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着れなかったお洋服

作者: KANATA

1月2日、午後1時。あたしは自分の部屋の姿見の前にいた。

どうしても閉まらないワンピースのチャック。

鏡を斜めに立て掛けていることを差し引いても短すぎるスカート。

HPで見たモデルさんのかわいい萌え袖には程遠い七分袖のニットセーター。

「“フリーサイズ”なんてウソじゃん……」

買ったばかりの福袋をひっくり返して全部着てみたけど、何ひとつあたしには合わなかった。


このブランドを知ったのは去年のお正月。いとこのお姉ちゃんがおばあちゃんの家に着てきたのが最初だ。

親戚のみんなは「そんなにおめかししてどこに行くのさ」とか「どうした、色気づいて」とか、お盆までとは違うお姉ちゃんの格好をからかってたけど、あたしにはかわいく見えてしょうがなかった。

隣をキープしてずっと服の話を聞いてたあたしにお母さんは呆れてたみたいだけど、あたしはお姉ちゃんの得意気な顔と、お姉ちゃんをキラキラの笑顔にさせるお洋服にしか興味なかった。


それからのあたしはそのブランドのトリコで、毎月買ってたマンガ雑誌をファッション誌にしたり、雑誌に出てくるアイテムを切り取って自分でコーディネートしたりしてた。

中学生の少ないおこづかいじゃアクセサリーだって買えないからずぅっとガマンしてたけど、あたしには秘策がある。

それはお年玉と福袋だ。

いつもは1着何千円もするお洋服も福袋ならコーディネート一式ばっちり!

中身は選べないけど大好きなブランドのお洋服だもん。なんだっていい。


お正月になって去年ぶりに会ったお姉ちゃんは雑誌で見た新作を着ててすごく羨ましかった。

休日返上でバイト頑張ったんだって。着てみる?って言ってくれたけど、お姉ちゃんが自分で頑張って手に入れたお洋服をあたしが簡単に着ちゃうのは違う気がした。

あたしも高校生になったらいっぱいバイトして、私服を全部このブランドで固めようって、そう決めてたのに……。


あたし背は大きい方だけど、ズバ抜けて巨人ってわけじゃないし、太ってもいない。

でも夢に見るくらい憧れてた、このブランドのお洋服は全部フリーサイズのくせにXSサイズなんじゃないかってくらい小さくて、胸に大きな穴が空いたみたいに悲しくなった。


――今でもその時の服は実家のクローゼットに大切に仕舞ってある。

その場で捨ててしまおうとか、お姉ちゃんや誰かに譲ってしまおうかとかも考えたけど、どうしても手放すことができなかった。

あの忘れることのできない悔しい思い出から10年。私は憧れ続けたこのブランドで働いている。

同僚はみんな小柄でうちの服がよく似合う可愛い子ばかりだ。

でも私はちっともコンプレックスを感じない。だって自分の経験を基にサイズ展開を提案したのはブランド設立以来私だけなのだから。


「今年からサイズ展開開始!?」「もっと若いときに欲しかった~~」「Lサイズなら私も着れるかも」「HPにモデルさんの身長も書いてる~!神じゃん♡」

公式HPや雑誌で告知するとすぐに大きな反響があった。

かつての私と同じ思いをした人が沢山いたこともわかった。

これからもこのブランドの商品を望んでくれる人たちへ全力で「可愛い」を届け続けよう。

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