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02.人目を忍ぶ身の上では

 人目を忍ぶ身の上では、こんな暗い晩がいいわけで。


 地下に設えた質素な隠れ処の小部屋。虫は厭だから、完全密閉を施してある。


 換気についても、時間を極限まで遅らせてるから問題ない。元は歳を取らずに未来へ行くためのものだけど、副次的にいろんなところで役立つ。


 タイマーで時間の流れが戻った後、箱の蓋を閉めたまま聞き耳を立てる。


 何もいないようだ。それこそ深夜を目覚める時間帯に設定した理由。近代化された世の中では、戸籍も国籍もない人間なんて幽霊だから。どんな扱いを受けるか分からない。


 そーっと、そーっと音を立てないように蓋を開ける。まだ薄目状態だ。ほんの少しの隙間から、まわりの様子を静かに窺う。結論から言うと、わたしはあの血筋にまたしてもしてやられてしまったらしい。


 場所そのものは同じ。ただ内装が神殿のようになっていて。


 足元に花はないけれど、祭壇と化した冬眠装置を華やかに彩っている。


「…よっ、こらしょ……と」


 もぞもぞ簡素な寝床を這い出して。途端に変なものを見つける。


 外から来た人は気づけないように置いたんだろう、祭壇の下に一抱えほどもある頑丈そうな箱。まるで昔ながらのロールプレイングゲームに出てくる宝箱みたい。


 まさか罠まであったりしないよね?どうせ支度金の五十ゴールドと薬草が入ってたりするんでしょとか斜に構えつつ、思い切って蓋を開けた。


「わお」


 中は財宝ぎっしり。即、蓋を閉じる。


 全部本物なら、とんでもない額になる。内弟子ちゃんは言いつけを守ってくれたようだ――予想外に大きな利子をつけて。捜さないでって言ったのに、千年あったとはいえ見つけられちゃったのは癪だけど。


 いや落ち着け。アレはそもそも、わたしのものなのか。


 手紙の中で、お金は全部二人の好きにしてくれていいと伝えた。五年暮らせるくらいは残してほしいとも言ったけど。


 実際のところ、どれくらいの価値があるんだろう?ここの管理をしてるのは今も内弟子ちゃんの子孫なのか。わたしはどういう位置づけになってる……?


 確かめたいことが沢山あった。でも夜に出歩くのは危険――と、不意にお腹が鳴って悩む。子孫ちゃん達の村は、今もあの場所にあるのか。


「……一晩くらい、大丈夫だよね」


 また横になる。そもそも主観的には、普通に夕飯を摂って寝て起きただけ。朝食の時間には、まだ早い。箱の中から、微かに届く当世の音に耳を澄ます。


 この時代にもセミがいるようだ。そこまで暑くないから初秋あたり?明るくなくても寒くなければ鳴くやつもいる……と、ゼミの昆虫マニアに聞いたことがある。


 寝苦しいというほどじゃない。ちょっとだけ昔を懐かしむ。


「ん?」


 何か聞こえる。


 キン、キンと鳴り響く。これと同じ音をどこかで聞いたような……


 だんだん近づいてくる。それに伴い、正体も分かってきた。


 人の怒号。走る足音。これって、やっぱり。


 蓋を少し持ち上げた瞬間、部屋の扉も勢いよく開いた。


 そこにいるのは漢前な騎士。顔立ちは中性的ながら頼もしさを感じる。部屋の前に立ちはだかり、こちらを肩越しに振り返った。


「お目覚めでしたか。先生!」

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