猫のサユリン
何となくホラーを書くかと思いつき、書いてみました。読んで貰えれば嬉しいです。
私が飼っている猫の名前は『サユリン』。長毛の白猫で、フカフカフワフワしてる可愛い子だ。
ちょっと臆病だけどそこも可愛い。元々は実家で飼っていたのだけど、私が上京するタイミングで父が入院し、母が忙しくなったので、私が連れて来る事にしたのだ。
サユリンは長く住んだ実家から、都会のマンションに移動したので、元々の臆病さに磨きが掛かって色々な所に隠れる癖がついてしまった。
その癖は三年たっても治らず、最近では私は家に帰る度にサユリンを探すのが日課になっていた。まるで、隠れんぼの様に。
サユリンは色々な所に隠れた。隠れるのが上手すぎて見つけられなかった事もしばしばある。そんな時は夜中に何やら物音がして、自分の存在を報せてくる。そして朝になれば平然と出て来てご飯を食べるのだ。
そんなサユリンも、上京して五年がたった頃に病気で死んでしまった。
もちろん私は悲しんだが、その日から、家では不思議な事が起きる様になっていた。
「ねぇサユリン、これ見て。UFOキャッチャーで見つけたんだけど、サユリンにソックリだから頑張って取って来たの。可愛いでしょ?」
「ニャア」
何年か前に、たまたま見つけて来たサユリンにソックリの白猫ぬいぐるみ。それが、頻繁に姿を消す様になったのだ。
いつもはベットの側に置いているぬいぐるみが、私が仕事から帰ると全然別の所に置いてある。そして私が見つけられないと、夜中に物音がなったりする。
最初こそ私は驚いたし怖かったのだが、これはサユリンが生きていた頃にやっていた事だ。つまりサユリンがまだこの家にいるのだと思えば、怖さよりも寂しさと嬉しさが込み上げて来た。
それから半年が過ぎてもまだ、私は勝手に姿を消すぬいぐるみとの隠れんぼを続けた。
そんな折りに、母からの電話があり、実家に顔を見せる様に言われたので、私は数日間実家に帰省する事にした。
「…………まったくあんたって子は! ちょっと強めに催促しないと、正月だって帰って来ないんだから!!」
「ゴメンって、仕事が忙しかったのよ。しょうがないでしょ?」
「ふん、サユリンとは大違いだね! いや、飼い主がこんなんだから、こっちに帰って来たのかね?」
「…………え? サユリンも帰って来てるの?」
ここでひとつ言っておくと、母は『見える』タイプの人である。私にはサッパリ見えないし、それが普通なのだろうが母は見えるのだ、それもハッキリと。
もうそれ系の話は飽きる程聞いたし、それ系のエピソードもタップリあるので、疑う余地は無い。
しかも今回は私達の家族であるサユリンの話だ。聞き捨てならない。
「…………まあ、サユリンも久しぶりに実家に帰りたかったのかな。でも、久しぶりの実家だと、久しぶり過ぎて隠れんぼしちゃってるんじゃない? 向こうの家じゃ今だってやっているし」
「え? 縁側で伸びきって寝ているわよ?」
「…………そうなの? …………何でそんなにダラけているのよ。帰って来たばっかりで…………」
私は縁側に座って、見えないけどもそこにいるのであろうサユリンを、撫でるフリをした。
「帰って来たばかりはアンタでしょ? サユリンはもう半年以上前、それこそアンタからサユリンが死んだって電話が掛かって来たその日の夜には、もう家にいてくつろいでいたわよ?」
「…………え?」
「…………何よ?」
「…………サユリン、そんな前に帰って来てたの?」
「そうよ。それからずっと家にいて、ああして伸びているんだもの」
母の言葉を聞きながら、私はどんどん呼吸が浅くなり、青ざめていった。
サユリンがずっと実家に居たと言うならば、ずっと実家にいてああして伸び伸びしていたと言うのなら。
……………………私の部屋には、何がいるの?