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02.えーと。いきなりですが

 えーと。いきなりですがわたし、科学者です。時間とか冬眠に関する研究をしてます。


 あ。仕事じゃないよ?大学とかもう退職したんで。


 お金もそれなりに。院生時代の研究が当たって、結構まとまった額をもらった。それを投資に回したら、あっという間に増えちゃって。あまり深く考えなかったんだけど、公社の民営化って儲かるんだね。イェイ。


 さて、ここからが本題だ。一生遊んで暮らせる大金を手にしたわたしは、一生細々と暮らせる大金を残してとある研究に打ち込んだ。


 聞いて驚け。時間を超える技術だ。


 といってもタイムマシンなんて高尚な技術じゃありません。ただの冷凍冬眠。まあ凍りつくのは自分じゃなくて時間のほうなんだけど。細かい説明は省くね。正直わたしも全部を理解してなくて。そんな危ないものを使ったのかと言われると返す言葉もない。だからこそ今の進退窮まれりな状況があるわけで……


 きっかけは、あれ。世界中から技術独占の疑いをかけられた、某国にある国際的な研究所が行った情報開示。ネット上の噂では一時核戦争になりかけたとか何とか。異星人の贈り物だの超古代文明だの、一部の連中が囃し立てた眉唾物の超展開は別として。突き詰めればタイムマシンも造れるんじゃないかって囁かれた革新的な知識。


 慌てて戦争を起こす気持ちは……まあ分からなくもない。今握っているものが大きいほど、それを失う可能性は小さなものでも見逃せないよね。もしかすると本当に真面目な政治家が、堂々巡りの無間地獄から自国民を護ろうとした可能性だってある。


 で。そんなこととは露ほども関係なく、わたしは勝手に研究を開始した。


 一番簡単な技術――マナ収束と脱マナの処理を応用して……ああ。マナっていうのはね、その公表された新しい科学分野の基礎となる概念のこと。物質なのか力なのかも分かってなくて、真っ先に手を出した市井のドン・キホーテが自分の体重で死にかけたっていうから重力と関係があるかもしれない。


 すなわち時間とも関係がある。重力子とは言いきれないから別の名前をつけたにしても、多分に趣味的。これを提案した人はファンタジー小説の読み過ぎだと思う。認めた上司や同僚の連中も何考えてんだか。


 とはいえ研究の世界では、第一発見者が名付け親になる原則。関わってもいないわたしや外野が何を言ったって。要するに無駄、後の祭りなのだ。


 結論を言うと、わたしは実験に失敗した。


 法則性が人文学的過ぎるとか、特定のマイナー言語を使用するよう求められたとか。原因はいろいろあるけれど割愛。


 …はぁ。まあつまり、そういうことなんですよ。こんな愚痴めいた長い話、聞いてくださってありがと。


 十年後の未来に行くつもりが、百年後に来てしまったというわけ。それもほとんど科学が死に絶えた、飢餓と貧困に隣り合わせの世界へ。


 先進国の知識階級よ。アッパーミドルよ、さようなら。


 明日以降のわたしは、どっちだ?

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