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03.急行に乗ったつもりが

 急行に乗ったつもりが通勤快速、二つ隣で降りるところを次のターミナル駅まで行ってしまった……と表すには寒い時代だけど。いずれ今のわたしは、そんな状態。


「うぅ」


「大丈夫ですか?」


「うぅ……」


「神様、大丈夫ですか?」


「神様じゃないもん……」


 とてもいいお天気の、麗らかな野原で体育座り。塞ぎこんだわたしを心配して、小憎たらしいあんちくしょうの可愛い可愛い子孫ちゃんが連れだしてくれたわけなんですが。


 これが泣かずにいられますか。ひと山当ててプチセレブになったはずが。それを更に低利回りの堅実な投資に向けて自分と一緒に十年寝かす。起きた頃にはほんのちょっぴり増えていて、ますます安心な老後設計……だったはずが。あろうことか無一文。


 おまけに世の中は、わたしの専門分野を全否定。働こうにも手に職なんてありません。これで絶望するなってほうが無理でしょ、あぁン?


 最初は神様なんて呼ばれても、いつか絶対メッキが剝げる。そうなったときの反動が怖い。少しでも早く軌道修正しておかないと。


「神様、そろそろ帰り」


「わたしは神様じゃない」


 強く言い過ぎたかも。子孫ちゃんがびくりと跳ねる。こっちに伸ばしかけていた手を下ろし、寂しそうに俯く。


「…わたしは、神様じゃない」


 もう一度、静かに繰り返す。


「ごめんね。何か御利益があると思って、大切にしてくれたんでしょうけど……」


 目を合わせづらい。大人げなく大きな声を出した後は尚更。


「…御先祖様は、あなたに会いたがってました。僕が生まれる前から、ずうっと」


 わたしに背を向けて、広い空を見つめながら。


「この村が落ち着いた後、世界中の遺跡を巡り歩いたそうです。凍った時間をまた動かすための方法を探して」


 結局、手が届かないまま死んだ。人々の役に立つ、様々な成果を残したという。


 お祖母さんから又聞きした、そのまたお祖母さんの話では……あいつがわたしのことを話すとき、内容とそぐわない妙に含みのある笑いを浮かべてたとかいなかったとか。


「…それって、どういう話だったの?」


「神様はお花が大好きだから、足の踏み場もないくらいに敷き詰めてね。でも隙間を作らないと諦めるから、程よく空けておきなさい……そんな感じだったそうです」


 子孫ちゃんを脅かさないよう、また俯いて顔芸に励んだのは言うまでもありません。


「……ふう」


 何やかやで落ち着いた。情けないったらないけど、沢山話を聞いてもらったから大丈夫。今からわたしは、この時代で生きてゆく。


 腹筋と両脚だけで立ち上がる。


「ねえ。ひとつ、お願いがあるんだけど」


「…お願い、ですか?」


 こくん、と大きく首を傾げる。そんなところがやっぱり(以下省略検閲削除)。


「神さ……まじゃないんでしたね。あなたのこと、何て呼んだらいいでしょうか」


「うーん。そうだなぁ」


 いろいろ候補はある。美少女に呼ばれてみたい一般名詞ランキング上位五つを光の速さで検討。でもここは一応自粛して、無難なものを選択。


「…先生、かな」


 道半ばで終わったけど、研究者を志した身としては憧れの敬称。


「先生、ですか。じゃあ僕は、お弟子さんですね」


 子孫ちゃん改めお弟子ちゃん、嬉しそうに笑う。


「それでお願いごとのほうだけど、わたしを働かせてくれないかな?偉そうに先生なんて言っときながら、まったく生活の当てがないんだわ。あっはっはー」


 苦笑いするわたしを見て、また小首を傾げるお弟子ちゃん。「養いますから働かなくていいんですよ~」なんて男前なコト考えてるとしたら嬉しいやら悲しいやら。


 それはダメ。いくらあいつの関係者でも、それは大人として越えてはいけない一線。


「…何、言ってるんですか?先生、すっごいお金持ちじゃないですか」


「あ?」


 素の声が出る。取り繕いも何もない。


「銀行口座、っていうんですよね?僕達あまり使いませんけど……そこに異常な数字が入ってました。村の全員が一生かかっても使いきれないくらいの」


「マジでっ!?」


 お弟子ちゃんに摑みかかるわたしの顔は、アスラの形相をしてたに違いありません。

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