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05.みんなにあげられるもの。

 みんなにあげられるもの。


 知識。役に立つかは微妙だけど。


 お金……ちょっと、いやかなり生臭い。


 忘れられた便利な発明のヒント。


 過去。人類の後ろ暗いアレやコレ。わたし達と同じ轍を踏んでほしくないから。


「…先生」


「んぁ……にゅ」


「先生。あの」


「むにゅむにょ……」


「先生、起きたら顔を洗ってくださいね」


「むにょむにゃ……」


「先生、食べながら寝ないでくださいね」


「むにゃむにゅ……」


「…先生。寝ながらでも仕事ができるって本当に凄いですね」


「ふふん。どう?少しは見直した?」


「元から尊敬してますけど……村の人の前では、そういうの見せないでくださいね」


「分かってるって。そろそろ時間?」


「はい」


 これがわたしの新しい日常だ。普段は家で内弟子ちゃんと研究資料を整理して、毎日決まった時刻に村の工場や店を巡回して思いついたことを話す。


 本当に単なる思いつきだ。世の中が元気だった頃に見たもの聞いたことが、連想されて湧き出たら喋るだけ。それを活かすのは彼ら自身。役立つこともあれば使えないこともある、何かあっても責任を問われない最高の位置取り。


「ああ、先生。おはようございます」


「ええ、おはようございます。今日もいい天気ですね」


「……………」


 こちらは農家の方。いつも鬱陶しいくらいやかまし……こほん、明るく元気な方でいらっしゃるのに。今日は雨雲でも呼びそうなくらい陰気だ。一体どうしたのだろう。


「…最近、水不足でさ」


 本当に雨を欲しがってた。


 とはいえ、さすがに無理。大気中に微粒子を散らして氷晶核を作り、降雪を促す技術はあったけど。任意に雨を降らせる技術なんてあったっけ?


「いつもみたいに何かいい手はねえのか?こないだもパン屋の奴に、空気を抜けばパンが長持ちするかもって教えてただろ」


「ああ……アレね。うん、アレはちょっと……」


 反射的に言葉を濁す。結論から言うと、大失敗だったのだ。


 確かにパンは長持ちした。見よう見真似で同じことをした他の店の食べ物も。どこの家にも掃除機はあるから、それとポリ袋を作る技術は消えてなかったから。それにしっかり封をするジップロックの技術を足して。


 問題は、飲み物の工場も真似したこと。ビールや炭酸飲料を入れた瓶の空気を吸い出し、一度蓋を嵌めて試しに開けてみたら……


 実行する前に、まず相談してくれればよかったのに。


 残されたのは泡塗れの馨しい工場と……その年の商品を全部、床の排水溝に流してしまった親父さん。


 哀れったらない。可哀想だけど、わたしに責任を求められても無理。


 それが解ってるから誰も責めない。今までより遠くに売り出すことで増える利益の一部を、黙って親父さんのために差し出した。


 わたしも若干の責任を感じなくはなかったので、少しのお布施と液体の場合は窒素を充填しなければならないことを伝えた。親父さんは首を捻るばかりで、残念ながら上手く伝わらなかったみたいだけど……

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