00.朝起きたら、自宅の地下が神殿になっていました。
朝起きたら、自宅の地下が神殿になっていました。
透明な蓋を開けて起き上がると、まずド派手な彩色の壁画に驚く。
(ここって白一色の四角い部屋だったんじゃ……?)
宇宙の始まりから現在に至るまで。古代の遺跡にみられる典型的な創世神話だ。クライマックスは災厄に苦しむ者へ救いの手を差し伸べる神と、それに縋って生き延びる人々。あるいは終末思想かもしれない。信じる者は救われる的な。正直、かなり微妙。
「いやいやいや。これって契約違反でしょ」
思わず口に出してしまう。
とある個人的な事情から、わたしは少しばかり長めの睡眠をとっていた。その間、家の管理とか諸々お願いしますと腐れ縁の古馴染みに。まさかこんな悪戯をするなんて!今度会ったらどうしてくれよう。とりあえず黒歴史の刑だけは確定。
どっこいしょとカプセルから出ようとして、足の踏み場がないことに苛立つ。届く範囲のどこもかしこも、きれいな草花に覆われていた。出られないことはないけれど、こういうのをわたしが邪険にできないと分かったうえでやっているから性質が悪い。
爪先で払うとかも足蹴にしてるみたいで無理。捻挫や突き指の恐怖に怯えながら、何とか出る。ひとつずつ丁寧に、でも確固たる意志をもってカプセルのまわりから除去。
「薄暗いなぁ。地下だから当たり前だけど」
照明のスイッチを手探り。一度転びかけたりしつつも、間もなく見つけて勢いよくパチン。
「……あれ?」
点かない。点けたり消したり、点けたり消したり点けたり消したり何度も。点いたり消えたりしてくれない。
「…停電かな」
いそいそと携帯端末を取り出してみたり。起きたらとりあえずニュースサイトを見ようと思ってたんだっけ。どのくらい技術が進んだか、調べるの楽しみ。最初は追いつくのでやっとだろうけれど、そこまで長い時間寝てたわけじゃないし。
「……あれれ?」
繋がらない。一応電源が入るだけ。
(大規模停電だったら、ヤだなあ)
とりあえず部屋の外へ出ないことには。カプセルの中から鍵を取り出す。
「……あれれれ」
扉が開かない。というか鍵が回らない。磁気カード式も、電子ロック式もダメ。網膜、指紋その他生物認証壊滅状態。まあ全部解錠しないと通れない仕組みになってるんだけど……そうしたんだけどわたしが。これって本気ヤバい?餓死する……?
「誰かいませんかー!助けてくださいー!」
いるはずないと思いながらドアを力任せに叩いて。
「えっ!?あ、はい……」
いたよ。普通に性格よさそうな声の女の子が。
ずずりと、引き戸が開いた。と思ったら、腐れ縁の古馴染みがおずおずと顔を見せる。ドアはとっくの昔に壊れていて、直すとき普通の引き戸にしたらしい。ねえこれセキュリティとかどうなってるの、そんな猫被ってる暇があったら……と言いかけて。遅ればせながら、根本的な問題に気づく。
「あなた、誰?」
「……はい?」
不思議そうに首を傾げる少女は、わたしが憶えているより頭二つ分小さかった。