08.結局、元のモクアミさんに
結局、元のモクアミさんになった。
モクアミって誰だっけ?そもそも今のモクアミさんとか、次のモクアミさんっているの?それか元のカンアミさんやゼアミさん。昔の人って、ワケわかんないこと言うよね。
何がそうなったかって言うと、わたしの神様扱い。隣村の人達も《わたしの庇護下》に入ることになって。目覚めたときの経緯とか最初は悲嘆に泣き崩れてたこととかを知らないこともあって、ますますあり得ない次元にまで神格化されちゃったらしい。
せっかくみんな馴染んできたのに、これで全部元どおり。気さくな神様でも粗相があってはいけないと、お年寄りの人達はそれ見たことかと頷いてる。
内弟子ちゃん一人だけを連れて話し合いに行ったのも、わたしの神格化に一層拍車をかけた。護るべき信徒のために命を懸ける、勇敢にして慈悲深い神様だ、と。
どこにこんな神がいるっての。二度寝が至福の愉しみという自堕落な奴。しかも最近は美少女二人に起こしてもらうのが嬉しくて、わざと寝入ったふりを決め込むとか。
「神様。起きて」
「……………スヤァ」
「起きて。仕事の時間」
「……………スヤァ」
「お願い、します。起きてくれないと、私……」
「……………スヤァ」
「はいはい、どいてくださいね。先生、早く起きないと朝食抜きですよ。僕達はもういただきましたから、片づかなくて困ってるんです」
言いながらシーツを引っ張り、わたしを床に転げ墜とす。内側から爆発するモヒカンのような、ぐぼばぁとか残念な悲鳴をあげたことは言うまでもない。
「…内弟子ちゃん、最近あいつに似てきてない……?」
「光栄です。御先祖様と同じってことは、僕も信用してくれてるんですよね?」
なんて、思わず死んでしまいかねない恥ずかしげな殺し文句を宣いまして。
「……ううむ」
考えながら着替える間も、わたしを神様と呼んだ別の子が手伝ってくれる。
こっちの村の子だけを傍には置くまいと、隣村が送り込んできた女の子だ。ありがたいお告げとやらで神の巫女に選ばれたらしい。だから巫女ちゃんと呼んでいる。
「先生。今日の予定ですけど」
「ううむ……」
「先生?」
「うむむむ……」
このときのわたしは、何も気づいていなかった。
自分のことだけに精一杯で、内弟子ちゃんが何を考えてたのか。
甘えたい盛りに親元を出されてしまった巫女ちゃんのことも。
変化をもたらしたのは、この子達じゃない。
この期に及んで自分のことしか考えなかった、
自分のことしか見えなかった。
大人げない、わたしだ。