芋臭女子の大変身編-6
「本当? アイプチ買ってくれたの?」
「はい!」
幸花は、ふんわりと可愛らしい笑顔を作って麗美香を見つめる。
麗美香は熱狂的ファンのフリをする。上手く出来るかはわからないが、「憧れています!」と言うように、キラキラとした目で幸花を見る。
「サインはくれますか?」
「ごめんねぇ。サインと写真は事務所からNG出てるんだ」
「事務所?」
「ええ。っていっても動画作成会社の事務所に入ってるだけ何だけどね。別に芸能人ってわけじゃないから、これからもよろしくね」
気さくに笑う幸は、確かに芸能人のように気取った雰囲気はない。笑顔は胡散臭くはあるが、思い切って事件の事を聞いてみる事にした。
「ここでひき逃げがあったんですよね。本当に怖い。幸花さんは何か知っています?」
「いえ、昨日警察が来たけど…」
幸花は言葉を濁し始めた。明らかに怪しかった。といっても証拠は何もないが、嘘を隠す子供のような表情に見えた。100%カンであるし、犯人と決めつけるのは尚早ではあるが、事件の鍵を握っているのかもしれない。
「幸花さん、何か隠していませんか?」
麗美香は、幸花の顔をじっと見つめながら言う。しばらく沈黙が流れた。市道を走る車と風の音だけがやけに大きく響く。
「ど、どういう事?」
「いえ、ひき逃げには被害者もいますし、事実を言ってほしいんですけどね」
ここまで言ってしまって麗美香は後悔した。こんな事を言ったら幸花のファンには見えないだろう。自分でも失態だと悟った時、幸花の綺麗な顔が怒りで歪み始めた。
「は? そんな事はあんたに関係あるの?」
「別にないですけど。あのアパートから現場はよく見えますよね? 何か見えませんでしたか?」
「知らないわよ。昨日も変な若い男が来て…」
怒りで顔が歪んだ幸花は、とてみ美人には見えない。むしろ何か隠しているようにしか見えない。こうして怒る事は、幸花が事件の関係者である証拠に思えてならない。
「このブス!」
ついに幸花は、こんな台詞を麗美香に投げつけた。悪意たっぷりなそれは、麗美香の心を傷つけるのには十分だったが、「いじめられた人が人の気持ちがわかる」など言う世間の名言的なものは、やっぱり嘘だなと思う。むしろ、逆の立場になっていじめっ子になる人間が多そうである。
「あなただってブスだっていじめられていたのに?」
「うるさいわよ。私はもうブスではないんだから!」
勝ち誇ったように幸花は胸を張っているが、ちっとも羨ましく見えない。この人はコンプレックスを解消したどころか、むしろ拗らせている。本当に自分の努力だけで綺麗になったのだろうか?それだけだったら、自己満足というか、自信がつきそうであるが、幸花はそんな風には全く見えない。
何かズルをしているように見える。整形の噂もあながち嘘では無いのかもしれない。確かに整形で自信が持てれば良いが、金だけかけて何の努力もしないで得た結果だ。それで果たして綺麗になれるだろうか。自信が持てるだろうか。麗美香はそれが疑問だった。シンデレラだって魔法で一瞬で綺麗になったわけだが、それで良いのか麗美香にはわからない。
「幸花さん、あなた整形でしょ」
そう言うと、幸花は押し黙った。やっぱり整形のようではあるが、幸花はさらに激昂し始める。
「うるさい! ブス!」
捨て台詞も忘れずにに麗美香を睨みつけると去っていった。
事件との関係性は不明であるが、幸花が整形である事は確定のようだ。
やっぱり優が言った通り、整形しても自信が持てるかどうかわからない。他人の評価に依存している限り生き地獄だ。それにいつかは美貌も衰える。花の盛りは短い。整形で下駄を履いてもせいぜい10年ぐらいが花の盛りだろう。そんな儚いものに依存するなんて。
麗美香は、「ブス」と言われて傷ついたわけだが、別にそれでも良いかと思い始めた。




