芋臭女子の大変身編-3
麗美香は豊と一ノ瀬家の屋敷に帰ると、せっせと昼ごはんを作った。菜の花を貰ったので、それを入れた焼きうどんを作る。
豊は美味しいとペロリと完食していたが、麗美香はあまり食が進まない。
優といると自分は、どこか汚れた存在のようにも思えてくる。優にある無邪というかピュアなところは、とっくの昔に失われているようなものだった。
子供の頃は、こんな麗美香でも純粋な部分はあったが、大人達が美人と自分にはあからさまに区別をしてきたり、何もしていないのに「ブス!」と言われるようになり、この世は不平等だと捻くれた考え持つようになってしまった。何かをするのも見えないブレーキがかかるし、損得勘定でしか動けない部分も多い。
麗美香は、リビングに置き去りにされていた「保護猫カフェ探偵!」の文庫本ペラペラとめくる。小さな村で起きる殺人事件を解決するコージーミステリだが、主人公は正義感が強く、曲がったことが許せない性格だ。優がこの本を好きになるのがわかる気がした。一方、自分はこんな事件に首を突っ込んで何の役に立つのか等と可愛げの無い感想を持ったりしている。
やっぱり自分は、どこか心が捻くれている。こんな真っ直ぐな主人公や優を見ていると、そんな事をしみじみと考えてしまった。
ちょうど「保護猫カフェ探偵!」を読み終えた時、優が帰ってきた。今度は全くホクホクした顔では無い。むしろ、ちょっとイライラとした表情を隠していない。
「坊ちゃん、お帰り。焼うどん作ったけど食べる?」
「えー、うどん? あんまり好きじゃないなぁ」
「ワガママ言うんじゃ無いですよ」
麗美香はため息をつき、焼きうどんをレンジで温めてリビングにいる優に持っていく。しかし、偏食の優は具材の肉だけを器用に選り分けて食べていた。この器用さに限っては、プロである。よくあんな小さな肉片を見逃さないものである。
横で見ている麗美香はため息が出るが、こんな食生活を今更矯正できる気がしない。箸の持ち方などは綺麗であるが、やっぱり親が甘やかせていた事が想像できてしまった。まあ、将来困るのは優である。捻くれた麗美香は、わざわざ指摘せず呆れた目で優を傍観していた。
「ところで、坊ちゃん。事件については何か解りました?」
「いいや…」
いつも笑っているような優であるが、珍しく渋い顔を見せつる。この様子だとろくな収穫はなかったのだろう。
「坊ちゃん、何もわからなかったんですか?」
そこにちょうどコーヒーカップを持った豊もリビングに入ってきた。なんだかんだで豊もこの事件が気になるようである。
「そうなんだよ。あそこの周辺の家に聞いてみて回ったんだけど、誰一人見ていないって言うんだよなぁ」
優は悔しそうに焼うどんを口に入れる。怒りで腹が空いて、仕方なく口に入れるといった雰囲気ではあるが。
「誰も? 一人も?」
麗美香は、それが信じられない。誰か見ていても良さそうなのに。
「しかもアパートの住人一人失礼なヤツが居たんだよ」
優はその時を思い出したようで、怒りで肩を震わせていた。いつもは温厚なタイプであるので、こんな風に怒る優は麗美香にとっては新鮮だった。
「本当? イケメンの坊ちゃんに失礼なヤツなんているの?」
「それは偏見だよ、麗美香ちゃん。勝手に嫉妬してくるヤツやセクハラしてくるヤツだっているんだから」
そう言われてしまいと麗美香は居た堪れなくなり、下を向きたくなる。さんざん心の中では、イケメンに嫉妬している麗美香だが、こういう所に想像力が及ばない。やっぱり自分は心が歪んでいるのか。顔はどうしようもないのに心までこうだとどうすれば良いのかわからくなってくる。
「それでその失礼なアパートの住人は、どんな人だったんですか? 怪しいですね。犯人かも知れませんよ」
豊が聞く。確かに豊の言う通りだと麗美香は思う。
「そうそう怪しいんだよ。俺に『くそイケメンが!』なんて言ってくるんだぜ? 男ならともかく大学生ぐらいの女性なのに」
それは確かにおかしいと麗美香も思う。ただ、イケメンによって何か特にしている場面を見たら、その女子大生の彼女がイラつく気持ちもちょっとわかってしまった。
「その女子大生はブスだったでしょ?」
100%の確信を持って麗美香が言う。きっと自分と似たような面相であるだろう。イケメンにこれだけ悪意を持つのは、自分のような捻くれブスに違いない。
「いや、逆にチャラチャした美人系だったよ」
「え?」
「嘘」
麗美香も豊も同時に声を出す。事件も気になるが、なぜ美人がイケメンを嫌ったのか?謎が生まれた。
「そういえばあのアパートに幸花っていう美人インスタグラマーが住んでいるっていう噂がありますね」
豊もこの屋敷に住んで長いのだろう。近所の事は一通り耳に入ってくるようである。
「幸花ってこの人?」
麗美香は、豊が言ったように幸花のインスタグラムを開いて二人に見せる。
「この女だよ! 全く失礼な女だ」
優は幸花の画像を指差してプンスカ怒っていた。




