗美香に優は苦笑していた。


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