彼女のコンプレックス
今の恋人である彼女には満足をしている。
とても美人なのに、性格が控えめで、モテると自覚している女の子特有の傲慢さがない。
ただ、それでも僕は彼女との関係を一歩進められないでいた。
原因は実を言うと、その彼女の控えめな性格にある。控えめなところに惹かれていながら、それが原因で関係を進められないというのも身勝手な話だとは思うけど、人間とはそんなにシンプルなものじゃない。その控えめな態度の所為で、僕は彼女が僕に充分に心を開いてくれていないと感じてしまっていたのだ。
がしかし、それは根本から考えが間違っていたのかもしれない。彼女がいつまでもそんな態度でいるのは、僕の方に問題があったからなんだ。
つまり、僕が彼女を安心させてやれていなかった。
それが分かったのは、久しぶりに会った彼女の顔が微妙に変わっていたからだった。鼻が少し高くなっていて、目元も少しぱっちりしている。
そう。
彼女は整形手術に手を出してしまっていたのだった。
もう充分に綺麗なのに。
「どうして、そんなことをしてしまったんだ? 君は充分に美しくて可愛かったのに」
そう問いかけた僕に彼女は涙ながらに応えた。
「だって、あなたはちっともわたしとの関係を進めようとしないのだもの。わたしが気に入らないからなのでしょう?」
それを聞いて僕は愕然となった。
容姿なんて大して重要じゃない。僕は彼女の優しくて控えめな性格に惹かれていたのに、彼女にはまったくそれが伝わっていなかったのだ。
もちろん、それは僕が伝えようと努力をして来なかったからだ。
彼女を不安にさせてしまった。
「ごめん。怖がらせてしまって。でも、安心して欲しい。僕は君の姿なんてどうでも良いんだ。君はそのままで美しい。もしできるのなら、整形をする前に戻して欲しい」
彼女はそんな僕の訴えに、嬉しそうな顔で頷いた。
それからまたしばらくが経った。
彼女と会う約束をした。整形手術した顔を元に戻したと彼女は言っていた。
ところがだ。やって来た彼女は元には戻っていなかったのだった。彼女はまったく僕の知らない顔になっていた。
しかも、まったく美しくない。
つまり、整形手術で顔を綺麗に変えた訳ではなかった。
何がどうなっているのか戸惑っている僕に向けて彼女は言った。
「整形をする前の顔に戻したの。あなたと会うずっと前の本来の自分の顔に」
その言葉に僕は目を丸くした。
どうやら彼女は僕に初めて会った時、既に整形手術で顔を変えていたらしい。恐らく顔がコンプレックスだったのだろう。だから何か不安があると、直ぐに整形手術をしようとしてしまうのだ。
彼女は嬉しそうに笑っていた。
彼女の不安を払拭するのには、今の彼女に確りと愛情を示さなくてはならない。
しかしそれができるかどうか、僕にはまったく自信がなかった。もちろん、そんな事は彼女には口が裂けても言えないけれど。