??.朝起きたら、見覚えのある場所に転生していました。
朝起きたら、見覚えのある場所に転生していました。
「…嘘、でしょう?」
また自然に目が覚めて、どうせ誰もいないんだろうと適当に開けたら。看護師さんみたいな役所みたいな人がはいはい起きてください、あなたでここは最後なんですよなんて言いながら着替えと初期マネー?の千ドル?を渡してきて。
説明もそこそこ、寝覚めの流動食も出ないまま追い出された。ここって病院じゃないの?わたしは何かの患者と勘違いされてたんじゃないの?
ここは協会所属の国で云々、あなたの預金口座は確認されなかったので云々。どうして服着てるんでしょうね云々、それどうやって持ち込んだの云々とかわけわからん。
おたから袋ひとつ摑んで外に出た。で、最初の感想へ至る。
そこは見覚えがある場所だった。眠りに就く前――学生時代を過ごした街。
ていうか大学そのもの。理工学研究科があった場所に、さっきの病院みたいなところがある。わたしで最後ってことは、これから別の組織に切り替わるか元々無関係な組織が片手間でやらされてたんだろう。
すぐ傍の理学部棟。驚くほど、まんまだ。工学部棟、教育学部棟、教養学部棟も。全部わたしの記憶にあるものと同じ。過去に戻れたと思わないくらいには落ち着いてるけど、さすがにおかしい。これが遠い未来としたら、誰がどうやって何のために?
学内は、ひととおり見た。あと気になるのは、生活の拠点にしてた寮。
この時代の人間はみんな『転生者』で、その転生も十年ほど前に概ね終わったことから公営の専用住宅なんかは廃止されたらしい。まだよく分からんけど『転生者』同士から自然に……その、もにょもにょして生まれた子供が増えてきてるとか。
わたしに用意されたのは大学近くのアパート。敷金礼金は免除されたけど、それも半年で打ち切り。そのまま住み続けたければ自分で稼げということのようだ。幸か不幸か、人手はいくらあっても足りないそうで。
寮があるはずのほうの門へ向かった。
そこでわたしは、不覚にも我を忘れてしまう。
「もしもし警察ですか?女の変態が出たんすけど」
「ちょ!いきなり通報しないで!?」
「ええ、ええ……国立大学の。はい。東門前です。あ……でもよく見たら結構可愛かったんで、無理に来てくれなくても結構です。それじゃ」
一方的に切りやがった。有史以来の警察官全てに謝れ。
「…よし、と。それで私に何の用かな?できればこういうことは、段階を踏んでくれるとありがたいんだけど?」
まんまそっくりだ。傍若無人なところも、動じないところも。
「あれ?もしかしてお腹空いてる?じゃあとりあえず、適当な店に入ろっか。正直今日は、たるくて講義出たくないんだよね」
いい加減なところも、時々妙に優しいところも。
「……………っ」
「あれれ?泣くようなこと言ったかな?ここで断られると、さすがに俺様も傷つくんですけど」
「…ちがう。違うの……」
「そお?ならよかった。じゃあさっそくついてきてよ。変なトコ連れ込んだりしないから、オジサンを信用していいんだよ?げへへへへ」
あまりにもテンプレな物言いに吹き出してしまう。
何もこんなところまで。あのときと同じにしなくても……
「やっと笑ったね」
その女の子は、誰かと似た瞳を端正に綻ばせた。




