06.いろんなことを思い出した。
いろんなことを思い出した。
今は、この旅を始めた時から二千年後。文明が力を取り戻すのに、それくらいかかるんじゃないかと前の歴史を考えて選んだ。
「……………」
床。樹脂製の弾力ある素材。万一、収蔵品を落としても壊れにくいように。
天井。かなり高い。ここまで余裕を持たせる必要があるのかはアレだけど。
空調。暑くもなく寒くもなく。多分だけど、収蔵品にとって最高の環境が保たれてる。
「はははははは」
また笑ってしまった。
大当たりだ。この時代は。技術体系こそ違っても、文明レベルはわたしが生まれた頃と変わらない。展示物の説明からも、民主的な価値観が読み取れる。
「は……」
何が当たりだ。騎士ちゃん達の時代はハズレか。
とんでもないのに巻き込まれたとか、逃げ出した報いとか。あの時代を頑張って生きる――そうやって罰を受けたら赦されるんじゃないかとか。
罰?
罰って何だよ!
あの子達には、最初から選択肢なんてなかったんだ!
村の人達には、多少なりとも恩返しできたと思う。でも騎士ちゃん達には。
そんなの理不尽だ。
トイレに隠れて朝を待った。一度警報が鳴ったけど、間違いと思われたらしい。
開館後少ししてから外へ。大きな街だ――アスファルトの道路、街灯、自動車。わたしにとっての当たり前がそこにある。恋い焦がれたファストフード、平和ボケした緩い空気。何より愛しい都会の無関心が。
それらを全部放って図書館へ向かった。ネカフェみたいな店に入ろうか迷ったけど、みんなの形見は換金しないと使えない。使う気にもなれない。
一日中、籠って調べた。聖櫃騎士団とこの国のこと。
千年前の巫女が、姉の死をきっかけに信仰を棄てたこと。箱は戦利品として異境の地へ持ち去られたこと。時が過ぎて列強の仲間入りをし、立場が逆転したとある国から友好の証として返還されたこと……
「ねえ、オジサン達。いいものあげるから、わたしのお願い聞いてくれるかな」
「……何だ?」
「そこの店で食べるもの……四食分くらいかな。買ってきてくれたら、これあげる」
「マジかよ?…贋物じゃねぇのか」
「急いでるんだ。嫌なら他の人に頼むからいいよ」
気が進まなかったけど、背に腹は代えられない。
駅前のホームレスに指輪をひとつ渡してコンビニ弁当を買ってきてもらった。賞味期限切れ間近の鶏唐揚げとパン、おにぎり、お茶、牛乳。味は同じ。
翌朝。また同じ博物館のトイレへ。
夜を待って寝床に戻る。警報が鳴っても気にしない。
次は何年後?…そんなの無意味だ。限界まで目いっぱい回す。
今度は、もしかすると目覚めないだろう。
永遠に。




